ひょんなことから女の子
クロ/クロ 6『XX*n(前編)』
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24 名前: 長目 『クロ/クロ』6-1 投稿日: 2006/08/23(水) 23:48:19.16 ID:XonPvbNG0
秋――薄手の服では肌寒く感じるようになってきた日のことだった。
秋――薄手の服では肌寒く感じるようになってきた日のことだった。
俺「……なぁ」
天「何?」
俺「お前さぁ……」
天「うん」
俺「人のひざの上に座るのやめねぇ?」
天才は俺のひざに乗り、足をぶらぶらさせながら
コンビニのフルーツポンチに舌鼓を打っていた。
天「別にいいでしょ。最近寒いし。この方があったかいし」
俺「…………」
葛「うふふ~」
天「――食べたいの?」
俺「いや、そういうことじゃなくてな」
天「はい、あーん」
俺「聞けぇ!」
天「何?」
俺「お前さぁ……」
天「うん」
俺「人のひざの上に座るのやめねぇ?」
天才は俺のひざに乗り、足をぶらぶらさせながら
コンビニのフルーツポンチに舌鼓を打っていた。
天「別にいいでしょ。最近寒いし。この方があったかいし」
俺「…………」
葛「うふふ~」
天「――食べたいの?」
俺「いや、そういうことじゃなくてな」
天「はい、あーん」
俺「聞けぇ!」
あれからというもの、随分と天才には懐かれてしまった。
そういえば、あのキンキン声も最近は聞かないな。
そういえば、あのキンキン声も最近は聞かないな。
……まぁ、その、正直、悪い気はしないんだが。
25 名前: 長目 『クロ/クロ』6-2 投稿日: 2006/08/23(水) 23:51:03.54 ID:XonPvbNG0
秋も深まってきたし、そろそろ本格的に冬の仕度がいる頃だ。
いやしかし、冬は厚着ができるのが良いよな。うん。
今の服はちょっと問題ありだったし。
葛と(というか葛が)選んだ服は、ミニスカートだのフリル付きだのばかり。
いい加減慣れたとも思うんだが、ふとした時に男だった頃の自分を思い出すと、
途端に恥ずかしくて身悶えしそうになるのだ。
秋物の時も葛に乗せられてしまったが……今度はもうその手にはかからねぇ。
ここは一発、自分で服を買いに行ってくるか。
……まぁ、自分一人で女物の服屋に行かなきゃならないのはキツいが、仕方がない。
俺「よし、行ってくるか」
葛「旅行の準備ですか?」
俺「なんでだよ」
振り向きざまにツッコミを入れると、葛は床に雑誌を広げて読み入っていた。
見出しには『2泊3日温泉旅行の旅特集』とある。
秋も深まってきたし、そろそろ本格的に冬の仕度がいる頃だ。
いやしかし、冬は厚着ができるのが良いよな。うん。
今の服はちょっと問題ありだったし。
葛と(というか葛が)選んだ服は、ミニスカートだのフリル付きだのばかり。
いい加減慣れたとも思うんだが、ふとした時に男だった頃の自分を思い出すと、
途端に恥ずかしくて身悶えしそうになるのだ。
秋物の時も葛に乗せられてしまったが……今度はもうその手にはかからねぇ。
ここは一発、自分で服を買いに行ってくるか。
……まぁ、自分一人で女物の服屋に行かなきゃならないのはキツいが、仕方がない。
俺「よし、行ってくるか」
葛「旅行の準備ですか?」
俺「なんでだよ」
振り向きざまにツッコミを入れると、葛は床に雑誌を広げて読み入っていた。
見出しには『2泊3日温泉旅行の旅特集』とある。
俺「お前……温泉行くのか?」
葛「ええ~、冬といったら温泉ですよ~」
葛「夏はドタバタしちゃって、海にも行けませんでしたし~」
夏の間はまだ俺の身体変化が安定しておらず、
