ひょんなことから女の子
クロ/クロ Extra『XX XX XX(2)』
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736 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex12 投稿日: 2006/09/10(日) 01:36:04.85 ID:bTDFFkiX0
青い海と空、白い砂浜と入道雲。
潮の香りと、肌を焼く太陽。
そして、浜辺には人、人、人。
そこはまごうことなき夏の海岸――日本の海水浴場だった。
青い海と空、白い砂浜と入道雲。
潮の香りと、肌を焼く太陽。
そして、浜辺には人、人、人。
そこはまごうことなき夏の海岸――日本の海水浴場だった。
俺「おー、海だー」
天「ほんとだー」
天「ほんとだー」
旅館についた俺たちは、必要最低限の荷物以外を置いて、早速海へとやって来た。
こういう時は野郎が荷物持ちをさせられるのが世の常なのだが、
今は俺も女の身体。よって荷物は分担だ。
助かったような情けないような。
とりあえず、一番重そうなバッグを担いでおいた。
今は俺も女の身体。よって荷物は分担だ。
助かったような情けないような。
とりあえず、一番重そうなバッグを担いでおいた。
更衣室で水着に着替え、借りたパラソルを砂浜に立て、シートを敷く。
俺と天才は先日買った水着、葛は白いビキニに青いトロピカル柄の
ロングパレオを巻いた姿だった。
俺と天才は先日買った水着、葛は白いビキニに青いトロピカル柄の
ロングパレオを巻いた姿だった。
マンガなんかでは突然現れた美女に浜辺の視線を独占――みたいな展開なんだろうが、
実際はそんな風になったりしなかった。
どっちかといえば、道行く人が通り過ぎるたびにチラチラ見ていく感じだ。
女の水着になれてないから自意識過剰気味になってるのかもしれないが――
しかしみんな俺というよりはむしろ、葛と天才を見てくんだよな。
まぁ、かたや反則気味のスタイルの女、かたやプラチナブロンドの少女。
そりゃ俺だって自分が同じ立場だったら見るだろう。
……何か複雑だ。
実際はそんな風になったりしなかった。
どっちかといえば、道行く人が通り過ぎるたびにチラチラ見ていく感じだ。
女の水着になれてないから自意識過剰気味になってるのかもしれないが――
しかしみんな俺というよりはむしろ、葛と天才を見てくんだよな。
まぁ、かたや反則気味のスタイルの女、かたやプラチナブロンドの少女。
そりゃ俺だって自分が同じ立場だったら見るだろう。
……何か複雑だ。
737 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex13 投稿日: 2006/09/10(日) 01:39:07.10 ID:bTDFFkiX0
まずは海に入ろうと思い、ゴーグルを手に立ち上がる。
……が、周りの連中はまだまだ準備がいるらしい。
葛が荷物を漁っている隣で、天才がぷー、ぷー、と浮き輪に息を吹き込んでいた。
しばし見ているが……なかなか膨らまない。
一瞬、弁が邪魔してるんじゃないかと思ったが、吹き込み口はつまんでいるし、
そのくらいの構造は理解しているらしい。
となると、肺活量の問題か。
天「っは……」
早くも顔を真っ赤にした天才は、浮き輪から口を離すと、
それをこちらに突き出した。
天「やって」
俺「弱っ」
俺は水玉模様の半端にしぼんだビニールの輪っかを受け取る。
浮き輪やビーチボール程度しか持ってきてないので、空気入れなどはない。
やってやるしかないか……。
まずは海に入ろうと思い、ゴーグルを手に立ち上がる。
……が、周りの連中はまだまだ準備がいるらしい。
葛が荷物を漁っている隣で、天才がぷー、ぷー、と浮き輪に息を吹き込んでいた。
しばし見ているが……なかなか膨らまない。
一瞬、弁が邪魔してるんじゃないかと思ったが、吹き込み口はつまんでいるし、
そのくらいの構造は理解しているらしい。
となると、肺活量の問題か。
天「っは……」
早くも顔を真っ赤にした天才は、浮き輪から口を離すと、
それをこちらに突き出した。
天「やって」
俺「弱っ」
俺は水玉模様の半端にしぼんだビニールの輪っかを受け取る。
浮き輪やビーチボール程度しか持ってきてないので、空気入れなどはない。
やってやるしかないか……。
結局俺は、浮き輪1つとビーチボール1つに息を吹き込むハメになった。
俺「……はぁ、早くも疲れた」
天「お疲れ様。はい」
売店で買ってきたのか、スポーツドリンクのペットボトルを差し出す天才。
俺「おう」
それを受け取って一口。
息をつくと、今度は葛がこっちにやってきた。
葛「あの~、サンオイル塗ってくれませんか~?」
俺「……はぁ、早くも疲れた」
天「お疲れ様。はい」
売店で買ってきたのか、スポーツドリンクのペットボトルを差し出す天才。
俺「おう」
それを受け取って一口。
息をつくと、今度は葛がこっちにやってきた。
葛「あの~、サンオイル塗ってくれませんか~?」
738 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex14 投稿日: 2006/09/10(日) 01:44:17.34 ID:bTDFFkiX0
天才が葛の背にサンオイルを伸ばす様を、俺はぼんやりと眺めていた。
ふと思うことがあって口を開く。
俺「――なぁ」
天「何?」
俺「サンオイルって、日焼けをするために塗るのか? しないために塗るのか?」
天「そういえば知らないなぁ」
俺「天才的頭脳をもってしても駄目か」
天「どんなに頭が良くても、知識は習ったり調べたりしなきゃ手に入らないでしょ」
俺「それもそうか」
天「でも、日焼けしないために塗るのは日焼け止めだよね」
