0076:機人夜襲 ◆QXU.Tc2.M2
愛知にある田んぼ道、おおよそこのゲームに似つかわしくないであろう、のどかな風景が広がる田舎にその男は居た。
幸か不幸か、開始から数時間経ったというのに、男は他の参加者と未だ遭遇する事なく、そのあぜ道をひたすらに歩いていた。
「もうすぐ夜が明けるな・・・・・」
東の空を仰ぎながら、日が差し込むのを待ちわびるかの様に男は一人呟く。
田舎道に存在する僅かな街路灯が照らす男の身体は、黒い光沢を放つメタリックのボディ、
呟いた声からは乗用車のアイドリングを思わせる様な呼吸音、男が持つ雰囲気は明らかに通常の人間のそれではない。
「キン肉マン、
ラーメンマン、そして
バッファローマン・・・彼らは今一体どこにいるんだ・・・」
水平線の彼方を見つめながら男はかつて共に戦った戦友の名を口に出した。
彼の名はウォーズマン。
かつて元いた世界では戦友であり、また親友でもあるキン肉マンと共に、彼の力になるために幾度もの死闘を演じてきた正義超人の一員である。
もちろん正義超人としてかつての世界の平和を守ってきた彼が殺し合いのゲームなんかに乗る筈はない。
彼の目的はキン肉マンとの合流、日本を模した見知らぬ地方に飛ばされてから彼はずっとその事を考えていた。
そう・・・・キン肉マンならこんな絶望的な状況でも、きっとなんとかしてくれるんじゃないか?
今までだってずっとそうだったじゃないか、どんなピンチになったとしてもキン肉マンは火事場のクソ力でいつだって乗り越えてきた。
きっと今回だってキン肉マンの力さえあれば・・・・・・・
(そのタメにはオレが力にならないとな)
胸中そう呟くとウォーズマンは足早に歩を進める。
目指すは東京。
東京に行けばキン肉マンに会えるとは限らない、しかし日本で彼がよく知る地といえば東京だけであった。
土地勘のない地方に留まるよりかは、多少はその地理に詳しい東京に行った方がいい。
それに大都市に行けば、こんな片田舎よりいくらか人も集まっている筈だ。
もちろん人が集まる以上そこにはゲームに『乗った』ヤツらだっているかもしれない。
しかしそれ以上にそんな『乗った』奴らに狙われている、か弱い人達だっているはずだ。
助けを求めている人間がいるのなら正義超人として、それを見逃すワケにはいかない。
それにキン肉マンだって、もしかしたら同じ事を考えて東京に向かっているかもしれない。
考えれば考える程ウォーズマンは『自分は東京に向かうしかない』と思い始めた。
実際には、
「・・・かも」「・・・しれない」「・・・筈だ」
などという何の根拠もない推論のみで東京に向かっているだけでしかないのだが、
誰もいない見知らぬ地に放り出され迷暗していた彼は、そう思い込む事によって無理やり目標を作り上げた。
そして相変わらず誰とも出会う事なく、ようやく愛知を抜け出そうかという所に、道案内を示す一つの立て札がウォーズマンの目に付いた。
「右に行けば静岡、左は長野か・・・」
ウォーズマンは立て札を凝視しながらその場で考え始める。
―――さて、どうするか?
どちらのルートを取っても東京には辿り着けるが、
左は長野の山の入り口となっている山道、一方の右は静岡へと続く整備された平坦な道路。
東京までの距離はどちらも大差ない、となれば険しい山道ではなく整備された道路を通るのが定石だが・・・・・・
しかし静岡方面の道路を通るとなると、今はいいだろうが夜が明けた後、日が照れば他の参加者から常に360℃丸見えの状態になる。
一方の山道は仮に敵に襲われたとしても、いくらでも身を隠せる場所はあるし逃げやすい。
そもそも好き好んで険しい山道を歩いているヤツもいないだろう。
となると敵に襲撃されやすい静岡よりも安全な長野のルートを取るのが吉か?
そこまで考えてウォーズマンはハッとする。
「何を考えているんだオレは・・・・・距離が同じならより早く東京に辿り着けるであろう静岡の道路を通るべきじゃないか・・・・・・・・・・
それに敵に襲われやすいってんなら、なおさらそっちに行くべきだ。
そいつに襲われて今も危険な目に遭っている人がいるかもしれないってのに!」
一人呟きウォーズマンは自分を叱咤する。自分の保身より人々の安全を最優先するべき!が正義超人の信条なのだ。
「よし!そうと決めたらさっさと東京に向かうとするぜ。こんな所で無駄に時間をとってはいられないからな」
立て札の案内通りウォーズマンは右に向かい静岡方面の道路に進もうとする、その時だった。
ガサ!
