砲撃と暴虐が響く戦場にて、三組の主従がそれぞれ戦っている。
深海棲艦という脅威を前に、各々ができることを行っている。
ビスマルクは砲撃を行いつつ吹雪から離れぬよう、適度な距離を保つ。
天津風も同じく、出来る限り恭介の傍で砲撃を続行している。
そんな中、唯一といっていい近接戦闘のプロフェッショナルである彼女――ベアトリスは縦横無尽に戦場を駆け抜けていた。
手に持つ戦雷の聖剣を振るい、現れる深海棲艦を次々と落としている。
そして、マスターである黒鉄一輝はそんな彼女を見て思案する。

(セイバー、手を抜いているね?)
(ありゃ、バレちゃいました? さすが私のマスターですね)

 それは、この混迷極まる戦場には似つかわしくない通常通り――世間話をするかのようなやり取りであった。
ベアトリスは真価たる雷を全く使っていない。
一輝も陰鉄を具現化しておらず、あくまで自衛の為に後ろへと下がっているにすぎない。
彼らは本気で戦っていない。少なくとも、戦い慣れした二人の顔に切迫の文字はない。

(もっとも、剣技では本気なんだろうけど)
(ええ。真価たる力をこの程度の敵に使うまではありません。それに、私の直感なんですが、どうもきな臭い。
 見られている、探られている、そういった靄が頭にこびりついているんです。
 ともかく、本気で敵を掃討するにはまだ早いと判断しました)
(なるほどね、セイバーの思惑はわかったよ。あくまで、本気で戦えど、全力では相対しない。
 この場はそうやって切り抜けよう)
(了解。直感なんて不確かなものを信じてくれて感謝します)
(当然だよ。僕らは一心同体なんだ、この程度のことで相方を信じられなくて、聖杯を取れるとは思えないからね)

 敵の大玉が来るならともかく、無闇に全力を出しては後がない。
これは戦争だ。長期的視野で戦わなくてはならない、生存重視の耐久マラソンのようなものだ。
延々と戦って勝ち上がれる驕りなんてない。
上手く戦いを捌き、ここぞという時には躊躇なく切り札を切れる豪胆さ。
勝者に求められるのは、それだ。
本来の自分が良しとする戦い方ではないが、四の五の言っていられる程、自分達には余裕はない。
(あくまで前哨戦。偵察に過ぎない今、一気に勝負をつける必要はない)
(とはいえ、ダラダラと長引かせては不利益を被りますし、手柄を横取りされる可能性も生まれます。
 …………あまり考えたくはないですが、後ろから撃たれる、ということもありますからね)

 それは、ベアトリスが特に注意していることでもあり、現在目下で訝しんでいることでもある。
棗恭介。あの食えない男はどうも信用ならない。
直感という不確かなもので人を疑いたくはないが、自分の感性を信じれない愚物であるつもりはない。
故に、彼は限りなく黒に近い灰色。いつ如何なる時でも油断ならない、敵候補。
一輝からしても彼は油断ならない男であり、気を抜くつもりは欠片もない。

(それに、そろそろ頃合いですね)
(うん、そうだね)

 そんな彼の思惑を全て推し量るまでにはいかないが、ある程度までは読める。
ひっきりなしに現れる敵に消耗戦を強いられる自分達。
戦況が膠着状態となった今、賢い彼が下す判断は一輝達にも予測はつく。

「吹雪、黒鉄、これ以上は利がない。撤退だ」

 今回の目的はあくまで偵察である。
敵の親玉を倒すといった本業がどれだけ大変か推し量る、もしくはどれだけの被害を海が被っているのかを確かめるが為である。
奇襲を受け、こうして戦闘を行っているが、敵の数も減っている。
今なら撤退もできる。無理に殲滅をする必要性は見受けられない。

