「うおおおおおぉぉぉぉっっっ!!!」
「ハアアアアアァァァァッッッ!!!」

南部侵攻部隊の確保対象・・・すなわち新“手駒達”が薬で無理矢理強化された能力を警備員へ向けて振るう。
レベル4相当の『電撃使い』によって発生させたジャミング電波で駆動鎧のセンサーを混乱させ、同じくレベル4クラスの『念動使い』で複数に渡る超重量の駆動鎧を振り回す。

「ちぃっ!!」
「くそっ!!」

駆動鎧を操る警備員は強大な出力に物を言わせて念動力を打ち破ろうとするが、複数の念動力が貼り付いているために中々打ち破れない。

「今!!」

その隙を狙い電波による指示の下敵の殲滅に動き続ける新“手駒達”の高圧電流が、駆動鎧が持つショットガンの銃口内へ侵入させる。



バーン!!!ドーン!!!



「「ぐあっ!!?」

新“手駒達”への実弾使用は固く禁じられていたために致命的な実弾への誘爆こそ逃れられたが、結果としてショットガンは破壊されてしまった。
未だ念動力によって空中へ浮かばされたままの駆動鎧へ更なる追い討ちを掛けるために新“手駒達”が動こうとする。



ドン!!!



「「「!!!」」」

しかし、後方から援護に来た1機の駆動鎧が放った空砲を眼前5m付近へ叩き込まれたためにあえなく中断する。

「邪魔を・・・!!」
「あいつから!!」

暗示薬の影響も手伝って、行動を妨害されたことにいたく憤激する新“手駒達”は単独で突っ込んで来た駆動鎧へ敵意を向ける。
念動力によって各“手駒達”をこちらへ突っ込んで来る駆動鎧を包囲するように移動させながら、宙へ浮かぶ駆動鎧と同様に念動力を貼り付ける。

「!!!」

当然の結果として、念動力を貼り付けられた駆動鎧は空中へ磔状態となる。操縦者も必死に機体を動かそうとしているが動きは鈍い。

「潰す!!」

先程ショットガンを破壊した新“手駒達”が再び高圧電流を放とうとする。追撃として包囲する他の新“手駒達”も各々の能力を駆動鎧へ差し向けようとする。
窮地。絶体絶命。そんな言葉が当て嵌まる状況下で・・・駆動鎧を駆る警備員は“衝撃”に供えて歯を食いしばる。
それは、自分達へ攻撃を仕掛けようとしている新“手駒達”に対してでは無い。そう・・・それは『予め』仕掛けられている“衝撃”に対する準備行動。






ブオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!






「「「「「!!!??」」」」」

突如として磔状態の駆動鎧の全身から噴出された大気の塊が、今まさに攻撃を仕掛けようとしていた新“手駒達”へ襲い掛かった。
『発火能力』によって発生させたていた火炎は吹き散らされ、『風力使い』で生み出した真空刃は粉砕される。
その他の能力者達も己が能力を保てなくなる程の風圧を喰らい、一様に吹き飛ばされた。その直後、何機もの駆動鎧を縛っていた念動力やジャミング電波が消え去る。

「その力は・・・176支部の斑が操る『空力使い』か!!?」
「そうだ!!彼に協力して貰って、駆動鎧の全身に噴射点を仕掛けたんだ!!いざって時の脱出用として!!」
「何という無茶・・・いや。駆動鎧の耐久力を見込んでの策・・・か」

電波通信が回復した駆動鎧の通信網の中で、警戒を緩めずも今の光景に対する分析を行うため警備員達は会話を実行する。
単騎で突入した警備員の告白通り、先の噴出は176支部所属の斑狐月の『空力使い』によるモノであった。
新“手駒達”確保という命題の中で3人には機械頼りの警備員にはできない、能力者だからこそ可能な実行策を起こして貰っている。

「俺以外にも噴射点を仕掛けた西部侵攻部隊の応援がもうすぐ来る!彼等も一緒にな!!もうモニターに映っているだろ!?」
「あぁ!!しかし、さっきの噴出ってやっぱ・・・」
「辛いぜ!!幾ら駆動鎧を着込んでいても、あれだけの噴出は歯ァ食いしばんねぇと耐えれねぇわ!!」
「おぉ~恐っ!!そんじゃ、お気の毒な応援に進んで自爆技を使わせないように気張るぞ!!」
「「おおおぉぉっ!!!」」

緊急用とは言え物騒な策を授けられている西部侵攻部隊を気の毒に思いながら、南部侵攻部隊の隊員達は未だダメージから回復していない新“手駒達”へ暴徒鎮圧用のスモーク缶を投擲・直後に捕獲網を発射する。
苦戦を強いられながらも新“手駒達”の捕獲は順調に進んでいる。ここ南西部に居る新“手駒達”で全部・・・とはいかないだろうが、
それでも目の前の少年処女達の確保に全神経を集中する。目の前のことができずに全体を見量ることはできないのだから。






「姫空は左方を!!鏡星は右方を頼む!!私は前方を担当する」
「了解!!」
「言われなくてもわかってるって!!」

応援部隊足る西部侵攻部隊の一部隊の先頭を引っ張る駆動鎧3体の肩に乗っているのは、176支部所属の風紀委員である斑・鏡星・姫空の3名。
無論そのままでは駆動鎧の進行によって発生する風圧で落ちてしまうために、駆動鎧の手で子供達を保護している。

「狙いは・・・外さない!!」
「空砲より私の砂の方が何倍もマシでしょーよ!!」

警備員から支給されたゴーグルを装着した姫空の『光子照射』が、持てる最大容量の砂を操作する鏡星の『砂塵操作』が“手駒達”・新“手駒達”の能力と衝突する。
『念動使い』を持つ新“手駒達”が射出した鉄筋やコンクリートをレーザーによる一閃で薙ぎ払い、“手駒達”の『光学操作』によって幻惑された景色を感知能力も有する砂によって看破する。

「行きます!!!」
「わかった!!構え!!!」

斑の合図を受け、応援部隊を指揮する警備員が空砲の発射準備を部隊全員へ指示する。強大な威力を発揮するショットガン・・・その銃口の筒内に斑が仕掛けた幾つもの噴射点はあった。

「放て!!!!!」






ドパアアアアアアァァァァァァンンンンンン!!!!!






