「・・・何のつもりだい?それと、涙簾ちゃん。手は出さないでね?」
「界刺さん・・・!!」
「・・・気に入らねぇな、“変人”?」
「・・・稜・・・!!!」
「・・・神谷先輩・・・!!!」

それは、『閃光真剣』を界刺の首下へ振り向ける神谷の姿。彼の行動に、思わず目を見開いてしまう加賀美と焔火。

「そうやって、他人を自分の手の上で転がして満足かよ?悪趣味だな」
「別に、そうは思わないな。俺からしたら、他人を騙すことなんか日常茶飯事だし」
「・・・それが悪趣味だって言ってんだよ。務所にぶち込まれたいか?」
「いんや。あんな、息が詰まるような場所には行きたく無いね」

“剣神”神谷稜と“『シンボル』の詐欺師”界刺得世の視線が衝突する。一方は厳しい視線を、もう一方は愉快気な視線を。

「・・・馬鹿にしてんのか?」
「いや、そんな気は無いよ。それに、君は強そうだ。余り手合わせはしたく無いね。
唯でさえ、一昨日の夜は殺人鬼に殺されかけたんだ。勘弁願うよ、“剣神”神谷君?」
「殺人鬼・・・?」
「あぁ。ここに居る風紀委員全員の力を結集しても敵わない・・・かもしれない殺し屋さ。ほれっ」
「「「「「「「「「「「「「!!!??」」」」」」」」」」」」」

気絶している固地以外の風紀委員及び荒我・梯・武佐の瞳に、自分が殺されかけた漆黒のコートを着る陰気な男の姿を見せる。

「そこに居る常盤台のお嬢様達にはもう警告したけど・・・この際君達にも警告しておくよ。『シンボル』のリーダーである俺からの情報提供だ。
これで、嬌看の能力暴発及び債鬼をボコボコにした件はチャラだ。んふっ、これにはそれだけの価値がある」
「ど、どういうこと?」

よくわからないという体な加賀美に、界刺は警告の中身を説明して行く。

「君達は、今『ブラックウィザード』に関する捜査を展開しているんだろう?」
「「「「「「「「「「「!!!??」」」」」」」」」」」

『ブラックウィザード』。その名前に、一厘以外の風紀委員及び荒我が反応する。

「ど、どうしてそれを・・・」
「君達が成瀬台に集まって、何かゴソゴソしているのは知っていたからね。複数の風紀委員支部が合同で捜査を展開する。
それは、風紀委員が大事件に関わっているということを示している。
そして・・・それに心当たりを付けるのなら、今の時期だと『ブラックウィザード』しか無いからねぇ。
“レベルが上がる”なんて胡散臭い薬を流行させて、色んな奴を薬物中毒にさせている。まぁ、引っ掛かる方も馬鹿だけどね」

加賀美の問いに、スラスラと理由を述べる界刺。この男は、『ブラックウィザード』に関する何かしらの情報を持っている。

「おい・・・。知ってること、全部話せよ。こちとら、その件のせいで夏休みも満足に過ごせてねぇんだよ」
「お断り。これは、あくまで君達の領分だ。俺達『シンボル』が関わるようなことじゃ無い。なら、なんで話さないといけないんだい?俺には関係の無い事柄さ」
「テメェ・・・!!」
「待て、神谷!!」
「・・・椎倉先輩・・・」

『閃光真剣』を握る手に力が入る神谷を制し、椎倉が界刺の放った言葉の意味を吟味しながら口を開く。

「つまり、この件に関してはお前等『シンボル』は全く関与していない・・・そういうことだな」
「ご名答。さすがは、成瀬台(ウチ)の風紀委員のリーダー。中々の洞察力だ。神谷君。君も剣を振ってばかりいないで、ああいう姿を目指さないといけないよ?」
「グッ・・・!!」

界刺の言葉に含まれた意味を読み取れなかった神谷は、思わず歯噛みする。そんな神谷を無視するかのように、界刺は椎倉と会話を続ける。

「少なくとも、現時点では全く関わっていないよ。誰が、好き好んで『ブラックウィザード』を敵に回したいモンか。それに、連中の商売に付き合う気も更々無いよ。
あんな薬を売ったり頼ったりする人間なんざ、俺からしたら救いようが無ぇ大馬鹿野郎共さ。そんな連中がどうなろうと、知ったこっちゃ無いね」
「・・・成程。つまり、お前等は俺達風紀委員に協力する気も無いということか?」
「椎倉!?」
「椎倉先輩・・・!?」