「そうですね。僕としても、此処で消耗はまだ避けたい」

 一輝からしても、勝負を今すぐに決めなくてはならないと考えてはいなかったので、その提案は渡りに船である。
ひとまず、海の状況と敵の兵力について、大まかにわかっただけでも良しとしたい。
ベアトリスや他のサーヴァントも同意見であったらしく、異論は出ない。
「……吹雪。気持ちはわかるが、今は退くぞ。こいつらを放置したらまずいってのは承知の上で、だ。
 やるならもっと準備をしてからの方がいい」
「わかってます。けどっ」
「いいか、吹雪。無茶と無謀を履き違えるな。この先、無茶を強いられる場面はあるし、そうなった時は覚悟を決めてやるしかない。
 なにせ、選択肢はそれしかないんだからな。だけど、今回はまだ余地がある。逃げても、後があるんだ」

 つけた結論は、ここで決着をつける必要はないということだ。
ヘドラが陸地へと侵食し、この聖杯戦争が崩壊するまで猶予はあるはずと判断し、今は退く。
しっかりとした作戦を立て、それから戦いに臨むべきである。

「無謀な突撃はまだ早い。そう慌てることはないさ、あいつらとはまた戦うことになる」

 そう言葉を置いて、各々サーヴァントに抱えられ、急いで撤退をすることになった。

(マスター。やはり、あの少年は信用できません。
 この鉄火場であっても、『落ち着きが在りすぎる』)
(そうだね。僕や吹雪さんみたいな修羅場を潜り抜けた経験があるなら、だけど。
 棗さんはたぶん、そういった経験はない。身体能力こそ高いけど、動きは素人だ)
(頭脳明晰で裏方に回すと、存分に能力を発揮するタイプですね。
 交渉といった分野ではさぞや上手く立ち回るでしょう)

 撤退の最中、一輝達の話題になったのはやはり棗恭介であった。
総じて、今回の戦いでもそつなく振る舞っていた彼の評価は高い。
命が懸かった戦場であっても、落ち着きを失わず冷静な判断を最後まで下し続けた。

(何かしら、逸脱した経験を積んでいるのかもしれないね。
 とりあえず、軽々しく信用していいとは思えないかな)
(同感です。ひとまずは様子見でいきましょう。
 後ろから撃たれるなんて笑えませんけど、今の所は仕掛けてはこないはず。
 共通の目的がある限りは、頼もしい味方になりえる、と)

 彼は危険だ。このまま放置していると、何れは自分達を脅かす存在へと間違いなくなるだろう。
故に、早急に討たなければならない。仲間が揃わぬ内に、どんな手を使ってでも葬る。
幸いなことに、自分達の手の内はほぼ明かしていない。
正面からだろうが、後ろからの暗殺だろうが、取れる手段は幾らでも思いつく。
(注意すべきは棗恭介。その認識は変わりませんが、それ以上に警戒すべきなのは吹雪ちゃんのサーヴァントですよ。
 まさか、こういった形で出会うなんて思いもしませんでした、びっくりです)
(ということは、知り合いかな? それにしてはお互い、全く口をきいていないけど。
 積もる話もあるなら、現界して話してみたらどうだい?)

 もっとも、ベアトリスにとって、恭介はあくまでついでだ。
彼女には彼よりも反応すべき存在がいる。
向こうは全く気付いてないだろうが、ベアトリスは忘れない。
祖国を護った偉大なる戦艦の姿を軍人であった彼女が忘れることあろうか。

(いいえ、向こうはきっと私のことなんて記憶にとどめていませんよ。
 ただ、私は覚えている。忘れることなく、強く記憶に残っている。
 戦艦ビスマルク。護国の守護を担った戦艦。何故か、女性の姿になっていますけどね。
 とはいえ、そんな些細な事はいいんです。
 聖杯を狙う以上、あの大戦で活躍した誉れある戦艦と戦わなくてはならない。
 私としましても、油断なんてできっこないですし、戦うなら、全力かつ本気でやらないといけませんから)

