アットウィキロゴ

第十八章-第三幕- 関門捉賊(かんもんそくぞく)の計





エナ、カイト、クロカゲ、そしてマリーと合流した
ロバート、イノ達と民間人集団は、更に倍以上の数で迫り来る
イグジスター達を一気に撃退にかかるのであった。
「エナ!お前は民間人集団の中心で動け!
 イグジスターに襲われそうになってる奴がいたら
 ソーサーでフォロー! 負傷者も治癒出来るか!?」
「すみません……同時には厳しいですが、
 とにかく民間人の皆さんを助けます!」
「よし、分かった! 後退しながら脱出を図る!
 カイトとクロカゲ、マリーが殿だ!
 全面は俺とイノ達が引き受ける。いいな!?」
「おう!」
全員の声が唱和し、速やかに陣形を組む。
マリー達を後ろ側に、ロバート達を前衛に、
そしてその中心にエナと民間人を置き、
徹底的に民間人を死守するための陣形である。

「来るぞ、イグジスターだ!」
しかも後方からは魔神王信者も来ている。
「相手は犯罪者だ! 遠慮はすんなよ!?」
ロバートがきつくマリーに釘を刺す。
一番情に流されやすいのは彼女だからだ。
「勇者軍にここまでの事をしてくれたのだ。
 無論、加減などせぬ! 覚悟をせよ!!」
要らぬ心配だったか、とロバートは内心笑う。
イグジスターはロバート達を無視して民間人を狙うが、
ロバートとイノ、それにソル達がそれを一切許さない。
各々の得意技でイグジスターや擬態イグジスターを蹴散らす。
とはいえ、あまりの数である。防御をかいくぐって
民間人を丸呑みにする態勢に入るものも数多くいた。
「ソーサー、行って!」
エナのソーサーが更に多くのイグジスターを蹴散らす。
同時に攻撃出来る数で言えば、勿論彼女が最多であるが、
時々攻撃をやめて魔力による治療をも行っていた。
それによるエナの消耗具合は想定を遥かに上回っていた。
「…………ッ! まだ……です!」
「無理をするんじゃない、エナ君!」
カイトが窘めるが、エナは『反逆』をやめない。

と、そこでターレットが思い出したかのように言う。
「おい!? 勇者軍ってのはそんなに人数少ないのかよ!?
 もっといっぱい来てくれるモンだと思ってたぞ!」
そこでハッ、とカイトは思いついた。
「ロブ、このままでは民間人も、何よりエナ君が危ない。
 ゆっくり、少しずつでもいいから脱出を図ろう。
 外にはウォルフ王子やエリックさん達も来ている。
 そろそろ外の戦闘も片付いているはずだ。合流を急ごう」
「おう、そうか! じゃあ従うぜ、カイト!」
カイトの意見に素直に従うロバート。
「クロカゲ君。最短ルートの案内、頼むよ」
「分かった……!」
隊列変更である。位置関係が真逆となり、
今度はロバート達が殿となり、クロカゲを先頭に
出口へと突き進むことになった。

「くっ……更に増えるぞ、イグジスターめ!」
サキが後方を警戒、更に撃退を続けながら言う。
想定されていた五倍以上の数が後続に続いている。
既に千以上であり、室内戦に送り込む数としては異常である。
更に側面の通路から信者も間断無く送り込まれており、
もはや一刻の猶予もままならないところまで追い込まれていた。
特に民間人が一人でも多く死なないようにするのは気を遣う。
幸い、前方からはまったく敵が来ないようなので、
カイトは民間人達を急がせる事にした。
「よし、側面も僕達が引き受けよう! 民間人は
 敵が来ないうちに、一気に走り抜けようか!」
「おおーッ!」
この決断が幸いし、行軍速度は一気に上昇した。
追うイグジスターをも振り切り、たまに出てくる信者を蹴散らし、
ロバート、イノ達の一向はたちまち地下一階まで昇って来た。
「エナ、疲れているようだが大丈夫か?」
「まだです。まだ頑張れます」
集団を離れ、エナはロバートにかばわれている。
「…………?」

