「ふざけんじゃねえぞおおぉぉっ!!!!!」
「荒我君!?」
「あいつ・・・!!」

荒我の声が倉庫内に響き渡る。その怒声に刈野は驚き、金属操作は呻く。

「雅艶・・・」
「・・・あいつも一応俺達と同じ過激派だろう?ここへ必死に走って来たんでな。そこまでして制裁に加わりたいのかと淡い期待もしたが・・・期待は期待でしか無かったようだ」

麻鬼の問いに、倉庫外の監視をしていた雅艶は素っ気無く答える。

「何よ、またあなたなの?吠えてばっかりの負け犬ちゃん?」
「テメェ!!」
「ホント、威勢だけはいいのよね。あなたみたいな何の才能も無い負け犬が何の用?」
「そいつから・・・その女から離れやがれ!!!」

躯園の挑発に怒声で返す荒我。そんな荒我の態度に、躯園は嘲笑の色を濃くする。

「全く、何を言い出すかと思えば・・・。ハッ、あなた・・・もしかして『裏切り者』になりたいの?このクズと同じように?」
「テメェ・・・!!ぶっ潰す!!!」

躯園の言葉をまともに聞いていない荒我は、躯園に突っ込んで行く。身構える躯園。






ピュッ!!






その瞬間、荒我の目と鼻の先を通過したのは・・・針。

「成程。お前の言い分はよくわかった、荒我。貴様は、俺達に牙を向く。そうだな?」

その針は、荒我にゆっくり近付いて来る男―麻鬼天牙―が放ったもの。麻鬼の能力『閃光小針』である。

「麻鬼・・・。テメェ!」
「よかろう。では、貴様を『裏切り者』として処分しよう」
「テメェはおかしいとは思わねぇのかよ!?幾ら風紀委員の奴が救済委員(おれたち)に紛れ込んでいたからって大勢でボゴるってことを!!」
「『裏切り者』への正当な制裁だ。それ以上でもそれ以下でも無い。ここに集った者達は、皆納得している」
「テメェ等・・・!!!」

麻鬼の言葉を受けて、荒我は他の救済委員を睨み付ける。雅艶、峠、七刀、刈野の4名は平然としていたが、金属操作と羽香奈は荒我の視線を避けるかのように目を逸らした。

「・・・『裏切り者』がボーっとするなよ?」
「!!」

瞬間、麻鬼が荒我の懐に飛び込み、能力で作り出した“小型ナイフ”を振り上げる。
荒我は咄嗟に仰け反るが、それによってバランスを崩す。

「足元がガラ空きだ!!」
「ガァッ!!」

その隙を麻鬼は見逃さない。すぐさま足払いを掛けて荒我を転倒させる。そして・・・

「動くな」
「ッッ!!」

麻鬼の“小型ナイフ”が荒我の首元数ミリ前に突き付けられる。少しでも妙な動きをすれば突き刺す。躊躇無く。麻鬼天牙とはそういう男であった。

「どうする、荒我?今ならまだ引き返せるぞ?俺達と来るか?それとも・・・」
「・・・俺は“俺”を貫く!!何時だってな!!!」

何時だってその拳で“貫き通してきた”。だから、最後の最後まで自分を“貫き通す”。荒我拳とはそういう男であった。

「そうか・・・。残念だ」

荒我の言葉を受け、麻鬼は“小型ナイフ”を荒我の首元へ突き刺そうとする。その時!!






「そこまでよ!!!!」
「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」

倉庫内に響き渡る声。その声は、荒我にとっての“救い”の声。
それを放った少女―焔火緋花―は更に声を響かせる。

「私は焔火緋花!!風紀委員第176支部に所属する風紀委員よ!!大人しくしなさい!!」
「176支部・・・?まさか、神谷の・・・」
「(今だ)。オラアァッ!!!」
「グハッ!」

焔火の宣言に気を取られた麻鬼。その隙に荒我はお返しとばかりに足払いを掛けて、“小型ナイフ”の射程から逃れる。
思わぬ逆襲を受けた麻鬼が気を取り直して荒我に小針を飛ばそうとするが、焔火が放つ電撃がそれを阻む。