椎倉の発言に驚愕の声を挙げる寒村と神谷。それは、声に出さずとも他の風紀委員にとっても衝撃的な発言。

「・・・かつて、俺達成瀬台支部は『シンボル』の手を借りてスキルアウトを潰したことがある。
おそらく、こいつ等の力が無かったらあんなスピードでの解決には至らなかっただろう。
きっと・・・固地もこいつ等の協力を仰げるかどうかを確認したかったんじゃないか?」
「かもね。まぁ、彼・・・“風紀委員の『悪鬼』”が聞きたかった主題はそれじゃ無いだろうけど。
おそらく、債鬼は俺達『シンボル』が持っている可能性がある『ブラックウィザード』に関する情報を搾り取りたかったんじゃないかな?
まぁ・・・だからこそ、彼には眠って貰ったんだけどね。彼が、君等の中で一番面倒臭いし」
「・・・!!!お前・・・そこまで見越して・・・!!い、一体何時から・・・!?」
「最初からだけど?周囲の環境を利用することは、至極当然のことだろう?それに、言ったじゃないか。『俺からしたら、他人を騙すことなんか日常茶飯事だし』ってさ?」

界刺の仕掛けは、彼等団体様ご一行を自室に招き入れる所から始まっていた。
一厘から聞いていた情報と、最近成瀬台に集っている風紀委員の行動と、『光学装飾』によって看破した固地の存在から、界刺は水楯と共に策を張り巡らせた。
かつて、『シンボル』活動中に喧嘩を吹っ掛けてきた固地の存在を界刺と水楯は覚えていた。もちろん、彼が“風紀委員の『悪鬼』”と呼ばれていることも。
故に、彼等を常盤台の少女や成瀬台の不良ごと招き入れた。朝食を取っていなかったことも利用し、話の流れを注意深く観察していた。
もし、固地が流れを無視して問い掛けて来た場合はしばらく白を切るつもりだったが、彼の話を折った真珠院の言動を見て、これは使えると確信したのだ。
水楯との意思疎通には、<ダークナイト>に備え付けられた7つある機能の1つ、『赤外機<レッドパルス>』を用いた(使用したことが無かったので、試す意味もあった)。
赤外線を用いた音声通信で、別途のマイクロフォンを通して赤外線情報を声に変換する。水楯自身は耳が隠れる程の長髪であったので、これを有効活用することができた。
台詞のタイミングは、界刺が赤外線情報によって水楯の耳に伝える。界刺と水楯が息の合ったコンビネーションを発揮できたのには、こういう理由があったのだ。
それでも、真珠院・苧環・形製の妨害を乗り越えて来た固地を見た時はさすがにどうしようかと思ったが、偶然にも鬼ヶ原の『発情促進』が固地に対して発動したために、
それを存分に利用して彼を気絶に追い込んだのだ。界刺が決断した“2つ”とは、『着替えの時間を稼ぐ』及び『固地債鬼をどうにかして無力化or受け流す』ことであった。
偶然・必然全てを自分に対して有利に運ぶように場の流れを操作した、これは界刺得世の完勝である。






「とまぁ、ざっとこんな流れかな?詳しい手段とかは、プライバシーの関係で明かせないけど。彼が以前俺達に喧嘩を吹っ掛けて来たのが、今回は仇となったね」
「そういえば、以前にこの男が私達に因縁を付けて来たんだったか。当時は、その場にはお前と水楯しか居なかったんだったな。私が仮屋と共に別行動を取っていた関係で」
「そうです・・・。まさか、こんな所で再会するとは・・・。私も驚いています」
「か、かいじさん・・・すごいですー!!」
「なんの、抵部準エース殿に比べたらまだまだです!!不肖界刺得世、これからも精一杯精進に努めて参ります!!」
「りょ、りょうかいしましたー!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

