夕暮れの帰り道。
 惨めな帰り道。
 片手に買い物袋を持って、もう一つの袋を持った親友と二人で帰途に着く。
 その道中に会話はなかった。
 何とも気まずくて、かと言ってそれを誤魔化せるお誂え向きな話題も思いつかず。
 只無言のままに私達は歩いていた。
 親も祖父母も居ない、血の繋がらない二人だけが暮らす小さな家へと帰る為に。
「…梨花は、このまま本当にいいんですの?」
「みー。何がですか、沙都子?」
「このまま私なんかと一緒に暮らし続けて、本当にいいのかって聞いているんですのよ」
 何があったのかと問われれば本当につまらない事だと言うしかない。
 買い物に出向いた先で小銭をぶち撒けた。
 けれど拾うのを手伝ってくれる人は誰も居なかった。
 今日は週始めで荷物が多いだろうからと追い掛けてきた梨花が拾い始めてようやく、素知らぬ顔をしていた村人達も拾うのを手伝い始めた。
 レジで年嵩の店主が差し出してくれた飴玉は一つしかなかった。
 梨花の分だけ。
 当然のように、自分の分はない。
 別に今更傷付く事もない当たり前の光景。
 それでもやはり、梨花にこんな惨めな姿を見られたくはなかったとそう思う。
 だからこそこんな負け犬の愚痴めいた、八つ当たりのような言葉が出て来たのだろう。
「梨花も知っているでしょう。私はこの村の嫌われ者ですの」
 誓って言うが、梨花に敵意をぶつけたい訳ではなかった。
 両親が居なくなって意地悪な叔母が死に。
 大好きなにーにーも消え、一人ぼっちになった私に一緒に暮らそうと手を差し伸べてくれた梨花。
 そんな梨花の事を嫌いになったり憎んだりなんてする訳がない。
 だから思い返すにこれはきっと、単にこのどうしようもなく情けない現状の中で少しでも強がりをしたかったのだと思う。
「私なんかといつまでも一緒に居たら…いつか梨花も皆さんに爪弾きにされてしまうかもしれませんわ。
 そうなる前に梨花だけでも、村長さんの家にでもご厄介になった方が――」
 村というコミュニティそのものに嫌われ、居ない者として扱われ。
 いつ何処でどんな死に方をしても誰も悲しまない、それどころか祟りのスケープゴートになる事を望まれてさえいるような現実の中で。
 きっと自分はほんの少しでもこの親友に格好を付けたかった。
 そんな思いのままに何とか捻り出した問いに、梨花は迷うでもなく笑顔を向けて。
「ボクは沙都子と一緒がいいのです」
「…話、聞いてました? 私と一緒に居たら、いつか――」
「沙都子を一人ぼっちにするくらいなら、ボクも一緒に仲間外れになってしまった方がマシなのですよ」
 にぱー、と笑ういつも通りの姿に私は思わず閉口してしまう。
 こうまであっけらかんと言われてしまっては毒気も抜かれてしまうというものだ。
 そんな私の手をぎゅっと握って梨花は続けた。
「それに。沙都子は一人ぼっちなんかじゃありませんです」
「梨花…」
「魅音も居る。レナも居る。そしてボクが居る。来年になればきっと、もっと沙都子の事を楽しませてくれる人がやって来ますです」
「…なんですの、それ。お年寄りの皆さんが時々言ってる、オヤシロさまの巫女の予言ってやつですの?」
「みー。捉え方は沙都子次第なのです」
 オヤシロさまの生まれ変わりがどうだとか。
 そういう話はあまり信じていなかったが、こうもはっきり断言されてしまうと二の句も継げなくなる。
「そうですわね。私としたことがらしくないことを言ってしまいましたわ」
「全くなのです。沙都子にそんな繊細な物言いは似合わないのですよ、にぱー☆」
「り、梨花ぁ!? 私だって年頃の乙女ですのよ、ちょっとー!!」
 そうして私はちっぽけな見栄の代償をちょっとした悔しさで支払うのだ。
 商店街で味わった悔しさと寂しさはそうこうしている内にいつの間にか薄らいでいた。
 寂しくても何処か満たされた、親友と往く夕暮れの帰り道。
 辛い事も沢山あるけれどそれ以上の幸せがある、こんな暮らしがいつまでも続いていくものだと私は疑いすらせずそう信じていた。
 年を取っても、子供でなくなっても…大人になっても。
 自分と梨花は二人でこの村で生きていくのだと思っていた。