俺「あぁそうか。じゃあ、日焼け促進かもな」
葛「サンオイルは日光で火傷をしないために塗るんですよ~」
サンオイルを塗り終え、肌をテカテカさせている葛が口を挟んだ。
葛「目的は日焼けじゃなくて、肌の保護ですね~」
葛「中には日焼け止めの効果があるのもありますけどね」
俺「なるほど」
天「へえ」
感心することしきりの俺たち。
さすがはこの面子の中で唯一の純正女性の24歳。
こういうことはコイツが一番知ってるのかも知れない。
葛「ありがとうございます~」
身を起こした葛は、天才からサンオイルの瓶を受け取る。
葛「うふふ~。先生に教えられることがあるって、なんか嬉しいですねぇ」
天「そうなの?」
葛「ええ~、普段は教えてもらってばかりですし~」
天才が葛の背にサンオイルを伸ばす様を、俺はぼんやりと眺めていた。
ふと思うことがあって口を開く。
俺「――なぁ」
天「何?」
俺「サンオイルって、日焼けをするために塗るのか? しないために塗るのか?」
天「そういえば知らないなぁ」
俺「天才的頭脳をもってしても駄目か」
天「どんなに頭が良くても、知識は習ったり調べたりしなきゃ手に入らないでしょ」
俺「それもそうか」
天「でも、日焼けしないために塗るのは日焼け止めだよね」
俺「あぁそうか。じゃあ、日焼け促進かもな」
葛「サンオイルは日光で火傷をしないために塗るんですよ~」
サンオイルを塗り終え、肌をテカテカさせている葛が口を挟んだ。
葛「目的は日焼けじゃなくて、肌の保護ですね~」
葛「中には日焼け止めの効果があるのもありますけどね」
俺「なるほど」
天「へえ」
感心することしきりの俺たち。
さすがはこの面子の中で唯一の純正女性の24歳。
こういうことはコイツが一番知ってるのかも知れない。
葛「ありがとうございます~」
身を起こした葛は、天才からサンオイルの瓶を受け取る。
葛「うふふ~。先生に教えられることがあるって、なんか嬉しいですねぇ」
天「そうなの?」
葛「ええ~、普段は教えてもらってばかりですし~」
739 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex15 投稿日: 2006/09/10(日) 01:49:23.29 ID:bTDFFkiX0
葛「じゃあ、次は先生に塗ってあげますね」
天「ええ、いいよ」
葛「駄目ですよ~。塗らないとすぐ真っ赤になっちゃいます」
葛「ユウキちゃん、捕まえていてください~」
俺「おう、任せとけ」
俺は天才を背後からホールドする。
葛「大人しくしていてくださいね~」
俺「こら、暴れんな」
天「あははは! くすぐったいって!」
俺と葛は2人がかりで天才をテッカテカにしてやった。
葛「じゃあ、次は先生に塗ってあげますね」
天「ええ、いいよ」
葛「駄目ですよ~。塗らないとすぐ真っ赤になっちゃいます」
葛「ユウキちゃん、捕まえていてください~」
俺「おう、任せとけ」
俺は天才を背後からホールドする。
葛「大人しくしていてくださいね~」
俺「こら、暴れんな」
天「あははは! くすぐったいって!」
俺と葛は2人がかりで天才をテッカテカにしてやった。
俺「…………」
――ちょっと調子に乗りすぎただろうか。
天「……よくもやってくれたね」
天才は全身からサンオイルをしたたらせている。
口元には不敵な笑み。
天「手加減はいらないよね」
その手にはサンオイルの瓶。
しまった、自分の番が回ってくる可能性を失念していた。
俺「いや、俺はいいって」
と、逃げ腰になった俺の腕を、いつの間にか背後に立った葛が掴んだ。
葛「駄目ですよ~」
――変だ。振りほどけない。葛ってそんなに力あったのか?
ってそうか、俺の力が弱いんだった。
俺「ま、待てぇ!」
――ちょっと調子に乗りすぎただろうか。
天「……よくもやってくれたね」
天才は全身からサンオイルをしたたらせている。
口元には不敵な笑み。
天「手加減はいらないよね」
その手にはサンオイルの瓶。
しまった、自分の番が回ってくる可能性を失念していた。
俺「いや、俺はいいって」
と、逃げ腰になった俺の腕を、いつの間にか背後に立った葛が掴んだ。
葛「駄目ですよ~」
――変だ。振りほどけない。葛ってそんなに力あったのか?
ってそうか、俺の力が弱いんだった。
俺「ま、待てぇ!」
740 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex16 投稿日: 2006/09/10(日) 01:54:25.47 ID:bTDFFkiX0
天「やっ」
何を思ったか、天才は俺に飛びついてきた。
びちゃっ、と天才の身体にしたたっていたオイルが塗りつけられる。
俺「待て! そんな塗り方があるかっ」
天「だって勿体ないでしょ」
俺「なんだそりゃ! つうか前は自分で……」
なおも言いつのろうとすると、脇の下へ手が回された。
俺「やめっ……くっ、はははは!」
葛「暴れちゃ駄目ですよ~」
と、背後の葛が抱き付くように羽交い締めにしてくる。
身をよじると背中で柔らかい感触が揺れる。
かといって大人しくしていればぬるぬるのくすぐり地獄だ。
天国と地獄の狭間で!(?)
俺「まっ、待てってぇぇぇぇ!」
天「やっ」
何を思ったか、天才は俺に飛びついてきた。
びちゃっ、と天才の身体にしたたっていたオイルが塗りつけられる。
俺「待て! そんな塗り方があるかっ」
天「だって勿体ないでしょ」
俺「なんだそりゃ! つうか前は自分で……」
なおも言いつのろうとすると、脇の下へ手が回された。
俺「やめっ……くっ、はははは!」
葛「暴れちゃ駄目ですよ~」
と、背後の葛が抱き付くように羽交い締めにしてくる。
身をよじると背中で柔らかい感触が揺れる。
かといって大人しくしていればぬるぬるのくすぐり地獄だ。
天国と地獄の狭間で!(?)
