崩壊学園wiki
永遠の子供2-3
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今の時間は夜の8時50分。
映画が始まるまであと10分。
映画が始まるまであと10分。
アルテミス
さっきからずっと黙ってて、紋章らしくないわね。
さっきからずっと黙ってて、紋章らしくないわね。
紋章
……。
さっきの先輩の反応があまりにおかしかったからよ。だから私もどう反応すればいいかわからなくなっちゃって。
……。
さっきの先輩の反応があまりにおかしかったからよ。だから私もどう反応すればいいかわからなくなっちゃって。
アルテミス
そんな事ないでしょう。
そんな事ないでしょう。
紋章
本当におかしかったよ。
それに、怖くなって。
本当におかしかったよ。
それに、怖くなって。
アルテミス
ちょっと、また私のことを脅かそうとしてるのかしら?
ちょっと、また私のことを脅かそうとしてるのかしら?
紋章
う〜ん…。
先輩の心の中の感情はとても豊かだから、気を付けないと何らかの体験と現実との混同が起きてしまってしまうと思うの。
う〜ん…。
先輩の心の中の感情はとても豊かだから、気を付けないと何らかの体験と現実との混同が起きてしまってしまうと思うの。
アルテミス
聞いたことがあるわ。名優って言われている人の中には、役を演じた後も長期にわたって元
々の自分に戻ることができない人がいるそうね。
そして演じた人物の記憶のままでずっと生活していることがあるって。
だけどそういう現実との混同って、誇張して言われているものよね?
聞いたことがあるわ。名優って言われている人の中には、役を演じた後も長期にわたって元
々の自分に戻ることができない人がいるそうね。
そして演じた人物の記憶のままでずっと生活していることがあるって。
だけどそういう現実との混同って、誇張して言われているものよね?
紋章
違うわ。
学園で練習している時に役に完全に成りきって、周りにいる人たちに全然気づかなかった時があったの、覚えてるでしょう?
誇張じゃないからこそ怖いのよ。
違うわ。
学園で練習している時に役に完全に成りきって、周りにいる人たちに全然気づかなかった時があったの、覚えてるでしょう?
誇張じゃないからこそ怖いのよ。
アルテミス
……。
……。
紋章
プッ、先輩さっき、かなり慌てちゃってたでしょう?
怖がってる様子、やっぱりかわいいわ〜。
プッ、先輩さっき、かなり慌てちゃってたでしょう?
怖がってる様子、やっぱりかわいいわ〜。
アルテミス
もうっ——
もうっ——
紋章
早く行きましょう、あと10分しかないわ。
早く行きましょう、あと10分しかないわ。
アルテミス
まったく.....あなたと真面目に話をした私がバカだったわ。
まったく.....あなたと真面目に話をした私がバカだったわ。
アルテミス
もうたくさん人が並んでるわ。
すごく人が多いわね。
もうたくさん人が並んでるわ。
すごく人が多いわね。
紋章
まあ名作の映画版の再上映だからね。
その素晴らしい内容に触れたい人が結構いるのよ。
まあ名作の映画版の再上映だからね。
その素晴らしい内容に触れたい人が結構いるのよ。
枝門を出る前にチケットを見てわかってた。
座席の場所は真ん中あたり、三列目の11番と12番。
映画を鑑賞するのに理想的な席を確保していることから、紋章自身が素晴らしい内容に触れたい人のひとりだということを。
座席の場所は真ん中あたり、三列目の11番と12番。
映画を鑑賞するのに理想的な席を確保していることから、紋章自身が素晴らしい内容に触れたい人のひとりだということを。
紋章
先輩はこの作品、見たことある?
先輩はこの作品、見たことある?
アルテミス
聞いたことだけ......。あっ——
そういえば小さい頃、お父さんに連れられてミュージカルを見に行ったのよね。でもまだ小さかったから……。
聞いたことだけ......。あっ——
そういえば小さい頃、お父さんに連れられてミュージカルを見に行ったのよね。でもまだ小さかったから……。
紋章
子供が見るにはちょっと早すぎよね。
子供が見るにはちょっと早すぎよね。
アルテミス
こういう内容の舞台があるって、お父さんによく連れて行ってもらったわ。
あの頃は三時間もじっと座って見てるの、本当に大変だったわ。
こういう内容の舞台があるって、お父さんによく連れて行ってもらったわ。
あの頃は三時間もじっと座って見てるの、本当に大変だったわ。
紋章
それが理由で先輩が舞台が嫌いにならなくて、ホントよかった。
それが理由で先輩が舞台が嫌いにならなくて、ホントよかった。
アルテミス
同感よ。
でも……。
すごく行きたくなかったとしても、どの舞台も、小さい頃の私ですらぐっと目を引き付けられちゃう瞬間がいくつかあったのよ。
私たちの劇にも、そういう瞬間ってあるのかしら。
あれ……。
私ったら、何考えてるんだろう。
同感よ。
でも……。
すごく行きたくなかったとしても、どの舞台も、小さい頃の私ですらぐっと目を引き付けられちゃう瞬間がいくつかあったのよ。
私たちの劇にも、そういう瞬間ってあるのかしら。
あれ……。
私ったら、何考えてるんだろう。
紋章
……。
……。
アルテミス
そういえば、あなたが一緒に見に行くっていう映画、私てっきり......もっと派手な演出のものかと思ってたわ。
そういえば、あなたが一緒に見に行くっていう映画、私てっきり......もっと派手な演出のものかと思ってたわ。
紋章
効果を考えれば、確かにそっちの方がいいのかもしれないけど。
これを選んだのには、少しだけ個人的な理由もあるの。
効果を考えれば、確かにそっちの方がいいのかもしれないけど。
これを選んだのには、少しだけ個人的な理由もあるの。
アルテミス
この作品が好きとか?
この作品が好きとか?
紋章
なんて言えばいいのかしら.......。
オペラ座の怪人、この作品の主人公は残忍で高慢で、狂気じみていて孤独だけど、オ能に溢れているわ。
その彼が自分だけのヒロインを作ろうとする。
でも失敗しちゃうのよね。
クリスティーヌに対する愛がゆえに最後に諦めたのよ。
なんて言えばいいのかしら.......。
オペラ座の怪人、この作品の主人公は残忍で高慢で、狂気じみていて孤独だけど、オ能に溢れているわ。
その彼が自分だけのヒロインを作ろうとする。
でも失敗しちゃうのよね。
クリスティーヌに対する愛がゆえに最後に諦めたのよ。
アルテミス
もう、映画を見る前にストーリーを話すなんて悪い癖よ。
もう、映画を見る前にストーリーを話すなんて悪い癖よ。
紋章
だって先輩、見たことがあるって言うし。
だって先輩、見たことがあるって言うし。
アルテミス
そうは言ってもね.......。
そうは言ってもね.......。
紋章
……。
この作品が好きか嫌いかは自分でもよくわからないの。
私も失敗したことがあるから、怪人の気持ちが少しわかるっていうのかな。
今この作品を見れば、きっと怪人の役にもっと入りこめそうな気がするのよ。
……。
この作品が好きか嫌いかは自分でもよくわからないの。
私も失敗したことがあるから、怪人の気持ちが少しわかるっていうのかな。
今この作品を見れば、きっと怪人の役にもっと入りこめそうな気がするのよ。
アルテミス
失敗したこと?
失敗したこと?
紋章
うん……。
なんか喉が渇いたから、飲み物とポップコーン買ってくるわね。先輩は並んでて。
私がおごるわ〜。
うん……。
なんか喉が渇いたから、飲み物とポップコーン買ってくるわね。先輩は並んでて。
私がおごるわ〜。
アルテミス
待って——
待って——
一方的にしゃべったかと思うと、紋章は振り向きもせず映画館の中へと走っていった。
「行かないで。」
無意識の内に心の中でそう思っていた。
ある予感がしたから........。
彼女がこの場を離れてしまったら、もう二度と戻ってこないんじゃないかという予感が。
あの時と同じように。
「行かないで。」
無意識の内に心の中でそう思っていた。
ある予感がしたから........。
彼女がこの場を離れてしまったら、もう二度と戻ってこないんじゃないかという予感が。
あの時と同じように。
アルテミス
あの時?
あの時?
