第二十章-第五幕- 反逆の少女達
ぱきぃぃぃぃん!
あまりのエネルギー量に刀身が耐えかねたのだろう。
聖剣エンジェルランプは木っ端微塵に砕け散った。
ストレンジャーソードに纏わり突いていた
呪鞘カオスリキッドの効力も底を尽いている。
「ちいッ、切り札が!」
「……いいや、ここからは俺の出番だ!」
エリックが前に出て、もがき苦しむグロフィス・イグジスターの
下半身を思い切り杖で打ち据え、粉々に打ち砕く。
ニノンの翼を強引に引き千切り、自らの手に奪還した。
「我が家宝は返してもらう!」
自己再生させるために、翼は一時しまいこむ。
「子に手を出される時の親という生き物が、
どれだけ苛烈で残忍かを、貴様は思い知れ……
ヴァリアブル・スピード・オーバー・ヒール!!」
上半身に治癒魔法をかけるエリック。
「エリック殿! 何をしておるのじゃ!? それでは再生するぞ!」
アンリが制止するのを手で止めるエリック。
「これは治癒能力を過剰に引き出す禁断の魔法だ……
過剰に治癒能力を引き出された生命は、やがてその力に
耐え切れず、己が再生能力の高さ故に圧殺されるのだ!
もっとも、大勢に使えばただの治癒魔法止まりだがな。
対象が少なければ少ないほど『過剰治癒力』は上昇する」
「おがああああああああああああああッ!!?」
感じたこともない苦痛に、一層もがき苦しむ
イグジスター。
一瞬で傷が治り、それがより深い傷に変貌していく。
まさに悪意意外のなんでもない、狂気の魔法であった。
「負の感情の具現化生命体だか何だか知らんが、
俺の子に、勇者軍の子に手を出した愚を死ぬまで呪え!」
その怒りと憎しみの深さに、エナやマリーは戦慄さえした。
これが人の親の恐ろしさだというのだろうか。
それと同時に、底知れぬ悲しみも理解できた。
だとすれば止めるにあたわず。むしろ推してやるべきだろう。
それで彼の悲しみが、いくらかでも報われるなら。
「待て、おっさん」
と、そこにエンジェルランプを失ったロバートが割り込む。
「何故止める、ロバート。お前も想像してみろ。
産まれたばかりの弟を同じ目に遭わされたらと考えてみろ。
お前は俺を止められないはずだ」
「いいや、止めるね。こいつには一時の死すら温い」
ざすっ。
軽くだが、ストレンジャーソードを突き立てる。
「何をする気だ、ロバート!?」
「悪党には悪党の報いがある……!」
ロバートもまた、狂気の笑みを浮かべる。
グロフィス・イグジスターはもはや抵抗する気力も無い。
「貴様の力という力を剣で吸い取り、この剣をまた違う形に進化させる。
そして貴様の……イグジスターの同胞殺しという汚名を塗った上で、
全てが終わる時にその愚かさ加減を全世界の人間に晒した上で、
苦と惨と悲を絡めて地獄に落としてやる……!!」
「相も変わらず性格の悪い……」
よくもまあそんな面倒な処刑方法を思いつくものだと呆れるエリック。
「反対なのか?」
「賛成に決まっているだろうが! やれ!!」
「おっさんならそう言うと思ったぜ!」
「ぐおおおおおおおあああああああああッ!!?」
ストレンジャーソードがグロフィス・イグジスターの存在を吸収し、
黒く、禍々しく、おおよそ剣というより取っ手の付いただけの牙、
という趣がぴったり似合う、魔性の装備が出来上がった。
「マリー! カオスリキッドを貸せ! こいつを封印する!!」
「お……おお? 分かった!」
慌ててマリーはカオスリキッドを展開し、新たな剣を包む。
すると謎の剣の負のエネルギーが自動的にカオスリキッドに流れ込む。
「これはどうした事だ?」
訝るマリーに、アンリ姫は
怪球ミームで解析を行う。
「そのままでは暴走しかねない負のパワーに満ちておるようじゃ。
しかし、カオスリキッドがその受け皿となって、
結果的に封印という形を取ってくれておる。
なおかつ、カオスリキッドのパワーチャージも出来るのじゃな」
感心したように言うアンリ姫。
後方で聖杯ライブチャージャーによる回復を行っている
ローザはロクに聞いていないが、概ね全員納得した。
「で、その剣の銘はどうするつもりです?
まさか、そのままストレンジャーソードとは呼べませんよ?」
「おいおい考えておくさ。次に使う時までにな」
アイゼンカグラのツッコミは華麗にスルーする。
「では、これにて本作戦を終了しましょう。
これからはイグジスターの識別装置を量産し、
各国と協力、連携してイグジスターを追い詰めなくては……
アンリ姫、あなたのその装置が鍵ですよ」
「うむ、承諾したのじゃ!」
ウォルフ王子の宣言でロバート救出作戦は終了となった。
「それじゃ、落ち着いたみたいだし、私は行く」
「ちょっと待ってイノちゃん!」
イノがそのまま立ち去ろうとしたのをレオナが止める。
「何? 私は勇者軍には入らないと言ったはず」
「そう! それ! だからあたしがそっちに入るッス!」
「何ぃぃぃぃッ!?」
ローザとマリーが揃って仰天した。
「ちょっと待て、何をお前勝手にやめるって!?」
「ロブ! 止めろ! これは立派な反逆行為だぞ!」
「ああ、いいぜ。貴様がそうしたいならすりゃいい」
ロバートは止めるどころかむしろ煽る。
「隊長いい奴ッス! じゃ、あたしはこれで!