俺「まっ、待てってぇぇぇぇ!」
…………。
俺「はぁ……はぁ……」
息もたえだえにがっくりとシートに手をつく俺。
浮き輪を膨らませて、サンオイルも塗って、準備万端になったのはいい。
しかし、もうすでに疲労困憊なんだが。
葛「さあ~、行きましょう~」
天「ほら立って」
対してコイツらはつやつやしてやがる。
俺「お前ら……」
もはや、それだけ言うのが精一杯だった。
俺「はぁ……はぁ……」
息もたえだえにがっくりとシートに手をつく俺。
浮き輪を膨らませて、サンオイルも塗って、準備万端になったのはいい。
しかし、もうすでに疲労困憊なんだが。
葛「さあ~、行きましょう~」
天「ほら立って」
対してコイツらはつやつやしてやがる。
俺「お前ら……」
もはや、それだけ言うのが精一杯だった。
172 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex17 投稿日: 2006/09/12(火) 19:41:21.13 ID:uaptl0wl0
そうこうしている内に、太陽がそろそろ中天に差しかかろうかという時間になっていた。
いい加減泳ぎたいところなのだが、しかし、少し体力を回復させたいのも事実。
そこで俺は天才の持っているアイテムに目をつけた。
泳がなくても水に入れる秘密道具
――すなわち浮き輪だ。
そうこうしている内に、太陽がそろそろ中天に差しかかろうかという時間になっていた。
いい加減泳ぎたいところなのだが、しかし、少し体力を回復させたいのも事実。
そこで俺は天才の持っているアイテムに目をつけた。
泳がなくても水に入れる秘密道具
――すなわち浮き輪だ。
俺は天才に手を突き出した。
俺「ちょっとそれ貸してくれよ」
天「嫌」
即答ですか。
俺「…………」
――よし、実力行使と行こう。
俺「ちょっとそれ貸してくれよ」
天「嫌」
即答ですか。
俺「…………」
――よし、実力行使と行こう。
俺「よっ」
天「あっ!」
背後から、ひょいと浮き輪を取り上げた。
天「返してよっ!」
抗議の声を上げながら天才が飛びついてきたが、
俺は身長差を活かして浮き輪を天才が届かないところまで持ち上げてしまう。
俺「すぐに返すって」
そう言って、浮き輪に身体を通すと、俺は波打ち際に足を踏み入れた。
天「あっ!」
背後から、ひょいと浮き輪を取り上げた。
天「返してよっ!」
抗議の声を上げながら天才が飛びついてきたが、
俺は身長差を活かして浮き輪を天才が届かないところまで持ち上げてしまう。
俺「すぐに返すって」
そう言って、浮き輪に身体を通すと、俺は波打ち際に足を踏み入れた。
173 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex18 投稿日: 2006/09/12(火) 19:42:51.27 ID:uaptl0wl0
腰の下辺りまで海水に浸かった頃に気付く。
数m前まで飛びついてきていた天才がいない。
俺は立ち止まって振り返る。
腰の下辺りまで海水に浸かった頃に気付く。
数m前まで飛びついてきていた天才がいない。
俺は立ち止まって振り返る。
天才は波打ち際で足を止めていた。
数歩足を進めても、波に足を取られそうになると慌てて乾いた場所まで引き返す。
数歩足を進めても、波に足を取られそうになると慌てて乾いた場所まで引き返す。
天才が俺の視線に気付いたらしい。
じっと、上目遣いに睨みつけてくる。
天「…………」
じっと、上目遣いに睨みつけてくる。
天「…………」
俺はさぶさぶと波を分けて天才のところまで戻った。
思い出すのは数日前の光景。
天才に“忘れろ”と言われた、あの出来事だ。
俺「……お前、さ」
天「…………」
俺「もしかして、泳げねぇの?」
思い出すのは数日前の光景。
天才に“忘れろ”と言われた、あの出来事だ。
俺「……お前、さ」
天「…………」
俺「もしかして、泳げねぇの?」
こくり、と、小さく天才は頷いた。
あれは泳ぎの練習だったのか……。
174 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex19 投稿日: 2006/09/12(火) 19:45:23.01 ID:uaptl0wl0
天「仕方ないでしょ」
天「今まで水泳ってほとんど習ったことないんだから……」
天「仕方ないでしょ」
天「今まで水泳ってほとんど習ったことないんだから……」
そうか、そりゃそうだ。
コイツは飛び級に飛び級を重ねてる。
初等教育の体育の授業なんて大して受けたことがないんだろう。
水泳は――走る、跳ぶ、投げるとかと違って――
まずできるようになるまでにある程度の練習が要るしな。
いかに天才といっても、それは脳みその話であって、運動能力は人並み
――つうか、下手したらそれ以下なんだよな。
コイツは飛び級に飛び級を重ねてる。
初等教育の体育の授業なんて大して受けたことがないんだろう。
水泳は――走る、跳ぶ、投げるとかと違って――
まずできるようになるまでにある程度の練習が要るしな。
いかに天才といっても、それは脳みその話であって、運動能力は人並み
――つうか、下手したらそれ以下なんだよな。
俺が浮き輪を返してやると、天才はそれを即座に装着した。
天「――何、その顔」
俺「いや、未だかつてなくお前に親近感を覚えてる」
天「あ、馬鹿にしてるでしょ!?」
俺「してねぇって」
俺「いや、未だかつてなくお前に親近感を覚えてる」
天「あ、馬鹿にしてるでしょ!?」
俺「してねぇって」
ふと思いついて、俺は聞いてみた。
俺「ていうか、じゃあなんで海に来るのに賛成したんだ?」
天「…………」
天「だって、泳げるようになりたいし……」
天「良い機会かなって思ったんだよ」
いつも思うんだが……
こういうところは妙に地道なんだよな、コイツ。
もしかしたら、才能と努力の両方を持ってるのが、コイツの天才たる所以なのかもな。