その瞬間、得も言われぬ心配が心の中をよぎった。頭の中もすごく混乱している。
アルテミス
ダメよ、アルテミス。
彼女の話を意識しすぎちゃいけないわ。彼女のペースに巻き込まれたらもう負けなんだから。
とにかく列に並んで戻ってくるのを待ちましょう。
ダメよ、アルテミス。
彼女の話を意識しすぎちゃいけないわ。彼女のペースに巻き込まれたらもう負けなんだから。
とにかく列に並んで戻ってくるのを待ちましょう。
アルテミス
……。
遅いわね。
ポップコーンを買うのにそんなに時間がかかるかしら。
……。
遅いわね。
ポップコーンを買うのにそんなに時間がかかるかしら。
紋章に電話をかけた。
アルテミス
………。
………。
「ただいま電話に出ることができません。時間をおいておかけ直しください。」
アルテミス
何してるのよ。
何してるのよ。
紋章はまだ戻ってこない。
アルテミス
まさか今になってこっそり逃げたなんてことはないわよね..…。
映画館の入り口はこニーか所しかないし.......。
……。
並んでた人たち、ほとんど行っちゃったじゃない。
紋章ったら......あと一分しか待たないから!
まさか今になってこっそり逃げたなんてことはないわよね..…。
映画館の入り口はこニーか所しかないし.......。
……。
並んでた人たち、ほとんど行っちゃったじゃない。
紋章ったら......あと一分しか待たないから!
外で列を作っている人はもういない。
アルテミス
開始まであと二分しかないわ。
あの子、どこに行ったのよ。
開始まであと二分しかないわ。
あの子、どこに行ったのよ。
人が捌けた売り場を覗いても紋章の姿はなかった。
アルテミス
あれっ?
あれっ?
後ろに誰かがいるような気がするのに、振り向いても誰もいなかった。
—— 人はいなかったが、何かが地面に落ちていた。
—— 人はいなかったが、何かが地面に落ちていた。
アルテミス
9時上映……3列の12番?それって私たちの映画チケットだわ。
9時上映……3列の12番?それって私たちの映画チケットだわ。
映画館の周りを見てみた。ほかの映画に並ぶ列もなく、並んでいた列の人たちも既に入場していたため、ほとんど人がいない状況だった。
そこに紋章の姿がないことは一目でわかった。
そこに紋章の姿がないことは一目でわかった。
アルテミス
チケットは持って.....拾ったわ。一枚だけだけど。
わかったわ。
ひとりだけ先に入って、チケットだけ置いていったのね。
それで放映が終わったら突然、私の前に現れて——
「あら〜先輩、何時間もの間、ずっとそうして真面目に待っててくれたの、かわいい〜」
……。
チケットは持って.....拾ったわ。一枚だけだけど。
わかったわ。
ひとりだけ先に入って、チケットだけ置いていったのね。
それで放映が終わったら突然、私の前に現れて——
「あら〜先輩、何時間もの間、ずっとそうして真面目に待っててくれたの、かわいい〜」
……。
チケットの確認を受けて中に入れば、その予想が正しいかどうかがわかる。
アルテミス
想像通りだといいんだけど。
想像通りだといいんだけど。
不安な思いを胸にチケットの確認を受け、指定された上映ホールの席へと向かった。
しかし……。
しかし……。
アルテミス
いない。
いない。
紋章はそこにはいなかった。
しかも紋章だけではなかった。
上映ホールには私以外、誰もいなかった。
しかも紋章だけではなかった。
上映ホールには私以外、誰もいなかった。
アルテミス
部屋を間違えたかしら?
さっきあんなにたくさんの人が並んでたんだから、誰もいないはずなんてないもの。
名作を見ようっていう人たちが、どこかに隠れるなんてことあるはずないし.....。
部屋を間違えたかしら?
さっきあんなにたくさんの人が並んでたんだから、誰もいないはずなんてないもの。
名作を見ようっていう人たちが、どこかに隠れるなんてことあるはずないし.....。
何度も見直してみたが、そこは間違いなくチケットに書かれた上映ホールだった。
アルテミス
悪ふざけが過ぎるわ。
でも、そんなことできるはずが......。
悪ふざけが過ぎるわ。
でも、そんなことできるはずが......。
紋章がいくらすごいとは言っても、あんなにたくさんの人を動員して私一人をからかうなんてことあるはずがないわ。
映画館なんていう公共の場なんだからなおさらよ。
あまりにも理解不能で、身の毛がよだつ気がした。
映画館なんていう公共の場なんだからなおさらよ。
あまりにも理解不能で、身の毛がよだつ気がした。
アルテミス
とにかくここを出ましょう。
とにかくここを出ましょう。
「——ピーターパンだ!」
アルテミス
!?
!?
外に出ようとしたところ、突然映画が始まった。
しかしスクリーンに映し出されたのは、見る予定だったものとは違っていた。
しかしスクリーンに映し出されたのは、見る予定だったものとは違っていた。
アルテミス
どうして……。
どうして……。
放映されたのは『ピーターパン』だった。
流す映画を間違えたのかしら?今日の放映スケジュールには......いえ、ここ数か月のスケジュールにも『ピーターパン』はないはずよ。
しかし映画はそのまま流れていった。途中で止まることも、手違いの謝罪が行われることもなく。
まるで初めからこの内容の放映が決まっていたかのように。
「ティンク、ダメだよ、ティンク!」
「ティンクが死んじゃう。誰か!妖精はいると思うかい!」
流す映画を間違えたのかしら?今日の放映スケジュールには......いえ、ここ数か月のスケジュールにも『ピーターパン』はないはずよ。
しかし映画はそのまま流れていった。途中で止まることも、手違いの謝罪が行われることもなく。
まるで初めからこの内容の放映が決まっていたかのように。
「ティンク、ダメだよ、ティンク!」
「ティンクが死んじゃう。誰か!妖精はいると思うかい!」
アルテミス
このセリフ、台本で見たわ。
私と紋章が出る.....重要なパートでのやり取りよ。
このセリフ、台本で見たわ。
私と紋章が出る.....重要なパートでのやり取りよ。
スクリーンに映し出された俳優たちの演技は下手だった。
動きも固く、セリフも棒読みで、カメラの動きも非常に不自然だった。
しかしピーターパンだけは違った。
ピーターパンだけは真に迫っていて、ほかのどの役者よりも生き生きとしていた。
演じている役者たちは私たちではなかったけど。
でもその映画にはまるで自分の影が映し出されているように感じた。
まるで.....この映画を通じて誰かがこう言っているのではないかと思った。
おまえたちの演じるピーターパンなんて、今流している映画と同じ、これっぽっちも見る価値なんてない。
動きも固く、セリフも棒読みで、カメラの動きも非常に不自然だった。
しかしピーターパンだけは違った。
ピーターパンだけは真に迫っていて、ほかのどの役者よりも生き生きとしていた。
演じている役者たちは私たちではなかったけど。
でもその映画にはまるで自分の影が映し出されているように感じた。
まるで.....この映画を通じて誰かがこう言っているのではないかと思った。
おまえたちの演じるピーターパンなんて、今流している映画と同じ、これっぽっちも見る価値なんてない。
アルテミス
誰よ!こんな冗談、ちっとも面白くないわ!
誰よ!こんな冗談、ちっとも面白くないわ!
その問いに答えるものはいなかった。
誰もいない上映ホールに自分の声と、映画の音楽だけが響いた。
薄気味悪い雰囲気の中で映画は終了した。
照明がつき、職員がドアを開け掃除をし始めた。
まるで何事もなかったかのように。
まるで.....『ピーターパン』が放映されたのを知っているのは私だけであるかのように。
誰もいない上映ホールに自分の声と、映画の音楽だけが響いた。
薄気味悪い雰囲気の中で映画は終了した。
照明がつき、職員がドアを開け掃除をし始めた。
まるで何事もなかったかのように。
まるで.....『ピーターパン』が放映されたのを知っているのは私だけであるかのように。
アルテミス
どういう......事なの.......。
どういう......事なの.......。
めまいがした。
理解できないことだらけ。紋章はいなくなるし、心の中の不安感も際限なく大きくなっていく。映画館の外に出て深呼吸しても状況は改善しなかった。
……。
理解できないことだらけ。紋章はいなくなるし、心の中の不安感も際限なく大きくなっていく。映画館の外に出て深呼吸しても状況は改善しなかった。
……。
アルテミス
………。
ハァ。
………。
ハァ。
紋章にもう一度電話をかけてみた。
アルテミス
やっぱり出ないわ。
もう、どこ行っちゃったのよ.....。
うん?
やっぱり出ないわ。
もう、どこ行っちゃったのよ.....。
うん?
足元に何かある。
カード状のものに何か書いてある。
「この世界にはある秘密が存在している。知りたい?」
カード状のものに何か書いてある。
「この世界にはある秘密が存在している。知りたい?」
アルテミス
このカード、どこかで見たことがあるような気がするわ。
このカード、どこかで見たことがあるような気がするわ。
カードを裏返すとインクの匂いが漂ってきた。おそらくマーカーで書かれたばかりなのだろう。そこには次のように綴ってあった。
「この世界には秘密が存在する.....あなたなら、いやあなただけがそれを知っている。」
アルテミス
……。
とにかく紋章を見つけてから考えましょう。
……。
とにかく紋章を見つけてから考えましょう。
警官
何かお困りですか?