 ――沙都子にもボクと同じ夢を見て欲しいのです。

 そう言って外の世界への切符を手渡されるだなんて。
 そんな未来が来るなんて、この時は想像すらしていなかった。

   ◆  ◆  ◆

 ずっと一緒に居られると、そう思っていた。
 無条件に信じていた。
 それは百年もの積み重ねが知らない内に齎していた確信だったのか。
 それとも幼い頃から彼女の存在に救われ続けてきたからこその病理的思考であったのか。
 未だ以ってその答えは出ないままだったが、北条沙都子はそもそもそれを必要としてすらいなかった。
「山程繰り返しましたわ。飽きる程の惨劇を用意すれば、貴方もきっと諦めるものだと思ってた!」
 引き金を引いて銃弾を放つ。
 飽きる程繰り返した動作だが、今や放つのは只の銃弾ではない。
 単なる拳銃。
 装弾数もほんのわずか、両手の指で数え切れる程度。
 だというのに引き金を一度引く動作に合わせて数百発もの弾丸が放たれていた。
 まるで機関銃だ。
 弾丸の威力も以前までのものとは桁が違う。
 一撃一撃が岩を砕き、木々を抉り、空間を削り飛ばす魔弾の域。
 自分は人間ではなくなったのだと――沙都子にそう確信させるには十分すぎる不条理だった。
「なのに梨花ったら呆れる程強情なんですもの。巡り巡ってこんな所まで来てしまいましたわ!」
 寂しさはない。
 悲しみもない。
 何故なら自分の所まで梨花も追い付いて来てくれたのだ。
 ならば一体何を悲しむ必要があろう。何を嘆く必要があろう。
 ああ、なんて喜ばしい。
 世界はこんなにも満ち足りていて、そして小さく閉じている。
 このまま永遠にこの箱庭が続いていけばいいとそう願わずにはいられない。
「貴方が私の手を取ってくれれば…二度と外の世界なんて願わないとそう言ってくれていれば!
 私も、そして梨花も……こんなにしち面倒臭い回り道なんかせずに済んだかもしれませんのに!」
 沙都子はハイになっていた。
 かつてない程高揚していた。
 最初からこの瞬間だけあれば良かったのだ。
 聖杯戦争なぞ茶番に過ぎない。
 最後に並び立つのは自分と梨花の二人以外に有り得ないのだから、他の役者など一切合切必要なかった。
「だからねぇ、梨花! 私…この部活だけは必ず勝ちます。貴方を打ち負かして、罰ゲームを受けさせてみせますわ。
 そしていつか私の望む未来(それ)が貴方にとって罰でなくなるまで……百年でも千年でも、ずっとずーっと一緒に過ごしてあげますの!!」
 魔弾はいつしか嵐になっていた。
 もうそれは惨劇という規模ではない。
 あらゆる物語を、複雑に怪奇した感情を、悲劇の連鎖を。
 全て否定して踏み躙り、粗雑且つ無粋な暴力で塗り潰すかの如き喜劇。
 神の介入と界聖杯への漂流で魔女達の物語は狂ってしまった。
 それを物語るように沙都子の指先が悪夢を奏で、そして古手梨花もまた同じように。
「言ったでしょう。私の話を聞いていなかったの?
 そんな事しなくたってずっとあんたの隣に居てあげる。
 何千年でも何万年でも、あんたが飽きて音を上げるまで付き合ってやるわ」
 不条理で以って不条理を跳ね返す。
 右手に握った桜の神剣で魔弾を全て弾く。
 それはサーヴァントもかくやの離れ業であるというのに、不思議とそれを繰り出せた事に驚きはなかった。
 沙都子に出来るのなら自分にやれない筈がない。
 トラップの腕や策謀勝負ならいざ知らず、純粋な力比べでならば負けなどするものか。
 私だって――魅音や皆に鍛えられた最強の部活メンバーの一人なんだから。
「あんたが私に勝てたなら、ね…沙都子」
「勝ちますわよ。梨花が私に勝てる訳ないでしょう?」
 …部活メンバーの中にも力量差はある。
 戦う回数が多いから勝ち星の数は自然と増えるが、それでもやはり巧拙はあった。
 その点で言えば古手梨花は間違いなく下から数えた方が早い。
「此処は私の庭、私の理想のカケラ。裏山での私の強さは知っていますわよね」
 園崎魅音のように圧倒的な万能さもなければ。
 竜宮レナのように抜きん出た冴えがあるわけでもなく。
 前原圭一のように場を支配する爆発力は持っておらず。
 そして北条沙都子のように、罠を張り巡らせて人を陥れる発想力もない。
 猫を被って相手を騙くらかすくらいしか取り柄のない永遠のダークホース。
「今の私はそれより更に上。裏山と言わず、雛見沢の全てを支配する神。
 絶対の意思を以って未来を定める、"オヤシロさま"と呼ぶべき存在ですのよ。
 普通の部活でさえ私に勝ち越せなかった梨花が今の私に勝つだなんて、鼻で笑ってしまいますわ」
「…ふっ。よりによってオヤシロさまだなんて、一番似合わないのを選んだわね」
 そんな事は梨花自身百も承知だ。
 だが、梨花は猫を被っていた。
 部活に限らず、ずっとだ。
 惨劇のループの中で蓄積された知恵と根性、滑稽なまでの諦めの悪さ。
 担い手としてではなく当事者として惨劇に挑み続けたそのしぶとさは、今の沙都子でさえ決して及べるものではないとそう信じている。
 だからこそ梨花は神剣を振るう手を止めない。
 地を蹴るその足を決して止めない。
 瞳に宿す闘志を、消さない。
「オヤシロさまはそんな物騒な武器なんて使わないのよ。
 アイツは誰よりも揉め事が嫌いで、辛い物一つでみっともなく泣きじゃくるような駄目神なの」
「何かと思えばそんな事。知っていますわよ――羽入さんでしょう? ほんの僅かな時間だけ私達の仲間だった、あの」
「あら、覚えていたのね。嬉しいわ。アイツもきっと草葉の陰で喜んでるんじゃないかしら」



