0054:近づく誤解 ◆jYa6lM.CCA
神谷薫は震えていた。
唇を、怒りを、悲しみを噛み締めながら。血で真っ赤に染まった胴着のまま。
薫の目の前には少女が横たわっていた。瞳を閉じ、頭から血を流して。
脈は無い。薫が少女に気付き、駆けつけて抱きかかえたときにはもう手遅れだった。
まだ温かい体。けれど、徐々に冷たくなっていくのを感じる。
薫は少女、
稲葉郷子の手を強く握り締めた。体温を少しでも分け与えようとするかのように。
恐怖はあった。困惑もあった。
けれどそれ以上に、薫の胸は怒りと悲しみでいっぱいだった。
きっと弥彦と同い年くらいだろう。まだ本当に子供だ。子供なのだ。
そんな子供が、どうして、こんな目に遭わなければいけないのだろう。
弥彦のように、この子にも夢があったはずだ。
自分が弥彦を想うように、この子を大切に想っている人がいるはずだ。それなのに…
郷子の頬を優しく撫でてから、薫は静かに立ち上がった。
このままここに居るわけにはいかない。
剣心や斎藤を探さなくてはいけないし、何らかの理由で犯人が戻ってくるかもしれない。
けれど、郷子をこのままにはして行く気にはなれなかった。
このまま死体を晒し続けるのは可哀想過ぎる。せめて埋葬ぐらいしてやらなくては。
そう考え、出入り口の方を見て―――ぎょっとした。
一人の男が、出入り口のど真ん中に立ち、こちらをじっと見つめていたからだ。
大柄ではないががっしりとした体躯。固く結ばれた口元。鋭い眼光が薫を睨んでいる。
まさか、犯人が戻って―――?
薫がその可能性を考えた瞬間、男は歩き出した。薫に向かって一直線に。
進清十郎は別に睨んではいなかった。元々こういう目付きなのだ。何やら物音がして、見たら薫が居たというだけのこと。
進清十郎は郷子に気付けなかった。死体が物影にあったからだ。彼が現在見ることができるのは、物影から姿を現した薫の上半身のみ。
進清十郎は薫に危害を加える気は毛頭なかった。郷子の血で染まった薫の服を見て、怪我をしていると思い歩み寄っているのだ。
それならば何か話しかけながら近づけばいいものを、
進清十郎は残念なことに寡黙だった。
薫は傍に置いていた支給品の西洋剣、クライストを手にとった。
男の態度はどう考えても友好的ではない。
犯人、そうでなくともこのゲームに乗った人間だったとしたら。
殺す気は毛頭ないが、戦わなくてはならないだろう。自分のためにも、少女のような犠牲者を増やさないためにも。
武器が相手に見えないようにしながら、薫は身構えた。
互いに無言のまま、薫と進の距離が、少しずつ狭まっていく――――
【兵庫県、姫路駅構内/黎明】
【神谷薫@るろうに剣心】
状態: 健康
所持品: 荷物一式、クライスト@BLACK CAT
第一行動方針: 目の前の男への対処
第二行動方針: 郷子を埋葬する
基本行動方針: 緋村剣心、斎藤一を探す
【進清十郎@アイシールド21】
状態: 健康
所持品: 荷物一式 (支給品は不明。本人は確認済み。)
第一行動方針: 目の前の女の治療
基本行動方針: 小早川瀬那、蛭魔妖一、姉崎まもりを探す
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最終更新:2023年12月28日 12:44