何かお困りですか?
アルテミス
友だちとはぐれてしまったんです。
私と同じくらいの背丈で、悪だくみしてそうな顔をした女子生徒を見かけませんでしたか?
そういえば......写真、写真があります。
友だちとはぐれてしまったんです。
私と同じくらいの背丈で、悪だくみしてそうな顔をした女子生徒を見かけませんでしたか?
そういえば......写真、写真があります。
警察官に紋章の写真を見せた。
警官
あなたが探してるその人だけど......。
あなたが探してるその人だけど......。
警察官はしばらく困ったような表情を見せた。目線は私の隣に向いているようにも見えた。
しかしそこには誰もいなかった。
しかしそこには誰もいなかった。
警官
見覚えがありませんね。
見覚えがありませんね。
アルテミス
そうですか..…。
そうですか..…。
警官
はぐれてどれくらい経ちますか?
はぐれてどれくらい経ちますか?
アルテミス
大体、一時間くらいです。
大体、一時間くらいです。
警官
一時間……。
……。
君は大丈夫ですか?
一時間……。
……。
君は大丈夫ですか?
アルテミス
えっ?
私ですか?私は大丈夫です。
彼女、いたずら好きな所があるので、私をからかうために一時的に隠れてるだけだと思います。
でも、なかなか見つからないから少し心配になってしまったんです。
もう少し探してみます。すみませんでした。
えっ?
私ですか?私は大丈夫です。
彼女、いたずら好きな所があるので、私をからかうために一時的に隠れてるだけだと思います。
でも、なかなか見つからないから少し心配になってしまったんです。
もう少し探してみます。すみませんでした。
警官
……。
……。
小走りにその場を離れた。
アルテミス
早く戻ってきてよ。戻ってこなかったら行方不明って言って届け出ちゃうからね。
早く戻ってきてよ。戻ってこなかったら行方不明って言って届け出ちゃうからね。
ギター姉
ハ~イ、月の光のお嬢さん〜。
ハ~イ、月の光のお嬢さん〜。
アルテミス
そういう風に呼ぶの、できればやめてくれないかしら.....。
そういう風に呼ぶの、できればやめてくれないかしら.....。
ギター姉
そんなに慌ててどこに行くんだい?
そんなに慌ててどこに行くんだい?
アルテミス
人を探してるんです。
もし彼女を見つけたら.....私に歌を歌うようそそのかした茶色の髪の子を見つけたら、
すぐに私に連絡するよう伝えてもらえませんか?
人を探してるんです。
もし彼女を見つけたら.....私に歌を歌うようそそのかした茶色の髪の子を見つけたら、
すぐに私に連絡するよう伝えてもらえませんか?
ギター姉
ああ、彼女だったら....。
ああ、彼女だったら....。
ギター妹
姉貴、きっとあれだぜ!PUNK!
特別な演出のやり方とかあるだろう、きっとその類だ!
姉貴、きっとあれだぜ!PUNK!
特別な演出のやり方とかあるだろう、きっとその類だ!
ギター姉
へェ〜、月の光のお嬢さん、あんたたちずいぶんROCKだね。
へェ〜、月の光のお嬢さん、あんたたちずいぶんROCKだね。
アルテミス
へっ?
へっ?
二人とも会話にどんどん夢中になり、いつの間にか私の存在に気づかなくなっていた。
アルテミス
一体なんなのよ……。
一体なんなのよ……。
これ以上、時間を無駄にするのはよそう。
少女
あっ!さっきのきれいなお姉ちゃんだ!
あっ!さっきのきれいなお姉ちゃんだ!
アルテミス
こんなにそいのに、まだお家に帰らないの?
気をつけてね。
こんなにそいのに、まだお家に帰らないの?
気をつけてね。
少女
うん〜。ママ、もうすぐ来るって言ってたんだ。お店屋さんで待っててだってさ。
あれ……。
お姉ちゃん何かあった?なんだか心配そうな顔してるけど。
うん〜。ママ、もうすぐ来るって言ってたんだ。お店屋さんで待っててだってさ。
あれ……。
お姉ちゃん何かあった?なんだか心配そうな顔してるけど。
アルテミス
ああ……。
友だちとはぐれちゃって、探してるところなのよ。
ああ……。
友だちとはぐれちゃって、探してるところなのよ。
少女
それは大変!
さっきお店で知り合った探偵さんがまだいてくれたらよかったんだけどな.....。
そうだ!
お姉ちゃん、係の人に言って放送してもらったらいいんじゃない!?
わたしもショッピングセンターとかで迷子になると、ママがいつもそうして探してくれるの。
それは大変!
さっきお店で知り合った探偵さんがまだいてくれたらよかったんだけどな.....。
そうだ!
お姉ちゃん、係の人に言って放送してもらったらいいんじゃない!?
わたしもショッピングセンターとかで迷子になると、ママがいつもそうして探してくれるの。
アルテミス
放送……。
でもそれはさすがに、はぐれたその子も恥ずかしくなっちゃうんじゃないかしら。
放送……。
でもそれはさすがに、はぐれたその子も恥ずかしくなっちゃうんじゃないかしら。
少女
ダメ?
ダメ?
アルテミス
ううん、どうしても必要になったらその方法も試してみるわ。ありがとう。
ただかくれんぼをしてるだけかもしれないし、次の瞬間いきなり現れるかもしれないもの。
もうちょっと探してみるわ。あなたも変な人についていかないように、気を付けるのよ。
ううん、どうしても必要になったらその方法も試してみるわ。ありがとう。
ただかくれんぼをしてるだけかもしれないし、次の瞬間いきなり現れるかもしれないもの。
もうちょっと探してみるわ。あなたも変な人についていかないように、気を付けるのよ。
少女
わたし、ついて行ったりしないよ〜。
わたし、ついて行ったりしないよ〜。
アルテミス
じゃあね、バイバイ。
そうだ、この店に私と一緒に来た茶色い髪の女の子をもし見かけたら。
うん......その子にすぐにアルテミスに電話するよう伝えてもらえないかしら!
じゃあね、バイバイ。
そうだ、この店に私と一緒に来た茶色い髪の女の子をもし見かけたら。
うん......その子にすぐにアルテミスに電話するよう伝えてもらえないかしら!
少女
えっ?
でも……。
えっ?
でも……。
少女は何か言いたそうだったが、別の方向を一瞬見ると、疑問に満ちていたその表情が元の笑顔へと戻った。
そして会った時と同様に微笑みながら私に手を振った。
そして会った時と同様に微笑みながら私に手を振った。
紋章を見かけた人は誰もいなかった。
さっき話しかけた人たちに聞いてみたけど、誰からも手がかりが得られなかった。
でもみんな紋章を見かけなかったというか......何かの話題をわざと避けながら話しているような気がしたのはなぜかしら。
まるで「紋章」が存在しないかのような話しぶりだった。
さっき話しかけた人たちに聞いてみたけど、誰からも手がかりが得られなかった。
でもみんな紋章を見かけなかったというか......何かの話題をわざと避けながら話しているような気がしたのはなぜかしら。
まるで「紋章」が存在しないかのような話しぶりだった。
アルテミス
紋章......私を探しに映画館に戻ってないかしら.......。
紋章......私を探しに映画館に戻ってないかしら.......。
ここまで慌てふためいて人を探すなんて初めてだった。彼女に何かあったらと思うと怖かった。でも、彼女がいなくなってからまだ一時間だったし、心のどこかでまだ大げさだと思う自分がいた。
こういう出来事に直面すると人は迷ってしまうという話、本当だったのね。
こういう体験もしっかりと覚えておかないと......。
こういう出来事に直面すると人は迷ってしまうという話、本当だったのね。
こういう体験もしっかりと覚えておかないと......。
アルテミス
!?
……。
この状況で、私ったら何考えてるのかしら。
紋章が突然いなくなった事も「体験」の一環だと捉えるだなんて。
!?
