「……ほんっと、最悪なんですけど」

 そう呟いた七草にちかの顔色は、どこかげっそりとしたものであった。
 心身、特に精神面での憔悴が露骨に現れていると言っていい。
 本戦まで生き残ったマスターの顔としては、それはある種情けないと呼べるものでもあったろうが、しかし。
 そもそもからして聖杯に託したい願いなどもなく、ただ生きて帰ることを願って此処まで生き延びてきた娘のそれとしてはごく正しい反応だ。
 何故なら今、にちかは一寸先も見えない手探りの日々の中でずっと抱いてきた希望を――他の誰でもない、界聖杯という神の手で無情にも取り上げられたようなものであったのだから。

「どうするんですか、これから。界聖杯が後出しでヘンなルール付け足して来たせいで、私達の作戦ぜ~んぶ台無しになっちゃいましたよ」

 ――――『聖杯戦争終了の条件が満たされた際、内界で生存している可能性喪失者についての送還処理は行われない』
 ――――『全ての可能性喪失者は、界聖杯の崩壊と共に消滅する』

 これは、にちかの言う通り後出しで追加されたルール。
 願いがない以上、無理に聖杯を手に入れようと躍起にならなくてもいい筈と考えていたにちかや、彼女と同じような楽観的姿勢を心のどこかに有していた者達を地獄の底に突き落とす無慈悲な理不尽だった。
 言い換えればそれは、界聖杯からのある種のエールであり、免罪符でもあるのだろう。
 生きるためなら仕方がない。人を殺したくなんてないが、殺さなければ死んでしまう。
 そう自分に言い訳する権利と、地平線の彼方に向け歩く理由/燃料を付与した。
 言うなれば界聖杯は、事此処に至って背中を押してきたのだ。その傍迷惑な善意に、にちかは今や胃に穴が空きそうな思いをさせられている。

「悪い。こればかりは、俺としても本当に誤算だった」
「ライダーさんが謝らなくても……別にあなたのせいってわけじゃないですし」
「いや、予想できて然るべきだった。界聖杯からしてみれば、戦いに参加しなくても済む逃げ道は可能な限り狭めたいのは当然だからな」

 そして彼女のサーヴァントである青年、騎兵(ライダー)アシュレイ・ホライゾンは悔恨の念を滲ませて苦々しげにそう言った。
 界聖杯は願いを叶えさせるためだけに誕生した宇宙現象。
 そんな彼あるいは彼女にとって、聖杯戦争に参戦することなくのらりくらりと生還を目指したい参加者は言うまでもなく邪魔な存在なのだ。
 そこまで考えて、気付くべきだった。界聖杯が自身にとって邪魔な怠惰な器たち……"戦う理由"を持たないマスターたちの背中を押して、彼女達が引いている日常の一線(ライン)を踏み越えさせようとする可能性に。
 もしも予選段階でそこに思い当たれていたならば、にちかの受ける精神的負担も幾らか変わっていただろうにと。
 溜息をついて、しかしすぐに思考を切り替える。痛恨ではあったが、延々引きずっていても仕方がない。
 重要なのは、此処からどうするか。これからどうするか――なのだから。

「実を言うと、最悪の場合は俺とマスターの契約を切って、聖杯戦争が終わるまでマスターを何処かに隠すことも考えてたんだ。
 だけどその手はもう使えなくなってしまった。たとえそれで生き残れたとしても――」
「……肝心の界聖杯がなければアウト、ですもんね」
「そういうわけだな。正直、なかなか厳しいことになった。予定してた策(プラン)もほとんどが御破算だ」

 動揺と驚愕に曝されている主従は、何もにちかとアシュレイだけではないだろう。
 願いを持たないマスター達は、今頃誰もが彼らと同じように岐路へ立たされているに違いない。
 すなわち方針の転換。消極的な姿勢を、積極的な姿勢に切り替えねばならない理由の浮上。
 聖杯戦争は間違いなく加速する。界聖杯の狙い通りに、総則の追加は火に油を注ぐ結果をもたらしたわけだ。

 ――七草にちかの目的は、生きて帰ること。
 彼女は聖杯を求めていなかった。だが、こうなった以上は界聖杯との対峙は避けられない。
 誰かに先を越されればその時点で待ち受ける未来は消滅の二文字。
 少女の願いは叶うことなく、この何処ともしれない時空に消え果てることになる。
 それは言わずもがな彼女、そして彼にとって最悪のバッドエンドであり。
 今後ふたりはこれを回避するために、何としてでも界聖杯へ辿り着かなければならなくなってしまった。