引き金が引かれ、通常より少な目の炸薬によって発生した衝撃波が放たれる。その通り道である筒内の幾箇所に存在する噴射点に斑は演算処理の大半を費やす。
『空力使い』とは空気の流れを操る気流操作系能力である。斑の場合触れた物体に噴射点を設けた後、仕掛けた噴射点を基準に気流の流れを操作する。
すなわち、それは『噴射点付近を通っている気流の流れも間接的に操作することができる』ということ。
レベル4(但しギリギリ)である斑は警備員達との協議の中で駆動鎧が所持するショットガンに備わる空砲に目を付け、ある提案を行った。
『空砲を放つ際に自分の「空力使い」による間接的操作を行うことで、従来以上の範囲攻撃に繋げることはできないか』という提案を。
その実効性を、今ここで証明する。しなければならない。理由があったとは言え“閃光の英雄”相手に不覚を取った自分達にこれ以上の失態は許されない。
そんな想い―鏡星・姫空も持っている―を胸に噴射点付近を通過して行く空砲の流れを操作する斑。今回のような空砲クラスの気流を操作することは初めてだが、
だからと言って失敗するつもりは毛頭無い。必ず成功させる。自分達ならきっと新“手駒達”を救出できると言ってくれたリーダーの信頼、
そして“英雄”と共に殺人鬼と交戦している“剣神”の言葉を確と胸に刻み・・・見事実現させた。
従来以上の範囲攻撃によって進行を妨害していた“手駒達”がひっくり返っているのが証拠である。

「お前達は確保に動け!!俺達はこのまま突き進む!!」
「了解!!」

応援部隊を指揮する警備員が仲間に指示を出す。応援部隊としての責務と、最優先目標である(新)“手駒達”の確保に適切・迅速な戦力分散を図って行く。
それ等大人達の動きを瞳に映しながら、鏡星は己が提案を見事実現させた仲間に労わりの声を掛ける。

「やったじゃない、斑」
「フッ。私としては当然のことをしたまでだ。これ以上の失態は絶対に犯せないしな」
「まぁね」
「それに、これは私1人だけの力で為し得たことでは無い。先行した警備員に設置した噴射点の解放に関わるタイミングとて、お前の『砂塵操作』なくして成功は無かった」
「・・・斑に褒められるのって何だか気色悪い」
「なっ!?失礼な!!」

珍しく殊勝な言葉を連ねる斑に鏡星は別の意味で背筋を震わせる。鏡星の『砂塵操作』は操れる量こそ自身の体積程ではあるものの、操作範囲という面では相当に優れている。
先行した駆動鎧に仕掛けていたのは、何も『空力使い』の噴射点だけでは無い。重量級の駆動鎧の動きを封じる有効な対策として使用されるであろう念動力『に』対する対策として、
鏡星の『砂塵操作』で支配下に置いた砂を駆動鎧へ数粒付着させていたのだ。当然同じ念動力を持つ能力者なら、数粒とは言え鏡星の支配下に置かれた砂を看破していただろう。
だが、これが思考を単一化された新“手駒達”の場合になると話は変わる。電波+暗示薬によって余計な思考を封じられた新“手駒達”は、細部に関わる感覚がまず疎くなる。
“手駒達”のように自我を破壊されていない、むしろ自我を抑え付けるために電波や暗示薬を用いている弊害が鏡星の操る砂への感知を鈍らせた。
但し、鏡星としては別にバレても特段問題は無かったが。自分の役割はジャミング等で位置情報を乱された場合の位置情報の的確な察知及び念動力の感知であったのだから。

「別に本当のことを言っただけじゃ・・・そういえば。ねぇ、斑?」
「ん?」
「アンタ・・・最近自分のことを『エリート』って言わなくなったわね?どうしたの?」
「・・・・・・」

ふと、鏡星は気付いた。最近―正確には数日前の“特別授業”―まで自分のことをずっと『エリート』と呼称して来た斑が全く『エリート』という言葉を使わなくなったことに。
一方、斑は十数秒の沈黙を貫いた後に・・・正直な思いを吐露する。

「・・・私は『エリート』などでは無い。それを今回の件を通じて痛感しただけだ」

鏡星の眼前に居たのは、何時もの自尊心が高い面倒な同僚では無かった。立ち塞がった“壁”を前に苦悩している―自分と同じ―年相応の・・・1人の少年の姿だった。

「・・・・・・そっ」

だから・・・返事だけをした。返答次第ではからかってやろうかとも思っていたが、とてもじゃ無いがそんなことはできない。
自分とて同じだ。今回の件は自分を見詰め直す大きな契機となった。だから・・・自分と同じく自身を見詰め直している最中であろう同僚を茶化すような真似はしない。

「(・・・・・・あれが『光学装飾』の本当の力。・・・・・・あれが、“閃光の英雄”界刺得世の実力)」

他方、先輩の会話に参入しない無口な後輩は気絶させられる前に見た星空・・・そして自身のレーザーを捻じ曲げた現象を生み出した“英雄”に思いを馳せる。

「(・・・このままじゃ駄目。・・・能力の制御が利かないことにあぐらをかいていちゃ駄目。・・・自分の弱点を悦に入る道具にしていちゃ駄目)」

『光子照射』は細かな制御が利かない高出力レーザーを放つ光学系能力である。そして、これ以外の光学操作はできない。・・・“現時点”では。
姫空としては、特段進んで自身の弱点を改善する気は無かった。逆に、制御が利かないことを悦に入る―中二病―の道具にしていた。
だから・・・負けた。“閃光の英雄”に敗れた。現状の自分には不可能な多種多様な光学操作を見せ付けられ、
自分の唯一の取り得であるレーザーの制御さえ為す術無く乗っ取られた挙句に『レーザーの屈折』という常識外れの芸当を己が瞳に刻み付けられた。

「(あの殺し屋から・・・あの殺人鬼のような人間から一般の人達を守るには・・・今のままじゃ駄目!!)」

加えて、自分が負けたのは“閃光の英雄”だけでは無い。あの“怪物”にも自分は数日前に敗れ去っているのだ。
両者共に、もし本気で殺すつもりであったのなら今自分はここに居ない。何故そんな可能性が浮かび上がるのか?答えは・・・とっくの昔に出ていた。

「(私は・・・克服する!!自分の弱点を!!そして身に付ける!!新たな力を!!)」

姫空香染は決意する。『光子照射』の改善・強化に。その方法は現状では見出せていないが、それでも決意だけは今からする。この戦場を生き残るためにも。






その頃【閃苛絢爛の鏡界】内では・・・






ドドドドドンンン!!!
ヒュン!!ヒュン!!



空中を高速で飛び回るウェインが、纏っている糸の鎧から白の砲弾が連続射出する。狙いは、殺害対象である界刺と神谷の2人。
その片方の界刺は、ドップラー・ライダーとサーモグラフィーを併用した高次元の予知能力を発揮して回避する。無論、超能力に該当される予知では無い。
動く界刺から見たウェインや糸の移動速度を継続的に分析し間合いを計り、物質の表面構造をもサーチすることで糸の増量・巨大化等のタイミングを見極めて自身の行動に繋げる。
身体能力はウェインや神谷に劣る界刺がこうして生き残っているのは、ひとえにこの予知に近い分析能力のおかげである。
また、もう片方の神谷はウェインに迫る戦闘能力をもって飛来する砲弾をかわして行き、どうしても防げない場合は3000度にも昇る『閃光真剣』を“マット”状にして逸らす。



ヒュン!!ヒュン!!
ビュン!!ビュン!!



