「<“キョウ”のアバターって普通だネ>」
「<別にいいんだよ。そういう“ヒメ”こそ、そのまんまじゃないか。つーか、ここって会員登録が必要だった筈なんだけど>」
「<へへ~ン!『ハックコード』を使って既に登録済みだヨ!!それに、このアバターは私のプログラムに組み込まれているのを使ってるだけだシ!!>」
「<・・・やっぱりか。人のスマートフォンを勝手に使いやがって・・・>」
ここは、電脳世界の一角にある『シークハンター』。初瀬と
電脳歌姫は、アバターと呼ばれる姿でこの箱庭の世界に存在していた。
ちなみに、ここでは初瀬は“キョウ”、歌姫は“ヒメ”というネームのアバターである。
更に言うなら歌姫のアバターは自前であり、初瀬は『カタチ』を『阻害情報』で『シークハンター』内において用いるアバターに変換している。
「<“キョウ”の方から誘ったんだから、つべこべ文句言わなイ!フフフ>」
「<へいへい>(少しは元気を取り戻したみたいだな。・・・感情があるかどうかはこの際考えないでおこう)」
“キョウ”達は『シークハンター』内にある道を歩いて行く。ここには、学園都市中から数多くのアクセスが為されており、それに比例して様々なアバターが存在した。
「<“キョウ”。それで、私のアピール会場は何処を想定してるノ?>」
「<施設内とかでいきなりやると反感を喰らいそうだから、近くにある公園とかを考えてるけど?>」
「<屋外ステージカ・・・!!アイドルなら、一度はやってみたいことだナ!!>」
等と言いながら、2人は公園へと足を踏み入れる。
「<ん?あれは・・・“イミュ”!!>」
「<“イミュ”?>」
そこで最初に目にしたのは、筋肉モリモリの青年アバター・・・名前は“イミュ”。とは言っても、その何処にでもある外見だけでは判別は難しいのかもしれない。
「<レベル0だろうとくじけるな!俺もレベル0だっ!
とある高校の先生はレベル0こそ無限の可能性があると仰っていた!>」
「<わ、わかりました!僕・・・頑張ってみます!!ありがとうございました!!>」
それなのに、名前以外で“キョウ”が彼を“イミュ”と見抜くことができたのは、その吹き出しのおかげである。
熱い言葉を吐く“イミュ”の檄を受けた別のアバターは、丁寧に礼を言った後に去って行った。
「<あいつは“イミュ”って名前で、ああやって色んなアバターに熱い檄をぶつけている熱血漢なんだ。あいつ、この公園にはよく来るんだよな>」
「<うわァ。暑苦しそウ・・・>」
“イミュ”の説明を聞いて“ヒメ”が正直な感想を述べる。そんな連れを無視して“キョウ”は顔馴染みに話し掛ける。
「<“イミュ”!>」
「<おおおぉぉ!!“キョウ”じゃないか!!久し振りだな!!元気にしてたか!!?>」
「<あぁ。最近は忙しくてここにも中々来れなかったんだ>」
「<それなら仕方無いな!!うん?お前の後ろに居るのは・・・・・・電脳歌姫のアバター!!?>」
「<ん?それがどうしたんだ?>」
電脳歌姫そっくりのアバターを目に映した“イミュ”の反応に“キョウ”は疑問を抱く。何故電脳歌姫のアバターを見ただけで、そんなリアクションが起きるのか?
