「ちょっと待ったあああああぁぁぁっっっ!!!!!」
「『たかが』?フフフッ、何も知らない部外者が・・・舐めた口を・・・!!!」
「あらあら、矜持の高い人間を怒らせてしまいましたか。わたくし、そんなあなた様がすっごく恐いですの・・・んふふっ・・・!!!」

フィーサと界刺の応酬が止まらない。特に、界刺はお嬢様口調を交えて応酬しているせいか、剣呑とした空気が更に冷たさを増す。

「ちょ、ちょっと待ったあああああぁぁぁっっっ!!!!!」
「フフフッ・・・!!本当に貴方という方は・・・。これは、私自らの手で然るべき懲罰を与えなければならないようね」
「“素人”の君が?俺に?んふふっ・・・。それは、無理なんじゃないかなぁ」

フィーサの瞳が敵意に満ちる。表情が怒りに染まる。そんな少女を値踏みするかのうように、碧髪の男は胡散臭い笑みを浮かべながら視線を送る。

「あ、あれ?だ、だから・・・ちょっと待ったあああああぁぁぁっっっ!!!!!」
「無理かどうかは・・・戦ってみなければわからない!!いいわ。貴方の“講習”への招待、承りましょう。フフフッ、そこで完膚無きまでに叩き潰してあげる!!!」
「・・・・・・んふっ」

宣言する声色に憤怒が混じる。見下された視線が、軽んじられた声が、フィーサの心を苛立たせる。対する界刺は、一言の笑い声を零すだけに留まった。
この瞬間、午後の“講習”にフィーサ=ティベルマーガレット=ワトソンの参加が決定した。

「・・・うううぅぅ・・・!!む、無視すんなやコラアアアァァァッッ!!!!!」
「・・・・・・で、さっきから何なのかな、“常盤台バカルテット”?何か用?」

界刺は、ようやく視線をフィーサから横に居る金束へ向ける。
先程から大声を挙げていた金束だったが、界刺達からガン無視されまくっていたので、遂には界刺の横にまで来て大声を挙げている。

「晴ちゃんを無視し続けるなんて・・・やっぱりあの人は氷像にしてあげた方がいいみたいですね~♪涼しいでしょうし~♪」
「そ、そりば言ったらフィーサも同じじゃなかと?」
「金束さん・・・ファイトです!!」

少し離れた所からは、銀鈴、銅街、鉄鞘がこちらを覗き見していた。どうやら、金束の威勢の良さに全てを託しているようである。
嫌な役割を押し付けたと言ってはいけない。金束本人は気付いていないのだから。

「ムフフ。アタシ達がここに来た目的は1つ!!界刺得世!!アタシ達と勝負しなさい!!」
「嫌。面倒臭い」
「ガクッ!!」

金束の対戦要望を即断で拒否する界刺。理由は面倒臭い。これは、界刺本人の嘘偽りの無い本音である。

「な、何で即答なのよ!?す、少しは考えてくれてもいいじゃない!!?」
「だって、先約が居るし」
「フィ、フィーサ?こ、ここはアタシ達に任せて・・・」
「この男は私の手で潰すと決めておりますの。余計な真似はしないで頂戴、金束・・・!!?」
「うっ・・・メッチャ怒ってる・・・!!!」

フィーサの言葉に、凄まじい棘があるのを感じる。何を隠そう、この2人(=他の“バカルテット”も)は同級生である。
一見しただけでは、とてもじゃないがそうは見えない。貫禄の差があり過ぎる。

「な、得世様。す、少しくらいは金束様のお願いをご考慮して頂けませんか?」
「珊瑚ちゃん・・・」

そんな最中に界刺に話し掛けるのは、赤髪の少女。真珠院珊瑚は金束の方を向いて、そして界刺に言葉を投げ掛ける。

「金束様や、銀鈴先輩、銅街先輩に鉄鞘先輩はいずれもレベル3以上の能力者。きっと、得世様のお眼鏡に叶う方々だと・・・私は思います」
「珊瑚・・・!!アンタって奴は・・・!!」

