ひょんなことから女の子
クロ/クロ 10『XY XX』
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12 名前: 長目 『クロ/クロ』10-1 [お待たせしました。では行きます。] 投稿日: 2006/09/03(日) 21:19:18.36 ID:Wfhe88030
あの日以来、天才は部屋に帰らなくなった。
あの日以来、天才は部屋に帰らなくなった。
あれから半月。
俺は詳細なデータ採取のために、あちらこちらへと引っ張り回される日々だ。
葛は俺の観察の継続とデータ採取の総括を任され、俺のスケジュール管理まで担当している。
俺は詳細なデータ採取のために、あちらこちらへと引っ張り回される日々だ。
葛は俺の観察の継続とデータ採取の総括を任され、俺のスケジュール管理まで担当している。
天才は昼も夜も研究室に籠もり、
俺から得たデータのまとめと検討、機器の調整を行っている。
検査の時にはしばしば顔を合わせるが、それが終わればまたすぐ研究室に戻ってしまい、
まともに口を利く機会もなかった。
俺から得たデータのまとめと検討、機器の調整を行っている。
検査の時にはしばしば顔を合わせるが、それが終わればまたすぐ研究室に戻ってしまい、
まともに口を利く機会もなかった。
兄は何度かマンションを訪れたが、その度に俺や葛が追い返した。
大学の方にも行ったかも知れないが、恐らく会うことは許されなかった風だ。
年明け辺りから姿を見なくなったところを見ると、一旦アメリカに帰ったのかも知れない。
大学の方にも行ったかも知れないが、恐らく会うことは許されなかった風だ。
年明け辺りから姿を見なくなったところを見ると、一旦アメリカに帰ったのかも知れない。
すでに大学は冬季休講も終わり、後期の試験のために構内はにわかに騒がしい。
この身体をどう説明したらいいか分からなかったので、
親には、実験で忙しいから年末年始は帰れないとメールで告げた。
親には、実験で忙しいから年末年始は帰れないとメールで告げた。
俺は調べたいことがあり、検査の合間を縫っては大学の図書館へと通っていた。
今はその帰りだ。
今はその帰りだ。
13 名前: 長目 『クロ/クロ』10-2 [] 投稿日: 2006/09/03(日) 21:20:19.45 ID:Wfhe88030
夕方の空を見上げると、灰色の雲が一面に薄くたれ込めている。
息を吐けば驚くほどに白く、マフラーとコートをもってしても寒さはなかなか防げない。
最近は天気予報も満足に見ていないが――
俺「雪が降るかもな」
そうひとりごちて、俺は家へと向かう足を速めた。
夕方の空を見上げると、灰色の雲が一面に薄くたれ込めている。
息を吐けば驚くほどに白く、マフラーとコートをもってしても寒さはなかなか防げない。
最近は天気予報も満足に見ていないが――
俺「雪が降るかもな」
そうひとりごちて、俺は家へと向かう足を速めた。
大学からウチまで徒歩で5分。
たった5分の間にも、外はどんどん暗くなっていく。
マンションの前でふと立ち止まり、自分の部屋を見上げた。
たった5分の間にも、外はどんどん暗くなっていく。
マンションの前でふと立ち止まり、自分の部屋を見上げた。
――俺の部屋の、電気が点いていた。
もう目を閉じていても押せるマンションの暗証番号。
エレベーターで8階まで上がり、葛の部屋の前を通り過ぎて自分の部屋へ。
キーを取り出して、部屋の扉を開ける。
玄関に目を落とすと、見覚えのある小さな靴が一足、丁寧に並べられていた。
俺は慌てて靴を脱ぎ捨て、部屋に上がって、リビングの扉を開ける。
エレベーターで8階まで上がり、葛の部屋の前を通り過ぎて自分の部屋へ。
キーを取り出して、部屋の扉を開ける。
玄関に目を落とすと、見覚えのある小さな靴が一足、丁寧に並べられていた。
俺は慌てて靴を脱ぎ捨て、部屋に上がって、リビングの扉を開ける。
そこにはアイツがいた。
いつかのように、ソファの上で足をぶらぶらとさせて。
ソイツはこちらに振り向くと、変わらぬ口ぶりで言った。
ソイツはこちらに振り向くと、変わらぬ口ぶりで言った。
天「おかえり」
14 名前: 長目 『クロ/クロ』10-3 投稿日: 2006/09/03(日) 21:20:55.78 ID:Wfhe88030
クロ/クロ
最終話
『 X Y X X 』
『 X Y X X 』
15 名前: 長目 『クロ/クロ』10-4 投稿日: 2006/09/03(日) 21:22:17.61 ID:Wfhe88030
俺「お前……なんでここに……」
