0212:少女を壊す追い討ち
「リン……」
第一放送で告げられた参加者の一人。
その名をうわ言のように口にする男が一人。
ケンシロウは降りしきる雨も気にせず、岐阜県の山中を彷徨うように徘徊していた。
その頭の中には、たった二文字、一人の少女の名前が
リフレインしている。
(なぜ……なぜリンが殺されなければならない!)
彼女は普通の少女だ。
心優しい、いたいけな少女。
こんなゲームに参加させられたとて、人を殺すことなど考えるような娘じゃない。
そんな少女が、開始早々殺された。
リンというただの少女を、あどけない笑顔の少女を、簡単に殺した輩がいる。
ケンシロウは考える。
もうすでに何人もの参加者が殺された。
その中にはリンのように戦うすべを持たぬ者もいたかもしれないし、自ら戦いを望んで散っていった者もいるだろう。
死んだ者がいれば、その分殺した者もいるのだ。
リンのように、戦わぬ少女を殺すような殺人鬼が――
リンの死、減っていく参加者。
さらなる放送がケンシロウの怒りを溜めていく。
そして、先程の第二放送。
新たに告げられた「
防人衛」の名。
ケンシロウは防人衛との面識などなかったが、名前は知っている。
ゲームが始まって出会った少女、
津村斗貴子が仲間と言っていた名。
人は彼をキャプテン・ブラボーと呼び、なによりも正義を大切にする、アツイ男だと聞いている。
そして、彼は相当な実力者だということも。
そんな男が殺された。斗貴子も認める戦士が、まだ一日目だというのに脱落した。
彼をもしのぐ実力者が、このゲームに存在する。
そして、その者は紛れもなく「殺人者」。
そんな奴を、いつまでも放っておくわけにはいかない。
もう、リンのような無力な者が犠牲にならないために――
怒りに燃えるケンシロウは、名古屋を基点に周囲の県を探索していたが、幸か不幸かまだ斗貴子以外の参加者には遭遇していない。
こうしている間にも、リンや防人を殺した奴らが殺戮を続けているかもしれない。
そう思うと、ケンシロウはやるせない気持ちでいっぱいになる。
そして、ようやく雨が止んだという頃、
ケンシロウは、やっと斗貴子以外の参加者と遭遇する――
「はぁ、ひ、は、はひぃ……」
北大路さつきは恐怖に支配されていた。
防人衛の死――殺人者アピゲイルの姿――やっと会えたと思った知り合い――でも彼女はもう自分の知る人じゃなくて。
雨の中、歩きにくい山道をがむしゃらに走り続けてきたさつきの体力はもう限界だった。
何度も転び、何度も身体を傷つけ、それでも恐怖に駆られて走り続けてきた。
体力以上に疲弊しているのは、その精神。
見知った者でも、「怖い!」と感じてしまう。
やっと出会えたのに、
東城綾が自分を殺すイメージが頭から離れない。
いつ殺されるか分からない極限状態の中、ちょっとした出来事でさえ彼女にとっては恐怖となった。
そんな彼女に、追い討ちをかける出会いがまた――
「待ってくれ!」
見るからにボロボロ状態で走る少女に、ケンシロウが声をかけた。
「ひっ……!!」
さつきの前に現れたのは、見るからに怪しい男性。
格闘技のテレビ番組でも見たことのないような筋肉に、鬼のような表情を浮かべる男――
この時ケンシロウは、殺人者への怒りのせいか、必要以上に顔を強張らせていた。
さつきの脳に咄嗟に叫びこんできたのは、「殺される!」の一言。
「ひ……や、やぃ、ひぃっ……」
恐怖のあまり、まともに話せない。
ケンシロウが全く危害を加えるつもりがないというのも理解できず、さつきは身体を恐怖に支配され、行動する。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁあぁぁああぁ!!!」
逃げる。
殺される。
死にたくない。
逃げる。
逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。逃げる!
さつきはケンシロウの横をすり抜け、恐怖に駆られるがままに逃走した。
同じ少女だというのに、初めに出会った斗貴子とはまったく違った表情をした彼女。
容姿のことを言っているのではない。
斗貴子のような戦士の表情ではなく、泣きじゃくれ、疲れきった、弱者の表情。
それを見たケンシロウは、逃げ出すさつきをすぐに止めることができなかった。
彼女はリンと同じだ。
なんの戦うすべも持たない、無力な人間。
あの顔を一目見ただけで、そう確信した。
放ってはおけない!
すぐさまさつきを追おうとするケンシロウだが、その時、脳裏に一つの疑問がよぎった。
このまま自分が追いかけても、いらぬ恐怖を与えてしまうだけではないのか? そしてなにより、
――彼女にあれほどまでの恐怖を与えたのはなんなのか――
そのことが、ケンシロウは気がかりだった。
もし彼女が追われていたとしたら。
もし彼女が殺されそうだったのだとしたら。
もし彼女が殺人者から逃げていたのだとしたら。
――野放しにはできない!
ケンシロウはさつきがやってきた方角を見る。
あちらに無力な少女を襲うような輩がいるのか。
ひょっとしたら、リンを殺した輩がいるという場合もある。
それは推測でしかない。
自分は今、どうするべきか。
アピゲイルから、綾から、ケンシロウから逃げ、さつきは走り続ける。
もう体力も精神もボロボロだが、恐怖が勝手に足を動かしてくれる。
こんな精神では、真中や錬金の戦士たちにあってもまともに会話することができないかもしれない。
信じることも、できないかもしれない。
ただ逃げたくて、さつきは走る。
もう十分ケンシロウから距離は取れただろうか。
山から下山したあたり、さつきの前に、それは現れた。
「おぉ、女はっけ~ん!」
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあ!!!」
さつきの受難は、まだまだ続く……
【岐阜県山中/日中】
【ケンシロウ@北斗の拳】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:荷物一式、フェニックスの聖衣@聖闘士星矢
[思考]:1.さつきを追うか、さつきが走って来た道の先にいるであろう殺人者を探す。
※ケンシロウがどちらを決断するかは、次の書き手にお任せします。
2.斗貴子の仲間、核鉄を探し出し、名古屋城へ戻る。
3.2を達成できなくとも午後6時までにいったん名古屋城へ戻る。
4.ダイという少年の情報を得る。
5.名古屋城で合流不能の場合、東京タワー南東にある芝公園の寺へ行く。
【岐阜県山のふもとの町/日中】
【北大路さつき@いちご100%】
[状態]:肉体的・精神的に重度の疲労、左膝怪我、各所に擦り傷
[装備]:ブラボーの上着
[道具]:荷物一式(支給品未確認、食料一食消費)
[思考]:1.目の前の男から逃げる。逃げる。逃げる!
2.東城綾への恐怖。
3.殺人鬼アビゲイル(思い込み)から逃げる。
4.東京へ向かい、カズキ・斗貴子・いちごキャラを探す。
【ダーク・シュナイダー@BASTARD!! -暗黒の破壊神-】
[状態]:左腕に銃創、魔力消耗、右腕打撲
『六芒星の呪縛』による攻撃封印(翌日の午前まで)
[装備]:装飾銃ハーディス@BLACK CAT
[道具]:荷物一式(食料二人分、支給品未確認)
[思考]:1.さつきをハーレムに加える。
2.攻撃できないことに苛立っている。
3.男は殺す、女はハーレムに加える。
4.ゲームを脱出して主催者殺害。
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最終更新:2024年03月08日 01:48