 そのことを踏まえた上で、アシュレイは続ける。

「ただ……手がないわけでもない。もしこれが上手く行けば、にちかだけじゃなく他のマスターも一緒に元の世界に帰せる可能性がある」
「は……!? ちょっ、なんですかそれ! そんなのあるなら最初から――!!」
「まあ聞いてくれ。夢のような話だけど、それが問題なんだ。自分で言うのも何だけど、なかなかに"夢のような"話なんだよ」
「……全然意味がわかんないんですけど――とりあえず、聞きます。話してください」

 納得がいかないような顔のにちかだが、言わんとすることは一応分かった。
 要するに、手放しに選択出来ない理由があるのだろう。
 実際、自分も他のマスター達も纏めて元の世界に帰せる手段なんかあるなら最初から言えという話であるし、アシュレイ・ホライゾンという男はそういう所でポカをやるタイプには思えなかった。
 そしてそんなにちかの類推は当たっている。手放しに使える手では――もとい、無策にすべてを賭けられる手ではないのだ。

「前に話したことがあると思うんだけど、覚えてるか? 俺には、ほぼ間違いなく使うことが出来ない第三の宝具がある」

 厳密にはもう一つ、ある意味ではそれ以上に解き放つことの出来ない宝具が存在するのだったが、それは一度置いておく。
 『白翼よ、縛鎖断ち切れ・騎乗之型(Mk Ride Perseus)』。
 『煌翼たれ、蒼穹を舞う天駆翔・紅焔之型(Mk braze Hyperion)』。
 そして発動不能の第三宝具、『天地宇宙の航界記、描かれるは灰と光の境界線(Calling Sphere Bringer)』。
 今回の話の肝となるのがこれだ。界奏、付属(エンチャント)の極晃星。星をもたらす者(スフィアブリンガー)。運命の車輪に紛れ込んだ砂粒に過ぎなかった青年を、一人の"英霊(えいゆう)"へと目覚めさせた到達点の宝具。

「これは……有り体に言えば、他者から異能や宝具を借り受ける宝具なんだ。
 英霊の座そのものにこの現世から直接干渉して、相互の認証が果たされた場合に限り相手の力を共有できる」
「……は、はあっ?! ライダーさん、そんなこと出来たんですか!? ずるじゃないですかそれ!!」
「ああ、まさしくズルだ。自分で言うのも何だけど、これを使えば大半のサーヴァントは圧倒できるだろうな」

 だから、とアシュレイ。

「だから、この宝具は正攻法じゃほぼ使えない。
 令呪三画を使ってようやく数秒、……もしかしたらそれ未満の時間。
 おまけに使えば俺の霊基がどうなるかも未知数だ。自壊する可能性が高いし、よしんばそれを免れたとしても二度目の発動はまず不可能だな」
「……、……」
「ただ、リスクに見合うだけのリターンはある。
 俺の認識が正しければ、界聖杯の機能そのものを書き換えることすら可能な筈だ」
「え……界聖杯、そのものを?」
「ああ。界聖杯が後出しでルールを追加してきたんなら、こっちもそれに倣って後出しでルールをかき消してやろうってことさ」

 スフィアブリンガーは最弱の極晃星とそう呼ばれる星だが。
 こと聖杯戦争という土俵に対しては、これ以上ないほどの親和性を発揮する。
 共有の範囲がアシュレイの存在した新西暦を飛び出して、英霊の座全てに達するのだから当然だ。
 対話による相互認証という条件さえ満たすことが出来たのなら、アシュレイは冠位の御業も獣の暴威も全て己の力として振るえることになる。

 まさしく汎用性の怪物、可能性の極み。
 だからこそ、そこに付随するリスクも非常に大きい。
 即死級の魔力消費と消滅のリスク。どれだけ運が良くとも、二度目はない。
 アシュレイ・ホライゾンという英霊の霊基が、界奏という力の大きさに見合っていないのだ。
 それだけのリスクを承服しても、力を振るえる時間は良くて数秒。もしかしたら、それ未満。
 そのごく短時間の中で全てを遂げることが出来なければ、このプランは瞬時に破綻する。

