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第二十三章-第三幕- 鉄血戦線





魔神軍と名乗る私設軍の強襲を受けた勇者軍は、
とりあえず作戦維持のために応戦し、そのあらかたを片付けた。
だが、メインメンバーのゲイル=ウィッシュと名乗るサムライが
自ら仕掛けてきたため、ロバートは真っ向から受けて立つのであった。
「ふん! やりやがる……!」
「とぁぁぁぁーッ!!」
二人の剣撃が互いの頬をかすめ、ロバート、ゲイル、
双方に切り傷が次第に増えていく。
互いの実力は互角、あるいはどちらかがやや上か、
そう思わせるほどに実力は伯仲しきっていた。
ストレンジャーソードほどの剣であれば結果はまた違っただろうが、
まさか人間相手により凶悪になったあの武器を使うわけにもいかず、
正直、ロバートは内心で困惑しきっていた。
「正直ここまでやりやがるとはな……!
 伊達や酔狂で勇者軍のコピーは名乗れねぇってわけかよ!」
「無論! 伊達や酔狂で発足した軍にはござらぬ……故に!」
ガキン!
鋭い斬撃が、刹那の間ロバートを押し返す。
「だが歴史の深さが致命的に違う!
 ポッと出の新米共相手にそうそう遅れをとってやるかよ!」
ロバートは急に銃を抜いて、瞬時に発射する。
「ふぬっ!?」
ゲイルは慌てて刀身でガードし、一気に距離を置く。
「直接攻撃、間接攻撃を自由自在に使いこなすか。
 だが、それが出来るのが自分だけだとは思わぬことでござる!」
「なにッ!?」
ゲイルは刀を納めると、いきなり弓を抜き放った。
「ふんッ!」
ゲイルの弓は極めて正確で、直接射撃と曲射を交えて射る。
「うおおッ!?」
ウォルフが直撃を負いそうになり、危うく落馬しかける。
もちろん、ロバートにも相応の矢が飛んできている。
「くっ、まだまだだ!」
「勇者軍の長というのはこの程度のものなのでござるか!?
 そなたの本気を見せてみるでござるよ!」
「一人で粋がって勝てる戦いがあると思うな……エナ! ローザ!」
「はい!」
「応!」
予備役兵をほとんど片付けて、エナとローザはロバートを支援する。
エナがソーサーと魔法の二重攻撃で、
ローザはハンマーで殴りにかかる。
「そのような得物で叩かれては、我が刀が折れてしまうわ!」
ゲイルはごついハンマーを速やかに回避し、更に距離を置く。
エナのソーサーを随時弓矢で叩き落しながら後ろ走りしており、
まさしく勇者軍並みに人間離れしている。

「…………数が多いか……ならば本気にならざるを得まい。
 我が技の冴えを見よ……! 秘技・無影追走脚!!」
ゲイルは、ロバートに弓を一射する。
とびきりの精度と速度で放たれた渾身の一射だ。
だが、ゲイルはそれと同時に弓をしまいつつ全力疾走。
あっという間に自ら発射した矢を追いかけて走り、即座に追い抜く。
そのまま居合い斬りの姿勢で、ロバートに斬りかかる。
「……ッ! 凌ぐ!!」
ロバートもロバートで、驚異的な動体視力と反射神経で確認し、
確実に居合い斬りを受け止める。
「はっ!」
だが、受け止められたと見るや否やゲイルは即座にジャンプして離脱。
そして遅まきながらも、放たれた矢がロバートに向かって飛んできた。
「ちっ! ままよ!」
ロクに照準も定まりきらぬまま、矢を銃で迎撃。
見事に撃ち落として、辛くも難を逃れた。
「……この技を受け切った者は、十の指に満たなかったでござる。
 まずはお見事、と誉めるより他無いでござろうな」
「……化け物か、貴様!」
「普段言われ慣れているはずの言葉を自らの口で発する感覚は
 どのようなものでござるか? さぞ、屈辱であろうな」
ニヤリ、と笑うゲイル。
「ふん、既に残るは貴様一人だ。こちらは数に任せて迎撃し、
 貴様を捕縛する事だって出来る。武器の性能にも助けられているな。
 俺達が各々の武装を使えば、今頃貴様は無事では済んでいない」
「ふむ、それは事実でござろう。そなた達の実力は
 この短時間で充分に理解した。拙者はあくまでも遊軍。
 無理をする道理はないと、筆頭よりお達しもある故、
 まずは主張を棚に上げ、退かせて頂くとするでござる」
自分の実力と戦術的な不利まできっちりと理解している。
猪武者ではない、ということであろう。だとすれば
殊更に厄介なのは、今更言うまでもなかった。
「だが覚えておくことでござる。ほぼ確実な方法とはいえ、
 最悪、ごく少数の者達だけを逃がすのは敗北の容認と同じ。
 その思想と我等の理念は、現時点では相容れぬでござる」
それだけ言うと、ゲイルはもはや味方が誰もいなくなった戦場を、
悠々と武器を納めながら離脱していくのであった。

「……魔神軍、か」
ロバートも武器をしまいつつ、エナの治癒魔法を受けて回復する。
「勇者軍は自由と混沌の象徴である、とは……また見事に
 勇者軍の本質というものを見透かした言動をしてくれる。
 さしずめ奴等は、秩序と束縛の象徴にでもなるつもりか」
ヴァジェスはそんなレベルの馬鹿が、勇者軍以外にもいる事に
やはり驚きを隠す事が出来なかった。
「あれだけの豪の人を率いる人は誰なんでしょう?」
「いや俺に訊かれてもな……まあ、相当強いんだろ」
ローザはエナからの質問に困り、適当に相槌を打つ。
「ですが、確実に言える結論が、今は一つだけあります」
「何だよ、ウォルフ?」
「またすぐに彼等は来る、また戦いが始まる、という事ですよ。
 人間同士で争っている場合ではないというのに……」
「だが、奴等のいうことも、いちいちもっともだ」
「ロブ?」
「だが俺達はより確実なだけの道を採ろうとした。それも正論だ。
 正論と正論がぶつかり合うなら、もう戦うしかねぇんだろうが」
「……せめてどちらかが妥協する点が見つかればいいんですがね」
ウォルフ王子が嘆息する。
「それを今考えてもしょうがねぇだろ。やれる事をやれや。
 それがお前さんのやり方だろ、ウォルフよ」
ローザもローザで、彼女なりにフォローする。

「とにかく、このまま勇者軍は臨戦態勢を維持!
 シフトを組んで、交代しながら周辺区域への監視を続行します。
 なにせ、アーム城と敷地を飛翔させるだけのシステムの完成には
 今しばらくの時間がかかります。再度の衝突に備えて、
 魔神軍相手に、勇者軍がこの場を離れるわけにはいきませんから。
 民政部の方々も、各々やれる事を進めて下さい!」
「はっ!」
ウォルフ王子の指揮に、民政部が応じた。
「……もう指揮官とか貴様でいいんじゃねぇか?
 とか思うんだがな、たまに割と強くな」
「ロブは温存戦力ですから。土壇場で頑張ってもらいます。
 露払い程度なら私の指揮で充分という事でしょう」
「誉めてるつもりか? 誉めても猫しか出ねぇぞ」
「にゃうー!」
「はは……慰めてくれるのですか、ポメ? ありがとう」
短い足で、てしてしとウォルフ王子の額を叩くポメに、
ウォルフ王子は苦笑いするしかなかった。



<第二十四章-第一幕- へ続く>
最終更新:2012年07月02日 20:31