第二十四章-第一幕- 勇者軍の退き口
ゲイル=ウィッシュを撃退して以降も、
増加し続ける
イグジスターに対し、
抗する手段を確立させきれない各国の軍に、民衆の苛立ちは募る。
唯一まともに対抗しきれている
勇者軍にしても、他の軍のリードは出来ても、
それが決定打になるような事態は、やはり訪れていなかった。
勇者軍は
シュライク・シティと呼ばれる大都市に移動し、
民間の代表者を交え、高官達と更なる対応を協議するのであった。
「ですから、具体的な指針をお聞かせ願いたいのですよ……
イグジスターに対して怯え、逃げ隠れするのはもううんざりです……
正直、我々としてはすがれるものには、
何でもすがりたいところです」
「とは言ってもですね、我々も精一杯やっているし、
非人道兵器の投入も決まって、後は製造を待つだけなんです」
「……本当、お願いします。限られた人数が空中都市に疎開して
難を逃れているのもみんな知っているんです、
出来れば、全非戦闘員を疎開、というわけにはいきませんか?」
「…………」
なかなか困難な要求に、ウォルフ王子は口をつぐむ。
「正直、それは……流石に難しいものがあります。
ですが信じていただきたい。我々は全力で戦っています。
可能な限りの空中都市を建造し、
出来るだけ多くの民を逃がします。
その作業も、少しずつではありますが進行しているんです」
「お願いします……本当に……」
どこまでも疲れ切った顔で、静かに懇願する市民代表者。
その痛々しい顔は、とても見られたものではなかった。
しかし、時は予断を一切許さない。
「勇者軍各位に告ぐ! 我々は、
魔神軍の者だ!
諸君等は完全に包囲されている、
危害を加えられたくなければ、要求を呑んでもらうぞ!」
突然スピーカーから馬鹿デカい音量で声が聞こえる。
ビルの窓から覗き込むと、確かに結構な人数で勇者軍を包囲する
魔神軍と思しき連中の姿が見えた。
「野郎、また仕掛けてきたか!」
「駄目ですよ! 一応話を聞いてからでないと!
我々は人間であり、イグジスターとは違うんですから!」
血気盛んに飛び出そうとするロバートとローザを押さえ、
ウォルフ王子は反論した。やむなく従う二人。
「こちらは勇者軍
メインメンバー、ウォルフ王子です。
我々は表面上敵対していますが、
まだあなた達の真意を知りません。
一応、そちらの要求を聞いてみましょう。何ですか?」
「こちらは魔神軍メインメンバー、
レイビー=ショルダーズ!
諸君等が各国軍と連携、しかもリードして
イグジスターに対抗している。
その事実は明らかである。その指揮権、我々がもらい受けよう!
速やかにそこを退去し、現場の指揮権を我々に委譲せよ!
そして勇者軍も我々に従い、イグジスターを撃滅すれば良い!
受け入れられない場合は、魔神軍の秩序の名において、
真に勝手ながら、勇者軍に攻撃を加えさせてもらう!
さあ、ロバート隊長、ウォルフ王子、返答は如何に!?」
「どうしますか、ロブ? これは……どうしたものかと」
珍しく、最終判断をロバートに委ねるウォルフ王子。
「決まってるだろうが!」
ロバートはマントを広げ、ビルのベランダに堂々と立つ。
「勇者軍筆頭!
ロバート=ストレンジャーだ!
そもそもが勇者軍は自衛組織だ! 故に現場の総指揮なんざ、
俺等が握る道理が無ぇってのがこっちの結論なんだよ!
けどな、結成して間も無いお前等が単独で行動して
人を引っ張って行くのは危なっかしくて見てられやしねぇ!
歴戦反逆ストレンジャー! まずは俺達の歴史の重みを
貴様等に見せつけてやる事で回答にしてやらぁ!」
いつもの紋切り型の台詞は無し、締めだけできびきび答える。
「あい分かった! 諸君等の意思は理解したつもりだ。
ならば諸君等を屈服させ、力技で指揮権をいただくのみ!
総員、包囲を解除! 任意に攻撃を開始!