 舞台はいつの間にか丘を下って。
 かつてはひぐらしが鳴いていた、山道の中へと移っていた。
 不味いとそう思う。
 この先は裏山に繋がっている。
 裏山は沙都子のホームグラウンド。
 ありとあらゆるトラップが張り巡らされた死地だ。
 何とか遠ざけなければとそう思った矢先。
 そんな梨花の努力を嘲笑うように、景色が見覚えのある場所へと切り替わった。
「残念。逃げられませんわ」
「…驚いた。あんた、本当に化物になったのね」
「此処は私の腹の中。場所を切り替える事なんて自由自在ですのよ。
 それにしても化物だなんて心外ですわ。羽入さんが化物と呼ばれれば怒る癖に、私には平然とそう吐くんですの?」
「羽入とあんたは違うわ。今のあんたは神でも魔女でもない。只の化物よ」
 異界の羽虫が群がってくる。
 それ自体は大した脅威ではない。
 が、安心など出来る訳もなかった。
 此処があの裏山である事を踏まえて考えれば、この雑でひ弱な攻撃の意味も自ずと浮かび上がってくる。
“本命のトラップを隠すための、目眩まし…!”
「正解ですわ」
 何せ戦ってきた年月も百年分だ。
 相手の思考は互いに手に取るように解る。
 梨花は沙都子の狙いを読み。
 沙都子は梨花が気付いた事そのものを読む。
 地面を貫いて噴き上がった奈落の棘を躱される事は大前提。
 それに合わせて空気中に配備していた魔力のワイヤー線を反応させ、全方向からコンバットナイフを飛来させた。
 見覚えのある形だった。
 あれは確か、狂気に囚われた園崎詩音が使っていた凶器。
「只のナイフと侮ってはいけませんわよ。今日のトラップは私の集大成、雛見沢の全てを詰め込んでいますから」
「これの何処がトラップよ、馬鹿…!」
 沙都子のトラップは抜群のセンスとそして試行錯誤に裏打ちされたものだ。
 可愛いものでは黒板消しから、とてもではないが一般人相手には使えない巨大丸太まで。
 入念なトライアンドエラーの末に磨き上げられてきた事を梨花は知っている。
 だが今の沙都子が繰り出しているこれは最早そんな次元のものじゃない。
 事前準備など一切無しに、神である沙都子の気紛れ一つでリアルタイムで無から湧いて来る透明な罠。
 沙都子の視点から"かかった"と一方的に認識される事で初めてこの世に出現するそれは当然のように予測不能。
 トラップマスターの矜持も糞もない悪辣極まるシュレディンガーの猫箱に、活き活きとした笑顔で新作トラップの構想を語って聞かせてくれた過去の彼女の姿を知る梨花は苦い顔をせずにはいられなかった。
「こんなの、只の後出しジャンケンじゃない。トラップマスターの名が泣いてるわ」
「浅い考えですわね。私、人を超えた存在になったんですもの。理不尽なのは当然でしてよ」
 つい一秒前までは安全地帯だった地面の下に急に地雷が出現する。
 踏み付けた代償は足元から駆け上がってくる強烈な電流だった。
「い、ぎッ…!」
 ナイフの次はスタンガン。
 百年のループの中で何度となく地獄を見せられてきた女の十八番だ。この感覚を忘れる訳もない。
 古手梨花は今北条沙都子と戦いながら、此処までの旅路を追体験させられていた。
「流石はねーねー。身に余る希望で目を曇らせた梨花の目を明かすにはぴったりの一撃ですわ」
 想い人への想いを狂気に変転させ。
 哀しい暴走を引き起こした女の記憶が電撃を通じて梨花の脳裏を駆け抜ける。
 僅かな時間とはいえ一箇所に縫い留められてしまった少女の右足が、次の瞬間弾け飛んだ。
「雛見沢を裏切った者には祟りが下る。一人が死に、一人が消える」
 歌うように嘯く沙都子の右手では拳銃が白煙を吹いている。
 それを仕舞いもせず、その左手に金属バットが握られた。
「世界の秘密を舞台裏まで知り尽くした今となっては、正直茶番としか言い様のないお話ですけれど。
 それでもこの文句自体は結構気に入っていますの、私。
 家族を、仲間を、雛見沢を――裏切る者には罰の一つくらいあって然るべきでしょう? 例えばほら、鬼隠しとか」
 かつては沙都子の兄、悟史が握り。
 彼と入れ替わるように分校へやって来た希望の光、前原圭一に受け継がれたそのバット。
 よりにもよってこれを握りながら痴れた理屈を吐く沙都子に憤激が湧き上がった。
 片脚の再生を待っている暇はない。
 鬼狩柳桜を振るい、バットと神剣で火花を散らす――音を奏でる。
 最初の三合は防戦一方。
 しかし足が治れば梨花も攻めに転じる。
 立ち上がって、勇猛果敢に沙都子へ挑みかかった。
 怒りはある。
 根性を叩き直してやらねばという使命感もある。
 だがその実、脳は実に冷静だった。
 沙都子が今再現したカケラの得体を推測し、それを踏まえてこれに続く事態へ当たりを付ける事が出来る程度には落ち着いて物を見れていた。