 それは、ベアトリスの創造の位階をもってして、勝てるかどうか。
彼女にここまで言わしめる強さを誇るのだろう、ビスマルクというサーヴァントは。
しかし、それでも勝たなくてはならない。勝ち残るには、避けられない敵である。
正面から倒せるならそれに越したことはないが、念には念を入れたい。

(つまり、セイバー。君は狙うなら、吹雪ちゃんの方がいい、と言いたいのかい? もしも勝てないと判断したなら……)
(あらら、心配してくれてるんです? もしかすると、私が負ける、と?
 甘く見ないで下さい、マスター。例え、相手が祖国の名高き戦艦であろうと――負けるつもり、ありませんから)

 だが、そんな念など不要と言外に言う彼女は果てなく強い。
それは過剰でも過小でもない純然たる評価だ。
能力を使わなくとも、剣技だけでも戦える。同じ剣士として、一輝にはわかるのだ。
そして、剣技という領域で高みに至った彼女が負けるつもりはないと言ったなら、後は信じるしかない。
「さてと、ひとまず撤退できた訳だが……どうする?」

 それよりも、今は目先のことを考えなくてならない。
ひとまず、敵から無事に退却したが、どうしたものか。
恭介の問いかけに対して、一輝が答えを返そうとする前に、声を上げる少女が一人。

「その、いいですか!」
「おう、何だ? 苦情文句なら幾らでも受け付けてやるぞ」
「そうではなく、こうして同盟を組めたんです、作戦会議がしたいなってっ!」
「そうだな。ヘドロやその他諸々、どうやって対処していくか。やる価値は十分にある。
 腰を下ろして言葉を交わすのは良いと思うが……」

 吹雪が出した案は理にかなっている。
海岸に向かう途中、幾らかの言葉を交わしたとはいえ、最低限だ。
今の自分達は相互理解が足りない。戦うにあたって、見解を一致させておくのは悪いことではない。
とはいえ、一輝達が持つ切り札は隠すけれど。それは恭介の陣営も考えていることだろう。

「――――吹雪、本音は?」
「出会ったからには仲良くしたいなぁ~って、せっかくこうして協力できるんだしなぁ~って」
「…………お前なぁ」

 もっとも、吹雪の思惑はそれとは別のものである。
仲良くなりたい、絆を深めたい。
その思いは素晴らしいことであるし、ここが聖杯戦争が行われる舞台でなければ、素直に了承の意を込めて返答できるというのに。

「黒鉄、お前はどうする? できることならでいいんだが……」

 こいつの思惑に乗ってやってほしい、と。
言葉を最後まで紡ぐことはなかったが、そう伝えているのだろう。
一輝としてはいつかはこの手で斬る相手と仲良くなど、あまりしたくない。
下手に情が移ると、刃が鈍る。彼女達の良心に感化されるなどあってはならないから。
願いを叶える聖杯以外、見えない聞こえない知りもしない。
そう、思いたい。
「…………その振りでしたら、僕が取れる選択肢なんて一つしかないと思いますが」
「まさか。ここで断ったっていいんだぜ?」
「断った所で状況が好転するなら、遠慮しますって言えるんですけどね。
 仕方ありません、提案に乗りますよ」

 ため息混じりに出した妥協案ににっこりと笑みを浮かべる吹雪に対して、一輝は思う。
彼女のように真っ直ぐに在れたら。
それはかつての自分、または奇跡を掴まなかったら辿れたかもしれない未来を想起させるかのようで。

(――揺らぐな。戦うと決めたはずだ、奇跡に可能性を見出したはずだ)

 きっと、それは夢物語。
イフはあくまでもイフでしかなく、今の自分こそが現実だ。
誰かに誇れる姿とは到底掛け離れてしまっても、自分なのだ。
夢の為に、夢だけを糧に走る馬鹿な男。
それで、満足だ。