出先でトラブルが起きても困るということで、あまり遠出はできなかった。
まぁ、水着を着るには難のある奴が2人もいるんだ、
海だのプールだのへ行かずに済んだのは幸運だろう。
……葛の水着姿は見てみたい気もしたが。
コイツ、スタイルは良い――というか、言っちまうと胸大きいしなぁ。
葛「ええ~、冬といったら温泉ですよ~」
葛「夏はドタバタしちゃって、海にも行けませんでしたし~」
夏の間はまだ俺の身体変化が安定しておらず、
出先でトラブルが起きても困るということで、あまり遠出はできなかった。
まぁ、水着を着るには難のある奴が2人もいるんだ、
海だのプールだのへ行かずに済んだのは幸運だろう。
……葛の水着姿は見てみたい気もしたが。
コイツ、スタイルは良い――というか、言っちまうと胸大きいしなぁ。
26 名前: 長目 『クロ/クロ』6-3 投稿日: 2006/08/23(水) 23:52:44.57 ID:XonPvbNG0
俺「って、お前たしか8月前半は丸々休んでただろ。実験始まったばっかだってのに」
俺「あの時遊んでたんじゃないのかよ」
葛「失礼ですね~。神聖な創作活動にいそしんでたんですよ~」
俺「は? 捜査……何?」
葛「いえいえ、なんでもないんですよ~? うふふふ~」
いつも通りの笑顔で誤魔化す葛。
……まぁ、聞いても無駄そうだし、深く突っ込まないでおこう。
ほぼ共同生活だってのに、相変わらずプライベートがどうなっているのか謎な奴だ。
俺「って、お前たしか8月前半は丸々休んでただろ。実験始まったばっかだってのに」
俺「あの時遊んでたんじゃないのかよ」
葛「失礼ですね~。神聖な創作活動にいそしんでたんですよ~」
俺「は? 捜査……何?」
葛「いえいえ、なんでもないんですよ~? うふふふ~」
いつも通りの笑顔で誤魔化す葛。
……まぁ、聞いても無駄そうだし、深く突っ込まないでおこう。
ほぼ共同生活だってのに、相変わらずプライベートがどうなっているのか謎な奴だ。
葛「ということで~。温泉へ行きましょう~」
天「行楽のシーズンだしね」
天「いいよ、行ってらっしゃい」
葛「先生も行きましょうよ~」
天「私はいいよ。その間にまとめたいデータがあるから」
と、天才は素っ気ない。
まぁ、こいつからすりゃ他の奴と一緒に風呂に入るようなリスクは負いたくないわな。
葛「ユウキちゃんからも言って下さいよ~」
俺「待て。俺も頭数に入ってるのか?」
葛「当たり前じゃないですか~。この3人で行くんですよ~」
葛「お二人とも冷たいですねぇ。泣いちゃいますよ~」
よよよ~、と袖口で顔を覆う葛。
だが、その言葉もろくに聞こえていなかった。
……俺と、天才と、葛で……温泉に?
天「行楽のシーズンだしね」
天「いいよ、行ってらっしゃい」
葛「先生も行きましょうよ~」
天「私はいいよ。その間にまとめたいデータがあるから」
と、天才は素っ気ない。
まぁ、こいつからすりゃ他の奴と一緒に風呂に入るようなリスクは負いたくないわな。
葛「ユウキちゃんからも言って下さいよ~」
俺「待て。俺も頭数に入ってるのか?」
葛「当たり前じゃないですか~。この3人で行くんですよ~」
葛「お二人とも冷たいですねぇ。泣いちゃいますよ~」
よよよ~、と袖口で顔を覆う葛。
だが、その言葉もろくに聞こえていなかった。
……俺と、天才と、葛で……温泉に?
27 名前: 長目 『クロ/クロ』6-4 投稿日: 2006/08/23(水) 23:55:05.22 ID:XonPvbNG0
俺「まっ、待て! それはまずいだろ色々と!」
水着を通り越していきなり裸のお付き合いですか!?
風呂という条件が重なれば、いい歳して鼻血すら出しかねん!
いや、そうじゃねぇ! 問題はやはり天才だ!
