アットウィキロゴ
 ボランティアや社会奉仕を重視する動きは80年代から始まった。もちろん、欧米ではキリスト教的精神からのボランティアが以前から盛んであり、日本でもそれを見習うべきであるという見解はあった。
 日本でも相互援助がなかったわけではないが、それが社会的な「みえる」制度にはなっていなかったといわざるをえないだろう。
 80年代以降、さまざまなレベルで、ボランティア・社会奉仕が政策的に重視されてくるのである。
 ここでは大別して、教育の場面、企業・労働場面、そして矯正施設・刑事政策の場面で抑えておこう。
 まず教育について外観しておく。
 臨教審答申2次答申で(1986年)次のように提案されていた。第3章、初等中等教育の改革の「徳育の充実」の中であった。

 子どもにとって、家庭は人間形成の最初の、かつ、基盤的な場であり、
そこから学校・地域へと生活圏が拡大する。こうしたなかで、学校におい
ては、家庭・地域との連携のもとに、その教育活動の全体を通じて、徳育
の充実を図る必要がある。
イ、児童・生徒の発達段階に応じ、自然の中での体験学習、集団生活、
ボランティア活動・社会奉仕活動への参加を促進する。

 社会奉仕は「道徳教育」的意味で提案されていたのである。
 文部省は臨教審には冷淡であると言われていたが、88年の学習指導要領の改定で半円された。
 やはり「特別活動」の中で、

▽現行の「学級会活動」と「学級指導」を統合して、「学級活動」とし
、学級や学校の生活の充実と向上に関すること、日常の生活や学習への適
応に関することの2つの内容によって構成する。
▽学校行事は現行の「遠足・旅行的行事」を「遠足・集団宿泊的行事」
、「勤労・生産的行事」を「勤労生産・奉仕的行事」と改めるとともに、
集団生活の在り方や公衆道徳などについての望ましい体験、社会奉仕の精
神を涵養する体験など、それぞれの行事の指導の視点を明確に示す。
▽入学式や卒業式などにおいては、国旗を掲揚し国歌を斉唱させること
が明確になるよう表現を改める。*32)

とされていたのである。
 また、2001年の11月に出された教育課程審議界の中間まとめでは、ボランティアが何度か登場する。
 「時代を超えて変わらない価値あるもの」を身に付けると題する部分で、

ウ 第三は、教育において、どんなに社会が変化しようとも「時代を超えて変わらない価値あるもの」を子どもたちがしっかりと身に付ける必要があるということである。
 第一で述べた各学校段階の役割の基本を念頭に置きつつ、各学校においては、他人を思いやる心、生命や人権を尊重する心、自然や美しいものに感動する心、正義感、公徳心、ボランティア精神、郷土や国を愛する心、世界の平和、国際親善に努める心など豊かな人間性を育てること、国語をしっかりと身に付けさせること、我が国の歴史や文化を学び、それらを大切にする心を培うこと、社会生活を営む上で最小限必要な基礎的・基本的な内容の確実な習得と定着を図ることなど、いかに社会が変化しようとも時代を超えて変わらない価値あるものを子どもたちにしっかりと身に付けさせていかなければならないということである。
(社会の変化に柔軟に対応し得る人間の育成)
エ 第四は、教育においては、社会の変化を見通しつつ、これに柔軟に対応し得る人間の育成を期する必要があるということである。

 更に、精神的な要素として、

 そのためには、相手を思いやる心、互いを認め合い共に生きていく態度、自他の生命や人権を尊重する心、美しいものに感動する心、ボランティア精神、自ら生きる目標を求めその実現に努める態度などを育成するとともに、社会生活上のルールや基本的なモラルなどの倫理観の育成を重視し、規範意識や公徳心、正義感や公正さを重んじる心、善悪の判断、強靱な意志と実践力、自己責任の自覚や自律・自制の心などを育てることに配慮する必要がある。また、たくましく生きるための健康や体力の基礎をはぐくむことも重要である。
 また、国際社会の中で日本人としての自覚をもち主体的に生きていく上で必要な資質や能力を育成することが重要であり、このため、我が国や郷土の歴史や文化・伝統に対する理解を深め、これらを愛する心を育成するとともに、広い視野をもって異文化を理解し国際協調の精神を培うことを重視する必要がある。

 具体的に学校教育の中で取り上げる時間としては、

 活動及び「総合的な学習の時間」(仮称)のそれぞれにおいて、高齢社会に関する基礎的理解や介護・福祉の問題など高齢社会の課題に関する理解を深めるとともに、実際に高齢者や障害のある人と交流し、触れ合う活動や、介護・福祉に関するボランティア活動を体験することを重視することとする。
(横断的・総合的な学習など)
カ 国際理解・外国語会話、情報、環境、福祉など児童生徒の興味・関心等に基づく課題について横断的・総合的な学習を推進し、学校の創意工夫を生かした特色ある教育活動を一層展開できるようにするため、小学校、中学校及び高等学校等に「総合的な学習の時間」(仮称)を創設する。

として、「総合的学習」の時間を新設することを提案している。(因みに、小学校での英語教育も、この総合学習の時間を想定している。)
 90年代になるとこの傾向は「義務化」という主張になって、展開してくる。

