ひょんなことから女の子
クロ/クロ 9『XY XY(後編)』
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628 名前: 長目 投稿日: 2006/08/30(水) 02:01:51.96 ID:Ow5ywfEI0
9『XY XY(後編)』
9『XY XY(後編)』
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天才の部屋のドアに飛びついた俺は、合い鍵を使って鍵を開けた。
力一杯にドアノブを引くが、がちんと音がしてすぐに止まってしまう。
キーチェーンはかけないのが俺たちの間の不文律だったのだが、
兄がかけてしまったのだろうか、今はそれが扉を繋ぎ止めている。
俺「くそっ!」
葛「ユウキちゃん!」
部屋にとって返した葛が、工具を手にして駆け寄ってきた。
俺は妙に大きなニッパー受け取ると、力任せにシリコンチューブごとチェーンを切断する。
力の込めすぎで指が痛んだが、気にしている暇はない。
部屋に飛び込むと、キッチン、リビングを駆け抜け、寝室の扉を壊れそうな勢いで開けた。
そして、すぐさま電気をつける。
力一杯にドアノブを引くが、がちんと音がしてすぐに止まってしまう。
キーチェーンはかけないのが俺たちの間の不文律だったのだが、
兄がかけてしまったのだろうか、今はそれが扉を繋ぎ止めている。
俺「くそっ!」
葛「ユウキちゃん!」
部屋にとって返した葛が、工具を手にして駆け寄ってきた。
俺は妙に大きなニッパー受け取ると、力任せにシリコンチューブごとチェーンを切断する。
力の込めすぎで指が痛んだが、気にしている暇はない。
部屋に飛び込むと、キッチン、リビングを駆け抜け、寝室の扉を壊れそうな勢いで開けた。
そして、すぐさま電気をつける。
ベッドの上には兄と、その下に組み敷かれている天才の姿があった。
天才がいつかの時の以上の、悲痛な悲鳴を漏らす。
……っ!
兄「W....What....」
俺「何してんだっ!」
怒鳴りつけざまに、背後から兄の襟首を掴む俺。
兄の身体は女の力でも簡単に引きずり倒すことができた。
ベッドから転げ落ち、もんどりうつ兄。
俺「てめえ……何してんだよ!」
……っ!
兄「W....What....」
俺「何してんだっ!」
怒鳴りつけざまに、背後から兄の襟首を掴む俺。
兄の身体は女の力でも簡単に引きずり倒すことができた。
ベッドから転げ落ち、もんどりうつ兄。
俺「てめえ……何してんだよ!」
630 名前: 長目 『クロ/クロ』9-2 投稿日: 2006/08/30(水) 02:04:37.54 ID:Ow5ywfEI0
身を起こした兄はヒステリックな声で叫んだ。
兄「S....Shut up! You don't disturb me, fuckin' bitch!(う、うるさい! 邪魔するなクソ女め!)」
兄「I need him!(僕はこの子がいないと駄目なんだ!)」
コイツの言葉はほとんど分からない……が、コイツがしていたことの意味は分かる。
……まさか、コイツ……。
身を起こした兄はヒステリックな声で叫んだ。
兄「S....Shut up! You don't disturb me, fuckin' bitch!(う、うるさい! 邪魔するなクソ女め!)」
兄「I need him!(僕はこの子がいないと駄目なんだ!)」
コイツの言葉はほとんど分からない……が、コイツがしていたことの意味は分かる。
……まさか、コイツ……。
葛「ユウキちゃん。それより今は」
ひどく冷静な――いや、感情を押し殺した声が聞こえた。
葛が、俺と兄の間に割って入る。
――そうだ、天才は?
俺は兄を葛に任せ、ベッドの方を振り返った。
ベッドの上で自分の肩を抱いて震えている天才。
完全な恐慌状態だ。
かっ、と頭に血が上るのを感じた。
俺「……!!」
俺は兄を睨みつけると、天才を抱き起こした。
俺「おい、大丈夫か! 俺だ! 分かるか!?」
天才の肩を揺さぶる。
朦朧としていた瞳の焦点が、俺の目で結ばれた。
天「……あ」
俺の腕に飛び込んでくる天才。
まるですがるように、俺に抱き付いている。
俺はその細い身体を抱きしめ返した。
ひどく冷静な――いや、感情を押し殺した声が聞こえた。
葛が、俺と兄の間に割って入る。
――そうだ、天才は?
