上空には少しずつ雲が出てきている。吹く風も、午前中に比べれば強くなり始めている。まるで、風雲が急を告げているかのように。
「相変わらず、バカ界刺の思考は読み辛いったらありゃしない。まさか、派閥の在り方に目を付けていたなんてね。
確かに、あいつの性格的には気に入らない部分だろうけど」
「あら、私は気付いていたわよ?彼が何をしようとしているのかを。『分身人形』に頼り過ぎじゃない、形製?
それにしても・・・一度決断すればこの名門常盤台の在り方さえ躊躇無く敵に回すか・・・。クスッ、さすがは界刺さんって言った所かしら?」
「界刺・・・“さん”?」
「苧環・・・。君は・・・本当に界刺のことを・・・!!」
「ハッ!!」
「・・・これも、さすがは界刺さんって言った所かな?・・・ホント界刺さんって、今日1日だけでどれだけのことを為そうとしているんだろう・・・?」
「得世様が勝つに決まっています!!」
「い、いえ!!遠藤は、フィーサ様達が勝つと思います!!」
「サ、サニー先輩はどちらが勝つと思いますか?」
「う~ん・・・む~ん・・・う~む・・・・・・よくわかんないです!!!」
「「「えっ」」」
これより、午後の“講習”が開かれようとしていた。その噂は瞬く間に学生寮中に広まり、寮内の常盤台生達はまたもや庭の一角にて見学する形になった。
「つ、津久井浜さん。また、あの人が面白そうなことを・・・」
「・・・静かにして下さいませんか、菜水さん?私は今・・・とても集中しているの」
「(こ、こんな真剣な津久井浜さんは初めて見る・・・!!やっぱり、あの人に負けたのが相当悔しいのかな?)」
午後の“講習”はもうすぐ始まる。場に緊迫した空気が漂い始める。午前の“講習”にて既に常盤台生を4人も打ち破っている男、界刺。
その男と対峙するのは、常盤台に存在する派閥の中でも規模が大きい部類に入る派閥の長、フィーサその人。そして、フィーサの片腕的存在であるマーガレット。
彼女達との戦闘が終わった後は、“常盤台バカルテット”との対決も控えている。見学する少女達は、人知れず手に汗を握る。
「フィーサ様・・・!!必ずや勝利の栄冠を私達の手に・・・!!」
「あ、あんな何処にでも居る男子校の学生1人に、私達常盤台生が負け続けるなんてことは絶対に許されないわ!!」
「フィーサの奴は気に入らないけど・・・そんなことは言っていられない。私達が常盤台(ここ)に居る意味を無意味にしないためにも!!」
界刺にとって名も知らぬ少女達が口々に言い合うそれは、焦燥と言う名の感情。
もし、今回の“講習”に参加している彼女達でさえ打ち破られるような事態になれば、単身であの男に立ち向かえる常盤台生は2人しか居なくなる・・・かもしれない。
2人とは、常盤台に存在するレベル5。学園都市第三位の御坂美琴。学園都市第五位の食蜂操祈。
最高峰の電気系能力者と最高峰の精神系能力者。常盤台の秘蔵っ子である彼女達なら、あの男を打ち破ることは造作も無いだろう。
だが、それだけだ。この2人以外なら、常盤台生は男子校の生徒1人に勝つことさえできない・・・かもしれない。
それは・・・名門
常盤台中学に通う者として、果たして認めてしまっていいものなのか。答えは・・・否。
もし認めてしまったら、学園都市でも5本指に入る名門校に所属する自分達の存在意義が揺るがされる。
『常盤台に通うレベル5以外の学生は、たかが一般の男子高校生1人にさえ及ばない』等と言う事実は、絶対にあってはならないのだ。
「どうやら、観客のテンションも上がって来たようだ。いいね、この感じ」
「彼女達のテンションは、貴方が思っているようなものとは違うと思うけど?」
「視線が痛い・・・ですわ。今更ながら、自分が立っているこの場所に掛かっているモノの重さというのを実感します」
観客の視線が集る場所に立っている界刺、フィーサ、マーガレットは各々の感覚で自分達に注がれる視線を感じ取る。
「それじゃあ、始めましょうか?」
「その前に1つ聞いておきたいことがあるんだけど」
「ん?何かしら?」
「君は・・・遠藤ちゃんの『絶縁帯電』に対する適切なアドバイスを送らなかったんじゃ無い。送れなかった。
何故なら、派閥内に電気系能力者が居なかったから。周囲に弱みを見せたくなくて、自分の派閥外の人間に頼むことができなかったから。そうだね?」
「!!」
界刺は、フィーサの人となりを改めて観察した上でこの結論を下した。フィーサは仲間を、つまり派閥内の人間を大事に思っている。
そんな彼女が、何故困っている遠藤に対して適切なアドバイスを送れなかったのか?それは、きっと・・・
「・・・遠藤が困っていることは知っていたわ」
フィーサは界刺の問いに真正面から答える。
「貴方の言う通り、私の派閥の中に電気系能力者は遠藤しか居ないわ。だから、彼女に対して誰も適切なアドバイスができなかった。
遠藤は、入学してすぐに私の派閥に入ったせいか派閥外の友達が居ないの。だから、派閥内の人間しか頼れる人が居なかった。
本人は『派閥争いに巻き込まれるのが嫌でした』と言ってるけど、それが逆に仇となってしまった」
「それは、君も同じ・・・だろ?」
「・・・えぇ」