俺が呆然とソファの前に立つと、天才は心外そうな顔をする。
天「なんでって、来ちゃいけなかった?」
俺「いや、そんなことはねぇけど」
俺「お前……なんでここに……」
俺が呆然とソファの前に立つと、天才は心外そうな顔をする。
天「なんでって、来ちゃいけなかった?」
俺「いや、そんなことはねぇけど」
天「ご飯、ちゃんと食べないと駄目でしょ」
天才は台所のゴミ箱に目をやる。
ゴミ箱からはカップ麺やコンビニ弁当の容器があふれ返っていた。
俺「最近忙しくてな」
ばつが悪そうに頭をかくと、天才は笑って
天「私も似たようなものだけどね」
と、コンビニのフルーツゼリーを掲げてみせた。
天才は台所のゴミ箱に目をやる。
ゴミ箱からはカップ麺やコンビニ弁当の容器があふれ返っていた。
俺「最近忙しくてな」
ばつが悪そうに頭をかくと、天才は笑って
天「私も似たようなものだけどね」
と、コンビニのフルーツゼリーを掲げてみせた。
天「今日は久し振りに時間もあるし」
天「何か作ってあげる」
立ち上がった天才はエプロンと買い物袋を手に、キッチンへ向かった。
天「何か作ってあげる」
立ち上がった天才はエプロンと買い物袋を手に、キッチンへ向かった。
椅子にひざ立ちになった天才の後ろ姿を、俺はただ黙って眺めていた。
たった半月前までは当たり前のように見ていたその姿が――
今は、ひどく懐かしかった。
たった半月前までは当たり前のように見ていたその姿が――
今は、ひどく懐かしかった。
16 名前: 長目 『クロ/クロ』10-5 投稿日: 2006/09/03(日) 21:23:33.70 ID:Wfhe88030
俺「ごちそうさん」
天「お粗末様でした」
久し振りの天才の手料理は、相変わらずうまかった。
本人がそれをほとんど食べないのも相変わらずだが。
俺「ごちそうさん」
天「お粗末様でした」
久し振りの天才の手料理は、相変わらずうまかった。
本人がそれをほとんど食べないのも相変わらずだが。
洗い物を終え、台所から戻ってきた天才は、少し迷ったように足を止めた。
天「ねえ」
天「そっちに行ってもいい?」
俺「なんだよ、改まって」
俺「好きにしろって」
天「うん」
天才はこちら側へ歩いてくると、少し悩んだあと、俺の隣に腰を下ろした。
天「ねえ」
天「そっちに行ってもいい?」
俺「なんだよ、改まって」
俺「好きにしろって」
天「うん」
天才はこちら側へ歩いてくると、少し悩んだあと、俺の隣に腰を下ろした。
天「こうして話すのは久し振りだね」
俺「そうだな」
…………。
くすり、と困ったように笑う天才。
天「おかしいね。ちょっと前までは毎日こうしてたのに」
天「今は、何を話していいのか分からないよ」
俺「そうだな」
…………。
くすり、と困ったように笑う天才。
天「おかしいね。ちょっと前までは毎日こうしてたのに」
天「今は、何を話していいのか分からないよ」
17 名前: 長目 『クロ/クロ』10-6 投稿日: 2006/09/03(日) 21:25:03.19 ID:Wfhe88030
それは俺も同じだった。
いや、言いたいことは沢山あるのに、その場所へ繋がる言葉が見つからなかった。
だから、とりあえず当面のことを聞いてみた。
俺「お前、これからどうするんだ?」
それは俺も同じだった。
いや、言いたいことは沢山あるのに、その場所へ繋がる言葉が見つからなかった。
だから、とりあえず当面のことを聞いてみた。
俺「お前、これからどうするんだ?」
天「日程が決まり次第、手術を受けるよ」
天才側の準備は、今日でほとんど終わったらしい。
天「あとはスタッフのスケジュールだね」
俺に手術を施した医師たちは、一人ひとりが高名で多忙な人物なのだそうだ。
彼らがたった一日、一同に集うまで、俺の時は4ヶ月という調整期間を要した。
今回の場合、元々俺の観察実験が半月後にデータをまとめる予定だったこともあり、
その時までには確実に集まることができるらしい。
天才側の準備は、今日でほとんど終わったらしい。
天「あとはスタッフのスケジュールだね」
俺に手術を施した医師たちは、一人ひとりが高名で多忙な人物なのだそうだ。
彼らがたった一日、一同に集うまで、俺の時は4ヶ月という調整期間を要した。
今回の場合、元々俺の観察実験が半月後にデータをまとめる予定だったこともあり、
その時までには確実に集まることができるらしい。
つまり最低でも半月後には、天才は女の身体になる。
俺「……じゃぁ、それが終わったら?」
天「手術が終わったら……」
俺「…………」
天「日本にいる理由もなくなっちゃうしね」
天「手術が終わったら……」