 観察から得られた情報はそれなりに有益だ。
もっとも、今後のことを考えると頭が痛くなるけれど。
少なくとも、目下の懸念は祖国で誉れ高き戦艦と謳われたビスマルクが参戦していることだ。
同郷の仲間がこの戦場にいるなんて、とU-511は表情を少し顰めて溜息をついた。
彼女達は戦場から撤退していったが、アレはまだ本気ではない。
大方、態勢を立て直す為であろう。

(ビスマルク姉さんと戦うことになるなんてね、どうしたものかな)

 追走はやめておいた。
少しでも姿を察せられたら、自分の正体など丸わかりだ。
何せ、自分達は同郷の知り合いなのだから。
その縁からややこしいことになることは間違いない。

(それにしても、いい気分はしないね。同郷、護国の戦艦と戦うのは)

 正直言って、彼女と戦うのはあまり気が乗らない。
国を護り、沈む最後の瞬間まで戦い抜いた戦艦を相手取るなんて。
だからといって、このまま戦わずにいられるといった楽観視はできない。
いつかはぶつかる時がくる。
聖杯を狙う限りは、どれだけ仲が良かったとしても、争わなくてはならない。
自分達が放り込まれているのは戦争だ。
それも経験したものとは違い、生き残る枠が一つしかない最悪の戦いである。
同盟を組もうが、最後は破綻する。
だったら、最初から可能性など、見出さない方がいい。
マスターに従い、戦っていたらいい。
兵器として、U-511は振る舞えばいい。
【一日目・夕方/D-3】

【吹雪@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態] 健康、一輝に思うところがある
[令呪] 残り三画
[装備] 高校の制服
[道具] 艤装(未装着)
[所持金] 一万円程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争からの脱出。
1:棗恭介、黒鉄一輝と同盟してことに当たる。
2:ティキが恐ろしい。
3:討伐クエストに参加して、犠牲になる人の数を減らしたい

【ライダー(Bismarck)@艦隊これくしょん】
[状態] 健康
[装備] 艤装
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:吹雪を守る
1:棗恭介、黒鉄一輝と同盟してことに当たる。ただし棗恭介には警戒を怠らない。
2:ティキは極めて厄介なサーヴァントと認識。御目方教には強い警戒

【棗恭介@リトルバスターズ!】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[装備] 高校の制服
[道具] なし
[所持金] 数万円。高校生にしてはやや多め?
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯入手。手段を選ぶつもりはない
1:吹雪、黒鉄一輝と同盟してことにあたる。
2:吹雪たちを利用する口実として御目方教のマスターを仮想敵とするが、生存優先で無理な戦いはしない。
3:吹雪に付き合う形で、討伐クエストには一応参加。但し引き際は弁える。

【アーチャー(天津風)@艦隊これくしょん】
[状態] 健康
[装備] 艤装
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:恭介に従う
1:マスターの方も艦娘だったの? それに島風のクラスメイトって……
2:吹雪、一輝の主従と同盟してことにあたる。

【黒鉄一輝@落第騎士の英雄譚】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[装備] ジャージの上に上着
[道具] タオル
[所持金] 一般的
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取る。
0:止まってしまうこと、夢というアイデンティティが無くなることへの恐れ。
1:棗恭介、吹雪と時期が来るまで協力する
2:後戻りはしたくない、前に進むしかない。
3:精神的な疲弊からくる重圧(無自覚の痛み)が辛い。

【セイバー(ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン)@Dies irae】
[状態] 健康
[装備] 軍服、『戦雷の聖剣』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターが幸福で終わるように、刃を振るう。
1:ビスマルクに対して警戒。
2:棗恭介に不信感。杞憂だといいんですけど……
3:マスターである一輝の生存が再優先。
[備考]
※Bismarckの砲撃音を聞き独製の兵器を使用したと予測しています。

【U-511@艦隊これくしょん】
[状態] 健康
[装備] 『WG42』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う
1:マスターに服従する
2:あれ……艦娘、だよね……? ビスマルク姉さんもいるなんて……

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最終更新:2017年01月10日 23:47