フィーサは、自嘲気味な表情を浮かべる。
「常盤台に派閥というのがあるとわかってから、ずっと派閥争いを繰り返していたわ。だから、私にも派閥外に友達は居ない。
レベル5の存在に打ちのめされながらも、色んな人に嫌味や嫌がらせを受けながらも、私は派閥の維持に努めたわ。・・・友達を失わないために。必死に・・・必死に!!」
一度派閥を作ってしまうと、他派閥の人間と交流を深めることが難しくなる。友達グループの枠組みを超えた常盤台の在り方。人脈・金脈が絡んだ複雑怪奇な在り方。
その在り方に・・・何時しかフィーサ=ティベルは囚われてしまった。自由に動くことができなくなってしまった。
そんな自分にできることは、作り出した派閥を維持すること。自分と付き合ってくれる仲間を失わないようにすること。
それを守るためなら他派閥に対して攻撃的になったり、『気位が高い』という様相を装ってみたり、監視カメラによる動向チェックまで何でもやった。
「・・・君はそれ以外での友達作りの手段を見失ってしまったんだね」
「えぇ。だから、今日の遠藤が取った行動は驚愕モノだったわ。この私ができないことを、あの娘は見事成し遂げた。貴方と苧環のおかげで」
「やっぱり・・・。監視カメラで発見したかったのは俺じゃ無くて・・・」
「遠藤よ。お茶会の準備に1人現れなかったから気になって」
監視カメラを使って遠藤を探していた最中に、その光景を見た。だから、行動を共にしていたマーガレットを連れて界刺達の元へ向かった。
「・・・結局私は臆病だっただけ。それを、遠藤の行動で気付かされたわ。勇気を持てば友達は作れるってことを・・・そんな当たり前のことをあの娘は教えてくれた」
「本当は、フィーサ様はあなたにお礼を言おうとしていたんです。遠藤に新しい友達ができる切欠を作ってくれたあなたに、フィーサ様は感謝の念を抱かれていましたから」
「そうだったのか。・・・悪かった。余計なことをしちまったな。ごめん、2人共」
「いいわ。だって、貴方のおかげでこんなワクワクする“講習”に招待して貰ったんだし。ねぇ、マーガレット?」
「そうですね。いずれにしても、『気位が高い』風を装っていたフィーサ様では、素直にお礼を言えたかどうかは怪しい限りですし」
「言うわね、マーガレット?」
「はい。フィーサ様の派閥に属していますから」
「「フフフッ」」
2人の少女は、互いに笑い合う。これが、彼女達の在り方。だからこそ、碧髪の男は敬意をもって相対する。
「それじゃ、そろそろ始めるよ?準備はいい?」
「えぇ」
「何時でも」
フィーサとマーガレットの了解を得た界刺は、ファッション勝負の会場となったこの庭中に響き渡るような大声を張り上げる。
「Ladies and 俺!!今から始まるは、互いの『自分の在り方(ファッションセンス)』を賭けた真剣勝負!!
この界刺得世に挑むのは、フィーサ=ティベル&マーガレット=ワトソン!!んふふっ・・・観客の皆様方。我等の勇姿を、『自分の在り方』をとくと御覧あれ!!!」
言い終えた瞬間、3人は同時に動いた。『自分の在り方』を証明するために。
初手はフィーサ。彼女の能力『斥力支配』による斥力球を界刺の近くに発生させる。基点となる空間座標から斥力球が形作られるまでおよそ3秒弱のタイムラグがある。
これは弱点であり、故にこそそれを生かした戦法も存在する。
ドン!!ドン!!ドン!!
それは、時間差による斥力攻撃。最長基点距離である自身から52m内ならば、幾十もの斥力球を発生させることができる。
そして、この斥力は光を操る界刺にとっては厄介な代物であった。何故なら、斥力は光を曲げてしまうからである。
この能力の余波を受けた場合、『光学装飾』による装飾の数々が歪められる可能性大のため、界刺はフィーサから距離を取る。
今の界刺は、光に干渉するという自分にとって不利となる斥力の性質を利用して無色透明な斥力球の設置場所を特定するために、
わざと自分の周囲の可視光線を操作しまくっていた。基点となる球の中心部分は、球を発生させる前に僅かながらの斥力を発生させている。
そこへ可視光線をぶつけ、歪められた場所=斥力球の設置場所を感知し余波を避けているのだ。
『光学装飾』と『斥力支配』により、目に映る光景が様々に歪んでいる。界刺がフィーサの『斥力支配』の設置範囲外に出た瞬間、
グン!!
近付いて来たマーガレットの『真空力場』が襲う。
人類の生み出す科学技術が発展すれば何時か観測できるかもしれないエネルギー、すなわちダークエネルギーを操作する能力。
性質としては“反重力”。これだけならフィーサの『斥力支配』と同じような能力かもしれないが、『真空力場』の場合は発生させた力場が真空状態になってしまうのだ。
トラック1台をギリギリ吹き飛ばす威力を、しかし『光学装飾』でマーガレットの位置を把握していた界刺は“反重力”に逆らわずに同じ力の向きに跳ぶ。
バン!!
“反重力”によって地面が抉れる。その余波を界刺も喰らい、吹っ飛ばされる。だが、ダメージ的にはそれ程では無い。
近くにいたマーガレットは、何故か“反重力”を発生させた場所から足早に遠ざかって行く。その間に体勢を立て直そうとした瞬間・・・
ギュン!!