思わぬ援護射撃に、金束は顔を綻ばせる。逆に、界刺は真珠院の言葉に今まで疑問に抱いていたことを口にする。

「俺の眼鏡に叶うかどうかはどうでもいいんだけど・・・珊瑚ちゃん。君は、この娘に肩入れするわけだ。
そういえば、君ってこの娘にだけ『様』付けするよね。他の上級生には『先輩』呼びなのにさ。何か、過去に助けられた的な借りでもあるのかい?」
「は、はい!金束様には、以前助けて頂いたことがありまして。それ以来、『金束様』とお呼びさせて頂いております」
「ア、アタシとしては『様』付けで呼ばれること自体に悪い気はしないんだけど、やっぱりそう呼ばれるたびに鳥肌が立ったり体が痒くなるのよねぇ」
「(そりゃ、君に全然似合わないからだよ)」

少女達の言葉を聞いて嘆息する界刺。そんな男に気付かずに、少女達は昔と呼ぶ程前では無い話を語り続ける。

「確かあれって6月の上旬くらいだっけ、珊瑚?」
「そうですわ。私が路地裏に迷い込んでしまい、そこで不良とお見受けする方々に囲まれてしまったんです。
何やら怪しげな薬を薦められましたわ。その折に、金束様にお助け頂いたんです」
「ムフフ。アタシの手に掛かれば、あんなスキルアウト(やつら)へ一撃入れた後に・・・逃げ切るくらいワケないわ!!」
「「「「(逃げたんだ・・・)」」」」

遠藤、鬼ヶ原、形製、苧環の4名は金束の言葉に拍子抜けする。金束と真珠院の口振りから、
てっきり少女を襲う暴漢達を見事とっちめたという先入観を抱いてしまったからだ。

「・・・怪しげな薬?」

一厘は、真珠院が口に出したあるキーワードが気になった。それは、彼女が今関わっている“件”に符号するキーワード。

「え~と、何て言ったっけな。人を脅す時によく言うお決まり台詞みたいな言葉の中に、聞き慣れない言葉があったわね。
たぶん、あいつ等が所属するグループの名前だったような・・・。え~と・・・」
「あら、私もそのお名前は聞きましたよ。確か・・・」
「ね、ねぇ!金束と真珠院が遭遇した不良って・・・」

金束と真珠院が、記憶の底に沈めていたあるキーワードを思い出そうと頭を捻る。そして、一厘が2人にある確認を取ろうとする。
もしかしたら・・・。そんな逸る思いを見透かすかのように・・・






「『ブラックウィザード』か・・・」






目を瞑った碧髪の男が、金束と真珠院を襲ったスキルアウトのグループ名を言い当てる。

「そうそう!確かそんな名前だったわ!見るからに下っ端みたいな雑魚連中のくせに、偉そうな名前を付けたものよね!」
「あら!よくわかりましたね、得世様。さすがは、色んなことをお知りな・・・ッッ!?一厘先輩!!?」

真珠院の視線の先には、界刺の胸倉を両手で掴みかかっている、必死な形相をした一厘の姿があった。
一厘は、以前に界刺達に風紀委員会の情報を教えていた。だが、その時に伝えたのは『シンボル』が風紀委員に目を付けられているということだけ。
現在進行中の案件である『ブラックウィザード』については、何一つ情報を漏らしていなかった(これは、春咲にも伝えられていなかった案件である)。
それなのに、界刺の口から『ブラックウィザード』の名前が出た。ということは・・・

「界刺さん・・・!!あ、あなたは・・・知っているんですか!?『ブラックウィザード』について!?」
「さぁね。その感じだと、今になって風紀委員が血眼になって捜査してるみたいだね?というか、息苦しいんだけど?」
「ふざけないで下さい!!!ちゃんと・・・ちゃんと私の質問に答えて下さい!!!」
「い、一厘!!どうしたって言うのよ!?お、落ち着いて・・・」
「苧環は黙ってて!!!」
「!!」

