0021:巧妙≠光明





二人の男が言葉を交わしている。一人は少年。
どことなく覇気の感じられない表情ながら、その眼から非常に理知的な雰囲気を漂わせている。
一人は青年……なのか、年齢を読み取ることは難しい。
額に『大往生』という刺青を入れた偉丈夫である。
猛々しい外見と共に、深く広い知識を持つ者独特の空気を纏っている。
彼らは、なんとかしてこのゲームから抜け出すことはできないかと話しているところのようだ。

そしてもう一人、闇の中、気配を消し、息を殺して二人の会話を窺っているものがいた。

「そりゃ、なにか便利なアイテムがあるに越したことはねぇけどな」
少年、奈良シカマルは、青年(?)雷電の持つ木刀を指差しながら、言葉を続けた。
「でもおっさん、オレに支給されたのはこれだけだぜ」
シカマルは、デイパックからなにやら小さいものを取り出す。そこに入っていたのは一粒の豆だった。
「主催者側の手違いか、それとも故意か、何の説明書も付いてやしねぇ。まぁ、単なる豆なのかもしんねぇけど」
だが、男、雷電の見せた反応はシカマルの予想を大きく裏切るものであった。

「むぅ……それは世に言う仙豆!!」
「知っているのか!?雷電!!……さん」
「うむ、それは一粒食すだけで人体のあらゆる負傷、疾患を癒し、
 更には失われた体力もすべて取り戻すことができるという奇跡の食物よ!!」


  豆腐、納豆、味噌、醤油など、現代日本において大豆が健康にいいという事実はもはや常識の域に達している。
 だが、医食同源を旨とし、四千年を超える長い漢方の歴史を持つ中国においても、
 豆製品は神が人間に賜れた崇高なる食物として崇拝されていたという事実はあまり知られていない。
 春秋戦国時代、斉の国では、秘伝の製法で栽培された豆を特製の薬品に浸けることにより、
 一口食べるだけで人体をたちまちベストコンディションに戻すことができる、信じられないような効果をもった豆も造られていたという。
 斉の豆として斉豆と呼ばれていた。後の世に、仙人とも噂される太公望が封じられていた斉の国の豆という意で、仙豆と呼ばれるようになったが、
 現在では一部の特殊な地域を除いてその製法は伝わっていない。
                              民明書房刊 『激震する現代医療!美味しい豆料理の作りかた200選』より


「仙豆……ねぇ。まぁ、すげぇ兵糧丸みたいなもんかな」

少年、奈良シカマルは考える。
どうやら、このゲームは思った以上に性質の悪いものらしい。
この仙豆とやらは確かに素晴らしいものだが、一粒しか支給されていない。
考えたくもないことだが、四人以上のパーティーを組んで、二人が重傷を負っても、助けられるのは一人のみ、ということだ。
また、このアイテムの存在を知られたら、ゲームに乗っていない連中からも狙われる可能性が高い。
近しい人が死にそうになっている。それだけで、形振り構わずこれを奪いに来る人間は少なくあるまい。
ゲームに乗った奴らも同様だ。一粒しかない完全回復アイテム。
これは、明らかに個人行動をしているであろう「乗った」奴等向けのアイテム。
地獄のような深淵で僅かに齎された希望は、更なる絶望を招き寄せる絶好の撒き餌と化す。
要点を掻い摘んで雷電に説明すると、少年は立ち上がった。

「めんどくせぇけど、早いとこ仲間と合流しねぇとな」
「うむ、では人が集まるであろう東京に行ってみよう」
「トーキョー?どこだそりゃ?」

軽い会話を交わしながら、二人の影が闇に消えていく……

気配を殺し、彼らの会話を聞いていたものも、密やかに姿を闇に隠した。




【神奈川県 横浜付近/黎明(1日目)】

【奈良シカマル@NARUTO】
 [状態]:健康
 [装備]:無し
 [道具]:支給品一式・仙豆(一粒)@DRAGON BALL
 [思考]:知り合いとの合流(男塾メンバー含む)現在は東京方面に移動中
 
【雷電@魁!!男塾】
 [状態]:健康
 [装備]:木刀(洞爺湖と刻んである)@銀魂
 [道具]:支給品一式
 [思考]:知り合いとの合流(うずまきナルト、春野サクラ含む)現在は東京方面に移動中


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GAME START 奈良シカマル 079:影絵の街で
GAME START 雷電 079:影絵の街で

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最終更新:2024年08月13日 09:24