が、そこでカイトは何か違和感を感じた。
味方の士気は総じて高い。脱出もこのままなら上手くいく。
合流すれば魔神王教団を蹴散らすのは困難ではないだろう……
そう、上手くいっている。いきすぎている。
「……しまった、総員、止まれ!!」
その一声で、民間人以外の全員の足は止まった。
だが興奮している民間人の耳には届かない。
「どうした……!?」
クロカゲが問いかけてくる。
「これは『関門捉賊(かんもんそくぞく)の計』だ!
 敵はあえて退路を作って油断させたに過ぎない……
 下手を打つと分断されて各個に撃破されてしまう!」
だが、カイトが気付いたときはもう遅かった。
凄まじいスピードで、カイト、マリーの直上から隔壁が下りてきている。
「危険だ……!!」
クロカゲはまだ戦っていたマリーとカイトの襟首を引っ掴むと、
後退する事も出来ず、隔壁より前に出るしかなかったため、前進。
結果、元の木阿弥となり、エナを除いて
ロバート達の人数はほぼ前と同じにまで減ってしまった。
「ロブ! ロブ!!」
マリーは隔壁を殴りつけるがびくともしない。
特殊合金であるオリハルコニウムセラミカルチタン製の
アルミニウム重点型隔壁である。昇降スピードと耐久性を兼ね備えた
現行において実用性度最高クラスの代物であった。
「ロブ! 聞こえないのか! 惑星両断剣でも何でもいい!
 それを使ってここの扉を叩き割れ! 今すぐにだ!」
「よさないか、マリー君……私のミスだ。それより先行した
 民間人の安全確保もなかなかに厳しい。
 まずはそれを優先、いいね?」
確かに民間人達は分断された事にさえ気付いておらず、
仲間を置いて突っ走ってしまっている。この状態で攻撃されれば
壊滅は必至だと言っていいだろう。守れるのは勇者軍のみだ。
「了解だ……ロブ、貴様はこんな所で死ぬなよ!」
一言聞こえもしない事を言い残し、カイト、マリー、クロカゲは
一気に民間人と共にウォルフ王子の下へと向かう。

一方で分断されたロバート達はしきりに慌てていた。
「ちいッ、ターレット、ハッキングだ、急げ!」
「やってる! 焦らせんな!」
ゲイリーの苛立ちがターレットに伝染して良くない事になっている。
隔壁へのハッキングもなかなか進まない。
「ロバートさん、これを」
ようやく息が整ってきたエナが、ロバートのなびきマントを手渡す。
マントの中には対人地雷が目一杯包んであった。
「これを防壁代わりにすれば退却の役に立つかもしれないって、
 カイトさんがあらかじめ用意してくれていたんです」
「おう、流石の腹黒だよ、あいつはよ!! だが助かった!」
喜色満面にマントを装着し、ありったけの地雷をばら撒く。
「おら、防衛線を物理的に敷くぞ、手伝え!」
ゲイリーやソルに地雷を渡し、設置を急がせる。
「よし、これでウィルスは仕込み終わったぞ!」
ターレットも作業を終えたようだ。
「隔壁のプログラムにウィルスを叩き込んでやったぜ。
 ウィルスが勝手に中身を解析し、終了次第、開くように出来てる!
 あとはそれまで耐え抜けばいいんだ。やってやるぜ!」
そのターレットも地雷散布に協力する。
あのカイトがわざわざ用意した地雷だ。
踏んでしまえば擬態イグジスターや信者といえど、
ひとたまりも無いだろう。

ひとしきり設置し終えてから、イノが叫ぶ。
「来た。さっきの『五倍』より更に多いみたい。
 私達が倒した信者も丸呑みして擬態している……!」
「おい、見ろ、別方向からも来るぞ!」
サキが警戒する通り、
更に別の通路からは信者達が更に多数出現した。
クローンでも製造しているのかと錯覚するほどの人数だ。
信者達はイグジスターより先に襲い掛かってきて、
地雷源へと突っ込んでいく。

ずぼどぉぉぉぉぉん!

大爆発が起こり、多くの信者達が死傷していく。
だが、数に任せて委細構わず信者、いや狂信者達は
突撃。その異様な姿にイノ達は大きく怯んでしまった。
「魔神王様に血の贄を。魔神王様に唯一の支配を……」
ブツブツ呟きながら、潔いほど無感情に攻撃を仕掛けてくる。
傷付いた味方を悼んだりする感情も失っているかのように見えた。
「ひぃぃ……!」
気の弱いターレットが大きく怯んだ隙を突かれてしまった。
「ターレット!」
「ぶごッ……!!」
イノの絶叫も虚しく、敵の槍が大きくターレットを貫く。一撃で致命傷だ。
恐ろしく無慈悲で、正確な攻撃であった。
ターレット自身が冷静さを失い、そして消耗していた事も大きい。
それは大小同異で、万別はあれど、全員大差は無かった。

「かは……はは……俺が一番先に逝くのか……そうか……!」
どこか陰惨な笑みを浮かべるターレット。
命の灯はすぐにでも燃え尽きようとしていた。



最終更新:2012年03月11日 22:07