アットウィキロゴ
 死ね、死ね、死ね、死ね。
 憎悪の声が、地獄のような場所で響いていた。
 いや、正しくここは地獄と呼んで然るべき場所だった。
 少なくとも少女にとって、ここは忌むべき世界の象徴だった。
 歯を食い縛り、押し寄せる苦痛に耐える。
 嬌声など、あげるわけがない。
 春日野椿にとってこの行為は、どこまでも苦痛でしかないのだから。

――こんな。

 汚らわしい体が、少女の絹のような素肌に触れる。
 汗と唾液と汚い液体が飛び散る、ここは少女を閉じ込める檻の中だった。
 はじめの内は嘔吐すらしたが、人間の体はご丁寧に、苦痛へ慣れるという機能を持っている。
 今じゃ、椿は嫌がる素振りさえ見せない。ただ行為が終わるのを待って、その間世界を呪い続けている。

――こんな世界、なくなってしまえばいい。

 椿は生まれつき目に障害を抱えていた。
 自由に視認できるのは手元くらいのもので、だからここから抜け出すことも自分ではできない。
 良心の呵責に駆られた誰かが椿を助け出してくれる――そんな希望もとうの昔に捨てた。
 千里眼の巫女なんてインチキを信じるような連中が、どうして椿を助ける理由があるだろう。
 彼らは、こうすることでご利益に預かれると本気で信じているのだ。
 おめでたい頭。いや、真におめでたいのは、こんな無様な自分自身の姿かもしれない。

 椿は恨んだ。
 未来を見、選ぶ日記を手に入れて、変わったことは少しだけだった。
 椿は呪った。
 しかし哀れかな。春日野椿は千里眼の巫女でも何でもない。

 奇跡を起こすことなんて出来るはずもないのだから、その思いは所詮思いどまりだ。
 世界を壊すのはおろか、世界を変えることだってできない。

「辛いかい」

 その時、何かが飛んだ。
 弱視の目ではぼんやりとしか認識できなかったが、とにかく赤いものだった。
 どさりと何か重たくて水っぽいものが地面に落ちる音がして、それから悲鳴が響いた。
 何が起きたのか分からない。分からないけれど、何かが起きたことは分かる。

「辛いだろうね。それに悔しいだろう」

 でも、それは今日で終わりだ。
 そう言って手を差し伸べるのは、女の子のようにも見える綺麗な顔立ちの少年だった。
 年は椿と近いか、少し上くらいだろうと思う。
 おずおずと伸ばした椿の痩せた手を、少年は優しく取ってくれた。
 その姿は孤独の中にあった椿には、物語の王子様みたいに眩しく見えて――


「サーヴァント、キャスター。君の願いを叶えるために、現界した」


 椿はすべてを思い出した。
 雪崩のように溢れてくる記憶が、ここはどこなのか、自分は何を思ってやって来たのかを教えてくれる。

 ここは架空の世界。
 椿を取り囲む何もかもは、精巧に作られただけの偽物に過ぎない。
 父が死んでいるのも変わらない、母が死んでいるのも変わらない、千里眼日記があるのも変わらない。
 けれどサバイバルゲームは起きていなくて、自分は神の座とはまた別なものを目指して戦わなければならない。
 椿は負けた。天野雪輝と我妻由乃を殺すことに失敗した挙句、逆に殺されてしまった。
 でも終わりではなかった。その証拠に、椿は生きている。
 神にはなれなかったが、そんなことは今や心底どうでもいい。
 まだ手段はある――世界を滅ぼす手段も道具も、あれで終わりなんかじゃないのだから。

「ソウダ。お前はまだ終わりじゃナイ」

 少年の背後から現れた仮面がにやにや笑っている。
 四つの目がぎょろぎょろ蠢いて、一糸まとわぬ椿を見つめていた。
 しかしその目は、小娘の裸などに欲情した軽い目ではない。

「世界を壊したいのダロウ。ならば我らを使うとイイ」
「ダメだよ、ティキ。最後に決めるのはこの娘なんだから」

 弱視に閉ざされた、虚ろな瞳が少年の瞳孔を見上げる。
 彼は微笑んでいた。天使のような美少年は柔和な顔をして、ゆっくりと椿の頭へ手を置き、左右へ動かした。
 初対面の相手にするには気安すぎる対応は、しかしこの少年によく似合っていた。
 彼ならば何をしても許されるような、そんな魅力……『カリスマ』というのだろうか。
 今や椿にとっての地獄は、彼女を責め続けた鬼達にとっての地獄へ早変わりした。
 辺りには死臭が立ち込めて、全裸の椿の肌にも肉片が飛沫した感覚がある。
 たとえ偽物の景色であれ、これで彼女を縛るものは何もなくなった。
 椿が望めば、彼と謎の仮面は瞬く間に教団そのものを滅ぼしてしまうだろう。
 椿は、自分の唇をなぞった。
 ――それは、弧を描いていた。椿は今、笑っていたのだ。
 それを見て、少年も笑った。四ツ目の仮面は相変わらずニヤニヤと気味悪く笑っている。