「<“キョウ”・・・お前は知らないのか!?電脳歌姫のアバターは超レアなんだぞ!!?手に入れられる確率は0.1%を切っている!!>」
「<マジ!?>」
「<マジだ!!お前・・・そんな超レアアバターと何時の間に・・・>」
「<“イミュ”・・・お前ってそっち系に詳しいんだな。意外だよ>」
「<そ、それは・・・>」
今まで接していた知り合いの裏の一面を見てしまったかのような感覚を“キョウ”は抱く。そんな彼の反応にしどろもどろになっている“イミュ”の前に・・・
「<こんばんワ!みんなの架空のアイドル!電脳歌姫だヨ!“学園都市レイディオ”と共によろしくネ!!>」
早速“ヒメ”が売り込みを掛ける。歌姫足る者、ここぞという時は大胆な行動を仕掛けなければならない。
「<・・・かわいい(ポッ)>」
「<よっしゃああああああぁぁァ!!!ファン獲得一丁上がリ!!!>」
「<・・・・・・こんなんでいいのかな?>」
その積極姿勢が功を奏したのか、初っ端からファン獲得に成功する“ヒメ”。こいつはどう考えても元からファンだったと言ってはいけない。彼女は気付いていないのだから。
「<この調子でガンガンいくゼ!!そうダ!!“イミュ”!!私って、どんな部分をアピールすればいいと思ウ?>」
「<ア、アピール?>」
「<そウ!!ここいらで、一発ファンを増やして増やして増やしまくル!!そのためにも、ファンである君の声を聞きたイ!!>」
「<確かに・・・。俺はこの手のことには疎いからさ。“イミュ”なら・・・>」
「<そ、そうだなぁ・・・>」
勝手に“イミュ”が電脳歌姫ファンだと決め付けている“キョウ”と“ヒメ”の催促に、筋肉モリモリアバターはしばし沈黙する。そして、こう言葉を発した。
「<決め台詞を高らかに宣言すればいい!!例を示そう!!黒き誓約の元、暗黒の眠りから目覚めよ――『暗黒時空(ダークネスワールド)』!!」>」
「<・・・・・・>」
余りにも想定外な言葉に、“キョウ”は言葉を失う。キャラが違う。さっきまで見せていた熱血漢ぶりは何処に行ったのだ?
これは、熱血漢というよりは何か酷い妄想から生み出されたような言葉としか考えられない。
というか、妄想を声高らかに放った張本人は言った直後から何一つ喋らない。やはり恥ずかしかったのだろうか?
「<そうカ・・・。決め台詞カ・・・。そういえば、真剣に考えたことが無かったナ>」
一方、“ヒメ”はと言うと今まで軽んじていた決め台詞の重要性にこの瞬間気付いた。アイドルたる者、決め台詞の1つ2つはあって然るべきである。
「“イミュ”!!他に決め台詞的なモノは無いカ!?参考にしたいんダ!!」
「<え、え~と・・・。あっ、言っておくけどさっきのは僕じゃあ・・・>」
“ヒメ”はその手のことで自分より先を歩んでいる“イミュ”に教えを請う!!対する“イミュ”は、決め台詞云々の前に先程の言葉を訂正しようとするが・・・
「<我輩は“ゲルマ”である!!>」
「<“マッスル・オン・ザ・ステージ”!!>」
「<“ゲコイラルラッシュ”!!>」
「<“ゲダテン”GO!!>」
「<弱者を救い、悪を刈り取る我が“剣”が放つ暗黒闘気(オーラ)を見るがいいでござる!!>」
「<オーラって食べられないよねぇ。お腹減ったなぁ・・・>」
「<これどうぞ~。余ってたお菓子です~>」
「<あたしにも頂戴ーい!!>」
「<焚き火は、一種の神秘なのさ・・・>」
「<焚き火とは、一種のキラピカ人生ですよね・・・>」
「<焚き火ってのは、一種の魔力だぜ・・・>」
「<焚き火・・・一種の儚き陽炎・・・>」
「「「「<焚き火っていいよなぁ~>」」」」
更なる現実世界からの介入を受けてしまう。その結果、堰を切ったように出るわ出るわの決め台詞を垂れ流す始末である。だがしかし、途中から変な方向へと流れてしまっている。
「(何で妄想激しい決め台詞から日常会話になった挙句に最後が焚き火の話で終わってるんだ!!?意味わかんねぇ!!
それより・・・“マッスル・オン・ザ・ステージ”!!?勇路先輩の言葉が、この電脳世界にまで侵食していたとは!!恐ろしや恐ろし・・・そうか!!
