ひょんなことから女の子
クロ/クロ 5『XY』
最終更新:
Bot(ページ名リンク)
-
view
433 名前: 長目 『クロ/クロ』5-1 投稿日: 2006/08/21(月) 00:21:10.84 ID:KzOMPqAe0
――それは、そう、嵐の夜に起きた、突然の出来事だった。
――それは、そう、嵐の夜に起きた、突然の出来事だった。
俺「ありゃ、くそ」
まっさらな絹ごし豆腐を目の前に毒づく俺。
しょうゆを切らしたの忘れてた。
これじゃ夜食の冷奴が食べられねぇじゃねぇか。
まっさらな絹ごし豆腐を目の前に毒づく俺。
しょうゆを切らしたの忘れてた。
これじゃ夜食の冷奴が食べられねぇじゃねぇか。
俺はベランダのガラスに顔を貼り付けて外を見る。
外は台風と雷。予報では今夜一杯は暴風域に入っているらしい。
これじゃ、とてもじゃないが買い物には行けない。
左手を横目に見やると、天才の部屋から灯りが漏れていた。
アイツ、毎晩電気点けっぱなしだな。徹夜でもしてんのか?
まぁいい。起きてるならちょっと分けてもらいに行くか。
外は台風と雷。予報では今夜一杯は暴風域に入っているらしい。
これじゃ、とてもじゃないが買い物には行けない。
左手を横目に見やると、天才の部屋から灯りが漏れていた。
アイツ、毎晩電気点けっぱなしだな。徹夜でもしてんのか?
まぁいい。起きてるならちょっと分けてもらいに行くか。
ドアから出ると、横殴りの風が叩き付けてきた。
風向きから雨が吹き込んで来てはいなかったが、それでも飛沫くらいは頬にかかる。
ピンポーン。
俺「おーい」
ピンポンピンポーン。
俺「……寝てんのか?」
ピンポンピンポンピン……
天「……はい」
ガチャリ。
目をこすりながら顔を覗かせたのは、パジャマ姿の天才だった。
風向きから雨が吹き込んで来てはいなかったが、それでも飛沫くらいは頬にかかる。
ピンポーン。
俺「おーい」
ピンポンピンポーン。
俺「……寝てんのか?」
ピンポンピンポンピン……
天「……はい」
ガチャリ。
目をこすりながら顔を覗かせたのは、パジャマ姿の天才だった。
434 名前: 長目 『クロ/クロ』5-2 投稿日: 2006/08/21(月) 00:23:39.47 ID:KzOMPqAe0
俺「なんだ、寝てたのか」
天「寝てたよ。何?」
俺「あぁ、いや、電気が点いてたもんでな。てっきり起きてるかと」
俺「それはそうと、お前しょうゆないか? 切らしちまってな」
天「……ん」
天才は寝ぼけまなこでキーチェーンを外すと、そのまま奥へ戻ってしまった。
入ってこいってことか。
俺「なんだ、寝てたのか」
天「寝てたよ。何?」
俺「あぁ、いや、電気が点いてたもんでな。てっきり起きてるかと」
俺「それはそうと、お前しょうゆないか? 切らしちまってな」
天「……ん」
天才は寝ぼけまなこでキーチェーンを外すと、そのまま奥へ戻ってしまった。
入ってこいってことか。
天「流しの下にあるから、取っていっていいよ」
それだけ告げると、天才はふらふらと寝室に入っていってしまった。
俺「不用心な奴だなぁ」
俺はしょうゆを持ってきた醤油さしに入れると、寝室の方に振り返る。
相変わらず電気は点いているようだった。
それだけ告げると、天才はふらふらと寝室に入っていってしまった。
俺「不用心な奴だなぁ」
俺はしょうゆを持ってきた醤油さしに入れると、寝室の方に振り返る。
相変わらず電気は点いているようだった。
俺は小さくドアを開けて首を突っ込んだ。
俺「子どもの夜更かしはよくねえぞ……って」
寝てるし。
なんだ、いつも電気点けっぱなしで寝てんのか?
変な癖だな。
どうせ寝てるならいいか、と俺は寝室の電気を消してやる。
俺「子どもの夜更かしはよくねえぞ……って」
寝てるし。
なんだ、いつも電気点けっぱなしで寝てんのか?
