「う・・・う~ん」

カーテンの隙間から、日光が垣間見える。そんな中、界刺は目を覚ました。

「ス~。ス~」

隣には、一糸纏わぬ姿で眠っている水楯が居た。時計を見ると、午前9時を回った所だった。どうやら、2人共にぐっすり寝入っていたようだ。

「ふあ~。・・・喉が渇いたな。何か飲むか。よいしょ・・・・・・」

喉の渇きを覚えたので、水を飲むために布団から出ようとした界刺。だが・・・

「(・・・涙簾ちゃんが抱き付いているせいで、布団から出られない・・・!!)」

界刺の体を固くホールドしている水楯のせいで、ベッドから降りることができない。

「・・・困ったな。さすがに、起こすわけにも行かないし。こんなに気持ち良さそうに眠ってるしな。
こうやって近くで見てみると、涙簾ちゃんって美人さんなんだよな」

そう言って、水楯の長い髪を撫でる。かつては、自分が水楯の髪をセットしてあげたこともある。そのことで、形製と喧嘩になったこともあったが。

「うっ。・・・あっ」

それが切欠になったのか、水楯が目を覚ます。

「・・・起こしちゃったか?ごめん」
「い、いえ・・・。おはようございます」
「うん。おはよう」

互いに朝の挨拶を交わす。水楯は、自分の髪を界刺が撫でていたことに気付き、上目遣いでこう頼む。

「も、もう少し私の髪を撫でてくれませんか?」
「・・・・・・チッ(ボソッ)」
「・・・・・・(ギュ~!!)」
「ぐふっ!?な、何でホールドしている腕に力を入れてんの!?というか、涙簾ちゃんって力強いね!?」
「鍛えていますから。さぁ、界刺さん。早く早く!」
「こ、この娘は・・・!!素っ裸状態の胸を押し付けてる羞恥は無いのか!?」
「もちろん、ありますよ」
「あんのかよ!?」

等と言うやり取りの末に根負けした界刺が、渋々水楯の髪を撫でる。

「・・・ポッ!!」
「何が『ポッ!!』だよ・・・。あぁ、喉が渇いた。少しだけだからな?」
「はい」

水楯が、気持ち良さそうに界刺の手を受け入れている。その笑みに嘆息する界刺。



コンコン!



「「!!!」」

そんな時に聞こえて来たのは、部屋の扉をノックする音。聞き耳を立ててみると、何やら騒がしい声が幾つも聞こえて来た。

「ま、まさかバカ界刺に限ってそんなことは有り得ないとは思うけど・・・」
「わ、わからないわよ!!何せ、涙簾って人は界刺さんにとって“特別”なんでしょ!?」
「確かに、苧環先輩の言う懸念は考えられますね・・・!失念していました!!・・・一厘先輩、そこを退いて下さい。私の『念動使い』で、すぐにでもドアを開けます!!」
「ちょ、ちょっと待って!さ、さすがにそれは駄目なんじゃあ・・・!!」
「し、真珠院さんの目が血走っている・・・!!サ、サニー先輩・・・!!」
「な、何だかドキドキしますね!!胸の鼓動が、バックバク言ってます!!遠藤さんも感じませんか!?」
「サ、サニー様・・・え、遠藤も同じ気持ちです!!それに、男子校の寮に足を踏み入れるのは初めてなので、余計に心臓がバックバクです!!」
「お、おい!!お前達は、ここへ何しにきたんだ!?一昨日の件で界刺の体が気になると朝練の最中に騒ぐから、こうして私の付き添いの下ここへ案内したんだぞ!?」
「うおっ!?な、何でこんな所に常盤台のお嬢様連中が来てんだ!?」
「あれっ!?あの娘達・・・以前成瀬台に来た娘達じゃないでやんすか?」
「梯君の言う通りだね。俺も、あの娘達は覚えているよ」
「な、何故こんな所に常盤台の・・・女子校の人間が居るんだ!?もう、女子校の生徒はこりごりだ!!ここ最近、俺がどれだけ要に苛められていると・・・ブツブツ」
「おおぉ!!誰かと思えば、何時ぞやの常盤台の娘達ではないか!!むぅ?確かあの部屋は・・・『シンボル』の界刺の部屋だったな!!」
「界刺さん!?リ、リーダー・・・。あっ、荒我だ」
「・・・そういえば、あの『シンボル』のリーダーはここの生徒・・・そうよね、稜?」
「何で俺に聞くんだ?加賀美先輩の方が、よく知っている筈だよな?」
「そらひめ先輩―い!!あのかいじって人が、あの部屋に居るみたいですよー!!」
「へぇ・・・。うん?その界刺の部屋の前に常盤台の女共が集ってるのは、何でなんだ?」
「リンリン!?あいつ、ぶっちゃけ何してんだ!?界刺って・・・あの“変人”のことか!?」
「リンリンの奴・・・。メールを見た直後に慌てて同行すると言って来たのは、そういうわけか」
「固地先輩・・・」
「ほぅ。あの部屋に、『シンボル』の“変人”が住んでいるのか。
フッ、ならば成瀬台に足を踏み入れている者として、挨拶くらいはしておいた方がよさそうだ。行くぞ、真面」