俺「…………」
天「日本にいる理由もなくなっちゃうしね」
天「ボストンに帰ろうかな、って思ってる」
18 名前: 長目 『クロ/クロ』10-7 投稿日: 2006/09/03(日) 21:26:00.19 ID:Wfhe88030
俺「…………」
俺「……大丈夫なのか?」
天「何?」
俺「その、帰ったら、兄貴がいるんだろ……?」
天「……多分、大丈夫」
お兄ちゃん、女の人は嫌いだから、と天才は苦笑する。
天「お兄ちゃんも大事な家族だから、嫌われるのは悲しいけど……」
天「もう不安になることはないから」
俺「…………」
俺「……大丈夫なのか?」
天「何?」
俺「その、帰ったら、兄貴がいるんだろ……?」
天「……多分、大丈夫」
お兄ちゃん、女の人は嫌いだから、と天才は苦笑する。
天「お兄ちゃんも大事な家族だから、嫌われるのは悲しいけど……」
天「もう不安になることはないから」
そうかも知れない。
俺はその表情に、納得させられそうになる。
でも、まだだ。
俺は天才へと向き直った。
俺「お前はさ、本当にそれでいいのか?」
正面から天才の目を見詰める。
たしかめなきゃならないことがある。
俺「後悔するんじゃないのか?」
俺はその表情に、納得させられそうになる。
でも、まだだ。
俺は天才へと向き直った。
俺「お前はさ、本当にそれでいいのか?」
正面から天才の目を見詰める。
たしかめなきゃならないことがある。
俺「後悔するんじゃないのか?」
天「……どういう意味?」
いぶかしげに眉をひそめる天才。
いぶかしげに眉をひそめる天才。
――願わくば、この想像が的はずれなものであるように。
そう祈りながら俺は、天才の胸の中心を、指でトンと叩いた。
そう祈りながら俺は、天才の胸の中心を、指でトンと叩いた。
俺「お前の心、本当は女なんかじゃないんだろう?」
19 名前: 長目 『クロ/クロ』10-8 投稿日: 2006/09/03(日) 21:27:36.77 ID:Wfhe88030
天「!」
驚きに目を見開く天才。
天「!」
驚きに目を見開く天才。
天才が研究室に戻ってから、俺は暇を見つけては様々なことを調べていた。
内容は天才の抱えている問題――虐待や性同一性障害についてだ。
それらを調べていく中で、俺は一つの事実を見つけた。
現在、性同一性障害の原因は胎児期の脳構造の障害によるという説が有力だ。
また、支持は少ないが、3~5歳の精神的な性別獲得時に障害を起こしたという説もある。
内容は天才の抱えている問題――虐待や性同一性障害についてだ。
それらを調べていく中で、俺は一つの事実を見つけた。
現在、性同一性障害の原因は胎児期の脳構造の障害によるという説が有力だ。
また、支持は少ないが、3~5歳の精神的な性別獲得時に障害を起こしたという説もある。
天才は自分が性同一性障害だと言った。
だが、天才はこのどちらのケースにも当てはまらない。
かといって、天才がこのことを知らないとは考えにくい。
そして俺は一つの予想に辿り着いた。
だが、天才はこのどちらのケースにも当てはまらない。
かといって、天才がこのことを知らないとは考えにくい。
そして俺は一つの予想に辿り着いた。
――天才は嘘をついているのではないか。
自分が女になるために。
周囲を納得させるためか、
あるいは――
自分を納得させたいからか。
周囲を納得させるためか、
あるいは――
自分を納得させたいからか。
そして、天才の表情は、俺の仮説が真実であることを示しているように思えた。
20 名前: 長目 『クロ/クロ』10-9 投稿日: 2006/09/03(日) 21:29:00.00 ID:Wfhe88030
俺「お前はあの兄貴のせいで、男を嫌悪している」
俺「自分の心も身体も嫌悪している」
俺「だから、心は女のふりをして、身体は女になれる技術を作った」
俺「そうなんだろ」
天「…………」
俺「たしかにお前は自分の発明で女の身体になることができる」
俺「でも……」
天「……やめて……」
俺「心は変えられない。偽ることしかできない」
天「……ねぇ、やめて……」
俺「お前はこれから、ずっと嘘をつき続けて行く気か? 周りにも、自分にも」
天「やめてよ……」
俺「それで、後悔しないって……」
天「ユウキ君!」
俺「お前はあの兄貴のせいで、男を嫌悪している」
俺「自分の心も身体も嫌悪している」
俺「だから、心は女のふりをして、身体は女になれる技術を作った」
俺「そうなんだろ」
天「…………」
俺「たしかにお前は自分の発明で女の身体になることができる」
俺「でも……」
天「……やめて……」