俺は兄を葛に任せ、ベッドの方を振り返った。
ベッドの上で自分の肩を抱いて震えている天才。
完全な恐慌状態だ。
かっ、と頭に血が上るのを感じた。
俺「……!!」
俺は兄を睨みつけると、天才を抱き起こした。
俺「おい、大丈夫か! 俺だ! 分かるか!?」
天才の肩を揺さぶる。
朦朧としていた瞳の焦点が、俺の目で結ばれた。
天「……あ」
俺の腕に飛び込んでくる天才。
まるですがるように、俺に抱き付いている。
俺はその細い身体を抱きしめ返した。
634 名前: 長目 『クロ/クロ』9-3 投稿日: 2006/08/30(水) 02:12:51.06 ID:Ow5ywfEI0
天才を胸に抱いたまま、俺は兄を睨みつけた。
奴は一瞬、その視線にひるんだようだったが、再び何かをわめき始めた。
兄「You've no idea what our minds!(お前らに分かるものか!)」
兄「Only him! Only he understand my pain!(この子だけがボクの苦しみを分かってくれるんだ!)」
うまく聞き取れないが、言い訳がましい言葉を並べ立てているのは俺でも分かった。
コイツ……!
何か言ってやろうと、乏しい英語の語彙の中から言葉を探していると……
天才を胸に抱いたまま、俺は兄を睨みつけた。
奴は一瞬、その視線にひるんだようだったが、再び何かをわめき始めた。
兄「You've no idea what our minds!(お前らに分かるものか!)」
兄「Only him! Only he understand my pain!(この子だけがボクの苦しみを分かってくれるんだ!)」
うまく聞き取れないが、言い訳がましい言葉を並べ立てているのは俺でも分かった。
コイツ……!
何か言ってやろうと、乏しい英語の語彙の中から言葉を探していると……
葛が一歩前に出た。
葛「So, I don't understand your mind at all.(ええ、知りませんよ、あなたの気持ちなんて)」
いつもの間延びしたそれは影も形も見えない、強い語調。
葛「But, I know prof loves Yuhki.(でも、先生がユウキちゃんを好きなのは知っています)」
のんびりとした性格を表しているような垂れがちの目が、今は釣り上がっていた。
葛「I'll protect her.(私は先生を守りたいだけです)」
兄との距離を、一歩一歩、ゆっくりと縮めていく。
葛「Therefore, If you torment her....(ですから、もし、あなたが先生を苦しませるのなら……)」
それはまるで、彼という国を侵す軍隊のようだった。
葛「I'LL NEVER FORGIVE YOU.(許しませんよ)」
いつもの間延びしたそれは影も形も見えない、強い語調。
葛「But, I know prof loves Yuhki.(でも、先生がユウキちゃんを好きなのは知っています)」
のんびりとした性格を表しているような垂れがちの目が、今は釣り上がっていた。
葛「I'll protect her.(私は先生を守りたいだけです)」
兄との距離を、一歩一歩、ゆっくりと縮めていく。
葛「Therefore, If you torment her....(ですから、もし、あなたが先生を苦しませるのなら……)」
それはまるで、彼という国を侵す軍隊のようだった。
葛「I'LL NEVER FORGIVE YOU.(許しませんよ)」
――葛が、キレている。
635 名前: 長目 『クロ/クロ』9-4 投稿日: 2006/08/30(水) 02:16:52.08 ID:Ow5ywfEI0
葛「ARE YOU OK?(わかりましたか?)」
低い声で、一言一言区切るように告げる葛。
視線だけで人くらいなら殺せそうな目で、兄を睨め下ろす。
否定か、悲鳴か、兄が蚊の鳴くような声で、「n....no....」と漏らすのが聞こえた。
葛「ARE YOU OK?(わかりましたか?)」
低い声で、一言一言区切るように告げる葛。