聞き慣れた声。昨日及び一昨日に聞いた声。聞き慣れない声も聞こえて来る。その主達に見当を付けたり付けなかったりの界刺と水楯は、共に溜息を吐く。

「あいつ等・・・。真刺を使って、わざわざここまで来たのか?昨日、あんだけ綺麗サッパリ的な別れ方をしたっていうのに!女の執念って恐ぇ・・・。
というか、俺の部屋の近くに何で20人以上もの人間が集まってんの!?」
「・・・どうします?このままだと、すぐに強行突破されそうな雰囲気ですよ?」
「・・・・・・仕方無ぇ。ここは・・・」

『光学装飾』で確認した人数は22人。しかも、一部を除いてどいつもこいつも見たことがある奴ばかり。中には見過ごせない人間も・・・。
こんだけの人数が集れば、否が応にも大騒動になる。しかも、自分達の格好が限りなくヤバイのだ。主に、素っ裸の水楯が。
もう、扉が無理矢理開けられるのは時間の問題だった(主に、血走った目をした真珠院のせいで)。故に、界刺は“2つ”のことを決断する。






「そのドアを開けるんじゃ無ぇぞ!!今、俺と涙簾ちゃんのお着替えタイムだ!!!もし入ってきたら、男と女の裸を覗き見した罪で警備員に訴えるからな!!!」






「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「!!!???」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「界刺さん・・・」
「ほらっ、今の内に着替えるんだ!それと・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

水楯の不服そうな顔を無視して、着替えを促す界刺。それは、着替えが終わるまでの時間稼ぎ。そして・・・。
だが、外に居る人間にはそんなことがわかる筈も無く・・・

「ま、まさか・・・!!!ほ、本当に・・・!!?」
「だ、だから言ったじゃ無い!!あの人は“特別”なんだって!!」
「・・・・・・(クラッ)」
「し、真珠院!?し、しっかりして!!」
「界刺様・・・!!わ、私は・・・信じませんから!!!」
「こ、これは・・・大スクープ物ですね!!!」
「こ、これが・・・男性と女性の営みという物なんですか・・・!?・・・(カアアァッ!!)」
「得世・・・水楯・・・。お前達・・・一体何をしているのだ!!?」
「利壱・・・紫郎・・・。よ、よく理解できないんだけどよ・・・つまりどういうこった!?」
「・・・そ、それは・・・。オイラ達の口からは・・・」
「・・・う、うん・・・。純情な荒我兄貴には耐えられないかも・・・」
「あ、あ、あの“成瀬台の変人”!!学生寮で、何とんでもねぇことをしてやがる!!!うおおおおぉぉぉっっ!!!」
「ま、待たんか、椎倉!!・・・(ガシッ!!)・・・お、落ち着くのだ!!」
「・・・リーダー?事の詳細を理解できますか?」
「・・・稜ならわかる筈だ、うん」
「だから、何で俺に聞くんだ!!?」
「うん?そらひめ先輩。あの人達は、何であんなに騒いでいるんですか?男と女の人が着替えているだけですよね?何かおかしいんですか?」
「抵部・・・。お前が知るには、まだ早ぇよ(・・・抵部って高1だよな?)」
「あ、あの“変人”!!春咲先輩の好意を受けておきながら、何やってんだよ!!?」
「・・・ハァ。あの男の行動は、つくづく予測が付かないな」
「・・・!!!」
「・・・真面。何故顔を紅潮させているんだ?さては、お前。今まで女性と付き合ったことが無いな?」

各々が、勝手に騒ぐ有様である。その隙に着替え等を済ませる界刺と水楯。そして・・・



ガチャ!