ウェインの攻撃の合間を縫って、界刺が5条を1条に集約した【雪華紋様】を2条放つが、いずれもかわされる。
界刺の攻撃する瞬間を敏感に感じ取れるウェインは、こちらも高次元で統御している糸の念動力で空中を高速且つ縦横無尽に動き回ることができる。
空中に設置している緊急回避用の糸―正確には、空中の色んな場所に設置している糸球とそこから伸ばす糸―も用いることで、選択肢の多い+咄嗟の回避行動に繋げている。
光線の最大の利点は、その速度である。“瞬間的”こそが光速の最大の利点であり、そのタイミングを逸するのは致命的である。
避けられた直後に光線を上下左右に動かしたとしても、その動く速度はもう光速では無くなっている。
『屈折』的光線はそういった弱点を克服する手段でもあるのだが、界刺の場合は事前の予測が必須である。故にドップラー・ライダーを用いている側面もあるのだが、
厄介なことにウェインが回避に動くタイミングが攻撃の『直前も直前』なのだ。既に『屈折』の回数・軌道等が決まっている状態からの変更は不可能に近い。
できて、僅かな軌道(角度含む)の修正や威力の減衰くらいか。破輩達へ放った『屈折』的光線の軌道を『直前』に変更や減衰ができたのもこの修正が間に合ったからである。
しかし、ウェインの場合は『直前も直前』というタイミングで急激に行動を起こせるので変更が利かない。
『本気』と謳う念動力の凄まじさ故の挙動も大きく影響しているだろう。それでも、幾つかの光線は命中させているのは予測の精度の高さ所以か。



ギュルッ!!!



回避行動そのままに地面へ急降下したウェインは、両手から合計10本の爪と腰から垂らしている尻尾の先端を地下へ打ち込む。
異なる地響きが界刺と神谷の体にも伝わって来る。【月譁紋様】にて打ち込んだ糸でできた穴へサーチ用の光を放ち地下で何が行われているのかをすぐに察知した界刺は、
近くに居る神谷に警告を発しつつ回避行動に移った瞬間に予測通りの現実が現れる。



ドドドドドッッ!!!



地割れ・・・と表現してもいいだろう。地面に着地したウェインの眼前から界刺と神谷を目指すかのように地面が衝撃波を撒き散らしながら崩壊して行く。
地面から僅か姿を現しているのは巨大化したドリル状の尻尾。ウェインと繋がっている以上『樹脂爪』の高圧電流を見舞うチャンスではあるのだが、
鉤爪が撒き散らされる土砂に邪魔される可能性は否定できない。神谷も『閃光真剣』で防御する手段が頭を過ぎったが、“数十本”の爪の在り処が不明なために回避行動を選択する。



ボボボッッ!!!



尻尾が通り過ぎたと同時に“数十本”の爪が大きさを増して地面から突き出て来た。態勢を崩した直後への追い討ち―本命―が“英雄”と“剣神”を襲う。
サーモグラフィーにて、界刺は地面が放つ熱分布図がほんの少しだけ“変動”した瞬間を認識し、事前のサーチ結果とも合わせて取るべき手段を瞬時に選択、
地面に『樹脂爪』を射出し大跳躍を敢行、自身やワイヤーを襲う爪を【雪華紋様】2条で中途から切断(電流が流れるワイヤーと接触させるチャンスだが、爪で刺殺されては意味無し)し、
切断面からすぐさま糸を繋げようとするウェインの行動を、展開している【千花紋様】による赤外線加熱炉を用いて極短時間妨害することで窮地を脱する。
そして、<ダークナイト>へワイヤーを巻き戻す最中に爪へ接触させようとするが、その時には自身を襲った爪の動きが止まっていた(=ウェインと繋がっていなかった)。



ダッ!!ダダッ!!ダッ!!



一方、神谷は『閃光真剣』による防御と己の反射神経に全てを委ねた危ういにも危うい回避行動を敢行する。
防御不可能+回避できなかった部位を爪が掠る。噴出する血の潮に神谷が顔色を顰めつつも何とか軽症レベルに抑えていた・・・その時!!



グン!!!



右手に長槍を携えたウェインが急接近する。“怪物”は戦闘を重ねることによって“英雄”に電撃による攻撃手段があることに明確に気付いた。
界刺自身もそれ以前から『樹脂爪』の行使タイミングを計っていたのだが、射出という『時間が掛かる』手段を取ることが可能な相手では無いこともわかっていた。
そこで、糸による攻撃へ<ダークナイト>の先端に出した鉤爪を接触させるという方法に変更したものの、怒涛の如く迫って来る攻撃がどれも必殺の攻撃であったのが災いした。
仮に接触と同時に高圧電流をウェインに見舞うことができても、必殺の攻撃自体を受け止められる物理的防壁が無い自分と相討ちになってしまう可能性が大きかった。
また、唯一攻撃を受け止められる『閃光大剣』や『閃光大剣』の内訳的機能である『閃光剣』・『閃熱銃』の発動中は『樹脂爪』を発動できないという構造的弊害が存在した。
【鏡界】にも演算(思考)能力を大幅に取られている以上、生き残ることを絶対とする“英雄”は大き過ぎるリスクを冒すことはできず、只管紙一重でかわし続けていた。



「(狙いは神谷の方か!!)」



界刺がウェインの企みを看破する。そもそも、2人が1対1(サシ)で殺し合いを行っていた時は基本的に遠距離VS遠距離が主であった。
ウェインの戦術として、人の目には映らない極小の感知用糸を敵の近くに散布した後にそこへ自身から射出した糸を繋いで増幅・巨大化させて奇襲に近い速攻を行うというモノがあった。
実は、これには別の意味もある。電気系能力者への対処として自身と繋がらない糸を使う他に、糸に纏っている念動力にて電撃の前兆(絶縁性である空気の動き)を感知、
即座に自身と繋がっている糸を分断する意味があるのだ。勿論この方法は絶対成功する代物では無い。距離的な問題もあるし、感知用etcの細いor小さい糸ならまだしも、
攻撃用etcとして射出する太いor大きい糸を分断するにはどうしてもタイムラグが発生する。故に、ウェイン→極小の糸(中間点)→巨大化させた糸という構図を作った。
この構図なら感知糸と電気系能力者との間合いが近いこともあって前兆を掴めやすいし、格好の的となる巨大糸に電撃を放たれても中間点である極小の糸を瞬間的に分断すれば、
絶縁性は無いものの帯電し難い性質を備えている蜘蛛糸の性質と合わせて自身へ電撃を及ばせない確率をある程度保つことができる。
非金属製の拳銃・銃弾やセラミック製ナイフ等を用いた対応策もある。しかし、【千花紋様】にて既存の速攻戦術及び電撃対策が封じられた。しかも、【月譁紋様】で視覚も封じられた上に拳銃も破壊された。
【獅骸紘虐】にて【千花紋様】自体は防げるものの、【雪華紋様】及び『閃熱銃』の合計4条の光熱線が“怪物”の接近を阻み、その命を危うくさせる。
偶に接近したとしても、『閃光大剣』により対処されてしまう。身体能力や格闘技術自体は自分が上回っているにも関わらず、予知にも近い界刺の対処能力は驚嘆の一言に尽きた。
そこで、“怪物”は戦法を変更する。最大で半径15mに渡って展開されている【千花紋様】に“わざと”極小の糸を散布・焼失させて“英雄”の大まかな位置を常に把握する。
『意図電話』や攻撃時の殺気で詳細な位置を掴んだ後に遠距離から攻撃を絶え間無く放ち、光学攻撃を放つ暇を極力与えないように動く。
その上で、放った攻撃は攻防用・支援用等に使わない物を中心に可能な限り『回収』した。
『回収』とは『食べること』である。能力の原料であるアミノ酸を再調達するために、界刺に防がれ、またはかわされた糸(念動力によって汚染されていないモノを選別しながら)を
纏う念動力でもって回収し胃袋へ収める。能力によって即座に消化されたアミノ酸は再び蜘蛛糸となる。『回収』時には自身から射出した糸を攻撃に用いた糸へ繋げることはしないため、
そして今や【精製蜘蛛】による強化で糸を繋げていなくても繋いでいる状態に匹敵する演算強度を実現させているウェインに界刺は『樹脂爪』を見舞うチャンスをほぼ見出せなかった。



「(来る!!)」



神谷は、『閃光真剣』による防御で自分の位置を掴んだウェインを迎え撃つため、左手の高出力型『閃光真剣』を構える。そして・・・



ジャアアアアアァァァッッ!!!