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俺「ていうか、じゃあなんで海に来るのに賛成したんだ?」
天「…………」
天「だって、泳げるようになりたいし……」
天「良い機会かなって思ったんだよ」
いつも思うんだが……
こういうところは妙に地道なんだよな、コイツ。
もしかしたら、才能と努力の両方を持ってるのが、コイツの天才たる所以なのかもな。

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175 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex20 投稿日: 2006/09/12(火) 19:46:28.07 ID:uaptl0wl0
しかし、と、俺は天才の姿を見返した。
天才は浮き輪にしがみつきながら、海をじっと見ている。
足は地についているのに、まるで海難事故に遭って救助を待つ漂流者のようだ。
……今のコイツは波に踊らされるちぎれた海草と同じくらいに無力な訳で。
しかし、と、俺は天才の姿を見返した。
天才は浮き輪にしがみつきながら、海をじっと見ている。
足は地についているのに、まるで海難事故に遭って救助を待つ漂流者のようだ。
……今のコイツは波に踊らされるちぎれた海草と同じくらいに無力な訳で。
俺「泳ぎ、教えてやろうか?」
天「え?」
俺「俺も上手い訳じゃねぇが、一応泳げはするし」
天「いいの?」
俺「“いいの?”って、俺だけ泳いでても意味ねぇだろ」
天「――あ、うん」
天「え?」
俺「俺も上手い訳じゃねぇが、一応泳げはするし」
天「いいの?」
俺「“いいの?”って、俺だけ泳いでても意味ねぇだろ」
天「――あ、うん」
葛「それじゃあ、今日は水泳教室ですね~」
天才の後ろについてきていた葛が、そんなことを言い出す。
葛「今日は先生に教えられることが多くて嬉しいです~」
ビーチボールを片手に、空いた手で天才の頭をなでる葛。
天才は少し困ったような顔で、しかし、されるがままにしていた。
天「あんまり言わないでよ。恥ずかしいんだから」
葛「うふふふふふふ~」
天才の後ろについてきていた葛が、そんなことを言い出す。
葛「今日は先生に教えられることが多くて嬉しいです~」
ビーチボールを片手に、空いた手で天才の頭をなでる葛。
天才は少し困ったような顔で、しかし、されるがままにしていた。
天「あんまり言わないでよ。恥ずかしいんだから」
葛「うふふふふふふ~」
474 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex21 投稿日: 2006/09/18(月) 22:41:41.05 ID:BJrGKjaM0
葛「キョウコと~」
俺「……ユウキのぉー」
葛「水泳教室~」
ぱちぱちぺちぱち。
葛の叩く手の音だけが、青い空の下に空しく響き渡る。
こういうのを空々しいっていうんだな。
俺「…………」
葛「……ユウキちゃん、最後はちゃんとハモってくださいよ~」
俺「いや、お前、これはねぇよ……」
葛「うぅ~……」
俺「……まぁ、いいや、行くか」
いじけだした葛をその場に残して、俺と天才は海へと入っていく。
葛「キョウコと~」
俺「……ユウキのぉー」
葛「水泳教室~」
ぱちぱちぺちぱち。
葛の叩く手の音だけが、青い空の下に空しく響き渡る。
こういうのを空々しいっていうんだな。
俺「…………」
葛「……ユウキちゃん、最後はちゃんとハモってくださいよ~」
俺「いや、お前、これはねぇよ……」
葛「うぅ~……」
俺「……まぁ、いいや、行くか」
いじけだした葛をその場に残して、俺と天才は海へと入っていく。
俺「あ」
腿まで水に浸かった辺りで立ち止まった俺は、天才に振り返った。
俺「浮き輪は寄こせ」
天「えー」
俺「それじゃ練習にならねぇだろ」
俺「俺が手ぇ掴んでてやるから、ほら」
天「…………」
天才はしばし躊躇したあとに、
天「……絶対だよ?」
と、確認して、浮き輪と自分の手を差し出した。
俺「おう」
俺は頷くと、天才の手を握った。
腿まで水に浸かった辺りで立ち止まった俺は、天才に振り返った。
俺「浮き輪は寄こせ」
天「えー」
俺「それじゃ練習にならねぇだろ」
俺「俺が手ぇ掴んでてやるから、ほら」
天「…………」
天才はしばし躊躇したあとに、
天「……絶対だよ?」
と、確認して、浮き輪と自分の手を差し出した。
俺「おう」
俺は頷くと、天才の手を握った。
475 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex22 投稿日: 2006/09/18(月) 22:44:59.56 ID:BJrGKjaM0
天「思ったよりも冷たいね」
俺に手を引かれ、胸まで海水に浸かった天才は身震いを一つ。
日差しが熱い(のと、騒いで体温が上がっている)分、余計に冷たく感じる。
俺「たしかにちょっと冷たいな。まぁ、慣れるしかねぇ」
俺「とりあえず、水に顔をつけるところから始めるか」
葛「そうですね~。それがいいかも知れません」
いつの間にか復活した葛が隣に立っていた。
一方、天才は不満顔だ。
天「そんなところからやるの?」
俺「んー、まぁ、お前がどれくらい水に慣れてるか分からねぇしな」
天「それくらいはできるよ」
俺「じゃぁ、ちょっと潜ってみるか」
天「…………」
しばし眉をひそめた天才は、ため息を一つ。
天「もう、いいよそれで」
なんだ、何が不服なんだ。
天「思ったよりも冷たいね」
俺に手を引かれ、胸まで海水に浸かった天才は身震いを一つ。
日差しが熱い(のと、騒いで体温が上がっている)分、余計に冷たく感じる。
俺「たしかにちょっと冷たいな。まぁ、慣れるしかねぇ」
俺「とりあえず、水に顔をつけるところから始めるか」