「え~と・・・。団体様ご到着って流れかな?俺等、今から朝飯なんだけど・・・」

そんな流れで、団体様ご一行を自室に迎え入れる羽目になってしまったのである。






「・・・・・・界刺さん。ご希望のスクランブルエッグと焼き立てのパンです」
「ありがと、涙簾ちゃん。そういや、涙簾ちゃんの作る食事は久し振りだなぁ」
「確かに、こういう機会は久し振りですね。まぁ、ここに来る時くらいしか界刺さんに食べて頂くことが無いですからね。私も、腕によりをかけて作りました」
「んふっ、そんじゃあ、いただきます!」
「いただきます」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

何処ぞのフランケンシュタインもどきの顔にナイフとフォークが突き刺さり、
それが笑顔でサムズアップしている絵柄がプリントされた紫色のシャツを着ている界刺と、花盛の制服を着ている水楯が朝食を取り始める。
そんな光景を、唯見せられている団体様ご一行。完全アウェイ、完全に蚊帳の外状態である。

「(な、何この部屋!?何処もかしこも、常人には理解し難いプリントがされた衣服とか小物とかあるんだけど!?)」
「(さ、さすがは“変人”と呼ばれるだけのことはあるぜ。ぶっちゃけ、サッパリ理解できねぇセンスだ!!)」
「(・・・何だ、あのプードルを邪悪に染めたようなプリントが為されているカーテンは?悪趣味にも程があるぞ?)」

こちらは、159支部の一厘・鉄枷・破輩の3名。彼女達は、界刺の部屋にある様々な衣服や小物に目を向ける。どれも、普通の人間には理解し難い物ばかりだ。

「(かいじさんの着ているシャツ・・・カワイイー!!)」
「(・・・駄目だ。普段は和服のあたしからしたら、あのプリントを目にするだけで頭がクラクラして来やがる!!一体全体、どういうセンスをしてやがんだ!?)」

こちらは、花盛支部の抵部・閨秀。彼女達は、界刺が着用しているシャツに目を奪われていた。抱いた感想は正反対だが。

「・・・・・・あっ。界刺さん。口元に卵が・・・(フキフキ)」
「おっ。あんがと、涙簾ちゃん」
「いえ。どういたしまして」
「(な、何てモン見せ付けやがるんだ!!お、俺なんて要と付き合っていた頃なんか、そんな気遣いを見せてくれたことなんか、一切皆無状態だったんだぞ!!)」
「(まるで、夫婦であるな。こういう穏やかな雰囲気の中で食事をするというのは、さぞ気持ちの良いものであろうな)」

界刺の口元に付いていた卵焼きを、水楯がティッシュで拭き取る。その光景を見て、成瀬台支部の椎倉は心の中で血の涙を流し、寒村は好印象を持つ。

「ごちそうさまでした」
「・・・・・・おそまつさまでした」
「ふぅ。さすがは涙簾ちゃんお手製の食事だ。旨かったよ」
「そう言って頂けると、私も作った甲斐があります」
「んふっ」
「フフッ」
「(2人は・・・恋人なのかな?それにしても、学生寮でね・・・。大胆だわ)」
「(くぅ~!!な、何かこういうのを見てると無性に腹が立って来てしゃーないわ!!ブン!!)」
「(痛っ!や、八つ当たりまで・・・!!・・・俺って、何でここに居るんだ?)」

朝食も終わり、2人揃って笑い合う界刺と水楯の姿を見る176支部の焔火は推測及び感嘆を、加賀美は苛立ちを、神谷は疑問をそれぞれ抱く。

「さぁて、腹も膨れたことだし。昨日お願いしていた件でも始めようか、涙簾ちゃん?」
「・・・・・・そうですね。あっ、でもその前に食器を洗ってしまいましょう」
「あっ、そうだね。それじゃあ、一緒に持って行こう」
「はい」
「(・・・!!!)」
「(あぁ・・・。荒我君には、恋人の姿ってヤツは早過ぎたでやんすかねぇ・・・)」
「(荒我兄貴・・・。さっきから、ずっと目をパチクリさせてるねぇ)」

食器を片付けるために、界刺と水楯が立ち上がる様を目の当たりにする荒我は瞠目するしか無く、舎弟の梯と武佐は荒我の心中を慮る。そして、約10分後・・・

「ふぅ。これで、洗い物も終わり・・・・・・だね」
「はい」
「(これが・・・恋人ってヤツなのか?な、何ていう素敵空間なんだ・・・!!)」
「・・・・・・」

食器洗いを終えて、元居た場所まで戻って来た界刺と水楯。その姿に178支部の真面はいたく衝撃を受ける。そして・・・






「その前に・・・。“『シンボル』の詐欺師”界刺得世。お前に聞きたいことが・・・」
「そんなことは後にして下さい!!!」
「グハッ!!」
「固地先輩!?」
「債鬼君!?」

