第二十二章-第一幕- マスターハード
ウォルフ王子及び、民政部の増援もあって、極めて少ない被害
(あくまで村単位で全滅させられるのに比べればであるが)で、
イグジスターの大攻勢を何とか迎撃終了し、
無事に
イグジスター識別装置を各地に配送し終わり、
防衛にも見事成功したところであった。
「……というわけで、だ。ロブ」
「いきなり連絡も無しにやって来て『というわけ』じゃないだろオイ」
珍しいロバートのツッコミは軽く無視しつつ、ウォルフ王子は語る。
「実はもう少し、この施設を放棄するわけにはいかない。
この
スペースポートには最後の大仕事が残っている」
「大仕事?」
首をかしげるエナとポメ。
「そう。今からロケットを一基打ち上げる。
これを成功させなくては、今後の情勢把握すら困難になるだろう。
それまでの間はここを一緒に守ろう」
「中身は何だよ?」
「識別装置マスターハード搭載の小型人工衛星だ。
軌道を周回しながら分布図でイグジスターの量などを調べられる。
ネットワーク接続して端末で見ることも可能になる。
無駄なく、必要な分だけの戦力を送れる、というわけだよ」
「そういう事かい。なら、やるっきゃねぇだろ」
ロバートは頷き、急造ロケットに積み込まれる
マスターハードを見つめた。
かつてあんなに努力して守ったマスターハードが、
今また人類の未来を守る戦いに貢献しようというのだ。
実に守り甲斐のある話である。
既に日付は変わり、一度仮眠を取ったロバート達だが、
作業員は全交代し、また新たなシフトでの作業が始まっている。
直衛兵も総交代し、疲労は考慮しなくても良くなったが、
一から戦術を構築し直さなくてはならない状況である。
一応昨日の戦いぶりは説明済みだが、実戦とはまた違う。
一切の油断を挟まず、迎撃に当たらねばならなかった。
まして昨日と同じだけ、あるいはそれ以下の数で
やってくるなどとも思えないし、逆に来るとも限らない。
まったく予想不可能な状況の中、確かにこのマスターハード搭載の
人工衛星は今後の
惑星アースでの
戦局を分ける戦略兵器となるだろう。
「こちら管制塔! マスターハードの格納とテスト起動を確認した。
まったく正常に機能するようだ。衛星とのリンクも確実のようだ。
あとは、燃料注入と発射まで、ここを守り切る事だ」
ウォルフ王子の指示が、管制塔に続いて出される。
「直営兵は
勇者軍予備役の兵士を中心に五人一小隊で陣形を組め!
密集隊形を取って、一切イグジスターに隙を与えないように!
一人が呑まれそうになったら、他の四名が全力で援護して下さい!」
「はっ!」
ロバートよりはいくらか整然とした具体的指示により、
直衛兵も速やかにフォーメーションを取る。
「こちら勇者軍のウォルフです! 管制塔!
イグジスターが多数来た場合、昨日使った
エリミノイドは
爆撃機の一斉掃射終了後にリリースして下さい! 補給の合間を
エリミノイドでカバーしつつ、波状攻撃をかけます!」
「こちら管制塔! いつでもリリースは可能。了解した」
「では、総員防御陣形! ロケットを何としても守ります!」
「了解!」
各人員が速やかに散らばる。
「ポメちゃん、爪は大丈夫?」
「ふにゃー!」
治癒魔法をかけた後、自ら研磨し直して
より一層ギラリと鈍く輝く爪と共に、ポメは何とも凶暴に鳴く。
その時、何やらアラート音が鳴り始める。
「こちら管制塔! イグジスターの反応、多数……!
管制塔から十二時方向、距離三千、数は推定約二千ほど!
ただし、今までに例を見ない巨大イグジスターの反応有り!
しかも、低空を飛行している模様!」
「!?」
まったく予想外の事態に、全員が驚愕し、
軽く混乱状態に陥ってしまった。
「巨大イグジスター、何だ、そりゃあ!?」
「今まで勇者軍から報告のあったのは、みんな人型だったぞ!?」
「飛んでるってのか!? そりゃ本当にあの化け物か!?」
ざわめき出し、対応に苦慮する直衛兵達。
「騒ぐんじゃねぇ!」
剣を突きつけて、怒鳴りたてるロバート。
「そういう図抜けた化け物相手こそ、俺達
メインメンバーの仕事だ!
貴様等はそんなのに構わなくていい! 自分の仕事をやりやがれ!」
「お、おおー!」
慌てて納得し、改めて武器を構え直す。
「ウォルフ、エナ! 俺達でそのデカブツを叩くぞ!
そんな奴を味方に近付けたら、色々とまずい!」
「分かっています。当然でしょう。ただし戦闘機も出して
援護をさせるぐらいが妥当じゃないですかね」
「ですね」
エナも納得したので、三人はポメを放り出して迎撃態勢を取る。
「ポメちゃん! 怪我とかしない程度にあなたも頑張ってね!」
「にゃう!」
元気良く返事し、ポメは辺りをうろちょろし出した。
しかし気になるのはデカい上に飛ぶ、というイグジスターだ。
仮に何かに擬態しているとしても、
既にそれは人間ではありえないものだ。
だとすれば、どう戦っていいものかは実際やってみないと分からない。
そんな不安と不確定要素が、ウォルフ王子の頭を悩ませる。
特殊イグジスターを含めた大軍が、シャトルの危険性を理解してか、
一直線にスペースポートに駆け寄ってくるのであった。
最終更新:2012年07月02日 20:16