第二十章-第四幕- 今こそ触れよ、禁忌の力
正体を現し、多くの人間の死体を食らって、新たに力を増した
グロフィス・イグジスターはウォーミングアップの段階で
勇者軍主力部隊を弄びつつあった。かろうじて動きを捉えても、
パワーも敵の方が上であり、更にグロフィス・イグジスターは
本気を出そうとしている。膠着状態を打破出来る手段は、未だ無い。
「…………!」
グロフィス・イグジスターは魔方陣のようなものを宙に描く。
「データ
ロード……
ヒストリーオールアーカイブス!」
グロフィスの目が光りだす。
「何をする気だ、奴は!?」
危険を感じたローザは一目散に敵の方へ突っ走る。
発動前に打撃を加えたかったのだ。
「超怒級雷電脚!」
ばちぃッ!
「ううおおおッ!?」
雷のキックを受け、大きく後ずさるローザ。
「これはかつて、勇者
エドウィン=ストレンジャーと
行動を共にした
チャン=フェイロンの最終奥技……
歴史の味を身に染みて感じたかな?」
と笑うグロフィス・イグジスター。
その破壊力と懐かしさに、ヴァジェスはむしろ戦慄した。
あの頃の勇者軍メンバーの実力は今の彼等とは一味違う。
そんなものを連発されたらただでは済まないだろう。
「ヒストリー……オールアーカイブスだと!?
まさか、他の技も乱発してくる気か!?」
それはすなわち、
アーム王家の幻杖ミームと同等か、
あるいはそれ以上の効果を持ちうることになる。
まさに反則そのものと言って良かった。
「メシア・タイプのスーパーコンピュータにアクセスして
もらった知識だから、不完全だけど、色々あるねぇ」
ニコニコと楽しそうに笑いながら次の技の準備を進める
グロフィス・イグジスターに、ヴァジェスは桁の違う脅威を感じた。
「
ミスト・ブレス!」
「
レーザー・ブレス!!」
ヴァジェスとグロフィス・イグジスター両者のブレスが激突し、
共に相殺して消滅した。流石にヴァジェスは
当時の勇者軍メンバーだけあって、
一つ位の低いブレスでも最高の奥技に対抗出来てはいるが、
ヴァジェス一人だけでは充分とは言い難い。
「…………ッ!」
イノは
アックスボンバーを構え直し、
当たるが幸いの牽制砲撃を加える。
少しでも技の発動を遅らせて、味方の隙を作りたかった。
だがそれを無視して、グロフィス・イグジスターの再攻撃。
「
ニノンの翼最大戦速!
ゴッド・バード!」
炎を纏い、そのままレオナに突撃してくる。
「
ナノ・マシン! ピンポイント散布!」
だが、構わずにグロフィス・イグジスターは突撃。
「
絶対耐性!?」
「あははははは! ナノ・マシンも作ってみたんだ! 凄いだろ!?」
「レオナ!」
イノが飛び込み、何とか押し出す形でゴッド・バードを回避。
すんでの所で二人共、かろうじて無傷で済んでいる。
「ありがと、イノちゃん!」
「借り一つだったものね。返しただけ」
「全員で一斉にかかれ! そうすればッ!」
エリックの指示でロバート、マリー、クロカゲが一斉攻撃。
「うおおおおおッ!」
「そう来ると思ってた!
アースクラスト!」
地面からの膨大な量の石つぶてと砂嵐が巻き起こり、
三人共に吹き飛ばしてしまう。
「!?」
だが、直後に飛んできたエナの
ソーサーに対しては
奥技による迎撃を行わず、多少無理な回避を行ったようだ。
「……外しちゃいました……!」
悔しそうに唸るエナだが、不愉快そうに舌打ちした
グロフィス・イグジスター。
それを見てカイトとウォルフ王子は共に疑問を抱いた。
(何故時間差攻撃にだけ反撃しない?)
そして、カイトは次の攻撃が展開されるのを見てすぐ気付いた。
「あの奥技には致命的な弱点がある!