「くっ・・・」
「ゼェ、ゼェ。緋花・・・どうしてここに!?」
「あなたがこの辺りに突入していったのを見たからよ!」
「おい、雅艶。こりゃあ・・・」
「慌てるな、金属操作。風紀委員の1人や2人、どうということは無い。むしろ、1人で突っ込んで来たのは好都合だ。
周囲には、あの女以外の風紀委員の姿は見受けられない。こちらには峠の『暗室移動』もある。逃走手段も確保している。
強いて注意しなければならなのは、奴等をここから取り逃がすことだ。それだけは、何としても阻止しなければ」

雅艶は、荒我の時と同じように焔火がここへ突入して来るのを黙って見過ごした。雅艶自身、こんなにも早く風紀委員と接触するのはさすがに予想していなかったが、
それが、決定的な誤算と言うわけでも無い。むしろ、1人で突っ込んで来た少女の無謀さに呆れているくらいだ。

「貴様・・・176支部に所属していると言ったな・・・?」
「そうよ!それが何か!?」
「いや・・・。そうか、176支部に・・・な。ククッ。何と言う巡り合わせだ。ククッ」
「・・・!?」
「(何だ、コイツ?)」

一方、焔火は相対している麻鬼から妙な質問を受けていた。その返答を受けて、更に顔を歪に歪ませる麻鬼に対して怪訝な視線を向ける焔火と荒我。

「こっちは2人。向こうは9人か・・・。荒我、こいつ等もやっぱ能力者なの?(ボソッ)」
「あぁ。全員レベル3~4の高位能力者ばっかりだ。あの金髪のツインテールに関してはわかんねぇけど(ボソッ)」
「そう・・・。多勢に無勢か。でも・・・退くつもりなんか無いよね?(ボソッ)」
「もちろんだ。あのボロボロにされた女をこのまま放っとけるかよ(ボソッ)」
「・・・・・・!!!そうよね。だったら・・・覚悟決めて行くわよ、荒我(ボソッ)」
「言われなくてもわかってらぁ(ボソッ)」

荒我の言葉を受けて、初めて焔火は少女に気付く。その変わり果てた様を目に映し、驚愕した後に、それでも気丈に振舞う。ここは、戦場。一切の気の緩みが許されない。
荒我と焔火、そして麻鬼の戦闘が始まろうとした・・・その時



パン!!



それは、何かがぶつかった音。音の発信源は・・・上。



パパパパパン!!!



音が重なる。それが、銃声だとわかったのは、もう少し後。



パパパパパパパパパパン・・・・・・!!!!



音の発生源・・・屋根が軋みをあげる。そして・・・屋根の半分が崩壊する。



ガラガラガラゴロンガシャンズガン!!!!!

「な、何だ!?」
「屋根が・・・危ねぇ、緋花!!」
「キャッ!!」
「麻鬼!!」

丁度屋根半分が落ちてきた場所は、荒我、焔火、麻鬼が相対していた場所であった。
荒我は焔火を庇い、麻鬼は峠の『暗室移動』で事なきを得る。
反対側にいた他の救済委員達も、屋根の崩落の衝撃を避けるために距離を置いた。






「・・・・・・」

丁度その中間に位置する場所にいたのは・・・少女。幸い、崩落の直撃こそ無かったものの、その残骸が少女の身を叩く。

「・・・・・・」

少女は反応しない。痛覚が麻痺しているのか。思考放棄しているのか。それすらも、ボロボロの少女にはわからない。
少女に理解できるのは、崩落の音が少女の耳に突き刺さったこと。そして、崩落により立ち上がった煙に身を覆われたこと。そして・・・