「最低限必要な条件は三つ。
 まずは界聖杯の本体、願望器及び聖杯戦争の運営機能を有する部位の座標特定。
 次に界聖杯の改変に使えそうな能力の捜索。そして、作戦実行のその時に俺とマスターが生存していること」
「……で、でも――逆に言えばそれさえ満たせれば、全部丸く収めれちゃうってことですよね!?
 もしかしなくてもそれって、私達にとってめちゃくちゃ良い話なんじゃないですか……!?」
「首尾よく行けば、な。ただこの前提を満たす難易度も正直頭抜けて高い。鬼だ」
「鬼」

 まず第一に、アシュレイ達は界聖杯という願望器について何も知らない。
 何処にあるのか、そもそもどういったシステムで意思決定を行っているのか。
 どのようなプロセスを踏んで、聖杯戦争のルールを定め書き換えているのか。
 それを特定するだけでも至難の業だというのに、次に要求されるのは超弩級の精密性と存在規模を有した宇宙現象にアクセスを行い、その中身を書き換えられるような規格外の力を振るえる能力者の捜索と来た。
 生半な力ではまず間違いなく相手にもされないだろう。超弩級にあてがうに足る超弩級でなければ、話にもならない。
 その要求をどうにか満たしたとしても、その先に待つのは先述した極悪な時間制限だ。
 界聖杯そのものに何らかの防衛機能が備わっていたなら最悪で、アシュレイは何が出てきても戦闘には確実に参加出来ない。
 界聖杯への干渉と書き換えに注力し集中しなければ、そもそも普通に任務に失敗して終わり――なんて笑えない結末すらあり得るのだ。

「……まあでも確かに、界聖杯に干渉できる能力を持った人とかどう探せって話ですよね。考えただけで頭痛くなります」
「正直なところを言うと、アテがないわけじゃないんだが」
「あるんですか!? だったら万事解決じゃないですか!!」
「いや、色々事情があってさ。そいつらの持ってる力そのものが、恐らく英霊の座に記録されていないんだ。
 あまりにもぶっ飛んだ力だったから、何かのきっかけで悪用されたら困るって理由で自分から消したんだが――今回に限ってはそれが裏目に出たな。奴らの力は十中八九頼れない」
「ならわざわざ話に出さないでくださいよ……なんか凄い損した気分になるじゃないですか……」
「悪い悪い。つい説明してしまった、悪い癖だな」

 フェアな交渉を心掛けていることもあり、つい話しすぎてしまった。
 ジト目で睨みつけてくるにちかを宥めつつ、アシュレイは咳払いを一つ。

「まあ、とりあえず纏めるとだな。
 今後は界聖杯の場所を探すのと、それをどうにか出来る力の持ち主の情報を集めることを並行して進めていくことになる。
 ただ問題が一つあって、この方法を選ぶ以上は他の主従と積極的に関わり合わなくちゃいけない」
「……? まあ、それはそうなるでしょうけど――」
「そうなると必然、こっちに容赦なく敵意をぶつけてくる手合いや……場合によっては悪意を持って陥れに来る奴らとも出会うことになる。
 もしもマスターがそれを怖いと思うんだったら、この方法は諦めて他の」
「――何言ってるんですか! それが一番手っ取り早いんでしょ、だったらそれで行きましょうよ!!」

 別に、もっと手を探してもアシュレイとしては良かった。
 界奏の使用を目指すにしたって、にちかへの負担を軽減させながら前進する方法は他にもきっとある。
 だからこその進言だったのだが、それに対してにちかは底抜けに明るい声で返した。

「何すればいいか、そもそもやりようがあるのかも分かんなくなってたんですから。目指す先が分かっただけでもだいぶ楽になりました!」
「……マスター」
「それにしてもライダーさんがそんなとんでもない力を持ってるなんて、ほんと――」
「にちか」

 名前を呼ぶ。
 これまでのとは声色の違う、心そのものへの呼びかけ。
 それににちかは言葉を止め、彼の顔を見た。
 アシュレイもまた、彼女の顔を……その瞳を見た。
 そこにあった憔悴と空元気の色を、彼は見逃してなどいなかった。