「聖杯を、手に入れるわ」

 口をついて言葉が出た。
 これではまだ満足できない。
 どれだけ見た目を取り繕ったとしても、偽物は偽物。
 それを手当たり次第に壊した程度で満たされるほど、春日野椿の絶望は軽くなかった。

「いいよ。力を貸そう。君が求める限りの力を、僕らは君へもたらそう」

 椿が望み、キャスターはそれに合意した。
 それを合図にしたかのように、『御目方教』の敷地一帯が闇の帳に包まれる。
 信者の動揺とざわめきがここに居ても伝わってくるが、知ったことではない。
 彼らはこれから喰われ、乗っ取られ、存在のすべてを聖杯戦争のために捧げることになるのだ。

 強い未練や現世への執着を抱いて死んだ人間は、やがて悪霊となって人の世を害し始める。
 手を変え品を変え、その姿さえも醜く変貌させて、我欲に溺れた化け物と成り果てる。
 本来キャスターの力は、そういったこの世のルールからあぶれた存在をあるべき場所へ導くためにある力だ。
 しかし、今の彼にとって悪霊とは裁くべきものではなく、目的を遂げるために最も都合がよい道具である。
 文字通り魂を売り渡すことでのみ身に付けられる『禁魔法律』と呼ばれる御業が、それを可能としていた。
 キャスター、円宙継は魂を喰う。だがそれ以上に、魂を歪めて利用する。
 討伐令? そんなものは知ったことじゃない。第一、追い立てられることには慣れているのだ。

(ムヒョ、確かに君は強い。天才だ。今の僕でもひょいと飛び越えてしまうんだろうね、君のことだから)

 キャスターは英雄などではない。彼は、英雄の栄光を憎み狂った男である。
 可憐な出で立ちの内側にコールタールよりもなおどす黒く淀んだものを渦巻かせて、数えきれないほどの人数を殺めてきた外道である。椿の目には彼は眩く移ったかもしれないが、それは大きな間違いだ。
 そんな彼が『多少』悲惨な境遇にあるだけの娘に肩入れし、愛情をもって接するなど当然ありえない。
 そもそもそのように殊勝なことを考えていたなら、彼の宝具でもある『仮面の男』を彼女へ会わせようとはしないだろう。
 椿もまた、道具の一つだ。ただしこちらには、壊してはならないという制約が付いて回るが。
 それでも彼女の憎しみは役に立つ。一言、相性が良い。その点だけは、聖杯の巡り合わせに感謝していた。

(だから――僕は君の全てを奪おう。君が絶望と嘆きに溺れて死んだ時、初めて僕の復讐は終わりを告げるんだ)

 そのためなら、何だって利用する。
 キャスターは、自分のマスターへもう一度優しく微笑んだ。
 椿は窶れ、疲れ切った悲痛な有様で、それでもそれへ微笑み返した。

 そんな彼女の右の手の甲には、とある不気味な文様が浮かび上がっていた。
 黒い六つの三角形に囲まれた、白目と黒目が反転した印。
 本来、これは逆の色彩があてがわれているべきものだ。
 それを恣意的に反転させた意味合いは反逆。すなわち、あるべき場所を外れた――『反逆者』であることを示す印。

 人はこれを、禁魔法律家の証とも呼ぶ。
 キャスターも仮面(ティキ)も、これを体に宿していた。
 椿も今、これを手に入れた。未来を視るしかできなかった巫女は今、真の意味での戦う力を手に入れたのだ。

 禁魔法律は闇の力。
 魂を売って契約を結び、一度でもその力を用いたが最後、死しても契約が白紙になることはない。
 使い続ければいずれ魂は擦り切れ、自我がなくなり、悪霊が生まれる。
 少女はそれに気付かず、また気付けるはずもなかった。
 その目は弱視だが、彼女の心は今、まさに盲目であったのだから。
 世界を滅ぼす――その願いを糧に、春日野椿は堕ちた。今度こそ、這い上がることのできない闇の底へ。



【クラス】
キャスター

【真名】
円宙継@ムヒョとロージーの魔法律相談事務所

【パラメーター】
筋力D 耐久C 敏捷D 魔力A+ 幸運E 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
『工房』の形成が可能。