風が発生する。『真空力場』によって真空状態になった空間の気圧は低くなっている。そして、風とは気圧の高い所から低い所へ吹く。
故に、真空状態になった空間目掛けて周囲の気圧が高い空間から風が殺到する。それに、界刺も巻き込まれる。
体勢を立て直すために立ち上がったことが災いしたのだろう、強烈な風に巻き込まれ真空状態になった場所に体が泳いで行く・・・
ドン!!
そこに発生したのは、『斥力支配』による斥力球。地面を基点とした斥力球をモロに喰らった界刺は、空へ吹き飛ばされる。
発生した風に巻き込まれないように踏ん張るフィーサが、界刺が落下して来る場所に多数の斥力球を設置しようと準備する。一気に勝負を決めるつもりなのだ。
フィーサ達の優勢を見て、観客である常盤台生が色めき立つ。彼女達は、フィーサ達の勝利を確信したのかもしれない。
だが、一部の常盤台生はそうは思っていなかった。あの碧髪の男が、自分達を色んな意味で苦しめたあの界刺得世がこのまま終わるわけが無い。
それは、経験に基づく確信。その確信通りに、碧髪の男は行動を開始する。懐から<ダークナイト>を取り出し、赤外線通信を行う。
ビュッ!!
それは、<ダークナイト>に備え付けられた7つある機能の1つ・・・『樹脂爪<キャプチャークロウ>』。
赤外線を使用して目標の材質や厚さ等を瞬時に測定した後に、棒の先端に円形状の鉤爪を合成樹脂によって形成し、棒内にあるワイヤーと連結・発射するという、
かの『演算銃器』の性質を持ち合わせた『樹脂爪』が、庭に植えられている木―『斥力支配』の設置範囲外―を確実に掴む。
その後ワイヤーが急速に巻き取られて行き、<ダークナイト>を握る界刺は木に直撃する。直撃とは言っても、ちゃんと足から着いた。
その衝撃は相当なものだったが、何とか我慢して『樹脂爪』をワイヤーから切り離し、地面に足を着ける。
意表を突かれたフィーサとマーガレットが、界刺が着地した場所へ向かおうとする。
ピカァー!!!
突如自分達の周囲を覆ったのは、光柱。辺りの光景が、全て光に覆い尽くされる。
フィーサ・マーガレット共にサングラスを掛けているため、目への過剰刺激こそ無いものの、光輝く“白色”以外の光景が何も見えなくなる。
光を歪ませる『斥力支配』も、自分に近い位置では発生させ難い。“白色”で覆い尽くされた空間では、座標設定に必要な距離の把握も困難。
それを看破したが故の光柱。前も後ろも右も左もわからない、方向感覚の幻惑。この幻惑術にフィーサとマーガレットが困惑しているその隙に・・・
ドコッ!!ベキッ!!
何時の間にか近付いていた界刺の拳がフィーサの腹に、警棒がマーガレットの下顎に叩き込まれる。
2人共に吹っ飛ぶが、斥力球によるダメージが大きいのか威力は然程無かった。
吹っ飛んだことを利用して、フィーサとマーガレットは『斥力支配』と『真空力場』を発生させようとする。
自分が殴られたことにより、界刺の位置は大体把握したために。だが、
ドドドドドオオオォォォッッ!!!!
それは、色の暴力。『光学装飾』によって、フィーサやマーガレットの目に多種多様の色彩情報が叩き込まれる。
殴ったことにより、少女達が掛けているサングラスがズレた。それを利用した点滅・点灯を繰り返す何百種類もの色の暴力が、少女達に襲い掛かる。
先程までの“白色”一色からの急激な変化に、フィーサとマーガレットの脳は情報を処理し切れない。能力行使に必要な演算さえまともにできない思考状態。
過密情報を叩き込まれ、一気に気分が悪くなる。それでも、何とか色の暴力を遮断しようと目を瞑るが・・・
ドカッ!!バキッ!!ベコッ!!ガキッ!!
そんな隙を碧髪の男が見逃す筈も無く、正真正銘の暴力を喰らう。拳を、蹴りを、警棒を何発も。やはり威力こそ低いものの、積み重なればダメージは蓄積して行く。
サングラスも吹き飛ばされ、顔からも血を流し、だが思考機能が回復していない2人は蹲って耐えるしか無い。そして・・・
ドン!!