『しっかしまあ、久し振りの完敗だったなぁ。ハハッ!』


誰かの完敗宣言が聞こえたことだ。笑い声と一緒に。今の自分のようにボロボロになった誰かの声が。少女には、その声の主が誰かはわからない。


『よ!イイ飲みっぷり!!惚れ惚れするねぇ!』


一度聞こえ出した声は止まらない。確か、誰かにそうやって驚かされたことがあった・・・気がする。誰かはわからないが。


『え~と、何々。「ブロッコリーコーラ」・・・何だかマズそうな音の響きなんだけど。何かこう、組み合わせちゃいけないような』


確か、誰かがそうやって自分の好みに対して嫌な顔をした・・・かもしれない。果たして、何処だったか・・・。少女は少しだけ・・・記憶の貯金箱から探す。


『君が馬鹿やって馬鹿な目を見るって言うんだから、それでいいんじゃない?馬鹿は死ななきゃ治らないってのはこういうことを指すんだな』


探していると、確か誰かにそうやって人を馬鹿にするかのような視線を向けられた・・・記憶が出てきた。誰かはわからないが、どこで言われたのかは・・・すぐに出て来た。


『君はさ、少し社会勉強をした方がいい。そして痛い目を見るといい。その代償が死であっても。今の君は・・・まるで蛙さ。井の中のね。人のことは言えないけど』


確か、誰かにそうやって忠告された。誰かはわからない。だが、その場所はわかった。その場所は・・・公園。“あの”公園。

「・・・・・・」

少女は『劣化転送』を発動する。まずは、左手の手錠。次に、右手に刺さっている日本刀。
日本刀を外した後の傷からは血が溢れ出した。
だが、少女は目もくれない。近くにある鉄柱にしがみ付いて、それでも“自分の足で立ち上がる”。体中の傷は、痛覚が麻痺しているせいか然程の苦痛にはならない。

「・・・・・・」

少女は歩き始める。近くにあった半分程焼け焦げたスーツ“だったもの”を衣服代わりに巻き、倉庫を後にする。向かう先は・・・“あの”公園。
きっと・・・きっと、そこに誰かが居る。自分の頭に響くこの声の主が。きっと。






屋根の崩壊から数分後。屋根を半壊させた張本人が倉庫に姿を現す。

「よぉ、拳。生きてっか?」
「・・・き、斬山さん!!危ないじゃないっすか!!危うく俺や緋花が巻き込まれる所じゃなかったっすか!!」
「いいじゃねぇか、そんな細かいコトは。それに、どうやら拳も役得みたいだし」
「はっ!?ど、どういう・・・」
「・・・荒我。咄嗟のことだったから、今回は許すから、早くあなたの右手を退けてくれないかな?」
「えっ!?・・・。うぉっ!!!」

屋根を半壊させた男―斬山千寿―の指摘と、下から聞こえて来た焔火の声に荒我はようやく気付く。
屋根の崩壊から咄嗟に焔火を庇った荒我の右手が・・・焔火の左胸を握っていたことを。

「す、すまねぇ!!ホントにすまねぇ、緋花!!」
「・・・もう、いいわ。そんなことより、今は・・・」
「!!あ、あぁ。そうだった!!」

未だ顔を赤くしている焔火の言葉を受け、すぐさま臨戦態勢に戻る荒我。自分達は、まだ敵中にいるのだ。

「斬山・・・。まさか、お前まで・・・」
「よぉ、雅艶。羽香奈からのメール、見たぜ。随分クソくだらねぇ真似をしてるようじゃねぇか。この手の込みよう・・・全部お前の考えたことだろ?」

声を掛けて来た雅艶に斬山は言葉を返す。その言葉に、多大な殺気を込めて。

「『軌道修正』で遠方から狙撃したと言った所か?俺の『多角透視』から逃れての仕業。お前の方も中々手が込んでいるじゃないか?」
「まぁな。つまるところ、お互い様って感じか」

交わす言葉は至って普通だ。だが、その会話からは剣呑とした空気が放出されていた。

「お前も・・・『裏切り者』になりたいのか?それとも、救済委員であることをを放棄したのか?」
「『裏切り者』?放棄?馬鹿言うなよ。俺は裏切ってなんかいねぇし、救済委員をやめたつもりもねぇよ」
「ならば、この仕業は・・・!!」
「俺は裏切らねぇ。友達(ダチ)をよぉ。あのメールが踏み絵ってのは、内容を見た瞬間に分かった。
だが、そんな読みを一切しねぇ馬鹿野郎がお前等に突っ込むのも瞬間的に分かった。だから、俺はここに来た。そんな馬鹿野郎で、でも俺が胸張って誇れる友達を助けになぁ!!!」
「斬山さん・・・!!」