……。
この状況で、私ったら何考えてるのかしら。
紋章が突然いなくなった事も「体験」の一環だと捉えるだなんて。
「先輩の心の中の感情はとても豊かだから、気を付けないと何らかの体験と現実との混同が起きてしまってしまうと思うの。」
アルテミス
そんな事あるわけがないわ。私、そういうすごい俳優とかじゃ全然ないもの。
そうよ、彼女が私を探しに映画館に戻ってくるって強く信じればもしかしたら.....。
経緯はともかく、私たちははぐれてしまったのよ。
元の場所に戻って待つのが正しい選択よね。
そんな事あるわけがないわ。私、そういうすごい俳優とかじゃ全然ないもの。
そうよ、彼女が私を探しに映画館に戻ってくるって強く信じればもしかしたら.....。
経緯はともかく、私たちははぐれてしまったのよ。
元の場所に戻って待つのが正しい選択よね。
両足が自然と動きだした。そして私の意識に寄り添うかのように、私の体を映画館へと連れていってくれた。
しかし、期待してはいけないという気持ちに全身を支配されていた。
そこに近づけば近づくほど、その気持ちは更に強くなっていったのだった。
それは視界に紋章がいないことだけが原因ではなかった。
しかし、期待してはいけないという気持ちに全身を支配されていた。
そこに近づけば近づくほど、その気持ちは更に強くなっていったのだった。
それは視界に紋章がいないことだけが原因ではなかった。
アルテミス
私……。
私……。
今日一日、紋章と遊びに来て。
ティンカーベルをうまく演じたいと思って、方々で彼女とバカみたいなことをした。
それは紛れもなく実感に満ちた体験だった。
でも、いつもどこかに違和感があって、疑わしく感じずにはいられなかった。
今日起きた事を考えれば考えるほど、その疑いが真実のように感じられる。
でも荒唐無稽で、元々は全然信じてなかったけれど。
だけど……。
ティンカーベルをうまく演じたいと思って、方々で彼女とバカみたいなことをした。
それは紛れもなく実感に満ちた体験だった。
でも、いつもどこかに違和感があって、疑わしく感じずにはいられなかった。
今日起きた事を考えれば考えるほど、その疑いが真実のように感じられる。
でも荒唐無稽で、元々は全然信じてなかったけれど。
だけど……。
——いい成績が全然出なかったとしたら。先輩はどう思うのかな?
アルテミス
この世界にはある秘密が存在している。
もしかしたら本当にそうなのかもしれないわ。
なぜ『ピーターパン』が流れたのか。
なぜ......あなたは突然、姿を消したのか。
でももし本当にそうだとしたら、あなたにはそれを隠さないでいて欲しいの。
私の前にまた現れて、教えて欲しい...…。
あなた自ら。お願い。
私、そこで待ってるから。
映画館に戻ろう。
この世界にはある秘密が存在している。
もしかしたら本当にそうなのかもしれないわ。
なぜ『ピーターパン』が流れたのか。
なぜ......あなたは突然、姿を消したのか。
でももし本当にそうだとしたら、あなたにはそれを隠さないでいて欲しいの。
私の前にまた現れて、教えて欲しい...…。
あなた自ら。お願い。
私、そこで待ってるから。
映画館に戻ろう。
アルテミス
ここにいれば紋章は戻ってくるはず。
ここにいれば紋章は戻ってくるはず。
紋章
……。
……。
アルテミス
……。
ここで待っていれば戻ってくると思ってたわ。
……。
ここで待っていれば戻ってくると思ってたわ。
紋章
私、どこにも行ってなかったの。ずっとそばにいたのよ。
私、どこにも行ってなかったの。ずっとそばにいたのよ。
アルテミス
そうよね……。
「紋章が戻ってくる」って繰り返し自分にそう言い聞かせれば、あなたは現れてくれるはずだもの。
思った通りだったわ。
そうよね……。
「紋章が戻ってくる」って繰り返し自分にそう言い聞かせれば、あなたは現れてくれるはずだもの。
思った通りだったわ。
紋章
いつ気が付いたの?
いつ気が付いたの?
アルテミス
……。
今日、出発する前からどこかおかしな感じがしてたわ。
紋章、あなたは.......。
いえ、私は——
あの世界にどれくらいいたのかしら。
……。
今日、出発する前からどこかおかしな感じがしてたわ。
紋章、あなたは.......。
いえ、私は——
あの世界にどれくらいいたのかしら。
あの「演技」という世界に。
紋章
そんなに長くないけど、短くもないわね。
全国大会が終わってから、先輩はずっと「演じて」いたのよ。
役者として大会に参加したことのない「アルテミス」を——演じていたの。
そんなに長くないけど、短くもないわね。
全国大会が終わってから、先輩はずっと「演じて」いたのよ。
役者として大会に参加したことのない「アルテミス」を——演じていたの。
アルテミス
そうだったのね........。
それで私、そのこと自体忘れてしまっていたのね.....。
私たちの舞台劇が実はもうとっくに終わってしまっていたという事実を——自ら望んで忘れていたのね。
そうだったのね........。
それで私、そのこと自体忘れてしまっていたのね.....。
私たちの舞台劇が実はもうとっくに終わってしまっていたという事実を——自ら望んで忘れていたのね。
……。
………。
………。
(回想)
星綺
この劇について、みんなの意見を聞かせてほしい。
コンテストに参加するのか、それともある程度楽しめればいいっていう感じにするのか。
始めにこうして決めておけば、後で文句を言うこともなくなるよね。
この劇について、みんなの意見を聞かせてほしい。
コンテストに参加するのか、それともある程度楽しめればいいっていう感じにするのか。
始めにこうして決めておけば、後で文句を言うこともなくなるよね。
バビロン学園の演劇部には、名門として活躍した輝かしい過去があったかもしれない。
全国大会に参加するにしても、ちょっと面白い工夫とまあまあの演技をするだけで簡単に初戦を突することができる。
その後も他校を次々と破って——決勝へと駒を進めることができた。
そう、これは過去の歴史であって演劇部の記述として残っていること。
最近の演劇部は決してそうではなかった。
私が入って以降の演劇部は、既にどれほど努力しても初戦を突碱できないレベルになってしまっていた。
演劇部のメンバーたちにとって、かつてのように再び全国に駒を進めること自体、到底実現することのできない夢のまた夢となっていた。
全国大会は.....学生に対してだけ開かれたコンテストではなかった。
既に卒業し、社会に出た人たちで構成された団体で参加する人たちもいた。
コンテストの相手は、私たちが想像していたよりもずっとすごく、恐ろしかった。
「どうする、参加する~?しない〜?」
メンバーたちの議論する声であたりは包まれた。
全国大会に参加するにしても、ちょっと面白い工夫とまあまあの演技をするだけで簡単に初戦を突することができる。
その後も他校を次々と破って——決勝へと駒を進めることができた。
そう、これは過去の歴史であって演劇部の記述として残っていること。
最近の演劇部は決してそうではなかった。
私が入って以降の演劇部は、既にどれほど努力しても初戦を突碱できないレベルになってしまっていた。
演劇部のメンバーたちにとって、かつてのように再び全国に駒を進めること自体、到底実現することのできない夢のまた夢となっていた。
全国大会は.....学生に対してだけ開かれたコンテストではなかった。
既に卒業し、社会に出た人たちで構成された団体で参加する人たちもいた。
コンテストの相手は、私たちが想像していたよりもずっとすごく、恐ろしかった。
「どうする、参加する~?しない〜?」
メンバーたちの議論する声であたりは包まれた。
アルテミス
でも実際には、相手が手強すぎる事だけが原因じゃなかったわ。
大会に参加するだけの実力が私たちになかったのよ。
でも実際には、相手が手強すぎる事だけが原因じゃなかったわ。
大会に参加するだけの実力が私たちになかったのよ。
紋章
落胆したということを言いたいのよね、先輩は。
落胆したということを言いたいのよね、先輩は。
アルテミス
違うわ、期待を抱いていなければそもそも落胆なんてするわけがないもの。
違うわ、期待を抱いていなければそもそも落胆なんてするわけがないもの。
紋章
本当に素直じゃないわね。
期待してないんだったら、どうしてこういう場をもったの?
本当に素直じゃないわね。
期待してないんだったら、どうしてこういう場をもったの?
アルテミス
……。
……。
紋章
信じてさえいれば変えられる、そういう風に思っている人がまだいるはずよ。
あなたも含めて。
どうする、また新しくチャレンジする?
既にある変わらない現状を打彼して、自分がかって夢見た未来を真に追い求めてみる?
信じてさえいれば変えられる、そういう風に思っている人がまだいるはずよ。
あなたも含めて。
どうする、また新しくチャレンジする?
既にある変わらない現状を打彼して、自分がかって夢見た未来を真に追い求めてみる?
アルテミス
現状を打破...…。
現状を打破...…。
紋章
私たちに残された時間はもう多くないわ。
この狂気の世界で.....私に付き合って。
私たちに残された時間はもう多くないわ。
この狂気の世界で.....私に付き合って。
……。
(回想終)
そう、あれがすべての物語の始まりだった。
…………。
(回想)
1、2、3、4……。
はい、ここまで!
