0079:影絵の街で





 少年、奈良シカマル。偉丈夫、雷電。二つの影が闇夜に踊る。
類稀な洞察力を持つシカマルと、古今無双の博覧強記を誇る雷電。
二人は、今後の方針、そして予測されうるゲームの流れについて、
互いに自分の考えを披露し合っていた。東京へ向かう足は止めずとも、だが。

「オレとしては、こんな馬鹿げたゲームに乗る人間はいねェって祈りたいけどな。
 例えゲームに乗ったところで、生き残れる確率は1/130。
 ほとんど絶望的だろ。それよりは、この舞台から脱出しようとする方が、まだ希望があるってもんだ」

 忍者として、冷厳な現実を知るシカマルは語る。
それはどれだけ窮地に立たされても、心を刃とし、人を殺すことの難しさ。
そして悲しさをよく知るものだからこそ言葉に出来る、痛切な祈り。

「だからこその首輪だ。それに、明らかに乗り気になっている連中もいるだろう」
「……分かってる……ったく、めんどくせぇ……それに、どう見ても人間じゃない奴も混じっていたしな。
 そいつらがどう出るか、平和主義なのか殺人上等なのか、今のところじゃさっぱり分からねェ」
「人間ではない、とは?」
「例えば、最初に殺されたあのスキンヘッド、尻から猿の尻尾が生えていやがったぜ。気付かなかったのか?」

 その言葉に、偉丈夫、雷電は目を剥くと、信じられないことを耳にしたかのように叫んだ。

「むぅ、それは!」
「なにぃーっ! 知っているのか雷電!?……さん」
「うむ、間違いない。奴は中国史の中にあって幻と言われた戦闘民族、サイヤ人!!
 噂には聞いていたが、まさかその一族を この眼で見ることになろうとは…………」
「さ、サイヤ人だとー!?て、なんだこのテンション!?」



 魏の時代、凶兆とも呼ばれる彗星と共に、臀部から猿のような尻尾を生やした人間が現れ、付近の住民に暴虐の限りを尽くした。
人々は、それを最果ての国に住む、最も暴虐な野人として「最野人」と呼び、恐れおののいた。
「最野人」は、比類なき腕力と敏捷性、そして月を見ると大猿に変化するという特異性で、数多の集落を崩壊の瀬戸際まで追い詰めたという。

 強大な力は、得てして人を惹きつけるもの。

 その腕力に見せられた一派が、かの有名な武楽過渡(ぶらくかと)という模倣を得意とする武術集団である。
頭領である頑戯霊軸(がんざ・れいじく)は己の力の流れを増す、増流(まする)という極意を身に付け、
数々の武術家を相手に、一騎当千の力を見せ付けたという。
しかし、残念なことに、頑戯の死と共にこの極意は歴史の闇へと葬られてしまったと思われている。
歴史学者にしてボディービルダーという異色の肩書きを持つ、羽母雄銀(うぼ・おぎん)氏によれば、
この極意は、極秘裏にTouglou・O・Toute(トグロー・O・トート)というフランス人に秘伝として伝えられたとも言われているが、
それを裏付ける証拠は未だ発見されていない。

                           民明書房刊「絶唱!マックシング!~ボクでもできるドーピング論~」より



「つまり、なんだ」
「うむ。明らかにこのゲームに集められた人物の中には、戦闘向きの資質を持った者がいるということ」
「そういう連中のなかには、自分が130人の中の1人になれるって信じている奴もいるっつーことか」

 シカマルは理解する。そう。まずは、雷電との話の中で知った、違う世界から数人のグループ単位で召喚されているらしいという事実。
自分とサクラ、ナルト。雷電と、江田島、剣、富樫、伊達。彼らは一体どうしているのだろうかと、益体も無い心配をしながらも。
きっと、自分の知り合いを守るためにゲームに乗る連中もいるだろう。
そしてみせしめとして殺された禿頭の男。
あれも、参加者の間の空気を非日常のものへと急変させることによって、彼らの冷静さを奪うためのパフォーマンス。
自分の支給品、仙豆もそうだ。これは戦いを誘発するためのアイテム以外の何物でもない。
それに首輪……このゲームとやらは、是非はともかく、よくできている。

 自分は今のところ、他の参加者を殺すつもりは無い。それは雷電にしても同じであろう。だが、今、襲われたら――
――得物は木刀が一振りと、仙豆が一粒。そして自分の得意忍術でもある、影真似の術のみ。心許ないことこの上ない。

 余談ではあるが、下記はシカマルが影真似の術を披露した時に雷電が語ってくれた薀蓄である。



 「影踏み」という遊びがあるが、これは古来、呪術的儀式の一つであったということはあまり知られていない。
影を踏むということは呪いをかけることと同義であり、古代中国の世屠心という拳法の使い手、阿烈士という人物に至っては、
相手の影を踏むだけで、対峙者を幼児退行させることすら出来たという。
このように影は持ち主の本質に関わるものでもあり、警視庁特殊急襲部隊(SAT)の訓練にも、近年は影踏みが積極的に採用されている。
匿名を条件にインタビューに答えてくれたSAT隊員、KID・A・SAT氏(仮名)は語る。

「人間、やっぱり影が怖いんですよ。
 訓練中でも、気付かれずに影を踏んだだけで、凍りついたかのように動けなくなる新人をたくさん見たことがあります。
 どんなに自分が有利でも動けなくなる、もうこれは一種の本能でしょうね」

 余禄になるがKID・A・SAT(仮名)氏は茶道も嗜んでおり、
インタビュー時に出されたお茶は絶品であったことをここに付記しておく。

                           民明書房刊「THE自己啓発~明るいばかりが人生じゃない~」より



 そう、影だ――不安の影。疑心の影。恐怖の影。人が本能的に恐れる影。
一度諍いが起こってしまえば、それは燎原の火の如く燃え広がり、猜疑心の影や復讐心の影を残して、他の全てを焼き尽くしてしまうだろう。
ならばそれが起こる前に自分たちが、惨劇の影に負けないような「光」を照らさなければならない。
そう結論付け、シカマルは歩みを速める。雷電もそれに倣う。
世闇の中、二人の姿は見世物小屋の影絵の如く。

 影法師の如く、自分たちを尾行している少年、ゴン=フリークスについては、未だ気付くこともなく……




【神奈川県~東京都/黎明~早朝】

【奈良シカマル@NARUTO】
 [状態]:健康
 [装備]:無し
 [道具]:支給品一式、仙豆(一粒)@DRAGON BALL
 [思考]:知り合いとの合流(男塾メンバー含む)現在は東京方面に移動中

【雷電@魁!!男塾】
 [状態]:健康
 [装備]:木刀(洞爺湖と刻んである)@銀魂
 [道具]:支給品一式
 [思考]:知り合いとの合流(うずまきナルト、春野サクラ含む)現在は東京方面に移動中

【ゴン=フリークス@HUNTER×HUNTER】
 [状態]:健康
 [装備]:不明(本人は確認済み)
 [道具]:支給品一式
 [思考]:不明


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最終更新:2024年08月17日 22:07