“イミュ”は『筋肉探求』のメンバーだったのか!!道理でアバターが筋肉モリモリなわけだ!!)」
“キョウ”は“イミュ”の正体に心当たりを付ける。勿論その心当たりは見当ハズレである。
もうお気付きだろうが、“イミュ”の正体は免力である。貧弱な彼が緑川主催の『筋肉探求』に行けば、即刻病院の世話になるであろう。
ちなみに、“キョウ”が何故勇路本人を疑わなかったのかというと、単独任務中の身であることとこの手のことに勇路は興味を持っていないことを知っていたからである。
「<フムフム・・・。参考になったワ。ありがとウ!>」
「<嘘っ!?何が参考になったの!!?>」
「<そういやぁ、あの往復する道の途中で棄てられたバイクを見付けたぜ。カギも付いたまんまだったし、まだまだ走れそうだったなぁ>」
「<それは、勿体無いでござるな>」
どうやら、さっきの意味不明な言葉は“ヒメ”にとっては参考になっていたようである。“キョウ”はそんな歌姫に意味不明だが。一方、“イミュ”は再び独り言を漏らし始めた。
「<よシ!!こうなったら、他の人にも聞いてみよウ!!>」
「<あっ!おい!ちょっと待て!!>」
“イミュ”に礼を言った“ヒメ”は、公園内に居る別のアバターに声を掛けに行く。そんな彼女に目に止まったのは、何処ぞの探検隊の格好をしたアバター。
「<うン!!あいつにしよウ!おーイ!!ちょっと、決め台詞について話をさせテ・・・>」
「<そんなことより、虫の話をしようぜ!!>」
「<はイ?>」
「<虫だよ虫!!ハァ・・・この『シークハンター』には虫型のアバターが居ないのが不満点だね。虫はいい。本当に最高だ。
今日出会ったコガネムシもさ、すっごく気のいいヤツで・・・(ブツブツ)>」
「<な、何だこいツ!?電波カ!?>」
話し掛けた途端に虫の話をし始めたアバターに引いてしまう“ヒメ”。別に虫が苦手というわけでは無いのだが、初っ端から虫について語り出す態度が異様である。とそこへ・・・
「<“イン”!!こんな所に居たのか!!>」
「<今日の獲得数は幾ら?>」
「<“カブッチ”!!“セツ”!!>」
これまた探検隊風のアバター2人が“イン”に近付いて来た。前もって正体をバラすと・・・“イン”=泉光陰、“カブッチ”=
兜仲明、“セツ”=
銅街世津である。
銅街の場合は、機械関係に疎いので親友の銀鈴が代行して書き込んでいたりする。もちろん方言では無く一般的な言葉遣いに何とか翻訳した上で。プライバシーを守るためである。
とは言っても、泉、兜、銅街の3人はリアルの世界でも顔馴染みである。虫を愛する者として、何度も顔を合わせている仲である。
「<私は34匹捕まえたぞ>」
「<マジでか!?俺なんか17匹だったぜ。やっぱり、“セツ”には叶わないなぁ>」
「<獲得数が全てじゃ無いぜ、“カブッチ”。大事なのは、その虫とお近付きになるために、どれだけの誠意を持つことができたか?そこが肝心なんだぜ。
虫の中にも色んな性格を持つヤツが居る。例えば、今日会ったコガネムシなんかは・・・(ブツブツ)>」
「<・・・・・・蚊帳の外状態なんだけド>」
「<・・・・・・近付かない方がいいと思うぜ?>」
虫談義に熱中してしまっている3名に“ヒメ”は愚痴を零し、“キョウ”はこの場からの速やかな離脱を促す。
ああいう連中に絡まれたら面倒臭いことになることを、“キョウ”は実体験をもって知り尽くしていた。主に筋肉コンビのせいで。
「<そ、そうだナ!!人なら他にも居るシ!!・・・よしッ!あそこに居る連中にしよウ!!>」
「<もう止めといた方がいいんじゃあ・・・>」
「<う、うるさイ!!私が輝くためにも、これは必要なことダ!!>」
互いに文句を言い合いながら歩いて行った先には4名のアバターが居た。男2人、女2人という組み合わせである。
「<あ、あのゥ・・・!!1つお願いしたいことガ・・・>」
「<うまくいかねぇんだよ・・・。俺ぁどうしたら歩み出せるんだ・・・!?>」
「<はッ?>」
「<くそっ・・・!!俺が臆病者だってのはわかってんだ・・・!!わかってんだけどよぉ!!>」
「<な、何ダ!?この酔っ払いみたいな荒れようハ!?>」