俺「あれだ、日帰りで遊園地とかの方がいいだろ! ほら……な!?」
力一杯主張する俺。
遊園地なら裸のお付き合いをする機会はないだろう。
葛「ええ~、でも~」
俺「いいじゃないか。俺らはどっちかっていうと外出しなくて良い派だし」
俺「こっちとそっちの折衷案ていうことで」
葛「うう~。分かりました~」
天「遊園地に行くの?」
俺「あぁ。お前もそれならいいだろ?」
天才はしばし俺と葛の顔を交互に見やっていたが、
天「うん」
と、頷いた。
俺「まっ、待て! それはまずいだろ色々と!」
水着を通り越していきなり裸のお付き合いですか!?
風呂という条件が重なれば、いい歳して鼻血すら出しかねん!
いや、そうじゃねぇ! 問題はやはり天才だ!
俺「あれだ、日帰りで遊園地とかの方がいいだろ! ほら……な!?」
力一杯主張する俺。
遊園地なら裸のお付き合いをする機会はないだろう。
葛「ええ~、でも~」
俺「いいじゃないか。俺らはどっちかっていうと外出しなくて良い派だし」
俺「こっちとそっちの折衷案ていうことで」
葛「うう~。分かりました~」
天「遊園地に行くの?」
俺「あぁ。お前もそれならいいだろ?」
天才はしばし俺と葛の顔を交互に見やっていたが、
天「うん」
と、頷いた。
葛「さてさて、そうと決まったらさっそく計画を練らないと」
葛「言いだしっぺですし、プランは私に任せて下さいね~」
そう言うなり葛は自分の部屋に引っ込んでしまった。
俺「あいつって、旅行好きだったんだなぁ」
そういえば大学時代もちょくちょく行方をくらませていたような。
まぁ、それなら計画は任せておけば安心だろう。
葛「言いだしっぺですし、プランは私に任せて下さいね~」
そう言うなり葛は自分の部屋に引っ込んでしまった。
俺「あいつって、旅行好きだったんだなぁ」
そういえば大学時代もちょくちょく行方をくらませていたような。
まぁ、それなら計画は任せておけば安心だろう。
28 名前: 長目 『クロ/クロ』6-5 投稿日: 2006/08/23(水) 23:58:18.11 ID:XonPvbNG0
俺はひざの上の天才を見た。
俺「なぁ、お前ってさ、身長いくつ?」
天「この前計った時は128cmだったよ」
天「何、急に?」
俺「いや、ジェットコースター乗れんのかな、って」
128か……アレって何センチからオッケーだったかな。120? 130?
天「別に乗れなくてもいいけど」
俺「あぁ、怖いのは嫌いか?」
天「好きじゃないよ。負の感情を楽しむっていう精神が理解できないし」
何やら難しそうな言葉を並べてるが、要は怖いんじゃないか。
俺「んー、それじゃまったり系か?」
天「メリーゴーラウンドとか?」
俺「それは……俺が遠慮したいなぁ、年齢的に」
天「気にすることもないと思うけど」
俺はひざの上の天才を見た。
俺「なぁ、お前ってさ、身長いくつ?」
天「この前計った時は128cmだったよ」
天「何、急に?」
俺「いや、ジェットコースター乗れんのかな、って」
128か……アレって何センチからオッケーだったかな。120? 130?