「ン?」
立て札の左側、長野に続く山道から何者かが草葉を分けて通るような音が聞こえた。
「誰もいないな・・・・・気のせいか?」
キョロキョロと辺りを見回すウォーズマン。
何者かの気配は感じられない・・・が、気のせいか先程までの田舎独特の落ち着いた空気がどこか嫌なモノに変わっている。
「なんだか嫌な空気だぜ・・・とっととここから離れるとするか」
何か不吉な予感を感じ取ったウォーズマンは急いで、その場から立ち去ろうとする。
しかし―――
ガサガサ!!
後方から再び草を掻き分ける様な音が鳴った。
その場から立ち去ろうとしたウォーズマンが思わずその場で振り返る。
「き・・・気のせいじゃない・・・何かいるぞ・・・・」
予感が確信に変わったウォーズマンは音が鳴った方向に向かい恐る恐る近づいていく。
そして音が鳴った草葉を覗き込もうとした瞬間――
「うわ!!」
一匹の野ウサギがウォーズマンの顔面を横切った。思わず声を上げ驚いた拍子に尻餅をつくウォーズマン。
「ハ・・・ハハハ、なんだお前だったのか、あんまり驚かしてくれるなよ」
草葉から出てきた野ウサギ相手に笑いながら、声を掛けるウォーズマン。
どうも自分は神経過敏になっているらしい。
こんな異常な状況下でずっと一人でいたせいもあるだろうが、
まさかタダの野ウサギと敵の気配すら区別が付かないなんて。
「まったく・・・こんな調子じゃキン肉マン達に合わす顔がないぜ」
そう言って己の心を自嘲したウォーズマンはその場から立ち上がろうと地面に手をつける。
その手をつけた地面からヌルリと生暖かい液体のような感触が伝わった。
「なんだ・・・コレ?」
地面から手を離し液体の正体を確認しようと掌を返すウォーズマン。
(赤いぞ・・・赤い液体・・・・血?なんでこんなトコに?・・・さっきのウサギの?)
刹那、背後から黒い影が覆いかぶさりウォーズマンの思考を遮った。
「ゲェッ!?」
襲い掛かってきた黒い影に背後から首を絞められ身動きが取れないウォーズマン。
そしてすかさず彼の首筋を細い3本の『指』が刺し貫いた。
「ウギャアァァーッッ!!!」
突然の出来事にウォーズマンは思わず叫び声を上げる。
そのまま背後から襲い掛かってきた何者かに殺されると予感したウォーズマンだったが、
彼の首筋に刺さった三本の『指』は第一関節半ばで首筋に刺さったまま、何かを待つように動きを止めてしまった。
そして、その蛇の生殺しのような状態のまま十数秒の・・・ウォーズマンにとっては永遠とも思われる短い時間が流れた。
「・・・・・・・貴様・・・・人間では・・・・・ないな?」
ウォーズマンの背後から激しい息遣いをした男の声が上がる。
「ウゥ・・・オ、オレはロボット超人だ・・・・・に、人間じゃ・・・ない・・・」
ウォーズマンは首根っこを捕まれながらそれだけを口にした。否、恐怖に震えた彼の口はそれだけしか口に出来なかった。
恐ろしかった。本当に恐ろしかった。元いた世界では正義超人として数々の死闘をくぐりぬけてきたウォーズマンだったが、
この瞬間の恐怖は今まで味わってきたものとは違う、全く抗う術のない絶対的な恐怖が彼の血の通わぬ鉄の精神を支配していた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そして背後にいた何者かは何かを思案しているのか、ウォーズマンの首を掴んだ状態のまま何も発せず―――
ブン!!
掴んでいた首を離しウォーズマンを数十メートル先まで放り投げた。
「ウォア!」
いきなり放り出されたウォーズマンはそのまま頭から地面に落ち、したたかに頭部を打ち付ける。
彼がロボット超人でない普通の人間だったなら、今の衝撃で首の骨が折れていたろう。
「ク、クソッ!!」
そしてダメージを意に返さず、すかさず起き上がり戦闘態勢を取るウォーズマン。
しかし見つめる視線の先には何も無く、ただ山道を覆う闇が広がっているばかりだった。
「ウゥ・・・・・一体なんだったんだアレは?」
【場所:愛知の田舎にある長野、静岡間の県境/黎明】
【ウォーズマン@キン肉マン】
[状態]:首筋刺傷
[装備]:無し
[道具]:荷物一式、支給品不明
[思考]:1、静岡の道路を渡って東京を目指す。襲われている人がいたら助ける。
2、キン肉マン達と合流。
[備考]:恐怖心・・・オレの心に恐怖心・・・・・
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:右肘部から先を損失、腹部に巨大な貫通傷、疲労大
[装備]:忍具セット(手裏剣×9)@NARUTO
[道具]:荷物一式、
[思考]:1、夜が明けるまでに太陽から身を隠せる場所を探す。
2、参加者の血を吸い傷を癒す。
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最終更新:2024年08月16日 20:35