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第二十章-第二幕- 教皇の誤算





最終奥技『カース・プレデター』を発動させ、
周囲の墓場から怨霊を招きよせたエッセ教皇は、
ロバートばかりかイノまでも簡単に撃退しつつあった。
しかし、そこに勇者軍主力部隊が駆けつけ、
戦局は急転の様相を呈していた。
「ははは! まだまだ怨霊は腐るほどいるぞ!
 もっとも怨霊の身体の本来の持ち主はとうに腐りきるどころか
 大半は風化しきっておるかもしれんがな!」
カース・プレデターにより招来した怨霊が
容赦無く勇者軍主力部隊に迫り来る。
「くうう……厄介なッ!」
ここはあまりにエッセ教皇に有利であり過ぎる。
まさにホームフィールドと言っていい程であった。
勇者軍の敵には純粋に力に長けていたり、策を巡らせて
苦戦させてくる者などが多いが、こうも純粋に
地の利を味方に付ける相手は極めて稀である。
その事にウォルフ王子は少なからず動揺していた。

それを掻い潜って天馬ヒナタに跨ったアイゼンカグラが
一気に空を飛んだまま、エッセ教皇に近付く。
「ダークマージとネクロマンサーを複合した技術かしら。
 でも、魔族であるペガサスと、それに乗った私には
 その能力はほとんど効き目が無い……!!」
意外に冷静に相手の能力を見極め、切り込み役を買って出たのだ。
「メゴ、無理をするでないぞ!」
アンリ姫が一応声をかけるが、アイゼンカグラは聞く気が無い。
「隊長には悪いけど、仕留めさせてもらいます!」
弓をガンガン射掛けるアイゼンカグラ。
「ぬうう、小癪な小娘めが! ダークキャノン!」
闇の魔法である。光の精霊の加護を受けているアイゼンカグラには
非常に厄介な魔法である。回避も困難だ。
「うっ!」
直撃を食い、大きく後退するアイゼンカグラ。
「メゴ! 避難するのじゃ!」
「申し訳ありません、姫様……一歩及びませんでした」
だが、そのアイゼンカグラは囮であった。カイトの指示で
エッセ教皇の真横から、既にクロカゲとローザが迫っている。
「もらった……!」
「覚悟しやがれ!!」
二人同時の攻撃を、エッセ教皇は難なくかわす。
危うく同士討ちになるところを、二人はよろけながらも止めた。
「ふん! 未熟者め!」
その隙を突かれて、二人共祭壇から叩き落とされた。

「さあ、そろそろ復活の時は近い! 我が眼前に
 その御姿をお見せなさいませ、魔神王様!!
 そして貴方様のお力で、安寧の統治をこの星に!」
エッセの持っている復活予測タイマーのカウントが十秒を切った。
「まずい! 止められんのか!?」
「もう遅いわ!」
大笑いするエッセ教皇。

……………………しかし、タイマーがゼロになっても、
ただひたすら静寂のみが訪れただけであった。
「……何故だ!? 何故魔神王様は我が眼前に訪れぬ!?
 魔神王様がいつ復活してもいいようにこの地の霊脈を整え、
 良き養分と土壌を作り、ここが復活に最適の地となったはず!
 何故だ! 答えろ、答えろ! ターレットぉぉぉ!
 我が理論が間違っていたなどとは言わさぬぞぉぉぉぉ!!」
「そのターレットはあなたの指示で死んだ。
 忘れたとは言わせない……!!」
イノはその哀れな誤算を目の前に、ゆらりと立ち上がる。
「私が、あなたを討つ。これは私が決めた事よ」
「よく言った! いい目をしてやがらぁ!」
途端にヴァジェスがイノを誉める。
「あなたは?」
「俺は勇者軍の協力者。竜王ヴァジェス=バハムートⅡ世。
 あるいは聞いたこともあるかもしれんが、今はどうでもいい。
 これを貸してやる! お前の斧に付けて使いやがれ!!」
それは槍の刃だった。
「……これは?」
「竜族秘伝より作られし槍『ゲイ・ボルグ』の刃だ。
 大地の力が、奴の闇の力を制するはずだろう。
 ただし、貸すだけだ。後でちゃんと返せよ?」
「……ありがとう。この縁は絆だと思っておく。
 合身! 竜牙砲槍斧『ニア・ゲイボルグ』!」
新たにハルバードの機能をも備えた借り物の力が、
ゲイ・ボルグに近い物として一時的に能力を上昇させた。