天「別に乗れなくてもいいけど」
俺「あぁ、怖いのは嫌いか?」
天「好きじゃないよ。負の感情を楽しむっていう精神が理解できないし」
何やら難しそうな言葉を並べてるが、要は怖いんじゃないか。
俺「んー、それじゃまったり系か?」
天「メリーゴーラウンドとか?」
俺「それは……俺が遠慮したいなぁ、年齢的に」
天「気にすることもないと思うけど」
そんな感じで、しばらく遊園地の予定トークを楽しんだ後、
天「そろそろ部屋に戻るよ」
と、天才が俺のひざからぴょんと飛び降りた。
天「あ、そうだ」
天才は自分のポケットから鍵を取り出すと、俺に手渡す。
なんかデジャヴだな。
俺「なんの鍵だ?」
天「私の部屋の合鍵。昨日できたから」
天「私は君の部屋に好きに入ってるでしょ。だから君も好きにしていいよ」
俺「……お、おぅ。そうする」
……懐かれてるなぁ。
天「そろそろ部屋に戻るよ」
と、天才が俺のひざからぴょんと飛び降りた。
天「あ、そうだ」
天才は自分のポケットから鍵を取り出すと、俺に手渡す。
なんかデジャヴだな。
俺「なんの鍵だ?」
天「私の部屋の合鍵。昨日できたから」
天「私は君の部屋に好きに入ってるでしょ。だから君も好きにしていいよ」
俺「……お、おぅ。そうする」
……懐かれてるなぁ。
29 名前: 長目 『クロ/クロ』6-6 投稿日: 2006/08/24(木) 00:00:31.44 ID:9sFpj6Ym0
結局、最初に言っていた通り、日取りや場所は葛があっさりと決めてくれた。
電車やバスの路線図まで調べてくれたので、俺たちはそれに従うだけだ。
いやー、楽で良いわ。
俺「で、どこにしたんだ?」
葛「うふふ~、それは当日のお楽しみですよ~」
結局、最初に言っていた通り、日取りや場所は葛があっさりと決めてくれた。
電車やバスの路線図まで調べてくれたので、俺たちはそれに従うだけだ。
いやー、楽で良いわ。
俺「で、どこにしたんだ?」
葛「うふふ~、それは当日のお楽しみですよ~」
…………。
という訳で、当日の午後。
電車とバスを乗り継いだ数時間の旅の後、俺たちは……
電車とバスを乗り継いだ数時間の旅の後、俺たちは……
ちょっと豪華な感じのする温泉旅館の前にいた。
美しい紅葉が山々を染め上げ、静謐な空気が時折木枯らしとなって吹きすぎる。
当然、遊園地なんて影も形も見当たらない。
当然、遊園地なんて影も形も見当たらない。
葛「うふふふ~、さぁ、行きましょうか~」
荷物を女中さん預け、上機嫌で旅館へと入っていく葛。
対して、俺と天才は唖然としてその入口に立ちつくしている。
いや、おかしいとは思っていたんだ。
バスが高速を降りてから、随分と山に入っていくし。
だが、その時にはもう遅かった。
まさか、ここまでやるとは……予想していなかった……。
荷物を女中さん預け、上機嫌で旅館へと入っていく葛。
対して、俺と天才は唖然としてその入口に立ちつくしている。
いや、おかしいとは思っていたんだ。
バスが高速を降りてから、随分と山に入っていくし。
だが、その時にはもう遅かった。
まさか、ここまでやるとは……予想していなかった……。
だっ……
俺「騙されたーっ!!」
30 名前: 長目 『クロ/クロ』6-7 投稿日: 2006/08/24(木) 00:04:08.88 ID:9sFpj6Ym0
……なんだ、なんなんだこの行動力は。
葛……前々からただ者ではないと思っていたが……
今日はその恐ろしさの片鱗を見たな……。
……なんだ、なんなんだこの行動力は。
葛……前々からただ者ではないと思っていたが……
今日はその恐ろしさの片鱗を見たな……。
こうしていてもしょうがないので、俺は中へ上がろうとした。
その瞬間、くいっ、と服の袖が引かれる。
天「…………」
天才がこちらを見上げていた。
驚きと戸惑いと恐れと、とにかく色んな感情がごた混ぜの表情――
総じていうなら――早くも涙目だ。
なっ、泣くなよぉ……。
そんな顔をされると俺まで泣きそうになる。
そうでなくても情けない顔をしてるだろうとは思うが。
その瞬間、くいっ、と服の袖が引かれる。
天「…………」
天才がこちらを見上げていた。
驚きと戸惑いと恐れと、とにかく色んな感情がごた混ぜの表情――
総じていうなら――早くも涙目だ。
なっ、泣くなよぉ……。
そんな顔をされると俺まで泣きそうになる。
そうでなくても情けない顔をしてるだろうとは思うが。
俺「……とにかく、入ろうぜ」
葛「お二人ともどうしたんです~? 早く行きましょうよ~」
廊下の向こうから当社比3倍くらいに浮かれた葛の声がする。
俺「今行くから待ってろ!」
俺はそれに叫び返すと、天才の頭をなでた。
俺「風呂に入る時は、俺がなんとかするから」
と、小声で耳打ちする。
それを聞いて、ようやっと天才は頷いた。
天「……うん」
葛「お二人ともどうしたんです~? 早く行きましょうよ~」
廊下の向こうから当社比3倍くらいに浮かれた葛の声がする。
俺「今行くから待ってろ!」
俺はそれに叫び返すと、天才の頭をなでた。
俺「風呂に入る時は、俺がなんとかするから」
と、小声で耳打ちする。
それを聞いて、ようやっと天才は頷いた。
天「……うん」
31 名前: 長目 『クロ/クロ』6-8 投稿日: 2006/08/24(木) 00:08:54.45 ID:9sFpj6Ym0
葛「おん、せん♪ おん、せん~♪」
俺「気が早ぇよ。あとテンションが高ぇよ」
部屋に入ると、すでに浴衣に着替えた葛がいた。
なんだ? こいつだけ時間の流れが速いのか?
