「おう、居た居た。おーい、撚鴃!!」
「要・・・。幾凪も・・・。これは・・・(ボソッ)」
ここは、成瀬台の下駄箱。界刺の部屋から成瀬台に戻って来た椎倉達の前に、花盛支部に所属する冠要が、後輩の
幾凪梳を連れて姿を現した。
「何時まで経っても帰って来ないから、梳と一緒に様子を見に・・・・・・固地?」
「固地先輩!!?ど、どど、どうしたんですか!?何で、こんなにボロボロに・・・!!?」
冠と幾凪の視線の先には、寒村に背負われた絶賛気絶中の固地の姿があった。
「・・・・・・それに関しては、後できっちり説明する。寒村、他の皆を連れて先に行ってくれ。それと、今から緊急会議を執り行う。
全支部員を、○○会議室に集合させておいてくれ。俺は、冠と幾凪に少し話がある」
「了解した」
椎倉の指示を受け、寒村の先導の下椎倉・冠・幾凪以外の風紀委員は成瀬台の中に入って行く。
「撚鴃・・・。私達を残したってことは、何か頼みでもあるのか?しかも、その様子だと梳の力も要るようだが」
「えっ!?わ、私の力ですか!?」
冠は椎倉に問い掛け、幾凪はあたふたし始める。そんな光景を目に映し、椎倉は口を開く。
「・・・・・・あぁ。2人に協力して欲しいことがある。今後における、[対『
ブラックウィザード』風紀委員会]の方向性を決めかねない重要な頼みだ」
「「!!!」」
数分後、3人も成瀬台の中へ足を踏み入れて行く。
「・・・それでは、これより[対『ブラックウィザード』風紀委員会]に関わる緊急会議を執り行う!!」
ここは、成瀬台の○○会議室。今ここに、[対『ブラックウィザード』風紀委員会]に関わる全支部員が集められていた。
「(あ、危なかった~!!もう少しで、遅刻する所だった!!)」
「(ぶっちゃけ、リンリンは遅刻癖でもあんのかよ!!)」
界刺の部屋から急いで戻って来た159支部に所属する一厘に、鉄枷が文句を言う。
「椎倉。まがりなりにも、固地は178支部(ウチ)の支部員だ。そして、俺は178支部のリーダーだ。
例え俺が“お飾りリーダー”であっても、固地が俺を押し退け178支部に君臨する男であっても、俺は固地が取った行動の責任を取らなければならない。
もちろん、固地の身に何が起きたのかを知る権利もある。わかってるな?」
「浮草先輩・・・」
固地の身を案じる178支部のリーダーである浮草と、浮草に言葉に込められた思いを感じる殻衣。
「ゴホッ!」
「うん?どうしたの、双真?夏風邪でもひいた?」
「大丈夫・・・です」
時折咳をする網枷に声を掛けるのは、176支部リーダー加賀美。
「(くそぅ!くそぅ!サニーの奴!!今度会ったらぜったいに負けないんだからー!!)」
「(莢奈!?ど、どうしてそんなに怒ってるの!?)」
花盛支部の抵部が“サニー”なる人物に対抗心剥き出しにしている姿を、渚は不審がる。
「フンッ!!フンッ!!フンッ!!」
「フンッ!!フンッ!!フンッ!!」
「(・・・何で緊急会議が始まろうとしている時に、この2人は筋トレしてるんだろう?)」
成瀬台支部の寒村と勇路が床の上で筋トレに励んでいる姿に、初瀬は呆れ返った視線を送る。2人のすぐ近くには、ボロボロの固地が寝かされていた。
「椎倉?ちゃんと説明してくれるんでしょうね?全く、私や緑川君を呼んだ張本人がズタボロになってどうすんでしょ?」
「寒村・・・勇路・・・。いいなぁ、俺も早く訓練を・・・!!」
[対『ブラックウィザード』風紀委員会]の顧問(アドバイザー)的存在に昨日なったばかりの
橙山憐が、椎倉に声を掛ける。
対して、橙山の付き添い役(=予備役)である
緑川強は、寒村と勇路の筋トレを羨ましそうに眺めていた。
何故この2人が風紀委員会に急遽参加することになったかというと、それまで顧問に居た警備員に対して固地が不平不満をぶつけたためである。
固地曰く、『もっと有能な警備員が顧問に居るべきだ』とのこと。
確かに、それまで居た警備員では『ブラックウィザード』捜査における有効な働きを為せていなかったこともあり、