“圭一が狂気に堕ちる世界の数は少ない。
 沙都子が今なぞっているのは多分、レナと魅音がその優しさ故に雛見沢の闇を…鬼を隠してしまった世界。だとしたら、次に来るのは……!”
 オヤシロさまの祟り。
 一人が死んで一人が消える、雛見沢の闇。鬼の歴史。
 それをわざわざ語り出したという事は即ち、その鬼を隠した結果生まれた悲劇のカケラをなぞっているのだと梨花は推測する。
 名付けるならば"鬼隠し"のカケラ。
 そして古手梨花は知っている。
 あのカケラには、明確なアンサーとなるカケラが存在している事を。
 沙都子の次の一手が何かを確信しながらも、奥歯を砕けんばかりに噛み締めずにはいられなかった。
 よりにもよって――そう来るか。
 あの奇跡のようなカケラを、彼と彼女の想いをそんな風に歪めるのか、あんたは…!
「ッ、沙都子!」
「でも安心なさいませ、梨花? 私は寛大な神様ですのよ。
 梨花が心から自分の過ちを悔いて、その罪滅しが出来るまで…ちゃんと付き合ってあげますからッ」
 一際強く打ち合った、その瞬間を狙い澄ましたように足元が泥濘んだ。
 バランスを崩した梨花の足に絡み付くのはワイヤー。
 天を見上げる格好で転倒してしまった彼女の視界に、遥か空の彼方から降ってくる鈍い光があった。
 それが何であるかなど目を凝らして見るまでもない。
 "鬼隠し"で狂気に染まった彼が"罪滅し"をするあのカケラをなぞるのならば、此処で登場するのは彼女以外に有り得ないのだから…!
『あれを受けては駄目』
 降ってくるギロチン、断罪の刃。
 竜宮レナの大鉈を見上げる梨花の脳裏に声が響いた。
 自分の体内を巡る超常の血、その大源が囁いている。
『命脈の殆どを断たれるわ。私と同調している今、即死はしないだろうけど』
『…ええ、分かってる。体を真っ二つにされた状態で悠長に這い回ってたら、あっという間に蜂の巣にされて終わりだものね』
 だがそう、言われるまでもなく分かっている。
 竜宮レナ。
 青い炎を静かに燃やす彼女は味方なら何処までも頼もしいが、敵に回るとこれ以上ない程恐ろしかった。
 それを誰より知っている梨花に限ってあの一刀を侮るなんて事は有り得ない。
 こんな所で致命傷を受けている訳にはいかない。
 全意識を集中させ、今や己の物となった血へ思考の全てを傾ける。
 この血は夜桜の血。
 神の如き力さえ実現させる桜の花。
 常識に囚われるな。
 そんなもの、金魚すくいの網のようにあっさりと打ち破ってしまえ。
 そのくらい出来ずしてこの馬鹿な親友を張り倒す事なんて出来るものか。
 確たる思いと共に命の残りを削り落とし、梨花は人体の限界をねじ伏せた。
「けったいな力を手に入れたのはあんただけじゃないのよ、沙都子!」
 隻腕から花が咲く。
 枝が伸びて、桜の大木を形成する。
 絡み付く枝葉で絡め取りながら幹の太さで鉈の切れ味を殺す。
 それがこの土壇場で古手梨花が用立てた、人間の体では絶対に不可能な無茶だった。
「ふふ――やるじゃありませんの、梨花。それでよくぞ人の事を化物呼ばわり出来たものですわ!」
「あら、誰に物を言っているの? 魔女としては私の方が遥かに先輩なのよ」
 結果、梨花は何とか窮地を脱する事に成功する。
 あれだけの無茶をしても受け止めた腕はバッサリと寸断されてしまったが、腕だけならば時間さえあれば回復可能だ。
 柳桜を口に咥えて腕の再生を待ちながら地面を踏み鳴らす。
 其処を起点に桜が芽吹き、波濤になって沙都子へ襲い掛かった。
 本家本元の夜桜ですら始祖以外は不可能だろう芸当。
 それも、寿命を代償にする覚悟とこの戦いに全てを懸ける意地が合わされば"可能"に変わる。
「えぇ、えぇ。そうでしたわね。けれど随分と冷たいのではなくて?」
「…? 何を言って……」
「"うまくいった"カケラの事しか覚えていないだなんて、それはあんまりにも傲慢と言うものでしょうに。
 まぁそれも魔女らしいと言えばそうですけれど――傲慢な魔女の末路は決まっていますのよ、梨花?」
 仕切り直しだ。
 早くも肘の先程度まで再生した腕を見ながらそう思っていた梨花の背筋に冷たいものが駆け抜けた。
 瞬時に気付きそして理解する。
 自分はとんだ見落としをしていた。
 そうだ――"罪滅し"のカケラは決して珍しいものではない。
 圭一が記憶を継承し、過去の罪を償いレナを救った事だけを見れば唯一無二だが…構造自体は比較的出現率の高いカケラだった。
 百年間の中でたった一度の成功例を露悪的に歪めたのが先の大鉈。
 では、残り全ての失敗例を現出させるならどんな形になるのか?
 その答えを古手梨花は知っている。
「火炙りですわ。さぁ、往生なさいませ!」
「ッ、ぐ…あ、ああああああッ!!」
 ――黒焦げのバラバラだ。