俺「心は変えられない。偽ることしかできない」
天「……ねぇ、やめて……」
俺「お前はこれから、ずっと嘘をつき続けて行く気か? 周りにも、自分にも」
天「やめてよ……」
俺「それで、後悔しないって……」
天「ユウキ君!」
天才が、俺の名を呼んだ。
今にも泣き出しそうな顔で、目をそらす。
服の裾を握りしめた手が小さくわなないていた。
天才は震える声で言った。
天「お願い……それ以上は言わないで」
服の裾を握りしめた手が小さくわなないていた。
天才は震える声で言った。
天「お願い……それ以上は言わないで」
それは、ずきり、と、
まるで心の底の方が同じ場所で繋がっているかように、俺の胸をも痛めた。
まるで心の底の方が同じ場所で繋がっているかように、俺の胸をも痛めた。
21 名前: 長目 『クロ/クロ』10-10 投稿日: 2006/09/03(日) 21:30:10.17 ID:Wfhe88030
俺はこいつの気持ちが分かると思っていた。
身体と心の性別が食い違う者同士だという共感。
俺はこいつの気持ちが分かると思っていた。
身体と心の性別が食い違う者同士だという共感。
だけど、違った。
コイツは俺と一緒なんかじゃなかった。
天才は俺の予想よりももっと遥かに過酷な状況にいて、
精一杯の虚勢と、嘘を固めた壁の中で、独りで生きていたんだ。
コイツは俺と一緒なんかじゃなかった。
天才は俺の予想よりももっと遥かに過酷な状況にいて、
精一杯の虚勢と、嘘を固めた壁の中で、独りで生きていたんだ。
俺「お前、いつか俺のことを好きだって言ってくれたよな」
俺「それは俺が女の身体だからか?」
俺「俺の心は嫌いなのか?」
天「…………」
天「そんなこと……ない……」
俺「それは俺が女の身体だからか?」
俺「俺の心は嫌いなのか?」
天「…………」
天「そんなこと……ない……」
俺は、その壁を一枚一枚剥がしていってやりたいと思った。
コイツを外の世界に連れ出すために。
――俺がコイツと同じ世界にいるために。
コイツを外の世界に連れ出すために。
――俺がコイツと同じ世界にいるために。
俺「お前が知ってる男も女も。世界のほんの一握りでしかないんだ」
俺「世の中にはもっと良い奴が沢山いる」
俺「俺はそれを教えてやりたい」
俺「世の中にはもっと良い奴が沢山いる」
俺「俺はそれを教えてやりたい」
俺「だから……」
俺「これからも、俺と一緒にいてくれないか?」
22 名前: 長目 『クロ/クロ』10-11 投稿日: 2006/09/03(日) 21:32:35.25 ID:Wfhe88030
天「……!」
驚きで、天才の目が見開かれた。
天「……!」
驚きで、天才の目が見開かれた。
俺は言葉を続ける。
俺「だから……頼む」
俺「だから……頼む」
俺「俺にまで嘘をつかないでくれ」
俺「俺には力も、金もない。頭だってお前の足下にもおよばないし、優しくだってない」
俺「でも、お前のことは――」
周りから理解されず、壁を作られて、頼れる人もいないで、
だから、理解されようとも思わず、自分で壁を作って、誰にも頼らないで、
そんな、いつも独りきりのお前の――
俺「お前のことだけは、分かってやりたいんだよ……」
俺「でも、お前のことは――」
周りから理解されず、壁を作られて、頼れる人もいないで、
だから、理解されようとも思わず、自分で壁を作って、誰にも頼らないで、
そんな、いつも独りきりのお前の――
俺「お前のことだけは、分かってやりたいんだよ……」
俺「どうしても女になりっていうなら、俺は止めない」
俺「でも、お前が後悔する時、辛い思いをする時、一緒に受け止めてやりたいんだ……!」
俺「だから……っ、俺にだけは、嘘をつかないでくれ」
俺「でも、お前が後悔する時、辛い思いをする時、一緒に受け止めてやりたいんだ……!」
俺「だから……っ、俺にだけは、嘘をつかないでくれ」
だめだ。
涙が堪えきれない。
喉の奥が痛い。
声が震え出す。
涙が堪えきれない。
喉の奥が痛い。
声が震え出す。
それでも、これだけは伝えなきゃ。
俺「お前のことが……好きなんだ……」
23 名前: 長目 『クロ/クロ』10-12 投稿日: 2006/09/03(日) 21:34:05.35 ID:Wfhe88030
天「やめてよ……」
天「やめてよ……」
天才が小さく震える声で言った。
天「だって……分からないよ」
天「そんな顔で、好きだなんて言わないで」
俺「…………」
天「それじゃお兄ちゃん同じでしょ!」
天「だって……分からないよ」
天「そんな顔で、好きだなんて言わないで」
俺「…………」
天「それじゃお兄ちゃん同じでしょ!」
