0104:悲しむ3人 ◆lEaRyM8GWs





カズキは死の恐怖と、首を這う柔らかな指の感触に身をすくめていた。
仙人という言葉から連想するものは気や術や風水といった神秘的なものだが、
妲己の世界の仙道達は割と科学的な知識を持っていた。
妲己も仙人として“色々”研究しており博識であり、首輪について調べてみる事になったのだ。
しかし下手をすれば首輪が爆発する。その危険な役目をカズキは買って出た。
妲己は険しい目で首輪を凝視し、首輪の内側に指を差し込み、指の腹で表面を撫でる。
自分の首に着いている感覚からも分かる通り、首輪の外側も内側も大差なく、
ツルツルとした表面が冷たく自分達の首に着いているだけ。
「……繋ぎ目が見当たらないわねん。もしくは触れただけ、見ただけでは気づかないような、
 ものすごく精密な作りをしているのかもしれないけれど」
妲己の吐息が首筋にかかり、カズキの身体はますます硬くなった。
妲己はというと、首輪は多少乱暴に扱っても爆発はしないだろうと考え積極的に指を動かし出す。
触れた程度で爆発する首輪なら、転んだ拍子に首輪が爆発したり、
敵が投げた小石が首輪に当たっただけで爆発しかねない。
最後の一人になるまで殺し合いをさせるゲームなんて素敵なセンスを持つ主催者達が、
その程度の事で爆発するような首輪を着けるとは思えない。興ざめしてしまうからだ。
そして首輪の表面を触れながら、妲己はある事に気づいていた。
ほんのわずかに、首輪を撫でる指に伝わる感触が違う。首輪の中身の感触が違う。
軽く突いてみれば、それは妲己の鋭敏な神経はしっかりと感じ取る事ができた。
同じ壁でも、普通の壁と、抜け道となっていて中が空洞になっている壁の感触が違うように。
「だっ、妲己さんっ。だい、大丈夫なの?」
「大丈夫よぉん、この程度の刺激じゃ爆発しそうにないわん。
 分解しようともっと色々やれば爆発するでしょうけど」
カズキの後ろに回って首輪を調べている妲己は、そっとカズキの背に寄り添った。
ボンッと突き出した妲己の豊かな乳房が、服越しにカズキの背に触れる。
見る見るカズキの顔は赤くなり、妲己が後ろにいるおかげでそれがバレない事を不幸中の幸いと思う。
が、カズキの耳が赤くなってるのを見て、妲己はクスリと微笑んだ。

床の上に座り込んで首輪を調べている2人を、遊戯はちょっぴり羨ましそうに見ていた。
遊戯だって男の子、背中に胸を当てられて赤面しているカズキを見て、ぜひ自分も……と思ってしまう。
(……相棒。今はそういう状況じゃないだろう、カズキ君だって下手すれば首が飛びかねないんだぞ)
(わ、分かってるよ、もう一人の僕。でも……あっ!)
遊戯の目が見開く。
カズキの全身が緊張により硬直する。
妲己の胸がさらに押しつけられ、カズキの背中の上でグニャリと潰れていた。
もちろん妲己はカズキを誘惑するつもりで胸をくっつけていたのだが、
ここまで積極的に押しつけるつもりは無かった。
ただ首輪のある機能に勘付き、彼女自身も緊張したがゆえの無意識の行為。
(やっぱり……首輪の中で何かの機能が作動しているわん。しかも現在進行形で。
 わらわならどんな機能をつける? 24時間機能し続けなきゃいけないものって何?
 恐らく……わらわ達の会話は全部向こうに筒抜けねぇん。どうしたものかしら?)

妲己は考える。盗聴されているのなら、どうすればいいかは明白。
主催者側は脱出しようとあがく事を笑いながら見ているだろう、
だが本当に脱出できるところまで至ったらどうする?
さすがの妲己にも判断はつかなかった。
容赦無く首輪を爆発させ脱出を妨害するか、もしくは自ら粛清にくるか。
フリーザ、バーン、ハーデス、その誰の事も妲己は知らない。だから予想をつけられない。
(今はこの事実を黙っておくのがよさそうねぇん。盗聴に気づいたと悟られるのはよくないわ)
筆談で武藤達に伝えようかとも考えたが、頭脳派・演技派ではない彼らに話しては、
どこかから漏れてしまう可能性もある。
話すなら話すで機を見て話すべきだ。と、妲己が思い至り首輪から指をはずした瞬間――

―――諸君、ご苦労。
…爽やかな朝だ。よく眠れたかね?