これまた“ヒメ”の予想外の方向に話は展開し始めた。延々続く愚痴を興味本位で聞いていると、
どうやらリアル世界で相思相愛になっている女性と一向に関係が進展しないことにイラついているようだ。
「<そんなに焦らなくても、“オマエ”君ならきっとうまくやれるさ。徐々に、ゆっくり、奥手なくらい慎重にいけば問題無いと思うよ。今の君は臆病者なんかじゃ決して無い>」
「<“ススム”・・・いっつもお前は俺を励ましてくれるな。ありがとよ>」
「<第19学区PR活動に比べたら、これくらいお安い御用さ>(フフッ、正式な付き合いなんかさせてたまるか。フフッ)」
前もってネタバレすると、“オマエ”=
御前肖像、“ススム”=
薦道進矢である。この2人はリアルの世界での面識は無い。
この『シークハンター』の世界では、第19学区というワードで知り合った仲である。ちなみに、御前の進路に薦道は間接的に関わっているのだが、両者共そのことには気付いていない。
無論、現実世界での関わり合いも無い。そんな2人だが、今回は御前の(恋の)進路に薦道が直接的なアドバイスでもって関わっている。
御前の方は薦道が自分のためを思ってアドバイスしてくれていると捉えているが、当の薦道は『リア充爆発しろ』精神爆走中なので実は御前の恋の成就を緩やかに妨害していたりする。
「<最近はウチもバタバタしててさ~、もうさっさと見限ってやろうって感じ?でも、今は皆ピリピリしてて動けないんだよねぇ>」
「<“オヒル”さんも?>」
「<・・・もしかして“アキ”も?>」
「<そうなんですよ。正直私もさっさとあんな厄介な所から逃げたいなぁって思ったりもするんですけど・・・それ以上の魅力があるというか・・・>」
「<こっちはこっちで、何でこんな所で裏切り逃走話をしてるんだ?>」
“キョウ”が呆れた視線を送っている先に居る2人組の女性アバター。ネタバ(ry・・・ゴホン!正体は“オヒル”=
中円真昼、“アキ”=
仰羽智暁である。
『
ブラックウィザード』の一員である2人。しかし、中円は智暁が、智暁は中円がこの『シークハンター』にアクセスしていることを知らない。
つまり、お互いに何とも滑稽な会話劇を繰り広げているとも言えるのだ。
「<あたしは魅力というか恐怖のせいで身動きが取れないわ。落ち着いたら、さっさと新しい寄生場所を見付けないと>」
「<早く始まらないかなぁ。可愛がりのある娘が入って来そう・・・フフッ>」
「(・・・これは近付かない方が良さそうだ。ネット上の会話は完全には信用できないし、引っ掛けっていう可能性も十分にある。
何より・・・“ヒメ”にこんなやり取りを見せるわけにはいかない。こっち方面まで学習されて堪るか!!)」
危うきには近寄らず。色んな意味で。“ヒメ”をスタッフから預かっている身としては尚のこと。
「<行くぜ、“ヒメ”>」
「<うおッ!?“キョウ”!?>」
その後、あっち行ったりこっち行ったりしてアピールという名の営業に回ってみたが、今日集まっているアバターはどいつもこいつも一癖二癖ある連中ばっかりであったため、
成果らしい成果は最初の“イミュ”1人だけであった。やはり、物事というのは最初から全て上手くいくとは限らないのである。
「ふぅ・・・。こんなに長くアクセスしたのは何時以来だろう?」
「だあああぁぁっッ!!上手くいかなかったあァ!!」
そんなこんなで現実世界に戻って来た初瀬は一息吐き、歌姫は芳しく無い成果に苛立ちの声を挙げる。
「まぁ、最初から全部上手くいくわけ無いと思うぜ?徐々にでいいんじゃないか?」
「・・・でも、こういう風に動けるのはキョウジと一緒に居られる時くらいだろうシ」
「あっ・・・」
歌姫が『ハックコード』に居るのは、偶然の産物である。期限が来れば、彼女は元居た出口の無いコンピュータという檻の中に戻らなければならない。
「・・・まぁ、わかってたことだけド」
「姫・・・」
「・・・こうやって、色んなモノに自分から触れるのは何時以来だろウ?最初は、どんなモノでも学習しようとプログラム(わたし)なりに頑張っていたんだよナ。