視線だけで人くらいなら殺せそうな目で、兄を睨め下ろす。
否定か、悲鳴か、兄が蚊の鳴くような声で、「n....no....」と漏らすのが聞こえた。
あと一歩で兄に手が届くだろう、という距離に葛が迫ったその時、
天「――待って」
俺の腕の中から、天才が身を乗り出した。
天「お兄ちゃんを、責めないで……」
天「――待って」
俺の腕の中から、天才が身を乗り出した。
天「お兄ちゃんを、責めないで……」
葛「先生……」
やりきれないといった表情で、葛が天才に振り返る。
天「お願い……」
天才に懇願され、葛は渋々といった体で、兄から離れる。
やりきれないといった表情で、葛が天才に振り返る。
天「お願い……」
天才に懇願され、葛は渋々といった体で、兄から離れる。
俺「……とにかく、今日は俺の部屋に来い」
俺「これじゃ話もくそもねぇ」
天「……うん……」
俺は天才に手を貸して、立ち上がらせた。
だが足に力が入らないのか、うまく歩くことができない。
俺は少し考えて、天才を抱え上げた。
俺「これじゃ話もくそもねぇ」
天「……うん……」
俺は天才に手を貸して、立ち上がらせた。
だが足に力が入らないのか、うまく歩くことができない。
俺は少し考えて、天才を抱え上げた。
兄「Wait....!(待て……!)」
引き留めるようにこちらへ手を伸ばす兄を、俺は睨め下ろす。
俺「Go away.(帰れ)」
辛うじて掘り出したその言葉だけを吐き捨てて、俺たちは部屋を出た。
引き留めるようにこちらへ手を伸ばす兄を、俺は睨め下ろす。
俺「Go away.(帰れ)」
辛うじて掘り出したその言葉だけを吐き捨てて、俺たちは部屋を出た。
636 名前: 長目 『クロ/クロ』9-5 投稿日: 2006/08/30(水) 02:18:18.83 ID:Ow5ywfEI0
葛「カフェオレです~」
甘いものの方が良いと思って、とつけ加えて、葛は天才にマグカップを差し出した。
天「ありがとう」
だが、天才の手は震えてしまって、カップをうまく持てない。
その手を支えてやる。
天「ありがとう」
再びそう言って、天才はカップに口をつけた。
葛「カフェオレです~」
甘いものの方が良いと思って、とつけ加えて、葛は天才にマグカップを差し出した。
天「ありがとう」
だが、天才の手は震えてしまって、カップをうまく持てない。
その手を支えてやる。
天「ありがとう」
再びそう言って、天才はカップに口をつけた。
しばらくして、ようやっと落ち着きを取り戻したのか、
天才はかしこまって俺たちに礼を言った。
天「二人とも、ありがとう」
葛「いえいえ~」
俺「気にすんなよ」
天才はカップをテーブルに置く。
そしてぽつぽつと、言葉を手探りで探すように語り始めた。
天才はかしこまって俺たちに礼を言った。
天「二人とも、ありがとう」
葛「いえいえ~」
俺「気にすんなよ」
天才はカップをテーブルに置く。
そしてぽつぽつと、言葉を手探りで探すように語り始めた。
天「あれはね……お兄ちゃんが悪い訳じゃないの」
ひざの上で手を組んだ天才は、兄がああなった理由を話し始めた。
ひざの上で手を組んだ天才は、兄がああなった理由を話し始めた。
遡ると、それは天才の両親が離婚した時から始まったのだそうだ。
コイツと兄は母親の元へ引き取られ暮らしていた。
だが母親は次第に、兄へ対して性的な虐待を始めるようになる。
天「私は……そのことに気付いてたけど……」
天「でも、何もしてあげられなくて……」
やがて兄は女性を極度に嫌悪するようになり……
そして、ある日、兄は――
天「ママと同じように……」
――天才を、襲った。
コイツと兄は母親の元へ引き取られ暮らしていた。
だが母親は次第に、兄へ対して性的な虐待を始めるようになる。
天「私は……そのことに気付いてたけど……」
天「でも、何もしてあげられなくて……」
やがて兄は女性を極度に嫌悪するようになり……
そして、ある日、兄は――
天「ママと同じように……」
――天才を、襲った。
637 名前: 長目 『クロ/クロ』9-6 投稿日: 2006/08/30(水) 02:20:23.19 ID:Ow5ywfEI0