展開するのに、多少時間がかかるんだ!
少数ずつ波状攻撃を仕掛けて時間差をかけよう!
遠距離攻撃が出来るエナ君とイノ君の戦力は特に重要だ。
悪いけれど、もう一踏ん張りしてくれ!」
「はい!」
「分かった」
二人はいつでも遠距離攻撃出来る態勢に入り、
直接攻撃要員の攻撃の合間を縫って援護する。
非常に鬱陶しいのか、グロフィス・イグジスター側に
少しずつだが、余裕が無くなってきている。
「種が割れてしまえば底が浅いな、
イグジスター!!」
エリックが嘲笑うように仕掛けてくるが、
グロフィス・イグジスターはそれを難なく叩き返す。
「だから何だい? この奥技が使い勝手が悪いとしても、
攻撃力、防御力、機動力、魔力全てが父さん達より上なんだ。
それも、魔法で抑制されていての結果だよ? 現実を見てよ」
「そうだな」
その事実を素直に認めるエリック。
「仮に動きを捉えても決定打がないうちは、ジリ貧で負けさ。
大人しく丸呑みされた方が楽だと思うんだけどね?」
「決定打だと? 笑わせる。そんなものはもう来たぞ!」
「何ッ!?」
上空を見ると、勇者軍謹製の大陸間弾道輸送カプセルが飛んできた。
「何だ、あれは!?」
「ネイの差し金だろうな」
驚くウォルフ王子に、エリックは不敵に笑いかける。
「あの野郎! 粋な事してくれやがるじゃねぇか!」
ロバートも思わぬ助け舟に狂喜する。
ずがん!
岩盤に叩き込まれた輸送カプセルから四つの装備が飛び出す。
「ミーム! ミームなのじゃな!」
「みー」
黒いボールのような戦術思考共有
コンピュータ『
怪球ミーム』が
持ち主であるアンリ姫の手に渡った。これで彼等は一切の無駄なく、
完全な空間把握能力と思考のリンクによって、
超怒級戦術的連携を取る事が出来るようになる。
ちなみに、持ち主に懐くという性能もある。
次いでローザの手には聖杯ライブチャージャーが渡った。
「おお、前からずっと持ってみたかったんだ、ありがてぇ!」
あらかじめチャージした生命力を持って圧倒的な治癒力を
使い手から与えることが出来る最高の支援道具である。
更にウォルフ王子の手には
幻杖レプリアーツが渡る。
「これさえあればあんなデッドコピーが何だと言う!」
エネルギー性の技や魔法を許容量の許す限り吸収し、
いつでも乱発出来るという反則兵器である。
ただし、技のストックには本来の持ち主が必要だが、
現在のキャパシティはゼロ。たくさんの技や魔法がぎっしりだ。
そして、ロバートには鞘に入った大剣が渡った。
ロバートの懸念を、マリーが口にする。
「まさか、これは……!?」
マリーは手を掲げ、自らの装備の名を呼ぶ。
「我が手に戻れ! カオスリキッド!」
すると、大剣を包んでいた
呪鞘カオスリキッドが
一枚のコインとして、マリーの手元に戻った。
そこに残されたのは、負のエネルギーを大量に纏い、
かつてないほどの切れ味を思わせる、
ストレンジャー家の進化の剣、ストレンジャーソードだ。
「天下無双にして絶対勝利の剣に、
カオスリキッドの力を加える……正気か!?
こんな反則技、
魔神王でもなきゃ誰も受けきれねぇぞ!」
口では非難するような素振りを見せながら、むしろ嬉々として
ロバートは強化ストレンジャーソードを手に取った。
「
エンジェルランプ……! 今は俺に力を貸せ!