ボランティア活動を学校教育の場に 橋本首相、義務化に理解示す

 橋本龍太郎首相は二日、衆院本会議での代表質問への答弁で、阪神大震災被災
地での活躍が注目されたボランティア活動について、「児童生徒に、他人を思い
やる心や、社会に奉仕する精神を培ううえで極めて大切だ」との認識を示した。
そのうえで、森喜朗・自民党総務会長が徴兵制に触れつつ「一定期間の奉仕活動
」を学校教育の中で義務づけるべきだと提案したことに対し、「十分検討したい
」と前向きな姿勢を示した。
 民間の自発性に支えられるボランティア活動を、「官」主導の「奉仕」に置き
換える発想には、徴兵制を引き合いに出しながらの森氏の問題提起とともに、反
発も予想される。*33)

 このとき橋本首相に社会奉仕の義務化を迫ったのは、2000年になって突如首相となった森喜朗であった。その森首相が、教育改革の目玉として社会奉仕の義務化を審議会に答申させようとしてとり、その改革は現在進行形である。
 第二の動向は刑事政策の中で現れている。

根付くか?「罪の償い、社会奉仕で」 法制審が足踏み(潮流・底流)
 有罪判決を受けても、罰金を払えなかったり、刑が軽かったり、という人々に
対して、公園の清掃や老人ホームでの介護をさせようという「社会奉仕命令制度
」の導入論議が、法相の諮問機関である法制審議会で始まってからすでに二年余
りたつ。「社会への償い」と「社会復帰の促進」を理由に、米、英、独など先進
諸国を中心にすでに三十カ国余りで実施されている制度だ。しかし、「ボランテ
ィア」の考え方が十分根付いていない日本では、結論が出るまでには、まだ、か
なり時間がかかりそうだ。(加藤洋一)
●ぶつかる賛否両論
 国際的な流れのなかで、日本でも導入の検討が始まった。法制審議会は、刑事
法部会の中に財産刑検討小委員会を設け、九〇年末から二年間にわたって検討を
続けてきた。
 その結果が、今月十六日の刑事法部会で報告された。だが、推進論がある一方
で、問題点を指摘する意見もあり、結局、方向性を示せないまま、一時、小委員
会を休止し、資料を整えたうえで改めて作業を再開することが決まった。
 積極論の第一の根拠は、罰金を払えなければ必ず身柄を拘束され「労役」を科
される現状を変えることによって、資力の差による不公平を解消できることだ。
このほか、社会復帰の困難さや家庭崩壊など拘禁刑にまつわる弊害を避けること
ができること、他人が支払ってもかまわない罰金刑の短所を解消できることがあ
げられた。
 それに対して、導入消極論者が指摘するのは、欧米とは異なる日本社会の特殊
性。例えば、ボランティア活動に対する意識が未熟で、受刑者の奉仕を受け入れ
る社会的状況にないし、受刑者にとっても、公衆の面前で「さらしもの」になり
、かえって過酷な刑となりかねないというのだ。日本弁護士連合会から出ている
法制審委員も、導入を急ぐことには慎重な立場をとっている。
 もっとも、「刑」としてではないものの、非行少年を対象にした保護観察処分
などの一環として、社会奉仕は、国内でもすでに実施されている。*34)

 ここに書かれているように、アメリカでは少年刑事政策において、社会奉仕は極めて重要な位置を与えられている。少年が犯罪を犯すのは、社会における自己の存在価値を認識できないことが要因の一つとなっているが、社会奉仕の中でその存在感を自覚することが意図されているわけである。
 第三は企業の中でのボランティア活動の重視である。
 近年、ボランティアを奨励する動向が顕著である。
 92年5月14日の朝日新聞は、「ボランティア活動の評価、入試や採用で考慮を」と題して、生涯学習審議会の中間まとめを紹介している。これによると、中間まとめは、。7月末に正式に答申する予定だ。
 中間まとめは、(1)社会人に対する再教育(リカレント教育)推進(2)ボランティア活動を生涯学習の機会としてとらえ直す(3)学校以外での青少年の活動支援(4)健康、環境、資源など現代社会の課題を学べる場の拡大――の4本の柱で構成され、「学習」の場としてのボランティア活動を支援する策としては、活動の経験や成果を「資格要件として評価する」「入試や官公庁・企業の採用の観点の1つとする」として、社会の「評価システム」に組み込むことをあげている。また、生徒・児童の指導要録に活動の成果を記載するなど「教育指導に生かす」ことを提案している。
 しかも、それだけではなく、「専門的な知識や経験を持つ人々の「人材バンク」やボランティア休暇・休職制度の創設も呼びかけている」ということであり、ボランティアを社会のさまざまな分野で活性化させていこうという政策を掲げているのである。
 また、こうした動向の一環として、93年2月6日の朝日新聞によると、森山文部大臣が、新規採用選考で、学生のボランティア活動歴を評価することにしている常陽銀行に、感謝状を贈っているのである。新聞によると、地方銀行であるだけに、地域に貢献できる人材が望ましいとの観点から、履歴書にボランティア経験を書く欄を設け、面接でもじっくりと話を聞くということであり、労働省調査でも、当時は常陽銀行だけの試みであったという。文部省としては、感謝状を贈ることで、そうした採用方式を広めたいという意向があるのだろう。
 2月28日の新聞によれば、文部省は、新年度、ボランティア活動の「社会的評価」の方法やあり方についての調査研究に乗り出し、経験・成果のたたえ方、何らかの資格にできないか、入試や企業の採用での評価の観点、などを一年かけて探るというのである。
 しかし、何故、文部省がボランティアをこのように積極的に推進しようとしているのか、という政策的な分析とは別に、そもそも、ボランティアをそのような就職や進学の判定材料にしてもいいのか、という疑問も出されている。
最終更新:2008年08月06日 00:26