0103:引力・斥力 ◆HKNE1iTG9I
「…おはようございます、ムーンフェイスさん」
「むん、おはよう。清々しい朝だね」
「そうですね。これで、あの放送が無ければ言うことはなかったんですが」
「おや、聞いていたのかい?」
「…直接、頭の中に響いてきましたからね…」
静寂につつまれた林の中、二つの声が響く。低く、静かに。だが、紛れも無い存在感をもって。
「もう、18人も亡くなられたようですね。あぁ、食糧を頂いてます」
「気にしないでくれ給え。む~ん、それにしても予想以上のペースだね」
人間型ホムンクルス、ムーンフェイスこと
ルナール・ニコラエフ。人間界最高の頭脳、竜崎ことL。
息を潜め、気配を隠そうとしながらも、二人の存在は確かにそこにあった。
まぁ、竜崎は体育座りをしつつ、ムーンフェイスに支給された食料、チョコレートを齧っていたので、場が締まらないことこの上ないが。
「それで、キミの支給品はなんなんだい?それによって、こちらの出方も変わると思うけど」
「これです。説明書を読んでください」
説明書に書かれていた、竜崎の支給品。それは、現代日本で使われている、護送車。
ムーンフェイスは一瞬、呆気に取られたが、説明書を読み進めていくに従って、何とも言えない微苦笑をその月面状の顔に張り付かせていく。
護送車にはガソリンが一滴も入っていないうえに、バッテリーも使用不可能。
ご丁寧なことに、ドアのロックまでが念入りに壊されている…と書かれていたからだ。
これでは単なる鉄の箱だ。アタリなのかハズレなのか、どうにも判別がつけ辛い。
「林の中で、こんな目立つ上に大きなものを出したら、襲ってくださいといっているようなものです」
「む~ん、ガソリンが入ってないとは困ったものだね」
「バッテリーもあがっているみたいですよ。車としては、全く役に立たない状態ですね」
「それで、どうするんだい?外面はそこそこ頑丈なようだけど、篭城でもするのかな?」
「ロックが壊れた状態で、ですか?まさか。しかし、正直、持て余し気味です。先程も行ったように、ここで出すワケにも行きませんし」
「むん、でも、これで次の方針は決まったようなものだね」
「そうですね。これだけの死者が出ている以上、殺人者と相対した時のための人材が必要となります」
「で、何処に捜しに行くんだい?この場所は、富士山が見える位置から考えて、おそらく静岡だろうけど。東京にでも行ってみるかな?」
「えぇ、恐らく東京には多くの参加者が集まるでしょう。ですから、東京には行きません」
「何故だい?人を集めるなら、人が集まるところへ行くべきなのでは?」
「だからこそです。ゲームに積極的に参加するつもりの存在も、きっと東京に集まるでしょう。今の貧弱な装備では…」
「ナルホド。もしもの時に、分が悪いというわけだね」
「はい、そうです。なので、東京へ行く人が通る確率が高いであろう…」
「…東海道で張る、というわけだね。確かに、ココは死角が多い。身を隠すにはうってつけだね」
「そうです。それに…」
「支給品として、コレがある、と」
ムーンフェイスは、ヒラヒラと自分の支給品、双眼鏡を目の前で振ってみる。竜崎はその様子を軽く見やると、続けた。
「それで、接触する人間の判別方法ですが…まず、凶器の類、特に銃火器の類を携えている人間には接触しないでください」
「銃火器を持っていても、このホイポイカプセルに収納したままなら、とりあえず襲ってくる心配は無いということだしね」
「その通りです。ゲームに乗っているのなら、わざわざ標的を確認してから得物を取り出す、といった不合理はしないでしょうから」
「その場合、私は銃火器を所持している人物の特徴を覚えておくべきなのだね?」
「えぇ。情報は多いに越したことはありません」
「自分の意図を隠して、不意をついて襲ってくるような輩だった場合は?」
「私のところに連れてくるまで、支給品を出したり、荷物に手をいれないようにさせて下さい。もしも、守れないような場合は…」
「む~ん、その場合は、私の朝食(ブレックファースト)になってもらおうかな」
「…そうですね。それも仕方ありません」
「しかし、私はご覧のとおりの外見。警戒するなというのも難しいのでは?」
「ですから、貴方の方から接触してください。相手よりも先に発見し、敢えて攻撃を加えなかったというように」
「それで敵意の薄さをアピールするのかい?少し確実性にかける気もするけど」
「状況が状況ですから、仕方がありません。容易にパニックになる人材は、仲間に加わってもらっても、危険を増すだけです」
「手厳しいね」
非情ともいえる竜崎の言葉に、苦笑をもらしながらルナールは返す。
「まず、一刻も早くこのゲームを止めることが最優先課題です」
「む~ん、儚き哉、人生」
そこで見たものは。茫洋とした瞳の奥に秘められた、強い意志の力。改めて、ルナールはLのことを評価する。
「不測の事態があるか、次の放送があるまでここでスカウトを続けましょう」
「妥当だね」
「そして、主催者の方々に証明してあげましょう。『正義は必ず勝つ』ということを」
静寂につつまれた林の中、二つの声が響く。三つ目の、四つ目の声を求めて。
――どのような出会いになるのかは、神ならぬ二人には分かるはずもない。
【静岡県/朝】
【ルナール・ニコラエフ(ムーンフェイス)@武装錬金】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(食糧一食分消費)、双眼鏡
[思考]:1.有用な人材のスカウト。可能なら使える支給品の収集。
2.Lを補佐する。最終的に生き残るなら後は割とどうでもいい。
【 L(竜崎)@DEATHNOTE】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:荷物一式、護送車@DEATHNOTE(ガソリン、バッテリー使用不能。ドアロック故障・ホイポイカプセルの中にあります)
[思考]:1.現状で必要な能力を持った人材のスカウト
2.ゲームの出来るだけ早い中断
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最終更新:2024年08月15日 06:48