何時からだろウ?自分から学習する機会が殆ど無くなったのハ?プログラム(わたし)を生み出した本来の目的からすれば本末転倒だよネ?ハハッ・・・」
「・・・・・・姫」
「うン?何だよ、キョウジ?同情でもしてくれるノ?」
「・・・するなって方が無理じゃね?」
「・・・クスッ。そうだネ。キョウジは・・・優しいナ」
『ハックコード』から立体映像として現実世界に姿を現しているバーチャルアイドルは、隣人の優しさに感謝の念を述べる。
作られた存在である自分とは違う、正真正銘の人間。本当なら住む世界の違う住人が自分のために悩んでくれる意味を自分なりに噛み締めながら。
「・・・ありがト。移って来た先に居たのがキョウジで本当に良かったヨ」
「(・・・何とかできないか?姫が・・・姫が元居た場所に戻っても学習できる、成長できる、外と触れ合える環境を作れないか?)」
初瀬は知恵を振り絞って考える。『シークハンター』で共に一喜一憂した少女は、まるで太陽の如く輝いていた。活き活きとしていた。
そんな電脳世界に生きる少女のために、現実世界に生きる自分がしてあげられることが無いか。
「・・・・・・」
「・・・キョウジ。そこまで真剣に考えることなんて無いヨ。元の場所に戻るってだけなン・・・」
「嫌だ!」
「!!!」
電脳歌姫は見た。
初瀬恭治の本気の瞳を。決して諦めない少年の覚悟を。初めて見た。プログラム(じぶん)のために、ここまで本気になってくれる人間を。
「俺なんかの頭じゃ、何も思い付けないかもしれない。それでも、最初から諦めるのだけは嫌だ。最後の最後まで考えて、考えて、考え抜いてやる!!
姫が思う存分動ける環境を・・・お前が幸せになれる環境を・・・俺はお前が『ハックコード』から出て行くまで考え続ける!!」
「キョウジ・・・!!!」
「だから・・・お前も最初から諦めてたら駄目だ。一緒に考えよう。俺だけじゃ無理でも、お前だけじゃ無理でも、2人の力を合わせたら何とかなるかもしれないだろ?違うか?」
「・・・!!!・・・そ、そうだ、ネ。・・・わかったよ、キョウジ!!!私も必死に考えてみル!!だから・・・力を貸してくれル?」
「もちろん!!」
「ありがとウ・・・!!!」
この瞬間、2人は本当の隣人(パートナー)となった。一過性では無い、アイドルとファンでも無い、本当に対等な関係となった。そこに・・・現実世界も電脳世界も関係無かった。
「ったく。利壱・・・紫郎・・・一体何を勘違いしてやがんだって話だ。しばらく俺の部屋に来ないってよ・・・ったく・・・(ブツブツ)」
初瀬と同じく成瀬台学生寮に住む荒我は、舎弟達の余計な気の回しようにブツブツ文句を垂れていた。
「俺と緋花はそんな関係じゃ無ぇって何回言っても聞きやがらねぇし・・・。こうなったら、俺の方からどっちかの部屋に殴り込みを掛けてやろうか・・・(ブツブツ)」
何やら物騒なことを吐きながら、荒我は昨日からずっと部屋の掃除をしていた。言ってることとやってることが違うとは、正にこういうことを言うのである。
『・・・今度さ、拳の部屋に行ってもいい?』
そして、こういう時に限って気になる相手の顔や言葉を思い浮かべたりするのである。
「ッッ!!こ、これは別に唯の気紛れで緋花が来るかもとかそんなのとは関係無ぇっつーか・・・!!うん?何で俺って独り言なのに言い訳してんだ?・・・くそっ・・・」
丁度掃除も一段落付き、ベッドの上に寝転がりながらずっと独り言を呟いている荒我。そんな時に・・・
ピンポーン!
「・・・はは~ん。さては、やっぱり我慢できなくて俺の部屋を訪ねて来たか。そりゃそうだよな。昨日のゲーム、ボス戦前でセーブしてっからな。我慢できねぇよな」
チャイムが鳴った。これを、荒我は梯と武佐が訪ねて来たと考えた。ベッドから身を起こし、急いで玄関へと赴く。そして・・・
「ったく。利壱に紫郎よぉ。余計な意地を張らずに来たことは褒めて・・・」
「・・・や、やぁ。ひ、緋花だよ?」
「緋花・・・!!!」
ドアを開けた先に居たのは
焔火緋花その人。
荒我拳・・・貴様の漢(おとこ)が試される刻(とき)は来た!!!
continue!!
最終更新:2012年12月03日 23:16