警備員側も固地の要望に応えるように警備員の中でも優秀な橙山と、前線において凄まじい戦闘力を発揮する緑川を派遣したのである。
「まずは、固地の件について説明する前に1つ言っておかなければならないことがある。それは、『
シンボル』のリーダー
界刺得世との約束だ!!」
「・・・椎倉先輩?何を・・・?」
椎倉の口から飛び出した『シンボル』と、そのリーダーの名に六花が疑問の声を挙げようとする。だが、椎倉は構わず一気に捲くし立てる。
「『「ブラックウィザード」の捜査に関わっている風紀委員は今後、「シンボル」の行動を原則黙認する』、『時には「シンボル」の要請に協力する』、
そして・・・『「シンボル」のメンバーが、風紀委員やそれ以外の人間へ最悪命に関わるような危害を与えた、
もしくは何らかの原因で与えさせてしまったとしても、風紀委員は“数回”黙認する』。
以上“3条件”を、先程界刺と約束して来た」
「なっ!!?」
「椎倉先輩!?それはどういう・・・!?」
椎倉の発言に、六花と初瀬が即座に反応する。2人に限らず、事務処理を行っていた風紀委員達は一様に騒然となる。
その中で、顧問である橙山が椎倉に疑問を発する。
「椎倉?その界刺って奴に脅されでもしたっしょ?」
「・・・あの男は、風紀委員や警備員の上層部が『軍隊蟻』と関わっていることを知っています」
「!!!」
「そして、俺達が『軍隊蟻』から『ブラックウィザード』に関する情報を貰えていないことも看破しています」
「つまり・・・界刺って男は『ブラックウィザード』に関する情報を持っている・・・というわけか。・・・椎倉、そいつと取引したっしょ?」
「はい」
「『軍隊蟻』って・・・。あの・・・?」
「そういえば、湖后腹はまだ知らなかったかな?159支部では、お前以外の人間は『軍隊蟻』と風紀委員及び警備員が関わっていることは既に知っていたぞ?」
「そ、そうなんすか、鉄枷先輩!?」
「ぶっちゃけ、知っていたって言っても具体的なことは全然だけどな。暗黙の了解みたいな感じか、リンリン?」
「そ、そうね。かくいう私も、破輩先輩から聞いて初めて知ったんだよなぁ」
『軍隊蟻』。第五学区を主な拠点とするスキルアウトで、“義を以って筋を通し、筋を通せぬことを生涯の恥とせよ” という信念の下活動している。
他のスキルアウトとは違い、末端のメンバーに至るまで統率が取れているためか、
一般人(ここで言う一般人とは、主にスキルアウト・風紀委員・警備員等を指す)からも評判が良い。
警備員と同レベルの銃火器を持っており、先進国の軍の一個大隊並みの戦力を持っているとされている。但し、有事の際にしか使用されることは無い。
この情報を知る者は少なく、故に世間一般には不良たちの仲良し集団としか認知されておらず、彼らが武装していることはほとんど知らない。
他のスキルアウトとの相違点として、メンバーが無能力者であることにこだわっておらず、能力者のメンバーも多い。
そんな彼等と風紀委員・警備員の上層部は、秘かに繋がっていた。治安維持の名目の下で。
「そらひめ先輩―い!!わたし、全然知りませんでしたよー!!」
「あたしは、結構前から知ってたけどな。個人的には、気に入らなくて仕方無ぇけど」
抵部の声に反応する閨秀。如何に秩序を保っているとは言え、スキルアウトであることには変わりない『軍隊蟻』と手を結んでいることに対して、
彼女的には憤慨しているものの、そこは組織という巨大な力と性質が立ち塞がっているためにどうしようも無いのだ。
「界刺は、かなり広大な情報網を構築している節があります。あの感じだと、『軍隊蟻』の
樫閑恋嬢とのパイプさえ持っている可能性がありますね。
あの男なら、『軍隊蟻』の“怒れる女王蟻”と対等以上に渡り合えてもおかしくは無い。
今回の『ブラックウィザード』に関する情報を横流して貰うために交渉した警備員を一刀両断した彼女ですら、交渉事であの“詐欺師”を敵に回したくは無いでしょう」
