「・・・・・・」
「・・・・・・」

無言。静寂。今の状況を表すとすれば、それ等の言葉が相応しい。荒我が緋花を部屋へ入れた直後から、2人共にずっと言葉を発しない状況が続いていた。

「(な、何だってんだ!!この何とも言えない緊張感はよ!!?確かに、昨日俺の部屋に来てもいいって言ったけどよ!!昨日の今日とは、こっちも全然予想してねぇっつーの!!)」
「(お、お姉ちゃんに手本を示すためにって思ったけど、いざ来てみたらすごく緊張するー!!!何話せばいいのかわかんなくなっちゃってるよー!!!)」

ちゃぶ台を真ん中に向かい合ってかれこれ15分。ずっと俯いたり視線を逸らしたり意味不明な呻き声を挙げたりしてる2人。
場の空気が痛い。気まずいなんてモンじゃ無い。閉塞感バリバリである。

「・・・・・・い、今まで仕事だったのかよ?」
「えっ!?う、うん!!」

なので、とりあえずこの状況を脱するために荒我は風紀活動から話を始めて行く。

「そ、そりゃ大変だな。昨日も思ったけどよ」
「そ、そうなんだよねぇ。アハハ」
「そ、そうか。ハハハ」
「アハハ・・・・・・」
「・・・・・・(ぜ、全然続かねぇ!!!もう少し話を広げろよ、緋花!!!)」

しかし、その話題もすぐに尻切れトンボになってしまう。

「・・・・・・そ、そういえばさっき梯君や武佐君が来たって勘違いしてたみたいだけど、どうして?」
「うんっ!?あ、あぁ・・・ゲームの続きをしに来たと思っただけだぜ」

なので、とりあえずこの状況を脱するために焔火は舎弟話から話を始めて行く。

「あ、あぁ。昨日電話越しで武佐君が言ってたゾンビゲームか」
「そ、そうなんだよ。ハハハ」
「そ、そう。アハハ」
「ハハハ・・・・・・」
「・・・・・・(ぜ、全然続かない!!もう少し話を広げてよ、拳!!!)」

しかし、その話題もすぐに尻切れトンボになってしまう。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

再び訪れる沈黙。気まずい。気まず過ぎる。

「・・・・・・あのよ!!」
「・・・・・・ね、ねぇ!!」
「「!!!」」
「・・・・・・な、何だよ?」
「・・・・・・け、拳の方こそ何よ?」
「お、お前から先に言えよ」
「拳の方から言ってよ」
「い、いや。お前から・・・」
「拳から・・・」
「お前・・・」
「拳・・・」
「「・・・・・・」」

客観的に言わせて貰おう。じれったい!!じれった過ぎる!!!初々しいってレベルじゃねーぞ!!!

「・・・ククッ」
「・・・プッ!」
「ククッ・・・ククッ・・・」
「・・・フフフ」
「ククッ・・・な、何笑ってんだよ!?」
「フフフ・・・拳だって、何で笑ってるのよ!?」
「いや・・・このおかしな空気っつーか状況に耐え切れなくてよ。『何でこんな空気になってんだ?』って冷静に考えてみた途端におかしくなっちまった」
「フフフ・・・私も。うわっ?手が汗でビッチョビチョ!・・・どれだけ緊張してるのよ、私」

どうやら、当人達もこのじれったい空気に耐え切れなくなったようである。

「とりあえず、何か冷たいモンでも持って来るわ。麦茶でいいよな?」
「う、うん」

変な空気のせいか喉が異様に乾いていた荒我は、麦茶と2人分のコップを取りに水場へ向かって行った。
その間に、焔火は深呼吸を繰り返す。今日ここに来た目的。それを見事果たすためにも、今は落ち着かなければならなかった。






「拳の部屋って整理整頓されてるね。何だか意外・・・」
「・・・・・・かもな」
「そうだ。今日リーダーのお見舞いに行ったんだ」
「へぇ。リーダーの調子はどうだった?」
「元気だったよ。お見舞いに持って行ったケーキに目を輝かせてた」
「そうか。そりゃ良かった」
「・・・宿題とかやってる?」
「・・・・・・少なくとも半分以上は残ってんな。緋花は?」
「・・・・・・殆どやってない」
「・・・忙しいモンな」
「・・・うん」

