王国領内で商業都市として栄え、第二の都とも歌われた西の都ベルス。
『異変』発生から一年の合間に、その栄光はすっかり失われ、ディアボロス教徒と魔族の連合が占領する魔都と化していた。
その街で、とある区画に位置する豪華絢爛な建物が目を引く。
好き勝手に人間の街を荒し過ごす魔物も、異様な雰囲気のディアボロス教徒も周囲に居ない、破壊もなく場違いなまでに小綺麗な姿を保った洋館。
そこは、とある魔王たちの拠点だった。
『異変』発生から一年の合間に、その栄光はすっかり失われ、ディアボロス教徒と魔族の連合が占領する魔都と化していた。
その街で、とある区画に位置する豪華絢爛な建物が目を引く。
好き勝手に人間の街を荒し過ごす魔物も、異様な雰囲気のディアボロス教徒も周囲に居ない、破壊もなく場違いなまでに小綺麗な姿を保った洋館。
そこは、とある魔王たちの拠点だった。
元は名のある地方貴族の住居だっただけはあり、内装や家具に至るまで一級の物が揃っていた。
寝室のど真ん中を占領するのは、何とも日本風なコタツ。
そこに入り浸る二つの影。
寝室のど真ん中を占領するのは、何とも日本風なコタツ。
そこに入り浸る二つの影。
「…………」
黒いマントに角のアクセサリーと、ド○キで売っていそうな安っぽいコスプレ衣裳を着用した青年が、現代家具の快適さを享受しつつ、仰向けの姿勢でただじっと横になっている。
彼は魔王スロウス、本名ベルフェゴール。
魔王としてこの異世界にやってきた転生者だ。
彼から見てコタツの正面に座るのは、片手でスマホを弄るだらけきった幼女の姿。
彼女はにぃとちゃん☆。異世界転生でリアルバ美肉を決めた転生者2号だ。
王国を恐怖に陥れた魔王2人が同室に居る異様な空間は、しかし剣呑さとは無縁とばかりにだらけきった空気で満ちていた。
彼は魔王スロウス、本名ベルフェゴール。
魔王としてこの異世界にやってきた転生者だ。
彼から見てコタツの正面に座るのは、片手でスマホを弄るだらけきった幼女の姿。
彼女はにぃとちゃん☆。異世界転生でリアルバ美肉を決めた転生者2号だ。
王国を恐怖に陥れた魔王2人が同室に居る異様な空間は、しかし剣呑さとは無縁とばかりにだらけきった空気で満ちていた。
「……あ、ベル君ベル君」
ふと思い出したと言わんばかりににぃとちゃん☆がベルフェゴールに声をかける。
「……」
しかしベルフェゴールは聞こえているのかいないのか、彼女を無視した。
「おーい、ベルベルベ君、起きてるだろ君、返事してよ~。ベルベルト君~」
「……ボクはベルフェゴールだ」
うざ絡みするにぃとちゃん☆を無視する方が面倒と判断したのか、とんでもなく億劫な様子で口を開くベルフェゴール。
「ワスプさんが言ってたけどさぁ~。俺たちも勇者っての何とかしないといけないんじゃない?」
「あぁ、勇者か……そんな話もあったな」
勇者。魔王に対抗すべく、この地に遣わされた敵の存在は把握していた。
権能のお陰で”仕事”に不便はなく、魔王ライフをイージーモードで平和に過ごしていた二人にとっては面倒な話だ。
権能のお陰で”仕事”に不便はなく、魔王ライフをイージーモードで平和に過ごしていた二人にとっては面倒な話だ。
「まるでラノベかなろうみたいな話だよねぇ~。おじさんびっくり」
「……」
命を狙われているとは思えないくらい軽い調子のにぃとちゃん☆だが、ベルフェゴールも似たような反応だ。
お互い怠惰極まる二人は、しかし魔王と呼ぶに足る凶悪な権能を備えている。
それ故の、相手が勇者だろうが何だろうがどうにかなるだろうという満身楽観の極みが彼らのスタンスだ。
お互い怠惰極まる二人は、しかし魔王と呼ぶに足る凶悪な権能を備えている。
それ故の、相手が勇者だろうが何だろうがどうにかなるだろうという満身楽観の極みが彼らのスタンスだ。
「そういや柴っちは?」