蜘蛛糸の長槍とプラズマブレードが凄まじい音を奏でながら鎬を削り合う。高出力の『閃光真剣』を渡り合う長槍は、しかし『閃光真剣』に押し克つことができない。
とは言っても、長槍が念動力で制御されている以上神谷の素の筋力では対抗し切れないために、殺人鬼の凶手をいなし続けるという高等技術を用いて対抗している。
神谷としては、右手に持つ最大出力型『閃光真剣』を見舞うために敢えて高出力型『閃光真剣』で長槍を受けた。自分の目論見通りになった“剣神”が右手を“怪物”へ振り払・・・



シュッシュッシュッシュッシュッ!!!



えない。獅子と骸骨が組み合わさったかのような仮面の後方、一本に纏められていた糸の鬣から無数の針が“剣神”への不意打ちとして放たれる。
不意を突かれた“剣神”は、瞬時にしゃがむのと同時に右手の『閃光真剣』を“マット”状に変形させ盾とする。故に・・・



「フン!!!」
「グゥッ!!!」



左手1本で長槍を支える形となった高出力『閃光真剣』ごと神谷を吹き飛ばすウェイン。衝撃を一身に受けた左肘に嫌な音と激痛を覚える神谷。
この時点で、神谷の左肘には亀裂が入っていた。だが、殺人鬼は手を緩めない。その振り切った勢いのまま1回転した直後、長槍を倒れている神谷目掛けて投擲・・・




ヒュン!!!
ビュン!!!



させないように、界刺が【雪華紋様】と『閃熱銃』をウェイン目掛けて放った。当然回避行動を取ったウェインだが、今度は完全に避けることができずに右腕上腕部に光線を喰らう。
即時縫合を行うウェインが牽制として尻尾の先端にあるドリルを砲弾として射出し、防御として『閃熱銃』から『閃光大剣』へ切り替えた界刺の眼前に着弾した砲弾の衝撃で“英雄”は態勢を崩される。



「(まだまだ!!)」



態勢を立て直した神谷が地面に足を着いているウェインに突っ込む。今度は初手から最大出力型『閃光真剣』を形成する。
居合いの如き速度で『閃光真剣』を持つ右腕を振るう“剣神”。仮面の奥に隠された“怪物”の表情を窺い知ることはできないが、この『閃光真剣』を一太刀でもまともに喰らえば・・・。



ピカッ!!!
ズサッ!!!



しかし、“剣神”の思惑はまたもや崩れる。突如発生した赤外線の膜がゴーグルを覆ったために振るう腕が硬直した。但し、それは“剣神”にとっての命拾い。
“怪物”は、空中に設置している糸球に繋いだ細糸―無論、接触の瞬間太くした―の張力と強靭な念動力を合わせて『閃光真剣』を振るう右腕を切断しようとしたのだ。
タイミングは“剣神”が右腕を自身へ振るう瞬間。それを看破した界刺が神谷を硬直させた。切断されたのは『閃光真剣』の根元・・・針の先端である。
しかし、針の『先端』から『閃光真剣』を構成していた神谷は『先端』を切断されたことで演算が乱れた形となり、その能力行使が中断してしまった。
つまりは、右手に持つ『閃光真剣』の消滅。演算を乱すと即座に消滅してしまう『閃光真剣』の弱点がここで露呈した。
行動を中途で止めたために、不安定な前のめりの格好になった“剣神”を“怪物”の爪が襲う。
界刺の援護も間に合わない。しかし、界刺は『わかっていた』。神谷の奥の手・・・歯に咥えた針の存在を。



「ううううううぅぅぅぅぁぁぁあああああ!!!!!」



口の中に含んでいた針―今は右の犬歯で噛んで支えている―から最大出力型の『閃光真剣』を形成し、前のめりの勢いそのままに首を振るう神谷。
衰えぬ殺気を感じ取った“怪物”は本能のままに後方へ跳躍するが・・・



ズサッ!!!



『閃光真剣』が“怪物”の左肩を抉り、蜘蛛糸と筋肉の一部が溶ける。程度としては深くは無かったが、以前の戦闘では感じられなかった確かな手応えに神谷は闘志を昂ぶらせる。
ここへ来た直後に、“怪物”の手によって深手を負わされた“花盛の宙姫”の負傷部分でもある左肩。
図らずも、同じ部分へ与えた一撃は自分の攻撃が確かに“怪物”へ届いた証明である。自分達を弱者と軽んじた強者に一矢報いた。
否、自分達は弱者では無い。その証明であると“剣神”は心の底から思った。



ドン!!!
ビュン!!
ドドドドドドドドドンンン!!!
ジュアアアアアァァァッッ!!!



地面に転がって完全に無防備になった神谷を狙った砲弾が尻尾の先から放たれるが、神谷の傍へ駆け付けた界刺が【雪華紋様】の光熱でもって砲弾を焼失させる。
焼失を感じ取ったウェインは【獅骸紘虐】から空中に散らばる糸球及び周囲に存在する射出済の糸を小さな弾丸に変化させ、全方位からしゃがんでいる2人に向けて射出する。
“英雄”と背中合わせとなった神谷が、ヒビが入った左腕も用いて最大出力型『閃光真剣』を二振り“マット”状にし、
“剣神”と背中合わせになった界刺が制御している『閃光大剣』から迸る高温度の熱線を変化させ、更に一時的(しか持たない)に増幅させることで形成された防御陣と共に、
身に迫る弾丸の雨嵐を防御し続ける。近くの地面へ着弾することで発生する土煙や衝撃に耐え続ける中、
殺人鬼は弱者に傷を付けられた憤怒を晴らすかのように強靭な糸を近辺にある5階建ての建物へ殺到させる。



ガリッ!!ギリギリ!!!ズアァッ!!!



手頃な形状に切断した“建物だったモノ”に糸を打ち込み、牽引させた勢いで粉塵を撒き散らす巨大質量を“英雄”と“剣神”へ投擲する。
弾丸の雨は治まっていない。回避のために防御陣を解けば雨嵐に身を晒し、防御陣を解かなければ巨大質量をまともに喰らう。
如何に防御陣が強固であっても、相当な速度で投擲された巨大質量の勢いを封殺することはできない。そう予想し、ウェイン自身も後詰めとして標的へ突進する。



ビュン!!ビュン!!ビュン!!ビュン!!