荒我と焔火はベッドの支え部分に背を預け、麦茶を飲みながら雑談していた。今の話題は、最近の出来事についてである。

「・・・拳と初めて会ってから、まだ2ヶ月ちょいくらいだよねぇ」
「・・・そうだな。紀長の屋台で偶然バッタリ会ってからだモンな」
「何だか結構昔のように感じられて、少し笑っちゃう。あれから・・・色んなことがあり過ぎたからかなぁ・・・」
「緋花・・・」

隣に居る少女が遠い目をしていることに少年は気付く。何を見ているのかは少年にはわからない。きっと、それは少女にしかわからないこと。
そう思い、荒我は焔火の方に顔を向けないままずっと正面を見ていた・・・その時。



コテン!



「!!!」
「・・・・・・」

自分の肩に感じた重み。それは、焔火の顔が荒我の肩に乗ったことを意味していた。しばしの沈黙の後、少女はポツリポツリ言葉を漏らし始める。

「・・・でも。昔のように感じていても・・・それは絶対に色褪せることは無い。貴方と出会えた偶然に、私は心の底から感謝してる」
「・・・!!」
「・・・貴方が居てくれるから、私は頑張れる。もちろん、リーダーやゆかりっち・・・お姉ちゃんや176支部の皆・・・それ以外の人達の力も大きいよ?
それでも・・・今の私が立ち上がれる一番大きな力は・・・貴方なの・・・拳」

硬直してしまっている荒我には、焔火がどんな顔をしながら話しているかは窺い知れない。
唯、ボヤっと予測くらいはできた。きっと・・・彼女の顔はとても赤くなっているんだろうな・・・と。

「・・・・・・拳。こっち見て!」
「!!?」

焔火の手が荒我に伸びる。その手で無理矢理顔を少女の方に向かされる。そこには・・・予測通り顔を真紅に染めた1人の恋する乙女の姿があった。

「・・・私は・・・私は・・・まだ貴方のように強い人間じゃ無い。馬鹿で独り善がりで情けなくて・・・自分でも何でこんなにガキっぽいんだろうって思うくらいの人間なの。
でもね・・・それでも貴方はいいって言ってくれた。私の長所も欠点も何もかも見てくれた上で!!・・・すごく嬉しかった!!」
「・・・!!!」
「私は・・・貴方に成長した私を見て欲しい!!今までのガキっぽい私じゃ無くて、一人前の1人の女として貴方に見て欲しいの!!
今回の件で、私は必ず結果を出してみせる!!今まで必死に頑張って来たことを、全てぶつける!!」

互いの吐息が掛かる程に接近している2人。正に、2人だけの空間が成立している状態だ。

「・・・緋花。お前が今日ここに来たのは・・・」
「・・・・・・気付いてるんでしょ?ここまで言ったんだから」
「・・・ゴクリ!」
「・・・この際、はっきり言っちゃうか!ス~ハ~・・・」

気付いてる。ここまで思いの丈をぶつけられては。そして、自分の心にある恋心にも。そこに、最後の駄目押しが放たれる。







「私は・・・・・・・・・貴方が好きなの。荒我拳が・・・大好きなの!!」
「・・・!!!!!」






告白。焔火緋花が荒我拳に自身の恋心を打ち明けた瞬間である。瞬間なのだが、告白された側の少年はその瞬間に受けた衝撃の大きさで思考硬直を起こしてしまった。
純情そのものの荒我は、今まで女性に告白したことは無かった。その逆もである。故に、いざその現場に立つと何を話せばいいのかわからなくなってしまうのだ。
さっきから彼の口数が少ないのも、それが理由である。漢としては情けないにも程があるが。

「・・・・・・」
「・・・お~い」
「・・・・・・」
「気を失ってる・・・とかじゃ無いみたいだけど・・・完璧に思考硬直を起こしちゃってる。むむむ・・・」

だが、そんな事情は告白した少女にとっては与り知らぬ事柄である。
折角、一大決心して恋する少年に告白に踏み切った少女。なのに、その後の反応が全く無いのでは拍子抜けの感がどうしても露になる。

「・・・・・・」
「・・・このままだと、私が告白するために振り絞った勇気とか何とかが・・・。まさか、拳がここまでウブだったとは・・・!!わ、私も人のこと言えないけど・・・。
それにしたってねぇ・・・う~ん・・・どうしたら・・・・・・・・・!!!!!」