界刺に対して質問をしようとした固地を、後方に居た真珠院が吹っ飛ばす。
“風紀委員の『悪鬼』”と呼ばれる男に対する暴挙を成し遂げた真珠院に、皆の注目が集まる。

「お、お前・・・!!グッ!?こ、これは・・・念動力か!?」
「・・・少し黙っていて下さいませんか?フフッ、お口にチャックですわ」
「ッッ!!ッッ!!!」
「(・・・固地先輩のあんな姿、初めて見た)」
「(・・・!!さすがは、常盤台のお嬢様だな。恐いもの知らずと言うか何と言うか)」

真珠院の『念動使い』によって宙に浮かばされ、その口さえ閉ざされることとなった固地。焔火は唯々驚愕し、椎倉はその恐いもの知らずさにある種の尊敬の念を抱く。

「・・・何かな、珊瑚ちゃん?」
「・・・単刀直入に聞きます!!あ、ああ、あなた様と・・・涙簾様は・・・先程まで一体何を・・・」
「何をって・・・・・・なぁ?」
「そうですね・・・」
「「寝て(まし)た」」
「なっ!!?・・・(クラ~)」
「し、真珠院さん!?」

寝ていた発言を聞いた真珠院は、まともや倒れ掛ける。そんな彼女を、近くに居た遠藤が支える。



ドン!!



「痛っ・・・!!くそっ、あの女め。下らない真似を・・・!!」
「債鬼君!?だ、大丈夫!?」
「あぁ。この程度、何の問題無い」

真珠院が倒れ掛けたため、固地を縛っていた念動力が解除される。加賀美が心配そうな声を掛けるが、固地は軽く受け流し、再度界刺へ向けて問いを投げ掛ける。






「さっきは邪魔が入ったな、“成瀬台の変人”界刺得世。お前に質問したいことが・・・」
「邪魔よ」
「ガハッ!!」
「固地!?」
「あっき先輩―い!?」

気を取り直して界刺に対して質問をしようとした固地を、これまた後方に居た苧環が吹っ飛ばす。
“風紀委員の『悪鬼』”と呼ばれる男に対する再びの暴挙を成し遂げた苧環に、皆の注目が集まる。

「お、お前・・・!!グッ!?体が痺れて・・・!?」
「・・・少し黙っなさい?フフッ、電気ショックでしばらくは動けないわよ?」
「く、くそっ!!!」
「(・・・固地先輩のあんな姿、余り見たこと無い・・・!!)」
「(・・・!!さすがは、常盤台のお嬢様だな。恐いもの知らずと言うか何と言うか)」

苧環による電気ショックで、身動きが取れなくなった固地。焔火は驚愕し、椎倉はその恐いもの知らずさにある種の尊敬の念を抱く。

「何かな、華憐?」
「界刺さん・・・。単刀直入に聞くわ。そ、その・・・寝ていたっていうのは・・・どういう・・・」
「どうって・・・・・・ねぇ?」
「そうですね・・・」
「「一緒に寝て(まし)た」」
「なっ!!?・・・(クラッ)」
「お、苧環様!?」

一緒に寝ていた発言を聞いた苧環は、真珠院と同じように倒れ掛ける。そんな彼女を、近くに居た月ノ宮が支える。



ドン!!



「こ、これしきのことで・・・俺が負けるわけが・・・無いだろうが・・・!!」
「債鬼君!?だ、大丈夫!?」
「あぁ。この程度、心配いらん!!」

電気ショックを受けて痺れていた体に活を入れ、無理矢理起き上がる固地。
加賀美が心配そうな声を掛けるが、固地は軽く受け流し、三度界刺へ向けて問いを投げ掛ける。






「今度こそ俺の問いに答えて貰うぞ、“変人”界刺得世。俺は、お前に・・・」
「消えて」
「ッッ!!・・・(スクッ。ダダダッッ!!)」
「固地先輩!?ど、何処へ行くんですか!?」
「寒村!!固地を捕まえてくれ!!」
「了解した!!」

今度こそという意気込みの下、界刺に対して質問をしようとした固地を横に居た形製が『分身人形』で洗脳し、部屋から追い出す。
その直後、椎倉の指示を受け寒村が固地の後を追う。“風紀委員の『悪鬼』”と呼ばれる男に対する三度の暴挙を成し遂げた形製に、皆の注目が集まる。

