0146:スタートライン×反撃の狼煙 ◆Oz/IrSKs9w





「むーん、良い日和だ。絶好のスカウト日和だね」

その呼び名の通りの三日月型の顔に満面の笑みを浮かべながら、
ムーンフェイスことルナール・ニコラエフは白いマンションの屋上から顔だけ縁から覗かせて双眼鏡で辺りを見回していた。

見張りを始めて二時間、今の所誰の姿も確認は出来ていない。

「場所が悪いのかな?むん…」

少し三日月を斜めに傾けて苦笑いを浮かべ、腕を組み目を閉じる。
しかし気を取り直して再び双眼鏡に目を通し、前方の三叉路にそれを向ける。

(確か朝の時点で残り112人、仮に朝から今までに10人程脱落していたとして残り100人程。一県につき2~3人の計算になるね。
 むーん…運が絡むとはいえ、なかなか人が通らなくとも当然か)

何の収穫が無くとも依然辛抱強く監視を続ける。
それが自分に与えられた任務であり命令だから。

Lという名の太陽の光を受け、月は光輝き美しく幻想的に満ち欠けする。
彼ならば自分を彩る陽になれる。

「楽しいね、心地良い日和だ」

それが今の彼の全て。
殺人ゲームなど二の次だ。
人間を助ける、人間を喰う、人間を護る、人間を殺す、人間を導く、人間を罠にはめる――
それらは全て彼の意のままに、陽の光が導くままに。

「……むん?ようやく仕事のようだね」
三叉路の中央に向けて一つの影が進んでいるのを見やり、口元を緩めてマンションからひらりと飛び降りるムーンフェイス。
その姿、落月の如く。




「らっきょ…どこにあるんだよ…らっきょさえ…あれば…」
心、ここに有らずな力無い様子でふらふらと一人道を行く追手内洋一
まるで夢遊病者とも取れるようなその不安な足取りは、今にもその場で倒れてしまいそうでもある。

(むん、銃火器の携帯は無し。問題無いね)
Lの言葉を思い出し、確認した後に物陰から軽やかにムーンフェイスは洋一の前に姿を現す。

「むーん!そこ行く君、初めまして!」
「えっ…!?う、ウワッ!!?バ!化け物っ!!!」
突如自分の前に現れた異形の顔を持つ妙な人物?に面喰らい、脱兎のように元来た道をダッシュで引き返す泣き顔の洋一。
「むん?確かに化け物の私、実に的確な指摘。む~ん…しかしどうやらこの状況に心神衰弱してしまっているようだね?」
洋一のそんな様子を笑みを携えたまま眺めるムーンフェイスだが、せっかく発見した生存者である。
すぐにその身体能力を生かして素早く駆け、軽く飛び上がり洋一の頭上を越えて反対側に着地し行く手を遮る。
「むん!安心したまえ!私はムーンフェイス、君に危害を加える気は全く無いよ。実は君をスカウトしたいんだよ」
「ヒッ!!!…えっ…!?す、すかうと…!?」
顔面蒼白で涙を溜めたまま後ずさる洋一だが、目の前の化け物から発せられた意味不明な発言に目を丸くする。
「むん、そうだ。生存者を集めて、このゲームを止める方法を探すためだよ」
「あわわ…いや、でも…!(ついてねぇえええ!!!嘘に決まってる!絶対殺される!!ここで殺される!!!)」

もはや怯えきってまともに思考も定まらず、アスファルトの地面に尻餅を付いて涙する洋一。
「むーん…どうすれば信用してもらえるのか、む!そうだ!」
ふと自信ありげに笑みを作ると、腕を組んでドサリと腰を落としあぐらをかくムーンフェイス。
「もし逃げたいなら逃げても良いよ。さっきも言った通り、君に危害を加える気は一切無いからね」
「えっ!?いや、そんな事言ったって…!」
さらにゴロンと寝転がる目の前の化け物に動揺を隠せず、尻餅を付いたまま後ずさる洋一。
(…もしこれでも逃げてしまうようなら、残念だけど朝飯になってもらうけれどね)
寝転がり、目を瞑りながらも洋一の動向を探る。
「あ、あわわ、うぅ…!(今なら…に、逃げれるか?いや無理!絶対無理!!逆らわない方が絶対良い!!)」
「むーん…どうするんだい?」
「わ…わかりました!ご一緒させて下さい!!」
「そうか!物わかりの良い人物で良かった、むーん!」
洋一の承諾の言葉を耳にすると同時に手も使わず体操選手のようにバッと身を翻して立ち上がり、仮面ライダーのような妙なポージングを取るムーンフェイス。
「ヒッ!?(やっぱりこんな奴から逃げれねえよ!言うこと聞いて良かった…!)」
「じゃあ早速仲間の元へと案内させていただこう!(朝飯は無し、か。少し残念だね。むーん)」

未だ怯えっぱなしの洋一を引き連れ、ムーンフェイスは彼の主の元へと引き返す――





「むーん!やっと一人協力者を見つける事が出来たよ!」
「お帰りなさいムーンフェイスさん。よくやってくれました」

静かな林の奥、体育座りで待っていたLの元へと二人は歩み寄る。
「初めまして、Lと言います。本名ではありませんが、良ければそう呼んで下さい」
「は、初めまして…追手内洋一です…(この人、確か最初の広間で『世界最高の頭脳』とかなんとか言われてた…?)」

洋一はまだ警戒した様子のまま軽く会釈するが、どんな化け物の仲間が姿を現すかと考えていた矢先に現れたのが同じ人間である事を確認すると、内心少し安堵していた。
「早速ですが…良ければその手に持っているノートを見せていただけませんか?」
Lは洋一の手にある黒いノートに視線を向けたまま、何か思案深げに洋一に声をかける。
「むん?そんな普通のノートがどうかしたのかい?」
「いえ、まさかとは思うのですが…見覚えのある物でして」
「え?あ、はい…」
見覚えのある、と言われて洋一は少し不審に思いながらも素直にノートをLに手渡す。