天「…………」
対して天才のテンションは下がりっぱなしだ。
葛「おん、せん♪ おん、せん~♪」
俺「気が早ぇよ。あとテンションが高ぇよ」
部屋に入ると、すでに浴衣に着替えた葛がいた。
なんだ? こいつだけ時間の流れが速いのか?
天「…………」
対して天才のテンションは下がりっぱなしだ。
葛「夕ご飯まで時間はありますし、早く行きましょうよ~」
俺「着くなり速攻入るのかよ」
俺「……先に行っててくれ。俺たちも浴衣に着替えてから行くから」
葛「そうですか? じゃあ、お先に大浴場へ行ってますね~」
ぱたぱたと今にも飛びそうなほどに軽やかな足取りで、葛は廊下の奥へ消えていった。
俺「着くなり速攻入るのかよ」
俺「……先に行っててくれ。俺たちも浴衣に着替えてから行くから」
葛「そうですか? じゃあ、お先に大浴場へ行ってますね~」
ぱたぱたと今にも飛びそうなほどに軽やかな足取りで、葛は廊下の奥へ消えていった。
俺「さて、しょうがねぇ、浴衣に着替えるか」
水着でもあればいいんだが、生憎、遊園地に行くつもりだった俺たちだ、
そんなものがあるはずもない。
というか多分、二人とも(俺の場合は女物の)水着という物を買ったことすらない。
もう腹をくくるしかないな。
思いつつ俺は腕まくりを……って、違う。脱ぐんだろうが。
随分と慌ただしくしていたんだろうか、
そんな俺の様子を見ていた天才は、くすりと笑った。
天「そうだね、早く着替えて行こうか」
俺「お前も腹をくくったか?」
天「うん、こうなったらしょうがないでしょ」
水着でもあればいいんだが、生憎、遊園地に行くつもりだった俺たちだ、
そんなものがあるはずもない。
というか多分、二人とも(俺の場合は女物の)水着という物を買ったことすらない。
もう腹をくくるしかないな。
思いつつ俺は腕まくりを……って、違う。脱ぐんだろうが。
随分と慌ただしくしていたんだろうか、
そんな俺の様子を見ていた天才は、くすりと笑った。
天「そうだね、早く着替えて行こうか」
俺「お前も腹をくくったか?」
天「うん、こうなったらしょうがないでしょ」
32 名前: 長目 『クロ/クロ』6-9 投稿日: 2006/08/24(木) 00:11:32.22 ID:9sFpj6Ym0
浴衣に着替え終えた俺たちは、葛が用意しておいた入浴道具一式を手に廊下へ出た。
案内図に従って進んでいくと、ほどなく『大浴場』と書かれた大きな看板を見つける。
俺「ここ、か」
天「そうだね」
看板の下には『男湯』『女湯』と書かれたのれんが掛けられていた。
その向こうが俺たちの戦場だ。
浴衣に着替え終えた俺たちは、葛が用意しておいた入浴道具一式を手に廊下へ出た。
案内図に従って進んでいくと、ほどなく『大浴場』と書かれた大きな看板を見つける。
俺「ここ、か」
天「そうだね」
看板の下には『男湯』『女湯』と書かれたのれんが掛けられていた。
その向こうが俺たちの戦場だ。
脱衣所に入る時はなかなかに緊張したが、
いざ入ってみると人は誰もおらず、ますは一安心といったところだった。
いざ入ってみると人は誰もおらず、ますは一安心といったところだった。
浴衣を脱いで、タオルを身体に巻く。
胸の横でタオルの端を重ねると、無理矢理内側へ折り込んだ。