事ここに至って、少女はある行動を頭に思い浮かべる。それは、今日の時点ではするつもりが無かったこと。
少女自身、今日は告白することしか頭に無かったのでその先の行動にまで考えが及んでいなかった。

「・・・・・・」
「・・・・・・こ、ここ、こうなったら・・・・・・け、拳を目覚めさせるためにも・・・・・・や、やや、やるしかないか!!!
こ、告白したんだし!!や、やや、やってもいいよね!!?(拳の)答えは聞いてないけども!!!」

真紅に更なる真紅を重ねたような顔でブツブツ独り言を零す焔火。少女は決意する。未だに放心状態の少年を現実に引き戻すためのトリガーを引くために。すなわち・・・






ムニュ






「!!!!!」
「・・・!!!!!」

口付け。互いにとってのファーストキス。少女から行った接吻により、少年は現実世界へと帰還して来た。

「・・・ひ、ひひ、緋花・・・!!!お、お前・・・!!!」
「・・・・・・わ、私だって今日するつもりは無かったんだからね!!?け、拳が余りにも反応無いって言うか男としてどうよ?的な状態だったから仕方無く・・・!!」
「し、仕方無くでキスしたのかよ!!?」
「ち、違うわよ!!?そういう意味で言ったんじゃ無いわよ!!?」
「じゃあどういう意味なんだよ!!?」
「ど、どういう意味って・・・・・・そ、そんなこと・・・拳と・・・拳とキスしたいからしたに決まってるじゃない!!!」
「!!!!!」

絶句。重ねて言うが、荒我は恋愛に関しては純情を地で行く男である。つまり、真正面からの猪突猛進ラブアタックにはたじたじになってしまうのだ。

「も、もぅ。こんなこと、改めて言わせないでよ!!」
「・・・す、済まねぇ・・・」

真っ赤な顔をしている焔火のジト目に、荒我は唯謝ることしかできない。情けない。1人の男として自分を情けなく思ってしまう。
しかし、ここまで少女にさせてしまったからにはハッキリ答えを示す必要がある。それが誠心誠意というモノだ。

「・・・・・・お、俺は・・・」
「・・・待って!」
「緋花・・・?」

告白された身として返事をしないわけにはいかない。そう考えて混乱しながらも荒我は言葉を出そうとするが、それを焔火が遮る。

「・・・貴方の返事は・・・私が関わっているあの件が終わってから聞きたい」
「ど、どういう意味・・・?」
「さっきも言ったよ?『貴方に成長した私を見て欲しい』って。私は・・・私が成長した姿を見た貴方の言葉が欲しいの」

それは、1人の女としての願い。好きな男に最高の自分を見て欲しいという欲求。焔火緋花の“我”。

「必ず私は成長してみせる。結果を出してみせる。その後に・・・私は貴方に返事を貰いに行く。だから・・・もう少しだけ待ってて!!」
「・・・・・・そういうのってやり逃げって言うんじゃ・・・。紫郎が時々漏らしてた言葉だけど」
「ブッ!!ヤリ逃げって・・・!!な、何卑猥なこと言ってんのよ!!?」
「ブブッ!!や、やり逃げの何処が卑猥だ!!?」
「お、女の私に説明させる気!!?な、何だか失望しちゃう・・・!!拳ってそんな男の子だったんだ・・・!!」
「ふざけんな!!!お前・・・一体何を勘違いして・・・・・・ハッ!!そういうことか・・・!!緋花・・・お前・・・」
「な、何よ!?その哀れむような目は!!?」
「ガキみたいって言葉は訂正するぜ。お前も大人の階段を駆け上がってるんだなぁ・・・」
「なっ!!?・・・ハッ!!あ、貴方~~~!!!」

互いに顔をゆでだこ状態にしながら文句を言い合っている2人。何やら根っこのトコで変な勘違いが発生していた模様である。言葉とは難しいモノだ。

「まぁ、いいや。・・・わかったぜ、緋花。お前がそう言うんだったら、俺はお前を待つぜ」
「さ、最初からそう言えばいいのよ!!」
「(正直、今の俺の状態じゃあ何を言うかわかったモンじゃ無いからな。冷却期間を貰えるってのは、スゲー有り難い。緋花の本気の想い・・・絶対に無下にはできねぇ!!!)」