葛「そうですね~。それがいいかも知れません」
いつの間にか復活した葛が隣に立っていた。
一方、天才は不満顔だ。
天「そんなところからやるの?」
俺「んー、まぁ、お前がどれくらい水に慣れてるか分からねぇしな」
天「それくらいはできるよ」
俺「じゃぁ、ちょっと潜ってみるか」
天「…………」
しばし眉をひそめた天才は、ため息を一つ。
天「もう、いいよそれで」
なんだ、何が不服なんだ。
葛「じゃ~行ってみましょうか~」
葛「せ~のっ!」
天「……っ!」
息を目一杯に吸い込んだ天才は、その場で水に潜った。
葛「せ~のっ!」
天「……っ!」
息を目一杯に吸い込んだ天才は、その場で水に潜った。
1、2、3、4、5、6……
――そろそろ1分超えたか。
と、頭の中で適当に時間を計っていると、水面が盛り上がり、天才が顔を出した。
天「ぷぁ」
天「……しょっぱい」
俺「そりゃそうだ」
――そろそろ1分超えたか。
と、頭の中で適当に時間を計っていると、水面が盛り上がり、天才が顔を出した。
天「ぷぁ」
天「……しょっぱい」
俺「そりゃそうだ」
476 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex23 投稿日: 2006/09/18(月) 22:49:53.57 ID:BJrGKjaM0
俺「しかし、意外ともつな……」
天「だからー」
今度は地団駄を踏む天才。
それを見て、俺はようやっとある事実に思い至った。
葛「あの~、もしかして~……」
葛も同じところに辿り着いたらしい。
まずは天才を水に慣らすところから始めようと思ったんだが……。
俺「――お前、水が怖い訳じゃないのか?」
俺「しかし、意外ともつな……」
天「だからー」
今度は地団駄を踏む天才。
それを見て、俺はようやっとある事実に思い至った。
葛「あの~、もしかして~……」
葛も同じところに辿り着いたらしい。
まずは天才を水に慣らすところから始めようと思ったんだが……。
俺「――お前、水が怖い訳じゃないのか?」
天「……泳げないから怖いけど、怖いから泳げないんじゃないよ」
口先を尖らせる天才。
天「人をなんでも怖がる人みたく思わないで欲しいな」
俺「あぁ、悪ぃ」
葛「あら~、すみません~」
口先を尖らせる天才。
天「人をなんでも怖がる人みたく思わないで欲しいな」
俺「あぁ、悪ぃ」
葛「あら~、すみません~」
俺「じゃぁ、もう泳ぎの練習をやっちまうか」
天「うん」
気を取り直して、練習を始めようとすると、
葛「あの~、それもいいんですけど~」
と、葛が手を挙げた。
天才がそれを指す。
天「はい、葛君」
葛「そろそろお昼ですし、ご飯にしませんか~?」
天「うん」
気を取り直して、練習を始めようとすると、
葛「あの~、それもいいんですけど~」
と、葛が手を挙げた。
天才がそれを指す。
天「はい、葛君」
葛「そろそろお昼ですし、ご飯にしませんか~?」
477 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex24 投稿日: 2006/09/18(月) 22:53:59.54 ID:BJrGKjaM0
葛の提案は満場一致で可決され、昼飯を喰うことになった。
――結局、昼前までに泳ぐことはできなかったか。
葛の提案は満場一致で可決され、昼飯を喰うことになった。
――結局、昼前までに泳ぐことはできなかったか。
コインロッカーから財布を取り出し、浜辺の店を回ってパラソルの下に戻ると、
俺たちは、シートの上に戦利品を広げた。
大盛りの焼きそばを1パック、焼きもろこし、とフランクフルトをそれぞれ2本ずつ。
イカ焼きも欲しかったが、売ってる店がなかったのでそれは諦めた。
天「なんかくどそうだね」
俺「これが夏の浜辺の定番メニューだぞ」
天「そうなの?」
俺「あぁ。まぁ、喰え」
と、俺は焼きそばのパックを天才に差し出した。
天「いただきます」
天才は割り箸の扱いに苦戦しながら焼きそばを一口。
もぐがりもぐもぐ、こくん。
天「何これ。油っこい」
うぇ、と、舌を出す天才。
俺「まぁ、そんなもんだ」
天「麺もガチガチだし」
俺「不味い焼きそばを喰うってのも夏の海の醍醐味なんだよ」
俺はとうもろこしを一口かじる。
うむ、うまい。
天「そういうもの?」
葛「う~ん、どうでしょうねぇ~」
天才に話を振られ、焼きもろこしを手に困り顔で首を傾げる葛。
くそ、俺の仲間はいないのか。
俺たちは、シートの上に戦利品を広げた。
大盛りの焼きそばを1パック、焼きもろこし、とフランクフルトをそれぞれ2本ずつ。
イカ焼きも欲しかったが、売ってる店がなかったのでそれは諦めた。
天「なんかくどそうだね」
俺「これが夏の浜辺の定番メニューだぞ」
天「そうなの?」
俺「あぁ。まぁ、喰え」
と、俺は焼きそばのパックを天才に差し出した。
天「いただきます」
天才は割り箸の扱いに苦戦しながら焼きそばを一口。
もぐがりもぐもぐ、こくん。
天「何これ。油っこい」
うぇ、と、舌を出す天才。
俺「まぁ、そんなもんだ」
天「麺もガチガチだし」
俺「不味い焼きそばを喰うってのも夏の海の醍醐味なんだよ」
俺はとうもろこしを一口かじる。
うむ、うまい。
天「そういうもの?」
葛「う~ん、どうでしょうねぇ~」
天才に話を振られ、焼きもろこしを手に困り顔で首を傾げる葛。
くそ、俺の仲間はいないのか。
478 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex25 投稿日: 2006/09/18(月) 22:57:35.76 ID:BJrGKjaM0
焼きそばと格闘すること数回、天才は俺の焼きもろこしを見て言った。
天「……そっちがいい」
俺「悪いが、在庫切れだ」
クールに流す俺。
天「じゃあそれでいいよ」
言うなり、天才は俺の手に飛びついてきた。
俺「待て! おい」
制止も聞かず、俺の手にある奴をそのままかじる天才。
