0063:妲己ちゃんと愉快な武藤達 ◆lEaRyM8GWs





武藤カズキは顔を真っ赤にしながらドラゴンキラーを握り締めていた。
なぜ真っ赤なのか。それは薄いガラス戸の向こうに肌色の人影があるからだ。

趙公明ちゃんのせいで埃で汚れちゃったわん。汗も拭きたいし、お風呂はどこかしら?」
という妲己の言葉が事の始まり。
日本の簡単な地理や歴史、錬金の戦士に関する事柄を話し終え、
カズキが古代中国の仙人について訊ねようとしたその時、妲己は突然そう切り出したのだ。
古代中国から来た妲己では現代日本の風呂の使い方が分かるまいと思ったカズキは親切心で風呂場に案内したが、
残念な事に蛇口からは水もお湯も出てこなかった。
わざわざ飲み水が支給されているのだから、民家の蛇口から水が出ないのは当然かもしれない。
「仕方ないわぁん。せめてタオルで汗を拭う事にするから、カズキちゃんは見張りをよろしくねぇん」
蟲惑的なウインクをした妲己は洗面所で服を脱ぎ、今はタオルで埃や汗を拭っているだろう。
洗面所前の廊下に座り込みながら、カズキはチラリと後ろを見る。
磨りガラスの向こう、不鮮明な輪郭ながらも胸がボンッと突き出し、腰がキュッとくびれているのが分かる。
そして白いタオルでたわわに実った胸の辺りを拭いている最中だった。
「あぁん、水に余裕があればタオルを濡らすくらい出来るのに……残念」
バッとカズキは顔をそむける。
(だっ、駄目だ駄目だ。雑念を捨てて見張りに集中しないと。エロスはほどほどにと斗貴子さんにも……)
と、雑念を捨てようとした矢先カズキは思い出す。
学友の岡倉が持ってきた『Hでキレイなお姉さん』という名前の本。
それを知り、後に己の年齢を明かした時に「年上だと嬉しいか?」と訊いてきた斗貴子さん。
(うあぁ……)
カズキは軽い自己嫌悪に陥った。何だか自分がすごいエロスな男に思えてならない。
(斗貴子さん……)
斗貴子は分別のある方で、カズキも年頃の男の子だからとあの本の事をあまり気にしてはいなかった。
(妲己さんの場合、どうなんだろう……)
出会ったばかりの自分にいとも簡単に気を許し、汗を拭っている間見張りをしてて欲しいと頼む始末。
ちょっと危なっかしいところがある妲己を、何としても自分が守ろうとカズキは誓った。
無論斗貴子とブラボーの事も心配だったが、あの2人ならきっと大丈夫。
今はこの絶世の仙女を守る事が第一。だから――

