第十九章-第二幕- 覚醒する異端
イノ=ヘレティックは今、絶望に覆われていた。
ヘレティックは『異端者』という意味合いで
エッセ教皇から付けられた姓だ。
その事実だけを彼女は今、淡々と噛み締めた。
自分はつくづく、この
魔神王教団において異端でしかなかったのだと。
「せめて安らかに眠りなさい、この
アックスボンバーで!」
ずばん!
イノは砲斧アックスボンバーを取り出し、砲撃モードに移行。
ターレットやサキ、ゲイリーに擬態した
イグジスターを
一気に撃ち飛ばす。ゲイリー・イグジスターが弭槍から
矢を撃ちかけてくるが、全て斧の盾で弾き返す。
ターレット・イグジスターも
リールナックルで仕掛けてくる。
更に同時にサキ・イグジスターが鎌で襲い掛かってきた。
「させません……!」
横からエナが
ソーサーで擬態イグジスターを切り刻む。
しかし流石はゲイリー達の擬態イグジスターである。
彼等同様の身体能力、そして技量をもって攻めてくる。
ロバート達の回復もやや不充分な上、
周囲には他の擬態イグジスターもおり、不利は否めない。
「これは私の友に対する侮辱よ。それ以上はさせない」
イノはロバートを前面に押し出す。
「少しだけ時間をちょうだい。やってみる」
「何をだよ!?」
「いいからさっさとやりなさい!」
ロバートは渋々盾役を買って出て、三対一にも関わらず
死ぬ気でイグジスターを押し戻す。
周囲のイグジスターも隙あらばエナに食いつこうとするので
まったく気を抜くことが出来なかった。
「
封神封魔流『防』の秘剣!
精霊防護壁!!」
凄まじいエネルギー量のフィールドが張られ、
物理攻撃も魔法攻撃もほとんど通らなくなった。
ロバートの数少ない本当の切り札の一つである。
これで時間を稼ごうというのがロバートの策だった。
「今ね」
イノは一気に魔力チャージに集中し、
凄まじいエネルギーを体内に溜め込む。
それはまるでロバートと同等クラスに匹敵した。
「な……んだと!?」
その光景に驚愕するロバートだったが、イノは目を構わず見開き、
そして、武器庫からとりあえず持ってきた
ロバートの予備の剣を手に取る。
「見様見真似!
四大精霊元素爆裂剣!!」
ずばぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!
ロバートに迫る勢いの破壊力をもってして、
イノは見様見真似で封神封魔流の秘剣を叩き込んだのだ。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!」
ターレット・イグジスター、サキ・イグジスターは一瞬で消滅。
ゲイリー・イグジスターはものの数秒耐え抜いたものの、
やはり押し切られて消滅。その余波だけでも
三百以上ものイグジスターが軽く消し飛んだ。
重大な損傷を受けたイグジスターはそれ以上の数に及ぶ。
精霊防護壁でガードしていなければ、
ロバート自身も危なかったかもしれない。
「俺があの技の習得に何ヶ月かけたと思ってやがる……
見様見真似……だと? こいつ、真性の馬鹿か!?」
自分の求められた努力以上の才覚を見せたイノに、
ロバートは正直、驚きを隠せなかった。
「ふぅ……」
くてん、と力が抜けてくず折れそうになるイノ。
「イノ!」
「やっぱり見様見真似じゃ無理みたい……ね……」
何を言っているのか、と一瞬ロバートは思ったが、
違うのだ。やはり見様見真似では無理なのだ。
魔力のチャージの仕方も急速過ぎたし、放出は更に急ぎ過ぎだ。
精霊との同調も充分にしていないまま放ったのだから、
イノの極度の疲労は当然なのかもしれない。
「エナ! 後は俺が何とかする、イノを何とかしろ!」
「は、はい!」
エナは『聖水』と呼ばれる水をイノに振り掛けた。
魔力を急激に回復させる聖なる水は希少品で、
エナ個人の給料ではあまり多くは買えなかった。
だがその希少品をエナは躊躇う事無く使った。
今、ロバートの反逆には彼女の力も必要だと知ったからだ。
「イノさん、立って……ヒールシューター!」
そしてエナの渾身の治癒魔法により、イノはゆっくり立ち上がる。
「ありがとう……あなたも疲れているのに、ごめんなさい」
「私達こそありがとう。何とか生きて帰れるかもしれません!」
「そうね。私も生きてここを出ないとね」
ごごごごごご……!
その時ようやくターレットの解析装置が作業を終了させ、
閉じられた隔壁がゆっくりと開き出す。これでいつでも出られるだろう。
だが、イノは再びアックスボンバーを手に取り、ロバートの援護を行う。
無論先ほどの行動のような無茶は一切しない。
ただ淡々と、的確にイグジスターを仕留めていく。
「私はこのまま逃げる事は選ばない。決着をつけに行く」
「奇遇だな。俺もまったく同意見だ。
さっきから気付いているか? 急にイグジスターの援軍が
途絶えている事を……きっとウォルフの野郎の仕業だ。
だったらやる事は決まってるだろうが?」
「ならば行きましょう。教皇
エッセ=ギーゼンの元に」
「おうよ……!」
二人はゆっくりと歩きながら、片腕の雑な攻撃だけで
イグジスター達を切り伏せ、ひたすら進む。
「待って下さい、私も!」
エナは慌ててソーサーで防御しつつ、追いかけた。
そう、彼等と同様に、ウォルフ王子達の主力部隊も
苦戦を強いられていたのである。ロバート達の決意など
知る由もなく、彼等は救出のために防戦を強いられていた――
最終更新:2012年03月11日 22:10