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かえせ かえせ かえせ かえせ


みどりを 青空を かえせ


かえせ かえせ かえせ


青い海を かえせ かえせ かえせ


かえせ かえせ かえせ


命を 太陽を かえせ かえせ かえせ



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そこに光はなく、底は暗かった。
屑星の瞬きひとつ見えない闇の中。
虫の羽音ひとつ聞こえない無音の空間に、ソレはガラクタのようにいた。

ソレは既に死体と同等だった。
暗闇の中では姿は見えないが、ソレは少女の姿をしていた。
目があるべき箇所の片方は空洞があるだけで、手足が不揃いにぶら下がっている様は凄惨そのものだ。
だが、他人がソレを光の下で見たとして、同情を寄せる事はそうないだろう。

青ざめたという表現を超えた、死蝋さながらの白貌。
頭部に被った、海月と鮫をかけ合わせたような異形。

ソレは人の形をしているというだけで、到底人ではあり得なかった。


聖杯戦争が行われる舞台。海岸より遥かに離れた海域の深海の底。
そんな人が寄り付かない場所にいた異形のものは、この世界に招かれたマスターの一体だった。
魔術師の使い魔と言った方が通じる風体だが、確かにその肉体には参加の証である聖痕、令呪が宿っている。
つまり、ソレはまだマスターの資格を有していた。全身にくまなく傷を受けた瀕死であるにも関わらず。

だがそれは当然の話だ。
ソレは契約した英霊を失っていない。そもそも、まだサーヴァントを召喚してすらいない。
この傷は敵である英霊から受けたものでも、マスターから負わせられたのでもない。
この電脳の海に行き着くより前、ソレが元いた世界の時点で、海の底に沈む残骸と同義の状態だった。



深海棲艦。
世界に突如現れたソレを、人はそう呼称した。
海より現れ、海上の人を襲い、勢力を拡大していく正体不明の存在。
標的を見つければ問答無用で襲撃する。対話の姿勢はごく初期に失われた。
対抗するため人類が産み出したのは、旧き軍艦の魂を宿した少女の兵器、艦娘。
敵を滅ぼし、味方に勝利を齎す。鉄と硝煙香る鋼の戦姫。
人々は彼女らを造り出し、彼女らを指揮し、彼女らを称賛した。
その武勲の錆として、ソレは全ての武装を失い、接近する魚雷を受けて大破し、海の藻屑の一部となった。
そうして撃破されたソレが召喚され海の中が初期位置となったのは、その種族の特性に配慮したからなのか、最期の瞬間を再現した結果か、此処に招いた何者かの悪意なのか。

残骸はたゆたう波に揺られ砂地に埋もれている。
自己修復が間に合う範囲はとっくに超えており、再起動する可能性は皆無。
召喚に応じる英霊も現れない。道理である。招かれて数秒後消え去ると思えるマスターを選ぶはずもない。
敵を捜す他のマスターすら、ここには来ない。敵に討たれるのでもなく、ただ朽ちるだけの時を待っていた。

半壊した感覚器官は何も見ず、何も聞かず、何も感じない。
全身を包む水の冷たさも、横たえた砂の固さも、全てが遠い。
この場所が深海であることを忘れさせるほど、ここは死の世界だった。いや、深海こそが現世で最も死に近い世界なのかもしれない。
普通の生命体とは外れた生態系であるソレに死の観念が備わっているかは、定かではないが。
ただ、知らないはずの知識が装填されていく。
聖杯戦争の舞台に集まったマスター達が受け取る基礎知識。死にかけで招いたソレにすら情報は与えられた。
徹底した戦闘生物であるソレは、ほんの僅かに動いていた機能でただ機械的に取得した情報を計算した。

戦争という単語。己がしていることを『敵』はそう呼称していることは知っていた。
電子という技術も、敵が頻繁に用いる装置の一種であると認識している。
聖杯、英霊という概念。それは分からない。崇めるという行為を、ソレはまるで解せなかった。


願い。
欲望。
意志。

意味が分からない。


己が何に拾われ何処に流されたか。ソレは正しく理解した。
知識を獲得し、この状況を理解して、しかしソレは結末を変えようとはしなかった。


第一に、ソレには動くだけの余力が残っていなかった。
轟沈の一歩手前。いつ機能を閉じてもおかしくない。今まで停まってないことの方が不思議な状態。
ただ機能(いのち)を終えてないというだけ。人で例えるなら危篤状態の老人だ。

