賭麻雀敗北記念「ある女子事務員の十二月二十七日未明」

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テーマ「時間」「湯たんぽ」「フィギュア」

十二月二十七日 日付が変わる頃の時間、ある女子事務員が住むアパートの一室の光景。

「ふぅ、寒い寒い。クリスマスが過ぎたあたりから急に寒くなったわね」
 誰ともなしに独り言を言いながら、女性がコタツに入る。コタツの上には、大きさが不
揃いのみかん数個と熱いお茶が入った湯のみ、そして十四インチのノートパソコンと分厚
い雑誌らしき本が置いてある。ノートパソコンの脇にはかわいい女の子がディフォルメさ
れた小さめのフィギュアが数個並んでいる。ノートパソコンにはテキストエディタが開い
ており、そこには方角と平仮名、半角数字が組み合わさった暗号のような文字列と、屋号
のような名称の文字列がセットとなって並んでいる。


「このサークルとこのサークルは頼むとして、あそこは自分で行かなきゃダメね。プロデ
ューサーさんや社長に無理を言って、二日目だけでも午前休もらえてよかったわ。」
と言って、私はお茶をすする。
 事務所に所属しているアイドルに、いつもお世話になっているからとプレゼントしても
らったお茶だ。普段からお茶にこだわってる彼女の選んだお茶だけあって、さっと淹れた
だけでもとてもおいしい。
 業界が業界なのでクリスマスは忙しく、人が揃わないのでクリスマスパーティは開けな
かった。それでも、誰ともなしにみんながみんなにプレゼントを用意していた。このお茶
はそのプレゼントの中の一つだ。彼女には、-実は彼女はクリスマスイブが誕生日なのだ
けれども-、ちょっと意地悪して犬のぬいぐるみをプレゼントしてみた。彼女は犬が大の
苦手なのだけれども、仕事で犬に触れる機会も少なくない。そう思って、普段からぬいぐ
るみで慣れておけば少しは犬嫌いも解消されるだろうと思ってプレゼントしてみた。中身
を見たときに多少顔が強ばっていたものの意図を理解してくれたらしく、その後は笑顔で
受け取ってくれた。
 机の上に置いてあるフィギュアも事務所のアイドルからのプレゼントだ。このプレゼン
トは双子の女の子たちからのプレゼントで、その子たち曰く
「二人で揃えようとしてたんだけど、揃えるのにだいぶダブっちゃったからあげるね。」
とのことだった。もらったフィギュアのシリーズは七種類あって、箱を買って開けるまで
は何が入っているかわからないように販売されている。その七種類の中のひとつはレアと
呼ばれており、他の種類に比べて当たる確率が低く、なかなか入手しづらいようになって
いる。そして、もらったフィギュアの数は七つ。全て違う種類のものだ。
 おそらく、その子たちの言っていたことは半分は本当で半分は嘘だろう。その子たちが
このシリーズのフィギュアを集めていたのは知っていたし、何回か種類がダブって嘆いて
いたことも知っている。けれども、レアはダブるとは考えづらい。つまり、その子たちは
集めたフィギュアをタブってるのもタブってないのも含めてプレゼントしてくれたのだろ
う。私からはその子たちに、おそろいのマグカップをプレゼントしてあげた。昔読んだ絵
本で双子の野ねずみのキャラクターが描かれた一対のマグカップだ。ちょっと子供っぽす
ぎたかなと思ったけれども、喜んでもらえたようだった。
 そんなことを思い出しながら、当日に回るサークルとお願いするサークルのリストをま
とめて、メールを送信した。いつも使っている目覚まし時計を見ると、短い針が二の部分
を指していた。思ったよりもまとめるのに時間がかかったようだ。
「明日も早いんだし、もう寝ないとね」
と言いつつ、湯たんぽの中にポットのお湯を入れる。この湯たんぽは同僚のプロデューサ
ーさんからもらったものだ。せっかくのクリスプレゼントに湯たんぽだなんてロマンの欠
片もない、と不満に思ったけれども、これがなかなか使い勝手が良い。湯たんぽを使う前
は電気アンカを使っていたけど、寝る前に電気を切らなくちゃいけなかったり、温度調節
が難しかったりと面倒くさいことが多かったけど、湯たんぽは温度調節もしやすく、自然
と冷めていくのでほっといてもそのまま寝ることができて、思ったよりも便利な暖房器具
だった。
 あの人はいつもそうだ。このプレゼントを渡してくれる時も
「冬は冷えるでしょう、冷え性の女性には評判がいいんですよ。」
と言って渡してくれた。確かに冷え性だけれども、せっかくのクリスマスプレゼントなん
だからもうちょっとロマンティックなものを渡してほしい。でも、そのプレゼントには相
手のことを思いやって、優しさがこもっているものを贈ってくれる。他のプレゼントの話
をみんなに聞いてみたら、双子の子たちは勉強用の学習ドリルをプレゼントしたと聞いた。
仕事でなかなか勉強の時間がとれないその子たちに学校の勉強が遅れないようにとのこと
らしい。
「兄ちゃんは、プレゼントにちょっとでりかしーってもんがないよね。」
とその子たちは嬉しそうに話してくれた。きっと、時間が空いたときにはあの人が勉強を
教えているに違いない。あの人はそういう人だ。でも、もうちょっとロマンがあるものを
渡してくれたっていいじゃない、この前のあの時だって・・・

 気がついたら、目覚まし時計の短針が三の文字を指している。どうやら思考がループし
ている間に相当な時間が経っていたらしい。湯たんぽもすこし冷めかけていた。
「もう、あの人が悪いんだから。」
と愚痴を言いつつ、湯たんぽのお湯を入れ直す。明日も早いんだから早く寝ないと。ベッ
ドの上に敷いた布団の中に潜り込む。うん、やっぱり湯たんぽは塩梅がいい。そう思いな
がら急速に迫ってくる眠気に身を任せると、湯たんぽの向こう側にあの人の温もりを感じ
たような気がした。

あ・・・、やっぱり湯たんぽってロマンティックかも・・・

そう思って、私は眠りに落ちた。

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