俺「違う」
俺は首を横に振った。
俺「俺はお前を傷付けたりしない」
俺「身体に触れられるのが嫌なら、絶対に触れないと誓う」
俺「……慢心かも知れない。果たせないかも知れない」
俺「――そう思うのなら……俺の言ったことは、忘れてくれ」
俺「でも、もし、俺のことを信じてくれるのなら」
俺「俺と一緒にいてくれ」
俺は首を横に振った。
俺「俺はお前を傷付けたりしない」
俺「身体に触れられるのが嫌なら、絶対に触れないと誓う」
俺「……慢心かも知れない。果たせないかも知れない」
俺「――そう思うのなら……俺の言ったことは、忘れてくれ」
俺「でも、もし、俺のことを信じてくれるのなら」
俺「俺と一緒にいてくれ」
天「分からない……分からないよ……」
首を小さく左右に振りながら、天才は立ち上がり、後退る。
俺は、その手を引き寄せることも出来ない。
――天才が望まない限り、触れないと決めたから。
首を小さく左右に振りながら、天才は立ち上がり、後退る。
俺は、その手を引き寄せることも出来ない。
――天才が望まない限り、触れないと決めたから。
天「私……やっぱり、来ない方が良かったね」
うつむいた天才は、そう呟くと、俺に背を向けた。
天「ごめん……」
そう告げて、天才は俺の部屋の扉を閉めた。
うつむいた天才は、そう呟くと、俺に背を向けた。
天「ごめん……」
そう告げて、天才は俺の部屋の扉を閉めた。
窓の外を見ると、いつの間にか雪が降り始めていた。
30 名前: 長目 『クロ/クロ』10-13 投稿日: 2006/09/03(日) 22:04:33.04 ID:Wfhe88030
それから半月。
天才が言っていた通り、準備がもう終わったからなのか、
それとも単に避けられているのか、
俺が検査などに呼ばれることはなくなった。
天才とはあれ以来顔を合わせていない。
それから半月。
天才が言っていた通り、準備がもう終わったからなのか、
それとも単に避けられているのか、
俺が検査などに呼ばれることはなくなった。
天才とはあれ以来顔を合わせていない。
そんな2月の頭の朝、俺が部屋でぼんやりと過ごしていると、
携帯がメールの着信音を響かせた。
――葛からのメールだった。
携帯がメールの着信音を響かせた。
――葛からのメールだった。
Sub ユウキちゃんへ
Main 大学病院のロビーに来て下さい。待っています。
Main 大学病院のロビーに来て下さい。待っています。
言われた場所へと向かうと、ロビーの長椅子に葛の姿があった。
俺が小走りに近付いていくと、葛もこちらに気がつき、立ち上がった。
俺が小走りに近付いていくと、葛もこちらに気がつき、立ち上がった。
俺「久し振りだな、かつ……」
パシンッ!
乾いた音がリノリウム張りの空間にこだました。
葛の平手打ちの音だった。
葛の平手打ちの音だった。
31 名前: 長目 『クロ/クロ』10-14 投稿日: 2006/09/03(日) 22:06:12.67 ID:Wfhe88030
俺「……!」
俺「……!」
赤くなった手の平をもう一方の手で包み、葛は俺を睨め付けた。
葛「……先生のお兄さんが来た時、私がなんて言ったか、分かりませんよね」
葛「先生を苦しめたら許さない、って言ったんですよ」
俺「…………」
葛「ユウキちゃん、先生を泣かせましたね?」
俺「…………」
葛「……っ!」
葛「何とか言ったらどうなんですかっ!」
葛が再び手を振り上げる。
俺「…………」
俺は答えない。
天才を泣かせたのは本当だ。
だが、謝る相手は葛じゃないし、そんな言葉を言ったところでコイツも喜ばない。
だから俺はもう一度その平手を受ける覚悟をした。
葛「……先生のお兄さんが来た時、私がなんて言ったか、分かりませんよね」
葛「先生を苦しめたら許さない、って言ったんですよ」
俺「…………」
葛「ユウキちゃん、先生を泣かせましたね?」
俺「…………」
葛「……っ!」
葛「何とか言ったらどうなんですかっ!」
葛が再び手を振り上げる。
俺「…………」
俺は答えない。
天才を泣かせたのは本当だ。
だが、謝る相手は葛じゃないし、そんな言葉を言ったところでコイツも喜ばない。
だから俺はもう一度その平手を受ける覚悟をした。
しかしその手はいつまで経っても、振り下ろされることはなかった。
代わりに、今度はその手で俺の頬をそっとなでる。
代わりに、今度はその手で俺の頬をそっとなでる。
葛「それでも、先生はユウキちゃんを選んだんですよね」
俺「……葛?」
俺「……葛?」
葛「行ってあげて下さい」
葛「先生は第3手術室で待ってますから」
葛「先生は第3手術室で待ってますから」