樫閑恋嬢。『軍隊蟻』におけるNo.3で、指揮官的役割を請け負う才女。知略にも秀でている彼女と渡り合える猛者は極僅か・・・。
「『シンボル』の界刺得世か・・・。そういえば、少し前にあった救済委員絡みの事件でもそいつ等が大きく関わっていたんでしょ?」
「はい。あいつ等の働きで、事件が世間に広がるような大事にならなくて済みました。
ちなみに、その中心人物の1人であった
春咲桜は現在『シンボル』の一員です。あくまでボランティアという形みたいですが・・・」
「破輩先輩!?ど、どうして・・・(グイッ!)・・・美魁?」
「牡丹・・・。少し静かにしてようぜ?話が前に進まねぇ」
「美魁・・・?」
六花は、今になって気付く。椎倉が最初に言った“3条件”について、閨秀が一切反応を示さなかったことに。
「話を戻します。橙山先生の言う通り、俺は界刺と取引をしました。それに見合うだけの情報も得ることができました。
俺達の命に関わる重要なことについて・・・です。もしこの情報を知らなければ、俺達全員あの世行きだったかもしれません」
「・・・聞かせて貰うっしょ?その情報というのを・・・」
「はい。皆も、よーく頭の中に叩き込んでいてくれ」
椎倉が次に発する言葉を待ち侘びる風紀委員達(既に知っている者は除く)。そして、言葉はすぐに放たれた。
「現在進行中で、『ブラックウィザード』と単独で殺し合いを行っている・・・殺人鬼が居る。その男は・・・俺達を凌駕する力を持っている可能性がある!!」
「・・・つまり、『紫狼』というスキルアウトが『ブラックウィザード』と縄張り争いをしていて、
その『紫狼』が対『ブラックウィザード』用・・・その“変人”が言う“手駒達”対策に雇った殺し屋ということですか?」
「界刺もその辺に関しては明言を避けていたが、おそらくは。そもそも、奴がその殺し屋と出会ったのは一昨日の夜が初めてだったそうだからな。
そして、偶然にもその殺し屋と出会った界刺自身が危うく殺されかけた。その実力は、推して知るべしと言った所だろう」
「撚鴃。その殺人鬼の能力とかはわかってるのか?」
「これも界刺が実際に殺り合った経験だけのことしか判明していないが、体から糸のような物を無数に出して自在に操作する、蜘蛛みたいな能力者だそうだ。
実力的にはレベル4でも最上位クラス。銃やナイフも使い、身体能力・戦闘技術共に桁違いの動きを見せるようだ」
「イマイチイメージしにくいな。何か、わかりやすい例えは無いのか?」
「そうだな・・・。俺が抱いたイメージ的には、緑川先生級の身体能力と神谷級の戦闘技術を併せ持った人間が、
様々な武器とレベル4でも最上位クラスの能力で俺達を殺しに掛かってくる・・・と言った感じかな?」
「・・・・・・わかった。すごくわかりやすい例えだ」
冠の背筋が震える。緑川の身体能力や神谷が持つ戦闘技術の図抜けた高さは冠もよく知っている。故に、簡単に想像できた。
「何でも、界刺の能力で失明状態にしても全く戦闘に支障を及ぼさなかったそうだ。それだけでも、この殺し屋の恐ろしさが理解できるだろう。
それと、能力らしき糸に関してだが、大きさ等は目に映らぬ細さからセンチ単位の太さへ自在に変化できるようだ。
武器や追跡用にも応用可能で、その糸自体が殺傷能力を持ち、その上空中移動にも使用しているそうだ。これに、銃やナイフ、そして身体能力等が組み合わさって来る。
界刺曰く、『レベルが高いだけの能力者じゃ速攻で殺される。神谷君クラスの戦闘に秀でている能力者が何人も居てようやく殺し“合い”になる』そうだ」
「・・・つまり、それ以外だと一方的な殺戮になると?」
「想像はしたく無いが、そのようだ。実力が悪い意味で未知数だな。その能力で一体どれ程のことができるのか見当も付かない」
六花の確認の椎倉が答えた後に、会議室は静まり返る。重苦しい空気が会場を支配する。・・・無理も無い。