天「うん、こっちはおいしい」
俺「しまった、バレた……」
焼きそばと格闘すること数回、天才は俺の焼きもろこしを見て言った。
天「……そっちがいい」
俺「悪いが、在庫切れだ」
クールに流す俺。
天「じゃあそれでいいよ」
言うなり、天才は俺の手に飛びついてきた。
俺「待て! おい」
制止も聞かず、俺の手にある奴をそのままかじる天才。
天「うん、こっちはおいしい」
俺「しまった、バレた……」
結局焼きもろこしを奪われた俺は、焼きそばに手をつける。
俺「うわ、まず」
ある程度は覚悟していたがこれは予想以上のまずさだ。あの店はハズレだな。
天「ほら、言ったでしょ」
せっせと焼きもろこしに噛み付きながら、天才が勝ち誇ったように言った。
天「お弁当、作ってきた方が良かったかな」
俺「それもアリだったかもな」
コイツの料理の上手さは、自身の拒食症を克服するための努力の一環だったらしい。
つまり、うまい料理なら食べられるのではないか、という試みだ。
拒食症はそれとはまったく関係ないところで克服された訳だが、
天才は今でも時々料理の本を読んでいる。
お陰で俺は毎食うまい飯にありつけているのだが……
俺「まぁでも、荷物がかさばるし、これでいいんじゃねぇか?」
海では海の物――つまりはこういうジャンクな物も喰いたくなるのだ。
俺「この焼きそばはまずいけどな」
俺「うわ、まず」
ある程度は覚悟していたがこれは予想以上のまずさだ。あの店はハズレだな。
天「ほら、言ったでしょ」
せっせと焼きもろこしに噛み付きながら、天才が勝ち誇ったように言った。
天「お弁当、作ってきた方が良かったかな」
俺「それもアリだったかもな」
コイツの料理の上手さは、自身の拒食症を克服するための努力の一環だったらしい。
つまり、うまい料理なら食べられるのではないか、という試みだ。
拒食症はそれとはまったく関係ないところで克服された訳だが、
天才は今でも時々料理の本を読んでいる。
お陰で俺は毎食うまい飯にありつけているのだが……
俺「まぁでも、荷物がかさばるし、これでいいんじゃねぇか?」
海では海の物――つまりはこういうジャンクな物も喰いたくなるのだ。
俺「この焼きそばはまずいけどな」
479 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex26 投稿日: 2006/09/18(月) 23:00:41.96 ID:BJrGKjaM0
俺「なぁ、ちょっと喰わねぇ?」
と、二人に焼きそばを差し出す俺。
屋台にしては量が多いと買った時は喜んだものだが、こうなってみるとキツい。
天「全部食べていいよ。夏の海の醍醐味でしょ?」
天才はそっけなく言って、再び焼きもろこしの攻略に取りかかる。
俺「お前、意地が悪いぞ」
天「君ほどじゃないよ」
葛「あら~、ケンカはいけませんよ~」
そう言う葛は、すでに焼きもろこしを食べ終え、フランクフルトに手をつけている。
そして、残るもう1本のフランクフルトをこちらに差し出してきた。
葛「これでも半分こして、仲直りして下さい~」
俺「待て。これをどう分けろってんだ」
天「交互に食べる?」
俺「おま、すげぇこと言うな」
天「そう?」
俺「……こういうことを気にしないよなぁ、お前って」
葛「間接キスですね~」
うふふ~、とからかうように笑う葛。
分かっててやってやがるんだな、コイツは。
対して天才は平然と、焼きもろこしに目を向けたでまま答えた。
天「別に君となら気にすることないでしょ」
天「もうキスだってしてるんだし」
葛「はへっ!?」
俺「おい、待て!」
俺「なぁ、ちょっと喰わねぇ?」
と、二人に焼きそばを差し出す俺。
屋台にしては量が多いと買った時は喜んだものだが、こうなってみるとキツい。
天「全部食べていいよ。夏の海の醍醐味でしょ?」
天才はそっけなく言って、再び焼きもろこしの攻略に取りかかる。
俺「お前、意地が悪いぞ」
天「君ほどじゃないよ」
葛「あら~、ケンカはいけませんよ~」
そう言う葛は、すでに焼きもろこしを食べ終え、フランクフルトに手をつけている。
そして、残るもう1本のフランクフルトをこちらに差し出してきた。
葛「これでも半分こして、仲直りして下さい~」
俺「待て。これをどう分けろってんだ」
天「交互に食べる?」
俺「おま、すげぇこと言うな」
天「そう?」
俺「……こういうことを気にしないよなぁ、お前って」
葛「間接キスですね~」
うふふ~、とからかうように笑う葛。
分かっててやってやがるんだな、コイツは。
対して天才は平然と、焼きもろこしに目を向けたでまま答えた。
天「別に君となら気にすることないでしょ」
天「もうキスだってしてるんだし」
葛「はへっ!?」
俺「おい、待て!」
――場の空気が、凍り付いた。
480 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex27 投稿日: 2006/09/18(月) 23:03:45.24 ID:BJrGKjaM0
夏だというのに、気温が氷点下まで落ちた。
少なくとも俺にはそんな気がした。
夏だというのに、気温が氷点下まで落ちた。
少なくとも俺にはそんな気がした。
天「……どうしたの?」
その空気にやっと気付いたのか、天才が焼きもろこしからこちらへ視線を移した。
俺と葛は口を開けて固まったままだ。
葛「…………」
俺「…………」
葛「……み……」
天「……“み”?」
葛「……みっ、みなさぁぁ~~~ん! 聞きましもがっ!?」
突如大声を出した葛の口を、俺は慌てて押さえつけた。
俺「バカ何叫んでやがる!」
俺「つうか、お前も言うなよ!」
天「え、言っちゃ駄目だった?」
天「もう知ってると思ってたよ」
葛「ぷはっ、は、初耳ですよぉ~!」
俺の手を逃れた葛は、天才の方へと詰め寄った。
天「そうだったんだ。もう半年も経つのに」
あ! このバカ!
