0099:一時の別れと願う ◆lEaRyM8GWs
斗貴子は畳の上で剣を振り回していた。といってもその刀身は鞘に収められている。
小振りながらもそれなりの重量を持つこの剣なら、例え鞘から抜けなくとも鈍器として使用できる。
額に浮かんだ珠のような汗を服の袖で拭い、斗貴子は軽く息を吐く。
「剣の心得はあるようだが、得意という訳でもなさそうだな」
低く落ち着いた声が斗貴子にかけられた。
ケンシロウは目を閉じて瞑想していたと思いきや、しっかりと見ていたらしい。
「得意ではないが、素手よりはマシだからな。勘だけでも取り戻しておかないと」
「あれほど使えればたいていの者は太刀打ちできないさ」
「例え核鉄があったとしてもケンシロウには太刀打ちできそうにないと思う」
斗貴子の言葉にケンシロウは苦笑する。
核鉄の説明はすでに受けており、斗貴子の得意武器が非常に特殊な物だとは知っていた。
だがバルキリースカートの説明を受けた限り、自分でも対処できそうだとは思っていたのだ。
「叩いた拍子に鞘が壊れてくれればいいのに」
ぼやくように斗貴子は言った。
鞘越しに敵を叩くより、地上最強の切れ味の方が何倍も頼りになりそうだからだ。
「この鞘でその箱を叩いてみようか? 矛盾のように両方砕けるかもしれない」
「やめておいた方がいい、その剣からもこの箱からも不思議な力を感じる。
無理矢理それを暴くのはよくないだろう」
言いながら、ケンシロウは脇に置いてある箱の表面を撫でた。
不死鳥らしき絵の彫られた大きな箱がケンシロウの支給品だった。
説明書には『フェニックスの聖衣』と書かれている。
この箱のどこが衣なのかと、ケンシロウも斗貴子も首を傾げていた。
普通に考えれば中にその衣が入っているのだろうが、開け口などどこにもない。
ダイの剣、フェニックスの聖衣、どちらも真の力を明かそうとしない困った支給品だった。
「剣の勘はだいぶ取り戻せた。もう私を守る必要は無い、行きたい所へ行くといい」
斗貴子は水を一口だけ飲み、壁にもたれて座り込んだ。
情報交換を済ませた後、斗貴子はダイの剣を使いこなすため特訓を始めた。
しかしその間に生まれる隙、特訓に伴う疲労は致命的な問題だ。
そこでケンシロウは斗貴子を見守っていたのだ、リンを探しに行きたい心を抑えて。
時刻は3時を指していた、あと3時間で放送が始まる。
放送を聞いてから動き出そうとも考えていたが、後3時間もじっとしているのは辛いものがあった。
「4時になったらここを出て行く。午後の6時になるか、君の友達や核鉄を見つけたらここに戻って来よう」
「私も名古屋に来る参加者の中から仲間になってくれそうな人を探し、リンという少女がいたら保護しておこう。
それと――ゲームに乗っている奴に襲われた時、もしかしたら名古屋城にい続ける事はできないかもしれない。
もし私がここにいなかったら東京に行ってくれ。東京タワーは知っているか? それを目印にしよう。
東京タワーのすぐ南東の公園に寺があったはずだ。観光名所にもなっているが、
すぐ側にもっと目立つタワーがあるから他の者が集まるとしたらそちらだろう」
テキパキと行動方針を決める少女に、ケンシロウは感心していた。
核の炎に世界が包まれる事の無かった、平和な世界で暮らす少女だというのに、
その平和を守るため錬金の戦士として戦っている。
数々の強敵(とも)に見た誇り高さ、力強さを感じられる。
そして4時を回り、東の空が白んできた。
ケンシロウは斗貴子に別れを告げ、名古屋城から下りる。
行き先も決めぬままケンシロウは歩き出した。手がかりなど何も無いのだから仕方ない。
その背にはフェニックスの聖衣が背負われている。ケンシロウの体力ならこの程度の荷物たいした邪魔にはならない。
(リン……)
あどけない笑顔を浮かべる少女を想い、ケンシロウは薄明るい空の下を歩く。
これが一時の別れと願う。名古屋城で無事再会できる事を願う。その時は探し人も共にいる事を願う。
【早朝】
【愛知県、名古屋市内】
【ケンシロウ@北斗の拳】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:荷物一式、フェニックスの聖衣@聖闘士星矢
[思考]:1 リン、斗貴子の仲間、核鉄を探し出し、名古屋城へ戻る。
2 1を達成できなくとも午後6時までにいったん名古屋城へ戻る。
3 ダイという少年の情報を得る。
4 名古屋城で合流不能の場合、東京タワー南東にある芝公園の寺へ行く。
【愛知県、名古屋城天守閣】
【津村斗貴子@武装錬金】
[状態]:軽度の疲労(放送の頃にはほぼ全快する)
[装備]:ダイの剣(鞘のまま)@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式
[思考]:1 名古屋城を拠点に名古屋へ来た信用できる者を仲間に誘う。
2 午後6時まで名古屋城でケンシロウを待つ。
3 ダイという少年の情報を得る。
4 名古屋城で合流不能の場合、東京タワー南東にある芝公園の寺へ行く。
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最終更新:2023年12月01日 09:43