不動と水楯が以前のことを語り合い、また抵部と界刺がふざけているのを余所に、風紀委員や不良連中、常盤台のお嬢様達は揃って愕然としていた。
まさか、最初から自分達がこの碧髪の男の手の上で踊っていたとは夢にも思わなかったからである。
能力による戦闘では無い。これは・・・言葉の戦闘。そして、この分野において“『シンボル』の詐欺師”と渡り合える人物は、この場には1人―固地―しか居なかった。
だからこそ、“詐欺師”は“『悪鬼』”を沈めたのだ。自分の手は汚さず、周囲の環境を巧みに利用して。

「・・・得世様」
「何だい、珊瑚ちゃん。その不満そうな顔は?」
「・・・いえ」
「これで、少しは俺のことを知れただろ?俺は、こういうこともできる。これはこれ。それはそれ。必要だったら何でも使う。例外は・・・基本的に無い」
「バカ界刺・・・。相変わらずのペテンっぷりだね。・・・少しは振り回される身にもなって欲しいよ」
「まぁ、今回は仕方無ぇよ。俺も、できればお前等の恋心を利用したくは無かった。
昨日告白されたばっかりだし、お前等が抱いてる想いの重さってのは俺なりに理解しているつもりだ。
唯、とにもかくにも時間が無かったんでな。この策しか思い付かなかったよ」
「告白!?お、おい!!テメェ、どういうこった!?」
「どういうも何も・・・俺は昨日ここに居るバカ形製、華憐、リンリン、珊瑚ちゃん、嬌看に告白されたんだ。キス付きで」
「何いー!!?リンリンがお前に告白とキスをー!!?」
「リンリン・・・。お前、とうとう後戻りができなくなったんだな。ハァ・・・」
「ちょ、ちょっと鉄枷!!大きな声で言わないで!!破輩先輩も!!何で、そんな哀れむ視線を私に向けてくるんですか!!?」
「そして、ご朗報だよ。君達は何か勘違いしているようだけど、俺と涙簾ちゃんは何の過ちも犯していないよ?恋人でも何でもないし」
「「「「「えっ!?本当!!?」」」」」
「あぁ、本当だ。嘘じゃ無いよ、これは。さっきも言ったけど、そういう話をしたのは君達の感情を刺激して利用するためだったからね。悪かったとは思ってるけど」
「・・・よかった。つまり、界刺さんお得意のペテンだったんだ。・・・心臓に悪いですよ」
「界刺様・・・私は信じていましたよ!!」
「得世様・・・あなた様を疑った私をどうかお許し下さい!!」
「ま、まぁ、ダメダメ界刺が水楯さんにそんな真似をするわけ無いとは思っていたけどね!!」
「涙簾さん・・・。申し訳ありませんでした。変な疑いを、あなたに抱いてしまいました」
「苧環さん・・・。大丈夫ですよ。気にしていませんから。
(さすがは、界刺さん。私が裸になって界刺さんと寝たのは事実なのに、最重要事実の裏へ巧妙に隠してしまったわ)」
「もう済んだことだし、全然気にしていないよ。んふふっ・・・(ガシッ)・・・ん?」
「おい、得世・・・。私は、そんな重要な話を全く聞いていないのだが?」
「真刺・・・!!!」
「貴様・・・その様子だと、5人もの女性から告白を受けたにも関わらず、返事を返していないな?」
「ギクッ!!!」
「・・・貴様の考えはよ~くわかった。この不動真刺が、貴様の性根を叩き直してやろう!!」
「ちょっ・・・待っ・・・(ザッ!!)・・・涙簾ちゃん?」
「水楯・・・。貴様・・・!!」
「この人に危害を加えるというのなら・・・不動先輩、あなたでも潰します」
「ほう、面白い。ならば、やってみろ!!」
「望み通りに!!」
「ちょっと待て!!俺の部屋で暴れるな!!唯でさえ、こんな大人数が居るせいでぎゅうぎゅうなんだぞ!!・・・(ガシャン!!)・・・。
あぁ・・・俺のマグカップが・・・」
「不動さん・・・水楯さん・・・恐いです!!」
「サニー様。遠藤も同じ思いです!!あ、あの殿方のご友人は、恐い人ばかりなのですか!?」
「お、おい!神谷君!!君等は風紀委員なんだろ!?な、何とかしてくれー!!」
「はぁ?何で俺がテメェのために・・・」
「・・・“ヒバンナ”(ボソッ)」
「ビクッ!!か、神谷先輩!!リーダー!!あの人の言う通りです!!風紀委員足る者、善良な一般人が困っているとあらば助けないわけにはいきません!!さぁ!!」
「ちょっ!!?」
「緋花!?ど、どうしたの!?そんな冷や汗ダラダラで!?」
「な、何でもないです、アハハ!!あ、荒我!!あなたも手を貸しなさい!!」
「えっ!?何で俺が!?」
「いいから、来なさい!!」
「うおっ!!?」
「なるほどー!!これが、イップタサイセイってヤツですかー!!わたし、初めて見ましたー!!」
「・・・あの野郎、どんだけ女を侍らせてんだ?にしても・・・また場の空気を変えやがったな。これも、界刺の狙い通りなのか?」
「椎倉・・・。貴殿の『真意解釈』で、あの者の心理は読めなんだか?」
「界刺は、その『光学装飾』を使って俺の目に映る表情や視点を変えてやがるんだ。
しかも、あいつの言だと普段から嘘やデマカセを言ってるみてぇだから、嘘を言っても声自体に全くと言っていい程変化が無ぇ。プロの詐欺師顔負けの術だな」
「武佐君の『思考回廊』で、界刺先輩の思考が読めないってのはどういうことでやんすか?」
「以前成瀬台のグラウンドでも同様の現象が発生したんだけど、あの人や不動先輩、
それに水楯って娘や形製って娘に限って『思考回廊』による思考の繋ぎが不可能になるんだ」
「な、何ででやんすか?」
「きっとだけど、あの形製って娘は俺と同じ精神系能力者なんだと思う。その能力で、俺の『思考回廊』を妨害していると思うんだ。
さすがは、常盤台に通うお嬢様って言った所かな?フフッ、益々気になるね」
「武佐君に流れるナンパ師の血が騒いでるでやんす・・・!!」
「・・・・・・」
「固地先輩・・・何でこんな時に気絶してるんですか?こういう時に活躍しないと、あんたには価値なんて無いですよー。後、個人的にスカっとしましたよー」