相手が降伏するまで叩きのめせ! 連携は忘れるな!」
「了解!」
レイビーの指示に応じて、魔神軍
サブメンバーや
予備役隊員達が一斉にビルへ雪崩れ込んでくる。
「ひぃぃ、内輪揉めとかやめて下さいよ!」
ビルの管理者や市民代表者が怯えて部屋の隅に引っ込む。
「内輪じゃねぇよ、一緒にすんな」
ヴァジェスが舌打ちしながら困った顔をする。
「あの……このままでは私達、市民を巻き込んで
一方的に悪者扱いです。ここは素直に退去して、
人里離れてから迎撃するのがいいと思うんですけど」
「にゃうー!」
エナとポメが立て続けに意見らしきものを述べる。
「エナさんの言う通りですよ、ロブ。
寡兵敵せず、とも言います。
この狭い建物で分断されたら、
確実に捕縛されておしまいです。
敵の実力を理解していないなどとは、言わせませんよ」
「分かってる! すぐにここから総員退去!
戦力を一箇所に徹底集中して勢いで強引に建物を出る!
場合によっては壁の一枚ぐらいぶち抜いても構わん!
とにかく市街地から出て、市民を巻き込むんじゃねぇぞ!」
「おうよ!」
ローザが応じ、先頭を突っ走っていく。
「おおらぁあああ!」
器用に閉所でもハンマーを振るい、兵卒を薙ぎ散らして行く。
それに追従し、殿をヴァジェスが務めながらひたすら前進。
「ちいっ、数が増えてきたか!」
元々包囲されているだけに、
一旦捕捉されると逃げるのは厳しかった。
ローザのパワーをもってしても、
多数の敵を押し返すのは困難だった。
「どうにかしろ、ローザ!」
押し戻されるロバートが文句を言うので、
ローザは本当に壁を殴り始めた。
「どっせぇぇええええい!」
どがん、ぼごんッ!!
たった二撃でコンクリート製の壁をダイナミックに破壊してのけた。
今まで目立たなかったが、こういう時の彼女は本当に頼りになる。
「何ぃぃぃッ!?」
驚愕の目で見る魔神軍兵士を尻目にまずはローザが、
次いで他のメンバーが破壊された壁からさっさと退去する。
「はっ! 逃がすな、追え、捕らえろ! 逃がすなぁぁぁッ!」
不意を打たれて我を失っていた魔神軍も流石に馬鹿でもなく、
すぐに我を取り戻し、即座に追撃をかけてきた。
だが勇者軍メインメンバー及びヴァジェスの実力は図抜けており、
並みの追撃などものともしていない。
だがエナは例外だ。彼女は割と足が遅い。
「エナ! 遅れるな!」
「待って……はぁ……はぁ……!」
「ちいっ!」
ロバートは即座に反転し、エナを抱える。
いわゆるお姫様抱っこ状態だ。
「ひゃっ!? なな、何ですか!?」
「いいから! 移動は任せろ!
ソーサーを殿に飛ばせ!!」
「は、はい!」
慌てて念動干渉し、エナはソーサーで敵の動きを牽制。
敵が見えにくくなる距離になって、
ようやく彼女はソーサーを戻した。
これで大きく距離を引き剥がした。あとは走るだけだ。
「ヴァジェス、パスだ!」
「ひゃあ!?」
「うにゃー!」
エナを放り投げて、既に
ドラグーンから
ワイバーン形態へ戻っているヴァジェスに向かって、
彼女を受け渡した。無論、愛猫ポメも一緒だ。
「任せろ!」
足の遅いエナを背に乗せ、次いで他の者も
背に乗せ、悠々と飛ぶヴァジェス。
追いつくにしても、結構な時間がかかることだろう。
「ふう、何とか一般人を巻き込まずに済んだか」
「とりあえず一旦
妖精の森付近に退避しましょう。貴重な勇者軍の
同盟相手ですし、邪険にはしないと思いますからね」
「おうよ……」
ウォルフ王子の意見に同意するロバートだったが、
何やら泣きそうな顔をしている
エナ(とポメ)を見やると、冷や汗を垂らした。
「……どうした?」
「どうしたじゃありません……
凄くびっくりしたじゃないですか……」
「…………悪ぃ」
どうやらブン投げた自分が悪いと分かったらしく、
珍しくロバートも謝った。
こういう緊迫状況に似つかわしくないやりとりに、
内心ローザは苦笑する。
「あいつ等、いいコンビじゃねぇか、ヴァジェス。
私等にも負けてねぇかもな」
「ああ。もちょっと時間かけりゃ、
もっといいコンビになる。保証するぜ」
実質負け戦ながらも、なんだか余裕ありげに、
どこか人の悪い笑みを浮かべながら、ヴァジェスはゆるりと着陸。
妖精族の住まう集落地点の森に退避する事に成功したのであった。
しかし魔神軍はいずれやってくるであろう。その時に
どういう対応を取れるかが、今は重要であった……
最終更新:2012年07月02日 20:36