はい、ここまで!
星綺
完璧だったよ!みんなお疲れ様〜!
完璧だったよ!みんなお疲れ様〜!
演劇部の部員
アルテミスの状態、かなりいいわね。今回は私たち、希望持てるんじゃないかな?
今回の役者は、超豪華だしね!
アルテミスの状態、かなりいいわね。今回は私たち、希望持てるんじゃないかな?
今回の役者は、超豪華だしね!
アルテミス
ありがとう。
私、まだまだだけど頑張ってみんなについていくから。
ありがとう。
私、まだまだだけど頑張ってみんなについていくから。
紋章からの提案で、私は大胆な決断をした。
主役として、役者として舞台に登るという決断を。
私は変わりたかった.....そして何よりも証明したかった。
自分がしたいと決めたことにおいて結果を出せることを。
でも……。
主役として、役者として舞台に登るという決断を。
私は変わりたかった.....そして何よりも証明したかった。
自分がしたいと決めたことにおいて結果を出せることを。
でも……。
「8位に入賞したのは——」
司会者が順位を読み上げている。
司会者が順位を読み上げている。
星綺
お願い!
お願い!
高学年の先輩
大丈夫よ、結構うまくできたし。
お客さんの反応もよかったし、今回は絶対いけるわよ!
大丈夫よ、結構うまくできたし。
お客さんの反応もよかったし、今回は絶対いけるわよ!
アルテミス
……。
お願い。
……。
お願い。
こんなに緊張したのは初めてだった。
ステージに立つ時よりもずっと緊張した。
「7位は——」
下位から順番に入賞チームが発表されていく。
周りから歓声が聞こえてくる。しかし私たちは心に大きな石がのしかかったかのような重圧を胸に、ただ祈ることしかできなかった。
「5位のチームは——」
早く、早く呼ばれて……。
ステージに立つ時よりもずっと緊張した。
「7位は——」
下位から順番に入賞チームが発表されていく。
周りから歓声が聞こえてくる。しかし私たちは心に大きな石がのしかかったかのような重圧を胸に、ただ祈ることしかできなかった。
「5位のチームは——」
早く、早く呼ばれて……。
紋章
……。
どうやらよくない結果みたいね。
……。
どうやらよくない結果みたいね。
「4位——」
正直言うと、その時の私は希望を抱いていなかった。
私たちが上位4位に入賞する?そんな事、絶対にありえなかった。
それでも何かの間違いがあるかも、というかすかな気持ちを持っていた。
元々信じられないような事を、私はその時、現実になるかもしれないと思っていた。
万が一、私たちがいつもよりずっと内容の良い劇をしていたら、万が一.....童話の中の奇跡が起きたかのように一位を受賞したとしたら?
努力と覚悟は裏切らないはず——
正直言うと、その時の私は希望を抱いていなかった。
私たちが上位4位に入賞する?そんな事、絶対にありえなかった。
それでも何かの間違いがあるかも、というかすかな気持ちを持っていた。
元々信じられないような事を、私はその時、現実になるかもしれないと思っていた。
万が一、私たちがいつもよりずっと内容の良い劇をしていたら、万が一.....童話の中の奇跡が起きたかのように一位を受賞したとしたら?
努力と覚悟は裏切らないはず——
星綺
……。
フッ……。
……。
フッ……。
いつの間にか星綺先輩が立ち上がっていた。
アルテミス
順位は?何番まで呼ばれたの....。
順位は?何番まで呼ばれたの....。
ため息も、悔しさで泣く声もしなかった。ただただ静まり返っていた。
きっとまだ私たちが呼ばれていないから、みんな緊張のあまり息をすることすら忘れているのよ——
きっとまだ私たちが呼ばれていないから、みんな緊張のあまり息をすることすら忘れているのよ——
星綺
行こう。
行こう。
アルテミス
行くって……どこに?
行くって……どこに?
その時、私はようやく気が付いた。
星綺先輩の頬を涙が流れ落ちていることに。それでも彼女は微笑んでいた。
星綺先輩の頬を涙が流れ落ちていることに。それでも彼女は微笑んでいた。
星綺
帰ろう。
帰ろう。
……。
失意と悔いが、声を奪っていただけだった。
涙だけがとめどなくしたたり落ち、司会者の結果発表の声も聞こえなくなっていた。
落選、それが結果だった。
どんな期待を抱こうとも、何をどう変えたとしても。
私たちは落選してしまったのだ。
失意と悔いが、声を奪っていただけだった。
涙だけがとめどなくしたたり落ち、司会者の結果発表の声も聞こえなくなっていた。
落選、それが結果だった。
どんな期待を抱こうとも、何をどう変えたとしても。
私たちは落選してしまったのだ。
(回想終)
アルテミス
『ピーターパン』……。
それは私たちが大会に参加した時の演目だったわ。
巡演公演の劇なんかじゃなかったのね。
落選に終わった後、演劇部のメンバーたちはあなたも含めて、ほとんど部活に来なくなってしまった。
『ピーターパン』……。
それは私たちが大会に参加した時の演目だったわ。
巡演公演の劇なんかじゃなかったのね。
落選に終わった後、演劇部のメンバーたちはあなたも含めて、ほとんど部活に来なくなってしまった。
紋章
だから先輩の視界から私は「消滅」したのよ。
先輩の心の奥底にある潜在意識が「紋章は去ってしまう」と先輩に訴えるがゆえに。
だから先輩の視界から私は「消滅」したのよ。
先輩の心の奥底にある潜在意識が「紋章は去ってしまう」と先輩に訴えるがゆえに。
アルテミス
演劇部はそれ以降分裂してしまって、以前とまったく違う状態になってしまったのよね。
私が役者として参加していなかったら、結果は違っていたのかしら。
あれが全国大会なんかじゃなく、ただの高校の巡演公演だったら.......。
みんなあんな苦しい思いをせずに済んだのかしら。
演劇部はそれ以降分裂してしまって、以前とまったく違う状態になってしまったのよね。
私が役者として参加していなかったら、結果は違っていたのかしら。
あれが全国大会なんかじゃなく、ただの高校の巡演公演だったら.......。
みんなあんな苦しい思いをせずに済んだのかしら。
紋章
先輩......ずっとそういう自責の念に苛まれていたのよね。
だから自分を欺いていた。大会は始まっていない、劇をするのも大会じゃなくお遊びだと。
チャンスはまだあると。
先輩......ずっとそういう自責の念に苛まれていたのよね。
だから自分を欺いていた。大会は始まっていない、劇をするのも大会じゃなくお遊びだと。
チャンスはまだあると。
アルテミス
ハハハ……。
滑稽だわ。自分をそこまで騙せるくらい演技が上手だったら、本番でうまくいかないなんてことないはずなのにね。
ハハハ……。
滑稽だわ。自分をそこまで騙せるくらい演技が上手だったら、本番でうまくいかないなんてことないはずなのにね。
紋章
感情の爆発って一言で言っても、強弱の違いがあると思うの。
先輩は色々と聞き分けのいい人だから、ティンカーベルという人物の理解がどうしても足りない部分が出てくると思うのよね。
だけど……。
感情の爆発って一言で言っても、強弱の違いがあると思うの。
先輩は色々と聞き分けのいい人だから、ティンカーベルという人物の理解がどうしても足りない部分が出てくると思うのよね。
だけど……。
それ以上紋章は言わなかったが、言わんとしていることが私には伝わった。
自らの後悔の念、それにみんなの失意が私にとって最も強烈な感情になった。
自らの後悔の念、それにみんなの失意が私にとって最も強烈な感情になった。
紋章
私、ずっと先輩に合わせてきたの。
先輩が自分を欺きたいと思っているから、私は先輩の相手役となって。
先輩が「存在しない高校合同演公演」を演じるのにずっと付き添ってきたの。
私、ずっと先輩に合わせてきたの。
先輩が自分を欺きたいと思っているから、私は先輩の相手役となって。
先輩が「存在しない高校合同演公演」を演じるのにずっと付き添ってきたの。
アルテミス
……。
もっと早く演技の世界から私を呼び起こしてくれればよかったのに。
……。
もっと早く演技の世界から私を呼び起こしてくれればよかったのに。
紋章
だって私にも責任があるから。
先輩をこの世界に連れてきたの、私だもん。
私が.....先輩にそういう演技の方法を教えてしまったから。
私のちょっとした勝手な考えで、危うく先輩をダメにしてしまうところだった。
だって私にも責任があるから。
先輩をこの世界に連れてきたの、私だもん。
私が.....先輩にそういう演技の方法を教えてしまったから。
私のちょっとした勝手な考えで、危うく先輩をダメにしてしまうところだった。
アルテミス
…… 少し気持ちを整理する時間が欲しいわ。
これまでの体験がすべて私の空想だったということは、巡演公演も実際には存在しないということよね。
それじゃあ私、これからどうすればいいというの.....。
…… 少し気持ちを整理する時間が欲しいわ。
これまでの体験がすべて私の空想だったということは、巡演公演も実際には存在しないということよね。
それじゃあ私、これからどうすればいいというの.....。
紋章
……。
すべてが空想というわけじゃないわ。
だってあれは私たちが、みんなが確かに過ごした時間だった。
それを壊されたくなかったから、先輩は心の中でそれを繰り返し体験してただけなのよ。
……。
すべてが空想というわけじゃないわ。
だってあれは私たちが、みんなが確かに過ごした時間だった。
それを壊されたくなかったから、先輩は心の中でそれを繰り返し体験してただけなのよ。
そう言うと紋章は微笑んだ。一番最初に私を指導した時の、あの寂しげな笑顔で。
そして彼女は商店街を進んでいった。
そして彼女は商店街を進んでいった。
アルテミス
どこに行くの?