ふと思い出したかのように、にぃとちゃん☆が、暫く見かけない同僚の行方を訪ねる。
「……知らないよ。どっかで勤勉に人間狩りでもしてるんじゃない?」
柴田叶一里。ベルフェゴール、にぃとちゃん☆と似たようなタイプの魔王。
人格ではなく、境遇がだが。
魔王スロウスの中でも同じような境遇の柴田とは何かと交流はある。
しかし、何かに駆り立てられるように職務に励む柴田と、文字通り怠惰な二人は話が合わない。
柴田は魔王としての職務に使命感、或は情熱と言っても良い程のやる気を見せるが、この二人には無理な話だ。
人格ではなく、境遇がだが。
魔王スロウスの中でも同じような境遇の柴田とは何かと交流はある。
しかし、何かに駆り立てられるように職務に励む柴田と、文字通り怠惰な二人は話が合わない。
柴田は魔王としての職務に使命感、或は情熱と言っても良い程のやる気を見せるが、この二人には無理な話だ。
「うーん……ぶっちゃけさ、あの子何だか苦手なんだよね。
ある意味ワスプのおじさんより話が通じないというかさ、雷神様がどうのとか、言ってることも良くわからないし……。
ディアボロス教団の人達も同じく何考えてるか分からないし、にぃとちゃんはカルトが苦手なのですよ」
ある意味ワスプのおじさんより話が通じないというかさ、雷神様がどうのとか、言ってることも良くわからないし……。
ディアボロス教団の人達も同じく何考えてるか分からないし、にぃとちゃんはカルトが苦手なのですよ」
余談だが、魔王スロウスの中でも年長者であるワスプ大司教は、打算込みとはいえ二人の衣食住の世話をしていた。
戦力+監視の意味も多分にあるだろが、その相手をカルト呼ばわりとは中々に酷いが、残念ながらそれを指摘してくれる良識のある者はこの場には居ない。
戦力+監視の意味も多分にあるだろが、その相手をカルト呼ばわりとは中々に酷いが、残念ながらそれを指摘してくれる良識のある者はこの場には居ない。
「でもそろそろ何かしないといい加減怒られそうだしなぁ……あぁ辛い。労働は敵。私達ニートは1日働いただけで過労死するのですよ~」
心底ダルそうに呻くにぃとだったが、そこでベルフェゴールが口を開いた。
「ボクと君を一緒にするな」
不服そうな表情のベルフェゴール。心外だと言わんばかりの言葉ににぃとちゃんが目を丸くした。
そこそこ長い付き合いだが、ベルフェゴールがここまで感情的になるのは珍しかった。いや、初めてかもしれない。
そこそこ長い付き合いだが、ベルフェゴールがここまで感情的になるのは珍しかった。いや、初めてかもしれない。
「君は文字通り殆ど何もしていないが、ボクはキチンと働いている。
ボクの『四天王』にも、それっぽい奴がいたら駆除するように指示してあるぞ」
ボクの『四天王』にも、それっぽい奴がいたら駆除するように指示してあるぞ」
ベルフェゴールは怠惰だ。
働くのも動くのも息をするのも何もかもが億劫で憂鬱だ。
しかしそれでも、ニート等という社会不適合者と一緒にされるのは嫌だった。
ベルフェゴールは前世で心が折れたからこそ魔王になり、情熱とは無縁だ。
いまここで死ぬような状況になっても、ベルフェゴールはきっと直ぐに生を諦めるだろう。
しかし、何者にも干渉されない傷つかない権能は彼が求めた力でもあり、それを失う事を恐れている。
だからこそ、権能による丸投げとはいえ最低限の仕事はこなすのだ。
そして事実、ベルフェゴールがこの地にもたらした被害は魔王と呼ばれるに相応しい規模であった。
対してにぃとちゃん☆は、何故魔神に選出されたのかも分からない存在だ。
彼女は魔王でありながら、この地で本当に何もしていない。
いや、ひとつだけしていた事がある。
異世界の地に根を張っていた宗教組織、勇者教。
強固に抵抗を続ける勇者教徒に業を煮やしたワスプ司教に助力を求められ、二人はそれに応じた。
