0084:誤解・展開・収束・休息





 現れた闖入者を前に、少女、神谷薫は身構える。
闖入者、進清十郎は、鋭い眼光、筋骨隆々とした体躯を持つ男性であり、対して自分はあくまで非力な女性の身。
体格だって女性としても、決して大柄……とは言えない。剣術には多少の心得があるものの、剣心ほどの圧倒的な実力があるわけでもない。
「剣術小町」とは呼ばれていても、所詮、それは幾つかの街の中での名人といった称号にすぎない。
もし相手が、広間で見たような超常的な能力の持ち主だったら―――

「こ……来ないで!」
 薫は叫ぶ。それは、襲われて警戒しているのではないかという疑念を進に与えた。自然、足の進みが速くなる。
襲われていたのであれば、それによって怪我をしているのであれば、手当ては早ければ早いほどいい。
確かに、自分はマネージャーほど治療に長けているわけではないが、何もしないよりは遥かにマシであろう。

 そして、互いの距離は見る間に縮まっていき。

 近付くという行為は、互いに、今まで見えなかった事柄を認識させた。それは……

「ム……」
 進清十郎は考える。目の前の女性はどうやら自らの血で汚れているわけではないらしい。血液の持ち主は、彼女ではないようだ、と。
何故なら、女性の傍らに倒れ伏すのは、年端もいかないという形容が誂えたかのような少女。稲葉郷子の屍があったからだ。
頭蓋を叩き割られたのか、頭部から血を流す、人であった、そして、今では人としてはありえない肌の色をした少女の抜け殻。
そして、漆黒の刀身をしたサーベルを手に、こちらを睨みつける女性。彼女が弾かれたように動き――――

「……!」
 神谷薫は考える。男、進の両手に嵌められたモノを見て。それは、鈍く輝くメリケンサック。彼女の知識で、それに一番近いものは寸鉄。
それは、人を殴り殺すための武器。刹那、頭を割られて死んでいる少女の顔が脳内を走りぬけ――――

 一度の交錯。ダイヤモンドよりも硬いと言われるマグナムスチール製のメリケンサックと、
世界最高の金属と名高いオリハルコンのサーベルがぶつかりあい、薄暗い駅舎の中を火花が踊る。
そして互いに距離を開け、睨み合いをはじめる。


 進の見解はこうだ。倒れ伏している少女はゲームに乗っていたのではないか。もしくは、恐怖で恐慌状態にあったのではないか。
それで、女性……神谷薫に襲い掛かり、返り討ちにあったのではないか。
何故なら、目の前の女性は、明らかに戦闘体勢にあるのにも関わらず、峰打ちを放ってきた。
剣速が鈍るだけだというのに。これは、彼女が、未だだ殺人に抵抗を持っているため。
そして、峰打ちにもかかわらず、自分の拳が受けたこの衝撃。
メリケンサック越しに受けたにもかかわらず、一瞬、拳が砕けるかと思わされたほどの一撃。
これだけの業物であれば、例え峰打ちであろうとも、亡骸となって倒れている少女の頭蓋を砕くことなど造作も無かったに違いない。


 薫の見解はこうだ。先程から、まるで話し合いの意思が感じられないことといい、男性、進清十郎はゲームに乗っているのではないか。
彼が持っている、寸鉄を横に繋げた様な武器は、どう見ても鈍器の類。
しかも、自分の本気の打ち込みを受けても、小揺るぎもしない強度を誇っている凶器だ。
あの一瞬、自分の手を襲った反動は、危うく、この剣を取り落としてしまいそうになったほどだった。
少女一人を殺害するには充分すぎる道具。それがもたらすのは撲殺という名の片道切符。
ここで行動不能にしておかないと、恐らく、更なる犠牲者がでる。


 睨み合いが続く。互いにとって、いつまでも終わらないのではないかと思わせる、長い、永い睨み合いが。

 原因の一つ。それは、進の寡黙さ。過去を語るのは詮無いことではある。
が、もし、彼が、このような状況に陥る前に、自分の考えを、自分の行動を言葉にしていれば、今の一触即発の状態は回避されたはずであった。

 原因の一つ。それは、薫が冷静さを失っていたということ。
平常な心を持っていれば、進が返り血を浴びていないということなど一目でわかったはずなのに。
なれば、彼女から語りかけることで、今の一触即発の状態は回避されたはずであった。

 原因の一つ。それは、郷子の死。絶対的な、死者の存在。圧倒的な、血の匂い。互いの冷静さを奪う、不可視の思念。それは無念。

 ――――互いの次の一手。進のスピア・タックル。薫の打ち下ろし。
どちらも、相手を殺すことではなく、行動を封じることに主眼を置いた一手。
攻撃の軌道の違いから、両者はほぼ同時に相手の身体に吸い込まれていき……

 ……二人の意識を刈り取った。




 二人にとって幸運だったのは、その後、駅に訪れる者が無かったということ。
互いに気絶することで、戦闘の空気が霧散し、冷静さを取り戻すことが出来たということ。
そして、戦闘を再開するには、互いにダメージが深すぎたということである。
進清十郎神谷薫は、各々、自分の怪我に応急処置を施すと、
少女、稲葉郷子を、二人で、怪我の痛みを圧しながらも、四苦八苦しつつ埋葬し、自己紹介、そして今後の方針を話し合っていた。
とは言えど、ほとんど、薫が話し役、進が聞き手という塩梅ではあったが
(余談ではあるが、薫は進のあまりの無口さに、内心怒っているのではと危惧したが、彼が言うにはそれが地だそうだ)。
結論としては、彼等の次の行動は仲間を捜すということで一致した。

 薫は、何よりも信頼する剣心に会うため、東京の神谷道場を目指す。剣心ならきっとそこに向かってきてくれるから。
進は、自分と決着をつけるはずの男、アイシールド21こと小早川瀬那、そして彼の友人たちと会うために東京の泥門高校を目指す。
アイシールド21との決着は、このような場で摘み取られていいものではないから。

 二人の若者は、東京を目指す。
                  ――――辿り着けるのかは、誰も知らない。





【兵庫県、姫路駅構内/早朝】

【神谷薫@るろうに剣心】
 [状態]:軽度の疲労、肋骨にヒビ(戦闘に中~重度の支障あり:行動に軽度の支障あり)
 [装備]:クライスト@BLACK CAT
 [道具]:荷物一式(一日分の水と食糧を消費)
 [思考]:1.明るくなるまで身体を癒す
      2.緋村剣心、斎藤一、小早川瀬那、蛭魔妖一、姉崎まもりとの合流
      3.東京(神谷道場)に向かう

【進清十郎@アイシールド21】
 [状態]:軽度の疲労、右鎖骨にヒビ(戦闘に中~重度の支障あり:行動に軽度の支障あり)
 [装備]:マグナムスチール製のメリケンサック@魁!!男塾
 [道具]:荷物一式(一日分の水と食糧を消費)
 [思考]:1.明るくなるまで身体を癒す
      2.緋村剣心、斎藤一、小早川瀬那、蛭魔妖一、姉崎まもりとの合流
      3.東京(泥門高校)に向かう


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054:近づく誤解 神谷薫 140:それは人への鎮魂歌
054:近づく誤解 進清十郎 140:それは人への鎮魂歌

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最終更新:2023年11月19日 19:16