等と言うやり取りの後に・・・



「あぁ・・・。俺の服が・・・俺のお気に入りの服が・・・カーテンまで・・・。
こんなのって無いよ・・・!!こんな・・・こんな・・・あ、ああ、あんまりだあああああぁぁぁっっ!!!!!うわあああああぁぁぁぁんんん!!!!!」



不動・水楯・焔火・荒我・神谷・加賀美が暴れた結果、界刺の部屋は見るも無残な状態に変貌してしまった。
部屋の片隅で、体育座りしながら泣き喚く界刺。その哀れな姿に、誰1人として声を掛けることができない。

「(し、しまった。少し、熱くなり過ぎた)」とは不動の弁。
「(・・・ごめんなさい)」とは水楯の弁。
「(な、何とかあの不名誉な渾名を広められることだけは阻止したわ!!)」とは焔火の弁。
「(け、結局流されるままに拳を振り上げちまったぜ)」とは荒我の弁。
「(チッ・・・。あんな姿を見せられたら、もう追及もクソも無ぇよ)」とは神谷の弁。
「(で、でも、これで少しはこの部屋も喜んでいるんじゃないかな?衛生的に)」とは加賀美の弁。

「ごめんよおおぉぉ、俺のコレクション達!!お前達の仇は、この俺が必ず晴らしてみせるから!!!
だから・・・今は泣かせてくれ!!!うわあああああぁぁぁんんん!!!」
「かいじさん・・・かわいそうですー!!・・・(ダダダッッ!!)・・・。よしよし、このわたしがなぐさめてあげます」
「抵部準エース殿・・・!!」
「かいじさん・・・がんばってください!!たちなおってください!!かげながら、わたしも応援していますからー!!」
「な、何と言うありがたきお言葉!!胸に染み入ります!!さすがは、抵部準エース殿!!他の者とは格が違いますな!!」
「ふふ~ん!!!」
「抵部・・・。本当にお前って奴は・・・。どれだけ野郎に乗せられたら気が済むんだ?学習能力無いのか、お前?」
「サ、サニー様!?ど、どうしたんですか!?握り拳なんか作っちゃって!?」
「あ、あの娘!!わ、私のポジションを奪う気かああぁぁ!?うおおおおおぉぉぉっっ!!!」
「サニー様!?」
「月ノ宮!?」
「そこは、私のポジションだああああぁぁぁっっ!!!!」
「ぐへっ!?」
「抵部!?」