殺し屋の目論見にいち早く気付いた界刺が神谷に極短時間+単独による防御陣形成を要求、『閃光大剣』を二丁の『閃熱銃』へ切り替え、<ダークナイト>の柄を彼へ接着させる。
一方、要求された神谷は両手と歯に加えた針及び<ダークナイト>の先端から計五振りの最大出力型『閃光真剣』の“マット”状を形成、必死に演算の維持に努める。
その間に聞かされた対処法を神谷が理解した瞬間に投擲された巨大質量。降り掛かる弾丸の雨。突進して来る殺人鬼。これ等訪れる窮地を脱する策を“詐欺師”足る“英雄”は即座に閃いた。
すなわち、5条を1条に集約させた【雪華紋様】を横に、集束完了の『閃熱銃』を縦に一閃することで“建物だったモノ”―厳密には、自分達が収まる範囲―を長方形に焼き貫く。
巨大質量の端から端まで焼き貫いた光熱線によって長方形に崩れる壁に向かって、最大出力型+“マット”状の『閃光真剣』を前面に神谷とその腹筋に腕を回す界刺が突貫する。



ドゴオォッ!!!



『閃熱銃』から切り替えた『樹脂爪』を地面に向けて射出することで瞬間的な勢いを得た2人は、見事“建物だったモノ”をブチ破る。
糸の雨は防御陣を敷いていた位置へ叩き込まれていたために、角度的に建物を襲うことは無かった。故に、巨大質量の貫通の際には弾丸を気にせず突っ込むことができた。



「・・・見事」



必殺の圏外へ逃れた“英雄”と“剣神”を、突進するのを中途で止めた“怪物”が賞賛する。これ程の手応えを感じることはそうそう無い。
“英雄”のバックアップが相当大きいとは言え、自分に一太刀を浴びせた“剣神”に対する評価も改める必要もある。
プラズマブレードや光熱線によって体の複数箇所が溶け、または炭と化しているが極小の蜘蛛糸を筋肉や血管へ繋ぎ、縫合しているので戦闘に差し支えは無い。
アミノ酸の貯蔵関係で糸の雨を中断した“怪物”は、幾多の傷を抱えつつも空中に浮かぶ糸球の内『4』つを『自身と同じ』白の異形に変化、
敵対者2人を囲むように四足歩行の異形を位置付けながら“怪物”は笑いを零す。この後に待ち受けている退屈な“本業”に対する活力を、今の死闘で育んでいるが故に。






「ハァ、ハァ・・・」
「・・・・・・」

場面は変わる。施設内南西部と南部の狭間で、2人の少女は水上の舞踏(せんじょう)に身を投じていた。
両者共レベル4の水流操作系能力者。『水使い』と『粘水操作』の衝突。加賀美雅水楯涙簾の激突。施設を循環する水を己が武器とし、譲れない想いを攻撃に乗せる。

「(すごい馬力・・・。『粘水操作』の馬力は、私の『水使い』じゃ完全には抑えられない!!)」

加賀美は、以前水楯と対戦した閨秀の分析や幾度の衝突から『水使い』が馬力(=統御力)の面で『粘水操作』に劣っていることを完全に自覚する。
その気になれば大量の水量を操れる『水使い』だが、他方で水量増加による操作精度の低下は否めない。
しかし、『粘水操作』は加賀美の弱点を克服している能力。それが証拠に、際限が無いと言わんばかりに水楯は水道水を絶え間無く支配下に置き、加賀美に対する水の礫として上方から降り注がしている。

「(・・・私とは違って、『触れなくとも』水を支配下に置ける・・・か。しかも、これだけの水量を。・・・厄介)」

水楯は、事前に界刺から聞き及んでいた上方と実際に手合わせした感覚から、『水使い』が『粘水操作』の弱点を克服した能力であることを完全に自覚する。
『粘水操作』は水楯自身が触れるか、又は支配下に置いた水を置いていない水に接触させることで次々に水を支配下に置く能力だ。
これは、言い換えれば『水楯(の能力)に触れていない水は操作不可脳』ということだ。一方、『水使い』は半径150m以内の水を触れずとも支配下に置ける能力だ。
これは相当なアドバンテージである。それが証拠に、降り注ぐ水の礫を『水使い』で触れずに、そして強引に己の支配下に置き換えている。
全体的な馬力で『粘水操作』に劣るとは言え、彼女もれっきとしたレベル4の高位能力者である。全ての衝突・場面で水楯が加賀美に勝るわけでは無い。
しかも、未だ地上に出現させていない地下の水道水にも『水使い』による干渉を継続中である。故に、水楯は従来のような万全な操作を行うことができないでいる。

「(馬力で劣る以上、私はアドバンテージの『触れずに水を操作できる』ことを最大限に活かさなきゃいけない!!)」
「(・・・かと言って、全体的に見れば私の方が馬力では上回っている。・・・このまま押し切る!!)」

渦巻く水柱の頂に立つ水楯の眼下に、同じく渦巻く水壁を展開している加賀美。各々が己の思惑を確認した直後、互いの視線が水越しに交錯する。



ギュルッッ!!!



同タイミングで渦巻く水の速度が双方共に増す。地表に点在する瓦礫をも飲み込んだ液体の凶器が・・・これもまた同じタイミングで解き放たれた。



ドゴオオオォォッ!!!ガガガガガガッッッ!!!



圧縮・解放された激流同士がぶつかり合う。これは単なる衝突では無い。互いに相手が操作している水の支配権を奪おうと凄まじい演算処理を働かせ続けているのだ。

「(衝突で『支配下から解放された唯の水』を『水使い』で!!)」

加賀美の狙いは、『水使い』と『粘水操作』の衝突で『両者の支配から解放された水』を接触不要の『水使い』で次々に支配下に置くこと。

「(私の統御力を・・・舐めるな!!)」

水楯の狙いは、持てる馬力をフルに活かして『水使い』による水への支配権を一気に喰らい尽くすこと。



ビュン!!ビュン!!



加賀美は地下を含めた操作範囲内にある全ての水の制御・干渉に大半の演算処理を費やしながらも仕掛ける。
初期の衝突で支配権を奪い、新たに得た水を幾十の弾丸として水柱の頂に立つ水楯は放つ。



ドン!!ドン!!



無論、水楯は足下に渦巻かせている水柱を操作して防御壁を作成、自身へ襲い掛かって来る水の弾丸を全て防ぐ。



ズパッ!!!



だが、これは囮。加賀美の真の狙いは、水楯を距離の離れる水柱の頂から引き摺り落とすこと。そのために、水楯に防御体勢を取らせて動きを封じ込めた。
その隙に加賀美は激突させている水流の3分の1を強力に圧縮・解放することによって実現したウォーターカッターを水楯が立つコンテナへ一気に放出した。
渾身の一撃であったため、水楯の防御壁を切り裂いた勢いそのままにコンテナを・・・



ドシャッ!!!



切り裂かない。『水使い』によるウォーターカッターが防御壁に触れた瞬間水楯が『粘水操作』によって水の粘度を強力に操作し、
防御壁による衝突の緩和も手伝ってカッターの切れ味が低下。結果、水楯の足下からコンテナを弾くことには成功したものの破壊することはできなかった。



ズチャッ!!



だがしかし、“激涙の女王”は唯の防御では終わらない。それを証明するかのように、弾かれたコンテナに水柱から伸ばした水の鞭を吸着させる。
自身は台風の目のように水が存在しない渦巻く水柱の中央を降下しながら、殺気を帯びた眼光を水越しに己が敵へ強烈に照射する。
呼応するように水柱が形を崩し、底辺へ急速圧縮される。そして、水の鞭を右腕に構える“女王”が水柱の底に溜めていた水塊に接着したと同時に・・・逆襲が現出した。



ドオオオオオオオォォォッッッ!!!!!