天才は吐き気を覚えたように、小さくむせ返った。
俺はその背をさすってやる。
俺「分かった……もういいから……」
俺「もう、言わなくていい……」
たしかに虐待は連鎖すると聞いたことがある。
俺が聞いた例の多くは、被虐待者が自分の子に同じことを行ってしまうケースだが、
天才の場合、年の離れた兄弟でそれが起きてしまったのだろう。
葛「でも……そんな……」
葛が自分の口元を押さている。
俺はぎりっと歯を噛みしめると、独り言のように呟いた。
俺「お前が暗闇を怖がるのは……兄貴のせいだったんだな……」
闇の部屋と、兄の記憶、それらが密接に結びついている気がした。
天「……うん」
天才はそれを肯定すると、自分の下腹を掻き割かんばかりに握りしめる。
天「でも、違うの」
天「お兄ちゃんが悪い訳じゃないんだよ」
天「それは私がお兄ちゃんに何もしてあげられなかったから……」
俺「そんな訳あるかっ!」
つい、声を荒げてしまった。
俺「お前が悪い訳……ないじゃないか……」
天「……ありがとう」
天「でも、それを言ったら、お兄ちゃんだってそうなんだよ」
俺「…………」
天「だから……あの人を責めないであげて」
天才は吐き気を覚えたように、小さくむせ返った。
俺はその背をさすってやる。
俺「分かった……もういいから……」
俺「もう、言わなくていい……」
たしかに虐待は連鎖すると聞いたことがある。
俺が聞いた例の多くは、被虐待者が自分の子に同じことを行ってしまうケースだが、
天才の場合、年の離れた兄弟でそれが起きてしまったのだろう。
葛「でも……そんな……」
葛が自分の口元を押さている。
俺はぎりっと歯を噛みしめると、独り言のように呟いた。
俺「お前が暗闇を怖がるのは……兄貴のせいだったんだな……」
闇の部屋と、兄の記憶、それらが密接に結びついている気がした。
天「……うん」
天才はそれを肯定すると、自分の下腹を掻き割かんばかりに握りしめる。
天「でも、違うの」
天「お兄ちゃんが悪い訳じゃないんだよ」
天「それは私がお兄ちゃんに何もしてあげられなかったから……」
俺「そんな訳あるかっ!」
つい、声を荒げてしまった。
俺「お前が悪い訳……ないじゃないか……」
天「……ありがとう」
天「でも、それを言ったら、お兄ちゃんだってそうなんだよ」
俺「…………」
天「だから……あの人を責めないであげて」
638 名前: 長目 『クロ/クロ』9-7 投稿日: 2006/08/30(水) 02:22:48.45 ID:Ow5ywfEI0
俺「だからって、なんでお前がこんな目に……!」
歯がみする俺。
対して天才は小さく笑った。
天「大丈夫。“私が大人しく犠牲になれば”――なんて考えてないから」
天「悲劇の主人公なんて、似合わないでしょ」
天「この連鎖は断ち切らないと」
天才は葛を見て、聞いた。
天「――キョウコちゃんも気付いてるでしょ? 私が男だって」
葛は小さく頷く。
天「私が女の身体になれたら……この連鎖は終わるの」
静かに微笑む天才。
俺「…………」
その笑顔は弱々しく、しかし他の意見を聞き入れない頑なさを感じさせた。
俺「だからって、なんでお前がこんな目に……!」
歯がみする俺。
対して天才は小さく笑った。
天「大丈夫。“私が大人しく犠牲になれば”――なんて考えてないから」
天「悲劇の主人公なんて、似合わないでしょ」
天「この連鎖は断ち切らないと」
天才は葛を見て、聞いた。
天「――キョウコちゃんも気付いてるでしょ? 私が男だって」
葛は小さく頷く。
天「私が女の身体になれたら……この連鎖は終わるの」
静かに微笑む天才。
俺「…………」
その笑顔は弱々しく、しかし他の意見を聞き入れない頑なさを感じさせた。
しばらくの間、昼間のものとはまた違った種類の、重い沈黙が部屋に下りた。
それを破ったのは、葛だった。
葛「あの~、もう遅いですし、先生は休んで下さい」
時計を見てみれば、その針はすでに10時を半分ほど回っていた。
もうこんな時間か。
葛「これからどうするかは、明日また話しましょう~」