唯でさえ、『ブラックウィザード』に関する捜査が芳しく無いのに、その上で自分達を凌駕しているかもしれない殺し屋が『ブラックウィザード』の周囲を徘徊しているのだ。
自分達が、この殺し屋と遭遇する確率は決して低くない。そして、戦えば神谷級の実力者じゃ無い限り速攻で殺されるというのだ。
「う、うん・・・ここは・・・?」
「固地先輩!?」
そんな時に、今まで気絶していた固地の目が開いた。その声に反応した真面が振り向いた瞬間・・・
ゴン!!
「ガハッ!!」
「固地先輩!!?」
勇路が筋トレ用に持っていた重さ50kgのダンベルが、固地の顔面へと落ちる。それをまともに喰らった固地は、意識を再び手放した。
「ちょっ!?な、何やってんですか、勇路先輩!!?」
「あぁ、ごめんごめん。つい、ポロっと。まぁ、僕の『治癒能力』で治すから大丈夫だよ」
「『つい』って何!?それに、『ポロっと』ってアンタが言うと他のことを想像しちゃうんですけど!!?」
「そうかい?それじゃあ、今からお見せしようか?うんしょ・・・」
「や、止めて下さい!!こ、こんな所で“成瀬台の裸王”の片鱗を見せなくてもいいんですよー!!」
上半身裸になった(なった!!)勇路を慌てて止めに入る初瀬。もちろん、この場に居る者は勇路が“裸王”と呼ばれていることを知っている。
「な、何と言う肉体美!!・・・いいかも・・・」
「牡丹・・・はしたない」
「撫子の言う通りだぜ。・・・涎が垂れてんぞ、牡丹?」
「ハッ!!」
「ガハハハハハハ!!!勇路!!また、一段と鍛え上げられているじゃないか!!」
「緑川師!!師に褒められるのは、僕にとってもこの上ない喜びであります!!!」
「緑川師って・・・。もしかしてとは思っていたけど、あの子も緑川君が主催する『筋肉探求<マッスルステージ>』の参加者なのかしら?」
『筋肉探求<マッスルステージ>』。警備員の端くれである緑川が主催する、筋肉版の青空教室のようなものである。
己が肉体に自信がある者達が、緑川指導の下ひたすら筋肉を崇め立てる無料の講習である。崇め立てるとは、それすなわち鍛えに鍛えることである。
緑川自身、他に並ぶ者が居ない程の筋肉の持ち主である。そんな彼がライバル的存在を求めて開いたのが『筋肉探求』。
『ライバルが居ないのなら作ればいい』という思考の下、警備員の仕事に従事する傍ら、空き時間を見つけては同じ同志達と共に汗水垂らして鍛え上げているのである。
そして、勇路や寒村は『筋肉探求』の参加者であり、同時に信望者でもあるのだ。
「・・・何だか、空気が軽くなりましたね」
「そうだな。ぶっちゃけ、さっきの空気はキツかったぜ」
佐野と鉄枷は互いに言葉を交わす。今のやり取りで、会場を包んでいた重苦しい空気は消えていた。
「なぁ、椎倉先輩」
「ん?何だ、神谷」
今まで黙っていた神谷が、椎倉に対して言葉を向ける。
「あの“変人”は・・・そんな殺し屋に単独で抵抗できるくらいには強いってことだよな?」
「・・・稜?」
神谷の目の色が変わっていることに、リーダーである加賀美は気付く。その目は、スキルアウト等を相手取っている時に見せる“剣神”の瞳。
「・・・現にあの男は生き残っているしな。それが答えなんじゃないか?それに、界刺はその殺し屋に勝つつもりみたいだしな」
「えっ!?・・・。そうなんですか?」
「少なくとも、本人的にはそのようだ。どうやって勝つつもりかは知らないがな。だが、あいつが言う以上何かしらの対抗策があるのだろう。
『「シンボル」のメンバーが、風紀委員やそれ以外の人間へ最悪命に関わるような危害を与えた、
もしくは何らかの原因で与えさせてしまったとしても、風紀委員は“数回”黙認する』。
そもそも、この条件はそれを前提に考えられている。界刺と殺人鬼が行う殺し合いに、もし風紀委員が巻き込まれても・・・という話だ」
「(そういえば、色々有り過ぎて全然疑問に思ってなかったけど、界刺さんってそんな化物相手にどうやって勝つつもりなんだろう?