第二に、『願う』という行為そのものがソレには欠如していた。
深海棲艦という『世界の敵』に求められたのは、戦い破壊し襲う。その負の指向性のみ。
棲艦自身が何かを願い、求めるなどという事は無い。
ヲ級をはじめとした上位種には人語を喋り高度の戦術を展開する個体もいるが、その全ては戦闘の範疇に限定されたもの。
感情と呼べるものは憎悪が凝り固まった思念のみ。個が抱く欲望を得た個体は未だ発生していない。
人類の認識において、深海棲艦とは目的を以てこちらに侵攻してくる侵略者ではなく、ただの危険生物。
狩られるべきもの、駆逐されるべき害獣でしかなかった。
自らに益有りと見なされない限り、ソレらはただの敵であり続ける。

それが深海棲艦の最期だ。

それが深海棲艦の運命だ。

全ての深海棲艦に植え付けられた機能通り、轟沈した個体は海に消える。



しかし、それは。


「…………」


全て、正常な世界で最期を迎えた場合の話だ。



聖杯とは運命を廻す大窯だ。
大いなる機械の歯車に、神の気紛れなどという不純物は介在しない。


「…………」


偶然は必然に置き換わる。
何の意味もなく、価値を生み出さず、終わる生命を内部に組み込む方式などなく。



「…………」


願いなどない。欲望など分からない。意志など持たない。
それではソレがここにいる説明がつかない。このまま朽ち果てる末路は始めから設定されてなどない。
聖杯に招かれたから理由が出来たのではない。理由があるから、聖杯はソレを己の庭に招いたのだ。


「…………」


無論、そのような夢想にソレが思いを馳せることはない。
人類への強烈な悪意をたった一つの命令として受理し機械の如く動くソレらには余分な思考は働かない。


「…………」

しかしここに、轟沈しながら別世界へ飛ばされたモノが存在する。
一秒後に死骸と化す運命が、数刻程度とはいえ引き延ばされた個体がいる。
その本来あり得ざる空白に、ソレはひとつの記録を再生した。


「―――――――――」


自身に向けられた砲塔。
筒が火を噴き、刹那視界の一部が落ちる。
残った眼で補足する。そこには煙を上げる砲を持った、一機の駆逐艦(しょうじょ)。
衝撃で揺さぶられた頭蓋で損傷を確認、僚艦を犠牲に撤退を選択した、敗走の記録。


「―――――――――」


次に浮かぶのは、最後の記録。
兵力の全てを投入した一大決戦。
敵の兵力も相当だが、自軍の戦術により棲姫は無尽に再生し戦闘を続行できた。
自分に傷を負わせたのと同じ、あの駆逐艦さえいなければ。


「―――――――――ヲ」


痛覚に怯む神経は備えていない。
だがその時から己の中で何かが軋む。検知できない誤作動が続いている。
砲撃に勝る火が噴き続ける正体(もの)をソレは終ぞ理解しなかった。この時までは。


「ヲ、アアア」


僚艦(みかた)も敵艦(てき)もいない孤独の深海。
唯一の目的であり、同時に縛りであった命令が途絶えた今。
ソレは芽生えた正体不明の衝動を持て余し―――ならば放てばいいと、あらゆる枷を解放した。




「ア、ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"――――――――――――!!」



海が震える。
海に住まう生命が、荒ぶる感情の産声に身悶えする。

それは、まさしく魂の絶叫だった。
残されていた動力、命を使い果たして告げた意志。
目的のある行動ではない。何に対してのでもない、ただ彼女が溜め込んだ自身だけの―――怒りと憎悪の咆哮。
今消えようと、己がここにいた証を示さんとした、無垢なほど漆黒の産声。


そしてその瞬間必要な儀が満たされ、誰に気付かれぬまま一つの召喚が達成される。
光と、地上で巻き上がる突風の代わりに巨大な渦潮が彼女の周囲で巻き起こる。
先の叫びの振動で気絶していた魚群は逃げ出せるわけもなく荒波に揉まれ―――海水に溶けたように消えた。


激しく照らされた暗闇で、まだ用を成す右目で彼女はソレを見た。
有害物質(ヘドロ)を思わせる毒々しい色を帯びた、黒い泥の塊。
人間にとっては恐怖の具現としか映らない物質が浮かんでいる。
その周囲で舞い散る白い欠片。魚の標本そのものである骨は、今まで海を悠々と泳いでいた魚の成れの果てだった。


