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第二十章-第三幕- グロフィス・イグジスター





苦労の末、協力してエッセ教皇を討伐したイノと勇者軍は、
とりあえず態勢を整え直し、負傷したメンバーの治療を行っていた。
イグジスターも一通り倒し尽くし、生き残った魔神王教団信者も
イノを除いてほぼ存在しない状況となっては、
それだけの余裕も少なからずあるはずだった。
「……これで良しっと」
エナ及びエリックの治癒魔法によって一通り治療を終えた一行は、
エッセ教皇の遺体をそのままに残し、外へ移動を始めた。
コントロールルームを管理する信者も丸呑みされてしまったのか、
それを妨害してくるような者は、やはり存在していなかった。
「おっさん、何を警戒してる?」
ロバートは周囲を見回しながら用心深く歩くエリックに尋ねた。
「その話をする前に、アンリ姫、アレを見せてやって欲しい」
「ロブ、これなのじゃ」
「なんじゃこりゃ? 機械?」
「わらわが一所懸命に作ったイグジスター擬態識別装置なのじゃ。
 これで、擬態した者を正確に識別出来るのじゃ」
「ほう……」
感心したように見るロバート。
「グロフィスを見たことがあるだろう、ロブ」
「……おっさんの長男坊か」
「……丸呑みされていたんだ。イグジスターに」
「何だと!?」
ロバートは驚愕を隠せなかった。笑う顔が非常に可愛らしく、
とても人懐こい、良い子であった。そんな思い出がある。
「……俺は親の責任を果たす。俺の手で、奴を討つ……
 俺は親として、次男と長女を同じ目には遭わせん。
 そして、ニノンの翼を奴から取り戻さねばならん!」
「二回目か……」
「ふっ、そうだな。他者からニノンの翼を奪還するのは
 これで二度目になるか……ロブ、力を貸せ。奴を潰すぞ」
「おうよ……軍人だろうが化け物だろうが
 子供に手を出すなら容赦しねぇ……反逆だ!」

「いい目をしてやがる。流石はストレンジャーの人間だ」
横からヴァジェスがしゃしゃり出てくる。
「……あんたは?」
「お前はたいそう歴史好きだと聞いている。なら知っているだろう。
 俺は竜王ヴァジェス=バハムートⅡ世だ。親父も有名だがな」
「俺達に協力してくれるってのか?」
「ローザに協力しているんだ。それに俺にも借りがある。
 イグジスターとやらはドラグーン化した竜族をも何名か丸呑みした。
 俺は王として、それに制裁を加えなければならんというのもある」
「……後でサインくれ」
「……本当に後にしろよ」
いまいち締まらない。

「隊長。今月付けで勇者軍サブメンバーになりました。
 メゴ=アイゼンカグラです。改めてよろしく」
「やっぱりそうなったか。歓迎するぜ。
 お前からもいい反逆の毒の匂いがしやがる」
「……どうも」
各々の挨拶を済ませると、イノもまた自己紹介した。
「勇者軍の方々ね? 私はイノ=ヘレティック。
 魔神王教団元幹部で、今は唯一の生き残り。
 私も、反逆の毒を仕込まれたというべきかしら。
 無事に作戦終了するまでは、ご一緒させてもらう。
 後の事は、特に明確には決まっていないけれど。
 それでも、今度は私があなた達を助ける番だから」
イノが丁重に礼をすると、みな、真面目に応じた。
それもロバートとはまた違った魅力なのだろうか。

そんな事を喋りながら歩いているうちに、外に出た。
そして、神経を研ぎ澄ましていた
エリックの察知力に引っかかる者が一つ。
グロフィス・イグジスターの気配そのものだった。
「父さん、覚悟してくれ!!」
いちいちエリックの心理を突くような物言いをしつつ、
ニノンの翼を展開してエリックに仕掛けてくる
グロフィス・イグジスター。
「……グロフィス……の姿なのか!? 未来の……!」
そう、その体躯は成人男性のそれであった。
人間と妖精族の違いはあれど、外見的にそう大差があるわけではない。
それはまるで、あの小さなグロフィスが成長した姿のように見えた。
中身がイグジスターでなければ喜ぶべきほどの立派な姿だ。

ふぃーん! ふぃーん! ふぃーん!

けたたましい音を立てて識別装置が鳴り響く。
レーザーポインタも確実に彼のみを指している。
「そうさ。これが本来グロフィスのなるべき姿だった。
 父さん達を倒して丸呑みしたなら次は誰にしようか。
 ゼブリーズか? ジュスティヌか? あるいは母さんか?
 どれも強そうなエネルギーで楽しみになるね」
屈託の無い笑顔と笑い声でとんでもない事をほざく敵。
ゼブリーズはグロフィスの弟、ジュスティヌは妹である。
つまりそれらを真っ先に狙おうかと言っているのだ。
擬態している間に顔も見慣れていただろうし、
今の彼ならその実現可能性は極めて高いだろう。
「おのれ! 妻も子もこれ以上狙わせんぞ、化け物め!」
「そうかな? この施設の中で更に多くの人間を丸呑みし、
 更にメシア・タイプのスーパーコンピュータにアクセスして
 様々な事を学んだ上、ニノンの翼を展開している
 今の僕に、父さんが勝てると思ってるの?」
あはは、とまたも屈託の無い笑い。それがより怒りを誘う。
「お前の敵が俺一人だと思うなよ……!
 貴様は少なくとも勇者軍の全てを敵に回している!」
「じゃあ、試してみようか」