神谷先輩ですら対抗できるかわからない相手に・・・。光を操る・・・光・・・もしかして、姫っちの『光子照射』のようにレーザーみたいな光も放てるのかな?)」
焔火は、意図せずに界刺の秘策に触れる。だが、それは “アタリ”であって、“アタリ”にあらず。
「だから、この殺人鬼とはできるだけ関わらないように細心の注意を払ってくれ。もし遭遇した時は、すぐに逃げ・・・」
「・・・つまり、それは巻き込まれた後のことで、巻き込まれること自体には言及されていないってことだよな?」
「稜・・・。あなた、もしかして・・・!!」
「加賀美先輩。俺は、引き下がるつもりは無ぇよ?相手が殺人鬼だろうが何だろうが関係無ぇ。俺は俺のやり方でやる。
何で、俺があの“変人”の言うことなんか聞かなきゃなんねぇんだ?仮に、椎倉先輩の言う“3条件”が効果を発揮するとしても、それは黙認するってことだけだ。
ようは、あいつ等の行動を認めた上で、風紀委員として対処すればいいだけの話だ」
「・・・何が言いたい、神谷?」
「つまり、“変人”と殺人鬼が殺し合っている時に、風紀委員である俺がその行動を黙認した後に、2人共叩き潰せばいいだけのことだって言ってんだよ。
殺し合いを認めることと、俺が連中を叩き潰すことは矛盾しない・・・違うかよ?」
「・・・・・・」
神谷の言っていることは、所謂抜け道のようなものだ。黙認とは、すなわち『黙って認める』、または『過失を見逃す』ことである。
風紀委員や警備員が『軍隊蟻』にしていることと同じ、暗黙の了解的な行為。
それを、神谷は本来であれば『過失を見逃す』という意味を適用すべき所を『黙って認める』という意味を適用すると言っているのだ。
具体的には、『界刺が殺人鬼と殺し合う行為自体は黙認するが、そこに風紀委員である神谷が首を突っ込み、殺人鬼を叩き潰す行為には何の問題も無い』ということだ。
そして、『風紀委員である神谷の行為に反発した界刺の行為を黙認した上で、正当防衛という形で対処し叩き潰した行為にも何ら問題は無い』ということである。
その解釈が駄目でも、『刃向かった界刺を叩き潰した後に、風紀委員への反発行為という過失を見逃す』というのは有り。そう、神谷は考えていた。
「相変わらずあんたは・・・」
「うん?何だよ、真面?何か文句でもあんのかよ?」
「んなこともわかんねぇのかよ!」
「真面君。・・・。落ち着いて・・・」
神谷の態度に、真面が怒りの視線を向ける。それに気付いた神谷の問いに激昂しかける真面を、同僚の殻衣が宥める。
「・・・確かにそういう解釈も可能だ。だが、それを認めるわけには・・・」
「・・・・・・問題無い」
「姫空?」
神谷と椎倉の会話に首を突っ込むのは、同じ176支部のメンバー
姫空香染。
「・・・・・・何で黙認?・・・・・・何で黙ってないといけない?・・・・・・そんな殺人鬼を・・・・・・放置できるわけが無い」
徐々に、徐々にだが姫空の言葉に熱が宿る。
「・・・相手の強さなんて関係無い。・・・“変人”との約束なんてどうでもいい。・・・そんなんじゃあ・・・助けられるものも助けられなくなる・・・!!」
「確かに姫空ちゃんの言う通りだね。相手が女性だったら・・・・・・・・・グググッッ、いや、女性であったとしても放置できる問題じゃ無いね」