急速圧縮された激流が猛烈な速度で加賀美へ殺到する。凄まじい渦潮が、数多の瓦礫を飲み込んだ水流が1人の少女を圧殺せんとばかりに。

「グウウウウウウウゥゥゥッッ!!!」

強大な統御力によって差し向けられた激流を、しかし176支部リーダー足る加賀美は正面から迎え撃つ。
『水使い』による制御力を、残存する水壁を全て『粘水操作』によって支配された激流へ注ぎ込む。
一進一退・・・いや、少しずつだが確実に馬力に劣る加賀美が押し込まれて行く。それでも加賀美は怯まない。

「(稜達が・・・皆が頑張っているのに、私がここでやられるわけにはいかない!!)」

信頼する部下や仲間が命を懸けて戦場に身を投じている。ならば、自分とてこんなことでやられるわけにはいかない。絶対に。その思いのままに懸命に防御する少女。



ブオッ!!!



そこへ“女王”の追撃が現れる。コンテナを先へ繋いだ水の鞭を、加賀美の上方へ振り下ろす。『水使い』による処理能力の殆どは、正面から押し寄せる激流に割かれている。



ビュン!!!



しかしながら、万が一の事態に備えていた加賀美は僅かの処理能力を新たに獲得した水の弾丸へ割く。割いて落ちて来る水の鞭の先端・・・コンテナと水の接着部分へ衝突させる。



ガガガッッ!!!



処理能力の限界で走る頭痛を堪えながら、加賀美は『水使い』による干渉で鞭の軌道を強引に逸らす。その結果、自分のすぐ横へコンテナが落とすことに成功した。
地面への接触による衝撃が加賀美の足下を揺らす。その衝撃と水楯の追撃を避けたことによって発生した一瞬の安堵が・・・正面の激流の変化とその流れに混ざった“異物”への感知を遅らせた。






「去ね!!!!!」
「なっ!!!??」






激流の一点集中によって水壁を突破したのは・・・人間。激流に飲み込まれた瓦礫によって体の各所を傷付けながら突撃して来たのは碧髪の少女・・・水楯涙簾。
緩和用であろう粘度を増した水のヴェールを身に纏いながら―それでも水圧によるダメージは避けられないであろう―“激涙の女王”は躊躇無く敵へ突進する。

「グハッ!!?」

水楯の掌底が加賀美の顔面を捉える。捉えた勢いを減速させずに後方の地面へ加賀美の後頭部を叩き落そうとする水楯。

「(くっ!!)」

咄嗟の反応。加賀美は『水使い』による水塊を叩き落される地面へ急行させ、ギリギリで地面への衝突を回避する。

「甘い!!」
「ガハッ!!」

だが、それが緊急対処の限界であった。水のヴェールを纏った水楯の左拳が加賀美の鳩尾へ叩き込まれる。
水流操作によって重さが増している一撃に、加賀美は胃液が逆流しかねない程の苦痛を味わう。



ドカッ!!バキッ!!



水に包まれた水楯の両拳が次々に放たれる。それ等を腕を交差する防御体勢と『水使い』による干渉で我慢する加賀美。
威力は女性にしては相当なものの、正式な格闘訓練を積んだ動きでは無い。荒削りである以上、必ず反撃へ転じるチャンスは生まれる。
そう信じ堪え続ける加賀美・・・彼女が予期していた通りに“女王”の攻勢に隙が生まれた。自分とて、風紀委員としてそれなりの格闘訓練は積んでいる。そう・・・

「甘いのはあなたよ!!!」
「グフッ!!!??」

やられっ放しじゃ終われない。“剣神”と謳われる神谷や彼に張り合おうとした焔火を部下に持つ身である。
このままボコボコにされて終わった日には、2人に何を言われるかわかったものではない。



ガキッ!!ベキッ!!バキッ!!



「ガハッ!!!」
「グホッ!!!」

殴る。蹴る。打つ。叩く。所謂殴り合いを2人は演じ続ける。華麗な水上の舞踏では無い。血生臭く、泥臭く、それでいて宿す眼光の鋭さは2人共に未だ鈍くなることは無い。
周囲には大量の水が流れ、噴出したままだ。『水使い』や『粘水操作』で操作し攻撃を仕掛けることは互いに容易である。

「ハァ・・・ハァ・・・」
「ハァ・・・ハァ・・・」

だが、2人は一向に水を操作しようとはしない。まるで、己の想いを示すには水では・・・能力戦闘では不足であると言わんばかりに。

「ハァ・・・ハァ・・・・・・ゴクッ。ねぇ・・・水楯さん?」
「ハァ・・・ハァ・・・・・・ングッ。・・・何?」

息を乱し血に塗れた加賀美が、己と同じように息も絶え絶えな血塗れな少女・・・水楯へ問う。戦闘が始まる前に問うた疑問を、『最新の情報』が手に入った今再び問う。

「何で・・・何で界刺さんはあなたを差し向けてまで私を“ここ”で止めたの?」
「・・・・・・」

『何故、界刺得世が水楯涙簾を差し向けてまで加賀美雅を自分と殺人鬼の戦いの場へ向かわせなかったのか?』という疑問を。

「界刺さんは今・・・稜と一緒に殺人鬼と交戦している。あれだけ『邪魔をするな』って言い張っていたあの人が」
「・・・・・・」

界刺が神谷と共に殺人鬼と戦っていることを、加賀美は部下である斑達からの通信で知った。
『俺は与えられた使命を果たすために、“閃光の英雄”と共に戦うことを決断しました』というエースの決意と共に。
だから、この事実を知った直後に水楯へ伝えた。そうすることでこの戦闘を終わらせることができると考えたから。しかし、加賀美の予想に反し水楯の攻勢は更に苛烈となった。

「・・・私が今考えている可能性は3つある」
「・・・・・・どんな可能性?」
「1つは・・・『水使い』を持つ私じゃ殺人鬼に勝つ可能性は限り無く低い。私じゃ・・・まず殺されるから。
唯一能力が通用する稜だけを残して・・・狐月達を追い詰めて無理矢理退避させたのも同じ理由だと思う。正直ムカつくけど」

加賀美が考える可能性の1つ目は能力の相性。以前の戦闘でも加賀美は殺人鬼が繰る蜘蛛糸を打ち破ることができなかった。
防水性に優れる性質、持てる馬力の違いが如実に現れた交錯。故に、界刺は判断を下した。『加賀美雅では殺人鬼と戦っても無駄死にである』という判断を。

「・・・2つ目は?」
「・・・私が『リーダーとして』適切な判断を下せるかどうかを、この極限の状況で試したかったから」

加賀美が考える可能性の2つ目はリーダーとしての“試験”。力不足を告白した自分に対する彼からの“試練”。

「・・・自惚れじゃないかしら?」
「・・・ムフフッ。かもね。でも、どうしてか自惚れじゃ無いって確信はあるんだ。私は“詐欺師ヒーロー”に・・・“ヒーロー”に頼った。
同じリーダーという立ち位置を務めるあの人に。あの人は言ってくれた。「『君は!!!176支部のリーダーだ!!!!!』って。・・・嬉しかった。
『俺は君を全否定しない!!加賀美雅を全否定しない!!俺の信念に懸けて!!』って。・・・すごく嬉しかった」
「・・・・・・」
「そして・・・こう言ってくれた。『だから頑張れ!!意地を見せろ!!何があっても最後までやり抜け!!!いいな?約束だぜ!!?』って。・・・だから私は最後までやり抜く。
そう約束した。きっと、これは交わした約束を果たせるかどうかを界刺さんが試しているんだと思う。この状況下でさ。ホント、あの人らしいっていうか・・・ムフフッ」