カズキはドラゴンキラーを握り締め、ゆっくりと立ち上がって呟く。
「妲己さん、用心して」
戸の鍵は閉めた。だが居間にあるガラス戸の存在までは失念していた。
確かに居間の方からカラカラという戸の開く音が聞こえた。
出来るだけ音を立てないよう、ゆっくりと開く音が。
趙公明か? それとも……)
それとも別の敵か?
それとも殺し合いを恐れて民家に逃げ込もうとしている弱者か?
それとも錬金の戦士、斗貴子さんとブラボーのどちらかか? もしくは2人が?
最後に浮かんだ淡い期待をカズキは振り切る。そう都合よく仲間と合流出来るはずがない。
「カズキちゃん……」
「……ちょっと見てきます」
不安げな妲己を勇気づけるように、カズキは力強く静かな声で答えた。
足音を立てないよう用心しながら廊下を曲がり、居間に通じる戸へ向かう。
「はぁ……はぁ……」
ドア越しに聞こえてくる荒い息遣い。
恐怖に震え走ってきたのか? それとも何者かと戦い疲れているのか?
練磨された神経が少しずつ削れていく。
居間の戸にも一部磨りガラスが使われていたが、人影は見えない。
(ドアを開けるか? でもオレの存在に気づいて、いきなり襲ってくるかもしれない……)
ドアノブに伸ばした手が空中で震える。
自分の選択が生死に直結している。そして自分が殺されれば妲己も危ない。
誰かの命を背負う重さ。
幾度か背負った経験はあるものの、カズキはまだ極限時でも冷静さを維持出来るほどの鍛錬は積んでいなかった。
ゴクリとつばを飲み込み、ゆっくりとドアノブを握る。
刹那、ドアノブが下がり居間側へと引っ張られた。
「わっ!?」
突然の出来事に対処し切れなかったカズキはバランスを崩し、ドアに向かって倒れてしまう。
「えっ!?」
勢いよく開いたドアの向こう、自分よりも低いだろう身長の少年が一際大きな左腕を構えた。
身の危険を感じたカズキはそのまま床を転がり、ドラゴンキラーを少年に向ける。
「うわあぁぁぁぁぁぁっ!!」
少年は悲鳴を上げながら、大きな手甲をつけた左拳を振り回した。
半ば恐慌状態にある少年の瞳に恐怖の色を感じ取ったカズキは、
少年がこのゲームの状況に怯え助けを求める弱者だと悟る。
「待ってくれ! オレは殺し合いなんてする気は……」
「あああっ!!」
少年は足をもつれさせてカズキに向かって倒れ込んできた。
手甲をドラゴンキラーで受けながらカズキは少年を抱き止めようとするが、勢いに押されて自分も倒れてしまう。
「落ち着いて! オレは……」
「カズキちゃん、何事!?」
突然、開きっ放しの戸から妲己が飛び込んできた。
カズキも少年も条件反射でそちらを見、赤面して固まる。
妲己は右手に打神鞭を持ち、左手でバスタオルを持ち、そのバスタオルで胸元から太ももの辺りまでを隠していた。
そして彼女は、バスタオル以外身に着けていない。
バスタオルからは、大きな胸が微妙にはみ出している。風が吹けばタオルが揺れて股間が丸見えになりそうだ。
白くムッチリとした扇情的な太ももは、もうバッチリ見えちゃっている。
「だだだだだ妲己さん!?」
「わっ、わっ、わー!?」
慌てふためく2人の純情少年の前で、妲己は「キャアンッ」とわざとらしい悲鳴を上げて廊下に引っ込んだ。



「ボクは武藤遊戯って言います」
「武藤?」
カズキは服を着た妲己と並んで、居間にあるテーブルに座っていた。
その対面に座っているのがさきほどの少年、武藤遊戯だった。
「奇遇だな。オレも武藤っていうんだ、武藤カズキ。こっちは妲己さん、古代中国から来た仙女なんだ」
「あはん。よろしくね、遊戯ちゃん」
3人は簡単な自己紹介を済ませる。
遊戯は童実野高校の一年生であり、二年のカズキよりひとつ下のようだ。
しかし外見は下手したら小学生と間違えてしまいそうなほど幼い。
服についているチェーンなんか明らかに似合ってないが、首から下げている逆三角形の首飾りはよく似合っていた。
それでもとあるカードゲームでデュエルキングになったという才能を持つ遊戯だったが、
そんな事がこの殺し合いゲームで役立つとは到底思えなかった。
また、彼の仲間達……城之内克也、真崎杏子も役に立ちそうにない。ライバルの海馬瀬人はそれなりに使えそうだが。
妲己は少々残念に思い、カズキは遊戯の仲間も守るべき者として認識し闘志を燃やした。