 桜の波が炎に包まれた。
 骨まで焦がす爆炎が、波を呑み込む津波となって梨花の総身を焼き尽くす。
“ッ…私の、馬鹿! こんな初歩的な見落としをしてるんじゃないわよ、この……!”
 分校にガソリンを撒き、生徒全てを人質にして立て籠もったレナ。
 その心を救う事叶わなかった世界の行く末は焦熱地獄以外に有り得ない。
 傲慢な見落としの罰に悶え狂う梨花を嗤いながら、沙都子は次を用立てに掛かった。
 ぱちん。
 指を鳴らす音が小気味よく響く。
 それと同時に、焼死体宛らの状態から元の美貌を取り戻しつつあった梨花の顔が痛みとはまた別の苦悶に歪んだ。
「…! これ、は……」
「女王感染者が死ねば黒幕の陰謀は最終段階に入る。
 雛見沢症候群罹患者の集団発症を抑止する為、雛見沢全体の滅菌処理が行われる…
 ――緊急マニュアル第34号。神に成り損ねた鷹野さんの分も、この私が使って差し上げますわ――この"祟り"を」
 火山性ガスに偽装した有毒ガスを用いた雛見沢村民全員の抹殺。
 雛見沢大災害。それが古手梨花が死んだ後の世界、その大半で起こる最大の惨劇だ。
 全ての命を"皆殺し"にする。
 絶対の意思で運命を手繰り寄せた神が、村の全てを"祟殺し"て終わらせる。
 そんな最大の死の形が世界の全てを満たした。
「御大層な血のようですけど、吸える空気のない世界じゃ生存可能な時間はたかが知れていますでしょう?」
 …今の古手梨花は超人だ。
 無呼吸でも常人の数倍、いや数十倍の時間は活動が可能だろう。
 だが決して永遠ではない。
 超人だろうが"人間"である以上は必ず限界がある。
 そしてそのリミットを無慈悲に早める手段を、此処での沙都子は文字通り無限に所持しているのだ。
 発射される銃弾、銃弾、銃弾。
 神剣で捌くにつれて刻限が早まる。
 試しに息を吸い込んでみたが、その結果は強烈な頭痛と文字通り死ぬ程の体調不良という形で顕れた。
“…駄目ね、吸えない。かと言って制限時間がある状態で勝てる程、沙都子は甘くない……”
 ならば詰みなのか。
 冷たい汗で全身を濡らしながら、梨花は連想された順当な結末に否を唱える。
“なら――”
 不可能ならばねじ伏せればいい。
 今の自分にはそれが出来る。
 先刻確かめたその事実を寄る辺に梨花は行動に出た。
「ぉ、……お、おおおおおお……ッ!」
「…っ、ふ、あはははははッ! なんですのそれ、とても正気とは思えませんわ!
 思わず笑ってしまいますわよ、そんなの! ええ、笑うなと言う方が無茶な話でしょう……!!」
 ガスを吸い込んで、苦悶にのたうつ。
 銃弾で体を蜂の巣に変えられても構わない。
 脳と心臓、生存続行の為に必要不可欠な急所以外への被弾は全て無傷と同義だとそう考える。
 そうまでしながら梨花は世界を満たす有毒気体を吸い込み――夜桜の徒でもなければ絶対に不可能な無茶を押し通そうとしていた。
「この死に、あらゆる命の袋小路たる大災害に――適応しようとするだなんて!」
 祟りだの命の袋小路だの。
 大仰な言い方をしてはいるが、結局の所蓋を開ければこんなものは只の毒だ。
 今、沙都子は雛見沢を舞台にした惨劇のカケラを再現する事に固執している。
 ならば毒の凶悪さそのものは強化されていたとしても、毒の組成や性質自体は据え置きだろうと彼女の拘りを信頼して梨花は賭けた。
 毒を敢えて体内に取り込み、超人の肉体の適応能力に物を言わせて耐性を獲得する。
『ひどい無茶ね。上手くいく保証はないわよ』
『…つぼみ。貴方なら、出来る?』
『私の本体なら…そうね、人界の毒を基にしているのなら可能ではあるでしょうけど』
『そう…安心したわ。だって今、私は他でもないその貴方に力を借り受けているんだもの』
 その言葉が、何よりの力になる。
 今の自分はつぼみだ。
 彼女と同調している。
 彼女と契約を交わしている。
 であれば出来ない筈はないと梨花は克己する事が出来たし、事実その瞬間から目に見えて彼女の体は死界の毒素に適応し始めていた。
『貴方の願いは私が叶えてあげる。だから貴方はまず先に、私の願いを叶えなさい』
『頼もしいわね。でも大丈夫かしら。私の血はあまりにも重く強いから。あまり欲張れば、体の方が先に限界を迎えるわよ』