「無理をしなくてもいい。君は君の歩幅で歩けばいいんだ」

 その言葉に――少女は、俯いて――

「……はあ? 今無理しないで、急がないで――いったいいつやれって言うんですか?」


◆◆


 英雄、傑物、救世主。
 そう呼ばれるに足る人物が、この世界には時折生まれ落ちる。
 それが先天であれ後天であれ、凄い奴というのは当たり前に凄いものだ。
 凡人が年かけて到達する境地に数日で辿り着き、実現不可能の難行を息でも吐くようにこなし、横たわる現実の壁を意思と意地で踏み越える。
 しかし当然。そんなことが出来る、叶えられる人間は、人類全体を見ても一握の砂に届かない程度のマイノリティでしかない。
 夜空に手を伸ばしても、輝く星は掴めないように。
 魔法に出会えないシンデレラが、王子に愛されることはないように。
 持たない者がどれほど願い希っても、届かないものは届かない。

 ――そして。七草にちかという少女は、アシュレイ・ホライゾンの目から見ても明らかに"持たない"側の人間だった。

「自分が石ころだってことは嫌ってほど分かってる。そしてライダーさんは、そんな私のことを認めてくれた。
 だけど……だからって、ただ転がってるだけでいいなんて話は絶対にないじゃないですか。
 私にだって――ただ指咥えて見てるのは嫌だって思うくらいの心はあるんですよ?」

 にちか自身、そのことは嫌というほど自覚しているのだろう。
 華々しさも、目を瞠るような才能も、他者を凌駕する何かも。
 何も持たないのに、可能性の器とか大それた肩書きだけ与えられてこの地獄に放り込まれた。
 そんな彼女に、俯くだけでなく顔を上げることを教えたのは他でもないアシュレイ・ホライゾン。
 そんな彼女の手を引いたのは、紛れもないアシュレイその人である。

 彼の言葉に、あの笑顔に、七草にちかは確かに救われた。
 だからこそ少女は、こう願い望んだのだ。
 自分も、彼と一緒に歩んでいきたいと。
 おんぶに抱っこではなく、サーヴァントである彼を支えるマスターとして進みたいと。
 はち切れそうな心をひた隠しにしながら、空元気の歯車を回して気丈を装った。
 しかしその迷彩もアシュレイにたやすく暴かれてしまい、結局またにちかは俯いている。

「足手まといになんて、なりたくないし。
 ていうかそもそも無理とか……してない、ですし。
 私のことを気にしたりするのは、ノーセンキューっていうか。えっと……」
「――勘違いしないでくれ、にちか」

 アシュレイの言葉に、びくんとにちかの身体が跳ねる。
 恐る恐る顔を上げた彼女を迎えるのは、初めて会った時と同じ優しい瞳だった。
 にちかを責める色も、彼女に呆れた様子もない。
 そのことに安堵する暇も与えず、アシュレイは言葉を重ねた。

「俺はにちかのことを足手まといだなんて思ったことはないし、この先もきっとないよ」
「……でも。私、この通り弱いんですよ。どん臭くて役立たずで、そのくせ生意気なとこだけは一丁前で――」
「知ってるよ。けどそれも、七草にちかの良さだろう」

 え、と呟くにちか。
 そんな彼女に、アシュレイは笑う。

「そもそもだ。怯えるのも足を止めてしまうのも当たり前なんだよ、君の生きていた世界は泰平の時代だったんだろ?
 戦火とは遠く、恐ろしげな力や陰謀が渦巻くこともない平和な日常を生きてきた女の子。それがマスターだ。間違ってるか?」
「いえ、違いません……けど」
「じゃあ、そんな子どもがいきなり命のやり取りの土俵に投げ込まれて慌てたり恐れたりしてしまうのは至極当然のことだろう。
 生きるため、救うため、帰るため……動機を問わず、すぐに戦いの世界に順応出来る人間なんて千人集めたって一人居るかどうかだ。
 むしろ怖がって震える方がよっぽど健全で、人としてあるべき姿じゃないか。
 人を殺したり、傷付けたりして明日を目指す才能なんて、はっきり言って無い方がずっと幸せなスキルなんだから」

 戦争の時代でしか生きられず、平穏な泰平に溶け込めない。
 そんな人間の方がよっぽど破綻しているとアシュレイは思うし、一般論としてもそうだろう。
 その点、七草にちかは明確に"弱い"が、その弱さはむしろ褒め称えられるべき美点だ。
 上手くはなくても、ぎこちなくても、じれったくても。