葛「は、半年ですかぁぁぁ~~~!?」
俺「お前はもう何も言うなぁぁぁぁっ!」
絶叫した俺の肩が、がしっ、と掴まれた。
葛が異様に輝いた瞳で俺を見ている。
葛「ユユユウキちゃん! 話は後で詳っしく聞かせてもらいますからねぇ~」
やべぇ、目が眩しい。絶対ビームかなんか出てる。
俺「…………」
俺にできることといえば、絶望的な表情で目を逸らすことぐらいだった。
その空気にやっと気付いたのか、天才が焼きもろこしからこちらへ視線を移した。
俺と葛は口を開けて固まったままだ。
葛「…………」
俺「…………」
葛「……み……」
天「……“み”?」
葛「……みっ、みなさぁぁ~~~ん! 聞きましもがっ!?」
突如大声を出した葛の口を、俺は慌てて押さえつけた。
俺「バカ何叫んでやがる!」
俺「つうか、お前も言うなよ!」
天「え、言っちゃ駄目だった?」
天「もう知ってると思ってたよ」
葛「ぷはっ、は、初耳ですよぉ~!」
俺の手を逃れた葛は、天才の方へと詰め寄った。
天「そうだったんだ。もう半年も経つのに」
あ! このバカ!
葛「は、半年ですかぁぁぁ~~~!?」
俺「お前はもう何も言うなぁぁぁぁっ!」
絶叫した俺の肩が、がしっ、と掴まれた。
葛が異様に輝いた瞳で俺を見ている。
葛「ユユユウキちゃん! 話は後で詳っしく聞かせてもらいますからねぇ~」
やべぇ、目が眩しい。絶対ビームかなんか出てる。
俺「…………」
俺にできることといえば、絶望的な表情で目を逸らすことぐらいだった。
258 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex28 [] 投稿日: 2006/09/21(木) 00:54:28.19 ID:mN1CIm5G0
俺「手ぇ離すぞ。――せーの」
天「……!」
葛「先生、頑張って下さい~」
浅瀬でバタ足をする天才。
頭で原理が分かっていると飲み込みは早くなるのか、それとも身体を動かすのは別問題か。
どうあれ、俺の予想よりも早く天才はバタ足で泳げるようになった。
俺「こんなもんか?」
葛「ですかね~」
まだ息継ぎはできないし、俺か葛が近くにいないと足を地面から離すこともできない。
だが、今日は本格的な泳ぎを教えに来たんじゃなくて、遊びに来たんだ。
俺らと遊ぶくらいならこれで充分だろう。
足をつき、立った天才に、俺は浮き輪を差し出した。
俺「よく頑張った。これを返してしんぜよう」
天「ありがと」
軽く息をついて、浮き輪を受け取る天才。
葛「流石は先生~。上達が早いですねぇ」
天「そう? 運動は苦手なんだけど」
俺「風呂場での練習の甲斐があったか」
葛「はい?」
天「――っ! それは忘れてって言ったでしょっ!」
真っ赤になった天才の投げたビーチボールが、俺の横っ面に炸裂した。
俺「手ぇ離すぞ。――せーの」
天「……!」
葛「先生、頑張って下さい~」
浅瀬でバタ足をする天才。
頭で原理が分かっていると飲み込みは早くなるのか、それとも身体を動かすのは別問題か。
どうあれ、俺の予想よりも早く天才はバタ足で泳げるようになった。
俺「こんなもんか?」
葛「ですかね~」
まだ息継ぎはできないし、俺か葛が近くにいないと足を地面から離すこともできない。
だが、今日は本格的な泳ぎを教えに来たんじゃなくて、遊びに来たんだ。
俺らと遊ぶくらいならこれで充分だろう。
足をつき、立った天才に、俺は浮き輪を差し出した。
俺「よく頑張った。これを返してしんぜよう」
天「ありがと」
軽く息をついて、浮き輪を受け取る天才。
葛「流石は先生~。上達が早いですねぇ」
天「そう? 運動は苦手なんだけど」
俺「風呂場での練習の甲斐があったか」
葛「はい?」
天「――っ! それは忘れてって言ったでしょっ!」
真っ赤になった天才の投げたビーチボールが、俺の横っ面に炸裂した。
260 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex29 投稿日: 2006/09/21(木) 00:56:38.00 ID:mN1CIm5G0
ひと泳ぎ終えて浜辺に戻った俺たちは、パラソルの下で休憩をすることにした。
ひと泳ぎ終えて浜辺に戻った俺たちは、パラソルの下で休憩をすることにした。
俺「しかし――」
天「ん?」
俺「ナンパでもされるかと警戒してたんだが、案外ないもんだな」
されたらされたでウザいし、別にこれでいいんだが。
葛「そうですねぇ。ま~、子ども連れですし~」
葛が天才の頭をなでる。
俺「それもそうか」
天「子どもって私のこと?」
葛「そうですよ~」
天「……本当のことなんだけど、なんか複雑だな」
俺「なんだ、ナンパされたいのか?」
天「それは嫌だけど」
天「――そういえば私だけ歳が倍以上違うんだよね、って」
俺「…………」
葛「え~と~、それはもうすぐ四捨五入したら30になる私たちへの挑戦ですか~?」
天才の髪をなでていたはずの葛の手が、今は天才の頭を左右に大きく揺らしている。
天「あ、痛い痛い。そういう意味じゃなくて」
葛「分かってますよ~」
手を離した葛は、むぎゅー、と天才にしがみ付いた。
葛「いいじゃないですか~。ナンパされないっていうだけですし~」
葛「私たちにとっては年の差なんて関係ありませんよ~」
葛「ね~、ユウキちゃん」
俺「待て。俺にふんな」
葛「あ、そろそろサンオイル取れてますね。もう一度塗ってあげますよ~」
天才に抱き付いたまま荷物を探り出す葛。
天「……暑い」
と、天才が呟くのが聞こえた。
天「ん?」
俺「ナンパでもされるかと警戒してたんだが、案外ないもんだな」
されたらされたでウザいし、別にこれでいいんだが。
葛「そうですねぇ。ま~、子ども連れですし~」
葛が天才の頭をなでる。
俺「それもそうか」
天「子どもって私のこと?」
葛「そうですよ~」
天「……本当のことなんだけど、なんか複雑だな」
俺「なんだ、ナンパされたいのか?」
天「それは嫌だけど」
天「――そういえば私だけ歳が倍以上違うんだよね、って」
俺「…………」
葛「え~と~、それはもうすぐ四捨五入したら30になる私たちへの挑戦ですか~?」
天才の髪をなでていたはずの葛の手が、今は天才の頭を左右に大きく揺らしている。
天「あ、痛い痛い。そういう意味じゃなくて」
葛「分かってますよ~」
手を離した葛は、むぎゅー、と天才にしがみ付いた。
葛「いいじゃないですか~。ナンパされないっていうだけですし~」
葛「私たちにとっては年の差なんて関係ありませんよ~」
葛「ね~、ユウキちゃん」
俺「待て。俺にふんな」
葛「あ、そろそろサンオイル取れてますね。もう一度塗ってあげますよ~」
天才に抱き付いたまま荷物を探り出す葛。
天「……暑い」
と、天才が呟くのが聞こえた。
262 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex30 投稿日: 2006/09/21(木) 00:59:18.58 ID:mN1CIm5G0
俺「はぁ……はぁ……」
再びサンオイルと俺の体力を無駄遣いし、その場で息をついていると、
葛が俺の顔をまじまじと見詰めてきた。
葛「あら~?」
俺「……なんだ?」
葛「ユウキちゃん、眼鏡はどうしたんですか?」
……は?