あンのクソ野郎を木っ端微塵に叩き切ってやるんだ!」
一時凌ぎではあるが、聖剣エンジェルランプを更に融合させ、
正と負の力を共に纏った恐るべき剣が完成した。
「人・業・魔・神・剣!! ギガス! カリバァァァッ!!」
人の業と、魔と神の力を全て併せ持った存在自体が凶器そのものの
膨大な出力を持つエネルギーソードが完成した。
一時的な展開とはいえ、まともに受ければ誰も生存出来ない。
かつての
迎業神剣エクスカリバー同様、絶対耐熱フィールドの中に
凄まじい熱量を持ったビームの刃を封入しているが、
決定的に違うのはその温度である。なんとオリジナルを超越し、
三千二百万℃に達するのだ。もはや物理的な防御は不可能である。
「なんてエネルギー量だ……!」
その凄まじいエネルギーを感じ取り、
グロフィス・イグジスターは初めて理解した。
勇者軍を敵に回す事の本当の恐ろしさを。
一方、部外者たるイノもそのあまりの力量に驚愕している。
「あれが、彼の本気なのね……勝てない」
エリックが勢いづいて、ロバートをけしかける。
「何とかその剣で一撃加えろ! 俺にも切り札がある!
皆、そのために動くんだ! これは皆で行う反逆だ!!」
「任せるのじゃ!」
アンリ姫が膨大な魔力をチャージして魔法を展開する。
「
アビリティ・コントロール・オーバー・ブースター!」
マスター・ブースターの強化版魔法だろうか。
その割には短所が補われていないような気がする。
いや、むしろ短所はより強くなったようにも思える。
「これは何……? 不思議な感覚」
アイゼンカグラが怪訝に思う。
「この魔法は短所がより強調される代わりに、
その余剰分の『スペック』をもっと長所に回せるのじゃ!
ローザ、物凄く力が湧いてこぬか!?」
「おう! 魔力はオケラだが、こいつぁすげぇぞ!」
いつもより景気良くハンマーを振り回して言う。
「馬鹿な……弱点をより明確に晒すのか? クレイジーだ……!」
呆れてグロフィス・イグジスターは口を開けてしまう。
「いいや、ちょうどいいね。どうせ一撃もらえばお陀仏だ!
弱点がどうあろうが大差無ぇ。むしろこれでいいんだ!
覚悟しやがれ、イグジスター!!」
ロバートがギガスカリバーを握ってにじり寄る。
「くっ、武器が増えたからってスペックが上がったわけじゃない!
この僕に勝てるだなんて思うなよ、下層生物が!!」
「敵は慌てています。この隙に攻めなさい!
勇者軍
特務戦技教導隊指導要項15番
<人海戦術>の教則に倣い!
ウォルフ=テオ=ザン=アームⅣ世が波状攻撃を命令します!
各員、任意に攻撃開始! 隊長とエリックさんに繋ぎなさい!」
「応!」
全員が応じる。特に素早く切り込んだマリーとレオナは
思い切り引っ掻き回して、必死に
グロフィス・イグジスターに食らいつく。
「素早さだけの貧弱共が! 邪魔だよ!」
「貧弱で結構! 貴様を追い詰められればそれで充分だ!」
「っス!!」
二人で散々追い掛け回した上、アイゼンカグラの弓やら、
ヴァジェスのブレスやら、エナのソーサーやらが
次々と撃ち込まれ、次第に回避も困難になっていった。
「くそぉぉぉぉ! 勇者軍メンバーさえ丸呑みしたこの僕が!
装備いくつか追加されるぐらいで負けるっていうのかぁぁッ!」
「だから貴様は負け犬なんだ! それが貴様の底の浅さだ!
丸呑みぐらいで勝てると吼える! その傲慢こそが自業自得!
人業反逆ストレンジャー! 歴史への冒涜は断じて許さねぇぞ!」
「くうううううッ!」
「ギガスカリバー! 中のエンジェルランプが
ブッ壊れても構わねぇ! こいつだけは
生かして逃がすなぁッ!!! フルパワーだぁぁッ!」
ざしゅっ!!
三千二百万℃のビームで斬られるグロフィス・イグジスター。
横薙ぎで上半身と下半身を完全に分断され、蠢きもがく。
大勢は決した。勇者軍は辛勝ながら、
勝利を迎えようとしていたのだ。
最終更新:2012年03月19日 21:50