『――上等、よ。貴方は何も考えなくていい。寄越せるだけ全部私に寄越しなさい』
 呼吸が少しずつ取り戻されていく。
 身を蝕む痛みが、血を無理に励起させた事による方の痛みで上塗りされていく。
『こっちは百年の惨劇を踏破した魔女なのよ。私に音を上げさせたいのなら、その三倍は用立ててから言うことね…!』
 結果、次に目を見開くのは沙都子の方になった。
 放たれていた銃弾を斬り伏せ。
 作動したトラップの数々を薙ぎ払い。
 そうして距離を詰めるなり、まずはこれまでのお礼とばかりに沙都子の脇腹へ一太刀入れる。
「ッッ…!」
「痛いでしょう。泣き虫だったものね、あんた」
「はッ――たったの一撃入れたくらいで調子に乗るなんて、無様が過ぎますわよ梨花ぁッ!」
 舞い散る鮮血。
 苦悶に歪む蒼白の顔。
 夜桜の血で編まれた刀は形こそ神剣だが、その性質は傷口から桜の遺伝子をねじ込む妖刀だ。
 異界のモノと混ざり変質した肉体にさえ激痛を齎す強き血。
 沙都子はその痛みを受けながら確信した。
 これは――この刃は自分に届く。
 神に成った自分をさえ殺せる。
 その事実は沙都子の全能感を著しく傷付けたが、しかし。
 そんな屈辱さえ一瞬の後には歓喜に変わる。
「やっぱり楽しいですわね、本気で戦う部活は。
 惨劇を手繰る魔女をやるのも性に合っていましたけど…あぁ、やっぱり私はこっちがいい!」
「ならさっさと戻って来なさいな。どだい似合ってないのよ、あんたに魔女だのゲームマスターだのは!」
「ふふ、ふふふふ――その台詞は私に勝ってから吐く事をお薦めしますわ!」
 相手は梨花なのだ。
 二人きりで行う一世一代の大勝負。
 自分達にとっての、最高の部活の場なのだ。
 ああならばこのくらいはしてくれなければ張り合いがないというもの。
 指を鳴らす――刹那にして世界が書き換わる。
 崩れた吊り橋。
 真下には沢。
 "祟殺し"のカケラの顛末を再現しながら、沙都子は落下していく梨花に銃を向けた。
 他ならぬ自らも自由落下に身を任せて虚空に身を踊らせながら。
「お覚悟。なさいませ」
 真上から真下へと連続発砲。
 物理法則さえ無視して殺到する魔弾は言わずもがな致死だ。
 今の梨花は間違いなく超人だったが、それでも頭部と胸部への被弾は徹底して避けている事に沙都子は既に気付いていた。
 だからこそ此処から先はその二点しか狙わない。
 再生ありきの無茶苦茶な戦法なぞ許すものか。
 徹底的に動きを封じ込めて潰して、その上で完膚無きまでの敗北を味わせてやる。
 哄笑と共に迫る墜落の魔弾。
 それに対し梨花は逃げも隠れも、焦りすらもしない。
「もう見飽きたわ、あんたの反則は」
「あら梨花らしくもない。反則だろうが何だろうが最後に勝った者が官軍、魅音さんはいつもそう言っていたでしょう?」
「ええ、だから咎めるんじゃなく"見飽きた"と言ったのよ」
 部活メンバーの中では反則は咎めるものでなく、見抜いた上で打ち破るもの。
 だから梨花もそれに倣う。
 柳桜を水平に構えて弾丸を弾きながら桜を咲かせ、即席の盾を作る。
 沙都子の弾の威力は侮れない。
 これしきの守りなど数秒と保たず破られるだろう。
 それを承知で梨花は盾から更に枝を伸ばし、それで以って彼女の足を絡め取った。
「んな、ッ…!」
「降りてきなさい。いつまでも神様気取りで見下してるんじゃないわよ――馬鹿沙都子ッ!」
 そのまま真下へ引きずり下ろして。
 二人の位置座標が挿げ替わるその瞬間、梨花は動いた。
 柳桜での一閃。
 繰り返す者を殺す神剣、その写し(レプリカ)。
 輝き蠢く桜花の刃を、親友の胴へ逆袈裟に閃かせた。
「…ち、ぃいッ……!」
 沙都子の口から血が溢れ出す。
 異界の羽虫が犇めいて失われた部分の肉を補填するが、体内に入った桜の血まではすぐに掻き消せない。
 細胞一つ一つが棘だらけの虫に纏わり付かれているような想像を絶する激痛。
 痛い。
 痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――よくも。
 よくもこのオヤシロさまたる私にこんなものを味わせましたわねと、沙都子は激痛の中で壮絶に笑いながら沢に落ちた。