グロフィス・イグジスターはニノンの翼を自由に操り、
想像以上のスピードで移動を始めた。
「早い!?」
エリックが驚愕するが、もう遅い。
「いただきます!」
丸呑みの態勢だ。このままではエリックは食われる。
「しまっ……!」
ずどぼん!!
「うわぁあッ!!」
横槍の砲撃。見事に直撃コースだ。
大きく進行コースを逸れ、グロフィス・イグジスターは着地する。
一瞬見せた黒いゲル状の姿から人型へとすぐに戻った。
「誰だ!?」
イノである。彼女の横槍だった。
「あなたが敵に回したのは勇者軍だけじゃない。私もよ」
「君は勇者軍じゃないのに、なんでここにいるのさ!?」
「私はイノ=ヘレティック。
 異端としてこの地をただ踏みしめる者だから。
 あなたがいては、私はそれを成す事すら出来ない。
 ただそれだけの事なのよ」
あくまで冷静に言い放つ。
「すまない……助かった、イノ!」
「礼は要らない。行動で返して」
「ああ!」
エリックは態勢を立て直し、呪文を唱える。
「モビルブレイカー!」
エリックの呪文により大きく機動を制限された
グロフィス・イグジスター。
「くっ……だが、まだ君達よりは早い!」

確かに本人の言う通り、制限されてなお素早い敵は、
大きく機動を取りつつ、細かなフェイントも織り交ぜて、
まるで勇者軍を嘲笑うように、飛び回る。
「まずはこれでどうかな!?」
グロフィス・イグジスターは、ロバート達が入った後で、
武器庫から持ち出してきたのだろう。様々な武器を保持していた。
まずは荷物減らしとばかりに、持ち出した投擲弾を撒き散らす。

ずばんどばんずばんどがん!

「きゃああッ!?」
エナが大きくよろけ、ロバートがそれを支える。
アンリ姫はアイゼンカグラに庇われ、天へと逃れる。
ヴァジェスもローザを乗せて上空に退避したが、
それ以外のメンバーは概ね悲惨な目に遭っている。
「あははっ、一度は耐えたね。じゃあ二度目だ!」
更に投擲弾を投下してくるグロフィス・イグジスター。
「この馬鹿でかいマントにはこういう使い方もある!」
戦場全域を覆い尽くし、その布で小型弾を打ち払う。
ロバートの膂力があって、初めて可能になる芸当である。
「ひゃあ。びっくりだね。それじゃあ次はこれだ」
グロフィス・イグジスターは弓を持ち出した。
「それっ!」
恐ろしく精密な狙いで空中へ逃れた者を狙う。
「ちいっ!?」
かろうじて逃げたヴァジェスを更に追撃してくる。
「あはは、竜王って言ってもその程度!?」
「このっ……!」
立ち位置を変えようとしてもそこに矢が飛んでくる。
正直、ローザが上に乗っている事もあり、
なかなかに正確な対応は難しい。しかも相手は自分より素早いのだ。
殊更に始末が悪いと言ってもいいだろう。

「そうはさせぬのじゃ!」
アンリ姫はアイゼンカグラの愛馬ヒナタの上から魔法を乱射する。
「ウィンドブラスター! ウィンドブラスター!」
広域魔法を無差別に連射し、矢の勢いをひたすらに逸らす。
おかげで一発たりともヴァジェスに命中する様子が無い。
「あはは、よくやるよ! じゃあ次は地上戦かな」
すたっ、と地上に降り立つと、今度はニノンの翼を地上移動用に使い、
走りながら剣を持って、一直線にカイトの方へ突っ込む。
「君がいい指揮をしてるのを学んだからね。先に潰すよ!」
「そう来ると思ったよ」

ずばん!

対人捕縛地雷が起動し、反応したネットが
グロフィス・イグジスターを絡めようとする。
「はっ!」
だが、超人的な反射速度でそれより早く退避したようだ。
「これは参ったね……!」
カイトもいささか慌てていた。二重三重に張った
対人捕縛地雷が全て力技で回避されているのだ。
「旋風!」
そこにマリーが割り込み、広域攻撃で敵を押し戻す。
「おおっと、転ぶところだった」
「ウチの大事な指揮官だ、やらせんぞ、愚物!」
「それが分かってるからやるんだよ?」
マリーと鍔迫り合いになる。パワーも凄まじかった。
「マリー! そこどけぇッ!」
ロバートとローザがタッグを組んで真上と真横から攻める。
何の偶然か、台詞まで唱和していたりする。
「ふんっ!」
グロフィス・イグジスターは右腕の剣でローザを止め、
左腕で聖剣エンジェルランプを止めた。
よく見れば爪を仕込んでいたようだ。
「いいパワーだ。流石は音に聞く勇者軍だね」
押し込んでいるようにも見えるが、あくまで互角である。

「よっと」
戦局が膠着状態に陥ったのを見て、
グロフィス・イグジスターは一旦離れて距離を置いた。
「いやあ、このままじゃいつまで経っても終わらないね。
 ここらで、本気を出してもいいかな?」
グロフィス・イグジスターは消耗品を全て放棄し、
普通に戦うための武器だけを残したようだった。
それが何を意味するのか、まだ分からない。

ニノンの翼の機動力と、それを充分以上に発揮しうる
イグジスターのエネルギーに対応しうる決定打を、
現在の勇者軍とイノは欠いている。
厳しい戦局が、敵の手によって打破されようとしていた――



最終更新:2012年03月11日 22:24