32 名前: 長目 『クロ/クロ』10-15 投稿日: 2006/09/03(日) 22:07:39.48 ID:Wfhe88030
第3手術室。
そう記された掲示に従って走る。
目的の単語が書かれたプレートの下、手術室の扉の前にプラチナブロンドの姿が見えた。
第3手術室。
そう記された掲示に従って走る。
目的の単語が書かれたプレートの下、手術室の扉の前にプラチナブロンドの姿が見えた。
天「こら。廊下を走っちゃ駄目でしょ」
息を切らせた俺に、天才は先生らしい態度で注意をした。
天「……来てくれたんだ」
俺「そりゃぁ、来るさ」
息を切らせた俺に、天才は先生らしい態度で注意をした。
天「……来てくれたんだ」
俺「そりゃぁ、来るさ」
天「あれからね、色々考えたんだ」
俺「――あぁ」
天「君の言ってることは正しいんだと思う」
天「世の中の人みんなが、お兄ちゃんやママみたいじゃないんだって……」
天「君もそうなんだって……」
俺「…………」
天「でも、やっぱり怖いの……」
天才はいつかのように自分の肩を抱いた。
天「だから今は――私が逃げることを、許して」
俺「――あぁ」
天「君の言ってることは正しいんだと思う」
天「世の中の人みんなが、お兄ちゃんやママみたいじゃないんだって……」
天「君もそうなんだって……」
俺「…………」
天「でも、やっぱり怖いの……」
天才はいつかのように自分の肩を抱いた。
天「だから今は――私が逃げることを、許して」
俺「……そうか」
それが天才の出した答えなら、俺に言えることは何もない。
それが天才の出した答えなら、俺に言えることは何もない。
しかし、天才は言葉を続けた。
天「だけどね……」
天「私も、このままは嫌だから……」
天「だけどね……」
天「私も、このままは嫌だから……」
天「君のことも、信じてみたいと思う」
33 名前: 長目 『クロ/クロ』10-16 投稿日: 2006/09/03(日) 22:09:38.67 ID:Wfhe88030
天「手術が成功しても、私はここに残るから」
天「これからもよろしくね」
小さく笑う天才。
俺「お、おぅ。任せとけ」
天才が信じると言ってくれた。
それだけで、自分の顔がほころぶのを感じた。
天「手術が成功しても、私はここに残るから」
天「これからもよろしくね」
小さく笑う天才。
俺「お、おぅ。任せとけ」
天才が信じると言ってくれた。
それだけで、自分の顔がほころぶのを感じた。
天「今はまだ怖いけど……」
天「君の心が本当に信じられるようになったら」
天「今度は、君が男に戻れる方法を探してみるよ」
俺は天才の言葉に驚きを隠せず、つい聞き返してしまった。
俺「……できる、のか?」
天「どうかは分からないけどね。でも、やるだけはやってみようと思う」
決意の表情。
俺「あぁでも待て。まだ分かってないな」
天「?」
俺「“探してみる”じゃないだろ、そこは。“一緒に探そう”が正しい」
きょとんとした表情から一転、天才はくすりと笑った。
天「そうだね」
天「君の心が本当に信じられるようになったら」
天「今度は、君が男に戻れる方法を探してみるよ」
俺は天才の言葉に驚きを隠せず、つい聞き返してしまった。
俺「……できる、のか?」
天「どうかは分からないけどね。でも、やるだけはやってみようと思う」
決意の表情。
俺「あぁでも待て。まだ分かってないな」
天「?」
俺「“探してみる”じゃないだろ、そこは。“一緒に探そう”が正しい」
きょとんとした表情から一転、天才はくすりと笑った。
天「そうだね」
つられて笑う俺。
――そこで、ふと、違和感を覚えた。
――そこで、ふと、違和感を覚えた。
俺「手術が、“成功しても”……って?」
34 名前: 長目 『クロ/クロ』10-17 投稿日: 2006/09/03(日) 22:12:09.61 ID:Wfhe88030
天才はすっと真面目な表情になった。
天「嘘はつかないって、約束したから。本当のこと、全部言うね」
天「――私の手術、成功するか分からないの」
天才はすっと真面目な表情になった。
天「嘘はつかないって、約束したから。本当のこと、全部言うね」
天「――私の手術、成功するか分からないの」
俺「……待て。だって俺の時はちゃんと……」
天「君は完全に成長しきった身体だったでしょ」
天「でも、私はまだ成長期だから、どんな影響が出るか分からないんだ」
天才は自分の手首を、その細さをたしかめるように掴んだ。
天「身体も君ほど強くないから、耐えられないかも知れないしね」
俺「お前、そんな危ねぇ……!」