道具作成:B
 魔力を帯びた器具を作成できる。

【保有スキル】
精神汚染:E
精神を病んでいる為、他の精神干渉系魔術をごく稀にシャットアウトする。
同ランクの精神汚染を持つ人物以外とは意気投合しにくい。

カリスマ:D
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。

変化:A
自分の姿を自由自在に変化させる。
彼の場合、この高いランクはそれだけ生前に霊的存在へ近付いたことを意味する。

禁魔法律:EX
自分の魂を闇に売ることで地獄の使者と契約を結び、その力を借りる禁断の技。
煉を必要としないため、魔法律家でなくても使うことができる。
禁魔法律を一度でも使うと、使者との契約を破棄することはできない。
使い続けることで魂は擦り切れ、使用者自身が悪霊に近い存在になり、自我も消えてしまう。

【宝具】
『嗤う屍面相(ティキ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
生前、キャスターが行動を共にしていた禁魔法律家の怪人『ティキ』を召喚し使役する宝具。
ティキはEXランクの『スキル:禁魔法律』を持ち、その行動によって生ずる魔力はキャスターによって賄われる。
反逆者の印が入った手袋を身につけており、キャスター以外の禁魔法律家をたとえマスターであれ操作できる。
加え、ティキを殺す手段はこの聖杯戦争には現存していないため、キャスターが死亡する以外に彼を退けるすべはない。洗礼詠唱をはじめとした浄化系は一応効き目はあるようだが、完全に消滅させたければ相当な高ランクをもってする必要がある。
非常に強力な宝具なのは間違いないが、忘れるなかれ。彼はキャスターのしもべであるが、断じて味方ではないのだ。

キャスターの奥の手は、この宝具と自らを一体化させ、より強大な力を得ること。
こうなった彼の魔力はEXランクにまで増幅され、魔術師としても禁魔法律家としても埒外の領域へ到達する。

【weapon】
なし

【人物背景】
禁魔法律家団体『箱舟』に接触し、事実上統率していた禁魔法律家の少年。
幼い頃から病気の母親を救いたい一心で、魔法律の執行人を目指していた。
しかし友人の才能への嫉妬・怨恨と愛する母の死がきっかけで理性の箍が外れ、やがて善悪の区別がつかなくなり、禁魔法律の世界に足を踏み入れる。生真面目で没頭すると周りが見えない性格が災いして、人から外れた存在となった。
かつて執行人の地位を争ったその実力はすべて、闇の力によって手に入れた禁魔法律に変えられている。それ故、禁魔法律家でも群を抜いた実力を持つ。自らの体を黒い蝶へ変えて離脱するなど、生前から霊に近付いており、それだけに霊の操作を日常茶飯事のような気軽さで行うことができる。
彼は紆余曲折の末に友人と和解し、裁きを受け入れ収監されるのだが、マスターの椿が悪心をもって彼を召喚したため、禁魔法律家のリーダーとして暗躍していた頃の彼が呼び出された。


【マスター】
春日野椿@未来日記

【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れて世界を滅ぼす

【weapon】
『千里眼日記』
巻物の形をした未来日記。
御目方教の信者たちが未来に得る情報が巻物へ報告され、全未来日記の中でも最大級の情報量を誇る。
非常に広範囲にして膨大な情報量が記載されるが、その長所こそが弱点の一つ。
信者が得る情報は何から何まで自動的に報告されてしまうので、本当に必要な情報を必要な時に見つけにくい。
実際、信者たちの報告の中には取るに足らない事までが多数記されていた。
また、あくまで他人が得る情報なので所有者本人には真偽の判別ができず、使用にあたっては書かれた予知は全て信じることが前提条件となる。従って情報操作や攪乱にも極端に弱く、催眠術や暗示の使い手は天敵。

【能力・技能】
本来の椿は日記以外に特別な力を何も持たない。
だが、今の彼女はティキの力で禁魔法律家と化している。

【人物背景】
十二人の日記所有者の一人で、六番目の所有者『6th』。
巫女装束を着た、黒髪の少女。瞳が虚ろなのは極度の弱視によるもので、手元を見るのが精一杯なほど目が悪い。
新興宗教団体『御目方教』の巫女にして千人を越える信者を統率する教祖。幼い頃から「未来を見通す千里眼の持ち主」として祀られ、世俗から離れた生活を送っていた。ただしこれは両親が彼女を御目方教の象徴として飾る為のでっちあげ。
両親が事故死してからは教団のナンバー2であった男の陰謀で慰み者にされ、支えにしていた亡き母から貰った手毬をも紛失してしまったことで自分を取り巻く世界の全てを激しく憎むようになる。

【方針】
教団の力を使って他のマスターを炙り出し、殺す。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2015年12月08日 02:25