「どうも………」
「……?あ、あの…確かそれ、デスノートとかって名前だったような…」
「………」
洋一の控えめな発言にも反応を示さず、黙々とノートをめくっていくL。
「…えっと…(何だよこいつ!シカト!?)」
「…知ってます。ところで、この主催者の名前を書いたのはあなたですか?」
ノートに小さく頼りない字で書かれている名前を指差しながら洋一に見せて問いかける。
「え?あ、はあ…」
「なるほど…という事は…」
「???…それがどうしたんですか??」
「………」

口をつぐんだまま、ひたすら思考にふけるLの様子を意味も分からず眺め続ける洋一。
「むーん、説明してもらえるかい?君の考えを」
木にもたれ掛かったまま静かに待っていたムーンフェイスが静かに口を開く。
「…分かりました。洋一君のおかげで少し考えが進みました。説明します」
「え…考え?」

静かにノートを閉じて二人に視線を向けるL。
「このノートは私の追っている犯罪者の持ち物でして、名前を書くだけでその人物を殺せる不思議な力を持ったノートなんです」
「へぇ、便利なノートだね。むーん」
「はい。便利過ぎてこのゲームには最高のアイテムでしょうね。
 しかし、このノートを使う上でいろいろとルールがあるんです。ところが今見てみた限り、そのルールが少し変えられている」
表紙裏を開いてそのルールの文章を指し示す。
「ルール?」
「…この『殺したい人物の名前を一人書いた後、その後に書かれた次の人物に効果が現れるのは24時間後である』と、
『ゲーム主催者の名前を書いても効果は無い』の二つの下りです」
「えっ!?主催者には意味無いの!?」
今初めてその事実を知らされた洋一は驚いて情けない声でその文章を覗き込む。
「はい、そのようです」
「そ、そんな…」
がっかりしたようにうなだれる洋一をちらりと見上げるLだが、更に言葉を続ける。
「その『加えられた別のルール』により、一つの仮定が浮かびました」
「むん?仮定?」
「はい。『主催者たちは自分たちの安全を第一の前提としながら、参加者の事を監視している』という仮定です」
「ん?どういう事だい?」
興味深げに視線を向けつつ再び問いかけるムーンフェイス。
洋一はLの言葉の意味が全く理解出来ていない様子で、ただ黙ってLの言葉を聞いている。
「言葉のままの意味です。ムーンフェイスさん、朝に言った事を覚えていますか?『沖縄が除外されている』と言った事」
「ああ。覚えているとも。それがどうかしたかね?」
「あくまで仮定ではありますが、もしかしたら沖縄は存在するかもしれません」
「むん?しかし地図には記されていないが?」
「はい。もしかしたらやっぱり無いかもしれません。しかし有るかもしれない」
「??む~ん?言いたい事が良く分からないが、どういう事だね?」

「……もし沖縄が存在するなら……主催者たちはそこにいるかもしれません」
「!!」
ムーンフェイスと洋一は驚いて同時にLの顔を見る。
「さっきも言った通り、あくまで仮定です。現時点では5%……いや、もっと低いですね」
「お、沖縄にいるんなら…行って奴らをやっつければゲームを止められるの!?」
「…おそらく不可能です。だからこその『これ』と『禁止エリア』です」
洋一の首輪を指さすL。
「あ…そうだった…」
「……しかも『5%以下の仮定』だしね。むーん……そうだ!なら行って沖縄が本当に有るかどうか見に行ってみるかい?」
いつの間にか手に持っていた双眼鏡をひらひらと見せながらムーンフェイスが口を挟む。
「実は私もそう提案しようと思ってました。九州の禁止エリアが増えて不可能になってしまうのも時間の問題ですから早い方がいいですね」
「予定変更だね。では協力者探しも移動しながら同時進行だね」
「はい。という訳で、改めてよろしくお願いしますムーンフェイスさん、洋一君」
ゆっくり立ち上がり手を差し出すL。
「むーん!任せたまえ!今更水臭いじゃないか!」
「よろしく…お願いします…(めっちゃ不安だ…ついてねぇよ…)」

順に握手を交わす三人。

この決断が吉と出るか凶と出るか、まだ誰にも分からない。

時刻は10時過ぎ。
ようやく反撃の狼煙が上がったかもしれないこの時刻は果たして早かったのか、遅かったのか。




【静岡県/昼】

【ルナール・ニコラエフ(ムーンフェイス)@武装練金】
[状態]健康
[装備]双眼鏡
[道具]荷物一式(食料一食分消費)
[思考]1:有用な人材のスカウトと支給品の収集
   2:Lを補佐する
   3:生き残る

【L(竜崎)@DEATHNOTE】
[状態]健康
[道具]荷物一式
    護送車(ガソリン無し、バッテリー切れ、ドアロック故障)@DEATHNOTE
    デスノート(0:00まで使用不能)@DEATHNOTE
[思考]1:沖縄の存在の確認
   2:人材のスカウト
   3:ゲームの出来るだけ早い中断

【追手内洋一@とっても!ラッキーマン】
[状態]右腕骨折、左ふくらはぎ火傷、疲労
[道具]荷物一式(食料少し消費)
[思考]1:とりあえずLたちに付いていく
   2:死にたくない


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103:引力・斥力 ルナール・ニコラエフ(ムーンフェイス) 210:死を綴るノート
103:引力・斥力 L(竜崎) 210:死を綴るノート
139:再会ならず 追手内洋一 210:死を綴るノート

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最終更新:2024年03月26日 17:03