そういや胸の上でタオル巻くって経験、あまりないな。
胸の横でタオルの端を重ねると、無理矢理内側へ折り込んだ。
そういや胸の上でタオル巻くって経験、あまりないな。
隣では天才が、タオルを巻いてから下を脱いでいた。
……なんか水泳の授業の着替えみたいだな。
天「何?」
俺「あぁ、いや、なんか、思ったより落ち着いたな」
天「そう?」
俺「いやぶっちゃけ、帰るまでずっとテンション低いままかと思ってた」
天「そんな人を空気読めない人みたくいわないでよ」
一瞬眉をひそめた天才は、微笑んで続けた。
天「せっかくの旅行だし、楽しみたいもん」
俺「そうか。そうだな」
俺「タオル落とさないように気を付けろよ」
天「うん」
……なんか水泳の授業の着替えみたいだな。
天「何?」
俺「あぁ、いや、なんか、思ったより落ち着いたな」
天「そう?」
俺「いやぶっちゃけ、帰るまでずっとテンション低いままかと思ってた」
天「そんな人を空気読めない人みたくいわないでよ」
一瞬眉をひそめた天才は、微笑んで続けた。
天「せっかくの旅行だし、楽しみたいもん」
俺「そうか。そうだな」
俺「タオル落とさないように気を付けろよ」
天「うん」
33 名前: 長目 『クロ/クロ』6-10 投稿日: 2006/08/24(木) 00:16:08.29 ID:9sFpj6Ym0
――ふと、俺は苦笑しそうになる。
ただ風呂に入るだけなのに、何を俺たちはこんなに必死になってるんだろう、と。
だが――
俺「…………」
天才を見た。
今、天才はタオルが落ちないように、丁寧に端を折り込んでいる。
そうだよな。
多くの奴らには何でもないようことに見えたって、コイツにとっては深刻な問題なんだ。
下世話な言葉を使うなら、『普通』とは外れた場所にいる存在。
問題は常について回り、普段であっても気を抜くことは許されない。
コイツの立っている場所は、そういう危うい場所なのだ。
――ふと、俺は苦笑しそうになる。
ただ風呂に入るだけなのに、何を俺たちはこんなに必死になってるんだろう、と。
だが――
俺「…………」
天才を見た。
今、天才はタオルが落ちないように、丁寧に端を折り込んでいる。
そうだよな。
多くの奴らには何でもないようことに見えたって、コイツにとっては深刻な問題なんだ。
下世話な言葉を使うなら、『普通』とは外れた場所にいる存在。
問題は常について回り、普段であっても気を抜くことは許されない。
コイツの立っている場所は、そういう危うい場所なのだ。
俺は仕度を終えた天才の手を握ってやる。
俺「さ、行くか」
しかし、天才は立ちつくしたまま、動かない。
俺「……どうした?」
天「なんか、嬉しいな」
俺「ん?」
天「これまでは、こういう時って独りでなんとかしなきゃならなかったから」
俺「…………」
天「でも、今は君がいるでしょ?」
俺「さ、行くか」
しかし、天才は立ちつくしたまま、動かない。
俺「……どうした?」
天「なんか、嬉しいな」
俺「ん?」
天「これまでは、こういう時って独りでなんとかしなきゃならなかったから」
俺「…………」
天「でも、今は君がいるでしょ?」
天「心強いよ」
そう言うと天才は、笑顔で俺の手を握り返した。