いち早く思考機能が回復したフィーサが、自分の体近くに斥力球を発生させる。自分やマーガレットをも巻き込んだそれは、この場からの緊急離脱の意味もあった。
威力は抑え目にした斥力球により、フィーサ・マーガレット・界刺は吹っ飛ばされる。それと同時に、色の暴力も光柱も消えた。
光柱によって3人の姿が見えなくなっていた観客は、今の3人の姿を見て驚愕する。碧髪の男もボロボロだが、2人の少女も体中が傷だらけになっていたからだ。
男は口に溜まった血反吐を吐き、少女達は顔から流れている血を制服の裾で拭う。互いの『自分の在り方』を賭けた真剣勝負の行方は、未だ収束の気配を見せない。
「とんでもないなぁ、その『斥力支配』と『真空力場』ってのは。おかげで、午前中の“講習”では一撃も貰わなかった俺がこの有様だよ」
「貴方って、本当に容赦無いわね。ここまで傷だらけにされたのなんて、生まれて初めてのことよ。フフフッ。でも・・・まだこの楽しい時間は終わらないのね」
「そうですよ、フィーサ様。それにしても、フィーサ様と立てた作戦を乗り越えて、その上逆襲まで仕掛けて来るとは・・・。さすが」
ボロボロな界刺・フィーサ・マーガレット。だが、3人共に顔は笑っていた。何故なら、3人共にこの“講習”を楽しんでいるからだ。
「2人共、楽しんでいるかい?」
「えぇ!本当に楽しい!すっごく楽しい!こんな気分は、本ッッ当に久し振り!!」
「私は、そんな楽しげなフィーサ様を見ることができてすごく嬉しいです。もちろん、私自身も楽しんでいますが」
はしゃいでいるフィーサと、クールな雰囲気の中に喜びを混ぜているマーガレット。これが、彼女達の在り方。その在り方を見ることができた界刺は、思わず笑い声を零す。
「んふふっ」
「・・・何で笑ってるの?」
「いやぁ、君はそういう表情が似合うなぁって」
「ッッ!!な、何を言ってるの!?こんな戦闘の最中に・・・!!」
「だからこそだよ。これが、『自分の在り方』を競い合っている意味でもある。醍醐味でもある。
『自分の在り方』を示す姿を見ていれば、その人間がどういう人なのかってのがわかって来る。だから・・・やっぱり君はそういう表情が似合っていると思うんだ」
「・・・・・・。///」
「ありゃ。何か茹蛸状態になっちゃった」
「あなたは・・・本当に女ったらしですね。あれだけの女性から慕われているというのに、更にその手を広げられるおつもりですか?」
界刺の言葉に、流している血の色に負けないくらい顔を真っ赤にして俯いてしまうフィーサ。そのやり取りに呆れてしまうマーガレットのツッコミが、碧髪の男へ向けられる。
「・・・そのことでちょっと相談があるんだけど。2人共、座って座って」
「・・・ハッ!な、何かしら?」
「・・・?」
何故か戦闘そっちのけ、観客ほったらかしで座り込む3人。
「マーガレットが指摘したことだけど、俺ってそんなにモテてんのか?」
「貴方・・・!!」
「自覚無し・・・と来ましたか」
「一応そんな感情を俺に向けてる奴を客観的に考えてみたんだ。この常盤台なら、今ん所バカ形製、苧環、リンリン・・・一厘のことね。それから珊瑚ちゃんに嬌看って所か。
他の学校だと桜に涙簾ちゃん・・・。いや、涙簾ちゃんは違うか。あの娘は、他の娘とは違って“特別”だからな・・・」
「・・・その“特別”を入れたら7名も・・・!!」
「・・・何という女ったらし・・・!!」
フィーサとマーガレットは、界刺の言葉に心底呆れてしまう。
「と言っても、俺はそいつ等含む女連中に酷い目を喰らって来たからな。今じゃあ、女性不信状態になっちまってる。恋愛感情も抱かないし、発情もしないって有様だ」
「女性不信・・・!!貴方、そんな状態になっているの!?」
「うん」
「でしたら、何故私達とこうして付き合えて・・・?」
「君等を女として見ていないから」
「「ブッ!!」」
「・・・そういう反応は、数時間前にも見たね」
「・・・この私が女として見られていない?な、何と言う屈辱・・・!!」
「それ、苧環も同じことを言ったね。君達って、もしかして気が合うんじゃない?」
「ブッ!!!な、何てこと・・・!!あの“苧環パー娘”と同じことを口走っちゃったなんて・・・!!」
「“苧環パー娘”?何それ?初耳なんだけど」
「あいつって、元々は天然パーマなの。普段はストレートパーマにしてるんだけど、何時だったか普段利用している美容室の機械が不調だったせいで、
元からの天然パーマが更に酷くなったの。丁度その時期がテスト期間中だったから、休むに休めなくて・・・」
「仕方無く君達の前に姿を現したと・・・。ちなみに、どれくらい酷かったの?」
「あれは、何と言うか・・・雲?」
「どちらかと言うと、雲より綿菓子みたいな爆発具合だったような・・・」
「「「チラッ」」」
「なっ!?な、何で私を見ているのよ、あの3人は!?」
界刺、フィーサ、マーガレットの視線が急に自分へ向けられたことに対して不審がる苧環。
「(モコモコ)」
「!!!」
そんな苧環の瞳に映るのは、界刺が己の頭の上にある“何か”を触ろうとしている姿。まるで、そこにある“何か”を触っているかのような態度を見て、苧環は硬直する。
そして・・・
ダッ!!