俺「あぁ、そうした方が良い」
天「……でも……」
葛「私、先生の部屋を見てきますね~」
と言い残して、葛は席を立った。
それを破ったのは、葛だった。
葛「あの~、もう遅いですし、先生は休んで下さい」
時計を見てみれば、その針はすでに10時を半分ほど回っていた。
もうこんな時間か。
葛「これからどうするかは、明日また話しましょう~」
俺「あぁ、そうした方が良い」
天「……でも……」
葛「私、先生の部屋を見てきますね~」
と言い残して、葛は席を立った。
639 名前: 長目 『クロ/クロ』9-8 投稿日: 2006/08/30(水) 02:24:40.50 ID:Ow5ywfEI0
葛がいなくなった部屋で、天才は無言で俺の服の袖を掴んでいた。
俺「眠れなさそうか?」
天「……ううん、大丈夫」
天「でも……」
ぎゅっと、一際強く袖が握りしめられる。
天「今日は帰りたくない……」
――そうだよな。
自分が襲われかけた部屋で寝ろなんて、無理な話だ。
俺「良いよ。今日は俺の部屋に泊まってけ」
葛がいなくなった部屋で、天才は無言で俺の服の袖を掴んでいた。
俺「眠れなさそうか?」
天「……ううん、大丈夫」
天「でも……」
ぎゅっと、一際強く袖が握りしめられる。
天「今日は帰りたくない……」
――そうだよな。
自分が襲われかけた部屋で寝ろなんて、無理な話だ。
俺「良いよ。今日は俺の部屋に泊まってけ」
戻ってきた葛によると、兄はもう部屋にはいなかったらしい。
葛「ですけど~、ユウキちゃん、今日は先生を泊めてあげてくれませんか~?」
俺「あぁ、分かってる」
我が意を得たりと微笑んだ葛は、俺に綺麗にたたまれた服を手渡した。
葛「これ、先生の着替えです」
そうか、これを取りに行ったのか。
葛「では~、また」
葛は天才の頭をひとなですると、自分の部屋へと戻っていった。
葛「ですけど~、ユウキちゃん、今日は先生を泊めてあげてくれませんか~?」
俺「あぁ、分かってる」
我が意を得たりと微笑んだ葛は、俺に綺麗にたたまれた服を手渡した。
葛「これ、先生の着替えです」
そうか、これを取りに行ったのか。
葛「では~、また」
葛は天才の頭をひとなですると、自分の部屋へと戻っていった。
俺は立ち上がると、部屋中の電気という電気を点けて回った。
天才はずっと俺の後ろについてきている。
トイレの電気を点け、バスルームの前に立つ。
俺「……寝る前に風呂に入った方が良いよな」
俺「あったまって、さっぱりしてこいよ」
と、俺は渡された着替えを脱衣所のカゴに入れた。
天才はずっと俺の後ろについてきている。
トイレの電気を点け、バスルームの前に立つ。
俺「……寝る前に風呂に入った方が良いよな」
俺「あったまって、さっぱりしてこいよ」
と、俺は渡された着替えを脱衣所のカゴに入れた。
640 名前: 長目 『クロ/クロ』9-9 投稿日: 2006/08/30(水) 02:28:00.08 ID:zRRod8vW0
天「ちゃんとそこにいてよ?」
俺「あぁ、ここで待ってるから」
天才は磨りガラス越しに姿が確認できる位置に俺を立たせると、
何度も繰り返し確認をしながら風呂場へ入っていった。
天「ちゃんとそこにいてよ?」
俺「あぁ、ここで待ってるから」
天才は磨りガラス越しに姿が確認できる位置に俺を立たせると、
何度も繰り返し確認をしながら風呂場へ入っていった。
サァァァァァァ……。
シャワーの音をBGMにして、俺はこれからのことに考えを巡らせる。
結局、思考は同じところをぐるぐると回っただけだったが。
携帯の時計を見る。
天才が風呂場に入ってから、すでに30分は経っていた。
――長すぎないか?
振り返ると、天才はさっき見たの同じ場所で、まだシャワーを浴びている。
俺「おい? 大丈夫か?」
声をかけるが、反応がない。
さっと青くなった俺は、風呂場の扉を開けた。
シャワーの音をBGMにして、俺はこれからのことに考えを巡らせる。
結局、思考は同じところをぐるぐると回っただけだったが。
携帯の時計を見る。
天才が風呂場に入ってから、すでに30分は経っていた。
――長すぎないか?