そう、斬山は救済委員を裏切るつもりも、ましてや救済委員をやめるつもりも無い。ただ、友達を助けに来ただけ。その言葉が、荒我の心を熱くする。

「気ぃ抜くなよ、拳。それに・・・風紀委員の焔火!!こっからは、文字通りの死闘だぜ?」
「望む所っす!!」
「・・・!!えぇ!!」

斬山の声に荒我と焔火も気を引き締める。相手は雅艶だけでは無い。他の救済委員達も相手にしなければならない。文字通りの死闘。
そんな殺気漂う中、雅艶は手に持つ白杖で床を『2回』鳴らす。そして、叫ぶ。

「峠!!」

その瞬間、雅艶達救済委員は消え去った。峠の空間移動で。跡形も無く。






「(・・・まさか、“ヤツ”が出張っているのか!?)」

雅艶達救済委員が現在居るのは、第6学区のある路地裏。峠の『暗室移動』にて、ここへ空間移動して来たのである。

「(林檎め・・・!!よりにもよって、“ヤツ”が居る支部へ連絡していたのか!?)」

そこで、雅艶は1人今後のことについて頭を悩ませていた。それは、先程斬山達と相対していた時に、『多角透視』で見たある少女について。

「(“花盛の宙姫”・・・!!)」

あの時、『多角透視』の1つが、第6学区の空を高速飛行している少女達―閨秀美魁とその背中にくっ付いている抵部莢奈―の姿を捉えていた。
特に、“花盛の宙姫”と呼ばれている少女の実力は、救済委員である雅艶の耳にも届いていた。自分の力ではおそらく太刀打ちできない、“宙姫”の実力の高さも同様に理解していた。
故に、“宙姫”との戦闘を避けるために雅艶は事前に決めた段取り通り、白杖の合図を峠に送り逃走した。
春咲桜については、斬山の仕業と“宙姫”の発見という2つの事態に気を取られたために、春咲が何時の間にか倉庫から消え去っていたのに気が付けなかったのである。
過激派の中で指揮官的役割を背負う雅艶の・・・それは、確かな誤算。

「(だが、あの“宙姫”ならば春咲桜の件についてうやむやにすることは無い!!あの少女はその手のことを極度に嫌っているからな。
これは、『裏切り者』への制裁という意味ではむしろ都合がいい。制裁は滞り無く完了した!!)」

雅艶は、そんな誤算を逆手に取る。確かに“花盛の宙姫”は雅艶の予想通り、春咲桜のような人間を許しはしないだろう。雅艶の見立ては正しい。

「(とりあえず、今は穏健派の連中の出方と、第6学区を見回っている風紀委員に気を払わねばな)」

だが、誤算は誤算。この厳然たる事実を、“花盛の宙姫”を動かしてしまったという現実を・・・後に雅艶は思い知ることになる。






「荒我達って・・・救済委員だったんだ。もしかして、梯君や武佐君も?」
「いや、あいつらはただの俺の舎弟だ。救済委員とは全く関係無ぇ」
「そう・・・」

ここは、第6学区の一角にある工事現場跡。荒我、焔火、斬山は今ここで状況整理に努めていた。

「で、どうするよ。風紀委員の焔火は、救済委員の俺や拳を捕まえるのか?」
「斬山さん・・・」

斬山は容赦無く切り込む。それは、当然のこと。風紀委員にとって救済委員のやっていることは本来許してはいけないことだからだ。
本来であれば、そんな救済委員が目の前にいるのならば、風紀委員としてその者を捕まえなければならない。これも、当然のこと。

「・・・いえ、捕まえません」
「へぇ。どうして?」
「緋花・・・お前」

だが、そんな当然のことを焔火は拒否する。

「『己の信念に従い正しいと感じた行動をとるべし』。これが私達風紀委員の信念の1つです。それと同時に、これは私焔火緋花としての信念でもあります。
そして・・・荒我や斬山さんも自分の信念に従って行動しています。そんな人達を、私は捕まえることなんてできませんよ。
荒我。これは、いつかの屋台であなたには言っていたと思うけど、覚えてる?」
「あぁ。もちろん覚えている」