一見やる気の感じられないベルフェゴールもその時ばかりは本気を出し、雑に生み出した『四天王』を勇者教徒にけしかけ、自らも権能を活用し、かの協会の本部に殴り込んだのだ。
働くのも動くのも息をするのも何もかもが億劫で憂鬱だ。
しかしそれでも、ニート等という社会不適合者と一緒にされるのは嫌だった。
ベルフェゴールは前世で心が折れたからこそ魔王になり、情熱とは無縁だ。
いまここで死ぬような状況になっても、ベルフェゴールはきっと直ぐに生を諦めるだろう。
しかし、何者にも干渉されない傷つかない権能は彼が求めた力でもあり、それを失う事を恐れている。
だからこそ、権能による丸投げとはいえ最低限の仕事はこなすのだ。
そして事実、ベルフェゴールがこの地にもたらした被害は魔王と呼ばれるに相応しい規模であった。
対してにぃとちゃん☆は、何故魔神に選出されたのかも分からない存在だ。
彼女は魔王でありながら、この地で本当に何もしていない。
いや、ひとつだけしていた事がある。
異世界の地に根を張っていた宗教組織、勇者教。
強固に抵抗を続ける勇者教徒に業を煮やしたワスプ司教に助力を求められ、二人はそれに応じた。
一見やる気の感じられないベルフェゴールもその時ばかりは本気を出し、雑に生み出した『四天王』を勇者教徒にけしかけ、自らも権能を活用し、かの協会の本部に殴り込んだのだ。
にぃとちゃん☆もその時一緒に居た。
居ただけで、特に何かをしていた記憶は無いが。
怠惰の名を冠する魔王の中で、最もかの大罪を象徴しているのは、きっとにぃとちゃん☆だとベルフェゴールは思っている。
居ただけで、特に何かをしていた記憶は無いが。
怠惰の名を冠する魔王の中で、最もかの大罪を象徴しているのは、きっとにぃとちゃん☆だとベルフェゴールは思っている。
「いやいや、おもいっきり部下に丸投げじゃんそれ~」
呆れたようなにぃとちゃん☆の言葉に反論しようとして、しかし半ば開いた口は閉じられた。どうやら不快感と反論を口にする労力を考えると、後者の方が勝ったようだ。再び黙り込むベルフェゴールの姿に、にぃとは蜜柑を付き出した。
「……?」
困惑した顔のベルフェゴール。
「次は君が剥いてよ蜜柑。そういう約束でしょ」
切り分けた蜜柑の欠片を頬張りながら要求するにぃと。
そういえば、そんな約束をしていた気がする。面倒で返事すら曖昧だった気がするが、話はしていた。
そういえば、そんな約束をしていた気がする。面倒で返事すら曖昧だった気がするが、話はしていた。
「……ハァ……憂鬱だ面倒臭いやりたくない働きたくない…」
「いや順番じゃん!向いてよ皮!」
「ボクは一口も食べていないんだが……」
魔王二人の日常は、未だに平穏であった。
【西の都ベルス、元貴族の館(C-3)/午後:14~16】
【ベルフェゴール@魔王『スロウス』】
[状態]:健康
[道具]:
[方針]
基本.何もしたくないが勇者を見つけたら殺す
1.ボクはニートじゃない…
2.こいつ何で魔王に選ばれたんだろうな…
[状態]:健康
[道具]:
[方針]
基本.何もしたくないが勇者を見つけたら殺す
1.ボクはニートじゃない…
2.こいつ何で魔王に選ばれたんだろうな…
【にぃとちゃん☆@魔王『スロウス』】
[状態]:健康
[道具]:
[方針]
基本.働きたくない
1.勇者とかラノベみたいだよね~
2.まぁ何とかなるでしょ
[状態]:健康
[道具]:
[方針]
基本.働きたくない
1.勇者とかラノベみたいだよね~
2.まぁ何とかなるでしょ
【備考】
- ベルフェゴールとにぃとちゃん☆はワスプ大司教、柴田叶一里と面識があります。
- ベルフェゴールは『四天王』に勇者の捜索を行わせているため、西の都ベルス周辺を該当個体が徘徊しています。
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