天「大丈夫。そういう危険性もある、っていうだけだし」
天「死にはしないでしょ」
天「君は完全に成長しきった身体だったでしょ」
天「でも、私はまだ成長期だから、どんな影響が出るか分からないんだ」
天才は自分の手首を、その細さをたしかめるように掴んだ。
天「身体も君ほど強くないから、耐えられないかも知れないしね」
俺「お前、そんな危ねぇ……!」
天「大丈夫。そういう危険性もある、っていうだけだし」
天「死にはしないでしょ」
天「それに、まだ気になることがあるんだ」
天「あれ……痛い、でしょ……?」
俺は思い出す。
気を失うほどの激痛。それが数日に渡って絶えず襲ってくる苦しみ。
ほんの数日で身体の構造が丸々変わるんだ、相応の痛みと高熱が伴う。
天才もあの光景を見ていたはずだ。
俺は正直に答えた。
俺「あぁ……あれは、痛ぇよ。かなりキツい……」
天「それが怖い、かな」
天才は弱々しく笑った。
それでも内側の決意だけは変わらないようだったが。
天「あれ……痛い、でしょ……?」
俺は思い出す。
気を失うほどの激痛。それが数日に渡って絶えず襲ってくる苦しみ。
ほんの数日で身体の構造が丸々変わるんだ、相応の痛みと高熱が伴う。
天才もあの光景を見ていたはずだ。
俺は正直に答えた。
俺「あぁ……あれは、痛ぇよ。かなりキツい……」
天「それが怖い、かな」
天才は弱々しく笑った。
それでも内側の決意だけは変わらないようだったが。
俺「大丈夫、きっと上手くいく」
それは無責任な言葉だったかも知れない。
でも、俺には不思議な確信があった。
俺に耐えられたんだ。コイツにできないはずはないさ。
天「うん」
それは無責任な言葉だったかも知れない。
でも、俺には不思議な確信があった。
俺に耐えられたんだ。コイツにできないはずはないさ。
天「うん」
35 名前: 長目 『クロ/クロ』10-18 投稿日: 2006/09/03(日) 22:13:39.88 ID:Wfhe88030
そして、俺はあることを思い出した。
俺「俺、お前に一つ謝らなきゃならないことがある」
天「何?」
俺「俺も一つ嘘ついてたんだ」
天「……え?」
俺「ほら、兄貴が来た時の夜、温泉の帰りの話……した、だろ?」
天「……うん」
俺「俺、ホントはキス、したんだ……」
天「…………」
俺「……その……デコに」
天「ほぇ?」
予想外に間の抜けた声が聞こえた。
そして、俺はあることを思い出した。
俺「俺、お前に一つ謝らなきゃならないことがある」
天「何?」
俺「俺も一つ嘘ついてたんだ」
天「……え?」
俺「ほら、兄貴が来た時の夜、温泉の帰りの話……した、だろ?」
天「……うん」
俺「俺、ホントはキス、したんだ……」
天「…………」
俺「……その……デコに」
天「ほぇ?」
予想外に間の抜けた声が聞こえた。
天「お、でこ?」
ぷっ、と、天才が吹き出した。
天「あはははは! 何それ?」
俺「わっ、笑うなよ!」
天「だって、真面目な顔してるから何かと思ったらー!」
俺「大事な問題だろ!?」
俺「俺もお前に嘘はつきたくないから、それで……!」
天「――うん、分かったよ」
笑い止んだ天才は人差し指を立てて突き出すと、俺の言葉をさえぎった。
天「私も今まで嘘ついてたんだし、これでおあいこね」
俺「お、おう」
その仕草にどきりとした俺は、思わず詰まりながらも頷いた。
ぷっ、と、天才が吹き出した。
天「あはははは! 何それ?」
俺「わっ、笑うなよ!」
天「だって、真面目な顔してるから何かと思ったらー!」
俺「大事な問題だろ!?」
俺「俺もお前に嘘はつきたくないから、それで……!」
天「――うん、分かったよ」
笑い止んだ天才は人差し指を立てて突き出すと、俺の言葉をさえぎった。
天「私も今まで嘘ついてたんだし、これでおあいこね」
俺「お、おう」
その仕草にどきりとした俺は、思わず詰まりながらも頷いた。
36 名前: 長目 『クロ/クロ』10-19 投稿日: 2006/09/03(日) 22:15:38.88 ID:Wfhe88030
ややあって、天才はちらりと俺の方を見た。
ややあって、天才はちらりと俺の方を見た。
天「あのさ……」
俺「ん?」
天「今も、したいって、思ってる?」
俺「……え?」
俺「ん?」
天「今も、したいって、思ってる?」
俺「……え?」
天「――キス」
俺「…………」
俺は正直に答えた。
俺「……あぁ」
天「そう……」
天「あのね」
天「私、やっぱりまだ手術……怖いから……」
俺「…………」
天「――ゆうきが、欲しいな」
37 名前: 長目 『クロ/クロ』10-20 投稿日: 2006/09/03(日) 22:17:12.22 ID:Wfhe88030