苧環は、界刺達へ向けて全力で駆け出した。それを予測していた界刺は、フィーサに対して指示を出す。
「フィーサ!距離5!2秒!手加減!」
「!!」
苧環が電気を用いた身体能力強化によって、猛スピードでこちらに近付いてくる。
フィーサは界刺の指示を瞬時に理解し、自分から5m離れた地点に2秒経った後に、『斥力支配』による斥力球を発生させる座標を設置する。
その基点が約3秒のタイムラグを経て斥力球となる。威力は抑え目のソレが発生した直後に、こちらに駆けていた苧環と衝突する。
「ブハッ!?」
斥力球と衝突した苧環は、反動込みで勢い良く後ろへ倒れる。
「痛っ・・・!!」
「大丈夫かい、“苧環パー娘”?」
「!!!」
地面に頭を打った苧環が痛みに苦しむ中、近寄って来た界刺が少女を渾名で呼ぶ。その言葉を認識した瞬間、苧環は痛みをおして体を起こす。
「か、界刺さん!!そ、その渾名で私を呼ぶのはどうか止めて下さい!!お、お願いします!!」
「・・・何だかその口調で話されると、少し鳥肌が立って来る。ブルッ!」
「あら。いいじゃないの、“苧環パー娘”?その渾名って、ある意味おいしいと思うわよ?」
「フィ、フィーサ・・・!!やっぱり、あなただったのね!!界刺さんにその渾名を教えたのは!!」
苧環は、ものすごい形相で余裕綽々なフィーサに食って掛かる。
「さぁね。どうだったかしら?全然覚えていないわ。フフフッ・・・」
「フィーサ・・・!!」
「・・・もしかして、君がフィーサに馬鹿にされたっていうのは・・・“苧環パー娘”か?」
「だ、だからその渾名をあなたが言わないで下さい!!う、うう、うううぅぅ・・・!!」
「お、おい!?な、何も泣くこたぁ無ぇだろ!!」
「だ、だってえええぇぇぇっ!!!そ、その渾名だけは・・・界刺さんに知られたくなかったんですよおおぉぉっ!!!うううううぅぅぅ!!!」
「うっ・・・。お、苧環のこんな姿、初めて見たかも。ねぇ、マーガレット?」
「そ、そうですね。何時もはクールでビシっとキメている苧環先輩が、こんな姿を衆目に晒すとは・・・。恋とは恐ろしいものですね」
その場にへたり込んで泣き喚く苧環の姿に、フィーサとマーガレットは若干引いてしまう。これが、あの
苧環華憐なのか?
その疑問は、観客である常盤台生全員の共通見解でもあった。そして、こう思った。『恋とは、ここまで少女を変えてしまうものなのか』と。
(この時点で、形製、一厘、苧環、真珠院、鬼ヶ原が界刺を好いている可能性があることは、周知の事実となっていた。
この内苧環だけが可能性の枠内だったのだが、今の行動で事実と相成り、この5名が同じ男を好きになっていることが白日の下へ晒された)
「わかったわかった。君のことはその渾名で呼ばないから、いい加減泣き止めって」
「・・・本当?」
「あぁ、本当だ。苧環って呼べばいい・・・」
「華憐」
「へっ?」
「華憐って呼んで。あなたなら・・・私の下の名前を呼んでもいい。いいえ、下の名前で呼んで欲しい!!
パパやママにしか呼ばれたことが無いその言葉を・・・あなたに」
「(こ、この流れは・・・!!な、何か卑怯じゃね!?いや、人のことは言えないけど!!)」
涙で瞳を潤ませた苧環が、頬を紅潮させながら上目遣いで懇願する。その視線を直に向けられた界刺は怯む。
周囲に居るフィーサとマーガレットは、ニヤニヤしながら傍観するばかりだ。こいつ等、絶対にこの状況を楽しんでやがる!!と界刺は思うが、今はそれ所では無い。
普段の雰囲気からは想像も付かないその声色に含まれているのは・・・甘え。苧環は界刺に甘えているのだ。それは、心を完全に許していると言い換えることもできる。
「界刺・・・さん・・・」
「ぐぬぬ・・・!!」
これに応える応えない如何で、苧環と界刺の関係は変わってしまう。それが判っているからこそ界刺は言い淀むが、苧環は尚も甘えて来る。そして・・・男は決断する。
「か・・・かか・・・華、憐。華憐。こ、これでいいのか?」
界刺は、少女のことを『華憐』と呼ぶことを決めた。普段は色んな渾名を(勝手に)付けて呼んでいる界刺だったが、いざ逆の立場になってみるとここまで大変なものなのか。
そして・・・男の決断を受け取った少女―苧環華憐―は満面の笑みを浮かべてこう言った。
「嬉しい・・・!!!」
その笑みを浮かべた少女の姿こそ、苧環華憐の本来の姿。彼女もまた、派閥の長として色んな苦しみを抱いていた。それで、幾度も顔を歪ませることもあった。
そんな彼女が見せた満面の笑みは・・・界刺だけで無く、フィーサやマーガレットさえ見惚れる程のものだった。
「・・・苧環」
「・・・何?」
フィーサが苧環に近付いて行く。先程界刺に告げ口された少女の声を聞き、僅かながら不機嫌になる苧環の耳に、
「ごめんなさい。もう・・・絶対に言わないわ。だから・・・ごめんなさい」
「フィーサ・・・!!」
フィーサの謝罪の声が聞こえて来る。それは、1人の少女としてある少女に向けられた謝罪。派閥の長としてでは無い。
フィーサの中にある何かが、苧環の笑みを見た瞬間に変わったのかもしれない。気付かされたのかもしれない。
自分と同じ派閥の長に立つ少女は、恋する人に名前を呼ばれて満面の笑みを浮かべる普通の少女でしか無かったのだということを。
「・・・わかったわ。もう、絶対に呼ばないでね。いいわね、フィーサ」
「わかったわ。マーガレットも、いいわね?」
「私は一度も呼んでいないのですけど・・・わかりました。今後も絶対に呼ばないようにします」