遠藤・苧環・閨秀が瞠目する中、月ノ宮が抵部にショルダータックルをぶちかます。

「な、何するんですかー!!?」
「ここは、私のポジションです!!あなたみたいな新入りが入って来ていい場所じゃ無いんです!!もう、ここは満席状態なんですよ!!!」
「そ、そんなの関係あるかー!!わたしは、かいじさんがかわいそうだと思ってよしよししてあげたんですー!!
それを言うなら、わたしに出足で負けたあなたこそ、このポジションにふさわしく無いんじゃないですかー!!?」
「うううぅぅっ!!」

抵部に痛い所を突かれる月ノ宮。それを見て、更に鼻高々になる抵部は追い討ちを掛ける。

「ほら、わたしの言うとおりじゃないですかー!!よ~し、もっとなぐさめてあげよっと。かいじさん、なでなで」
「なっ・・・!?う、うう、うううぅぅ!!!ま、負けてたまるかあああぁぁ!!!界刺様!!サニーが全力で慰めてあげます!!よしよし」
「・・・(ビリッ!)」
「・・・(バチッ!)」
「な、何でこんな状況になってんだ?抵部の奴、メチャクチャ対抗心剥き出してんじゃ無ぇか・・・!!だが・・・何か面白そうだな」
「月ノ宮・・・。本当にあの娘ったら。・・・でも、偶にはああいうのも悪くないかも」

互いに視線の火花を散らす抵部と月ノ宮。そんな2人を保護者的役割の閨秀と苧環は、興味深げに視線を送る。そして・・・

「抵部!!そんなヘナチョコな奴に負けんじゃ無ぇぞ!!ぶっ潰しちまえ!!」
「そらひめ先輩!!」
「なっ!?ヘナチョコ!?・・・月ノ宮!!そんなバカ丸出しの娘に負けたら承知しないわよ!!」
「苧環様!!」
「ブッ!?た、確かにあいつはバカ丸出しだが・・・他人に言われるとムカついて来るなぁ・・・!!」
「あら、それって単なる図星ってヤツじゃないかしら?フフフ」
「あぁん?テメェの方こそ、図星を言い当てられて怒り狂ってんじゃねぇの?ハハッ」
「・・・(ビリビリ!!)」
「・・・(バチバチ!!)」
「リ、リンリン!?ぶっちゃけ、何であの2人まで火花を散らせてんだ!?」
「わ、私に聞かれたって!!き、きっと保護者の血が騒いだんじゃないかな!?」
「ハァ・・・。界刺が関わるだけで、こうまで掻き乱されるとは・・・。椎倉、お前達の凄さが良くわかるよ。この男を御していたんだからな」
「(言えねぇ・・・。『だるまさんが転んでも漢は踏み止まれゲーム』の結果のおかげだなんて言えねぇ・・・!!)」
「うむ。偶には女子(おなご)の戦いというのも、粋なものだ!!!」

苧環と閨秀が激しい視線の火花を散らす。その様に鉄枷と一厘は困惑し、破輩は呆れ、椎倉は冷や汗をかき、寒村は血が騒ぐ。

「え、え~と・・・私達ってここに何しに来たんだっけ、稜?」
「・・・(ガン無視)」
「む、無視しないでよぉ!!ね、ねぇ、緋花・・・あ、あれっ!?緋花!?」
「何か、さっき“ヒバンナ”っていう言葉が聞こえたでやんすね」
「そうだね。界刺先輩が、緋花ちゃんに向かって言ったような・・・」
「緋花・・・ひばな・・・“ヒバンナ”?何か、サバンナみたいな発音だな」
「でやんすね」
「だよね」
「「「アハハハハ」」」
「ちぇいさああああああー!!!」
「「「ガハッ!!?」」」