 水飛沫があがる。
 膝を突きながら立ち上がるその姿を、着地を果たした古手梨花が見つめていた。
「立ちなさい、沙都子。それともたった一度やり返された程度でもう音を上げてしまうの?」
「…ふッ。誰に物を言っているんですの、梨花ぁ……!」
 そう、言われるまでもない。
 この程度で折れる精神性ならばそもそも百年のループの追体験に耐えられなかったろう。
 北条沙都子には紛れもなく魔女の資質があった。
 古手梨花のように運命へ立ち向かうのではなく、運命を弄ぶ側としての才能があった。
 そしてそれは今、蘆屋道満の悪意を最後のピースとして完成するに至ったのだ。
 たかだか一度の辛酸程度余さず飲み干して糧に変えよう。
 その程度の事も出来なくて、何故百年を走り抜けたこの黒猫を…奇跡の魔女を捕まえられるというのか。
「さあ、次は何。そろそろカケラ巡りも品切れでしょう。此処からはあんたが紡いだ悪趣味な蛇足のカケラでも出してくるのかしら?」
「ふ、ふふ。品切れ? 聞き違いかしら。品切れと仰いましたの、今?」
 梨花の言葉を受けた沙都子は笑う。
 心底おかしくて堪らないという風に。
「雛見沢大災害。昭和58年6月の終着点としては、確かになかなか救えない悲惨さですわ」
 だがそれは特定のカケラでだけ起こる出来事ではない。
 暴走した何某かによって古手梨花が殺害されるというイレギュラーな事態。
 悪魔の脚本家である鷹野三四の手に掛からず梨花が死んだ世界を除けば、他全てのカケラでは滅菌作戦が実行されている。
 言うなれば雛見沢大災害は予定調和の一つ。物語を閉じる為の舞台装置に過ぎないのだ。
「まぁでも心当たりがなくても仕方ありませんわね。だって梨花、貴方はその世界であった事を覚えていないんですもの」
 古手梨花は全てのカケラの記憶を持つ。
 しかし一つだけ。
 たった一つだけ、記憶の継承に失敗したカケラがあった。
 それは"罪滅し"のカケラをすら上回る奇跡の結晶。
 惨劇のキーマン達が皆過去に学び、過ちを繰り返さず。
 狂気への誘惑に打ち勝ち、皆で手を取り合って運命を打開した最上のカケラ。
 禿鷹の悪意に踏み躙られて尚、最後の世界へと続く希望を体現してみせたとある物語。
 その記憶を――梨花は有していない。
 だからこそこれを予期する事は彼女には絶対に不可能だった。
 …いや。
 仮に予想出来ていたとしても、きっと梨花は何も出来なかったろう。
 絶対の運命とはそういうもの。
 奇跡の介在する余地すら奪い、一方的に結末のみを押し付ける最低最悪の袋小路。
 故に沙都子は此処で切り札としてそれを切る事を決めた。
 今の北条沙都子はこの閉ざされ停滞した雛見沢に君臨する現人神。
 あまねく運命、あまねく惨劇をその掌で弄ぶ事を許された絶対の魔女。
 そんな彼女が繰り出す究極の袋小路(うんめい)が今発現する。


