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第三十章-第一幕- 質の脅威、量の恐怖





ストレンジャー・タウン近郊のサイレン砂丘にて、
兵器をやたらとばら撒き、一定以上の領域を確保した
生命連合は、勇者軍を筆頭に、魔神軍や他種族の者が出撃、
後詰めの増援として、更に神族、亜人族が控える中、
いよいよ白兵戦を始めようとしていた。
「さあ、攻撃開始ね」
武器を構えて、いくらか敵を蹴散らすイノ。
「隊長に続くぞ! 総員、攻撃!!」
レイビーの指示で、魔神軍全員が各々に攻撃を開始する。
態勢を崩した味方をかばいつつ、極限まで損害を抑える戦法だ。

「おわ、先に手ぇ出しやがった! ちきしょう、負けてられねぇ!」
ロバートも負けじとエネミーイーターの呪縛をマリーの手で解き放ち、
一度力で捻じ伏せて、また強引に屈服させる。
「うっしゃ、行け、エネミーイーター!」
反逆暴牙剣エネミーイーターはイグジスターを取り込んだ剣だ。
なので、その特性を利用し、イグジスターを逆に捕食出来る。
まさにこの作戦にうってつけの剣だと言って良い。

「さて、フォローを開始するとするか」
「ふん、妖精族の同胞を丸呑みした借りは返させてもらう」
怪物王ドラキュラと妖精王ヴァルキリーが指示を出す。
怪物族、精霊族、妖精族も各々に攻撃を開始した。
ただし精霊族のみは直接攻撃をやや不得手とするため、
属性強化などで他の種族の補助にかかっている。

「さあ、晩餐の始まりだ。気が済むまで喰らい尽くせい!」
「いただきます!」
何故か無駄に行儀良く手を合わせてから、
魔王サタンの指示で魔族一同がイグジスターを追い回し、
逃げ惑うのを構いもせずに片端から食いまくる。
「ふん、皆、やはり腹を空かせてから来たようだな。
 良い食いっぷりだ。では、我もいただくとしよう」
魔王自身も余程腹を空かしていたらしく、
イグジスターを一番多く貪り食らっていた。
「生け造りに出来ないものかな? 味が単調だ」
「知るか、そんな事!?」
ある魔族のぼやきに、ローザがツッコミを入れていたりする。
まあ『わざわざ』ローザに訊く辺り、確かに始末が悪いが。
ライブチャージャーを小出しにしながらでは、そんな余裕は無い。

「よし、兵器群も順調に稼動しているね。
 では、イグジスターの侵入を防ごう。
 各艦、帰りのエネルギーを残して再度、任意に全力疾走。
 人の少ないところだけ見繕ってイグジスターを轢き潰そう!」
「了解!」
艦体の指揮を任せられたカイトの指示で、ローラー戦艦が
また巨大ローラーで疾走し、イグジスターを潰していく。
「ブルー・ワイズマン。聞こえるかい?」
『はっ!』
「手数はいくらあってもいい。例の温存兵器を試そう」
『座標修正は!?』
「僕が任意でやる。アンリ姫も協力を頼むよ」
「分かったのじゃ! ミーム!!」
「みー」
アンリ姫の持つ怪球ミームの力で戦術思考共有が実現する。
これで射撃兵器や布陣、援護の精度は極めて上昇する。
『全弾、スタンバイOK! いつでもいけます!』
「コール・クラスターミサイル!!」
カイトの指揮で、拡散弾頭を搭載した特殊ミサイルが
戦場に叩き込まれる。最終軌道修正はカイト自らが行う。
「インパクト!」
ずばぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
拡散弾頭が該当範囲のイグジスターに降り注ぐ死をもたらす。
「エネルギー残量、あまり余裕がありません!」
オペレータが警告してくる。
「イグジスターの侵入は避けよう……一旦浮上!
 まだ爆雷ぐらいなら残っているはず。それで支援だ!」
「浮上、開始! 爆雷投下準備!」
多くのイグジスターが群がってくるが、それを無視して浮上する。
「よっし、わらわも行くのじゃ!」
「参りましょう、姫」
アイゼンカグラと共にアンリ姫も浮上中の船から飛び出し、
即座に勇者軍主力部隊に合流する。

「うにゃーっ!」
「きゃん、きゃん!」
唯一愛玩動物として参戦しているポメとクロも大奮闘中だ。
互いをライバル視して奮起しているようにも見える。
「ポメちゃん、クロちゃん、無理しちゃダメですよ!?」
二匹をフォローしつつ、エナはソーサー十五枚を全展開する。
そのエナの背後から数体のイグジスターが迫る。
「隠密忍法・蜘蛛の巣……!」
エナの周囲に張り巡らされたリールが、
擬態イグジスターの行く手を阻み、更に拘束する。
「……消えろ!」
クロカゲの投げる手裏剣が、エナを狙う敵を射抜く。
「すみません、クロカゲさん!」
「礼、無用……猫、犬……共に仲間……! 我……守る!」
「はい!」
エナもソーサーを動かすのを緩めず、答える。

「はああああッ!」
ニノンの翼を展開するエリックの一撃がイグジスターを狙う。

ずささっ!

