「で、何時まで私はここで待っていればいいんですかね!?寒村先輩!!?」
「おお!すまんすまん。何分男中心の空間が濃密だったので、貴殿を迎え入れるタイミングを逸してしまったのだ。ハハハ!!」
「ハハハ!!じゃないです!!全然言い訳になってないんですけど!完全に私の存在を忘れていましたよね!!?」
「あれ、一厘じゃないっすか?どうしたんすか?」

開幕早々大声でツッコミを入れる少女は一厘鈴音という少女。風紀委員159支部に所属している常盤台中学3年生である。

「寒村先輩と速見先輩に偶然外でバッタリ。速見先輩がすごく暗い顔していたから気になって話しかけたんです」
「もしかして、常盤台も今日テストっすか?」
「ええ、今日が最終日で。午後からは久しぶりの自由時間で羽を伸ばそうと思っていたんですけどね」
「ごめんね一厘ちゃん。僕のせいで・・・」
「いえ、そんなこと無いです。・・・私なんかより速見先輩の方がよっぽど災難ですよ」
「一厘ちゃん・・・ありがとう」

速見と一厘が話し合っているのを他所に、椎倉は思案に耽り続けている。
そして・・・椎倉の目が見開かれる。その意味を知っている一厘(成瀬台支部員はもちろん既知)は尋ねる。

「椎倉先輩・・・何が対抗策でも思い付いたんですか?」
「思い付いたって程じゃねえよ。とにかく今回の案件はスピードが要求されている。
期限はテスト期間終了日。それまでにこの案件を解決に導かなきゃならねえ。
お前ら、わかってるな?テスト勉強なんぞに構っている暇は無えぞ?」

支部員は誰も口を開かない。その代わり、各自真剣な顔や気合の入っている顔、中には笑顔を浮かべている者さえいる。
それは、「言わなくてもわかっている」という意思表示か。椎倉は再び問う愚行は犯さない。

「午後2時半より作戦会議を執り行う!!各自必要な資料を収集・整理し、俺の前に叩き付けてこい!!!」
「「「「了解!!!」」」」

椎倉の号令を受けて各々がせわしなく動き始める。普段は馬鹿なことしかしないのに、有事の際は一致団結して対処する。
そんな光景を見て一厘は小さく言の葉を漏らす。

「・・・私の支部でもこんな団結力・・・1回でいいから見てみたいなあ」

その呟きに幾分の羨望を混ぜながら。



「荒我君。どうだったでやんすか・・・?今日のテスト」
「あああ?んなもん決まってんだろ!!赤点だ!!クソッ!!また、餅川先生に馬鹿にされる!!」
「まあまあ、落ち着いて荒我兄貴。これもそれも、荒我兄貴の教科書やノートを潰した奴のせいですよ」

ここは成瀬台高校の屋上。そこにいるのは荒我拳、梯利壱、武佐紫郎の不良3人組。彼らは梯が買ってきた弁当を食べていた。

「武佐君の言う通りでやんすよ。荒我君の本来の力ならあんなの楽勝でやんす」
「・・・」
『荒我君はこの弁当覚えているでやんすかねえ?この前餅川先生の呼び出しでオジャンになった旨い弁当屋のやつを。これならきっと荒我君の機嫌も直るでやんす』
「(!!・・・これは)」

梯の思考が荒我の頭に流れてくる。そんな真似ができる心当たりは今ここにおいては1人しかいない。

「そうそう。荒我兄貴が万全ならあんなテスト問題、軽く高得点を叩き出してますって」

その心当たり、武佐は素知らぬ+ウインクを混ぜた顔を荒我に見せ、梯の言葉をフォローする。
どうやら武佐の精神感応能力『思考回廊』で梯の思考を読み取り、それを改めて自分の思考として荒我に見せたようだ。

「・・・ワリィな。いらねえ気を使わせちまってよ」
「そんなことないでやんすよ。ねえ武佐君」
「そうだね、梯君の言う通りだと思うよ。さあ、冷めない内に食べようっと。ほら、荒我兄貴も」
「・・・ああ」

舎弟兼友人が気遣ってくれることに感謝と申し訳なさを感じながら荒我は箸を進める。
今回はそれなりに真面目にテスト勉強を進めていただけに、テスト期間突入5日前に
自分の持つ教科書やノートを潰されたのは痛かった。
おかげで、残り2日間のテスト勉強にも支障が出ている。

「(くそ、どこのどいつだ!・・・必ず見つけ出してやる!!そしてボコボコにしてやる!!)」

荒我は心の中で誓う。必ず犯人を見つけ出し、己が手でケリを着けると。



「ようやく新しい制服が届いたー。これで、バカ形製が選んだこの服ともおさらばできる」
「その言い草は無いだろう。形製の善意で貸し出してくれたんだぞ。感謝こそすれ、文句を付ける筋合いは無いと思うが」
「俺にとっては地獄だったっつーの。お前が言うもんだから渋々着ていてやったんだぞ。このだっさい服をさ」
「(お前が選んだ服より何万倍もマシだと思うが)」

ここは成瀬台高校の視聴覚室。そこにいるのは界刺得世不動真刺の2人組。
実はこの2人、1週間前に制服の盗難事件に遭っているのだ。
そして、今日新しい制服が届いたという高校からの連絡を受け、テストが終わっても校内に残っているのだ。

「その形製だが今から成瀬台に来るそうだぞ。少し前に連絡があった」
「はあ?何それ。聞いてないぞ」
「何でも『制服が届いたことをいいことに、あのボケナス界刺にあたしのコレクションを台無しにされたらたまらない』とか何とか」
「はああ!?誰がそんなことするかっつーの。これでも俺は服の扱いには気を付けているんだぜ?
いくらアホ形製のモノだからって、それに泥を塗る真似なんかするかよ!」
「(そうなのか。私はてっきり何かしそうだと思っていたんだが。この男にもそれなりのプライドがあるわけか)」

少しホッとした不動。学校側からは新しい制服が届くまでは私服での登校を許されたのだが、
壊滅的なファッションセンスを誇る界刺が何を着てくるかは悪い意味で予測が付かない。
何せそのファッションセンスによって“成瀬台の変人”の異名を欲しいままにしているのだから。
そこで、不動が『シンボル』の隠れメンバーである形製流麗に頼み込んで服を貸してもらったのである。
最初は界刺・形製共にすごく嫌がったのだが、界刺には筋肉ダルマを脅し文句に説得を、
形製には頭を下げ続けることで、何とか貸し出しにまで漕ぎ着けたのだ。
そんなこんなで界刺と不動は届いた新しい制服に袖を通す。1週間ぶりの母校の制服。
1週間しか空いていないのに、どこか懐かしささえ感じる感触を抱いていると、視聴覚室のドアがノックされる。

「界刺!不動!業者へ代金の支払いをするぞ。それぞれ代金を持って玄関先までこい!」
「わかりました!さあ、行くぞ得世」
「いいけど、形製の服ってどうすんの?」
「一緒に持っていくのは少々面倒だ。代金を払った後でここに戻ってくれば問題無い」
「それもそうか。んじゃ、さっさと済ませるか」

そうやって形製の服を一時的にだが視聴覚室に置いて行った界刺と不動。
そんな彼らが去った後に部屋に忍び寄る影があった。手にカッターナイフを忍ばせて。


後に界刺と不動の2人は―――地獄を見ることとなる。

continue!!

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最終更新:2012年04月18日 20:48