第二十二章-第二幕- イグジスターの本領発揮





前回の戦いから一日経過し、次の作戦である
マスターハード搭載人工衛星打ち上げ作戦が開始されていた。
そんな中、イグジスターの大軍がまたもスペースポートに迫る。
しかし、その中には見たことも無いような
巨大イグジスターの影があった。
「あれは何だ?」
ようく見れば、竜族のようにも見える。
「あれが、イグジスターなのかよ?」
ロバートが訝るが、今は作戦中である。
ウォルフ王子は構わず、攻撃命令をかけた。
「戦闘機、爆撃機! それぞれ巨大イグジスターと
 通常イグジスターへの攻撃を仕掛けなさい!」
「はっ!」
ズダダダダダダダダ!
ぼごん!ぼごん!ぼごぉぉぉん!
ミサイルや機銃の凄まじい轟音が響き、
イグジスターをかなり一方的に攻撃していくが、
肝心の巨大イグジスターにはあまり通じていなかった。

ミズチ、なのですか?」
ウォルフ王子が言っているのは水竜ミズチ族の事である。
リヴァイアサンのように蛇竜のような形状ではないが、
同じ竜族に分類される。多少生態の違う竜族だ。
だが腑に落ちないのは、あれだけの巨大な生物……
全長十メートル級の生命体を
バスケットボールよりやや大きい程度の原型イグジスターが、
包み込み、丸呑み出来るのか、という疑問であった。
おそらくは無理なのだろうし、からくりがあるのだろう。

そう思っていると、意外な事にすぐ疑問が解けた。
竜のイグジスターが、無駄が多いとでも思ったのか人型化、
即ちドラグーン形態化したのである。
「そういう事ですか……」
すなわち、元のミズチは、ドラグーン化したところを
不運にも丸呑みされてしまったのだろう、という結論が出た。
そうでなければ通常の原型イグジスターとの差異が大きすぎる。

ドラグーンのイグジスターがゆっくり近寄ってきて足を止めると、
他のイグジスターもそれに従うように動きを止めた。
その異常な光景に、管制塔も思わずエリミノイド
一時停止命令を出してしまっていた。
「……お主等が勇者軍のメンバーとやらか」
「何のつもりだ? てか誰だ!」
「私は全てのイグジスターを束ねる、
 イグジスター五滅将が一人。ミズチ・イグジスター
 類稀なる幸運のもと、初の竜族を丸呑みした個体だと思え」
「つまり棚ボタだけで出世した成り上がりかよ」
剣を突きつけるロバート。
それに対して、ミズチ・イグジスターは斧を構えた。
「どうせなら最大の障害の顔でも見ておこうかと思ってな。
 だが、まあいずれは全ての生態系は滅びを迎える。
 そのための開会宣言のようなものだと思っておけ」
「ほざけ!」
ロバートがタングステンソードで斬りかかるが、
ミズチ・イグジスターは冷静に受け止め、
鍔迫り合いで強引に押し込んでくる。パワーは敵の方が上だ。
「ちいッ!」
「竜族のパワーだ。甘く見るとそうなる」
「ほざけ! 誰が正攻法でやるっつったよ! エナ!」
「はい! 援護を……!」
エナはソーサーを飛ばし、周囲の通常イグジスターを牽制しつつ、
ロバートを援護にかかった。
それを合図として他のイグジスターやエリミノイドも
再度動き出し、再び大規模戦闘が始まっている。

「ぬうううう!」
力強く攻撃を打ち込んで来るミズチ・イグジスターに対して
防戦一方のままのロバートだったが、いつまでもやられてはいない。
「これでも食らいやがれ!」
ロバートはいきなり銃を抜き、インファイトからの
強引な射撃を猛連発する。
「ぬぬっ!?」
剣だけで不充分なら銃でも対応する。これが彼の強みであった。
こうまで接近されては大技も使えない以上、
やむを得ない所業ではあるが。

だが最大火力がミズチ・イグジスター一人に費やされ、
エリミノイドによる防衛線も限界がある。
そもそもがシャトル防衛任務である以上、
どれだけ強気で守っても、シャトルを破壊されたら終わりである。
向こうはイグジスター五滅将という通り、こんな厄介者が五人もいて、
しかも大規模なイグジスターの集団を多数率いているという辺り、
余力もあるだろう事に対し、こちらはこれが絶対防衛線である。
まさしく、絶体絶命の危機、と呼ぶに相応しい状況となってしまった。
「一人で足りないなら、私の力を……!」
馬に乗って突撃してきたのはウォルフ王子である。
かくなる上は、このミズチ・イグジスターを一刻も早く片付けたい。
それが勇者軍一同の偽らざる心境であったのだ。
流石に三対一では素直に受けきるにも限界がある。
ミズチ・イグジスターは大きく距離を取ったが、
ここぞ好機とばかりにロバート達は追撃を一斉にかける。

「魔法で一斉に攻撃をかけろ!」
ロバートの指示に従い、エナとウォルフは
単純なパワーだけでは迎撃しにくい魔法攻撃に切り替える。
「ぬうう!」
ミズチ・イグジスターは防御に徹するが、次第に不利を悟る。
「多少無駄が多いが、今はこれもやむを得んのか!」
ミズチ・イグジスターは斧を放り投げて牽制し、
すぐに再びドラグーンから水竜形態へと変身し直した。
こちらの方が本来の竜族のスペックと言えるからだろう。

「ドラグーンのうちに勝負を着けようとしたが……!」
ウォルフ王子が対応に苦慮するも、
何とか対抗する策を頭の中で組む。
何にしても、勇者軍及び直衛兵の不利だけは確かなのだが、
そう簡単に諦めてよいような作戦ではなく、
今度こそ彼等には、絶対死守が求められていた。
シャトルの燃料注入完了までには、
まだそれなりの時間が残っている――



第二十二章-第三幕- へ続く>
最終更新:2012年11月23日 00:49