第二十九章-第三幕- 出撃、生命連合
アンリ姫とアイゼンカグラ、それと行方が分かっていなかった
勇者軍の敗残兵も合流し、また各
ナインサークルから
増援が続々訪れているのもあって、戦力は少しずつ整いつつあった。
彼我戦力差はそれでも一対百以上に近いものではあるが、
それでも相手の増援が滞っている以上、いつか勝ち目がある。
そう信じて、着々と出撃準備を整える
生命連合一同であった。
「こちら
魔王城……はい、はい! 了解しました!」
「どうしました?」
オペレータが緊急通信を受け取っているのを見て、
ウォルフ王子が対応する。
「はい。どうやら地上の人類は全て、完全に退避が終わったようです。
……無念です。本当に無念ですが、
地上に人類の居場所は無くなりました」
オペレータの一人が涙を流すに続き、他のオペレータも
淡々とした報告にいたたまれなくなり、泣き始める。
「我々に涙はまだ許されていません……
散っていった英霊達のためにも、今はとにかく戦いましょう。
私達には私達の、あなた達にはあなた達の出来る事で。
そうすれば、きっと勝利が見えてくるはずです」
「は、はい!」
涙を慌てて拭き、すぐに作業に戻るオペレータ達。
「え? あ、はい! ありがとうございます!」
「今度は何ですか!?」
「
惑星マーズや、その他のコロニーからです。
兵器が完成したので、準備が整い次第アースに送る、との事。
これで、いくらかなりとマシになる、との報告です」
「ほら、見なさい。人類はまだ少しも諦めていない。
奴等に教えてやる必要があるでしょう。
この
惑星アースで、人類という種に敵対する事の恐ろしさを……!」
「了解!!」
オペレータは意気を上げ、更に仕事に励む。
「では、私も陣頭指揮を執りますので、よろしくお願いしますね」
ウォルフ王子は通信室を出て行った。
戦艦の中では、カイトとレイビーによる作戦説明が続いていた。
「これから我々は、
ストレンジャー・タウン郊外の
サイレン砂丘へと向かうよ。分布の少ない地点に強襲をかけ、
部隊の消耗度が蓄積してきたら、即座に離脱するという、
ヒットアンドアウェイ戦法をひたすら繰り返して、数を削るんだ」
「無論、各種族の者にも協力してもらい、作戦効率を上げる。
今回の戦で二千万ほど減らす事が出来れば結構。
理論上は、それを二十回ほど繰り返していれば、そのうち全滅だ」
レイビーはカイトと違い、ひどく淡々と語る。
それが重苦しさを増していたようにも見えるが。
「そもそも推論するに、
シドミード戦争の時のが威力偵察隊、
魔神王教団戦争の時のが先遣隊と見るべきで、
今度のは本隊なんだろう。これを成功させれば、
あるいはなんとかなってしまう可能性もゼロではないよ」
「
カイト=ワイズマン。楽観視は危険だ。
まだ相手の生産が頭打ちになったと決まったわけでもない。
生産が追いつけば、また増援を出してくる可能性もある」
「それはそうだけど、わざわざ不安だけ与える事も無いよ。
その不安が、奴等の糧だ。いちいち敵の狙いに沿ってやる事も、ね」
「道理だ。今は従おう」
レイビーは頷き、改めて話を切り出す。
「では、全員に通達! 戦闘要員はすぐに戦艦に搭乗!
飛行可能なナインサークルの各種族はそのまま急行してもらう!
まずは、サイレン砂丘の
イグジスターを一掃する!!
総員、作戦開始! この星の明日の為のスクランブルだ!」
「サー、イエッサー!」
勇者軍、
魔神軍予備役に加え、各国の敗残兵や各冒険者ギルドなどで
構成された完全なる混成部隊が、すぐに動き出す。
「では行こうか、レイビー」
「うむ。貴君もぬかりなきようにな」
二人もまた、旗艦に乗り込むべく走る。
「ようし、集まったか! さっさと乗るぞ!」
「総員、移動開始だ、急げ!」
ゲイルやエリックの元に、兵員が集い、続々と乗り込み始める。
ばたばたと
メインメンバー達も集い、最後に、連合旗艦へと
ロバート、イノ、そして魔王、精霊王、怪物王が乗り込む。
亜人王も別の拠点から参加し、神王と神族は遅れて増援となる。
竜族は直接
竜宮城から旅立っており、既に出立済みである。
イグジスターも巨大な敵には勝てずと判断し、
竜族からは一旦距離を置いているので、都合が良い。
最高の別働隊として機能してくれている。
それを改めて確認し、魔王と怪物王が同時に叫ぶ。
「生命連合、発進! 目標、サイレン砂丘!