本音を言えば、返事はもう決まりきっている。だが、その言葉が少女の想いに応えるために相応しいモノかどうかがすぐには判断できなかった。
だから、束の間の冷却期間の内に整理しなければならない。自分が抱く少女への想いを。

「・・・それじゃあ、私はお暇するね。少しは夏休みの宿題もしないといけないし」
「・・・あぁ」

そう言って、焔火は玄関へと歩いて行く。荒我も見送りのために付いて行く。

「気ィ付けて帰れよ」
「うん。拳・・・」
「何だ?」
「大好きだよ!」
「ッッ!!?」
「フフッ。それじゃあ!」

少女は満面の笑顔を浮かべながら荒我宅を後にする。その後姿を目に焼き付けた少年は、リーゼントを掻き毟りながら―そして少しだけ笑みを浮かべながら―ドアを閉めたのだった。






「“アレ”は明日までに調整が終わる予定です。その後は手筈通りに。・・・戸隠には固地の尾行を取り止めるように伝えました。やはり、何かを仕掛けている可能性があるので」

ここは、数ある『ジャッカル』の一店舗。そこに、『ブラックウィザード』の“辣腕士” 網枷双真は居た。

「・・・それは西島が?・・・わかりました。その件については伊利乃に調べさせます。彼女はその手のことに関しては敏感ですし。・・・はい」

網枷は、『ジャッカル』内に備え付けられている専用の回線を使って通話をしている。相手は・・・“孤皇” 東雲真慈

「・・・網枷」
「はい」
「今回の“決行”のアレンジなんだがな・・・以前には無かった不確定要素が入っていないか?私情が混じっているとも取れるんだが」
「・・・・・・」
「お前は176支部の風紀委員を利用するつもりだが、もし奴等から情報が漏れることがあれば・・・俺達『ブラックウィザード』に害が及ぶんじゃないか?
お前の辣腕ぶりを否定するわけじゃ無いし、他の幹部達も今の所はお前の判断にケチを付けるつもりは無いだろう。だが、万が一ということもある」
「・・・・・・」

東雲は、自分にとって有害な存在は誰であろうと切り捨てる(時と場合によってはこの限りでは無いが)。そこに、一切の躊躇も無い。

「今日のお前の調査で、風紀委員の一部・・・というか結構な数が内通者の存在に気付いていることが“確認”された。おそらく、お前がそうだと気付いている者も数名居るだろう。
阿晴と共同で焔火達を罠に掛けることに成功したのと引き換えに、加賀美雅にも正体が割れた。・・・網枷。お前は俺に害を及ぼすのか?お前は俺に殺されたいのか?」

声に殺意が混じる。網枷の返答如何では、東雲はすぐにでも網枷を切り捨てることを選択するだろう。だが・・・

「あなたの理想が叶うならば、私は喜んで捨て駒にもなろう。あなたの思想が果たされるのならば、私は望んでこの命を捨てよう。これ等が私の思いです・・・東雲さん」

“辣腕士”は揺るがない。自身が抱く信条を、自分を変えた存在へと伝える。

「ククッ。俺の思想・・・か。“『力』こそ全て”。つまり、お前が抱く風紀委員(げんそう)を『力』でもってねじ伏せることが、俺の思想と合致していると言いたいのか?」
「・・・・・・」
「何故、お前があの時鏡子を薬物中毒に陥れたのか?それは、当時のお前が己の胸に在った風紀委員の在り方を幻想にしたかったからだ。
裏切り者(じぶん)の所業に気付かない風紀委員など、信じるに値しないまやかしだという挑発と慟哭を込めて。そんなお前が何故未だに鏡子を“手駒達”にしないのか?
それは、お前の思惑通りに鏡子が風紀委員という幻想から解き放たれた以上“仲間”へ薬物中毒以上の非人道的な扱い・・・例えば完全な人格破壊を齎せたくは無かったからだ。
鏡子を中毒に陥れた網枷(おとこ)の物言わぬ言い訳としてはこんな所か。網枷。お前は、お前が思っている程冷酷でも無慈悲でも無い人間だ。お前は心の何処かで裁かれたいと思っている。
加賀美雅を“わざと”焚き付けたのも、お前の私情が為したモノじゃないのか?あの女は、お前が風紀委員を裏切る『理由』じゃ無かったからな。
『理由』の吐露なら不自然じゃ無いが、そうで無い以上“わざと”らしさが俺には見て取れるぞ?それとも・・・余りに鈍い幻想に怒りを抑えられなかったか?ククッ。
それに・・・頭が切れるお前なら、俺達『ブラックウィザード』が万が一にも殲滅された後のことを考えていないわけが無いからな。俺に心酔しているとしても。
いや・・・俺に心酔しているからこそお前は『力(おれ)』を試している。ある意味お前は俺をも裏切り、利用しているわけだ。無論、俺を害しない程度の“線引き”は引いているが」