きっと、界刺は176支部が自分と殺人鬼が死闘を繰り広げている戦場へ接近して来た場合、どうにかして自分達を戦場から遠ざけようと目論んでいたのだろう。
故に、まずはリーダー足る自分に水楯を差し向けることで排除し、己が言葉で御しやすい神谷(+他の支部員)を招き寄せた。
部隊長の話ではすったもんだがあったものの、妥協案として時間制限付きながら神谷が界刺と共に殺人鬼と交戦することでひとまずの落着が着いたようだ。
その過程で自分と同じ理由で斑達が力尽くで排除されたことに関しては多少以上に憤慨はしているものの、
警備員の判断によって新“手駒達”の確保に動いていること、そして界刺を鎮圧する事態に至らなくてホッとしている自分が居ることも事実であった。
同時に、きっと自分はリーダーとして適切な判断―全員で水楯を相手取る余り新“手駒達”の救助へ戦力を割かない愚策を選ばなかった―を下せたのだろうとも感じていた。

「・・・そう。じゃあ、最後の可能性は?」
「・・・・・・それは、水楯さんにもわかっていることなんじゃないの?」
「ッッ!!」

水楯の表情の変化に、加賀美は自身の予測に対する確信を深める。きっと、これが界刺にとって一番の理由であったに違いない。
おそらく、水楯は言葉として明確に聞かされてはいない筈だ。だけど、彼女だって心の何処かでは薄々気が付いている筈だ。だから・・・言う。はっきりと。
以前までの自分ならできなかったこと。今の自分にはできること。他者の心にしっかり踏み込んだ言葉を加賀美雅は明確に放つ。






「3つ目は・・・界刺さんの願い。自分のために躊躇無く敵を潰すあなたを私に止めて欲しかったから。・・・違う?」
「・・・!!!」






歪む。歪む。歪む。“激涙の女王”の表情が。憤怒とも悲哀とも取れる表情に変わる。

「あなたは界刺さんのためなら何だってする。界刺さんに危害を加える人間を容赦無く潰す。それが・・・相手を殺すことに繋がっても。
あなたの私への攻勢は、はっきり言って人を殺すつもりの連撃だった。正式な治安組織でも無い人間が正当防衛でも無いのに人を殺せば・・・どうなるかわかっているんでしょ?」
「・・・・・・」

加賀美は、『書庫』にてデータ上ではあるが水楯の経歴を知っていた。彼女が己への暴行へ及ぼうとしたスキルアウトを能力の暴走によって殺害していることを。
裁判としては水楯の正当防衛が認められて彼女が罪を問われることは無かった。だが、逆に言えば彼女はその手で明確に人を殺しているのだ。
その意味を知っているのにも関わらず、自分へ振り向けた殺意や攻撃は間違い無く人を殺すつもりのモノであった。幾ら“3条件”があるとは言え。つまり・・・

「あなたは、人の生死について心の何処かで軽く考えているんでしょ!?『界刺さんのために』を言い訳にして、あなたは自分の欠点を省みようとしていない!!
界刺さんがあなたにそんなことを望んでいると本気で思っているの!?いいえ!!絶対に思っていないわ!!だから、あの人は私にあなたをぶつけた!!
同じレベル4の水流操作系能力者なら周囲への被害を最小限にしてあなたを抑えられるから!!そして、私と同じ理由であなたの能力じゃ殺人鬼に勝つ確率が低いから!!」
「・・・・・・」

同系統・同ランク同士の能力戦闘ならば、必然的に戦闘の内容は『喰い合い』になる。『喰い合い』とは、すなわち相殺の連続。
故に、周囲への被害は他の能力者に比べて最小限に抑えられる。その役割を、界刺は加賀美に託したのだ。
殺人鬼との戦いで水楯を無駄死にさせたくなかった想いを・・・その手を再び血で汚させたくなかった想いを込めて。

「水楯さん!!これ以上の戦闘に意味はもう無いよ!!私とあなたの能力を合わせても、あの殺人鬼には叶わないかもしれない!!
でも!!それでも何かできることはきっとある筈だよ!!界刺さんの手を血で汚させないためにも!!だから・・・」



ビュッ!!!



「・・・・・・」
「水・・・楯さ、ん・・・!!!」

これ以上の戦闘続行に意味が無いことを説明する加賀美の頬を掠ったのは・・・碧髪の少女の手の平から吹き出た赤の刃。
右手にできた傷から噴出させたそれは・・・血で構成されたブラッドカッター。『粘水操作』によって水楯は己が血さえも武器としたのだ。

「・・・・・・・・・ねぇ、加賀美雅?」
「・・・・・・何?」

今度は水楯の方から加賀美へ問い掛ける。その意味を加賀美は考えながら眼前の少女の言葉を待つ。

「あなた・・・・・・好きな人は居る?恋をしたことはある?」
「へっ?」

予想外の問い。戦場には相応しく無い、どちらかと言えば全く空気が読めいていないとも言える問いを投げ掛けられ、加賀美は数瞬思考停止に陥る。

「・・・・・・そう。居ないし・・・無いのね」
「す、すす、好きな人って・・・恋って・・・・・・えっ?えっ?」

言葉の端々に落胆の色が漏れる水楯の反応に加賀美の頭は混乱する。いきなり『好きな人は居る?恋をしたことはある?』と聞かれてもすぐに返答できるわけが無い。
何故なら、自分は現在誰とも付き合っていないのだ。というか、今まで男女交際というモノをしたことは無い。そもそも『好きな人』が今の自分には・・・


『だから・・・その・・・なんだ・・・・・・共にその重みを背負って・・・歩こう。逃げずに・・・立ち向かうんだ。
結果がどうなるかはわからないが、今度こそ俺達の手でこの事件を解決に導くんだ!!』
『うん!言うに決まってるじゃん!私は債鬼君を・・・大事に想ってるんだよ?債鬼君だって、私を大事に想ってくれているんでしょ?だったら、私は言う!何度だって言う!!』


「(ッッッ!!!!!ちょ、ちょっと待って!!何でそこで債鬼君が出て来るの!!?)」

そこまで考えた瞬間脳裏に現れたのは同期であるシルクハットを被った少年の顔。加賀美自身、どうしてこのタイミングで彼の顔が思い浮かんだのかさっぱりわからない。

「(た、たた、確かに債鬼君とは同期だし友達だし大事に想っているけど!!!えっ!?えっ!?ま、まま、まさか・・・・・・!!!!!)」
「・・・・・・ねぇ、加賀美雅?」
「うぉっ!!?」

何かとても大事なことに気が付きそうな自問自答を心の中で繰り広げていた加賀美のすぐ目と鼻の先に・・・水楯が顔を近付けて来た。
その表情は・・・その瞳は・・・先程までの鬼気迫るモノや憤怒と悲哀が交じり合っているモノとは明らかに違っていた。一言で言い表すならば、それは『純水』・・・転じて『純粋』。