「(・・・固地先輩のあんな姿、何だか見慣れて来たわ・・・)」
「(・・・!!さすがは、常盤台のお嬢様だな。恐いもの知らずと言うか何と言うか)」

形製に洗脳され、部屋から追い出された固地。焔火は次第に慣れ始め、椎倉はその恐いもの知らずさにある種の尊敬の念を抱く。

「何かな、バカ形製?」
「バカ界刺・・・。単刀直入に聞くよ。そ、その・・・一緒に寝ていたっていうのは・・・どんな風に・・・」
「どんな風にって・・・・・・言っちゃう?」
「・・・仕方無いですね。この際、告白しましょうか」
「俺は、シャツ一枚と半ズボンで」
「私は一糸纏わぬ姿で」
「「一緒に寝て(まし)た」」
「なっ!!?・・・(クラァ)」
「け、形製さん!?」

水楯が全裸になって界刺と一緒に寝ていた発言を聞いた形製は、真珠院や苧環と同じように倒れ掛ける。そんな彼女を、近くに居た一厘が支える。



ドン!!



「ハァ・・・ハァ・・・!!な、何故こうも邪魔が入るんだ・・・!!くそっ!!」
「債鬼君!?あ、あなたが『シンボル』のリーダーに何を聞こうとしているかは知らないけど、もう止めた方がいいんじゃあ・・・?」
「馬鹿を言え!!ここまで恥をかかされて、おめおめと引き下がれるか!!」
「債鬼君!?」

『分身人形』の洗脳が解けた固地。寒村に押さえ込まれたせいか、息も絶え絶えな彼に加賀美が心配そうな声を掛ける。
だが、固地は彼女の助言を聞き入れず、泣きの1回的に界刺へ向けて言葉を発する。

「界刺得世ぉ・・・!!俺は・・・!!!」
「界刺様!!」
「ッッ!!・・・(クルッ!スタスタ)」
「あっ・・・。しまった・・・。『発情促進』をあの恐い人に・・・!!」
「固地先輩!?な、何をするつもりですか!?」
「アアアアアアァァァッッ!!!!!」
「キャアアアアァァァッッ!!!!!」

凄まじい執念を見せながら界刺に対して質問をしようとした固地に対して、離れた場所に居た鬼ヶ原が『発情促進』を掛けてしまった。
鬼のような形相で界刺に近付く固地に対して、思わず危機感を抱いたが故の暴発。その被害を被った固地は、鬼ヶ原へ向けて脇目も振らずに突進する。



ピカー!!!



「グッ!?・・・ガハッ!!ゴホッ!!ヘギッ!!」
「・・・ナイス、真刺」
「何のこれしき。か弱き少女に襲い掛かるとは、何と言う非道な行い。貴様、それでも風紀委員か!?」

鬼ヶ原へ発情したがために襲い掛かった固地を、界刺が発生させた閃光によって怯ませ、
掛けているだて眼鏡を“サングラスモード”にした不動が『拳闘空力』を用いて制裁を与える。

「か、界刺様~!!こ、恐かったです!!」
「おぉ、よしよし。もう大丈夫だよ、嬌看。後は、真刺に任せとけばいいから」
「ちょ、ちょっとタンマ!!」
「む?何だ?まさか・・・貴様はこの男を庇うつもりか!?」

固地に制裁を与えている不動に、加賀美がストップを掛ける。

「こ、これは何かの間違いというか・・・。債鬼君に限ってそんなことは有り得ない!!彼が、女性に乱暴を働こうとする筈が無いよ!!」

加賀美は、ボロボロになりつつある固地を必死に庇う。風紀委員になった当初からの付き合いである。
故に、彼女にはわかる。固地債鬼という男は、女性に対して乱暴を働くような畜生では無いことを。

「・・・でも、この人の頭の中・・・そこに居るか弱い少女に対するイヤらしい思考しか無いですよ?口に出すのも憚られるような想像ばっかり・・・」
「えっ!?武佐君・・・それって本当でやんすか!?」
「うん」
「な、何て野郎だ!!この前あった時は気色悪いオカマ口調だったが、実はとんでもない卑劣漢だったのか!!
よし、俺達も行くぜ!!普段はステゴロ一本だが、こんな卑劣漢には勿体無ぇよ!!」
「了解でやんす!!オオオオオォォォッッ!!!!」
「了解。少女を襲った罪・・・ここで償ってもらおうか!!」
「ちょ、ちょっと!!!」



ドカッ!!ベキッ!!バキッ!!グキッ!!