東雲の声に喜悦の色が見える。人の心を読むのに長ける彼は、網枷の内心に巣食う矛盾―悪意の中に潜む正義を信じる欠片―に気付いていた。

「お前は、心の何処かで幻想に期待しているんじゃないか?まやかしだと思っている存在が、俺達『ブラックウィザード』に打ち勝つ程の何かを見せ付けたのならば・・・と。
だから、お前は俺の『力』になった。連中に立ちはだかる“壁”として。もちろん、それが占める割合は1%にも満たないだろうが。
今回のアレンジも、その思いから派生したモノが無いとは言えないな。まぁ、非情にも非情なアレンジだが。・・・やはり、お前も人間だな」
「・・・・・・だとしたら?私を今ここで殺しますか?命令さえあれば、何時でも私は・・・」
「何故、俺がお前の言うことを全て聞かなければならないんだ?お前は俺の『力』だ。生殺与奪権は、全て俺の手中にある。
お前は、己の『力』をこの世界に証明したいんだろう?何が目的であれ、どんな形であれ。俺もそうだ。俺の目的で、俺はこの世界に負けない程の『力』を俺なりの形で示したい。
お前の期待通りに行くと思うなよ?俺は俺を害する者を全て排除する。網枷。お前もお前の『力』を証明するためにも幻想に容赦するつもりは無いんだろう?
これでも、俺はお前の覚悟は理解しているつもりだ。だからこそ言おう!思う通りにやれ!全力で幻想をねじ伏せろ!その先に、お前が望む答えの1つがある筈だ!!」

東雲は、己が『力』を本気で証明したい人間には寛容である。戸隠の時と同様に。自分に害が及ぶ時は切り捨てるが、そうで無いのならばその者の『力』を尊重する。
その上で、東雲真慈の『力』として取り込む。取り込まれた時点で、それは“孤皇”の『力』となる。すなわち、『ブラックウィザード』=東雲真慈とも言えるのだ。

「答え・・・。フッ、その種類がどのようなモノなのかはその時にならないとわかりません・・・か。
果たして期待通りなのか・・・それとも期待ハズレなのか・・・。どちらにしろ、今回の件でようやく私も心の整理ができそうです」
「そうだな。それを見極めたければ、精々俺を害しないように気を付けるんだな。“自浄作用”にまで俺は寛容になるつもりは無いぞ、『黒き力』の一員?」


『風紀委員?警備員?そんなモノに頼るな。依存するな。この世で唯一頼れるのは「力」のみ。俺は「黒き力」・・・「ブラックウィザード」の頂点に居る男だ』
『あの方こそが、この腐った世界を変えてくれる唯一の存在だ。俺は・・・私は、あの方に・・・あの人の隣に在りたい!!』
『ンフッ。網枷君って、見た目によらずちょっと中二的発言が多いわよねぇ。そういうお年頃なのかしら?』


「えぇ。わかっています。・・・やはりあなたはいい。あの時、あなたと出会えた偶然を・・・これ程嬉しく思ったことは無い。私の一番はあなたですよ。今も・・・これからも」
「褒めても何も出ないがな」
「もし、先程指摘があったアレンジや私の正体の件で東雲さんにまで害が及ぶのなら、その時は私を切り捨てて下さい。
もっとも、正体の件について不都合が発生した時は自分で始末を着けるつもりですが」
「いいだろう。その時が来たら、俺の手で殺してやろう・・・親友」


その後幾つかのやり取りをした後に網枷は東雲との通話を切り、『ジャッカル』を後にする。少年少女が描く物語は、いよいよ激動を迎える直前に差し掛かっていた。

continue!!

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最終更新:2012年12月24日 19:53