「トオウ、アナタガ、ワタシノマスターカ」


酷く粘着質な音が、言葉の意味を持って鳴り響く。
人間どころか、生き物としての知性も感じさせないドロドロとした声。
それこそが彼女が呼び出した存在がおよそ英霊という範疇とはかけ離れた、怨霊の類であると確信するに足る証拠だった。
だが人類の罪の具現、罰の化身という側面を逸話により与えられたソレは、同時に信仰に値する存在であることもまた確かだった。

聖杯から得た知識から最低限の確認を取るだけの音声。
それでも彼女は、ソレが己にとって必要なものであることを戦術的に理解していた。
ライダーのクラス。その真名。特筆した能力。
かつてないほど加熱した思考は情報を統合し、いま真っ先に取るべき選択を実行する。

「ヲ、ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!」

残っていた右腕に刻まれた印に光が灯る。
マスターの証でもありサーヴァントへの絶対命令権でもある令呪。魔術的な奇蹟もひとたび顕現すれば誰でも使用できる武器でしかない。
有り余る衝動を吐き出して命令を下す。元より彼女は戦術指揮を基礎とする空母型。人語を成していなくても意味を通すだけなら容易い。
まして人でないものならば同族に伝える容量で事は成る。


サーヴァントはマスターからの令呪を受け、その方法を知識に依り正確に施行した。
塊が形を崩し、中心部が歪み窪みが出来た。
眼だ。巨大な眼球。赤と黄色の色彩の、怪物に相応しい眼が飛び出てきた。
そしてマスターへと勢いよく飛びつき―――その身に食らいついた。

「■■!■■■■■■――――!■■■!!■■!■■■■■■■■■■■■!!!!!!」

塊に定まった形状はなく、細く管状に変化して彼女の肉体に入り込んでいく。
彼女の全身は欠損だらけで、従って全身をくまなく黒い管が覆い尽くす。
命あるものでは耐え切れない激痛。サーヴァントと化しより強力となった、この英霊の特徴である『毒素』が彼女を貪り尽くす。
令呪の命令と、契約の結びつき、そしてマスターとサーヴァントそれぞれの特性が噛み合わさなければ自殺にしかならない。
そしてその条件を全て満たした彼女は生き延び―――その身の修復を完了していた。

「…………」

傷を埋め合わせた姿は見違えるほどだ。元の姿さえ忘れてしまうぐらいに。
喪失していた手足は泥と同じくどす黒く変色したものに置き換わっていた。全身を走る赤い線は血管のように浮き出ておぞましさを増している。
空洞だった左目の赤と黄の螺旋が渦巻く気色は、憎悪に満ちた右目と対称にひたすら無機質だ。
マスターとサーヴァントの融合体。通常は起こらぬ異例のケースは、異形と異形の間でこそ成立した。

頭部の異形が口を開け、複数の泥が吐き出される。
泥は生き物の如く蠢き独自の形状を取りながら形を成していく。

ひとつは牙。ひとつは砲。
駆逐型。雷巡型。軽巡、重巡。多種多様に枝分かれし、異形が数を増やす。
艦隊編成。サーヴァントの肉を切り分け、深海棲艦という軍勢は水底で増産される。
魔力がある限り兵力は無限。そしてこのサーヴァントはあらゆる毒を餌にする。
それがかつて地上に君臨した窮極の幻想種「怪獣王」を追いつめ、遂に駆逐しきれなかった不滅の怪獣―――。



「セ……カエセ………………
 カエセ………………!」



こうして、一組のマスターとサーヴァントがこの聖杯戦争に参戦した。

人類の敵として討たれ、憎悪を抱く深海棲艦、呼称『空母ヲ級』。

汚染された自然を糧にして、それを人類へと振り撒いた公害怪獣『ヘドラ』。

二体の害獣は世界を産み出した何者かの意志に左右されず世界の害となる。
地上で鎬を削るマスターとサーヴァント、その誰一人として脅威に気付かぬまま。


【クラス】
ライダー

【真名】
ヘドラ@ゴジラ対ヘドラ

【パラメーター】
筋力‐(D) 耐久‐(B) 敏捷‐(C) 魔力C++ 幸運E 宝具C+

【属性】
中立・狂

【クラススキル】
対魔力:E
 魔術に対する守り。
 無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:EX
 騎乗才能というよりも、このサーヴァントの特性そのもの。
 風に乗り、水に乗り、人に乗り、世界の全てに乗り移れる。

【保有スキル】
無我:-
 ヘドラには個体の明確な精神・自我が確認されないため、あらゆる精神干渉を無条件で無効化する。
 仮にあるとしても、人類の尺度で解釈することは不可能だろう。