巡航速度で構わん! 余力は残せい!」
「了解! 巡航速度で前進! 高度五千メートルを維持!」
各戦艦が浮上して、壮観たる光景が見られた。
地上では物凄い数の非戦闘員達が手を振って見送ってくれている。
「一人でも多く、生きて帰って来いよー!」
「だれが何と言おうと、勝つのは俺達だからなー!」
「負けるなー! 勇者軍! 魔神軍!!」
好き放題に言いながら、旗まで振っている。
まるでこれから死ぬのを分かってやってるみたいで、
非常に縁起がよろしくない。ある意味死亡フラグである。
だが、そんなものに負けるほど彼等は脆弱ではない。
生命の息吹が咲き乱れ、吹き荒れる勢いの生命連合は、
威風堂々とサイレン砂丘へ向かうのだった。
そして半日後、夜明けと共に作戦が開始される。
望遠レンズで見る地上は、黒く染め上げられていた。
まさに雲か霞か、という具合である。
総勢二千万という報告も伊達ではないのだろう。
今こそ、非人道兵器とされて封印された過去の遺物を投入する時だ。
わざわざメシア・タイプのスーパーコンピュータから
三重ロックを解除して導き出した凶悪な兵器達が、
今、各戦艦にバーゲンセールよろしく搭載されまくっている。
怪物王ドラキュラの指示で、戦闘行動が開始される。
「全艦! ファイアリング・ロック・オープン!
まずはクラスターからお見舞いしてやれ!!」
「了解!
クラスターボム、無制限散布開始!!」
ずばんどがんぼがんばごぉぉぉぉぉぉん!!
艦隊から凄まじい数のクラスターボムが投下され、空中にて拡散。
街の二つ三つぐらいはどうにかなってしまいそうなレベルの面積で
無制限にばら撒かれ、イグジスターに凄まじい被害をもたらす。
「続けて、対イグジスター用特殊地雷、
オートタレット、投下!!」
超小型
イグジスター識別装置を内蔵した特殊仕様の地雷と、
同じく識別装置搭載型電子頭脳搭載の自動砲台が投下され、
イグジスターのみを狙って攻撃が開始される。
「続けて、
ガンシップ、
エリミノイド、発進!」
すっかりお馴染みとなったガンシップとエリミノイドが
空中から発進。エリミノイドはブースターで軟着陸する。
「ようし、最後に戦艦、着陸! ローラーを起動しろ!」
戦艦は猛然と着地し、一気に底部巨大ローラーを稼動させ、
その勢いのまま全力疾走する。
「全速前進! 轢き潰せぇい!!」
「合点!!」
操舵士の腕の見せ所である。まるで自動二輪でも乗るかのごとく、
いきなり走り出す戦艦にまったく対処が取れず、イグジスターは
思わず逃げ惑うしかなくなってしまう。
「ついでだ! 左舷、右舷! レールガンと機銃、全砲門起動!
主砲も副砲も
レーザーキャノンも当たるが幸い、全部叩き込め!」
「おりゃああああああ!」
「ひゃっはー! こりゃ目をつぶっていても当たるぜぇ!」
「人類の底力を侮るんじゃねぇぞ、化け物め!」
「ずっと平和だったんだよ、貴様等が来るまでは!」
「くたばれ、クソ野郎がぁ!!」
もはや血走った目で対応する各艦の砲手一同。
これだけでもある程度数が減っているが、完全対応にはまだ足りない。
「ようし、白兵戦だ! まずは勇者軍、出撃するぞ!」
「おう!」
ロバートの指示と共に、予備役まで含め全員が出る。
「負けていられない……魔神軍、出撃」
「了解!!」
「では、出るぞ。各自、命を無駄にせぬようにな」
妖精王ヴァルキリーが出撃し、
妖精族が続く。
「
怪物族を軽く見ていたことをイグジスターに後悔させろ、
トリストラム、
ミルトン、そして他の者も私に続けぃ!」
「おっしゃ、行くぜぇー!!」
怪物王ドラキュラも意気揚々と出撃する。
「精霊は守りを担当。みな、他の種族をフォローしなさい」
「…………!」
言葉を持たぬ精霊達が、
精霊王キングエレメンタラーに従う。
それはあたかも、それが自然の為しようであるかのように。
「ふむ、他の種族の増援は、もう少し先になるか。
まあいい。食事会を始めさせてもらおうか。
では諸君、存分に奴等を餌として食らいつくせい!」
「いっただっきまーす!」
どこか調子外れな魔族も、
魔王サタンに従う。
本人達の意思がどこにあったかは知る由も無いが、
今まさに、決戦の幕は開いたのであった。
最終更新:2012年06月30日 23:52