苧環の制止も受け付けない、否、誰の声も届いていない。
今一厘の頭の中にあるのは、自分が関わっている“件”―『ブラックウィザード』―の情報を持っているであろう碧髪の男から有益な情報を引き出すこと。

「答えて・・・答えて下さい、界刺さん!!・・・まさか、界刺さんって・・・『ブラックウィ・・・痛っ!?」
「違ぇよ。俺は『ブラックウィザード』の一員じゃ無い。話が飛躍し過ぎだ、リンリン。
苧環の言葉を借りるわけじゃ無いけど、もうちっと落ち着け。チッ、面倒臭ぇ・・・」

興奮していた一厘にデコピンを喰らわし、界刺は仕方無しという雰囲気を露にしながら話し始める。

「おそらくだけど、晴ちゃんと珊瑚ちゃんが関わった不良は『ブラックウィザード』に属する人間だろう。
丁度、“表”の一部に“レベルが上がる”って言う薬が広まり出した時期と6月上旬は符号するし」
「ア、アンタに晴ちゃんって言われる筋合いなんて無いんだけど!!」
「・・・何処でそんな情報を!?」
「蛇の道は蛇って言うだろ?君のような風紀委員が知るようなことじゃ無い。もし知ったら・・・君は風紀委員で居られなくなるよ?」
「・・・!!」

蛇の道。つまり、そういうこと。一厘のような“表”だけに関わるような人間が足を踏み入れるべきでは無い道。

「“レベルが上がる”?何だか胡散臭いね、バカ界刺?君のようにさ?」
「まぁ、胡散臭いってか危険な代物だけどな。実際にレベルが上がった奴も居るって噂だけど、大半はレベルなんて上がりゃしない。金の無駄さ。
しかも、薬の成分に快楽性や中毒性が強い物が大量に含まれているみたいだからね、一度でも引っ掛かったら、薬物中毒一直線。
最悪・・・廃人になって二度と普通の生活には戻れないだろう。よかったね、2人共。もし引っ掛かっていたら、君達は今ここに居ないよ?」
「そ、そんなにヤバかったの・・・アタシ等って!?」
「こ、恐い・・・!!」

界刺の言葉に、金束と真珠院は身を震わせる。界刺の言葉通り、一歩でも間違えた選択を取っていたら、自分達は今ここに居なかったのかもしれないのだ。

「でも、この程度の情報は君達風紀委員でも調べは付いているんじゃないの?」
「・・・薬が広まり出したのが6月上旬ということは特定できていませんでした。
『ブラックウィザード』に関する有益な情報は、どうしてか集り難いんです。それだけ、彼等の隠蔽工作が優れているのかもしれませんが」
「・・・だとすると、やっぱり独断か・・・。それか暴走か・・・。んふっ、肥大化した組織ってのは面倒だね」
「アホ界刺・・・」
「お前の考えている通りだと思うぜ、バカ形製?」
「界刺さん?形製さん?ど、どういう・・・」
「フム。つまりは部下の暴走・・・ということね?」

界刺と形製のやり取りにイマイチ付いていけていない一厘に代わって、フィーサが口を出して来る。

「金束達の話だと、2人が会った『ブラックウィザード』は末端の人間の筈。
そんな奴等を“上”が統制できていない、もしくは統制できなくなり始めている可能性が高い」
「あっ・・・」
「それか、部下は部下でも組織の中枢に居る人間の一部が独断で薬を広め始めている可能性も考えられるんだよ、一厘?」
「そ、そうか・・・」

一厘は、フィーサと形製の分析に思わず頷く。確かに、今まで相当な隠蔽工作をしていた組織が、余りにも下らないことでその情報が漏れ始め出している。
肥大化による組織の腐敗。これは、現実に幾らでもあることだ。