変な癖だな。
どうせ寝てるならいいか、と俺は寝室の電気を消してやる。
その瞬間だった。
天「ひッ!?」
小さな悲鳴が、聞こえた。
天「ひッ!?」
小さな悲鳴が、聞こえた。
435 名前: 長目 『クロ/クロ』5-3 投稿日: 2006/08/21(月) 00:24:59.08 ID:KzOMPqAe0
暗闇からどさりと音がした。
俺「おい?」
リビングから差し込む光を頼りに、暗さに慣れない目で寝室の中を見渡す。
プラチナブロンドがベッドの向こうから覗く。
今のは天才がベッドから落ちた音だったのか。
暗闇からどさりと音がした。
俺「おい?」
リビングから差し込む光を頼りに、暗さに慣れない目で寝室の中を見渡す。
プラチナブロンドがベッドの向こうから覗く。
今のは天才がベッドから落ちた音だったのか。
俺「おい、どうしたんだ?」
俺の声はまるで聞こえていない風に、天才は壁際まで四つんばいではっていく。
勢い余って壁でしたたかに顔を打ちつけた。
しかしそれにも構わず、今度は壁づたいに窓際まではっていく。
その大きな瞳はさらに見開かれ、せわしなく周囲を探っている。
まるで、何かから逃げようとしているようだ。
窓にぶつかると、ぐわん! と、予想以上に大きな音がした。
その音に驚いたのか、天才はその場で尻餅をつく。
俺の声はまるで聞こえていない風に、天才は壁際まで四つんばいではっていく。
勢い余って壁でしたたかに顔を打ちつけた。
しかしそれにも構わず、今度は壁づたいに窓際まではっていく。
その大きな瞳はさらに見開かれ、せわしなく周囲を探っている。
まるで、何かから逃げようとしているようだ。
窓にぶつかると、ぐわん! と、予想以上に大きな音がした。
その音に驚いたのか、天才はその場で尻餅をつく。
一瞬の自失の後、天才は窓の鍵にとりついた。
慌ただしい手つきでロックを外す。
そこで俺は我に返った。
俺「おい! バカ!」
制止は遅かった。
天才は暴風雨が叩き付ける窓を開け放してしまった。
天「あっ!」
天才の細い身体が、雨と風に殴られて、部屋に突き戻される。
何やってんだ!
慌ただしい手つきでロックを外す。
そこで俺は我に返った。
俺「おい! バカ!」
制止は遅かった。
天才は暴風雨が叩き付ける窓を開け放してしまった。
天「あっ!」
天才の細い身体が、雨と風に殴られて、部屋に突き戻される。
何やってんだ!
436 名前: 長目 『クロ/クロ』5-4 投稿日: 2006/08/21(月) 00:26:54.83 ID:KzOMPqAe0
天才に駆け寄ろうとした俺は、何かに足を取られ派手に転んだ。
その音に、天才はひときわ高い悲鳴を上げて振り返る。
どうやら何かのコードが引っかかったらしい。
くそ、なんだってんだ。
こう暗くちゃまともに歩けやしない。
俺は一旦、寝室の入り口まで這い戻り、電気を点けた。
天才に駆け寄ろうとした俺は、何かに足を取られ派手に転んだ。
その音に、天才はひときわ高い悲鳴を上げて振り返る。
どうやら何かのコードが引っかかったらしい。
くそ、なんだってんだ。
こう暗くちゃまともに歩けやしない。
俺は一旦、寝室の入り口まで這い戻り、電気を点けた。
部屋に光が戻り、俺と天才の目があう。
天「……あ」
天才のその瞳に、意思の光が戻った。
天「……あ」
天才のその瞳に、意思の光が戻った。
天「あ……」
ずるずると濡れたパジャマの裾を引きずって、天才がこちらに歩いてくる。
その危うい足取りに、俺は駆け寄って天才を抱きかかえた。
天「あ、あぁぁ……」
天才が俺にしがみつく。
俺の服を痛いほど握りしめ、俺の胸に顔をうずめる。
天「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
天才は、泣いていた。
声を上げ、涙をぼろぼろとこぼして。
ずるずると濡れたパジャマの裾を引きずって、天才がこちらに歩いてくる。
その危うい足取りに、俺は駆け寄って天才を抱きかかえた。
天「あ、あぁぁ……」
天才が俺にしがみつく。
俺の服を痛いほど握りしめ、俺の胸に顔をうずめる。
天「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
天才は、泣いていた。
声を上げ、涙をぼろぼろとこぼして。
――なんだ?