自分達がここを訪れた意味がすっかりわからなくなった加賀美。部下の神谷に質問するものの、ガン無視されてしまう。
そして、もう1人の部下である焔火は、“ヒバンナ”という界刺によって名付けられた不名誉な渾名を言葉に出す荒我達に向けて跳び蹴りを放っていた。

「真珠院さん・・・。何だか、騒がしくなっちゃいましたね。昨日みたいに」
「えぇ。得世様の周囲は、何時もこのような空気なのかもしれませんね。フフッ。
でも、私の知らない得世様の新しい一面が見えただけでも、今日ここへ赴いた意味があるというものです。違いますか、鬼ヶ原さん?」
「・・・クスッ。私も、真珠院さんと同じ意見です。ちょっと恐い目にも合いましたけど」
「・・・全く、君という男は。本当に・・・本当に愉快な奴だよ」

真珠院と鬼ヶ原がそれぞれ今日の感想を述べている傍らで、形製が慰め合戦を繰り広げている2人の少女の間に居る碧髪の男を瞳に映す。

「・・・・・・」
「固地先輩・・・。あんた、ここに何しに来たんですか?あんたの取り得は、仕事ができることだけですよー」

絶賛気絶中の固地に、真面が容赦無いツッコミを入れる。自分達が畏怖する“風紀委員の『悪鬼』”。その面影は、今や風前の灯状態になっていた。
ちなみに固地債鬼にとって、今日ここで起きた一部始終は今後黒歴史と位置付けられることとなる。






「ねぇ。何でこんな所に来たの?グスン。何か、学生寮に用でもあったの?グスン」
「なでなで・・・(バチッ!バチッ!)」
「よしよし・・・(ビリッ!ビリッ!)」

半ば本気で泣きべそをかいている界刺が、椎倉に向けて疑問を発する。両脇に抵部と月ノ宮を侍らせながら。

「え、え~とだな・・・俺の部屋に資料を忘れてしまってな。本当は、俺と力の有り余っている寒村だけで取りに来る筈だったんだが、固地の奴が手伝うと言って来てな。
だったらということで、各支部の代表者数名と共に寮へ足を運んだんだ。ここに居ない連中は、今は事務仕事をしている筈だが」
「成程・・・。つまり、債鬼はハナっから俺目当てだったんだな。この常盤台の娘達が居なくても、こいつは何かしらの理由を付けて俺の部屋に来てただろうな。
なぁ、椎倉先輩。・・・そんなに行き詰ってんのか?『ブラックウィザード』の捜査は?」
「・・・・・・あぁ」

椎倉は、苦い顔を作る。それに釣られるかのように、他の風紀委員も顔を曇らせる。

「・・・界刺。取引しないか?」
「・・・というと?」

故に、椎倉は決断する。この碧髪の男から、何らかの情報を引き出すために。

「お前が持つ『ブラックウィザード』に関する情報を、ある程度でいいから俺達へ提供してくれないか?」
「・・・見返りは?」
「・・・少なくとも、ここに居る風紀委員支部は今後お前達『シンボル』の行動を黙認する。
俺達に具体的な被害を及ぼさない範囲なら、お前達が何をしようとも。時には、協力さえしても構わない。どうだ?」
「椎倉先輩!?」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!?」
「椎倉・・・!!」

椎倉が提案した条件に加賀美が驚き、閨秀が抗議をし、寒村が唸る。他の風紀委員も困惑の色を隠せない。だが、椎倉は敢えてそれ等の反応を無視する。

「俺が、皆を説得する。だから・・・頼む!!」
「・・・いいよ。その条件、飲んだ」

その決断を界刺は自分の価値観で捉え、吟味し、結論を出す。受諾するという結論を。

「そんじゃあ、その前に“お掃除”しようかな?ちょっとの間でいいから、皆動かないでいてくれるかな?」
「“掃除”?何故今なん・・・」
「そこの“『悪鬼』”が仕掛けた盗聴器や小型カメラが無いかを確認する必要があるからさ。
部屋に大人数が雪崩れ込んだ辺りで、少し怪しい行動をしていたからね。念のため」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「!!!???」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