大魔王バーンの声が3人の頭に響いた。
主催者がもたらすゲームの進行状況を聞き、妲己はすぐさま鞄からメモ用紙とペンを取る。
素早く脱落者の名を記していき、城之内克也の名を聞いた瞬間、
ショックを受けているという表情を作って遊戯に目を向けた。
遊戯は作り物ではないショックの表情を浮かべ、固まっている。
それから語り部はフリーザに変わり禁止区域を告げられる。
北海道と宮崎県。幸いどちらも大阪から遠く関係ない、だが地図に素早く『1日目午前8時禁止』と記した。
口調からバーン、フリーザの性格の一端を掴んだ妲己だが、まだまだ情報不足。確定的な事は何も言えない。
ハーデスは無口だったため何も言わず、妲己は残念がる。
そして最後にバーンから告げられた言葉に妲己は唇を噛んだ。

『脱落者の中には、その『仲間』に裏切られて命を落とした者もいるのだぞ?』

余計な事を。
妲己とて可能ならカズキや遊戯も連れて脱出してやってもいいと思っている。
だが自分の身が危機にさらされた場合、容赦無く2人を見殺しにするつもりでいた。
時によっては――脱出方法が優勝者になる事だけだとしたら、適切な時に2人を自らの手で殺すつもりでもあった。
(まあいいわん。2人ともわらわを信用してくれているみたいだし。
 ただ気になるのはわらわの事を知っている人達ねぇん。そこからわらわの本性がバレたらやっかいだわん)
太公望竜吉公主趙公明。妲己の残忍な本性を知る者達。
機会があれば殺しておきたい。しかし太公望には殷周革命という大役がある。
(まあ状況に応じて適切な対処をするとしましょう。ケース・バイ・ケースよぉん)
という訳で妲己は、適切な対処をすべくカズキから離れ遊戯に歩み寄った。

「遊戯ちゃん……」
憐れみたっぷりに言い、壁に背をかけて座り込んでいる遊戯の両肩に手を置く。
「……ごめんなさい、何て言ったらいいかわらわには分からないわん」
呆然と宙を見つめていた遊戯の瞳に色が戻る。目の前で妲己が、顔をそむけて泣いていたからだ。
出会ったばかりの自分の友達の死に、彼女自身は一度も見た事のない城之内君の死に、
“心”から涙を流している……
「妲っ……己、さん……」
城之内の死を悲しむ気持ちと、妲己の優しさへの感謝の気持ちが、涙となって遊戯の両目から流れ出す。
「遊戯ちゃんっ……おつらいでしょうに、わらわにできる事は何も無いわぁん……ごめんなさい……!」
妲己も泣きながら、遊戯の頭に手を回し、ぎゅっと胸に抱きしめる。
ふくよかな胸に顔をうずめながら、遊戯は泣き続けた。
先程持っていた情欲の気持ちなど無く、ただ母に抱かれた幼子のように妲己に安らぎを見出す。
カズキもどう慰めていいか分からず、嘆く遊戯を憐れみ、慰める妲己の優しさに感動する。
城之内克也の死を、この場にいる3人は心から悲しんでいた。
しかしその3人の中に妲己は入っていない、そしてその3人目の存在を知る者は1人しかいない。

(城之内君……)
もう1人の遊戯は、遊戯の心の中で涙を堪えながら拳を握り締めていた。
彼自身も城之内の死を知ったショックで我を忘れている。
主人格の遊戯を慰めなければという気持ちもあったが、それはすでに妲己がやっている。
妲己を警戒していた闇遊戯だが、妲己に頼りきっている遊戯に「やめろ」とは言えなかった。
それにもしかしたら、妲己から感じた嫌な感覚は、彼女の持つ仙人の力のせいかもしれない。
妲己は心から遊戯を憐れんでいる心優しい女性かもしれない。
(だが――本当にそうか?)
妲己を信用すべきかどうか、まだ確信は持てない。
表の遊戯に何と言われようと、大切な相棒を守るために自分は妲己を疑い続けなければならない。





【妲己ちゃんと愉快な武藤達】
【大阪郊外の民家/朝、放送直後】

【蘇妲己@封神演義】
 [状態]:健康
 [装備]:打神鞭@封神演義、魔甲拳@ダイの大冒険
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1 遊戯を慰め、自分を信用させる。
     2 太公望、竜吉公主、趙公明から自分の本性を明かされるのを防ぎたい。
     3 どんな事をしてもゲームを脱出し元の世界に帰る。
       可能なら太公望や仲間も脱出させるが不可能なら見捨てる。

【武藤カズキ@武装錬金】
 [状態]:健康
 [装備]:ドラゴンキラー@ダイの大冒険
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1 遊戯が泣き止むまで待つ。
     2 ゲームを脱出するため仲間を探す。斗貴子、ブラボー、杏子、海馬を優先。
     3 蝶野攻爵がこの状況でも決着をつける気なら相手になる。
     4 ゲームから脱出し元の世界へ帰る。

【武藤遊戯@遊戯王】
 [状態]:軽度の疲労、精神的ショック
 [装備]:無し
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1 泣く。
     2 ゲームを脱出するため仲間を探す。斗貴子、ブラボー、杏子、海馬を優先。
     3 ゲームから脱出し元の世界へ帰る。
 [闇遊戯の思考]:妲己の警戒を続ける。


時系列順で読む


投下順で読む


063:妲己ちゃんと愉快な武藤達 蘇妲己 151:大阪探索しちゃい隊
063:妲己ちゃんと愉快な武藤達 武藤カズキ 151:大阪探索しちゃい隊
063:妲己ちゃんと愉快な武藤達 武藤遊戯 151:大阪探索しちゃい隊

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年08月15日 06:49