これは一体なんなんだ?
これは一体なんなんだ?
437 名前: 長目 『クロ/クロ』5-5 投稿日: 2006/08/21(月) 00:29:53.54 ID:KzOMPqAe0
天才はしばらく俺の腕の中で泣いていたが、
やがて、泣き疲れたのか、あるいは意識を保てなくなったのか、眠ってしまった。
天才の身体をベッドに横たえ、開け放しの窓を閉める。
絨毯やカーテンがぐしょぐしょになっていた。
あとで拭かないとな。
天才はしばらく俺の腕の中で泣いていたが、
やがて、泣き疲れたのか、あるいは意識を保てなくなったのか、眠ってしまった。
天才の身体をベッドに横たえ、開け放しの窓を閉める。
絨毯やカーテンがぐしょぐしょになっていた。
あとで拭かないとな。
だが、それよりも今は天才だ。
俺「どうすっかな……」
まともに雨をかぶった天才は、全身ずぶ濡れだ。
着替えさせるしかないか。
俺「どうすっかな……」
まともに雨をかぶった天才は、全身ずぶ濡れだ。
着替えさせるしかないか。
脱衣所からタオルを取ると、それをテーブルの上に放り出した。
そして、タンスの前に立つ。
……まぁ、しょうがねぇよな。
適当に引き出しを開け、換えのパジャマを引っ張り出す。
続いて下着。
なんかぶかぶかしたのが多いな。
まぁ、ガキのパンツなんてそんなもんか。
ブラは見当たらなかったが、持ってないのかもしれない。
というかこの際要らないだろう。
とにかく、手にした着替えとタオルを持って寝室に戻る。
そして、タンスの前に立つ。
……まぁ、しょうがねぇよな。
適当に引き出しを開け、換えのパジャマを引っ張り出す。
続いて下着。
なんかぶかぶかしたのが多いな。
まぁ、ガキのパンツなんてそんなもんか。
ブラは見当たらなかったが、持ってないのかもしれない。
というかこの際要らないだろう。
とにかく、手にした着替えとタオルを持って寝室に戻る。
439 名前: 長目 『クロ/クロ』5-6 投稿日: 2006/08/21(月) 00:32:57.34 ID:KzOMPqAe0
濡れた服を脱がせるのはなかなか難しい。
肌にぺたぺたと貼りついて、うまく脱がすことができない。
それでもなんとかパジャマの上を脱がせると、真っ白い肌が現れた。
初めて見るその身体は――ベッドに寝かせた時にも妙に軽いとは思ったが、
そんな俺の想像をさらに超えて――病的なまでに細かった。
あばらがどころか、他にもあちこち骨や関節が浮き出ている。
身体を拭いても、弾力というものがあまり感じられない。
濡れた服を脱がせるのはなかなか難しい。
肌にぺたぺたと貼りついて、うまく脱がすことができない。
それでもなんとかパジャマの上を脱がせると、真っ白い肌が現れた。
初めて見るその身体は――ベッドに寝かせた時にも妙に軽いとは思ったが、
そんな俺の想像をさらに超えて――病的なまでに細かった。
あばらがどころか、他にもあちこち骨や関節が浮き出ている。
身体を拭いても、弾力というものがあまり感じられない。
腕と腹を拭き終えた俺は、下のパジャマに手をかける。
こっちは力任せに引っ張ると、割と簡単に脱がせることができた。
ただし、足首のところで引っかかってしまい、それを外すのには苦労したが。
濡れたパジャマを放り投げた俺は、足を拭こうとして、思わず目をそらした。
こっちは力任せに引っ張ると、割と簡単に脱がせることができた。
ただし、足首のところで引っかかってしまい、それを外すのには苦労したが。
濡れたパジャマを放り投げた俺は、足を拭こうとして、思わず目をそらした。
下着が透けている。
俺の裸が普段から見られているのは、学術的な観察という名目があるからまだいい。
だが、こちらはちょっと罪悪感がつきまとう。
所詮子どもの裸だとは思うが、最近はそれじゃ済まないご時世だしな。
……それをいったら今の状況で、もうすでにアウトなんだろうが。
そう思ったら、なんだかどうでもよくなってきた。
さっさと足も拭いて、着替えを終わらせてしまおう。
だが、こちらはちょっと罪悪感がつきまとう。
所詮子どもの裸だとは思うが、最近はそれじゃ済まないご時世だしな。
……それをいったら今の状況で、もうすでにアウトなんだろうが。
そう思ったら、なんだかどうでもよくなってきた。
さっさと足も拭いて、着替えを終わらせてしまおう。
――と、俺の動きが止まった。
同時に思考も停止する。
同時に思考も停止する。
俺「……なんだ、これ」
440 名前: 長目 『クロ/クロ』5-7 投稿日: 2006/08/21(月) 00:34:40.26 ID:KzOMPqAe0
ちょっと待て。
ちょっと待て。
俺「おい、待て!……これ……!」
俺はつい声を出してしまった。
濡れた下着に浮かび上がるもの。それはあまりに予想外のものだった。
俺はつい声を出してしまった。
濡れた下着に浮かび上がるもの。それはあまりに予想外のものだった。
まさか、と思いながら下着を脱がす。
蛍光灯の光に晒された『それ』。
蛍光灯の光に晒された『それ』。
それは……小さいながらも男の『もの』だった……。
待て。俺は混乱している。
そう、混乱しているから、変な幻覚が見えたのであって、幻覚だから実際には……
そう、混乱しているから、変な幻覚が見えたのであって、幻覚だから実際には……
……あった。
もう一度確認したが、確かについてる。
お……!