どこに行くの?
紋章
アルテミス先輩、無事元の状態に戻ることができたじゃない。だから私の任務も終わったし、もう一緒に演じ続ける必要もなくなったから。
私、決めてたんだ。もし先輩がずっと逃避し続けるのなら、私も...…。
先輩と一緒にずっと演じていこうって。
私たちがアルテミス先輩にプレッシャーをかけすぎちゃったのよね。
「あの世界」にもう戻らないためにも。
演技のことはもう諦めましょう、アルテミス先輩。
アルテミス先輩、無事元の状態に戻ることができたじゃない。だから私の任務も終わったし、もう一緒に演じ続ける必要もなくなったから。
私、決めてたんだ。もし先輩がずっと逃避し続けるのなら、私も...…。
先輩と一緒にずっと演じていこうって。
私たちがアルテミス先輩にプレッシャーをかけすぎちゃったのよね。
「あの世界」にもう戻らないためにも。
演技のことはもう諦めましょう、アルテミス先輩。
私は紋章がそう言い残し去っていくのを黙って見ていることしかできなかった。引き留めるだけの力すらもう残っていなかったから。
持っていた目標が一瞬の内になくなってしまった。
持っていた目標が一瞬の内になくなってしまった。
(学園・演劇部に戻る)
カメラね……。
いつも劇が終わるとこのカメラで集合写真とか撮ってたのよね。
同じ場所でも、その都度違う人と一緒に立って撮ったりして。
まさに回を重ねて歩んできた足跡ね。
いつも劇が終わるとこのカメラで集合写真とか撮ってたのよね。
同じ場所でも、その都度違う人と一緒に立って撮ったりして。
まさに回を重ねて歩んできた足跡ね。
アルテミス
あら?
あら?
カメラの下に写真が挟まっている。
アルテミス
これは読み合わせの時に先輩のひとりが撮ったものだわ。

これは読み合わせの時に先輩のひとりが撮ったものだわ。

あの時、台本の内容が紋章に書き換えられてしまっていたけど、私、こんなに集中してたのね。
写真を撮られていることすら気が付かなかった。
写真を撮られていることすら気が付かなかった。
アルテミス
あの時はバカみたいに騒いでたけど。
でも私たち……。
こんな笑顔を見せてたんだね。
あの時はバカみたいに騒いでたけど。
でも私たち……。
こんな笑顔を見せてたんだね。
舞台劇の脚本だ。
『ピーターパン』の表題が消され、『大きくならない子』になっていた。
内容が修正されているみたい.......。
『ピーターパン』の表題が消され、『大きくならない子』になっていた。
内容が修正されているみたい.......。
アルテミス
修正された部分だけを見るとすると........。
第一場のティンカーベルとピーターパンのセリフ。
ティンカーベルを子供たちに会わせるために、ピーターパンが招いた子供たちは既に島に来ている形になっているわ。
第二場はほぼすべて変えられているわね。ピーターパンとウェンディたちがネバーランドに来る際の過程が省かれているわ。
第一場の修正はこの部分へとつなげるためなのね.......。
次のシーンは雷鳴はそのままだけど、子供たちが雷鳴の轟く嵐の中で遊ぶ展開に変わって、テインカーベルも一緒に楽しむ形になっているわ。
「彼女たちは夢にまで見たネバーランドへとやってきた。嵐ですら彼女たちの小躍りする心を止めることはできなかった。」星綺部長、脚注まで書いてるわね。
次の第三場の前半はあまり変わってないようね。海賊が登場して、嵐よりももっと恐ろしい試練となるのね。
後半は子供たちと海賊たちとの駆け引きね。ティンカーベルの自分勝手な行動によって、トゥートルズが誤ってウェンディを号で射ってしまう。
第四場は、その前にあった出来事が理由で、ティンカーベルが皆の元を去った。この時、ネバーランドはまるで魔窟のようにティンカーベルの目に映り、役者の動きやダンスの表現も得体の知れないモンスターを表現するものへと変わってるわ。そしてティンカーベルはすごく怖がっている。
まさにこの時、ネバーランドから光が発せられ、子供たちが散り散りになり、フラミンゴもあちこちを飛び回る。
そしてティンカーベルは、ピーターパンと海賊たちの決戦があるということをフラミンゴから聞いて知る。迷うティンカーベルはみんなと一緒に嵐にすら勝利したことを思い出して、戻ってピーターパンを助けに行くことにする。
第五場では、ティンカーベルが子供たちに謝り、子供たちの海賊と戦う勇気を呼び起こしてピーターパンを助け、勝利へと導く。
「みんな、海賊が理由でネバーランドを嫌いになるようなことはなかった。子供たちが本当にネバーランドを離れたいと思ってしまったら、ネバーランドは消滅しティンカーベルも消滅してしまうから。」
それでティンカーベルは無事、みんなの元へと戻ることができ、力を合わせて戦いに勝つができた。
あら?最後にマークされてる部分があるみたい......。
こうして子供たちは勇気を持つことができた。ティンカーベルは.....みんなのそれに応える使者だったのだ。
そう、「それ」とは笑い声のかけらから生まれ、もたらされた最も純粋な楽しさのことだ。
……。
修正された部分だけを見るとすると........。
第一場のティンカーベルとピーターパンのセリフ。
ティンカーベルを子供たちに会わせるために、ピーターパンが招いた子供たちは既に島に来ている形になっているわ。
第二場はほぼすべて変えられているわね。ピーターパンとウェンディたちがネバーランドに来る際の過程が省かれているわ。
第一場の修正はこの部分へとつなげるためなのね.......。
次のシーンは雷鳴はそのままだけど、子供たちが雷鳴の轟く嵐の中で遊ぶ展開に変わって、テインカーベルも一緒に楽しむ形になっているわ。
「彼女たちは夢にまで見たネバーランドへとやってきた。嵐ですら彼女たちの小躍りする心を止めることはできなかった。」星綺部長、脚注まで書いてるわね。
次の第三場の前半はあまり変わってないようね。海賊が登場して、嵐よりももっと恐ろしい試練となるのね。
後半は子供たちと海賊たちとの駆け引きね。ティンカーベルの自分勝手な行動によって、トゥートルズが誤ってウェンディを号で射ってしまう。
第四場は、その前にあった出来事が理由で、ティンカーベルが皆の元を去った。この時、ネバーランドはまるで魔窟のようにティンカーベルの目に映り、役者の動きやダンスの表現も得体の知れないモンスターを表現するものへと変わってるわ。そしてティンカーベルはすごく怖がっている。
まさにこの時、ネバーランドから光が発せられ、子供たちが散り散りになり、フラミンゴもあちこちを飛び回る。
そしてティンカーベルは、ピーターパンと海賊たちの決戦があるということをフラミンゴから聞いて知る。迷うティンカーベルはみんなと一緒に嵐にすら勝利したことを思い出して、戻ってピーターパンを助けに行くことにする。
第五場では、ティンカーベルが子供たちに謝り、子供たちの海賊と戦う勇気を呼び起こしてピーターパンを助け、勝利へと導く。
「みんな、海賊が理由でネバーランドを嫌いになるようなことはなかった。子供たちが本当にネバーランドを離れたいと思ってしまったら、ネバーランドは消滅しティンカーベルも消滅してしまうから。」
それでティンカーベルは無事、みんなの元へと戻ることができ、力を合わせて戦いに勝つができた。
あら?最後にマークされてる部分があるみたい......。
こうして子供たちは勇気を持つことができた。ティンカーベルは.....みんなのそれに応える使者だったのだ。
そう、「それ」とは笑い声のかけらから生まれ、もたらされた最も純粋な楽しさのことだ。
……。
道具係ではない私たちも、時々演劇部に来て座って——
地べたに座ってパネルの道具を一緒に作ったりしてたのよね。
(スプレーを振ってみた……。)
中身がまだ残ってるみたいね。
あの時、私がこれを使って草のパネルを作ったんだっけ?