「(この感じだと、桜はあん時の会合の中身を全然聞いていなかったんだな。ま、無理も無ぇけど。自分の姉が救済委員だとわかった直後だったし。
それと、今回の件に関して『軍隊蟻』はやっぱ風紀委員や警備員とは関わっていないようだな。
もし関わっているのなら、『ブラックウィザード』に関する情報をもっと横流ししている筈。
節度あるって言ってもスキルアウトなのは変わんねぇし、馴れ合いは好まねぇか。専守防衛とは、よく言ったもんだぜ。なぁ、“お嬢”?)」

界刺は一厘の様子を眺めた後に目を瞑り、様々な思考を脳裏に浮かばせる。
今思い浮かべているのは、『ブラックウィザード』と抗争中のスキルアウト・・・『紫狼』。


『確かに姐さんの言う通り、昔の「紫狼」はスキルアウトにしては大人し目のグループだったけど、
刺界が言った通りリーダーが代わって以降は戦力を増強しているみたい。縄張りも段々拡大しつつあるって話もある』
『どうやら、以前のリーダーに不満を持つ者も少なからずいたらしいな。それに、今の「紫狼」は加入に能力者のある無しという制限を設けていないようだ。
中には高位能力者も居ると聞く。後、これはあくまで未確認情報だが現リーダーがある傭兵を雇ったそうでな。その男・・・とてつもなく強いそうだ』
『傭兵?もしかして・・・そいつも能力者なの?』
『その当りについては未だ不明だ。だが、その傭兵の力であの「ブラックウィザード」の猛攻を押し返したという情報が幾つかある』


そして、昨夜出会った殺人鬼のこと。


『だが、俺は仕事に無関係の人間は「無闇」に殺さない。その例外があるとすれば、それは俺が興味を抱いたということに他ならない』


「(人を殺す仕事を請け負う。つまり・・・殺し屋や傭兵と呼ばれる部類の人間。確かにあの男なら、単騎で『ブラックウィザード』と渡り合うってのも納得できる。
『ブラックウィザード』の“手駒達”には能力者も結構居るって聞くけど、あいつ相手じゃあ対抗し切れないだろうな)」

凄まじい殺気を撒き散らしながら、自分を殺しに掛かって来た男。もし、あれが麻鬼の言う『紫狼』の現リーダーが雇った傭兵ならば、
麻鬼が掴んだ未確認情報に確かな信憑性を付与することができる。

「(きっと・・・あの男の出現が切欠な気がする。今まで均衡が保たれていた『ブラックウィザード』を、あの男が揺るがした。
そして、秘かに埋まっていた腐敗の種が芽吹き始めたって所か。そんで、その触手が“表”にまで広がり始めている。これは、おそらく誤算であって誤算じゃ無い。
もし、部下が勝手に薬を売り捌く対象を“表”に変更したとしても、それに幹部連中が気付かないわけが無ぇ。
ましてや、自分に害があれば仲間でも躊躇無く切り捨てることで有名な、あの“孤皇”東雲真慈がそんな勝手な真似を許すわけが無ぇ。
つまり、連中にとっても“表”にまで手を伸ばす必要ができたんだ。狙いは“手駒達”の補給と強化。それと、手に入れた金による武装補充って所か。
そんでもって、対象を広げた弊害として風紀委員に捕捉されたって感じか。連中にとっては、中々に厳しい展開だな。・・・『風紀委員にとっても』だけど。
こりゃあ、血で血を洗う大規模な殺し合いに発展しそうだな。リンリンとかは、そんなのに耐え切れるんだろうか?・・・まぁ、知ったこっちゃ無いか。リンリンの問題だし。
推測としちゃあ、大体こんな所かな。やっぱ、あの殺人鬼・・・ただ者じゃあ・・・)」






「刺!!界刺ってば!!」






「うん!?な、何?」

思考の渦に身を委ねていた界刺は、苧環の声によって現実に引き戻される。見れば、他の女性陣も自分に注目していた。

「何って・・・。あなたが急に黙って難しそうな顔をしていたから、声を掛けたのよ。何回呼んでも全然反応しないし」
「バカ界刺。その様子だと、他にも情報を持ってそうだね。この際、一厘に全部教えてあげたら?」
「界刺さん・・・」