俺「お前……男だったのかぁっ!?」
453 名前: 長目 『クロ/クロ』5-8 投稿日: 2006/08/21(月) 01:00:19.73 ID:YSpV2fDQ0
無事に着替えを終えた天才がソファの上で寝息を立てている。
ベッドは濡れてしまったので、こちらへ移動させたのだ。
俺は向かいの椅子に座りながら、その寝顔を眺めている。
こうやって見ると、女の子にしか見えないのにな。
無事に着替えを終えた天才がソファの上で寝息を立てている。
ベッドは濡れてしまったので、こちらへ移動させたのだ。
俺は向かいの椅子に座りながら、その寝顔を眺めている。
こうやって見ると、女の子にしか見えないのにな。
しばらくして、天才がかすかに身をよじった。
天「ん……」
身を起こすと、ぼんやりとした瞳で辺りを見渡す。
俺「よう」
天「あ」
俺が声をかけると、ようやっと事態を認識できたらしい。
天才はソファに座り直すと、自分の姿を見下ろした。
天「着替えさせてくれたんだ」
俺「あぁ……悪いな」
天「ん……いいよ。そうしないと、風邪ひいちゃうもんね」
天「こんな日に窓開けちゃうなんて……バカでしょ、私」
俺「……お前、あれは……」
天「……電気、消されるの怖いんだ。ちょっと昔、嫌なことがあって」
天才は弱々しく笑う。
あれがちょっとか?
とてもそうには見えなかったが、かといって突っ込んで聞くのもためらわれた。
しばし、沈黙が降りてくる。
天「ん……」
身を起こすと、ぼんやりとした瞳で辺りを見渡す。
俺「よう」
天「あ」
俺が声をかけると、ようやっと事態を認識できたらしい。
天才はソファに座り直すと、自分の姿を見下ろした。
天「着替えさせてくれたんだ」
俺「あぁ……悪いな」
天「ん……いいよ。そうしないと、風邪ひいちゃうもんね」
天「こんな日に窓開けちゃうなんて……バカでしょ、私」
俺「……お前、あれは……」
天「……電気、消されるの怖いんだ。ちょっと昔、嫌なことがあって」
天才は弱々しく笑う。
あれがちょっとか?