界刺の発言に驚愕する周囲を余所に、界刺は不可視状態に置いている<ダークナイト>を起動させる。
使うのは<ダークナイト>に備え付けられた7つある機能の1つ・・・『送受棒<モニタリングスティック>』。
無線等の電磁波を傍受するその機能を使い、界刺は室内にある電磁波を発生させている機械類をモニタリングする。
通常この室内に存在している電磁波の波長や振幅は、既に<ダークナイト>に登録済みである。
それ以外の電磁波を発生させている機械、ここに居る人間が身に付けている携帯電話等以外で電磁波を発生させている物を特定して行く界刺。そして・・・見付けた。

「・・・盗聴器3つに、小型カメラが2つか。俺の『光学装飾』を掻い潜っての手際、さすがは“風紀委員の『悪鬼』”と呼ばれるだけのことはあるかな?
全く、善良な一般市民の部屋に何てモン仕掛けやがるんだ。そちらさんの反応を見る限り、正当な理由無しの単独行動だろうし。
こんなのが世間に露見したら・・・風紀委員の威信は失墜間違い無しだね。んふっ!」
「固地・・・!!!」

界刺の手の上にある盗聴器や小型カメラを見て、椎倉は怒りを隠せない。

「やれやれ。こんなんじゃあ、椎倉先輩が頑張っても何時反故にされるかわかったモンじゃ無ぇな。・・・さっきの取引はご破算かな?」
「す、すまん!!界刺・・・本当にすまん!!!」

軽口を叩く界刺に、唯謝ることしかできない椎倉。それは、他の風紀委員も同様だったようで、

「界刺・・・。私からも謝罪する。本当にすまない・・・!!」
「ご、ごめんなさい!!!まさか、債鬼君がこんなことするなんて・・・!!」
「界刺さん!!も、申し訳ありません!!」
「馬鹿野郎が・・・!!あたし達が犯罪を犯してどうすんだ!!・・・すまねぇ、界刺。この通りだ!!」

破輩、加賀美、焔火、閨秀も遅れて頭を下げる。風紀委員に身を置く者として、固地がしたことは決して許されるものでは無い。
それがわかっているからこその謝罪。それ等を受け取った界刺は、“そんなことより”重要な、ある疑念について考えを張り巡らせる。

「別に、そこまで怒ってないよ。こうやって、もう排除したんだし。にしても、手段を選ばないねぇ・・・。いや、手段を選んでいる場合じゃないのか?・・・・・・」
「・・・ねぇ、バカ界刺。これって・・・」
「・・・かもな。成程、道理でこんな犯罪紛いのことをしなきゃいけないわけだ。
むしろ、債鬼に同情するな。こいつ、今までそんなモンを1人で抱え込んでいたのかよ・・・」
「界刺・・・?」

何やら納得顔の界刺と形製の会話に訝しむ椎倉。界刺は、固地のしでかしたことによって頭がうまく回らない風紀委員にヒントを与える。

「椎倉先輩。普通盗聴器とかって、どういう時に必要になるんだっけ?」
「そ、それは秘かに情報を収集しなければならない時に必要になる物だろう?」
「じゃあ、何で債鬼は俺の部屋に仕掛けたと思う?」
「・・・『ブラックウィザード』に関する情報を秘かに入手するため・・・か?」
「他にもあるかもしれないけど、大方そんな所だろうね。それじゃあ、今から言う仮定からは、どんな推測を導き出せる?」
「仮定・・・?界刺、勿体ぶらずに言いたいことをはっきり言ったらどうだ」
「そう?そんじゃあ、思い切って言っちゃおうか?そちらさんにとっては、債鬼がしでかしたことより衝撃度の高い仮定だと思うけど?」
「何だと・・・!?」

椎倉の怪訝な表情を無視して、界刺は自分の想像を述べる。風紀委員にとって、致命傷となりかねない仮定を。


「もし、風紀委員の中に『ブラックウィザード』と通じている人間が居る・・・としたら?」

continue…?

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最終更新:2012年07月03日 00:09