消え入るような声でそう言って、天才はすぐにうつむいてしまった。
耳まで赤くなってるのが分かる。
手術の恐怖か、自分の言ったことに対する恥ずかしさか、その手が震えていた。
消え入るような声でそう言って、天才はすぐにうつむいてしまった。
耳まで赤くなってるのが分かる。
手術の恐怖か、自分の言ったことに対する恥ずかしさか、その手が震えていた。
俺は天才の頬に指を添える。
俺「顔、上げて」
いやいやをするように、首を振る天才。
俺「顔、上げて」
いやいやをするように、首を振る天才。
俺は膝をつく。頭1つ分、俺が下になる。
うつむいた天才と、それを見上げる俺。
視線を重ねて、瞳を閉じて、
手と手を重ねて、きつく結んで――
うつむいた天才と、それを見上げる俺。
視線を重ねて、瞳を閉じて、
手と手を重ねて、きつく結んで――
そして、唇を重ねた。
手の震えは、いつしか止まっていた。
唇を、静かに離す。
天「えへへ……」
天才は自分の唇を指でなぞった。
天「ホントのキスって、こんな気持ちになれるんだ」
幸せそうな笑顔。
天「ありがとう」
天「えへへ……」
天才は自分の唇を指でなぞった。
天「ホントのキスって、こんな気持ちになれるんだ」
幸せそうな笑顔。
天「ありがとう」
天「じゃあ、行ってくるね」
告げて、天才は笑顔のままに背を向ける。
そして、もう振り返ることはなく、
天才は扉の向こうへと姿を消した。
告げて、天才は笑顔のままに背を向ける。
そして、もう振り返ることはなく、
天才は扉の向こうへと姿を消した。
38 名前: 長目 『クロ/クロ』10-21 投稿日: 2006/09/03(日) 22:20:48.74 ID:Wfhe88030
天「――!」
声にならない叫びを聞く。
天「――!」
声にならない叫びを聞く。
手術は終わった。
病室のベッドの上、天才が全身を襲う激痛に身体をよじっている。
俺は傍らでその姿をただ見ている。
この痛みがどんなものか、俺は知っている。
天才がこの痛みに耐えることは、どれだけ困難なのだろう。
――コイツはまだ子どもなんだ。
もしかしたら、壊れてしまうかもしれない。
病室のベッドの上、天才が全身を襲う激痛に身体をよじっている。
俺は傍らでその姿をただ見ている。
この痛みがどんなものか、俺は知っている。
天才がこの痛みに耐えることは、どれだけ困難なのだろう。
――コイツはまだ子どもなんだ。
もしかしたら、壊れてしまうかもしれない。
あぁ、そうだ、最初から分かってたことじゃないか。
コイツは、こんなに小さくて、まだまだ子どもで……。
だから、守ってやらなきゃ……。
コイツは、こんなに小さくて、まだまだ子どもで……。
だから、守ってやらなきゃ……。
細くて小さな手が、シーツを掴むこともできずに震える。
俺は天才の手を握ってやることもできない。
そんなことをしても痛みを増すだけだ。
だけど、それでも俺は天才のそばにいる。
俺は天才の手を握ってやることもできない。
そんなことをしても痛みを増すだけだ。
だけど、それでも俺は天才のそばにいる。
思い出せ。
俺がこうなっていた時、
そして、目を覚ました時、
俺がこうなっていた時、
そして、目を覚ました時、
必ずそばにいたのは誰だった?
――コイツだ。
コイツがいてくれたんだ。
39 名前: 長目 『クロ/クロ』10-22 投稿日: 2006/09/03(日) 22:25:49.91 ID:Wfhe88030
――ん。
朝、かな。
どこからか鳥の声が聞こえる。
――ん。
朝、かな。
どこからか鳥の声が聞こえる。
感覚がはっきりとしてきた。
身体に痛みが走って意識が覚醒する。
私……そっか。
ゆっくりと、目を開ける。
白い光、白い天井、白いカーテン。
身体に痛みが走って意識が覚醒する。
私……そっか。
ゆっくりと、目を開ける。
白い光、白い天井、白いカーテン。
?「あ……」
すぐ隣で、声がした。
――君、か。
そばにいてくれたんだ。
すぐ隣で、声がした。
――君、か。
そばにいてくれたんだ。
もう、ばかだなあ、目の下にクマなんか作っちゃって。
そんな風に泣いて、顔をくしゃくしゃにしちゃだめだって。
せっかくの綺麗な顔が台無しでしょ。
大丈夫だから、ね?
私は痛む手をあげて、その涙をぬぐった。
そんな風に泣いて、顔をくしゃくしゃにしちゃだめだって。
せっかくの綺麗な顔が台無しでしょ。
大丈夫だから、ね?
私は痛む手をあげて、その涙をぬぐった。
――ありがとう。
――好きだよ。
私は、心の中でそう囁いて、大切な人にほほえみかけた。
天「おはよう」