とてもそうには見えなかったが、かといって突っ込んで聞くのもためらわれた。
しばし、沈黙が降りてくる。
454 名前: 長目 『クロ/クロ』5-9 投稿日: 2006/08/21(月) 01:01:41.75 ID:YSpV2fDQ0
やがて、意を決したように、天才は口を開いた。
天「着替えさせてくれたってことは、さ」
自分の下腹に手を添える。
天「見た、でしょ?」
俺「…………」
俺「……あぁ」
やがて、意を決したように、天才は口を開いた。
天「着替えさせてくれたってことは、さ」
自分の下腹に手を添える。
天「見た、でしょ?」
俺「…………」
俺「……あぁ」
天「騙された、って思ってる?」
俺「まぁ、普通ならそう思ってるだろうな」
俺「でも、何か理由があるんだろ?」
さっきのあれを見てしまうと、特別な事情がある気がしてならなかった。
俺「まぁ、普通ならそう思ってるだろうな」
俺「でも、何か理由があるんだろ?」
さっきのあれを見てしまうと、特別な事情がある気がしてならなかった。
天「……君、性同一性障害って知ってる?」
天才はぽつりと問い返してきた。
詳しくは知らないが、簡単な内容なら聞いたことがある。
俺「……身体が男なのに脳が女、っていう感じの症状だったっけ?」
天「そう。性別が逆の場合もあるよ。女の人の身体に男の心が入ってるケース」
天才はぽつりと問い返してきた。
詳しくは知らないが、簡単な内容なら聞いたことがある。
俺「……身体が男なのに脳が女、っていう感じの症状だったっけ?」
天「そう。性別が逆の場合もあるよ。女の人の身体に男の心が入ってるケース」
心。
そんな単語がコイツの口から出くるなんて、数ヶ月前には想像もしてなかったな。
そんな単語がコイツの口から出くるなんて、数ヶ月前には想像もしてなかったな。
天「私は、きっとそれなんだと思う」
天「この身体が……男だってことが……たまらなく嫌なの……」
そう言って天才は自分の肩を掻きむしるように抱くと、身震いを一つした。
天「この身体が……男だってことが……たまらなく嫌なの……」
そう言って天才は自分の肩を掻きむしるように抱くと、身震いを一つした。
455 名前: 長目 『クロ/クロ』5-10 投稿日: 2006/08/21(月) 01:04:52.66 ID:YSpV2fDQ0
俺「こんな技術を発明しようとしたのは、それが理由なのか」
俺は自分の胸元をつまみ上げて問う。
俺「こんな技術を発明しようとしたのは、それが理由なのか」
俺は自分の胸元をつまみ上げて問う。
そう、それが最大の疑問だったんだ。
天才の考えることは、俺にみたいな凡人には分からないんだろうと決めつけて、
聞くことすらしてこなかった、最も根元的な疑問。
――“何故こんな発明を?”
だが、その答えが今なら理解できる気がする。
天才の考えることは、俺にみたいな凡人には分からないんだろうと決めつけて、
聞くことすらしてこなかった、最も根元的な疑問。
――“何故こんな発明を?”
だが、その答えが今なら理解できる気がする。
天才は頷いた。
天「そう。私が女の人の身体になりたかったから……」
天「……怒ってるでしょ?」
俺「? なんでだよ?」
天「だって、こんなの私のワガママだよ」
天「そのために君の人生を変えちゃった」
あぁ、そうか、そうだったな。
天「ごめんね。……謝って済むようことじゃないけど」
天「そう。私が女の人の身体になりたかったから……」
天「……怒ってるでしょ?」
俺「? なんでだよ?」
天「だって、こんなの私のワガママだよ」
天「そのために君の人生を変えちゃった」
あぁ、そうか、そうだったな。
天「ごめんね。……謝って済むようことじゃないけど」
……俺は、怒りに任せてコイツを責めてもいいんだろう。
けれど俺は、天才の行動の理由を知って、
理不尽な行動だと思っていた時よりも、ずっと冷静に受け止めることができた。
けれど俺は、天才の行動の理由を知って、
理不尽な行動だと思っていた時よりも、ずっと冷静に受け止めることができた。
俺の中で思考が明確な図を描き出そうとしていた。
456 名前: 長目 『クロ/クロ』5-11 投稿日: 2006/08/21(月) 01:06:46.65 ID:YSpV2fDQ0
俺にはコイツの気持ちが理解できる気がした。
今の俺はコイツと逆で、そして同じだ。
俺は男の心が女の身体の中に入っている。
俺にはコイツの気持ちが理解できる気がした。
今の俺はコイツと逆で、そして同じだ。
俺は男の心が女の身体の中に入っている。
コイツは、俺に心まで女であれとは言わなかった。
外見や生理的な部分は仕方がないだろう。
だが、態度や言葉遣い、考え方まで改めようとはしなかった。
外見や生理的な部分は仕方がないだろう。
だが、態度や言葉遣い、考え方まで改めようとはしなかった。
だが一方で、コイツが突然怒ったり、へこんだりする時、俺たちはどんな話をしていた?
性徴、生理、そういったことに関わる話ばかりじゃなかったか?
態度ばかりを女にしたって、コイツには決して届かない場所。
俺はコイツの前で、そんな話をしていたんだよな……。
それに今日のことだってそうだ。
性徴、生理、そういったことに関わる話ばかりじゃなかったか?