そういう経験、初めてだったわ......。
地べたに座ってパネルの道具を一緒に作ったりしてたのよね。
(スプレーを振ってみた……。)
中身がまだ残ってるみたいね。
あの時、私がこれを使って草のパネルを作ったんだっけ?
そういう経験、初めてだったわ......。
私、これからどうすべきなんだろう。
そう考えながら歩いていると、知らず知らずのうちに演劇部へと戻ってきていた。
誰もいない演劇部は元の姿のままだった。
道具や色々な物があちこちに置かれている。いらないと思った頃に突然必要になるからだろうか。もしかすると.....みんな疲れて片づけるのが面倒くさくなっただけなのかもしれないけど。
ゴミ溜めのように汚いとまでは言わないけど、かなり散らかっているわ。
そう考えながら歩いていると、知らず知らずのうちに演劇部へと戻ってきていた。
誰もいない演劇部は元の姿のままだった。
道具や色々な物があちこちに置かれている。いらないと思った頃に突然必要になるからだろうか。もしかすると.....みんな疲れて片づけるのが面倒くさくなっただけなのかもしれないけど。
ゴミ溜めのように汚いとまでは言わないけど、かなり散らかっているわ。
アルテミス
だけど、どれもこれもたくさんの思い出がある.....。
だけど、どれもこれもたくさんの思い出がある.....。
さっきもそうだったけど、これらの物を手に取ると、演劇部の仲間たちと楽しく過ごした日々を思い出す。
私、どうして演劇部に入ったんだろう.....。
この劇に参加した時、私ずっとそれについて考えていた。
私、どうして演劇部に入ったんだろう.....。
この劇に参加した時、私ずっとそれについて考えていた。
アルテミス
その答えはもう見つけられたのかしら?
その答えはもう見つけられたのかしら?
高等部に進学してから、学園で寮生活することに決めて。
演劇部での活動もその頃から始めたのよね。
家での堅苦しいルールから少しでも離れたいと、あの時は思っていた。
そして嵐を逃れる船のように逃げてきて、ここでの生活を始めた。私は演劇部にいる時だけ、自分の時間と自分の意思による選択ができているという実感を持つことができたのよね。
そう、演劇部に訪れるようになったきっかけは逃避だった。
でも……。
意味もなくふざけあったり、思いっきり打ち込んで汗を流したり、屈託なく笑いあったり。
そうする中でみんなとの結びつきがどんどん強くなって、心の中の夢が日を追うごとに明確になっていった。
そして、いつかみんなと一緒に、何か形になるものを残したいと思うようになった。

最終的に傷だらけになって、後悔と苦しみがこのがらんとした部室に満ち溢れることにはなったけど。
それも思い出の一部として今の今まで残されている。
それらが私を演劇部にずっと留まらせているんだわ。
演劇部での活動もその頃から始めたのよね。
家での堅苦しいルールから少しでも離れたいと、あの時は思っていた。
そして嵐を逃れる船のように逃げてきて、ここでの生活を始めた。私は演劇部にいる時だけ、自分の時間と自分の意思による選択ができているという実感を持つことができたのよね。
そう、演劇部に訪れるようになったきっかけは逃避だった。
でも……。
意味もなくふざけあったり、思いっきり打ち込んで汗を流したり、屈託なく笑いあったり。
そうする中でみんなとの結びつきがどんどん強くなって、心の中の夢が日を追うごとに明確になっていった。
そして、いつかみんなと一緒に、何か形になるものを残したいと思うようになった。

最終的に傷だらけになって、後悔と苦しみがこのがらんとした部室に満ち溢れることにはなったけど。
それも思い出の一部として今の今まで残されている。
それらが私を演劇部にずっと留まらせているんだわ。
アルテミス
演劇部に入った理由は今はもう重要じゃない。
みんなともっとたくさんの思い出を作りたい。成功だろうと失敗だろうと結果なんてどうでもいい。とにかくみんなと一緒にステージでたくさんの劇を演したい。
それこそが今、私が本当にやりたい事よ。
演劇部に入った理由は今はもう重要じゃない。
みんなともっとたくさんの思い出を作りたい。成功だろうと失敗だろうと結果なんてどうでもいい。とにかくみんなと一緒にステージでたくさんの劇を演したい。
それこそが今、私が本当にやりたい事よ。
星綺
ようやくアルテミスさんの本心を聞くことができたね。
ようやくアルテミスさんの本心を聞くことができたね。
アルテミス
星綺部長!?どうしてここに.……。
星綺部長!?どうしてここに.……。
星綺
もうすぐ退くにしても、今は私が演劇部の部長なんだから、ここにいても別におかしくないでしょ?
もうすぐ退くにしても、今は私が演劇部の部長なんだから、ここにいても別におかしくないでしょ?
アルテミス
ごめんなさい。私が勝手なことを言い始めたばかりに、みんなの努力を無駄にしてしまいました。
ごめんなさい。私が勝手なことを言い始めたばかりに、みんなの努力を無駄にしてしまいました。
星綺
謝罪は受け取ったよ。負けず嫌いのあなただから、今の言葉、とても勇気が必要だっただろうね。
実のところ、あなたの事を責める人なんて誰もいないんだけどね。あなたは本当に自分に厳しいんだから。
私たちもね、勝手にあなたと紋章さんにかなり期待しちゃってた所があったし、まあお相子ってことで。
謝罪は受け取ったよ。負けず嫌いのあなただから、今の言葉、とても勇気が必要だっただろうね。
実のところ、あなたの事を責める人なんて誰もいないんだけどね。あなたは本当に自分に厳しいんだから。
私たちもね、勝手にあなたと紋章さんにかなり期待しちゃってた所があったし、まあお相子ってことで。
アルテミス
はぁ……。
はぁ……。
星綺
アルテミスさん。
ネバーランドって知ってる?
アルテミスさん。
ネバーランドって知ってる?
アルテミス
私たちが演じた劇の中にネバーランドが出てきますよね。
ピーターパンの家がある、子供たちの楽園だったと思います。
私たちが演じた劇の中にネバーランドが出てきますよね。
ピーターパンの家がある、子供たちの楽園だったと思います。
星綺
それは単に名詞としての説明だよね。実際の劇でも出演したし、心の中での劇にも出演したしね。
でも、ネバーランドの存在理由を深く理解できてないんじゃないかな?
それは単に名詞としての説明だよね。実際の劇でも出演したし、心の中での劇にも出演したしね。
でも、ネバーランドの存在理由を深く理解できてないんじゃないかな?
アルテミス
えっ?
えっ?
星綺
ネバーランドはね、ここにあるんだよ。
ネバーランドはね、ここにあるんだよ。
星綺部長が背伸びをして私の頭をさわった。
星綺
人によってそれぞれネバーランドは違う。人によって追い求めるものが違うからね。
ネバーランドは心の楽園であって、夢のような天国でもある。
ネバーランドではみんな、不可能な事なんてないと思っていて。
常識にとらわれず、人から責められる事もまったく心配しなくていいんだ。
人によってそれぞれネバーランドは違う。人によって追い求めるものが違うからね。
ネバーランドは心の楽園であって、夢のような天国でもある。
ネバーランドではみんな、不可能な事なんてないと思っていて。
常識にとらわれず、人から責められる事もまったく心配しなくていいんだ。
アルテミス
つまり......白昼夢みたいなものですか?
つまり......白昼夢みたいなものですか?
