第二十章-第一幕- 哀れなる妄想
エナとロバートを伴ったイノは、ゆっくりと、しかし確実に
エッセ=ギーゼン教皇の待つ謁見の間へと静かに戻る。
まだ抵抗を続ける信者や
イグジスターを斬り散らしつつ、
三人は強い敵意を秘めて、謁見の間へ辿り着き、
味方の合流を待つ事もなく、一気に決着をつけにかかる。
ずばん!!
ドアを叩き割り、イノ、ロバート、エナは
遂にエッセ=ギーゼン教皇との再会を果たした。
苛烈な姿を隠して生きてきた女性ではあるが、
エッセは今、苛烈さに加え、病的な物を感じさせた。
「来たか、イノ。私に育てられ、強くなったお前が
真っ先に裏切るとは思ってもみなかった。
てっきり、ターレット辺りが造反すると思っていたがな。
結局は皆、生き残れなかったわけか、ん?」
「あなたが用意した周到な見せしめ用の信者の攻撃と、
不測的なイグジスターとやらの襲撃で、ね……
正直、もっとソルの言う事をちゃんと聞いておけば、と思う」
敵意は隠さぬまま、イノは静かに語る。
「そうだな。だが私はお前よりもイグジスターよりも、
そこのロバートこそが最も危険だと思っているぐらいだ。
ロバート、イノ。悪い事は言わぬ。我が軍門に降れ。
そして今一度私のもとで、イグジスターを叩き潰せ」
「イグジスターは私達の手で必ず叩き潰す。
ただし、その作戦にあなたは要らない。滅ぼす……教団ごと」
イノは
アックスボンバーを抜き放ち、構えを取る。
「貴様は人間を信用しちゃいねぇ。そんな奴に従えるか。
まして俺を誰かが従えようたぁ笑わせる。俺は反逆の徒だぜ!」
ロバートも
エンジェルランプを抜き放った。エナは
ソーサーを浮かべる。
「あなたのために多くの人が死んでいったと思われます。
私はその非道を許したくありません……!!」
「そうか、残念だよ」
エッセはあっさり諦めると、タイマーを手に取る。
何らかのカウントダウンが行われていた。
「それは……!」
イノが驚く。そのタイマーはターレットの遺作。
魔神王の復活までの期間を予測するタイマーである。
贄に捧げた人間の養分を正確に計測し、
エッセ教皇の理論に基づいた時差修正値を加える事で、
魔神王復活の正確な予測を叩き出す装置だ。
それはターレットの技術力の結晶であり、悪意の産物でもあった。
ターレットは、それを作る事を必ずしも望んでいなかったからだ。
「そう、ターレットの遺作だよ。見たまえ!
魔神王様の復活まで、あと十分そこいらというところだ。
この悲願が達成された時、我が教団はその役割をどのみち終える!
そこの特等席で見ている権利を君達にやろう。黙って見ていろ!」
「やなこった!」
ロバートは
なびきマントを久々に、本当に久々に広げ、
波打つマントに包まれ、轟然と吼える。
「人の悪意で我欲を満たす! 亡者の王が何とする!
異邦の命が貴様を薙いで! 異端の刃が貴様を穿つ!
共闘反逆ストレンジャー! 俺達の恨みを侮るんじゃねぇ!!」
「私の友には既に別れは告げている。
あとは、サキとの約束を果たすだけ……!」
二人はエッセ教皇を抹殺しようと駆ける。
祭壇の上に立っている彼女はやや遠いが、問題ないはずだった。
「愚か者めが!」
ずだん、と杖のような武器を手に取るエッセ教皇。
「この
爪杖ベアーズクローの餌食になりに来る気か!
復活までの時を黙ってみているなら見逃してやろうと、
最後の情を愚直にもかけてやったものを!
親心も分からぬ子はもはや不要、果てるが良い!」
「よく言う……たまたま浮浪者だった私の両親を殺し、
まだ赤子だった私を生贄に捧げようとしたくせに……!」
「イノ! 何故それを知っている!?」
「あなたの日誌を盗み見させてもらった事がある。
けれど育ててもらった恩義は確かにあるから、黙っていた」
教皇はその一言に激昂する。
「知っていながら私に従っていたというのか!
そして育ての親である私を今裏切ろうというのか!
たいした親不孝者だな、
イノ=ヘレティックは!」
ロバートの攻撃を打ち払い、イノの攻撃を止めて言う。
見た目によらず、凄まじい体力と体術の使い手だった。
「だが、お前の中に潜在的才能を見出して生かしておいた!