苧環、形製、一厘の順で声が掛かる。特に、一厘の声は懇願にも似た色を帯びていた。

「・・・駄目。“サービス”はここまでだ」
「界刺さん!!」

しかし、界刺はこれ以上の“サービス”はしないときっぱりと告げる。その表明に、一厘が抗議の声を挙げる。

「・・・おい、一厘。君は、何か勘違いしてんじゃ無ぇか?」
「か、勘違い・・・?」
「そう。俺は、風紀委員じゃ無い。そんな俺が、何で君達の都合で動かないといけないの?」
「!!」

一厘は、今更のように気付く。自分が相対している男、界刺得世とは一体どういう男なのかを。

「君は、俺という人間をよく知っているだろう?もし俺が君の望むような人間なら、“あの”お嬢さんがあんな目に合うまでほっとかない。違うかい?」
「そ、それは・・・」

“あの”お嬢さん。それは、一厘の先輩風紀委員である春咲桜という少女。彼女は、かつて大怪我以上の傷を負った。
そして、それを界刺は黙認した。自業自得という名の下に。

「『ブラックウィザード』が売り捌く薬なんかに引っ掛かる人間なんてのは、どいつもこいつも今の自分に自信が無い連中が殆どじゃ無ぇの?
そんな連中がどうなろうが、俺にとってはどうでもいいことだ。自業自得だしな。勝手に薬物中毒になって、勝手に廃人にでも何にでもなりゃあいい。
まぁ、“レベルが上がる”とか関係無しに引っ掛かった奴については、そうは思わないけど」

聞く人間によっては冷血漢の台詞にも聞き取れる言葉を、界刺は躊躇無く口に出す。

「俺がいざという時に最優先するのは自分だ。間違っても俺以外の人間じゃ無い。
自分のことを最優先に考えられない奴に、他人を助けるなんてことはできない。そう、俺は考えているから。
俺は、他人のためには動かない。全部、俺自身のために動く。俺の信念に従って。俺の信念が正しいことを、この世界に証明するために。
だから、一厘。俺は俺の信念に従って“サービス”終了を決めた。この決断を・・・君が変えられるとでも?俺は、君にとって都合のいい人間じゃないよ?」
「・・・!!!」

一厘は言葉を失う。心の何処かで思っていた。自分は、界刺得世という男のことをもう理解していると。
短いながらも濃密な時間を過ごした自分は、この男をもう理解したのだと。
だが、それは思い違いだった。目の前に居る男の言葉を、今の自分は消化し切れない。

「例えばさ、午前中の“講習”も今から行う“講習”も、根本的に君達のためになんかじゃ無い。俺のためだ。
俺の信念に従った結果、“講習”を開くってことにしたんだ。一厘!珊瑚!俺は、君達のために手取り足取り優しく教えてあげたのかい?」
「・・・優しくなかったです」
「・・・痛みと苦しみを伴いました」

一厘と真珠院は、自分達の体験した“講習”を思い出す。痛くて、苦しくて、幾度と無く倒れた末にようやく光明を見出したのだ。

「そうだろ?他にも、遠藤ちゃんや嬌看には暴力じゃ無いけどかなり厳しいことを言ったし。でも、君達はそれでも自分が成長するためならって受け入れた。
君達は、俺が与えた色んな痛みや苦しみから自分の力で何かを掴んだり学んだりしたんだろ?それは、君達の努力の賜物だ。俺は、切欠を与えたに過ぎない。
だが、“レベルが上がる”なんて胡散臭い薬に頼った連中は、何の努力もしていない。何も苦しんでいない。唯の“負け犬”も同然さ。
当人からすれば努力してんのかもしれないけど、俺からしたらそんな薬に安易に頼った時点でお話にならない。
俺は、そんな人間のために動いたり命を懸けるなんざ真っ平御免だね。繰り返すけど・・・それは自業自得。自分のツケは自分で払え。
それでもどうしようもないって時に・・・俺は初めてそいつのために動く。そいつが、全ての手を尽くして駄目だったんだ。だったら、俺の力を貸してやる。
俺以外の奴の力も借りて、そんなどうしようもないことをブッ飛ばしてやるよ。世界の一部である人間(おれたち)の手で!!」