「俺は時たま呼ぶかもしれないなぁ・・・性格的に」
「か、界刺さ~ん・・・」
「んふふっ。いい表情するじゃないか、華憐。君もその表情が似合っているよ。こりゃ、やっぱり華憐とフィーサは気が合う友達になれそうだ」
「私が!?フィーサと!?」
「じょ、冗談じゃ無い!!誰がこんな天パと・・・・!!」
「わ、私の方こそ冗談じゃ無いわ!!何でこんな奴と!!」
「喧嘩する程仲がいいって言うじゃ無い。ねぇ、マーガレット?」
「そうですね・・・。私もフィーサ様と苧環先輩は気のおけないお付き合いができると思います」
「マ、マーガレット!?」
「私達派閥に属する人間では、派閥の長であるフィーサ様と本当の意味で同じ位置に立つことはできないのです。
あなたと同じ位置に立つことができるのは・・・同じ派閥の長である人間。その中でも、苧環先輩はフィーサ様と良きお付き合いができる方だと、私は考えます」
マーガレット自身、フィーサの抱く苦しみを共に背負うことのできない辛さを味わって来た。何時も隣に居るのに、本当の意味で彼女の力になれない。
その辛さを他人(おだまき)に押し付けるのでは無い。これは、信頼。以前から、フィーサと苧環が度々口論している所に同席していたが、
話を聞いてみると互いに遠慮無しに言いたい放題という様相で、逆に言えば互いに本音をぶつけられるということでもあった。
この方なら、フィーサと同じ位置に立つことができるかもしれない。常々そう思って来たマーガレットが見出した、これは最初で最後のチャンス。
「俺も、マーガレットの意見に賛成だ」
そんな少女の願いを、碧髪の男が後押しする。
「きっと、君達が思ってる程君達の相性は悪くないと思うよ?口論の末に友達になるか・・・。
んふっ、何だか俺と真刺の出会いを思い出すなぁ。あっ、真刺ってのは俺と同じ成瀬台に通う親友のことね」
「あ、貴方にもそういう経験があるの?」
「あるよ。あの頃は、互いに死闘を繰り広げたもんだぜ。何せ俺と真刺は、最初は敵同士だったからな」
「えっ!?そ、そうなの、界刺さん?」
「うん。あいつとは、『本気』で殺り合った。所謂殺し合いってヤツを何度もやった」
「『本気』・・・!!貴方が・・・!!」
『「己の正義の下、悪は全て許さず」。界刺・・・貴様は“悪”だ。この
不動真刺が、貴様を地獄の底へ叩き込んでやろう!!』
『テメェが“正義”?ハッ、世界の一部でしか無ぇ野郎が、何を偉そうなことをほざいてやがる。いいぜ。来いよ、不動。テメェは、俺の「本気」でぶっ殺してやる!!』
「んふふっ。懐かしいねぇ。あの頃は、俺も真刺も血気盛んだったからなぁ。血みどろの殺し合いを繰り返していたねぇ」
「・・・笑いながら話すことかしら?」
「・・・たぶん、違うんじゃないかしら?」
「・・・私もフィーサ様と同意見です」
楽しげに話す界刺に、苧環、フィーサ、マーガレットは首をかしげるばかりだ。そんな物騒な話を笑い話にしてもいいのだろうか?
「ちなみに、俺の仲間の中で殺し合いを行う覚悟を持っているのは俺と真刺、仮屋様に涙簾ちゃんの4人だね。
バカ形製とサニー、桜は持っていないかな。まぁ、本当は持つような代物じゃ無いけど」
「・・・涙簾という方は、貴方が“特別”と言っていた女性のことよね?その方も殺す覚悟を?」
「“特別”・・・!?あの人が界刺さんにとって・・・!?」
フィーサの質問に苧環が反応する。昨日会ったばかりの碧髪の少女・・・
水楯涙簾。
苧環は、彼女が界刺にとって“特別”である理由が気になった。それは、フィーサも同じく。理由は各々で違うが。
その回答側である界刺は、表情を険しくしながら言葉を放つ。
『私は、あなたにふさわしくない汚れた女。でも、あなたが居ないと私は私でいられなくなる。殺すなら今の内ですよ、界刺さん?あなたに殺されるのなら、私は本望です』
『君の考えはよ~くわかった。だったら・・・君の世界をこの界刺得世が思いっ切り広げてやる!!俺の命に懸けて、君の世界を色とりどりに飾り付けてやるよ!!』
「・・・涙簾ちゃんは“特別”なんだよ。殺す覚悟ってのも、その“特別”の一部でしか無い。
あの娘は・・・俺が何とかしなきゃいけない女性だ。まぁ、それ以上は君達が知るようなことじゃ無いよ。これは、俺とあの娘の問題だ。いいね・・・!?」
「・・・わかりました」
「・・・これ以上は聞かないわ」
界刺の言葉が重くなったのを察知し、苧環とフィーサはこれ以上の追及を止める。聞かない方がいいと本能が囁いたが故に。
「話が逸れちゃったけど・・・君達は一度腹を割って話し合ってみるといい。派閥とか関係無しに。きっと、いい関係が築けると思うよ?」
「・・・フィーサ。どう思う?」
「・・・何で私に聞くのよ。貴方の方こそどうなのよ?」
「わかんないから聞いているのよ!」
「私だってわからないわ!」
「だから、一度話し合えばって言ってるじゃねぇか。人の話聞いてる?」
「「そうだった・・・」」
「クスッ。やっぱり、お二方共気が合いそうですわ」
苧環とフィーサは、少しの間互いにそっぽを向いていた。だが、意を決して2人共に正面に向き直った。
「・・・とりあえず、話すくらいならしてあげてもいいわ」
「・・・とりあえず、お茶を飲むくらいならしてもいいわ」
「君達・・・ここに来てもお茶会の話かよ。どんだけお茶会が好きなんだ、君達?」
「だ、だっておいしい紅茶と甘いケーキの組み合わせが抜群だし・・・」