「心を殺して戦地を駆けられる才能なんかよりも、誰かの心を照らすために頑張る方が俺は素敵だと思う」
「でも……それじゃあライダーさんだけがずっと頑張り続けることになるじゃないですか。
 あなたの一挙一動、傷つく姿にいちいちリアクションするだけのギャラリー。バックダンサー以下の脇役。
 そんなのに甘んじてていいわけ――」
「いいわけあるに決まってるだろ。そもそもだな、マスターってのは生きてることが仕事みたいなものなんだよ。
 サーヴァントは戦う。マスターは生きる。聖杯戦争の仕組みから見ても、全然変なことじゃない」

 武器を執り戦い、胃に穴の空くような交渉に挑むのは過去の残影たるサーヴァントこそが適役だ。
 地平線の彼方の更にその先、果てしなく広がる未来へ歩む人間(マスター)が心を殺してそれに興ずる必要は全くない。
 そしてその上で、アシュレイはにちかというアイドルのことを尊重し続ける。彼女の歩み、待つ未来、その全てを等しく祝福しよう。
 経緯はどうあれ、それはアシュレイ・ホライゾン(じぶん)が選べなかった人生だから。
 彼女は自分よりずっと凄いことをしているのだと、心からそう思うことが出来る。

「……にちかは、何を目指してるんだ?」
「え……。いや、それは――」
「アイドルになって終わりってわけじゃないだろ。
 夢を叶えて、未来に進んで、その先で何になりたい。何をしたいんだ?」
「……そんなこと。聞いてどうするんですか?」
「戦う理由ってのは大事なんだよ、意外とな。
 にちかの夢を、未来を、俺にも一つ背負わせてくれないか。それだけで俺にとっては至高の援護だ」

 ……一瞬、沈黙。
 夢。未来。アイドルのその先。
 考えた末、にちかが口に出した"それ"は。

「……みんなの――帰る場所を、作りたい。
 私の家族。今居る人も、今は居ない人も、みんなが帰ってこれる場所を……
 笑顔で、"ただいま"を言えるそんな場所を……作って、みたい」
「――そっか」

 その言葉に、アシュレイは小さく息を吐いた。
 改めて確信したからだ。自分は、彼女に呼ばれる運命だったのだと。
 彼女が吐露した切なる願いは、アシュレイにとって――
 過酷な運命の果てにたくさんの守るべきものを得た彼にとって、ひどく尊く聞こえるものだったから。

「請け負った。俺が、君を未来へと送り届けよう。
 そして君はその先、君の人生で夢を叶えるんだ。
 俺というサーヴァントへの報酬は、それだけでいい」

 ……辛い時、苦しい時、悲しい時に何処からともなく現れて、助けてくれる無敵のヒーロー。
 かつての理想であったそれを、今はもうアシュレイは追っていない。
 だけどせめて。無敵とまでは行かずとも、彼女一人の夢を叶えられる不格好なヒーローくらいは貫こうとそう思った。
 いつか君が笑えるように。夢を叶えて、あたたかな団欒の中でその頬を綻ばせられるように。

 ――境界線(おれ)は、いつだとて君の隣に在ろう。
 誓いを此処に一つ、重ね。砂粒と石ころは、加速する運命の中に漕ぎ出した。


 都市が混沌に呑まれるその前に。
 青年と少女の間にあった、密かな一幕であった。


【渋谷区・代々木公園/一日目・午前】

七草にちか(騎)@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:健康、精神的負担(中)
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:高校生程度
[思考・状況]
基本方針:283プロに帰ってアイドルの夢の続きを追う。
1:殺したり戦ったりは、したくないなぁ……
2:ライダーの案は良いと思う。
[備考]

【ライダー(アシュレイ・ホライゾン)@シルヴァリオトリニティ】
[状態]:健康
[装備]:アダマンタイト製の刀@シルヴァリオトリニティ
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:にちかを元の居場所に戻す。
1:界奏による界聖杯改変に必要な情報(場所及びそれを可能とする能力の情報)を得る。
2:情報収集のため他主従とは積極的に接触したい。が、危険と隣り合わせのため慎重に行動する。
[備考]
宝具『天地宇宙の航海記、描かれるは灰と光の境界線(Calling Sphere Bringer)』は、にちかがマスターの場合令呪三画を使用することでようやく短時間の行使が可能と推測しています。


時系列順


投下順



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OP:SWEET HURT 七草にちか(騎) 026:侍ちっく☆はぁと
ライダー(アシュレイ・ホライゾン)

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最終更新:2023年03月11日 01:44