振り返ると、天才はさっき見たの同じ場所で、まだシャワーを浴びている。
俺「おい? 大丈夫か?」
声をかけるが、反応がない。
さっと青くなった俺は、風呂場の扉を開けた。
俺「待て! おい、待てって!」
服が濡れるのも構わず風呂場に飛び込むと、天才の手からタオルをひったくる。
天「……あ」
俺「お前……何してんだよ」
天「ちょっと、こすり過ぎちゃったかな……」
失敗を見咎められたように、天才は苦笑する。
――これがちょっとか?
真っ白な肌は、ところどころ擦り傷のように真っ赤になっていた。
天「ねぇ、服、濡れちゃってるよ」
俺「そんなのはいいんだよ」
俺「……もう、上がろう」
服が濡れるのも構わず風呂場に飛び込むと、天才の手からタオルをひったくる。
天「……あ」
俺「お前……何してんだよ」
天「ちょっと、こすり過ぎちゃったかな……」
失敗を見咎められたように、天才は苦笑する。
――これがちょっとか?
真っ白な肌は、ところどころ擦り傷のように真っ赤になっていた。
天「ねぇ、服、濡れちゃってるよ」
俺「そんなのはいいんだよ」
俺「……もう、上がろう」
641 名前: 長目 『クロ/クロ』9-10 投稿日: 2006/08/30(水) 02:29:22.32 ID:zRRod8vW0
俺は洗濯機に濡れた服を放り込み、パジャマに着替えた。
まぁ、風呂に入る手間が省けたと思えばいい。
俺「さて、寝るか」
髪を乾かし終え、バスタオルを肩にかけた俺は、
ソファの上でひざを抱えている天才に振り返った。
俺「ベッドはお前が使え」
天「え……じゃあ、君は?」
俺「まぁ、ソファかな。暖房もあるし大丈夫だろ」
天才を立たせ、入れ替わりにソファに寝ようとする。
だが、天才はそれを阻んだ。
俺は洗濯機に濡れた服を放り込み、パジャマに着替えた。
まぁ、風呂に入る手間が省けたと思えばいい。
俺「さて、寝るか」
髪を乾かし終え、バスタオルを肩にかけた俺は、
ソファの上でひざを抱えている天才に振り返った。
俺「ベッドはお前が使え」
天「え……じゃあ、君は?」
俺「まぁ、ソファかな。暖房もあるし大丈夫だろ」
天才を立たせ、入れ替わりにソファに寝ようとする。
だが、天才はそれを阻んだ。
天「……やだ」
俺「けど、じゃあ……」
天「怖いの……」
俺「…………」
天「……いつも独りで暗い部屋にいたの」
天「お兄ちゃんが、電気を消して待ってろって……」
天「ママにはもう寝たんだって思わせて……お兄ちゃんがドアを開けるの……」
天「独りは、それを思い出しちゃうから……」
天「いつもは我慢できたけど……」
天「……でも、今日は……」
天「お願い……今日だけでいいから……」
天「怖いの……」
俺「…………」
天「……いつも独りで暗い部屋にいたの」
天「お兄ちゃんが、電気を消して待ってろって……」
天「ママにはもう寝たんだって思わせて……お兄ちゃんがドアを開けるの……」
天「独りは、それを思い出しちゃうから……」
天「いつもは我慢できたけど……」
天「……でも、今日は……」
天「お願い……今日だけでいいから……」
天「……一緒に、いて」
642 名前: 長目 『クロ/クロ』9-11 投稿日: 2006/08/30(水) 02:30:59.88 ID:zRRod8vW0
俺は天才の手を引いて、寝室に入った。
ベッド脇の椅子に肩のバスタオルを放り投げる。
俺は天才の手を引いて、寝室に入った。
ベッド脇の椅子に肩のバスタオルを放り投げる。
天「ごめんね……わがままばかり言って……」
俺「何を今さら。気にすんなよ」
申し訳なさそうに萎縮する天才を、俺は笑い飛ばした。
思えばこの四ヶ月半、天才に振り回されっぱなしだった気がするな。
不思議なもので、それはそれで楽しかったと思える。
俺「来いよ」
ベッドにもぐり込んだ俺は、布団を持ち上げて天才を招き入れる。
天「うん」
天「お邪魔します」
俺「なんだそりゃ」
思わず笑ってしまう俺。
おずおずと天才は布団の中に入ってきた。