界刺得世という男は、無償の善意で動くような人間じゃ無い。そのことを、ここに居る女性達は初めて、あるいはもう一度認識する。

「だから、一厘。これは、君の抱える問題だ。君が何とかしなきゃいけないことだ。俺を・・・何時までも安易に頼っていちゃ駄目なんだよ?」

男は少女に言う。もう、時期は来たのだと。それは―“自立”という名の巣立ちの刻(とき)。






「・・・わかりました。これ以上は、界刺さんにお聞きしません。自分の・・・いえ、自分達の力で何とかしてみせます!!」

一厘は、自分の安易さをまた恥じる。今朝の図書室で界刺に甘えてしまったことを、またもや繰り返してしまった。
これでは、駄目。こんなんじゃあ、何時まで経っても界刺に追い付けない。だから、もう一度心を強く持つ。
界刺の言葉に全て納得できないのなら、相容れない部分があったのなら、それは一厘鈴音自身の信念が芽吹き始めている証拠。
きっと、それは界刺も望んでいること。自分だけの確固たる信念。それをどう成長させるかは、自分次第。

「私は、界刺さんみたいに薬物中毒に苦しむ人達を簡単に切り捨てることはできません。だから、私は私の意志でその人達と向き合おうと思います。
そして、そんな人達を苦しめる『ブラックウィザード』に対しても、自分の信念でもって立ち向かおうと思います!」
「うん。いいんじゃないかな。んふっ・・・成長したね、鈴音」
「!!」

界刺の手が、一厘の頭にポンと置かれる。初めて、自分の下の名前を呼んだ。『成長した』と・・・初めて言ってくれた。自分の成長を・・・認めてくれた。
それが・・・それだけのことが・・・嬉しかった。すごく、すごく嬉しかった。だから・・・



ハグッ!!



「お、おい!?リンリン!?」
「嬉しい・・・嬉しいよ!!初めて・・・初めて界刺さんに・・・『成長した』って言って貰えた・・・!!すごく・・・すごく嬉しい・・・!!」

一厘は椅子に座る界刺に抱き付く。自分が目標とする人が、散々自分を駄目出ししまくった人が、初めて認めてくれた己の成長。
この歓喜を言葉だけでは表せなかった。だから、言葉だけでは無く行動でもって示した。そんな少女の頭をポンポンと叩く界刺は、周囲に向けて声を放つ。

「・・・ハァ。君達、“これ”で機嫌を悪くしないでくれよ?」
「わかってるわよ。一厘のこの喜びようを見ちゃったら・・・ね」
「まぁ、アホ界刺に色々言われまくっていたようだし、溜まっていた色んな物が爆発したって感じかな?」
「・・・マーガレット。この男には一切の油断も許されないわよ。全身全霊でもって叩き潰す。いいわね?」
「わかっております。これだけのものを見せ付けられたのでは・・・否が応にも手を抜く余裕等存在しないと認識せざるを得ません。私も、全力で臨みます」
「私も・・・一厘様のように何時か界刺様に『成長した』と言って貰えるように頑張らないと!!」
「サニー先輩の言う通りですわ。私も、未だスタート地点に立ったと言うだけ。ここからは、私次第。得世様に受けたご厚意に恥じぬように、精一杯努めなければ!!」
「そ、そうです!!遠藤も、フィーサ様に自分の成長した姿を見せたい・・・!!が、頑張ります!!」
「“自分自身”を信じて努力する・・・唯それだけです!!」
「・・・・・・・・・あれっ?何だかアタシの存在が忘れられているような・・・?あれっ?」
「(・・・そろそろ頃合いかな?)」


各人が様々な反応を示す中、界刺はこの場を纏めるために自分が抱く3つの目的を打ち明けることを決断する。その3つの目的とはー!!

continue!!

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最終更新:2012年07月06日 19:55