俺「今頃何言ってんだよ。朝からしてねぇだろ」
つうか、眼鏡かけて泳げる訳ねぇだろが。
天「今はコンタクトだよね」
俺「こういう時ぐらいしかしないけどな」
葛「なるほど~。道理でさっきからどこか見慣れないな~と思いました~」
天「そう? 私はあまり違和感ないけど」
俺「お前はしょっちゅう見てるからだろ」
同じ部屋で寝食を共にしてれば、眼鏡を外してる時だって多く見るだろう。
天「そうだね」
葛「あ~、先生だけずるいですよ~」
天「何が」
よく分からない葛の言葉に、天才は苦笑した。
俺「はぁ……はぁ……」
再びサンオイルと俺の体力を無駄遣いし、その場で息をついていると、
葛が俺の顔をまじまじと見詰めてきた。
葛「あら~?」
俺「……なんだ?」
葛「ユウキちゃん、眼鏡はどうしたんですか?」
……は?
俺「今頃何言ってんだよ。朝からしてねぇだろ」
つうか、眼鏡かけて泳げる訳ねぇだろが。
天「今はコンタクトだよね」
俺「こういう時ぐらいしかしないけどな」
葛「なるほど~。道理でさっきからどこか見慣れないな~と思いました~」
天「そう? 私はあまり違和感ないけど」
俺「お前はしょっちゅう見てるからだろ」
同じ部屋で寝食を共にしてれば、眼鏡を外してる時だって多く見るだろう。
天「そうだね」
葛「あ~、先生だけずるいですよ~」
天「何が」
よく分からない葛の言葉に、天才は苦笑した。
さらにひとしきり遊び、ふと空を見上げると、日が随分と低くなっていた。
俺「そろそろ戻るか」
天才は闇が苦手だ。
日暮れまでには旅館に戻らなくてはならない。
葛「そうですね~」
俺たちはいそいそと荷物を片付け、旅館へ続く道を歩き始めた。
俺「そろそろ戻るか」
天才は闇が苦手だ。
日暮れまでには旅館に戻らなくてはならない。
葛「そうですね~」
俺たちはいそいそと荷物を片付け、旅館へ続く道を歩き始めた。
263 名前: 長目 『クロ/クロ』Ex31 投稿日: 2006/09/21(木) 01:01:50.54 ID:mN1CIm5G0
――旅館の看板が道の先に見えた時だった。
唐突に、葛が足の向きを変えた。
葛「あの~、私ちょっと用事がありますから、お二人は先に部屋に行ってて下さい~」
俺「ん? なんだよ急に」
天「一緒に行こうか?」
葛「もう暗くなりますし、いいですよ~」
葛「ユウキちゃんは先生を連れていって下さいね~」
俺「ん、おう」
葛「ではでは~」
うふふふふ~、と、口元を押さえながら、葛は通りの角に消えた。
――旅館の看板が道の先に見えた時だった。
唐突に、葛が足の向きを変えた。
葛「あの~、私ちょっと用事がありますから、お二人は先に部屋に行ってて下さい~」
俺「ん? なんだよ急に」
天「一緒に行こうか?」
葛「もう暗くなりますし、いいですよ~」
葛「ユウキちゃんは先生を連れていって下さいね~」
俺「ん、おう」
葛「ではでは~」
うふふふふ~、と、口元を押さえながら、葛は通りの角に消えた。
それを見届けた俺は、静かに口を開いた。
俺「なぁ……」
天「うん」
俺「嫌な予感、しねぇ?」
天「ちょっと、するね」
俺「…………」
天「…………」
しばしの沈黙。
だが、黙っていても、日は刻々と沈んでいってしまう。
追いかけようにも、土地勘がない以上迷子になりかねないし、
完全に暗くなったら天才は身動きが取れなくなる。
俺「……行くか」
天「そうだね」
結局、俺たちはそのまま旅館へと足を向けた。
俺「なぁ……」
天「うん」
俺「嫌な予感、しねぇ?」
天「ちょっと、するね」
俺「…………」
天「…………」
しばしの沈黙。
だが、黙っていても、日は刻々と沈んでいってしまう。
追いかけようにも、土地勘がない以上迷子になりかねないし、
完全に暗くなったら天才は身動きが取れなくなる。
俺「……行くか」
天「そうだね」
結局、俺たちはそのまま旅館へと足を向けた。