次に、日本教育の特質と考えられるものを析出しておこう。
何よりも大きく注目される「優秀な労働者」は、はたして、「教育の結果」なのだろうか。
エズラ・ヴォ-ゲルの『ジャパン・アズ・ナンバ-ワン』は、日本の教育の優れた点を、「受験体制」に求めて、大胆に指摘した初期の著作だったと思われる。
日本の経済的な成功に、教育が大きな貢献をした。大学の水準の低さや受験の弊害はあるが、概して質の高い教育が行なわれている。それは、
1.学ぶことの意欲が高い。
2.教育の均質性(教科書検定や全国的な学力テスト)
3.日本人の社会的一体感の形成
というところにあり、「この受験制度の結果、国としては文化の大切な部分を共有する、よく訓練された人的資源をもつことになる。好奇心に富み、教えやすく、克己心があり、人道問題にも関心が深く、公徳心にも富んだ国民を育てることになる。」と評価している。
そして、その秘訣として、「偏差値」をあげる。入学試験を行う場合に、資格試験と競争試験がある。アメリカの州立大学は、多くが資格試験をとっており、厳格な定員は存在しない。州民の指定で、基本的な学力がある者は、納税者の子弟として、みな大学で学ぶ権利があるとされるからである。
しかし、こうした資格試験的な選抜だと、優秀な生徒は、落ちる心配がないので、特別な勉学意欲が起きない。また、とうてい望みのない生徒は、最初から諦めて勉強しない。 従って、真剣に勉強するのは、ボーダーラインにある生徒のみであるが、日本のような競争シテスムだと、それぞれのグループで競争せざるをえないから、どのグループも勉強するというわけである。もちろん、アメリカの実態が、優秀な学生はあまり勉強しないというものではなく、特に私立大学は厳格な入学試験があるから、有名私立大学(プリンストン、ハーバート等)を目指す優秀な高校生は、とてもよく勉強するといわれている。
しかし、ヴォーゲルのいうような偏差値効果は、確かに否定できないだろう。
日本の教育が「成功している」と評価されるとき、必ず持出されるのが、国際学力テストの結果である。
国名 Ⅰ A Ⅰ B Ⅱ A Ⅱ B
日本 (1) 31.2 (2) 31.2 (6) 31.4 (3) 25.3
ベルギー (2) 27.7 (3) 30.4 (3) 34.6 (5) 24.2
オランダ (3) 23.9 (7) 21.4 (5) 31.9 (4) 24.7
オーストラリア (4) 20.2 (9) 18.9 (11) 21.6
イギリス (5) 19.3 (5) 23.8 (2) 35.2 (7) 21.4
スコットランド (6) 19.1 (6) 22.3 (9) 25.5 (8) 20.7
フランス (7) 18.3 (8) 21.0 (4) 33.4 (2) 26.2
アメリカ (8) 16.2 (10) 17.8 (12) 13.8 (10) 8.3
スウェーデン (9) 15.7 (12) 15.3 (8) 27.3 (9) 12.6
フィンランド (10) 15.4 (11) 16.1 (10) 25.3 (6) 22.5
イスラエル (1) 32.3 (1) 36.4
西ドイツ (4) 25.5 (7) 28.8 (1) 27.7
国際値 19.8 23.0 26.1 21.0
「理科」国際学力比較(国際理科教育調査)
国 名 小学生 中学生
日本 (1) 21.7 (1) 31.2
スウェーデン (2) 18.3 (6) 21.7
ベルギー(FL) (3) 17.9 (10) 21.2
アメリカ (4) 17.7 (7) 21.5
フィンランド (5) 17.5 (11) 20.5
イタリア (6) 17.5 (12) 18.5
ハンガリー (7) 16.7 (2) 29.1
イギリス (8) 15.7 (9) 21.3
オランダ (9) 15.3 (13) 17.8
西ドイツ (10) 14.9 (5) 23.7
スコットランド (11) 14.0 (8) 21.4
ベルギー(FR) (12) 13.9 (15) 15.4
タイ (13) 9.9 (14) 15.6
チリ (14) 9.1 (16) 9.2
インド (15) 8.5 (18) 7.6
イラン (16) 4.1 (17) 7.8
オーストラリア (3) 24.6
ニュージーランド (4) 24.2
表のように、国際的な学力テストをすると、日本の子どもたちは必ずと言っていいほど上位を占める。
もっとも、これには注意する必要もある。全体としては、確かに高得点なのだが、常に「応用力が弱い」という欠点を指摘されること、そして、
小学校や中学校段階で実施されるこのテストではいい点をとるとしても、高校段階になると低くなる傾向にあることである。つまり、日本の生徒は「先行、息切れ」型とも言うべき学習形態が、点数にも表れている。
しかし、よく言われるように、受験体制による勉強の動機づけは、学力の内容自体に大きな問題をもたらしている。
私は中学生に、私的に英語を教えることがある。中学に入学する直前に教えると、いろいろと興味深いことに気づくのである。私は、「言葉はまず音である」と考えているので、初めは文字を教えない。そうすると、生徒は非常に早く、またたくさんのことを学ぶことができる。おそらく毎日やれば、半月程度で現在中学で1年かけて教える内容を、教えることができるのではないかとも思われる程だ。しかも、生徒の間に学力差があまり生じない。またわからない場合でも、それほど恥かしがらずに勉強する。
ところが、中学校に入学し、文字を中心にした英語の授業が始まると、段々生徒は臆病になっていって、英語を話す速度も遅くなり、間違いを恐れて、英語で表現しようという意欲が無くなってくる。発音も日本語風英語になっていくのである。
長い間、どうしてだろうといろいろ考えている時、アメリカの英語教育の授業をテレビで見た。アメリカは英語のできない子どもが珍しくないので、彼等に英語を教えるプログラムがたくさんある。その中で、英語教育で1番大切なことは、間違っていてもいい、ということを徹底させることだと教師は発言していた。この発言を聞いて、私も納得できたように思った。
英語を小学生から習わせようという親がたくさんいる。何故かと聞くと、ほとんど親は「中学校になってこまらないように」というのである。「国際化時代だから、英語力を早くつけさせて活躍できるように」などと答える人はまれにしかいない。中学校の授業科目に入っていて、受験科目として重要だからなのである。この意識と学校の英語の授業の性質とは見事に相応している。
現在の学校英語の問題は、様々な面があるが、基本的にはそれが、選別の道具になっていて、そのために本来の語学教育のあり方とは、異なっていることである。私の先の経験を大学生たちに話すと、「そういう音から始めて、みんなができるようになる授業は、とてもいいと思うけど、差がつかないからこまるのではないか」という答えが、絶対に返ってくる。今の学生は、「勉強=受験勉強」という意識が、骨に髄までしみこんでいるから、差がつかない教育は不安なのかも知れない。
Q 「競争」による動機付けについて、考えをまとめてみよう。
最終更新:2007年09月25日 20:20