今こうして生きていられる私の英断を感謝せよ、イノぉ!」
「それもよく言う。私を殺すのを止めたのは、前の教皇だと
ソルが教えてくれた。それをあなたは殺し、教皇の地位に昇り、
そして私の力のみを利用するために生かしておいただけ。
そんな人に誰をも非難する資格は無い。まして殺すなど……!」
「うるさい!」
エッセは大きく爪杖ベアーズクローを振り回し、
二人を大きく押し戻した。膂力も凄まじいものがある。
「くくく……誰がお前を育てたと思っている、イノ。
弟子が師匠に及ぶわけがあるまい?
ましてや未熟なお前ではな!」
「一人ならね。だけど今は、味方がいる」
「ならばその味方もろともに砕くまで!
怨念招来! カース・プレデター!!」
すると、周囲の墓から凄まじい数の
ゴーストが姿を現す。
いずれも凄まじい怨念を秘めており、上位のゴーストばかりだ。
まともに張り合えば常人なら一分以内に命は無いだろう。
「たとえイグジスターが来たとしても、この技で一撃よ!
怨念に食い尽くされ、滅びるであろう!
まして魔神王様が復活した暁には言うまでも無く、な!」
彼女は知らないのだ。その怨念などという負の感情が
一層イグジスターを活性化させるキーであるなどとは。
魔神王云々はともかく、それに気付いていないのはいっそ哀れである。
「哀れな妄想……全て断ち切るまで」
「なんとぬかすか!? お前とてつい昨日までは
我が理想のために協力してきた使途であろう!?
いくら人殺しをしてこなかったとは言え、その事実は消えんよ!」
「だからこそあなたを倒して詫びとするまで……!」
イノは迫り来るゴーストを叩き伏せつつ、あくまで冷静に言う。
エナはソーサーを動かし、必死に防御に徹し、
ロバートが更にそれをサポートして、何とか凌ぐ。
「くっ……!」
悔しそうにエッセ教皇を睨むが、手も足も出ないエナ。
「ふははは! 息巻いても数の不利は否めぬか!
もはや贄など捧げる必要も無い。討ち捨ててくれるわ!」
前教皇を殺害し、のし上がってきたというだけの事はある。
凄まじい魔力と、地形を味方に付ける戦術である。
だが、イノのアックスボンバーには斧として斬る以外の力もある。
砲撃モードに変更し、斧でゴーストの攻撃を防ぐ。
「……仕留める!」
ずどん! ずどん! ずどん!
三点バースト射撃というアサルトライフルのような荒業で
祭壇上のエッセ教皇を狙撃するイノ。
「ぬぬッ!?」
エッセ教皇は辛うじて二撃を回避。
爪杖ベアーズクローでもう一撃を叩き落とした。
「くうっ、その手があったか! だが私を倒すには遅い!
たった三人で乗り込んできた愚を悔いてそのまま果てよ!」
「……ここに、ゲイリーがいたなら……」
一緒に弭槍で攻撃してくれただろう。
それがどれだけ頼もしかった事か。
散り逝く友に未練など無いはずだが、窮地に陥れば頼りたくなる。
その心根を、静かにイノは恥じた。
「恥じるな! 仲間を頼るのは負け犬の証明なんかじゃねぇ!
裸の王様が支配者を気取っている事が、
俺は震えるほど気に入らねぇ! 全員の力で倒すんだ!
これ以上奴の好きにさせてやるかよ!!」
ロバートは銃で射撃するが、距離が距離なのでまともに当たらない。
「よく言った、ロブ!」
「おっさん!?」
そこに登場したのは、エリックとヴァジェスを先頭とした
勇者軍主力部隊である。アイゼンカグラやアンリ姫も一緒だ。
「クロカゲさん、カイトさん、マリーさんも……よく無事で!」
途中で離れた三人の無事をエナも喜ぶ。
「うちの総帥の息子を返してもらうぞ、
魔神王教団教皇!」
エリックは轟く声で怒鳴る。
「連れて帰りたければ勝手にするが良い!
魔神王様復活の時は目前だ! 相手にしていられるか!」
エッセ教皇は乱入者の登場により一層苛立つ。
「無論そうさせてもらう! だが魔神王復活など知った事か!
何がどうあろうと勇者軍次期総帥に手を出す事の恐ろしさ、
貴様の身をもって思い知ってもらわねばならんのだ!
俺はネイの友人として! ロバートの先達者として!
それを為す義務を持つ者! 故に俺は
エリック=ルストだ!
勇者軍
メインメンバーの一角を為す当主なのだ!
断固として貴様の思惑が達せられるなどと、ゆめ思うな!」
エリックの気迫にロバートは心底驚愕した。
まるで自分の知っているエリックとは別人である。
「おっさん……!? どうした!?」
「話は後だ……俺はイグジスターを許さん!
お前の力も要る! 故に俺達も奴を叩きのめす!」
「お、おう!」
ロバートは慌てて再攻撃の態勢を取る。
残りの勇者軍メンバーも各々、攻撃態勢に入った。
最終更新:2012年03月11日 22:17