星綺
リアリストっていうのかな?アルテミスさんみたいに物分かりのいい子って、そういう所の見方が冷めてたりするよね。
私はずっとこう思ってた——演劇部はメンバー全員にとってのネバーランドなんだって。
だからそこでみんなの願いを実現したかった。みんながやりたいと思うことはなんでもやろうと思ってた。
でもあの自由奔放な舞台劇を演じる中で、みんな次第に演技を楽しむよりも、大会で勝ち抜けるかどうかに注意がいくようになっちゃってさ。
本来は空を駆け巡ることのできる自由さが、「勝利」という名の世界に囚われれてしまった。
演劇部の活動はみんな好きだからしているわけで、どうしなくちゃいけないとか、どうあるべきとかいうものではないはずなのにね。
リアリストっていうのかな?アルテミスさんみたいに物分かりのいい子って、そういう所の見方が冷めてたりするよね。
私はずっとこう思ってた——演劇部はメンバー全員にとってのネバーランドなんだって。
だからそこでみんなの願いを実現したかった。みんながやりたいと思うことはなんでもやろうと思ってた。
でもあの自由奔放な舞台劇を演じる中で、みんな次第に演技を楽しむよりも、大会で勝ち抜けるかどうかに注意がいくようになっちゃってさ。
本来は空を駆け巡ることのできる自由さが、「勝利」という名の世界に囚われれてしまった。
演劇部の活動はみんな好きだからしているわけで、どうしなくちゃいけないとか、どうあるべきとかいうものではないはずなのにね。
アルテミス
それで星綺部長はこの題材を選んだのですね.......。
それで星綺部長はこの題材を選んだのですね.......。
星綺
私はあなたたちのことを責めたりしないよ。私だってもっと上の舞台に行ってみたいと思ってるから。
でも、もしここが今のあなたたちにとっての「ネバーランド」なら、周りの人たちの声に惑わされて右往左往しないで欲しい。
勝ち抜けるのなんて不可能だとか、学生レベルの劇団としての限界だとか、そういうのはすべて忘れて欲しいんだ。
思い切って、今回は勝てるって信じてみようよ。負けたら負けたで思いっきり泣いてさ。また次回、思いっきりやればいいだけなんだから!
それは......学生でいられる数年間だけ許された特権のようなものなんだからさ!
私はあなたたちのことを責めたりしないよ。私だってもっと上の舞台に行ってみたいと思ってるから。
でも、もしここが今のあなたたちにとっての「ネバーランド」なら、周りの人たちの声に惑わされて右往左往しないで欲しい。
勝ち抜けるのなんて不可能だとか、学生レベルの劇団としての限界だとか、そういうのはすべて忘れて欲しいんだ。
思い切って、今回は勝てるって信じてみようよ。負けたら負けたで思いっきり泣いてさ。また次回、思いっきりやればいいだけなんだから!
それは......学生でいられる数年間だけ許された特権のようなものなんだからさ!
アルテミス
!?
!?
星綺
演劇部は今も分裂なんてしていよ......分裂どころか、みんなあなたの事を心配してる。でも紋章さんは、大丈夫だから自分に任せてって言ってね.......あの子はこういう真面目な事でも大きく出る所があるんだよね。
アルテミスさんが望めば、演劇部のみんなはまた集まるから。
演劇部は今も分裂なんてしていよ......分裂どころか、みんなあなたの事を心配してる。でも紋章さんは、大丈夫だから自分に任せてって言ってね.......あの子はこういう真面目な事でも大きく出る所があるんだよね。
アルテミスさんが望めば、演劇部のみんなはまた集まるから。
アルテミス
みんな頑張って、それでも結果に結びつかないとしても......ですか?
みんな頑張って、それでも結果に結びつかないとしても......ですか?
星綺
みんながどういう判断を下すのか、それはみんな次第だよ。でもあなた自身の事は説得できるはず。
みんながどういう判断を下すのか、それはみんな次第だよ。でもあなた自身の事は説得できるはず。
星綺
みんなが考えている世界に耳を傾けてみて。そうすれば、本当はあなたがどういう選択をしたいと思っているのか、きっと見えてくるはずだから。
みんなが考えている世界に耳を傾けてみて。そうすれば、本当はあなたがどういう選択をしたいと思っているのか、きっと見えてくるはずだから。
アルテミス
……。
私、紋章の言う「別の世界」にはまり込んでしまう事を恐れているわけじゃないんです。
私が恐れているのは、前へと続く道が見えなくなってしまう事です。
私.....みんなを連れ戻してきます。
いつも人を小ばかにするようなあの子も、私が連れ戻します。
もう一度信じてやってみます......。
……。
私、紋章の言う「別の世界」にはまり込んでしまう事を恐れているわけじゃないんです。
私が恐れているのは、前へと続く道が見えなくなってしまう事です。
私.....みんなを連れ戻してきます。
いつも人を小ばかにするようなあの子も、私が連れ戻します。
もう一度信じてやってみます......。
星綺
頑張ってね。
……。
…………。
行っちゃった。
アルテミスさんには言わなかったけど——
あの時、あなたが出演するって言う前から、紋章さんはあなたの事をこう言って推薦してたんだよ。
「子供のような純粋な心を持った、世界に夢のような未来があると信じているような人だから、もしかするとピーターパンに一番ピッタリな人物かもしれない」ってね。
でもあなたは純真であるがあまり騙されやすく、あれこれと悩んでしまいがちで。それで次第にそのまなざしも暗い霧に遮られるようになってしまった。
それでも、あなたの心の中の炎は弱まりながらも燃え続けた。その足元を再び照らすために。
だからアルテミスさんはあの後もずっと演劇部に留まり続けていた。
小さい頃って何を考えてもいいものなんだから。子供だからと周りも大目に見てくれるし。
でも成長して大きくなると、私たちは非合理的なものを否定するようになって、より成長した大人もそれを否定するのを支えるようになって。
ネバーランドも次第に消えてなくなってしまう。
そして自然と、妖精の存在も、人が本当は空を飛べることも誰も信じなくなってしまうんだ。
そうそう、最後に物語をひとつ話しておこうかな。
昔々、ある所に女の子がいました。
女の子はある日、月明りの下で両目に全銀河が収まってしまいそうなくらい光り輝いているひとりの女の子を見かけました。
その子の両目は手をいくら伸ばしても届かない、はるか遠くを見つめていました。
女の子がその子を見かけたのはそれっきりでした。
女の子はもう一度その子に会いたいと心から願っていました。
会うことができれば、自分もその星の光の道を進むことができるのではないかと思ったからです。
女の子がその思いを胸に秘めたまま、時は一年、また一年と過ぎ、そしてある日.......。
頑張ってね。
……。
…………。
行っちゃった。
アルテミスさんには言わなかったけど——
あの時、あなたが出演するって言う前から、紋章さんはあなたの事をこう言って推薦してたんだよ。
「子供のような純粋な心を持った、世界に夢のような未来があると信じているような人だから、もしかするとピーターパンに一番ピッタリな人物かもしれない」ってね。
でもあなたは純真であるがあまり騙されやすく、あれこれと悩んでしまいがちで。それで次第にそのまなざしも暗い霧に遮られるようになってしまった。
それでも、あなたの心の中の炎は弱まりながらも燃え続けた。その足元を再び照らすために。
だからアルテミスさんはあの後もずっと演劇部に留まり続けていた。
小さい頃って何を考えてもいいものなんだから。子供だからと周りも大目に見てくれるし。
でも成長して大きくなると、私たちは非合理的なものを否定するようになって、より成長した大人もそれを否定するのを支えるようになって。
ネバーランドも次第に消えてなくなってしまう。
そして自然と、妖精の存在も、人が本当は空を飛べることも誰も信じなくなってしまうんだ。
そうそう、最後に物語をひとつ話しておこうかな。
昔々、ある所に女の子がいました。
女の子はある日、月明りの下で両目に全銀河が収まってしまいそうなくらい光り輝いているひとりの女の子を見かけました。
その子の両目は手をいくら伸ばしても届かない、はるか遠くを見つめていました。
女の子がその子を見かけたのはそれっきりでした。
女の子はもう一度その子に会いたいと心から願っていました。
会うことができれば、自分もその星の光の道を進むことができるのではないかと思ったからです。
女の子がその思いを胸に秘めたまま、時は一年、また一年と過ぎ、そしてある日.......。
そしてある日——
女の子はステージ上で月の光が舞っているのを見ました。
学園の生徒募集のためのパーティーでの舞台ではありましたが、とても煌びやかでした。
その子の目は以前のように前を見据えてはいましたが、輝きはかなり失われているように見えました。
—— そして女の子は、その学園に進学することに決めました。
女の子......今や少女となった子はこう決意しました。
かって自分が追い求めた星の光に、再び輝きを取り戻させるんだと。
そして……。
最後の舞台が幕を開けました。
女の子はステージ上で月の光が舞っているのを見ました。
学園の生徒募集のためのパーティーでの舞台ではありましたが、とても煌びやかでした。
その子の目は以前のように前を見据えてはいましたが、輝きはかなり失われているように見えました。
—— そして女の子は、その学園に進学することに決めました。
女の子......今や少女となった子はこう決意しました。
かって自分が追い求めた星の光に、再び輝きを取り戻させるんだと。
そして……。
最後の舞台が幕を開けました。