態度ばかりを女にしたって、コイツには決して届かない場所。
俺はコイツの前で、そんな話をしていたんだよな……。
それに今日のことだってそうだ。
――俺だって、コイツを何回も傷付けていたんだ。
俺「いいんだよ」
俺はソファ――天才の隣――に腰掛けると、
その頭を抱き込んでくしゃくしゃとなでてやった。
俺「いいんだ」
天「でも……」
俺「お前と同じ苦しみを持ってる奴がいるんだろ?」
天「……うん」
俺「そういう人たちのことはどう思ってる?」
天「助けたいよ。……だけど、君は」
俺「じゃあ、胸を張れ。やり遂げろ」
俺「自分のためにも、そいつらのためにも」
俺はソファ――天才の隣――に腰掛けると、
その頭を抱き込んでくしゃくしゃとなでてやった。
俺「いいんだ」
天「でも……」
俺「お前と同じ苦しみを持ってる奴がいるんだろ?」
天「……うん」
俺「そういう人たちのことはどう思ってる?」
天「助けたいよ。……だけど、君は」
俺「じゃあ、胸を張れ。やり遂げろ」
俺「自分のためにも、そいつらのためにも」
457 名前: 長目 『クロ/クロ』5-12 投稿日: 2006/08/21(月) 01:08:48.30 ID:YSpV2fDQ0
俺「俺だってもうこんな身体になっちまった後なんだ」
俺「こうなったからには、お前には成功してもらわないと損だろ」
俺は天才の髪をなでながら、笑いかける。
俺「俺でよけりゃ、協力してやるから」
天「……うん」
俺「泣くなって」
天「泣いて……ないよっ」
天才は言葉を詰まらせて、俺の胸に飛び込んできた。
天「っく……ありがとう……」
涙声の言葉と、小さな嗚咽が聞こえた。
天「ありがとう……ごめんね……」
天才はしきりにそれだけを繰り返しては、嗚咽を漏らしていた。
俺はしゃくり上げるその背を、ゆっくりとさすってやる。
俺「俺だってもうこんな身体になっちまった後なんだ」
俺「こうなったからには、お前には成功してもらわないと損だろ」
俺は天才の髪をなでながら、笑いかける。
俺「俺でよけりゃ、協力してやるから」
天「……うん」
俺「泣くなって」
天「泣いて……ないよっ」
天才は言葉を詰まらせて、俺の胸に飛び込んできた。
天「っく……ありがとう……」
涙声の言葉と、小さな嗚咽が聞こえた。
天「ありがとう……ごめんね……」
天才はしきりにそれだけを繰り返しては、嗚咽を漏らしていた。
俺はしゃくり上げるその背を、ゆっくりとさすってやる。
まったく、回り道をしたもんだ。始めから知っていれば話は早かったのに。
――いや、それは違うか。
自分のトラウマに触れることがどれだけの苦痛だろう。
ましてやそれをよく知りもしない男に話すなど。
俺にしたってそうだ。
泣き、笑い、怒り、喜び、苦しみ、慈しみ……
この奇妙な共同生活の中で、俺はこいつの色んな感情を見てきた。
だからこそ今、俺はこんな気分になっているんだと思う。
――いや、それは違うか。
自分のトラウマに触れることがどれだけの苦痛だろう。
ましてやそれをよく知りもしない男に話すなど。
俺にしたってそうだ。
泣き、笑い、怒り、喜び、苦しみ、慈しみ……
この奇妙な共同生活の中で、俺はこいつの色んな感情を見てきた。
だからこそ今、俺はこんな気分になっているんだと思う。
結局、俺たちはなるべくしてこうなったのだ。
やがて天才は、俺の腕の中で寝息を立て始めた。
その夢が穏やかであるように願って、俺はその髪をそっとなでてやった。
その夢が穏やかであるように願って、俺はその髪をそっとなでてやった。
458 名前: 長目 『クロ/クロ』5-13 投稿日: 2006/08/21(月) 01:11:39.88 ID:YSpV2fDQ0
翌朝。
外は昨晩までの天気が嘘のような、すがすがしい秋晴れだった。
こういうのを小春日和っていうんだろうな。
翌朝。
外は昨晩までの天気が嘘のような、すがすがしい秋晴れだった。
こういうのを小春日和っていうんだろうな。