「お茶の香りを楽しみながら、店内に流れる音楽を聴くのもまた乙なものよね」
「甘いケーキ・・・甘いケーキ・・・。はぁぁ・・・」
「・・・よくわかんねぇ・・・」
お茶会に等参加したことが無い界刺にとって、少女達が語る楽しみはサッパリ理解不能だった。
だが・・・これなら・・・。だから、界刺は決断する。
「よしっ!そんじゃ、そういうことで。ファッション勝負もこれにてお終い。あ~、しんどかった」
「「「!!??」」
ファッション勝負。すなわち、自分VSフィーサ&マーガレットは終了だと宣言したのである。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!!ま、まだ勝負は・・・」
「あぁ、それなら君達の勝ちでいいよ。俺は棄権ってことで、一つよろしく!」
「なっ・・・!?あ、貴方はそれでいいの!?『自分の在り方』で私の在り方を・・・常盤台の在り方を叩き潰すんじゃ無かったの!?」
フィーサは混乱する。この男なら、まだ自分達と戦える余力は十分残っている筈だ。
それに、あれ程常盤台の在り方を叩き潰すと息巻いていた男が、何故自分から負けを認めるのか、フィーサには理解できなかった。
「『物事を解決に導けるなら、勝敗や介入には頓着しない』」
「えっ?」
「俺の信念みたいなものさ。普通はファッション勝負の時は例外なんだけど、今回の場合はその中でも特例かな?
君の在り方は十二分に見せて貰ったし、俺が“本当に”潰したかった常盤台の在り方は君達が壊したみたいだしね。だったら、これ以上の戦闘に意味は無いよ」
「壊した・・・?私達が?」
「そう。『派閥に必要以上に縛られる』という常盤台の在り方を、他でも無い君達派閥の長がぶち壊した。
つくづく君は、俺の目算を狂わしてくれたよ。こういう疲労感は、あんまり好きじゃ無いなぁ。ハハッ」
界刺はフィーサと苧環を交互に見て言い放った。この2人は、きっと良い友達関係を築けるだろう。
それは小さな一歩、だが確かな一歩。常盤台の在り方を本当の意味で変えられるのは、常盤台の生徒。自分は切欠でしか無い。
それがわかっていたからこそ、界刺は引き下がる。自分が望んでいたものは、目の前の少女達が自らの意思で掴み取った。
「俺も十分に楽しんだ。それに、この後には“バカルテット”との“講習”も控えているしね。君達は物足りないかもしれないけど、ここら辺でお開きというこ・・・」
「・・・納得行かないわ」
「フィーサ様!?」
界刺の視線は、既に自分から離れた。それを感じ取ったフィーサが、界刺へ詰め寄る。
「貴方は、まだ戦える筈よ!!なのに・・・ハッ!!そうか・・・!!貴方の一撃一撃がやけに軽いと思っていたけど、
それはダメージのせいじゃ無くて、貴方自身がやる気を失いかけていたせいね!!私が貴方の目算を狂わしたことによって!!
くぅ~、こんなんじゃあ、全然納得できないわ!!これで終わりじゃあ、消化不良過ぎる!!
確かに『本気』じゃ無くてもいいって言ったけど、『その気』すら失いかけてたんじゃあ話にならないわ!!
むしろ、そんな貴方にボコボコにされた私やマーガレットは、恥晒しもいい所よ!!!」
憤慨するフィーサ。彼女も、内心では『その気』の界刺と心行くまで戦いたかったのだ。その結果として敗北するのならいい。そう考えていたのに。
実は、当の対戦相手は最初から『その気』すら失い気味で戦闘していたのだ。これは、手加減どうこうのレベルじゃ無い。
こんなことで勝利という結果を『贈られても』、ちっとも嬉しくない。むしろ、そんなやる気の無い相手に苦戦した自分が情けなくなってしまう。
「とは言ってもなぁ・・・。俺、もう君達と戦闘する意思が無くなっちゃったしなぁ。でも、勝敗自体はハッキリ付けないと観客が納得しないだろうし。
やっぱり、君達の勝ちってことで。それか、引き分けみたいな形にでもする?」
「どっちも嫌よ!!」
「・・・それじゃあ、勝負はお預けみたいな形にでもする?とは言っても、俺がもう一度常盤台に来ることはまず無いだろうし。他に、俺が君達と戦うなんて機会は・・・」
「・・・あっ!フィ、フィーサ様!少しばかりお耳を拝借(ゴニョゴニョ)」
「(ゴニョゴニョ)。・・・成程。それは妙案ね。でかしたわ、マーガレット!」
「えっ?何か思い付いたの?」
「えぇ・・・。ス~。ハ~。・・・皆ァー!!!聞いてぇー!!!」
「なっ!!?」
マーガレットから耳打ちされたフィーサが、観客である常盤台生に向かって大声を挙げる。
「私・・・フィーサ=ティベルはー!!この男に敗北したわー!!!」
「「「えええええぇぇぇっっ!!!??」」」
「ちょっ!?な、何言ってんの、フィーサ!?」
「だって、貴方は貴方の望みを果たして、私は私の望みが果たされていないんだもの。貴方が自分の望みを果たす“速度”に、私は敗北したの。おわかり?」
「そ、それって何だか無理矢理じゃね?というか、そんなことを言ってどうなるって・・・」
「だからぁー!!!この借りは、2学期にある『大覇星祭』で返すことにしたわぁー!!!」
「な、何ぃー!!?」
界刺は、予想外の言葉―『大覇星祭』―に驚愕する。それは、学園都市にある全学校が合同で行う体育祭。
フィーサは、今回のリベンジマッチを『大覇星祭』で行うと宣言したのだ。
「この男が通う
成瀬台高校とぶつかった時こそが、界刺得世へリベンジする時よ!!私達常盤台に通う人間を、散々虚仮にした男を叩き潰すチャンスよ!!
