0174:焔に焦がす眼 ◆Oz/IrSKs9w





愛知県名古屋城、天守閣――

今は昔、戦国の世にありていくつもの命のドラマを生んだ場所。

現代、そんな強者共が夢の跡をできる限りのありのままの姿でもって観光の見せ場として残した場所。

日の昇る前、一組の男女が互いの再会を誓って束の間の別れを為した場所。

その天守閣。
外から差し込む日差しに映えるその空間には、本来あるべき人影はどこにも見当たらず――


愛知から北、場所は長野県。
津村斗貴子は足早に、しかし警戒は最大限に、辺りを賢明に探索していた。

(カズキ…君は…何処にいる?)

必死に探索を続ける。
小さい枝で腕に傷を負ってしまっても、思わず石につまづいて膝を硬い地面に打ち付けてしまっても。
まるで何かに取り憑かれたかのように必死に足を進め続ける。

本来ならば、名古屋城からあまり離れてしまうのは好ましくなかった。
約束の午後六時までには戻ればよい。
そう考え、いや…そう自分に言い聞かせる事で、名古屋を後にした。

『リン』

朝の放送で呼ばれた名。

彼の…ケンシロウの探すと言っていた少女の名。
体が震えた。
カズキと防人の無事を確認できたとはいえ、それでも体の震えは止まらなかった。


(私が…巻き込んだ…!)

それは、推理の結論。

この不可解なゲームに連れてこられてからずっと考えていた。

総勢130名。いや、すでに…112名。
あの主催者たちに連れてこられた、様々な異世界から選ばれし者たち。
いったい、その選ばれた基準は何だったのだろう?と。

(私のせいだ)

それは確信。
ただ純粋に様々な世界の強者を寄せ集めた、というわけでもない。
ケンシロウいわく、リンという少女は戦う術など無い…ごく普通の少女だと聞いた。
ならばリンはなぜ選ばれた?

(ケンシロウの近くにいた…存在だからだ)

それしか理由が見当たらない。
様々な世界の強者。そして敵味方は問わず、その者に近しい者。
そんな理不尽な理由でリンは選ばれたのだろう。
そして…

「…カズキも…」

そう。
彼もまた、自分や防人に近しい者として連れてこられたのであろうと考えられた。
ただ純粋に強さのみが判断基準であるのならば、自分やカズキが選ばれるはずはない。
自分たちよりも強い者は他に何人もいたはずである。

考えられる理由はただ一つ。

強者代表は『防人衛

その近い存在として、自分たち二人やあのホムンクルスは選ばれたのだ。

自分は構わない。戦士として生きていく覚悟は、とうの昔からできている。
…しかし、カズキは違う。
自分が、私が…彼を戦士の世界に引き込んでしまったのだから。

彼は被害者。
リンも被害者。
だから、震えた。

弱き者から淘汰されていく世界。
人を疑えない真っ直ぐな者から淘汰されていく世界。

(カズキ…!)

不安に体が震えてしまうには、十分な動機。
いてもたってもいられなくなるにも、十分な動機。
自分という存在さえ無ければ彼を巻き込む事は無かったのだと…己の存在価値さえも否定しながら、責め続けながら、彼女は足を動かし続ける。

「…!?あれは…?」

森の先の遠くに現れた大きな建物、見た感じでは立派な別荘のようなそれを視界に捉え、一瞬足を止める。

(…誰かいる可能性もあるな。危険ではあるが…行くしかない)

背に着けている剣の持ち主であるかもしれないダイの情報を得るため…
という理由もあるにはあるが、それよりも『カズキを探さなくては』という使命感に後押しされ、迷う事無くそちらへと進路を向ける――



――しかし結局、そこには誰もいなかった。
あった物は…見知らぬ顔の、二つの亡骸。

「……外道め…!!」

少しでも心ある者であれば、決してしないであろう殺し方。
その首から上が無い死体を眺め、ギリ…と拳を強く握りしめる。

しかし…気にかかる不可解な点があり、斗貴子は考える。

(何故だ?この二人の武器も荷物も…全く手付かずだ。食料さえも…『必要無い』とでもいうのか?この犯人は…?)

その二人の荷物を調べながら考え続ける。

(この状況に気が狂ってしまった狂人なのか?
 それとも…こんな銃器など必要としないほどの強さを持ち、なおかつ食料さえも必要としないほどの……!…まさか…!?)

一つの可能性が頭をよぎる。

『ホムンクルス』

リストにあった蝶野攻爵の名。奴である可能性。

もちろん、ただの推測ではある。
ホムンクルスは人を喰らう。必ずしも食料を必要とするわけではない。
蝶野以外にも自分が知らないホムンクルスがいる可能性もある。

しかしこれらの遺体は喰われている訳ではない。
…だが、すでに満腹であっただとか、ただの気まぐれで殺しただとか…理由はいくらでも考えられる。


(…安心しろ。仇は…必ず討ってやる)

早々とゲームから退場させられてしまった目の前の二人に冥福の祈りを捧げ、食料や武器の類を集め、ゆっくりとその場を後にする。

その眼(まなこ)に映るは静かな炎。

一刻も早くカズキを探さねばという使命感と、およそ人ではない残忍な心を持つ悪魔に対する静かな怒りの炎。

戦士・斗貴子の炎は、いかなる過酷な運命にも消せはしない。





【長野県/昼】

【津村斗貴子@武装練金】
[状態]健康
[装備]:ダイの剣@ダイの大冒険
    ショットガン
    リーダーバッジ@世紀末リーダー伝たけし!
[道具]:荷物一式(食料・水、四人分)
    ワルサーP38
[思考]1:人を探す(カズキ・ブラボー・ダイの情報を持つ者を優先)
   2:ゲームに乗った冷酷な者を倒す
   3:午後六時までには名古屋城に戻る

※食料・水、三人分とショットガン・リーダーバッジ・ワルサーP38は桜木・日向から入手。
※リーダーバッジは説明書きを読んだため、存在に気付きました。


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最終更新:2024年01月19日 06:32