姫空の言葉に、次々に呼応する176支部のメンバー達。
「もしかしたら、その殺し屋の魔手があの青髪の殿方に及ぶかもしれない・・・。そんな可能性を断じて許すわけには行かないわ!!」
「フン・・・。このエリートである私が、殺人鬼如きに後れを取るわけが無い。いいだろう、その殺人鬼は私の手で葬り去ってくれる!!」
「おい、斑。テメェ、また俺の手柄を横取りするつもりか?」
「フン。何故このエリートである私が、貴様の手柄等を横取りしないといけないんだ?被害妄想も甚だしいぞ、神谷?」
「・・・何かわかんないけど、176支部(ウチ)の問題児集団がやる気になってる・・・!!あっ、何か急に胃が・・・」
加賀美が言う所の問題児集団(176支部内)である神谷、斑、鏡星、一色、姫空が何故か一様にやる気満々状態になっている。
普段は、単独であれやこれやの問題ばかり起こしてる連中がである。こういう時は碌なことにならない代わりに、普段には見られない一致団結した動きを彼等は見せる。
ここで言う碌なことにならないとは、加賀美の胃が痛くなることである。
ちなみに、この問題児と定義されている人間の中に加賀美自身は入っていない。否、入れていないと言った方が正しいか。自分に甘いとは、こういうことである。
「フフフッ。どうするっしょ、椎倉?」
「・・・ハァ」
橙山が問い掛けて来る。・・・仕方無い。だが・・・“好都合”でもある。神谷がこういう反応を示すのは心の何処かでわかっていた。ならば・・・
「いいだろう、神谷。元々、お前達176支部はここに居る支部の中でも突出した戦闘力を持った支部だ。お前達なら、あるいはこの殺人鬼を潰せるかもしれない。
176支部内において戦闘力に秀でている人間のみ、この殺人鬼との戦闘を認めよう。他の支部は原則手出し無用だ。俺達の本命は『ブラックウィザード』だからな。
だが、無理はするな。危うくなれば、すぐに逃げろ。但し、界刺に対しては余り面倒事を起こすな。・・・わかっているな?」
「・・・・・・了解」
神谷は、椎倉の真意含めて了解の返事をする。固地の盗聴etcの件もある。それに、この殺し屋と戦える可能性があるのなら、自分は構わない。
あの“変人”にできて・・・自分にできないわけが無い。あの碧髪の男に、絶対に負けたくない。
「さて、次に固地の件を説明する。浮草。待たせて済まなかったな」
「いや。俺としては、固地の身に何が起きたのかを知れたらそれでいい。あの固地を、こんな状態にするような奴だ。・・・相当ヤバイ奴なのか?」
「まさか・・・『ブラックウィザード』の仕業なんじゃあ・・・?」
「落ち着け、初瀬。それじゃあ、説明するぞ?」
口ではそう言っているが、内心は穏やかでは無いだろう178支部のリーダーに声を掛けた後に、椎倉は説明を始める。
他の人間(事情を知らない人間)も、椎倉の説明に耳を傾ける。
「実はだな・・・。固地がこんなことになったのは・・・」
「なったのは・・・?」
とは言っても、言葉としてはそれ程長くは無いのだが。
「界刺に恋する少女達の逆鱗に触れたからだ」
(事情を知らない)人間全員がズッコケたのは言うまでも無い。
continue…?
最終更新:2012年07月17日 22:30