俺「何を今さら。気にすんなよ」
申し訳なさそうに萎縮する天才を、俺は笑い飛ばした。
思えばこの四ヶ月半、天才に振り回されっぱなしだった気がするな。
不思議なもので、それはそれで楽しかったと思える。
俺「来いよ」
ベッドにもぐり込んだ俺は、布団を持ち上げて天才を招き入れる。
天「うん」
天「お邪魔します」
俺「なんだそりゃ」
思わず笑ってしまう俺。
おずおずと天才は布団の中に入ってきた。
頭を横たえると、そこには先客がいた。
いつぞやにもらって以来枕代わりにしていた、ぬいぐるみのペン助だ。
黒くてのっぺりした瞳がこちらを見ていた。
その瞳に、俺たちの姿が映っている。
……お前は、ちょっと外してろ。
俺は椅子に乗っていたバスタオルを手に取ると、ペン助の頭にかぶせた。
いつぞやにもらって以来枕代わりにしていた、ぬいぐるみのペン助だ。
黒くてのっぺりした瞳がこちらを見ていた。
その瞳に、俺たちの姿が映っている。
……お前は、ちょっと外してろ。
俺は椅子に乗っていたバスタオルを手に取ると、ペン助の頭にかぶせた。
643 名前: 長目 『クロ/クロ』9-12 投稿日: 2006/08/30(水) 02:34:18.45 ID:zRRod8vW0
もうそろそろ日付も変わる頃だろうか。
右手に天才の体温を感じながら、眠れずにいると……
かすかに、天才の嗚咽が聞こえた。
もうそろそろ日付も変わる頃だろうか。
右手に天才の体温を感じながら、眠れずにいると……
かすかに、天才の嗚咽が聞こえた。
俺はできるだけ優しく囁くような声で聞く。
俺「どうした? 怖い夢でもみたか?」
腕に力を入れて、抱き寄せてやる。
天「! だっ、駄目……!」
それに反して、天才は慌てて俺から身を離そうとする。
――が、俺の腕の勢いに負け、二人の身体が密着した。
俺「どうした? 怖い夢でもみたか?」
腕に力を入れて、抱き寄せてやる。
天「! だっ、駄目……!」
それに反して、天才は慌てて俺から身を離そうとする。
――が、俺の腕の勢いに負け、二人の身体が密着した。
俺「……!」
天「やだ……離れて……」
泣きながら腕の中でもがく天才。
俺の下腹に、天才の男の『それ』が当たっていた。
成人のそれとは比べるべくもないが――
それは、たしかに硬くなっていた。
天「ここ……君の匂いがして、良い匂いで……落ち着いたと思ったんだけど……」
天「そしたら……こんな……いやだ、こんな時にまで……」
天「これじゃ、お兄ちゃんの時と同じ……」
天「……私も……お兄ちゃんと一緒だ……」
天「……こんな、男の身体なんて……」
俺「…………」
天「……っく、うぇぇ……」
それ以上は言葉にならなかった。
天才はただただ俺の胸を涙で濡らす。
天「やだ……離れて……」
泣きながら腕の中でもがく天才。
俺の下腹に、天才の男の『それ』が当たっていた。
成人のそれとは比べるべくもないが――
それは、たしかに硬くなっていた。
天「ここ……君の匂いがして、良い匂いで……落ち着いたと思ったんだけど……」
天「そしたら……こんな……いやだ、こんな時にまで……」
天「これじゃ、お兄ちゃんの時と同じ……」
天「……私も……お兄ちゃんと一緒だ……」
天「……こんな、男の身体なんて……」
俺「…………」
天「……っく、うぇぇ……」
それ以上は言葉にならなかった。
天才はただただ俺の胸を涙で濡らす。
644 名前: 長目 『クロ/クロ』9-13 投稿日: 2006/08/30(水) 02:36:38.46 ID:zRRod8vW0
俺「……何も、変なことじゃねぇよ」
俺はさらに強く天才を抱き寄せた。
俺の胸に耳を当てさせる。
俺「……聞こえるか?」
天「…………」
きっと聞こえているはずだ。
――俺の早鐘のように打っている心臓の音が。
俺「男と違って分かりにくいけど、女の身体だって同じなんだよ」
俺「こうなれば、誰だって興奮するんだ」
俺「俺だってそうだ」
俺「勝手になっちまうことを、気にしたってしょうがないだろ」