「レオナ君、例のアレだ。イノ君が仕掛けるタイミングで頼む」
カイトの指示を察し、レオナが了承する。
「アレっスね。了解ッス! イノちゃん! 援護するッスよ!」
「ちゃん……まあいいけど」
渋々同意するイノに、レオナは何がしかの共感を感じた。
大雑把に言うと『放っとけない感じ』なのだが。
「あとは各員、それぞれ任意に攻撃ないし防御!
 絶対に一人たりとも討ち取られないでほしい!
 それが、きっと討ち取られた彼女の戦友の願いだから……!」
カイトは救えなかった悔しさを込めて言う。
「了解!」
全員が唱和し、最後尾にイノとレオナが突っ込む。
残りはそれより先行し、指揮役のカイトと負傷したアイゼンカグラ、
その彼女とイグジスター識別装置のマスターハードを守るアンリ姫。
治療役に控えたエリックとエナを残して突撃する。

「この目で魔神王様の復活を見るまでは死ねるものか!
 かくなる上は貴様等全員を駆逐し、脱出して教団を再興するのみ!」
「させねぇよ!」
「貴様はここで終わりだ!」
ロバートとマリーが突撃。
「私は死ねん! 死ねんのだ! ダークブラスター!」
凄まじい魔力量だ。たちまち二人は弾き飛ばされる。
「もう一度だ、クロカゲ!」
「分かった……!」
ローザとクロカゲも何とか隙を作ろうと一斉に攻撃をかける。
「こういうのもある! フリーズランチャー!」
なんと魔道書まで隠し持っていた。まともに攻撃を受けた二人は、
またも無念の一時後退を余儀なくされてしまった。
「ファイアー・ブレス!」
ワイバーン形態に戻ったヴァジェスが炎のブレスを吹きかける。
「リフレクトフォース!」
しかし防御魔法にも長けたエッセ教皇は難なく凌ぐ。

ウォルフ王子が更に続いた。
「これだけ連続攻撃をされれば対処は難しいはずだ!」
だが、エッセ教皇は爪杖ベアーズクローで辛うじて防いで見せた。
「着眼点は悪くない……だが、私の集中はまだもつ!」
「くぉっ!」
爪で引き裂かれ、かなりの出血を見せるウォルフ王子。
命には幸い別状は無いようだが、まともに動くのは難しい。
「させるか!」
ヴァジェスがウォルフ王子を掴み、そのまま逃れる。
この対応の見事さは流石に、歴戦の戦巧者であった。

だがこれだけの猛攻の間に、イノとレオナは祭壇の左右から
挟撃をかける準備が出来ていた。
「もう来たか、イノめ!」
雑兵だとばかりにレオナは無視するエッセ教皇。
先にイノを蹴散らそうというのだ。だがその油断こそが、
レオナの切り札にとって隙でしかない。
「ジャミング・ナノ・マシン! ピンポイント展開!」
「ぬうッ!?」
五感を大きく、しかも突然狂わされたエッセ教皇は
ふらつき、攻撃も大きく外してしまう。
「イノちゃん!」
レオナがOKサインを出すと同時にイノは仕掛けていた。
「エッセ=ギーゼン! その傲慢な他力本願の報いを受けなさい!」
ニア・ゲイボルグの槍の部分で心臓を一突き。
「がっはッ!?」
何が起こったのか理解出来ないままのエッセ教皇に追撃。
更に斧で一撃叩き込み。流れるように斧の刃をパージ。
砲撃モードでエッセ教皇の口に突っ込み。三連射。

ずだんずだんずだん!!

そのあまりに容赦の無い攻撃はエッセ教皇の頭部を吹き飛ばし、
首無しの斬殺死体と成り果てたエッセ教皇はその場に倒れた。
イノは微塵の未練も憐憫も見せる事無く、振り返り、
ゲイ・ボルグの槍の部分をパージすると、
即座にヴァジェスに投げ返す。
「いい槍ね。でも私にはこれは使いこなせない」
「そいつぁどうも」
槍の刃を受け取り、ヴァジェスはそれをしまった。

「やったスね! あたし等、案外いいコンビになるかも!」
レオナは抜群のコンビネーションを喜ぶ。
「それは残念ね。私は勇者軍に入るつもりは無い」
「およ、意外」
「……勇者軍にも負けない軍閥を私が作り上げるの。
 だからごめんなさい、あなたとコンビを組む事は出来ない」
いささか申し訳なさそうに謝罪するイノに、
レオナは何だか面白そうな事を思いついたような顔をする。
「……どうしたの? えと……」
「レオナ。レオナ=タブーフィールダーっス。
 君とは一緒に頑張る運命のような気がしただけッス。
 だから、改めてよろしくするッスよ!」
「はあ……」
意味を図りかねて、イノはただ頷く。

そんなレオナは一旦さておいて、イノはやはり涙を流すこともなく、
ただ散った戦友達に、ただ一つ報告をするのだった。
「……みんな。魔神王教団は終わりで、約束の一つは果たした。
 もう一つの約束は、これからしばらく時間をもらう事にするから」
少し微笑むと、彼女は勇者軍の輪の中へ一時的に戻る。
最終的に彼等とは相容れないと知っていながらも、
ほんの少しの間だけの安寧を乞うが如くに――



最終更新:2012年03月19日 21:45