が、イグジスターはいきなり後退し、間合いを外された。
「何ッ!?」
今まで好戦的に攻めてきていたイグジスターが、急に動きを止め、
組織的に間合いを取り始めたのだ。だからと言って、
擬態イグジスター以外には遠距離攻撃の方法も無いはず。
だからこそ、人類は今まで生きてこられたのだから。
「攻撃、止めい! 何かする気なのか……!?」
レイビーの指示に従い、全員攻撃と捕食を止める。
イグジスターはしばらく放置すると、ぷるぷる震え始める。
まるでいいようにされて、屈辱と怒りに打ち震えるように。
まったく何がしたいのかさっぱり分からない。
それが、生命連合の不安を煽る。

「数の脅威に任せて攻めてくるほうが恐ろしいだろうに、
 一体何をするつもりなんだろう……!?」
ウォルフ王子も訝る。エリミノイドも一旦止めて、
様子を見たほうがいいのだろうか。判断材料が乏しい。
「……このまま押しきった方がよろしいでござるか?
 どうせこの区域から駆逐し尽すのが目的でござろう?
 動かないのなら、今が好機にござる」
ゲイルの至極もっともな指摘に、
一同待ちきれず、動く準備をする。
「おっと、一体何だYO! 逃げ始めたのかYO!?」
ラケルが指摘するように、後退を知らないはずのイグジスターが
距離を引き剥がしにかかった。どうやら他地区のイグジスターと
合流するつもりなのだろうか。
「深追いするな! 確実に数は減らしている!!」
レイビーの指示に、何とか踏み留まる生命連合一同。

生命連合一同が敢えて追ってこないと分かると、
ひたすら震えながら何かを待つイグジスター達。
やはりそれは、一種の苛立ちのように見えた。
これだけ圧倒的な兵力差を誇っていながら、
未だに人類を滅ぼせない苛立ちであるかのように。
少し様子を見守っていたが、二十分もすると
他地区からイグジスターがまた集まってきた。
「やはり増援を呼んでいたか! 無理は禁物だ、退けい!」
レイビーの指示に従い、いつでも発進出来るよう、
格納庫に入った状態で、全員待機した。

するとイグジスターは更に数を増して集まり、
一気に融合しにかかる。その姿は巨大な化け物となり、
まさにイグジスターのボスという感じの風格になった。
全長は百メートル級という具合だが、とにかく占拠する面積も広い。
密度も異様に高く、その体躯でありながら伸縮自在に変形し、
大陸から大陸への移動すら変形によって可能と思わせた。
「あれが、イグジスターの質の恐怖……!?」
マリーが戦慄する。
更に擬態イグジスターをも取り込み、知性や技能を我が物とする。
数の暴力そのものであるその本質までも犠牲にして、
生命連合を殲滅し、離島へ直接攻撃を仕掛けるつもりなのだ。
カイトとレイビーはそう理解した。分布図を見れば、
更に各地のイグジスターが寄り集まり、同様の個体を編成して、
異様なスピードでこのサイレン砂丘へと迫りつつある。

「出るぞ……!」
ロバートが再び戦艦を飛び出す。
「ロブ、どうしようと言うのです!?」
「アレが本気を出せば離島にだって来るぞ! 数が減ったなら幸いだ!
 ことごとく叩き潰して、ここで禍根を根こそぎ始末してやるぁ!」
「隊長の言い分は正しい。どうやら退けない戦いのようだね」
カイトも賛成し、状況を理解した勇者軍が再度出撃する。
「どうやら持久戦が決戦になってしまいそうだな。
 我々も出るぞ、イノ、ラケル、ノーラ、ゲイル、レオナ」
「分かってる」
魔神軍も飛び出す。

「あれもまたイグジスターの本質……まさに究極形ですか。
 イグジステンスサッカーと呼び直した方がいいかもしれませんね」
ウォルフ王子は対応を考えながらも、ぼやく。
巨大化したイグジスター改め、イグジステンスサッカーは
じわり、じわりと勇者軍と魔神軍ににじり寄り始める。
それでもなお、周囲に多数の護衛としての通常イグジスターを残して。
質と量を兼ね備えた究極の悪意のロジックが、
今、生命連合を襲う準備を着々と進めているのだった。

決戦が、始まる。サイレン砂丘にて。
他のイグジステンスサッカーも、この地に集まる事により……



<第三十章-第二幕- へ続く>
最終更新:2012年06月30日 23:51