俺「俺は気にしねぇし、お前だって気にすることはねぇ」
天「でも……」
俺「……何も、変なことじゃねぇよ」
俺はさらに強く天才を抱き寄せた。
俺の胸に耳を当てさせる。
俺「……聞こえるか?」
天「…………」
きっと聞こえているはずだ。
――俺の早鐘のように打っている心臓の音が。
俺「男と違って分かりにくいけど、女の身体だって同じなんだよ」
俺「こうなれば、誰だって興奮するんだ」
俺「俺だってそうだ」
俺「勝手になっちまうことを、気にしたってしょうがないだろ」
俺「俺は気にしねぇし、お前だって気にすることはねぇ」
天「でも……」
俺「それに……俺だって、この前の温泉の時、寝てるお前に……あー、笑うなよ?」
俺「……キス、したくなったし……」
天「え……」
俺「実際にしてはいないぞ!? でも、そういう気分になることもあるってことだよ」
天「う、うん……」
天才が小さく頷いたきり、会話に妙な間が空いてしまう。
……くそ、言わなきゃ良かった。
俺「とにかく寝ろ。こういう時は悪い方悪い方に考えちまうモンなんだ」
天「……わかった」
それでようやっと天才は落ち着いたらしい。
俺の胸で小さく囁いた。
天「おやすみ」
俺「……キス、したくなったし……」
天「え……」
俺「実際にしてはいないぞ!? でも、そういう気分になることもあるってことだよ」
天「う、うん……」
天才が小さく頷いたきり、会話に妙な間が空いてしまう。
……くそ、言わなきゃ良かった。
俺「とにかく寝ろ。こういう時は悪い方悪い方に考えちまうモンなんだ」
天「……わかった」
それでようやっと天才は落ち着いたらしい。
俺の胸で小さく囁いた。
天「おやすみ」
645 名前: 長目 『クロ/クロ』9-14 投稿日: 2006/08/30(水) 02:38:38.04 ID:zRRod8vW0
――朝、眠りから覚めると、隣にあるはずの天才の感触がなかった。
――朝、眠りから覚めると、隣にあるはずの天才の感触がなかった。
目を見開き、跳ね起きる。
ベッドの傍らで、白いシルエットが着替えをしていた。
俺は枕元の眼鏡を取ってかける。
明確になった視界に映るのは、まぎれもなく天才の姿だ。
天「おはよう」
俺「……はぁぁ」
天「どうしたの?」
俺「いや……お前がいなくなっちまったかと」
天「そんな映画みたいなことしないよ」
と、天才は笑う。
天「――ごめんね、不安にさせた?」
その笑顔は、俺のよく知る、いつもの天才の笑顔だった。
良かった。なんとか立ち直ったみたいだ。
んー、と伸びをした天才はその表情のまま、突然俺に告げた。
天「研究室へ行こう」
ベッドの傍らで、白いシルエットが着替えをしていた。
俺は枕元の眼鏡を取ってかける。
明確になった視界に映るのは、まぎれもなく天才の姿だ。
天「おはよう」
俺「……はぁぁ」
天「どうしたの?」
俺「いや……お前がいなくなっちまったかと」
天「そんな映画みたいなことしないよ」
と、天才は笑う。
天「――ごめんね、不安にさせた?」
その笑顔は、俺のよく知る、いつもの天才の笑顔だった。
良かった。なんとか立ち直ったみたいだ。
んー、と伸びをした天才はその表情のまま、突然俺に告げた。
天「研究室へ行こう」
俺「……ん?」
その言葉が意味するところが分かりかねて、俺は疑問符を浮かべる。
天「あれから4ヶ月半――」
天「元々、骨格の安定までの概算が4ヶ月で、残り2ヶ月は余裕を持っておいただけだし」
天「現状、君に大きな問題は起こってない」
天「――頃合いかな」
俺「お前……何言って……」
天才は、朝日を背に、笑顔でこう言った。
その言葉が意味するところが分かりかねて、俺は疑問符を浮かべる。
天「あれから4ヶ月半――」
天「元々、骨格の安定までの概算が4ヶ月で、残り2ヶ月は余裕を持っておいただけだし」
天「現状、君に大きな問題は起こってない」
天「――頃合いかな」
俺「お前……何言って……」
天才は、朝日を背に、笑顔でこう言った。
天「今度は、私が手術を受けるよ」