「――え?」
 異変に気付いた。
 その瞬間にはもう全てが遅い。
 一太刀入れ、沙都子に小さくない痛手を与えた梨花の体は…どういう訳か一寸たりとも動かせなくなっていた。
 ガスによる麻痺だとかそういうのでは断じてない。
 これはそういうものではない。
 まるで世界そのものが時を刻むのを止めてしまったかのように、体の隅から隅までが凍っている。
 夜桜の血も流れる事を止めて不変を貫き、細胞も筋肉も全てがそれに倣っているという異常事態。
“違う、これは…”
 いいや、違う。
 私はこれを知っている。
 このカケラを知っている!
 記憶と言うには足りない航海の断片が。
 継承に失敗した結果、脳の深奥を漂うのみとなっていたとあるカケラの残骸が。
 古手梨花に確かな既視感を持って目前の現実を認識させた。
 しかしそれは何の希望にも繋がらない。
 寧ろ真逆だった。
 記憶を辿って既視感を得、そうして理解出来た事実は只一つ。
“これは――避けられない”
 避けられない。
 これは。
 これだけは駄目だ。
 そう確信させる光景が脳裏を流れていく。

  梨花ちゃん。
  最後の最後にごめんな。
  運命なんか覆せるって大見得切ったのに…最初にリタイアしちまう。

 希望が散る絶望の一瞬。
 最高の世界が一瞬で地に落ちる。
 その世界で何があったのかは思い出せなくとも、その絶望の味だけは思い出せた。
 この凍った世界の中で動ける者は誰も居ない。
 覆せない運命が古手梨花を凍らせ、そして北条沙都子の勝利を確定させた。



「終わりですわ、梨花」
 …この雛見沢は。
 この"禁忌停滞庭園"は。
 北条沙都子の心象風景であり生得領域だ。
 固有結界化は既に果たしている。
 繰り返しによって蓄積させてきた神秘。
 龍脈の力。
 異界の神の一部。
 三種のブーストは沙都子を生半なサーヴァントを十把一絡げに蹴散らせる"神"として成立させた。
 そして今此処で解放したのは心象風景の具現化ではなく。
 生得領域の内側を空間を司る外神の権能で結界の形に切り分けて梨花一人のみを隔離し、その上で沙都子自身の術式を付与する離れ業だった。
「これこそが絶対の運命。強く気高い思いで願った祈りは必ず現実になるんですのよ」
 北条沙都子は呪術師ではない。
 だがその才能は恐らく、古手梨花の比ではない程に高い。
 だからこそ人外化を果たすと同時に沙都子は自らの術式を覚醒させる事に成功していた。
 それこそが現実をねじ伏せる最後の隠し味。
 絶対の魔女が繰り出す絶対の魔法、それを完成させる最終要素。
「私は、あの尊い時間が永遠になればいいと思った」
 北条沙都子の生得術式。
 それは――"停滞"。
 時へ影響を及ぼす。
 時を遅滞させ、愛する時間を永遠に近付けんとする過去への憧憬。
 平時であれば彼我の動作に伴う時間を多少動かす程度が関の山であるが。
 上述の"離れ業"を前提として打つ場合に限り、彼女の術式は必殺と化す。
「そしてその願いを、私は絶対に叶えてみせますわ。愛する世界の全てを地獄に変えても、必ず…!」
 時は止まっている。
 動ける者は何一つとしてない。
 ――故に必中。
 時は止まっている。
 沙都子の弾丸は撃ち落とせない。
 ――故に必殺。
「これこそがオヤシロさまの祟り」


 必中必殺。
 呪術の世界において、人はそれを"領域展開"と呼ぶ。
 沙都子は素養はあるが呪術師としては成り立ての未熟者でしかない。
 結界の規模は極めて小さく。
 おまけに狙える相手も一人のみという有様。
 不細工。そして不格好な領域だ。
 これでは呪いの王は愚か、呪術全盛の時代を生きた猛者達にすら遠く及ぶまい。
 だが――それでもいい。
 沙都子は何も気にしない。
 目指しているのは強者などではないのだ。
 万人を弄ぶ神でなくたって、極論構いなどしないのだ。
「私が貴方に下す、絶対の運命――!」
 古手梨花だけが居れば、他には何も要らない。
 梨花だけを捕らえ続ける神であれればそれでいい。
 自分の全てを曝け出した究極の術式開示。
 百年分のカケラ、その内容をなぞり続ける極限の縛り。
 以上をもって沙都子の領域は、駆ける黒猫に対して最大最強の効果を発揮する。


 …弾丸が放たれた。
 止まった世界の中を古手梨花は動けない。
 その胸に。
 脈動すら凍った心臓に、弾丸が優しく触れて――

 たん。

 そんな軽い音と共に、古手梨花の敗北が確定した。


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最終更新:2023年08月08日 02:53