天才は俺の腕の中ですやすやと寝息を立てている。
俺は天才の背に腕を回し、プラチナの髪に頬を寄せていた。
シャンプーの良い香りがした。
俺は天才の背に腕を回し、プラチナの髪に頬を寄せていた。
シャンプーの良い香りがした。
ピンポンピンポンピンポーン。
朝のしじまを破って、けたたましいチャイムの音が響いた。
インターホンから葛の声が聞こえる。
葛『先生、大変だよ~。ユウキちゃんがいないの~』
がちゃりと音がして玄関が勢いよく開け放たれた。
あ、そういえば、昨日鍵閉めてねぇや。
葛「もしかして、台風で飛ばされちゃったのかも~」
などとあり得ないことを口走りながらリビングへ駆け込んで来る葛。
朝のしじまを破って、けたたましいチャイムの音が響いた。
インターホンから葛の声が聞こえる。
葛『先生、大変だよ~。ユウキちゃんがいないの~』
がちゃりと音がして玄関が勢いよく開け放たれた。
あ、そういえば、昨日鍵閉めてねぇや。
葛「もしかして、台風で飛ばされちゃったのかも~」
などとあり得ないことを口走りながらリビングへ駆け込んで来る葛。
そして、俺と目があった。
葛「…………」
俺「…………」
葛「あらあら~」
俺「待て! それはどういう意味の“あらあら”だ!?」
葛「うふふふ~」
俺「笑って誤魔化すな!」
俺「…………」
葛「あらあら~」
俺「待て! それはどういう意味の“あらあら”だ!?」
葛「うふふふ~」
俺「笑って誤魔化すな!」
459 名前: 長目 『クロ/クロ』5-14 投稿日: 2006/08/21(月) 01:13:25.18 ID:YSpV2fDQ0
葛「いっつもケンカばかりしてると思ったら」
葛「いつの間にかそんなに仲良しになってたんですねぇ~」
俺「待て待て待て!」
葛「うふふ、安心しました~。でもちょっと妬けちゃいますね~」
俺「聞いてくれ! これはそういうんじゃない、そういうんじゃないぞ!」
葛「うふふふ~」
俺「笑って流すな!」
天「……ん~、何~?」
天才がもぞもぞと身を揺する。
葛「おはようごさいます~」
天「ん~? おはよー……」
寝ぼけまなこで、普段とはまったく違う間延びした声を出す天才。
コイツ、寝起きはこんなんなのか。
葛「先生、ユウキちゃんのこと、好きですか~?」
俺「おいお前、いきなり何聞いて……!」
天「うん。好き~」
ぎゅっ。
俺「――っ!」
葛「あらあらあら~」
背筋に電流でも流されたかのような感覚。
顔から火が出るかと思った。
コイツの言葉に、まさかこんな威力があるとは……っ!
葛「あらあら。ユウキちゃん、お顔が真っ赤ですよ~?」
俺「まっ、待ってくれぇぇぇぇ! 違うっ、違うんだああああぁぁぁぁ!」
葛「いっつもケンカばかりしてると思ったら」
葛「いつの間にかそんなに仲良しになってたんですねぇ~」
俺「待て待て待て!」
葛「うふふ、安心しました~。でもちょっと妬けちゃいますね~」
俺「聞いてくれ! これはそういうんじゃない、そういうんじゃないぞ!」
葛「うふふふ~」
俺「笑って流すな!」
天「……ん~、何~?」
天才がもぞもぞと身を揺する。
葛「おはようごさいます~」
天「ん~? おはよー……」
寝ぼけまなこで、普段とはまったく違う間延びした声を出す天才。
コイツ、寝起きはこんなんなのか。
葛「先生、ユウキちゃんのこと、好きですか~?」
俺「おいお前、いきなり何聞いて……!」
天「うん。好き~」
ぎゅっ。
俺「――っ!」
葛「あらあらあら~」
背筋に電流でも流されたかのような感覚。
顔から火が出るかと思った。
コイツの言葉に、まさかこんな威力があるとは……っ!
葛「あらあら。ユウキちゃん、お顔が真っ赤ですよ~?」
俺「まっ、待ってくれぇぇぇぇ! 違うっ、違うんだああああぁぁぁぁ!」
魂の底からしぼり出したような叫びも空しく、
長い間に渡り、俺は葛からこの話題でいじられ続けたのだった。
長い間に渡り、俺は葛からこの話題でいじられ続けたのだった。