不動、荒我、梯、武佐の4名により、ボロボロになる固地。本当ならば、風紀委員である以上止めなければならないのだが、
自分達の目の前で固地が鬼ヶ原を襲いかけ、『思考回廊』を持つ武佐に(『発情促進』による)イヤらしい思考をバラされたために、
誰も制止を掛けることができなかった。

「お~い。その辺にしとけよ。もう、そいつも十分に罰を喰らっただろうし。それ以上は、周りに居る風紀委員も黙っちゃいないと思うよ?」

その制止を掛けたのは、(『発情促進』の効果が切れる頃を見計らっていた)界刺。彼の制止により、ようやく制裁が終了する。

「ふぅ。これ以上は・・・と言うヤツだな」
「ハァ・・・。まぁ、この辺で許してやろうか」
「荒我君、優しいでやんす!!」
「荒我兄貴が言うのなら・・・。今度やったら、こんなモンじゃ済まないよ?」

不動達が拳を止め、散会して行く。その後に、加賀美が固地へ駆け寄って行く。

「・・・・・・」
「債鬼君・・・。ボロボロになっちゃったね。でも、何でそんなことを・・・?」

ボロボロになって気絶している固地を見て、加賀美はどうしても疑問を抱いてしまう。
自分が知っている固地という男は、決してそのような真似や思考をする人間じゃ無い。
なのに・・・。疑念渦巻く加賀美に回答を示したのはもちろん・・・






「あぁ。それなら簡単なことだよ。この娘・・・鬼ヶ原嬌看の能力『発情促進』が暴発したからさ。
彼女の能力は、自分に対して異性・同姓問わずに発情させてしまう能力なんだよね。んふっ!」
「そ、それを早く言えええええぇぇぇっっ!!!!!」

界刺のネタ晴らしに、加賀美が大声でツッコミを入れる。

「だって、言った所でどうなるモンでも無いし。一度発情したら、5分くらいはずっと発情してるし」
「あ、あなたねぇ・・・!!!」
「そいつ・・・債鬼って言ったか?そいつが俺に恐い顔で迫って来るもんだから、嬌看が咄嗟に能力を発動しちゃったんだよ。俺を守るために。ねぇ、嬌看?」
「は、はい・・・。界刺様に危害が及ぶかもと思って・・・反射的に・・・。グスッ、すみません」
「ううぅっ!!!」

鬼ヶ原が少し泣き始める。その姿に怯む加賀美に、界刺が追い討ちを掛けていく。

「大丈夫さ、嬌看。風紀委員の皆さんは、心の広い人達ばかりだ。全ては、俺を守るためだったんだろ?なら、この人達はちゃんと理解してくれるさ」
「ほ、本当ですか・・・?」
「あぁ、本当だとも。何せ、過激で有名なあの“花盛の宙姫”でさえ、俺がちゃんと話したら理解を示してくれたしなぁ。そうだったよね、美魁?」
「ううぅっ!!!」

矛先を閨秀に向ける界刺。案の定、心当たりがある閨秀は怯む。

「抵部君・・・いや、抵部準エース殿!お仕事、ご苦労様です!!」
「えっ・・・!!は、はい!!かいじさんも元気そうで何よりです!!」
「これからも、学園都市の皆さんを守る活動、懸命に努めて下さい。陰ながら、応援しております!!」
「わ、わかりましたー!!がんばりますー!!」
「そんな風紀委員花盛支部の抵部準エース殿なら、今回の嬌看の失敗をその広いお心で許して下さいますよね!?」
「も、もちろんですともー!!わたしだって、いつも失敗ばかりしてますからー!!」
「・・・(ニヤァ)」
「な、何ちゅーしてやったりの顔・・・!!あの野郎の口は、ぶっちゃけデマカセ発行機かよ!?」
「“『シンボル』の詐欺師”・・・か。絶対に敵に回したくないわね、ああいうタイプは」

抵部を自らの手の上で自在に転がし、見事風紀委員としての言質を取った界刺の手腕に鉄枷は呆れ、破輩は戦慄する。

「よしっ。そんじゃ、そういうこと・・・」






ブン!!!





「・・・・・・」

一閃。それは、界刺に向けられた光の“剣”。『閃光真剣』と呼ばれるそれを向けたのは、176支部最強のエース・・・“剣神”神谷稜!!

continue…?

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最終更新:2012年06月30日 21:42