腐毒の肉:―
 汚染物質により構成された肉体。
 このサーヴァントの近接能力値は、このスキルのランクによって変動する。
 また接触した対象に腐食ダメージを与え、耐久判定に失敗した物体を破壊する。
 汚染物質を取り込むほどランクは上昇し、Aランクまでになればサーヴァントの肉体も容易く溶解する。
 それ以上まで高まった場合、低ランクの宝具ですら破壊対象に含まれる。
 物理攻撃はほぼ無力だが乾燥に弱いという性質のため、炎や雷などの高熱が有効。
 現在はマスターであるヲ級と融合したため、ヲ級の能力値を底上げしつつそのままステータスに割り当てている。 

【宝具】
『溶解汚染都市(ペイルライダー・スラッジ)』
ランク:C+ 種別:対衆、対国宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
 ヘドロやスモッグなどの排気物質を媒介に増殖し続けるヘドラの特性、
 ひいては公害という現象への恐怖そのものが宝具となったもの。
 ヘドラにより汚染された物質はヘドラの一部となり、ヘドラそのものとなる。
 物質、水、大気、土地、霊脈をも侵し、そこからヘドラは無限に湧き出る。 
 ただの生物や機械は瞬く間に溶解するが、なんらかの神秘を帯びた物質や強靭な生命なら
 取り込まれつつもその特性を備えた個体と化す可能性がある。 
 仮に一国を汚染し尽くした場合、その土地全てがヘドラという怪獣となり、また別の海域に浸食するだろう。

 生まれたヘドラは全てが同一存在であり、吸収、分離も容易。
 マスターの影響か、分離した個体は同族である深海棲艦の姿を取る。

【weapon】
汚染物質により構成された肉体。目玉からはヘドリューム光線を放射する。
飛び散った破片すらライダー自身であり、自律して行動する。
またマスターの装備もこれらの影響下にある。

【怪獣背景】
宇宙からやって来たらしい鉱物生命体が、地球の汚染環境と合わさり異常進化して誕生した怪獣。
都市近海に堆積していたヘドロや公害による汚染物質と結合し、成長し都市を襲撃する。
凶悪な有毒ガスと硫酸の霧を撒き散らして移動するため、死傷者と発病者の合計は1000万以上を記録している。
怪獣王ゴジラとの交戦も、当時公害問題が深刻化していた日本では一際強化の度合いが高く一度は敗走に追い込んでいる。
更に成長しての再戦時は弱点を着いた自衛隊の援護もあり敗北。この時被害をもたらした巨大な個体は倒されたが、
その他の小さな個体は生き残っている描写のまま物語は終わってしまう。

【マスターとしての願い】
????


【マスター】
空母ヲ級(隻眼)@艦隊これくしょん(アニメ版)

【マスターとしての願い】
■■■■■■■
艦娘、轟沈。

【weapon】
発艦部
 頭に被った異形の口から艦載機を発艦させ、空爆を行う。
 触手も備わっており、頭部から独立して戦闘を行った記録も存在している。

契約した反英霊の特性と深海棲艦の性質が合わさり、サーヴァントとの融合体、デミサーヴァントと化している。

【人物背景】
世界中のありとあらゆる海域へ突如として出現した異形生命体、深海棲艦。その正規空母種。
作戦中左目に被弾しており便宜上「隻眼ヲ級」と呼称される。
人語を介さず思考体系は判然としないが、艦隊の指揮や敵部隊の電報を傍受、司令部へ奇襲をかけるなど、
戦術に関する高い知識と知能を備えているのがうかがえる。

12話で吹雪に轟沈された後にこの世界に漂着した。
大破状態の肉体を、令呪を使いヘドラが憑りつくことで延命している。

【基本戦術、方針、運用法】
とにかく生命力の強さが厄介。汚染物質(この場合廃棄されたダストデータなども含む)を取り込み、理論上際限ない増殖をする。
初期でなら魔力源にしてるマスターを倒せば分離した個体も自然消滅するが、規模が拡大すると話が別。
マスターが死んでもNPCや地脈に憑りついて延々と増殖してしまう。こうなると虱潰しに焼却していくしかなくなる。
その上ヲ級は元々戦闘に特化した知性の生命体なので、ヘドラとの融合にあっても思考が乱れることなく的確な指揮が取れる。
成長したヘドラは飛行して上陸するので、被害は海域のみには留まらない。
対処には早期発見と媒介を渡さないこと。逆に増殖を許しさえしなければ『FINAL WARS』ぐらいには弱体化するだろう。

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最終更新:2015年12月08日 02:14