「好きな人が居ない上に恋心を抱いたことも無い今のあなたにはわからないでしょうね。でも・・・いずれあなたも私のこの想いを理解できる日がきっと来るわ」
「・・・あなたの想いを?」
「そう。『好き』なんて言葉じゃ全然足りない・・・この狂おしい程までの愛(おもい)は、今のあなた『ごとき』じゃ揺らがすことはできはしない。・・・(ガシッ)」
「ッッ!!!」

加賀美の両頬を水楯の両手が掴む。近付けていた顔を更に接近させる。後数ミリで鼻先が触れ合う距離まで近寄る。ともすれば瞳と瞳が触れ合う程までに。

「とは言っても、さっきの言葉は中々効いたわよ?フッ、あなたの言っていることは正しいわ。でもね・・・足りないわ。全然足りないわ。
私の想いを揺らがすには全くもって程遠い。そんなこと・・・“あの”界刺さんが指摘して来なかったとでも思っているの?」
「そ、それは・・・!!」
「・・・この想いを本当の意味で揺らがすことができるのは、この世で唯1人しか居ないの。界刺得世しか居ないの。
あなたが今抱いている疑問を私以外で解決できるのは、結局はあの人だけ。そして、私は今でもあの人に『対抗』している。他の誰でも無い・・・自分のために。
あの人が齎す飾り付けと私の意地・・・どちらが最後まで立っているか。界刺さんがあなたへ託した言葉無き頼みも、ようは飾り付けの1つでしか無いわ」
「“飾り付け”・・・?」

水楯が放つ『飾り付け』という言葉の意味がイマイチよくわからない加賀美。界刺と水楯の間だけで交わされた言葉なので、部外者たる加賀美がわからなくても当然ではあるのだが。

「わからないならわからないままでいいわ。あなたには関係の無い話よ。・・・そもそも、私はあの人に私の人生を全て捧げているわ。
だから、あの人の人生を脅かす者は私の人生を脅かしているの。あの人の人生が終われば私の人生も終わるの。この説明ならあなたでも理解できるわよね?わかるわよね?」
「な、何で・・・!!?そんな一方的な・・・!!」
「一方的・・・ね。だって、あの人は昔から私を恋愛対象として見てくれないし。今はわからないけど・・・せめて一途な想いって言って欲しいわね、加賀美雅?」
「だったら・・・!!」
「『だったら諦めろ』って?フフッ、それはあなたが今まで男性を心の底から愛したことが無いから言える台詞よね。
あぁ・・・別に、私はあの人に選ばれなくても究極的にはいいの。選択権は全て界刺さんにあるし、昔のような愚かな真似を繰り返したくは無いわ。
ねぇ、加賀美雅。私はね、界刺得世に唯々生きていて欲しいのよ。だから・・・もしあの人を誰かが殺したのなら・・・その誰かをこの手で殺して私も死ぬわ・・・!!!」
「・・・!!!」

狂気など孕んではいない。彼女が言う程に狂ってもいない。唯々『純水』なまでに愛しい人への愛を貫く“激涙の女王”に、正論を吐いていた加賀美は呑み込まれる。

「(こ、これが男性を好きになるってことなの!!?自分の人生すら捧げてしまう程の愛なんて・・・今の私じゃとても想像できない!!)」

自身今まで男性へ恋心を抱いたことが無い―無自覚ではその限りでは無い―加賀美は、どうしても水楯の想いを理解することができない。
人間たる者、一度経験しなければ本当の意味でその事柄を理解することはできないのかもしれない。正論も理屈も捻じ伏せる愛という名の激情も・・・また然り。






「・・・フフッ。さて、それじゃあなたの言う通りそろそろ戦闘を停止しましょうか。あなたと同じで私にも時間の余裕は無いし。
これで界刺さんの“頼み”も完遂できたわ。界刺さんの“頼み”が無かったら、あなたの指摘なんて速攻で無視して潰しに掛かっていただろうし」
「え、えぇ・・・」

最接近していた水楯の顔が離れると同時に、彼女からも戦闘停止の意向が伝えられる。互いに血塗れになりながらも、しかしここで何時までも立ち往生している暇は無い。

「そうそう。界刺さんはね、私にこうお願いしたのよ。『戦いに介入しようとする176支部リーダー加賀美雅と全力で戦え。戦う中で・・・2人共に自分を振り返ろ』って。
だから、あなたの言葉も渋々聞いていたしね。フフッ、まぁ確かに私も界刺さんへの想いを振り返ることができて良かったわ。あなたはどうかしら、加賀美雅?」
「・・・・・・ハァ。確かに、私も自分の想いを振り返ることができたかもね」

水楯の言葉に呆れて物が言えない加賀美。勝負としては『自分を潰す』と明言した水楯の負けではあるのだが、
何故か余り勝った気がしないのはワケのわからない(加賀美視点)彼女の独善に言い負かされてしまったような気分だからか。
加賀美は思う。“女王”の想いを一身に受けるリーダーに対する同情に似た思いを。以前彼の部屋で耳にした苦労話を思い出しながら。


『まぁ、しばらくは俺も死ぬわけにはいかなくなったけど。ウチにも、未だに1人とんでも無い独り善がりが居るからね。
あいつの場合は、もう危ないを通り越しちゃってるから、逆に危なくなくなっちゃったけど』
『・・・つまり、あなたも独り善がりを抱えていたってこと?』
『仲間内で言えば、ある1人とは何度も殺し合いをした末に矯正させて、ある1人とは数ヶ月程激ヤバストーカー行為を喰らった末に服従させて、
ある1人とは救済委員なんてモンに巻き込まれた末に気付かせたって感じかな?どれも、命の危険を伴ったよ?だから・・・警告してんの。
唯でさえ、『ブラックウィザード』の捜査に携わっているんだからな。それ込みで危ないって言ってんのさ。下手したら、命に関わるから』
『・・・あなたもかなり苦労したんだね』
『あぁ』


「(確かに、これはとんでも無い独り善がりだわ。というか、昔はもっと酷かったってことよね?うわぁ・・・想像したくない!!ある意味ウチの部下(以前)より酷いってことだし!!
もし私の部下だったら、私の胃が穴開きまくり状態になるの間違い無しだし!!こんな人間が傍に居たら、そりゃ緋花の独り善がりな部分を速攻で見抜ける筈だわ。
界刺さん・・・・・・ガンバ!このヤンデレ(?)はあなたがしっかり導いて下さいね!!私は絶対御免被りますから!!)」
「・・・何ボーっと突っ立っているの、加賀美雅?置いていくわよ?」
「へっ?ちょ、ちょっと待って!!あなた1人を先に行かせたら何が起きるかわかったもんじゃない!!」


もはや想像さえ絶対拒否姿勢を取らざるを得ない水楯の過去の姿に青褪める加賀美を尻目に、水楯は迷い無く愛しき人の下へ馳せようと歩を進める。
そんな彼女へ慌てて追い着く加賀美。抱く想いは全く違う2人の少女が向かう先は・・・奇しくも仲間が命を懸けている同じ戦場であった。

continue!!

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最終更新:2013年08月30日 21:41