今までいっぱいお世話になったッス!
今度会う時も敵じゃない事を祈ってるっスー!」
「い、いいの? ちょっと、レオナ?」
「いいからいいから」
珍しく慌てるイノに対し、笑顔で引っ張るレオナ。
「せめて動機を聞かせなさい、レオナさん!!」
ウォルフ王子がなおも止めるが、ロクに聞かずに離れて行く。
「隊長、何故止めないんだい?」
カイトが一応、ロバートに確認する。
「俺が誰だか忘れたのか? 俺は反逆の使途だぞ。
これがあいつの反逆だってんなら、
俺はそれをとにかく全うさせてやるだけだ」
「なるほど……火に油とはこの事で……」
苦笑するカイト。
エナはおずおずと、ヴァジェスに語りかけた。
「ヴァジェスさんも何で止めなかったんですか?」
「いや、俺は一応名目上は部外者だし。
別に
カレン家に関わる事じゃねぇからなぁ。
最終的な裁量は、あくまで
メインメンバーにあるし、
ロバートはああ言ってるし。あんたは?」
「止めようとしたのをクロカゲさんに止められたんです」
「ほう……どういう事か聞かせてもらおうか? クロカゲ」
「我……ミーム……通じた。我……見えた。
レオナ……イノ……かばう……動き……多い!
レオナ……イノ……気に入ってた……止める……無駄!」
「それが
ニンジャなりの見方か」
ヴァジェスは少し笑う。
「でも、寂しいですね……あの人、ロバートさんを除けば、
私の最初の戦友だったんですよ。なのに……」
「何も今生の別れでもあるまい。泣くんじゃねぇ。
それにレオナの気持ちは少しだけ分からんでもねぇ。
たぶん、放っておけないツラと雰囲気持ってたんだろ」
「放っておけない?」
「そう、放っておけないんだ。それを反逆と呼びたきゃ呼べよ。
むしろ反逆の毒を纏った奴だから、嬉々として受け入れるだろ。
それがロバートの大器だ。今なら俺にも分かる」
「……ふうん……」
不思議なものを見るように、ロバートを見つめるエナ。
エリックは一人騒ぎには加わらず、レオナの動きも黙認した。
「まずは終わったよ、フォルテ、ゼブ、セティ」
一人呟くと、ようやく彼は少しだけ涙を流した。
涙は流し尽くしたはずなのに、悲願が達成されるとこの始末だ。
その情の脆さを悔しく思い、そしてまた泣いた。
「こんな所に墓なんか作ってやらないぞ……ロフ。
お前の墓は、ちゃんと
妖精の森に建ててやるんだからな」
虚勢を張り、決意を固め、エリックは一人、歩き出す。
愛する妻と、残った子が待っている己の故郷へ。
そしてアンリ姫を除く各々が己の居場所へと戻り始めた。
アンリ姫は識別装置量産の指揮を執らねばならないのだった。
「エナ、早く来い!」
そしてロバートはエナを約束通りに迎える。
「俺達は遊軍として世界中を動き回るぞ。
イグジスターを見かけたら近くの部隊に救援を要請しつつ駆逐。
また気ままな二人旅が始まるってわけだな」
「二人と一匹です」
「にゃー」
ずっと隠れていた猫のポメが姿を見せる。
「お前、今回目立たんかったな?」
「ふぎー!!」
怒って爪で引っ掻こうとするポメを受け流すロバート。
「ふはははは! 再開早々飼い主に牙を剥くか。
本当に貴様は面白い猫だな、ポメ!!」
さっきの狂気とは裏腹に、猫を撫でる顔は本当に穏やかだった。
「じゃ、行きましょうか」
「おう!」
二人は、またどこへともなく歩き出した――
来たるべき新たなる戦いへ向けて。
そしてどこか遠く。
イノとレオナは道すがら喋っていたりした。
「……勇者軍にいれば高給優遇は確実だったのに。変な人」
「イノちゃんは放っておけない感じがするんスよー。
これって、一種の宿命って奴じゃないッスかねー?」
「宿命、ね……なら、いっそ作ってみようかしら」
「何をッスか?」
「第2の勇者軍的軍閥プランをもっと具体的に、ね。
同等のメンバー構成に、資金源となるスポンサー、
活動理念と活動区域の保障調停に、各国とのパイプ繋ぎ。
私とあなたの実力があれば、きっと何だって出来るもの。
期待してみる。お願いだから応えてみせてね」
「はいッス! 勇者軍にこのままいるよりずっと面白そうッス!」
二人の少女は反逆の毒を抱いたまま笑い、夢を語った。
それが古より決められた運命であったかの如くに――
最終更新:2012年07月01日 00:08