皆ァー!!この男にいいように振り回されたまま終わってもいいの!?」
「嫌ァー!!」
「潰す!!」
「打倒界刺得世!!」
「だったらー!!それまでに一生懸命努力して、自分を高めて、来たる『大覇星祭』の時にこの男を完膚無きまでに叩き潰してあげましょう!!!
そのためには、派閥同士で下らない争いをしてる場合じゃ無いわ!!この男に勝つには、派閥に囚われてちゃ駄目!!派閥を越えた連携が必要よ!!
何せ、派閥の長である私や苧環を撃破した男!!生半可な努力じゃ、また返り討ちを喰らうわよ!!いい!!?」
「わ、わかりました、フィーサ様!!」
「ウチの派閥の長に直談判しないと。あの男に勝つには、派閥に拘っていては駄目!!」
「フィーサに賛同するのは癪だけど、あの男を打ち負かすためなら・・・。フッ、認めるしかないようね・・・あの男の実力を!!」
「打倒!!界刺得世!!!」
「「「おうぅっ!!!!!」」」
「フィーサ様・・・すごく活き活きしていらっしゃいますね。このマーガレット、今まさに感激の極みです・・・!!」
マーガレットが感涙している傍で、フィーサは天空に向かって握り拳を挙げる。それに呼応する他の常盤台生。
彼女達は、自分達を“素人集団”と揶揄し、数々の常盤台生を撃破した男に打ち勝つ目的の下一致団結した。『打倒!!界刺得世!!!』の名の下に。
「・・・・・・本当に、あの娘は俺の目算を狂わすのが好きだな。つーか、『大覇星祭』の時に成瀬台の連中にどんな顔して話せばいいんだ?
あいつ等、名門常盤台が自分達に本気で勝負を仕掛けて来るなんて想像すらしねぇぞ?」
「フフッ。でも、これで界刺さんの望みは益々叶って行くんじゃない?これが切欠で、派閥を越えた交流が活発化していけばいいんだけど」
「気軽に言うね、華憐は」
「そうでもないわ。私もこれから忙しくなるかもだし」
界刺の隣に苧環が座る。界刺は憂鬱そうな声で、苧環は明るめな声で会話する。
「ハァ・・・。まぁ、いいや。その時はその時だ。それより、最後の“講習”だ。いい加減俺も疲れて来たし、さっさと最後の仕事に取り掛かるとしますかね」
「・・・もう一踏ん張りですね」
「君の口調って、何か安定しないね。やっぱり、俺を好きになったせいか?」
「ブッ!!!か、界刺さん・・・!!!」
自分の気持ちを看破されていたことに驚く苧環。
だが、さすがの界刺も今までのことを客観的に考えれば、その結論に行き着いてしまう。簡潔に言えば、『バレない方がおかしい』のだ。
「女にモテたいと必死になっていた頃が嘘のようだぜ。んで、こんな時に限って女性不信状態とは・・・。こりゃ、世界が俺を僻んでいるのかもしれねぇな」
「か、界刺さん・・・!!」
「華憐。俺はこんな状態だ。君の恋に俺が応えられる保証は無い。それでも・・・君は俺を好きでいるのかい?」
男は、自分に恋心を抱く少女に向けて確認を取る。そして、少女は自分が恋する男に確と応える。
「はい。私は、あなたが好きです。界刺さんが、好きで好きで堪らないんです。
あなたと実際に過ごした時間は1日にも満たないのに、この恋心も今日自覚したばかりなのに、自分の心に溢れ出すこの激しい感情を止められないんです。
これが、私の抱くあなたへの嘘偽りの無い気持ち。だから・・・私はあなたを好きでいようと思います。
あなたが“答え”を出すその時まで・・・私はこの気持ちを持ち続けようと思います」
「・・・どんな“答え”でも?」
「・・・はい!」
「・・・ふぅ」
そう言って、男は最後の“講習”へと移る。自分の視界に入って来るのは、“常盤台バカルテット”の4名。
見上げる先にある雲は厚さを増し、太陽も隠れる程の天気模様。本日最後の“講習”は、文字通り最大の嵐を伴って常盤台を通り過ぎようとしていた。
continue!!
最終更新:2012年06月22日 19:56