「遊戯ちゃんの支給品は魔甲拳っていうのねぇん」
「はい、これが説明書です」
遊戯に差し出された説明書には、魔甲拳は鎧化(アムド)と唱える事により鎧と化す特殊な武器とあった。
熱や吹雪、呪文を弾く作用もある優れた装備ではあるが、女性用だというので遊戯は鎧化しなかったらしい。
「女性用……ねぇ」
呟く妲己を見て、遊戯は魔甲拳を外した。
「あの、よかったらどうぞ」
決して肉体的には強くないものの、優しい心を持つ純朴な少年は、か弱い女性である妲己の身を思って魔甲拳を差し出す。
「いいのぉん? ありがとう、遊戯ちゃん」
妲己はパッと笑顔を輝かせて魔甲拳を受け取ろうとする。
が、その瞬間遊戯の手が一瞬止まった。
「……どうしたのん?」
「いえ、何でもありません」
いぶかしげに妲己は訊いたが、遊戯は誤魔化すように微笑んで魔甲拳を渡す。
さっそくつけてみようと、妲己は「鎧化」と言ってみる。
すると手甲の表面がヒュルヒュルと解けて、妲己の胴体と左半身を守る鎧と化した。
「ちょっぴり胸がきついけど、なかなか素敵ねぇん。ありがとう遊戯ちゃん」
妲己はとびっきり嬉しそうな笑顔を作って、遊戯の両手をぎゅっと握った。
カズキ同様純情そうな少年は頬を紅潮させてうつむく。
(なら、カズキちゃんと同じ方法で誘惑するのがいいわねぇん)
心の内で酷薄な笑みを浮かべた妲己は、遊戯の手を自身の胸の前へと導き、抱きしめるように握り締める。
「あなたみたいな優しい子にあえて本当によかったわぁん。これからもよろしくね」
「はっ、はい。こちらこそ」

――こうして、妲己の魅力に惑わされる2人目の少年が誕生した。
遊戯もまた、妲己の本性を知れば考えを改めるだろう。
しかししたたかな女狐はか弱い女性を演じ、心からカズキと遊戯に頼っているフリをする。
事実、妲己は2人を頼りにしていた。このゲームから脱出するための手駒として。

妲己は見抜いている、この武藤遊戯という少年がただ者ではない事を。
彼は言わなかったが、あの逆三角形の首飾りから不思議な力を感じる。
果たしてそれが自分にとって役立つものかどうかは分からないが、切り捨てると判断するには早計だ。
ただの人間かと思っていたカズキ同様、何らかの力を持って己を守ってくれるかもしれない。

(ウフフ。カズキちゃんに遊戯ちゃん、奇しくも同じ苗字を持つ子同士、仲良くわらわを守ってねぇん)

妲己は保護欲を駆り立てるような笑顔を武藤2人に向ける。
それを見た武藤2人は、妲己の力になろうと心から思うのだった。
しかし――

(気をつけろよ相棒。あの女、何かヤバい感じがするぜ)
(もう一人のボク、考えすぎだよ。
 カズキ君だって妲己さんを信頼してるみたいだし、妲己さんも感じのよさそうな人だもの)
(……オレもこんな状況だから疑心暗鬼になってるのかもしれないが、用心するに越した事はない)
(心配性だなぁ。でも君がそこまで言うんなら、念のため気をつけておくよ)
武藤遊戯の内にあるもう一つの人格だけは、妲己の本性をかすかに嗅ぎ取っていた。





 【妲己ちゃんと愉快な武藤達】
 【大阪郊外の民家/黎明】

 【蘇妲己@封神演義】
 [状態]:健康
 [装備]:打神鞭@封神演義、魔甲拳@ダイの大冒険
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1 カズキ、遊戯と一緒に夜明けまで休む。
     2 どんな事をしてもゲームを脱出し元の世界に帰る。可能なら太公望も連れて戻る。

 【武藤カズキ@武装錬金】
 [状態]:軽度の疲労
 [装備]:ドラゴンキラー@ダイの大冒険
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1 妲己、遊戯と一緒に夜明けまで休む。
     2 ゲームを脱出するため仲間を探す。斗貴子、ブラボー、城之内、杏子、海馬を優先。
     3 蝶野攻爵がこの状況でも決着をつける気なら相手になる。
     4 ゲームから脱出し元の世界へ帰る。

 【武藤遊戯@遊戯王】
 [状態]:軽度の疲労
 [装備]:無し
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1 妲己、カズキと一緒に夜明けまで休む。
     2 ゲームを脱出するため仲間を探す。斗貴子、ブラボー、城之内、杏子、海馬を優先。
     3 ゲームから脱出し元の世界へ帰る。


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059:妖艶の妖狐 蘇妲己 104:悲しむ3人
059:妖艶の妖狐 武藤カズキ 104:悲しむ3人
GAME START 武藤遊戯 104:悲しむ3人

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最終更新:2024年08月15日 07:41