焔火の信念。それを、荒我は以前耳にしている。うまいラーメンを作る屋台で一緒になった時に。

「そうか・・・。なら、今は共同戦線を張ってくれるって解釈してもいいんだな」
「はい!ここまで来て、おめおめと引き下がれませんよ、私は!!」
「俺も居るぜ、斬山さん!!こうなったら、二度とあんな真似ができねぇようあいつ等の性根を叩き直してやる!!!」
「あぁ。その心意気だ!!」

そうして、荒我、焔火、斬山の3人は早速行動に出る。各々の信念に従って。






「そらひめ先輩―い。わたし、お腹がすきましたよー」
「チッ、仕方無ぇなあ。ほら、ビスケット。食うか?」
「わぁ。食べます、食べますー!!」

ここは、第6学区の空。“花盛の宙姫”こと閨秀と抵部は、風紀委員でありながら救済委員である春咲桜を捕まえるために、タレコミ情報にあった第6学区を飛んでいた。

「全く、お前がトイレがヤバいって言ってきかないから乗り遅れたじゃねぇか」
「だ、だって・・・あの時はほんとうにヤバかったんですもん」
「はぁ・・・。こんなことならあたし1人で来た方がよかったかな?」
「ひ、ひどいですー!!」

溜息を吐く閨秀。実は数十分前に、遠くから建物の屋根が崩壊する姿を目にした閨秀達は一目散に現場へ急行しようとしたが、
同行している抵部が「もれるー!!もれるー!!トイレに行かせてー!!」と叫んだため、急遽トイレを探す羽目になったのだ。
その後に、すぐに急行したもののそこ―屋根が半壊した倉庫―には既に誰も居なかったのである。

「まぁ、それでも手掛かりの1つ2つはあったからよしとするか」
「そうですねぇ。まさか、瓦礫の中からその・・・はるさき桜っていう人の鞄が見付かるとは思いませんでしたねー!」
「あぁ」

誰も居ない現場で、せめて手掛かりになるようなものが無いか『皆無重量』を用いて調べていた閨秀が見付けたものは・・・春咲桜の通学鞄であった。
つまり・・・あの場所に春咲桜が居た可能性が高いということ。同時に、渚に掛かって来たタレコミの信憑性が高まったということ。

「次は逃がさねぇ。必ず捕まえてやる!!」
「じゃっじめんとの信念にかけてー!!ですよね?」
「・・・あぁ。勿論!!」

『己の信念に従い正しいと感じた行動をとるべし』。閨秀はこの風紀委員の信念を気に入っていた。何故なら・・・誰の邪魔も受けずに己の信念を“貫き通せる”からだ。
だから、閨秀美魁は“貫き通す”。己が信念を。風紀委員や警備員でも無い人間が、治安活動に携わることを許さない、その信念を。






「ハァ、ハァ。くそっ!!」

ここは、第6学区のある歩道。そこに1人汗まみれになって走っている男がいた。その男の名は、鉄枷束縛。春咲桜と同じ159支部に所属する風紀委員である。
彼は、支部に掛かって来た真偽不明のタレコミ―春咲桜が救済委員である―が真実か嘘か見極めるために、情報にあった第6学区を彷徨っていた。

「ゴホッ、ゴホッ。・・・ハァ、ハァ。春咲先輩・・・!!俺は・・・俺は!!」

鉄枷は息苦しさから咳き込みながらも、走るのを止めない。でないと・・・考えてしまうから。己が尊敬する先輩が救済委員であるかもしれない・・・その可能性を。


『鉄枷君。大丈夫だって。また・・・戻ってくるから。それまで、私の分まで頑張って』


「春咲先輩・・・!春咲先輩・・・!!春咲先輩・・・!!!」


あの言葉は、あの微笑は、あの姿は果たして何処までが本当で、何処までが嘘だったのか。鉄枷は・・・考えたくも無かった。

continue!!

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年05月31日 23:29